シャーロット家の秘蔵子は『つまらない』やつ   作:傍目

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彼等の弟

 

 

2年前、ゴースト(アイランド)"スリラーバーク"

私達はそこで出会い、紆余曲折ありながらも友情を築いた。

 

 

 

『私のママが海賊やっててね…!!あ、そうだわ…!!コレあげる、ママのビブルカード。特別よ?』

 

 

新世界の文化であるビブルカードの存在を教えてもらい、姉妹分(きょうだいぶん)の証に『すごい海賊』だという彼女の母のカードをもらった。

 

 

『このママのビブルカードに私がサインしとくから、いつか何かに困ったらこれを辿ってママに会うといいわ。その時は私も元気でやってたって伝えてね。』

 

 

そういって紙に自分の名『Lola(ローラ)』とサインして私に差し出した。

 

 

『ありがとう、ローラ!』

『いいのよ!……あ、もしママに会ったらもう一つ伝言を伝えてほしいんだけど…』

『ん?お安い御用よ。何?』

『伝言自体はママにじゃないの………私の『弟』に届けてほしいの』

『弟?』

 

 

母親伝いに弟へ伝言?と思ったけれど、こんな時代でしかも海賊なら色々あるわよねと思ってそこは流した。

 

 

『ローラって弟がいるんだ!』

『ええ!姉想いのとってもいい子なのよ!』

『ローラ船長!名前も伝えておいた方がいいんじゃないすか?()()()()わかんなくなるし』

『あ、そうね』

『?』

 

 

また不思議な事をローラと彼女の船員(クルー)は話す。

けれどその時の私は深く考える事も問いかける事もせず、大切な友達との約束を果たす事ばかり考えていた。

 

 

 

『私の大切なかわいい弟…名前はね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 "トライフル"っていうの!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

大地に埋まっていた巨人は突然現れたビスケットの鎧を着た男に乱暴に地面から引っこ抜かれ、実は顔がでかいだけの二頭身のおっさんだった事が判明した。すっかり巨人と思い込んでいたルフィ達は驚愕したが、ナミの方は二人の会話に出てきた人物の名にさらに驚いた。

 

 

「クラッカー君!!放してくれ!!()()()に…シフォンに…!!娘達に会いたいだけなのよね!!!」

「大声でその名を口にするな!!!()()()()()に二度と聞かせたくないその女の名を!!!」

 

 

"ローラ"と"トライフル"………

 

今日までの旅で得た情報がナミの脳裏を駆ける。

 

 

 

『ローラ、あんた達"新世界"へ行ってたの?』

『行ってたんじゃなくて新世界の生まれなのよ!私のママが海賊やっててね…!!』

 

『コレあげる、ママのビブルカード。特別よ?』

『おおお!!よかったなオイ、ローラ船長のママはスッゲー海賊なんだぜ!!?』

 

『私の大好きだった姉さんも自由な恋愛を求めて海へ飛び出したわ。求婚の旅へ!!』

『ローラも家出したと聞いた…!!ウヌにはかけがえのない家族なのよ!!』

 

 

 

「ローラ…それにトライフルって……」

 

 

 

『伝言自体はママにじゃないの………私の『弟』に届けてほしいの』

『ローラ船長!名前も伝えておいた方がいいんじゃないすか?()()()()わかんなくなるし』

 

『―――あなたはシャーロット家の"三十五女"とありました。ビッグ・マムには娘さんが35人も!?』

『ええ。娘39人、息子47人。私達は86人兄弟よ!』

 

 

 

点と点が繋がる。まだ不鮮明ながらも形が出来上がっていく。

 

 

 

「もしかして…!!ローラ達のママって…"ビッグ・マム"!!?」

 

 

まだ確かではない答えを導きながら、ナミは未だ鎧男と言い争っているエセ巨人を見上げる。

 

 

「―――そしてこの人が……!!ローラのお父さん!?」

「!?え!?」

 

 

男もローラという名に反応してナミを見返した。

瞬間、遥か上空から何かが叫びながらこちらへ向かってくる。

 

 

「ツル~~~~~~ッ!!!」

「また来たなあのウサギとツル!!」

「飛ぶんだ!」

 

 

ナミ達を追いかけ回していた例の騎士のようなウサギと彼を乗せた鶴が、ルフィ達目掛けてミサイルの様に一直線に降下する。

迎撃しようと拳を構えるルフィだったが………

 

