しかし、ディアウス・ピターの爪により心臓まで少し抉られており、息も絶え絶えであった.....。
アリサもパニックを起こしてから精神が安定しておらず、ケイトも幾つもの致命傷を負って動けない上に意識が回復していないため、二人が居ない第一部隊はきつい戦いを強いられる__________。
「まだ、意識は回復しておりません」
「そうなんだ...」
目の前の医者から発せられた言葉に、コウタが肩を落とした。
ケイトの救出には成功したが、3日も意識が戻らない重体。こうやって時間を見つけては
「___過ぎた事を悔やんでも仕方ねぇ。俺らはただ喰らい続けるだけだ」
「そうね...。ここで暗い気持ちになってても仕方がないわ。ケイト君がいつでも安心して戻れるように私達も頑張りましょ」
彼等は病室から出て行く。
ミッション蒼穹の月から3日。アリサも目を覚ましたら錯乱状態、ケイトは意識不明の重体と元から人数の少ない第一部隊からさらに二人が欠けるという未曾有の危機に陥っていた。
しかも第一部隊が女の顔のヴァジュラ____「プリティヴィ・マータ」と遭遇してからヴァジュラの出現率が格段に上がった上、ヴァジュラが急に手強くなって来ている。
そのため第一部隊は一日に連続でヴァジュラ種の複数討伐の任務を請け負ったりし、他の部隊____主に防衛班から人員を借りる事も増えた。
「おーい。次はマータの2体討伐だぞー。」
リンドウが3人を呼びに来る。一行は疲れた体を引きづりながら任務に向かった。
「___コウタ!マータがそっちに行った!一回逃げろ!」
「了解!」
一行のヴァジュラ種複数討伐の基本戦法は、「コウタが囮となって一体を相手して、残りの人員がもう一体を叩く」という物である。
勿論コウタは反対したのだが、「「「お前は上等囮兵だからやれるさ」」」と良く分からない太鼓判を押され、渋々とやっている状態だ。
「俺は上等囮兵じゃないんだけどなぁ...」
コウタは逃げながら呟いた。
恐らくあの三人は「コウタ=上等囮兵」というのをケイトから聞いたのだろう。元気でも元気じゃなくても迷惑な奴である。
「早く、目を覚ませよ...。皆待ってるんだからな」
今はまだ病室に居るケイトに向かって、コウタは独り言ちた。
「___第一部隊の皆さんに、大切なお話があります」
疲労困憊で帰ってきた
もしや
「___どうかしたのか?」
「白鐘ケイト君についてです。...彼のアラガミに喰われた左腕は、一応
「...それなら問題無い。あいつはチャージ状態を維持しながら神機を振り回して立ち回れるような奴だ。いざとなったら軽い神機にでも変えるだろ」
医者の言葉に皆驚いたが、ソーマの言葉を聞いた瞬間安心の表情に戻る。確かに、
「...ここからが大事な話です」
「...なんだ?」
「先ほど申し上げましたように、
医者が一旦言葉を区切る。
「あの時ケイト君の容体は一瞬死の淵まで行っていました。救出が一分でも遅れていたら手遅れだったかもしれません。ケイト君も意識を失う前に死を覚悟した筈....」
「...それがどうした」
「もうケイト君の精神は『もう自分は死んだ』と思っているかもしれない。運が悪かったら、」
医者が一拍置き、「話していいか」というように一同を見つめる。
第一部隊の面々は一瞬戸惑ってからうなずいた。
「____運が悪かったら、意識が永遠に戻らない植物人間。仮に運が良く意識が戻っても人格形成に多かれ少なかれ影響を与えているでしょう....」
「.......」
アナグラ全体の空気が、一段と重くなった。
「ケイトが目を覚ました」
そう聞いた
「___あんたら、誰?」
現実は、いつまでも無情だった..........。
「『誰』って...おい冗談だろ?」
コウタが慌てたように話しかける。ケイトは自分達の仲間だ。仲間の顔を忘れる筈が___
「ここで冗談を言う必要性あんの?」
「_____っ!?」
ケイトはさも当然のように言い放った。
確かに人格形成に影響があるかもしれないとは聞いていた。
認めたくない現実が迫る。
リンドウが確認の為に聞いた。
「...お前、自分が誰だか分かるか?」
「んー、分かんねぇ。これが
一同が「記憶喪失」という言葉に表情を強張らせた。
「___正式には、自分と他者についての記憶が無くなったのです」
医者が隣から補足する。それにうんうんとケイトも頷いていた。
「...そんな事があり得るのか?」
「私も初めてこんな症状を見ました...。部分的に記憶が欠落する症状。よりによってその欠落対象が人についてなんて...」
「___記憶が治るのは?」
「恐らく永遠に無いでしょう。...ですが、ゴットイーターについてや神機の使い方については覚えています。戦線復帰は容易です」
「クソッタレが....!」
「ソーマ!落ち着けって!」
ソーマが医師に掴みかかろうとするのをコウタ達が宥める。
「チッ...。おいケイト。お前は自分がゴットイーターだってのは知ってるのか?」
「さっき医者から聞いたよ。俺もめんどくさい役職に就いたねー」
「お前は極東支部の第一部隊所属の新型神機使いだ。それで俺は第一部隊のソーマ。...別に覚えなくてもいい。さっさと戦線に戻りやがれ。俺は先に任務に行くぞ」
ソーマはそう言うや否や病室を出て行った。
ソーマが出て行った扉を見つめながら、コウタはケイトに話しかける。
