シャーロット家の秘蔵子は『つまらない』やつ   作:傍目

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本編『見通す先にあるものは』でトライフルが見張りをしていた数日間の兄弟達の話です。
全3話となっております。


番外編:その頃の家族達
番外編1:何よりも大事な事


 

 

 

トライフルが万国(トットランド)の見張りを始めて数日。

 

兄弟、戦闘員達は皆、屋上の高い壁の上でじっと海の向こうを眺め続ける少年を心配していた。

 

 

 

「トライフル様……大丈夫かな……。」

「大丈夫なわけないだろう、ランドルフ。

 天眼通(てんげんつう)の使用自体は負担は無いと仰っておられたが、限度は流石にある。

 あの方がこんなに疲労困憊でも働き続けるなんて、カイドウと邂逅した時以来だ!」

 

 

ビッグ・マム海賊団では古株である『ディーゼル』とウサギのホーミーズ『ランドルフ』はホールケーキ(シャトー)の門前で、赤ん坊の頃から可愛がっているトライフルの御身を案じていた。

 

 

「カイドウの時といい、今回のママへの口出しといい……トライフル様、いつの間にこんなに成長しちゃったんだろ……。」

「少し前までプリン様と一緒に、おれの背中に乗って汽車ごっこを楽しんでいたと思ったのにな…。」

 

 

『背中に乗せて』『汽車ぽっぽして』と、舌足らずでおねだりする幼い兄妹との思い出が胸によぎり、ディーゼルの目尻に涙が浮かぶ。

 

 

「……それ全然少し前じゃないよな?あの御兄妹が2つ、3つくらいの時の話のじゃないか。」

「うるせェ!おれにとっちゃお二人はいつまでも天使のようにかわいいんだよ!!

 うう゛ゥ゛~…トラ゛イフル゛様……!!」

 

 

ディーゼルはハンカチ片手に顔中の穴という穴から汁を噴出させながら、すっかり成長し家族の為に平気で無茶を働くトライフルを想って泣いた。

 

 

「まあ、おれも組み手に付き合ってあげてた頃が懐かしいと思ってるけど……。」

 

 

滝のような涙を流すディーゼルに呆れながらも、ランドルフ自身もまだまだ未熟だった頃のトライフルを思い出すと彼の気持ちはわからないでもなかった。

 

戦闘員達はどの兄弟も敬愛しているが、トライフルの国や家族に対する強い想いはその御兄弟達と同じく骨の髄まで知っている。

下っ端の戦闘員やただの一般市民であっても、その一人一人をとても大事にする彼はその辺にもいるホーミーズからも好かれているほどだ。

 

いずれシャーロット家の最高傑作と呼ばれるカタクリよりも強い男になることを目標としているトライフルは、好感度においてはそのカタクリと同じくらい高いと言っても過言ではない。

 

 

「けど、カタクリ様じゃない。トライフル様は強くなったけど能力のデメリットが大きすぎるんだよ……。」

「ああ。()()は今思い出しても背筋が凍る。

 神がいるならなぜあの方ばかりこんなに過酷な運命を背負わすのだと文句を言ってやりたいくらいだ!」

 

 

トライフルが力を求めれば求める程に、彼の身に降りかかる災厄は勢いを増しているように感じる。

それでもトライフルは自分が守りたいものの為に無茶をするので、周囲はそのたびに気をもんでいるのだ。

 

 

 

 

 

「何をしているの。ディーゼル、ランドルフ……。」

『ヒッ!!?』

 

 

 

肩を並べて話し合う二人の背後から、異名通りの"鬼婦人"を体現しているシャーロット家3女、『シャーロット・アマンド』が威圧感たっぷりに二人へ声をかける。

 

 

「ママからの指示でお前達と私は『ケーキの材料調達』担当だろう。何を油を売っているの…。」

「ヒイイィ!!!も、申し訳ございません、アマンド様!!じゅ、準備は整ってございますので、お怒りをお沈めください!!

 その…ランドルフが死にかねません……!!」

 

 

気をもむ、ということはそれだけ周囲はストレスがたまるわけで、一部の兄弟達のイライラ具合は今やホーミーズが死にかねないレベルに達している。

 

ガタガタと震えながらディーゼルは非礼を詫び、ランドルフは半分気を失っていた。

これから大事な任務だというのに重要戦闘員に死なれるなど計画に遅れが出かねないので、アマンドは舌打ちしつつ煙を飲んで落ち着こうと努める。

 

 

「……いつもなら寝ている時間にトライフルが起きている。

 そんな時はいつもなら……いつもだったら兄弟の誰かが国を空けると聞けば見送りに来るのに……!!」

 

 

なるほど、アマンドの怒りも二人にはわかる。

 

トライフルは常に万全の体調であるようにと一日の大半を睡眠で占めているため、起きていることは珍しい。

そんな珍しい『起床しているトライフル』と遭遇できるだけでもラッキーなのに、任務でしばらくは顔も合わせられないような時に会えれば彼は必ず見送りをしてくれる。

 

それが、彼自身も任務を課せられている為に見送りどころか、こちらからも声をかけられない状況だ。

弟溺愛な兄弟達のテンションだだ下がりにもなる。

 