 

 

 

「止まれランドルフ―――――――――ッ!!!」

 

 

 

鎧の男の大声で二羽はあらぬ方向へ落下、不時着した。

さらにその男の迫力に当てられた木々が何本か枯れ落ちた。

ルフィは覇王色の覇気かと思ったがすぐに感覚がそうではないと伝える。

 

 

「覇気!?……違うな」

「恐怖で枯れちゃったの!?」

 

 

呆気にとられる二人に対し、ホーミーズは鎧の男に戦々恐々といった様子だった。

 

 

「な…なぜこの森に『3将星』が…!!」

「来てはならんか!?おれが!!!」

『ヒエ~~~~~~!!!申し訳ありませんクラッカー様!!』

 

 

鎧男ことクラッカーが圧をかけて鋭く睨むとホーミーズは悲鳴をあげながらさらに命を落とした。

枯れた命など歯牙にもかけず、彼はウサギと鶴へ目を向け声を荒げる。

 

 

「おれのいる目の前で横ヤリを入れるとは偉くなったものだな!!ランドルフ!!!」

「……!!すいません、コイツが行こうって」

「ウソつけェ!!お前じゃろうがィ!!」

 

 

罪を擦り付けるウサギに鶴が目をむく。

 

 

「喋った!あいつ偉いのかしら」

 

 

すごまれただけで枯れたり責任を押し付けあうホーミーズの姿に、ナミは原因の男を見ながらつぶやく。

 

 

「強ェのは確かだ」

 

 

睨み付ける男が威勢だけではない事を理解しながらルフィは気を引き締めた。

 

 

「ママは常に先手を打つ女……!!"麦わらのルフィ"はドフラミンゴを破った男だ。ブリュレじゃ手こずるだろうとおれをよこした」

「聞き捨てならないね―――!!兄さん!!!」

「!」

 

 

割って入った声に皆がそちらに目を向けると……

 

 

「失礼な!!!」

「そうジュそうジュ!!」

「別にやれと言われちゃすぐ殺るよォ!!!」

「同感ジュ!!!」

 

「!!うわ!!木のバケモノ!!」

「あ!!あの女―――!!」

 

 

巨木のホーミーズとそれに乗った女――――――ブリュレが姿を現した。

 

 

「ワシらチーム"誘惑の森"は!!今日までただの一人も標的を生きて返した事はねージュ!!」

 

 

ブリュレの部下であり誘惑の森の主でもある巨木のホーミーズ"キングバーム"は自信たっぷりにクラッカーに言ってのけた。

 

 

「結構だが遊んでる場合じゃない。明日の昼にはヴィンスモーク家の兄弟達が顔を揃えホールケーキ(シャトー)へ入城する。今回のヴィンスモーク家との縁付きはママにとっても待望のイベント。

 ―――あの『ジェルマ66(ダブルシックス)』の軍隊と科学力が手に入るんだからな」

 

 

ブリュレ達の仕事ぶりは評価しつつもクラッカーはビッグ・マムの悲願成就を優先すべしと言外ににじませる。母の願いはブリュレも理解している為「わかってるよ!」と一言放ってルフィが捕まえてきた偽物の仲間達を元の動物の姿に戻した。

 

 

「わー!動物になった!!

 

 

 

 ―――で、何であの枝だけ喋るんだ!?」

「枝じゃねェよ!!!」

 

 

キングバームと同化して見えたのか、ルフィの素っ頓狂かつ失礼な発言にブリュレは声を荒げた。

そして怒声と共にルフィ達と兄にあるものを見せた。

 

 

《あっ!!ルフィ!!》

《ルフィ!!ナミ!!助けてェ――――――ッ!!》

「え―――っ!?どうしたんだ!?お前ら!!」

 

 

ブリュレが掲げた額縁―――否、鏡の中にチョッパーとキャロットが入っていた。

わけのわからない状態にルフィは目を白黒させながら二人に叫んだ。

 

 

「どうやってそんな所に!!」

《"鏡の世界"に入れられちゃったんだ!!!こいつは"鏡"の能力者だ!!気を付けろ!!》

 

 

警告をするだけで外に出る事も出来ない、文字通り手も足も出ない状態の二者を嘲笑いながらブリュレは兄に胸を張った。

 

 