「俺はコウタ!第一部隊だ!俺の事はちゃんと覚えておいてくれよ!あ、後でバガラリー見ようぜ!」
「あ、バガラリーが面白くないというのは覚えてるから見ないよー」
「んだよチクショー。んじゃリンドウさん!俺も任務行って来ますよ!」
「ん?...あ、ああ、行って来い」
ひとしきり騒いだ後コウタも出て行き、サクヤも軽く自己紹介をして出て行った。
残るのはリンドウとケイトのみ。
「...最初に出て行ったソーマも、何も無かったように振舞ってたコウタも、皆仲間思いのいい奴だ」
「ま、そうだろうねー。...そんであんた誰ですか?」
「おっと、言い忘れてたな。俺はリンドウ。形式上お前の上官にあたる。...で、これからは上官からの最初で最後の頼みがある」
「なんすか?」
リンドウはケイトの隣のベットで寝ている少女____アリサに目を向けて言う。
「この子もお前の仲間でアリサって言うんだ。...アリサは少し精神が不安定でな。定期的に主治医のメンタルケアを受けている」
「へぇー」
「一週間前のある任務の途中でアリサは錯乱しちまってな、俺を教会に閉じ込めちまった。そこで俺が危ない所をお前が助けて、その代わりにお前が閉じ込められたんだ」
「ほぉー。で、頼みはなんですか?」
「まぁ落ち着け。...で、それからアリサこの状態だ。もし落ち着いた時に、自分の過ちの為にお前が記憶喪失になったと聞いたら、又罪の意識で壊れかねん」
「成る程、俺の記憶喪失を悟られないようにしろという事ですか」
記憶を一部失っても相変わらず鋭いなぁ、とリンドウが苦笑する。
「そうだ。面倒だろうが頼む」
「ホント面倒ですよ,...。ま、出来る限り善処しますよ」
「頼んだぞ」
リンドウはそう言うと、病室を立ち去っていった。
「本日付けで戦線復帰となりまーす」
「記憶を失っても性格は変わらんのだな...」
ケイトが目を覚ましてから一週間。怪我は完治し、左腕も軽い運動は出来るくらいまで修復された。
三日間寝たきりだったこともありリハビリもしたらしいが、戦闘の勘も残っているようで大して苦労しなかったという。
「ケイトの実力は記憶を失う前とほぼ同レベルだ。プリティヴィ・マータを狭い場所で単独討伐したしな。...甘く見てると、先を越されるぞ」
「...んな事どうでもいい。今回の任務はなんだ」
「おいおいソーマ。姉上が目の前に居るんだぞ?」
「黙れリンドウ。ここでは姉上と呼ぶなと言った筈だ。
今回の任務はこの5人で嘆きの平原でヴァジュラ4体を討伐だ。怪我の事もあるからケイトとリンドウは二人でヴァジュラ一体を叩け。残りの者は一人一体ずつ引きつけておくんだ。一体を倒し終わったら二人はもう一体の方を行き、その一体も倒したら3人でもう一体に行く...と片っ端から潰していけ。苦しい戦いになるだろうが、これが終わったらヴァジュラの数も一気に減って今後は楽になるだろう」
「「「「了解」」」」
「りょーかい」
「記憶を失ったならそのふやけた返事も忘れて欲しかったのだがなッ!」
ツバキが手元のファイルをケイトの頭に振り下ろす。
ゴツン、という音がアナグラの出撃ゲート前の空間に鳴り響いた。
「ぎゃあああああ!...おいおい!また記憶喪失なったらどうすんだよ!?」
「一種の治療法だ。...ほら、お前ら行って来い」
ツバキの言葉を最後に、第一部隊は出撃した。
「てりゃぁ!」
ケイトが瓦礫を捕喰していたヴァジュラを捕喰する。そして神機を銃形態に変形させ、捕喰で入手したアラガミバレットをリンドウに3回受け渡した。
〈ギャォォオオオオオオ!〉
ヴァジュラが二人に気付き、雷球を飛ばしてくるのを二人はステップで難なく避け、そのままヴァジュラの顔面を神機で切り刻んでいった。
ヴァジュラがマントに電気を溜め込み、体全体に放出するのもシールドを展開して防ぎ、再びヴァジュラの顔面を集中的に攻撃していく。
「おらおらおらおらぁ!」
ケイトが銃形態に変形させ、神機により生まれたヴァジュラの顔面の傷跡に神機をねじ込み、0距離どころか-距離で神属性の爆発系バレットを打ち込んで行く。
バキッという音と共に顔面が結合崩壊を起こした。
〈グォォォオオオ!〉
怒りで活性化したヴァジュラがケイトに飛びかかってくるのを、ケイトは避けもせずチャージクラッシュを溜め、向かって来たヴァジュラが自分に当たる寸前に顔面に思いっきり神機を叩き込んだ。
〈ギャオォ...ォォ...〉
結合崩壊をして脆くなっていた顔面に神機が深くめりこみ、露出したコアごと捕喰する。
ヴァジュラはビクンと跳ねた後、全く動かなくなった。
「さぁ、二体目行きますか」
一方その頃____。
「___やはり傷の回復が
暗闇の中で男が椅子に座り、資料の様な物を読みながらニヤリと笑う。
「計画は成功したのだ!支部長が行ったものは不完全だったが、私は一つの
立ち上がり手を広げた男は、壊れた人形の様に笑い出す。耳障りな甲高い笑い声が暗闇に響いた。
「生まれながらにして偏食因子を投与するだけの『マーナガルム計画』ではまだまだ甘いィ!母体がアラガミである『スコルハティ計画』こそが完璧なのだぁ!」
男はひとしきり笑うと興奮が冷めたように椅子に座りこんでから呟いた。
「...まだまだ観察させてもらうよ...。
男は資料を破いて廃棄すると、暗闇の中に姿を紛らわした...。