「やべぇ…」
リンドウとの共同行動が決まり、僅か1日も立たず二人に新たな懸案事項が立ち塞がった。
それは––––
「腹、減った…」
リンドウの食事問題である。
「その気持ち、凄く良く分かります。これ、喰います?」
「誰がアラガミのコアなんか喰うかよ…」
「ですよねー」
二人で軽口を叩き合いながら、リンドウの食事をどう確保するかを考える。凄く下らないように見えるがこれからの逃亡生活にとってとても重要な問題だ。
ケイトは空腹になっても付近のアラガミを捕喰する事が出来るが、リンドウは少し偏食因子を投与されただけの真人間なのだ。アラガミを喰べる訳にはいかない為、半強制的に選択肢は絞られる。
「これも支部長の策略か…!くそッ…」
「個人相手にまさかの兵糧攻めですか。そんな
「外部居住区に忍び込んで配給品拝借してくるか…?いや、ただでさえ少ない外部居住区の物資を奪う訳には…」
「奪えないことも無いですけど...」
この二人、最悪である。
「…やっぱり第一部隊の皆にある程度事情を話して、食える物をお裾分けして貰ったらいいんじゃ?」
恐らく現状を打破する為には最も良い方法だ。外部居住区に被害を出さず、口封じをすれば支部長に勘付かれる事もない。
しかし一つ懸念材料があった。
「…俺もそれは考えてはいたんだが、彼奴らを巻き込む事になっちまうんだよなぁ…」
サクヤ達第一部隊を支部長の陰謀に巻き込まざるを得ない事だ。本当は巻き込まずとも援助を頼めるのだが、サクヤやアリサは絶対に協力しようとする。
「…俺も嫌ですよ。アリサとか巻き込んじまうし…」
「…ふーん。ま、確かにお前の愛しの人だもんなぁ?」
「–––ばっ、馬鹿!ち、違いますよ!れ、れれれ恋愛なんて混沌とした–––」
「少なくともアリサもお前の事が嫌いな訳では無いみたいだぞ」
顔を真っ赤にして慌てているケイトの珍しい痴態を眺めながら、リンドウは懐にある指輪が入った箱に触れる。–––リンドウが、サクヤにいずれ渡そうと思っていた指輪だ。
「もう腹を括らないといけねぇのかもなぁ…。彼奴らを巻き込んでしまう事も–––死ぬ事も」
「…彼奴ら、巻き込んでも生きていられますかね?」
「それは信じる他無いだろうなぁ。…ま、俺は彼奴らが生き残れるって信じる事にした」
「ということは…」
「…この後、彼奴らに会いに行って全てを話す。支部長とかアーク計画の事も全て」
「…そうですか」
ケイトは覚悟を決めた表情をするリンドウを見て、もう止められないことを悟った。
––––もう、腹を括るしかないな。俺も
いつまでも自分は臆病だ、と自嘲する。疎外されるのを、嫌われるのを、断られるのを恐れ何もして来なかった。
「–––––俺も腹を括りますよ。死亡フラグ建てまくってるおっさんを放っとける訳無いじゃないですか」
「…話すのか?アリサに
「拒絶されるなんて百も承知です。…だけどいつまでも『面倒だ』と逃げる訳にはいかないでしょう?」
「ははっ、それもそうだな」
お互い顔を見合わせ、苦笑いする。
「とにかく、俺らがするべき事は一つだ」
「…エイジス島潜入は一週間後じゃあ無いんですか?」
「チッチッチッ。違うな。–––如何にして、俺はサクヤに、お前はアリサに怒られないようにするかだ」
–––ケイトの顔が、絶望に染まった。
Side:アリサ
「–––はい、これで診察は終わりだよ」
「…有難う、御座います」
自分の担当医–––オオグルマ・ダイゴに向けて礼をして、ぼんやりとする意識を覚醒させようと頭を振る。
––––––先生の診察中の記憶がいつも無いのは、やはり完璧にトラウマを克服出来ていないからなのだろうか。
「最近は精神状況が安定しているね。何かいい事でもあったのかい?」
「…多分、ケイトが生きてるって分かったからだと思います」
自分で「多分」と言ってはいるが、ほぼ確実にそうだとアリサは確信している。今迄ときどき
「黒が–––白鐘君か。彼の事は良く知っているよ。彼が新型神機に適合する前から面識があったしね」
「そうなんですか!?」
オオグルマの言った意外な事実に驚き、思わず大声が上がってしまう。ケイトからそんな話は聞かなかった筈だ。
「彼が君に対して持っている負い目の事もね。…此処から先は、本人から聞いた方がいいかな?」
「…はい。ケイトから直接聞かせてもらうつもりです」
「だけど彼は記憶喪失になってしまったのだろう?どうやって聞くんだい?」
「それは–––っ!?」
ライトが、と言おうとした瞬間に突如口を塞がれる。ちらり、と後ろを見ると厳しい表情をしたライトが居た。どうやらライトが現れて手で口を塞いだようだ。