「ウィッウィッウィ~~~ッ!!どうだい!?クラッカー兄さん!?もうコイツらの首根っこは掴んでんだよォ!!」

 

 

高らかに言った直後、ブリュレは躊躇も容赦もなく鏡を地面に叩きつけた。

ルフィ達は叫び声をあげながら鏡を追うが間に合わず、鏡は呆気なく砕け散った。

 

 

「―――まァいい、まずは口の軽いこの男だ。」

 

 

そう言って髷を掴んだ手に力を籠めるクラッカーにビッグ・マムの元夫は驚愕する。

 

 

「ママが消して構わんと…」

「え~~~!?リンリンが~~~~~~!?」

 

 

強引な婚姻であったとはいえ一応夫だった男は元妻の処分にショックを受けた。

 

 

「考えてよね!!仮にもウヌはクラッカー君の"父親"に当たる存在よね!?」

「"元"な!!今は違う。ママに言わせりゃ過去43人の夫達など血の繋がりもない"他人"だと…!!」

 

 

男はクラッカーに生存の望みをかけるがそれも打ち砕かれた。

 

 

「そんな…!!だが娘達とは確かに血は繋がっているよね!!やめてくれェ!!!」

 

 

実の娘の事を挙げた途端、クラッカーの目が鋭くなった。

右手で弄んでいた大剣の柄をしっかりと、痛いほど強く握り直して男の方へ構える。

 

 

「…!!!何よりキサマの娘と同じその愚かしさが憎いほど腹立たしい!!!我が弟への裏切り!!!その愚行、死で贖え!!!」

「!!!」

 

 

振り下ろされる刃に男はきつく目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

―――ガキィン!!!

 

 

 

 

 

襲い来る刃はそれよりもずっと小さな体に阻まれた。

刃を振り払ったソレはさらに、怯える男を掴むその手目掛けて踵を落とした。

 

 

「……………!!」

 

 

骨の髄まで痺れる衝撃にクラッカーの手が緩んだ。大地に転げ落ちた男は回らない舌でソレに―――ルフィに礼を繰り返した。

 

 

「ゼェ…ゼェ…アリァとう!!アリァとう…!!」

「……同情か?」

 

 

 

「何十回も顔突き合わせてりゃ、情くらい移る!!!」

 

 

 

睨み合う両者を包む大気が鋭いものに変わる。

 

 

 

「ヤッベェ~空気ィイィ~~~~~~!!!」

「クラッカー様がここで戦いを始めるぞ!!!」

 

 

只ならぬ雰囲気を感じたホーミーズは一斉に、二人から距離を取るように逃げ出した。

ナミもここにいるのは危険と判断し、ルフィが救った男と共に離脱を決める。

 

 

「離れよう!!あんた名前は!?」

「ウヌは『パウンド』。さっき己、ローラの名を言ったか?」

「逃がすんじゃないよ"ホーミーズ"!!とっ捕まえてもうカタを付けちまうのよ!!!」

「アッチなら了解!!!」

 

 

そう簡単に逃がすまいとホーミーズもブリュレの命令に従って追ってきた。

ナミは足を止めずに懐を探ってあるものを取り出した。

 

 

「あった!これはね!私の友達『ローラ』のママのビブルカード。

 ―――でもそれがビッグ・マムかどうかは…」

 

 

『ウオオオオオオ!!!』

 

 

突然、ホーミーズが雄たけびを上げて動きを止めた。

雄叫びに振り向いたナミも、言う事を聞かない部下達の姿を見たブリュレも目を見開いた。

 

 

「んなにしてる!?どうしたお前達!!!どうしたキングバーム!お前まで!!」

 

 

ガタガタと全身を震わせて(あし)を竦ませている森の主は絞り出すように言った。

 

 

「駄目ジュ!!ブリュレ、わしら"ホーミーズ"、あの娘には逆らえんジュ!!」

「あん!?」

 

 

突然の反抗にブリュレも困惑する。

 

 

「ママの…強い(ソウル)を感じるんジュ…!!!」

「え?」

 

 

ローラからもらったビブルカードを持ったまま一瞬固まったが、その沈黙もすぐ破られた。

 

 

ガシャァン!!

「わあっ!!」

「ルフィ!!?」

 

 

ルフィが転がるように吹き飛んできたのだ。

ナミとパウンドは彼が飛んできた方を振り向くと、()()()()()()()のクラッカーがずんずんとこちらへ向かって来ていた。

 

 

(…!?何アレ!?腕が……4本ある!!?)