 

「心中お察しします。アマンド様……。」

「この憂さ、これから向かう島で幾分か晴らさねばそこらのホーミーズに八つ当たりしかねないわ…!!」

「ぜひ厳選された一級食材のある島にて晴らしてくださいお願いします。」

 

 

怒りで歪む空間と、ものすごい速さで短くなっていく煙草を見たランドルフはそうアマンドに(こいねが)った。

ちゃんと言っておかないと『そこらのホーミーズ』に自分も入りかねないのだから。

 

 

「……もし…麦わら達が本当に万国(ココ)へやって来たら…

 味わった事のない苦痛が長く長く続く速度で斬り殺してやる……!!」

 

 

愛刀である『白魚』を握りしめ、いつもより低い声で恨みたっぷりにそう零して、アマンドは船へ向かって行った。

ディーゼルはランドルフの魂が消滅しないよう両肩を押さえてやりながらその後に続いた。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「…あれ?アイツどこ行った??」

 

 

船着き場に着いた三人は各々の目的地へ出航しようとしたのだが、鶴騎士(クレインライダー)であるランドルフのその(のりもの)がいなかった。

 

これでは出航出来ないと頭をかいていると、ゾッとするようなオーラが背中を撫でた。

 

 

「ランドルフ……!お前、ウェディングケーキが完成できなかったらどうなるかわかっているの!?」

 

 

振り向くと鬼がいた。

今まさに自分をラビットパイにせんと鯉口を切る鬼女がランドルフを見下ろしている。

 

 

「アア、ア、アマンド様!おれのせいじゃないです!相棒が悪いんです!!先にここにいろって言ったのに!!斬るならアイツをどうぞ!!」

 

 

ランドルフは命惜しさにあっさり相棒を売った。

鶴騎士(クレインライダー)なのにその鶴を差し出したら彼は何に乗る気なのか。

 

 

 

 

「……ツ~~~ル~~~。」

 

 

 

 

空に響き渡る声にその場の者達が上を向くと、実際そんな風には鳴かないがこの国では割と普通である(くだん)の鶴が自分のピンチも知らずに空高くから舞い降りてきた。

 

 

「どこ行ってたんだこの馬鹿!!いや、よく戻った!!アマンド様、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。」

「オイ!状況は全くわからんがおれが今、命の瀬戸際に立たされてるって事はわかるぞ!!?」

「どっちでもいい。せめて『正面から縦に』か『側面から縦に』か選ばせてやるわ。」

『真っ二つにするって事ですか!!?』

 

 

ウサギと鶴がコントを披露する正面で、鬼は両方とも()いて皮を剥ごうとにじり寄る。

 

 

「ア、アマンド様!!どうぞ気をお沈めください!!お前らも責任押し付けあってないで素直に謝れ!!」

 

 

残酷昔話が佳境に入る前にディーゼルが止めに入った。

これから任務だというのに仲間が物理的に右と左(もしくは前後)に分かれられても困る。

 

 

「だ、だってよォ…待ってたら電伝虫でトライフル様に呼ばれたから、おれ……ヒィッッッ!!?」

 

 

『トライフル』に鋭く反応したアマンドがギロリと鶴を睨み付けた。

 

 

「なんで・お前が・トライフルに・呼ばれる!?

 ママ直々の任務で一瞬たりとも気を緩めることもできないあの子が!!

 どんな用があって呼ぶというの!!?」

 

 

 

ここ最近じゃ一言会話することも難しいというのに、わざわざトライフルからお呼びがかかったという事実に嫉妬心丸出しで詰め寄るアマンドに、鶴は魂が飛びそうになりながらも震え声で答える。

 

 

「お、おれだけに用ではなく……ア、アマンド様に…。

 それにディーゼルにランドルフにも言伝(ことづて)をと…!!」

 

「……何?」

『おれ達にも?』

 

「だ、大事な事だからきちんと伝えてくれと……。」

 

 

三人分、計六つの目に見つめられ、ゴクリと唾を飲みつつ、鶴はトライフルの『大切な伝言』を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『いってらっしゃい。気を付けてな。』と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母から与えられた重要な任務。

僅かな気のゆるみも許されないというに、たったそれだけの事がなによりも『大事な事』だと。

 

 

 

アマンドは肩の力が抜けると共に、先ほどまで爆発寸前だった怒りが雲散霧消した。

島の中心にそびえ立つホールケーキ(シャトー)に顔を向け、彼女はその異名と程遠い柔らかな笑みを唇に浮かべて、傍で視ているであろう弟へ返した。

 

 

「行ってくるわ。すぐに帰ってくるから……。」

 

 

囁くように告げると、彼女は舷梯(げんてい)を上り今度こそ乗船した。

ディーゼルとランドルフも(シャトー)を見つめ、片方は恭しく頭を下げ、片方は大きく手を振って敬愛する人へこたえた。

 

 

「行って参ります。貴方様もどうかご自愛を。」

「トライフル様!いってきまーす!」

 

 

彼等もアマンドを追うように船へと駆け込んだ。

 

 

 

 

 

城の屋上でその姿を見送る少年の顔は、いつもより口角が上がっているように見えた。

 

 

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