〈ライト、とは言うなよ?〉
「(…どうしてですか?)」
〈–––嫌だからだ〉
「(説明になってません)」
〈嫌な予感がするからだ〉
「…アリサ君、どうしたんだい?」
〈とにかく、俺ら精神体関連の事は言うな。俺らは基本的に見えない存在だからな〉
ライトは言いたいだけ言うと、姿を消した。姿を消したら実体も消える為、口を塞いでいた手の感覚が無くなる。
「…アリサ君?」
「…い、いえ。大丈夫です。失礼します」
誤魔化すように笑い、いそいそと部屋を出る。
「…何で?」
ふと握り締めていた手を開いて見ると、その手は汗ばんでいた。
Side:ケイト
〈おい酒乱!」
〈–––––アリサさんにはどう言っても怒られると思いますよ〉
「だよなぁ…」
「…おいケイトこの二人誰なんだ?」
四人(人間二人+精神体二人)の状態は、そりゃあもう
突如自分とリンドウの目の前に現れた二人の精神体––––––ライトと美琴に戸惑うリンドウと、リンドウに何の恨みがあるのか「酒乱」呼ばわりし騒ぐライト。美琴は自分に厳しい現実を叩きつけ、自分はそれを聞き項垂れる。
もう一度言う、
「しかし、神機の精神体なんて居るんだな」
〈いつも酔って動けなくなったお前を運んでたのはレンなんだぞ?〉
「神機の精神体ェ…」
ライトの言葉に思わず突っ込む。神機の精神体ってのは酔った後輩を背負う気のいい上司のような物なのか。レン君安い。安過ぎる。
…あれ?レンって男だっけ?女だっけ?
〈それに比べてライトは罪の意識に囚われるケイト君を見てケタケタ笑ってただけですしね〉
やばい。同じ精神体なのに出来の違いがやばい!ライトが小賢しい悪役にしか見えない。
レン=酔った後輩を背負う気のいい上司
美琴=誰にも礼儀正しい巫女
ライト=人の不幸を嘲笑う小賢しい悪役
…。
〈おいそんなジト目で見んな!どうせ放っといても大丈夫だと思ったんだよ!〉
〈薄情ですね。冷酷ですね。鬼畜ですね。論外ですね。巫女としてあり得ません。人間どころか精神体として失格です〉
「
リンドウは呆れを通り越して何処か感心した目で美琴を見る。
信者に
「あぁもうライトが完全に死んでるぜ?
〈…そうだ俺は精神体失格だ…。生まれ変わったらアラガミになりたい…〉
「いやアラガミになったら迷惑だからヤメレ」
自分も特にライトを責めるつもりは無い。というかそもそも自分がライトを責めるなんてお門違いもいいところだ。自分は罪を犯したのだから罪の意識に囚われるのは当然だ。
未だに密度の濃い
〈…まぁ話を戻して、と〉
立ち直るの早いな。
〈確かに
「–––––俺やっぱやめよっかな」
「駄目だ。上官命令」
〈ライトが言う通り、そうするのが最善でしょう。…ですが、第一部隊の方々以外にも誰か信頼に値する方に事情を話された方が宜しいかと思われます〉
「何でだ?」
リンドウに当然の疑問に、美琴はスラスラと答えて行く。
〈第一部隊の皆様はとても優しい方々です。リンドウさんとケイト君がどれほど入れ込み過ぎないように仰っても、下手したら全員が貴方達に無断で調査や潜入等をなされてしまう可能性が大いにあります〉
「…成る程。確実に此方の味方であいつらを監視出来る人が居た方がいい、って事か」
〈はい。後可能ならば行動の制限が少なく、第一部隊の皆様を牽制出来るくらいは地位の高い方が良いかと〉
「…ふぅむ」
美琴から提示された条件を参考に、自分の狭い人間関係の中から探してみる。
「…心当たりがあり過ぎるぜ…」
「マジすかリンドウさん」
「あぁ、サカキのおっさんだ」
ピシ、と音を立てるように己の体が固まるのを感じた。…あの
一時的にだがアリサと同居するという顔面超絶赤面&悶絶モノの
まぁ要するに、あの人の「お願い」は何の成果を出さなかった割りに自分は被害を被った訳で、簡潔に言うと苦手意識がある。
〈…ケイト君が青くなったり真っ赤になったりしてますけど、見たところ条件に合いそうのはその方しかいらっしゃいませんね〉
「そうだな。じゃぁサカキのおっさんにコンタクトを取った後あいつらと再会って事にするか」
リンドウと美琴の間で方針が決まる。
〈––––––俺はこいつが真っ赤になる
「わーー黙れ黙れっ!言うな喋るな頼む今も思い出して半ば悶絶状態なんだっ!」
…その隣では二人の漫才が行われてたりした。
ミッションランク:4
出撃場所:贖罪の街
概要:本任務では極東支部最先鋭である第一部隊より撮影用に4人出撃する。攻撃は出来る限り食らわぬようにし、迅速に倒せ。
*撮影者:ペイラー・榊(他部隊より数名が護衛)
彼等の再会は、あと僅か…