 

 

混乱するナミの前でクラッカーは自身の左肩をポンと叩いた。

すると不思議な事にそこから剣を持った腕が一瞬にして生えた。

 

 

「一つ叩くと二つに増えて、も一つ叩くと三つに増える」

 

 

二度肩を叩いたクラッカーの腕は、合計で6本にまで増殖した。それはすなわち攻撃力も増えたということ。

 

 

「勝とうなんて夢は見るな!ママの『お茶会』の邪魔はさせん!!!」

 

 

殺気を感じたナミは慌ててルフィに待ったをかけた。

 

 

「ルフィ、ダメよ!!!本気で戦っちゃ!!目的が違うの!!早くこの森を抜けてサンジ君を…」

「おれは本気以外の戦い方知らねェよ!!!」

 

 

立ち上がるルフィもまた、強い闘気を纏っていた。

迎え撃とうとする敵にクラッカーは6本の腕を剣を振り上げ、名乗りを上げる。

 

 

「おれはビスケットの騎士『クラッカー』!!剣の名は『プレッツェル』!!この世に2本と無い名剣!!」

 

 

手足の増殖と共に2本と無いはずの剣も増やす能力の謎に疑問が尽きないナミだが、クラッカーはさらに彼女達に覚えのない言葉を放った。

 

 

「貴様にも"新世界"の洗礼を与える!!!

 

 

 

 

 

 

 

 そして我が弟にした暴挙の数々!!その蛮行に見合う以上の制裁を加える!!!」

 

 

 

 

『……………は???』

 

 

 

ルフィとナミは揃って間抜けな声を上げた。

 

 

(ま、また弟!?ブリュレも言ってたけど一体誰の事…!?)

 

 

二人は共にポカンと口を開けたまま思考を巡らせていた(※ルフィは特に何も考えてない)が、コンマ数秒の後にナミがハッと意識を戻してから鋭い目でルフィを睨んだ。

 

 

「ルフィ!!!こっそりサンジ君を連れ戻すって言ったでしょ!!アンタどこでいらんことしたァ!!?」

「え~~~~~~!!?おれェ!!?」

 

 

まったく覚えがないのに怒鳴られてルフィは仰天した。

しかしこの船長は日頃の行いがまあまあ悪い。旅の途中に起こる不測の事態の原因9割は彼が担っていると言っても過言ではないトラブルメーカーだ。ナミの言い分もわかる。

 

しかし、ルフィはクラッカーの言う『弟への蛮行』について皆目見当もつかない。

 

 

「おれ知らねェよ!!コイツの弟なんて見た事ねーし、悪い事とかした覚えもねェぞ!!?」

「あんたが見も知りもしなくてもどこかでそれらしいことしたって可能性が一番高いのよ!!!この国で最初に自分がしたこと忘れたの!!?」

「う゛ッッ……!!」

 

 

それを言われると弱かった。彼は実際カカオ島でぺコムズの話も聞かずにお菓子を食べ散らかして捕まりそうになっていた。

だがそれでもルフィは目の前にいる男の『弟』なる人物に遭遇した記憶はない。

 

 

「お、弟って言われてもなァ……」

 

 

ビッグ・マムの子供ならプリンに会ったが彼女はどう見ても『女』だった。

『暴挙』という程の酷い行いと言われても、戦闘といえばこの島へ来る前は海上でだけだ。

それも、人ではない。

 

 

「……ん?」

 

 

そこまで考えてルフィはふと思い出した。

この万国(トットランド)にはあらゆる種族の人々が住んでいる。

それこそ一見は動物にしか見えないような種族達もいた。

 

カカオ島でプリンは『たくさんの兄弟がいるが父親はバラバラ』だと言っていた。

弟やらが目の前の男と同じ姿をしているとは限らない。

 

 

 

 

「…………あ!!!もしかして……………

 

 

 

 

 

 

 

 あの海にいたアリってお前の弟だったのか!!?」

『!!!???』

 

 

 

大真面目な顔で言ってのけたルフィ以外の全員が固まった。

彼は昨夜、水あめの海にて交戦した『海アリ』が件の弟だと思い至ったのだ。

 

 

「そういや思いっきり殴り飛ばしちまった!!あいつ弟だったのか、ゴメン!!でもあのアリ、船食おうとしたからさ……」

「そんなわけあるかァ――――――!!!」

 

