自分で書いた異世界転生小説の中に転生した作者と、その作品の主人公らしき者だった者。

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ツイッターで妄想書いたら書いてって言われたので書いた!(半ギレ

つ づ か な い 。


ルート通り行ってくれない勇者と苦悩する作者。

「だからさー、さっきのはフラグのためにふりでもいいから負けてって言ったよね、なんで勝っちゃうかなー」

 

「あいつ先生馬鹿にした!第一あの程度の相手に負けないようにって鍛えてくれたの先生じゃん」

 

「んー、そうなんだけどさー。フラグがさー」

 

不満気に頬を膨らませる子供と不審者然とした全身ローブの男が伸びた男の前であーだこーだ言い合う。

つい先ほどそこに伸びている男は、冒険者ギルドの試験官としてローブの男、ではなくそれに付き従う子供と決闘を行っていた。

 

体格差からか試験官の攻撃に防御一辺倒だったが、攻撃するよりも技量やセンスが問われる防御を的確に行える子供に高い評価を与えていた男は、攻撃してこない子供を軽く煽ることで戦闘に対するその子供の評価を決めようとしていた。

プライドをくすぐっても動かず、馬鹿にされても怒らず。

冷静であることは評価されるべきものだが、攻撃能力を見たい試験官としては困ったものだ。

 

そして試験を見る付き添いのローブ男に目を付け口を開き終わった瞬間、男は地に倒れ伏していた。

最後に残っている記憶は止めを刺そうと試験用の木刀を振り上げる子供の姿、ローブの男が慌てて制止を呼びかけなければ、きっと男はこの世から去っていただろう。

 

そして意図の不明なローブの言動と、ローブの男が馬鹿にされたことに未だにむくれる子供の構図が出来上がる。

 

「第一、あの男に負けることに何の意味があるんですか」

 

「ええっとな、まずこのギルドに勇者の盾が保管されてて、それを魔軍襲撃から街を助ける際に鍵を渡してくれる配役があの男なんだよ。予言、っていうか原作じゃあ何度もあの男に挑んでいろいろあって未来ある戦士って認められる予定なんだけど、倒しちゃったらその時鍵くれるかもうわかんないじゃん!」

 

「なら今から勇者の盾とかいうの貰いに行って、魔軍が来る時期にまた戻ってきましょう」

 

「貰えると思ってる?勇者の盾は確かに勇者のものだけど盾はこのギルドの権力を表す象徴でもあって、ぽっとでの新人冒険者にくれるわけないでしょ」

 

「でも勇者のなんでしょ?なら僕が貰っても問題ないですよ」

 

「...今更だけど自分が勇者ってこと疑わないね君、そんな自意識過剰だったっけ?」

 

「先生が勇者だって言うなら僕は勇者なんでしょ?」

 

きょとんとした顔で、無垢な信頼を投げつけられる。

そんなもの以前は一度たりとも向けられたことは無く、どうしていいかわからない感情をローブの上から髪をわしゃわしゃと掻きむしることで発散する。

 

「んああああ、もう!まーたイレギュラーだよ。何も考えず鍛えたの間違いだったあああ」

 

「感謝してるよせんせ」

 

「うるせっ!」

 

にこにことこちらを見つめてくる子供の髪をわしゃわしゃと掻き乱してやる。

キャーじゃねえ!

 

「あー、そもそも接触したのが間違いだったか?今からでも離れるってのも一つの手といえるか?」

 

「先生弱いけど大丈夫?一人で生きていける?」

 

「難しいけどやっていけなくはないわ!大人舐めんな!」

 

収入は基本的に勇者9割を占め、生活するための家事は現状ほぼ勇者頼り。

舐められてもしょうがないが、家事を始めれば思い出すことも多々あるはず、仕事だって探せばきっと何かあるはずだ。一人で生きていけないわけではない、はず。

希望的観測が多々あるが一人暮らししていた経験があったことは確かなのだ。

とはいってもこの子供から離れるには、まずちょこんとローブの端を握る手を振りほどくことから始めないといけないのだが。

 

「はぁ、じゃあ戻ってギルド入会して、とりあえず飯食い行くぞ」

 

「はーいせんせ、盾貰いに行くのはそのあとだね」

 

「いや、勇者ってばらすとめんどいからまたいつかにしよう」

 

「えー、早くても良くない?」

 

「他の人絶対付いてくるぞ?新しい人間関係とかもうめんどい」

 

「またいつかにしよっか」

 

一瞬で翻った手のひらに、一瞬この子のことを考えてそこは我慢すべきなのかと考える。

けれど勇者ということを知って新しく付いてくる人というのも、この子が可哀そうだと考え流されることにする。

たとえこの子が俺の作った小説の中の主人公であり、俺の作った勇者であろうとも、勇者の前に人間であることを俺は知った。

自分の作った異世界系小説の作者だからわかるが、勇者という役割はいずれ終わりを迎える。

その時この子にとっての人間関係が原作通り勇者ありきであってほしくないと、ただ一人の人間として見てくれる人が居てほしいと、傲慢にも作者は思った。

魔王の存在により日々を怯えて暮らしている民たちにとって希望の光となる勇者は、早く見つけられ世界の希望となるべきだろう。

だからこの子が勇者として世界に知られることを遅らせているのは、もはや悪と言ってもいい。

 

 

「で、飯どうするか。何か食べたいものあるか?」

 

「先生の食べたいもの!」

 

「なんでもいいみたいな面倒な答え方はやめなさい。主体性を持て主体性を」

 

それにしても俺の書く主人公はこうも主体性が無かったか?

というかそもそも本当に俺の主人公なのだろうかこの子供。俺産にしては人(俺)に懐きすぎな気がする。

 

「たとえばだ、勇者という役割は置いといて他になにかなりたいものはないのか」

 

そもそもだ、そもそも俺はあの小説を一般向けに書いたのだ。

感情移入しやすいよう男性向けに書くからには当然勇者の性別も男に書いたはず、ならさ。

 

「お嫁さん!」

 

陽だまりのような笑顔から目を逸らしながら思う。

なんでこいつ女なの?



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