 

謝罪と言い訳を述べる船長の頭をナミが思い切り引っぱたいた。

 

 

「ア…アア……アリって……アタシ達のカ、カワイイ弟が…アリリリリリ……」

「ブリュレ!!しっかりするジュ!!!」

 

 

ブリュレはショックが強すぎたようで白目を剥いて戦慄(わなな)いた。

クラッカーも衝撃的すぎて頭が真っ白になっていたが、徐々に現実に戻って来た。

そして、彼もまた震えだした。

 

もちろん、怒りで…だ。

 

 

 

「………!!!殺す!!!」

「うわあッ!!!」

 

 

ぶわりと広がる殺気と共に6本の剣がルフィ達に向かって振り下ろされた。辛うじて避けたが、その威圧感と衝撃はホーミーズがさらにいくつか枯れ果てたる程だ。

 

 

「おれの弟をアリ呼ばわりしやがって!!!許さん!!!絶対に許さん!!!」

「何だよ!?謝ったんだから怒るなよ!!それにあのアリが違うんならやっぱりお前の弟なんて知らねェぞ!!!」

「知らぬ存ぜぬで通るかァ!!!このクソガキが!!もともと加減するつもりなどなかったが、貴様は特に残酷に殺してやる!!!」

 

 

ナミはいよいよ相手を混じり気無しで怒らせたと悟った。

 

 

「一旦逃げようルフィ!!そいつきっと幹部クラスよ!!!」

「いやだね!!!」

 

 

ナミが逃亡を促すもルフィは迎撃を選択し、ギア"3(サード)"を発動させ突っ込んでいく。

武装色を纏い巨大化した敵の右腕に対し、クラッカーはビスケットの盾を構えた。

 

 

「ゴムゴムのォ!!!"象銃(エレファントガン)"!!!」

 

 

象の突進のような思い一撃が盾に刺さるがそれにはヒビ一つ入らず、逆に押し返された。

まさか跳ね返されるとは思ってもみなかったルフィはがくりと体勢を崩し、そのスキを突いてクラッカーは三つの右手に握られた剣を振り下ろした。

ルフィも負けじと武装色を纏った腕で防ぐが、力は相手の方が上であっさりと薙ぎ払われた。

 

 

―――ボカァン!!!

 

 

 

「!!!くそ!!!」

 

 

地面に叩きつけられた身を起こす前にクラッカーは攻撃を繰り出す。6本の剣を雨あられのようにルフィ目掛けて突いた。

飛び上がるように逃げかわすルフィだが、クラッカーの猛攻は止まらない。

 

 

 

「"ロール"!!!」

 

 

剣が高速回転しながら迫ってくるのを見たルフィは慌てて武装色を纏った。

 

 

 

「"プレッツェル"!!!」

 

 

―――ドスン!!!

 

 

「オエ!!」

 

 

しかし剣自体は防いだものの、衝撃はその身を貫いた。

ルフィはホーミーズを巻き込みながら森の奥へと吹っ飛んだ。

 

 

「……!!ヤバい…!!」

 

 

一撃でなぎ倒された木々と視認できない程吹き飛ばされた船長。その光景を目の当たりにしたナミは圧倒的な戦力差に震え上がった。

 

 

「ルフィ!!!逃げて―――!!!」

「ウィウィウィ!待ちな!!お前らの相手はアタシだよ!!」

「―――と!!わしだジュ!!」

 

 

ルフィを追って森の向こうへ走り出そうとしたナミの前に、意識を取り戻したブリュレとキングバームが立ちはだかった。

 

 

「わかるよ急に恐くなったんだろ!?ウィッウィッ…"最悪の世代"!?何が最悪だ!!"偉大なる航路(グランドライン)"の前半でもてはやされて…!!ウチの船長こそ"海賊王"になる男だと……!!息をまく部下達が絶望する顔は腐る程見てきたよ!!」

 

 

嘲笑する敵を前に、自分は今まさにその"絶望の顔"をさらしているのだろうと恐怖で震えながらもナミは思った。自分達は部下に圧倒されてもルフィなら…、その期待が打ち砕かれようとしている状況に彼女はくずおれそうになるのを必死に耐えた。

そんな彼女を知ってか知らずか、ブリュレは追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。

 

 

「以前()()()も言っていたけど、この2年…何人かママのナワバリに迷い込んで来たねェ!!!

 

 『キャプテン・キッド』!!『海鳴りアプー』!!『ギャング・ベッジ』!!『怪僧ウルージ』!!

 

 一早く己の立場に気付き、傘下に入った『ベッジ』を除いては…!!ママの顔を見る事もなく…一言の声を聞く事もなく!!ハジキ出されたよ!!

 一人くい下がったのは怪僧ウルージ!!生意気にも『将星』の一人を打ち破った…!!少し前まで『4将星』だったのさ、ウィッウィ。」

 

 

と、話の途中でブリュレはナミの前に能力で作り出した鏡を投げ落とした。

 

 

「―――だがそれが限界!!ママを怒らせ、クラッカー兄さんに惨敗した!!

 逃げ場なんてないよ!!今頃どこかで野垂れ死んでるさ!!」

 

 

ブリュレの言葉を聞きつつ足元に落ちてきた鏡に目を落とすと、その鏡の中から木の上にいたはずのブリュレが姿を現した。

 

 

「『四皇』と戦う!?夢の話さ!!ママに会う事もできない!!!

 お茶会に潜入!?結婚式を止める!?仲間を奪い返す!?

 

 夢のまた夢さ!!!

 お前達は!!ママの顔すら拝めずにこの森で死ぬのさ!!!」

 

 

鏡の中から這い出てきたブリュレはナミの両足を絡め取り引き寄せる。

 

 

「さァおいで"鏡世界(ミロワールド)"へ……!!()()()でゆっくり顔も体も引き裂いたげる…」

「いや!!」

 

 

必死に抵抗するが、すでに体格の差で負けている。ナミがどれだけ力を込めて暴れても容赦のないブリュレにはかなわない。

 

ところが………

 

 

「離れろブリュレ―――!!!」

「わ!」

「ぬご~~~~~~!!!」

 

 

ブリュレより一回り大きな男…パウンドが義理の娘を殴りつけてナミを守った。

 

 

「………!!ありがとう!!」

 

 

ナミは転がりながら敵の腕を抜け出てパウンドに感謝した。対してブリュレは辛うじて当たらなかったが、そもそもビッグ・マムの娘に殴り掛かったという事が大問題だった。

 

 

「パウンド義父(とう)さん……いや、パウンド!!これはママへの"反逆"だよね!!!」

「……!!」

「終わりだよ!?もう助からない…!!」

 

 

つい勢いで助けてしまったものの、ブリュレの言葉にパウンドは息をのんだ。

娘を攻撃して、敵を庇った。こんな事がビッグ・マムの耳に入れば自分は……!!

絶望の表情を浮かべて固まった男の背後でゆらりと華奢な体は立ち上がった。

 

 

 

 

 

「"サンダーボルト……テンポ"!!」

「!!?ギャアアアァァ!!!」

 

 

雲一つないはずの天から……いや、それよりずうっと低い所から雷がブリュレに向かって落ちた。

突然の電撃に打たれたブリュレは、半分意識を失ったまま鏡の中へズブズブと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリュレの魔の手を逃れ、追撃も来ず、ホーミーズも襲ってこない中でナミは改めてパウンドと向き合った。

 

 

「ブリュレはまた来る…あいつは鏡のある場所ならどこにでも現れるのよね…!!」

「ごめん、私の為に!」

「どうせもう…ウヌは『殺していい』と言われてたのよね。元"妻"に…うゥ…」

 

 

凶悪海賊とはいえ一応は夫婦だった女性からの非情な命令に、流石にパウンドは落ち込んだ。

ナミも同情を禁じ得なかったが、パウンドは頭を振ってナミに先ほどからずっと聞きたかった事を訊ねた。

 

 

「己…!!ローラと友達なのか!?」

 

 

ビッグ・マムに捨てられてから会う事も出来きず、行方不明になった娘の手がかりに淡い期待を寄せるパウンドにナミは笑顔でビブルカードを掲げた。

 

 

「うん!!間違いない!!ローラのママはビッグ・マムだったんだ!

 森の木達がこの『ビブルカード』を恐れているのがその証拠!!

 

 存分に使わせて貰うわよ!!ローラ!!」

 

 

不敵な笑みを浮かべてビブルカードに口づけるナミの言葉に、辺りのホーミーズはぎくりとした。

カードさえ彼女の手から奪えば攻撃できるのに、そのカードがあるから近づくことも出来ない。ホーミーズは手も足も出ない状態となってその場で固まっていた。

ビクビクと怯えて何もできない木達にナミはふふんと上機嫌になりながらも、彼女も気になっていた事をパウンドに訊ねた。

 

 

「そうだ!パウンドちゃん、さっきのブリュレの事もそうだけどビッグ・マムの子供達に詳しいのよね?」

「え…?まあ、ウヌは一応リンリンの夫だったわけだし……」

「うん、じゃあ………その子供達の中にいる『トライフル』っていう子の居場所を教えてくれない?」

 

 

ナミは先ほどのパウンドと同じように期待を寄せながら、ローラとの約束である子の詳細を訊ねた。

 

 

「『トライフル』……?う~ん……ウヌはそんな子は知らないのよね~」

「え~~~~~~!!?」

 

 

予想外の言葉を返されて驚いた。

 

 

「なんで知らないのよ!?ローラの弟なのよ!?」

「う…!!さ、さっきも言ったけどウヌはローラ達が生まれてすぐに捨てられたのよね……」

「あ……」

 

 

そこまで言われてナミはハッとした。

 

 

「ウヌが知っているのはローラよりも先に生まれた子供達の事だけよね……ローラの『弟』じゃウヌには……」

「そ、そうだった…ごめん!」

 

 

尻すぼみになっていく言葉と共に表情が暗くなるパウンドにナミは申し訳なさそうに謝った。

 

 

「困ったわ……これじゃローラの伝言が伝えられない……」

「…?その弟だけへの伝言なのね?ローラよりも後に生まれた子供はたくさんいるのよね、詳しくは知らないけど……」

「ああ、うん。ローラが姉想いのいい子だって言ってたから……」

 

 

そう話しながらナミはローラの伝言の事を思い出す。

ローラを深く愛していた子だったからこそ、彼女は彼にだけ"その言葉"を伝えたかったのだろう。

 

 

 

 

 

「だから『トライフル』に伝えたかったんだわ………

 

 

 

 

 

 

 

 "ごめん"って………」

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの子に会ったら伝えてほしいの。

 

 

 

 "貴方に何も言わずに島を飛び出してしまってごめんなさい"って……』

 

 

きっと弟は最愛の姉が突然いなくなってショックだっただろう。

その上彼女は影を奪い取られ3年もの間、日の光も浴びることが出来ずスリラーバークに囚われていたのだ。

海賊がそう簡単に便りのやり取りなど出来る筈無いが、それでも何の音沙汰も無い事は心配だったし悲しくもあったろう。

 

 

『ローラ……』

『…でも……いつか必ず会いに行くわ!素敵な花婿を連れてね!

 

 

 離れていても私はトライフルを……大切な弟をずっと愛しているから!!!』

 

 

 

「私…絶対に会って伝えなきゃいけないの」

 

 

ローラは元気で海を渡っていると

変わらず貴方を想っていると

 

必ず、貴方のもとへ戻ってくると………

 

 

 

ナミとローラは似ていた。

大切な人がいる故郷を出て、夢を抱きまだ見ぬ世界へ帆を張った。

 

だがナミは愛する人達に旅立ちを告げることが出来た。そして愛する皆に見送られた。

ローラと違うのはそこだけ。しかし、大いに重要な事だ。

 

 

「大丈夫よ、ローラ。まだ遅くない……!」

 

 

約束から2年経ってしまったが、決して枯れてはいない。

その言葉に込められた深い愛はきっと、『トライフル』の心を満たしてくれる。

ナミは決意のこもった目をして、顔を上げた。

 

 

「あのクラッカーって奴を倒して『トライフル』に会いに行く!!

 さあホーミーズ!!アンタ達全力でルフィを援護しなさい!!!」

『えェ~~~~~~~~~!!!??』

 

 

ビブルカードを高く掲げ、ナミはホーミーズに命じた。

友との約束の為にホーミーズは…特にキングバームはこれから大変可哀想な目に遭う事になる。

 

目の前の女がどれほど恐ろしいかを味わうのは、まだまだこれからである……

 

 

 

 




大変お待たせしました。前回の投稿から年をまたいで年号まで変わってしまいました。
こんな亀の歩み更新な作品をまだ読んでくださっている御方、応援してくださる御方、優しい皆々様本当にありがとうございます。
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