シャーロット家の秘蔵子は『つまらない』やつ   作:傍目

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本編
『つまらない』はじまり


 

 

 

兄弟姉妹間で仲がよろしくない割合は、一説では三割といわれているらしい。

 

俺にも一応キョーダイなるものがいたが…まあ、こんな話をする時点でお察しだろう。

別に俺達の間に漫画レベルの差別があったとか、警察沙汰の暴力を受けるようなことがあったとかそんなことはない。

 

大体の家庭のキョーダイなんてものはそんなものだろうと思う。

そんな『あのキャラにはこんな暗い過去が!?』みたいな悲惨なことがなくたって、当事者の間にしかわからない態度、言葉、行動が決定的な溝になったりするもんだ。少なくとも俺はそうだった。

 

 

言葉が過去形なのは、俺は既に故人だからである。

 

 

死んだ理由は…まぁ、どうでもいいな。

災害、事故、事件、病気、寿命…人とは生きてるんだから必ず死ぬ。俺もその例外に漏れなかっただけだ。

 

未練はそこそこにあったが死んでしまったものはしょうがない。

キョーダイが~とか言ってたけどそんな殺伐としてたわけでもないし、家族仲は恐らく世間一般的な基準に相当するものだった筈だ。

 

故に俺はこの後、死んだ俺の魂がどうなっても別によかった。

天国なら天国、地獄なら・・・いや、地獄はやっぱ嫌かな。まあ、それ以外なら鳥に生まれ変わるなり、蛙になるなり、新たな生を全うすることもやぶさかではない。

 

 

 

…なーんて、思ってたんだけどね……。

 

 

 

俺が死んだと理解した時、そこは真っ暗で場所も俺の存在そのものさえあやふやに感じる空間だった。

手足があるのかさえ分からないまま、そこでぼんやりと過ごしていた期間はどれほどのものだっただろう。

一分にも満たないようにも感じたし、もう半世紀くらいはここにいるんじゃないかと、あるのかわからない脳みそが自身に問いかけたこともあった。

そんなちょっとした時間旅行を体感していたある日、俺は唐突に途轍もない息苦しさに見舞われた。

 

 

 

 

 

―――ゴボッ……!

 

 

 

 

 

…!?水だ!この空間一帯、水に侵されている!!!

 

あまりの苦しさにもがくが、相変わらず空間は真っ暗で出口はどこか、そもそもそんなものあるのかも全くわからない。

それでも俺はもがき続けた。だって苦しいんだもの、騒いで当然だ。俺はマゾじゃない。

 

とにかくここを出なければと必死になっていると、自分の体が空間から押し出されるような圧を感じた。

いや、これは果たして押し出されてるのか?もしや吸い込まれてるのでは?どっちにしてもその先、俺は助かるのか?

 

恐ろしくなりその場に踏みとどまろうと体に力をいれるが、謎の圧力は増すばかりで俺を空間からほっぽりだそうと躍起になっているようだった。

 

その間にも息は苦しいし、放り出される前に死にそうだ!いや、死んでるハズなんだが!

しばらくは踏ん張ったがもう限界だ。一か八かこの圧力に身をゆだねてみる!行きつく先に空気があれば勝ちだ!

 

 

そして俺は力を抜いた。

 

 

瞬間、俺は空間から出され、えらく窮屈な道を滑るように押し流されていった。

早く!早く!願わくば空気のある場所へと俺を導いてくれ!!

 

俺の願いは叶えられたのか、長い長い道の先にかすかな光を感じた。

 

 

出口だ!!どうか、この苦しみから俺を開放してくれ!!!

 

 

まばゆい光の向こうへ身体が押し出されると同時に、空気の振動を感じた俺はそれを吸い込もうと口を大きく開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ホギャー!」

 

 

 

 

 

 

 

!!!???

 

 

 

 

 

開いた自身の口から信じがたいものが飛び出した。

しかし、混乱しながらも肺は酸素を求めている。呼吸はどうしても止められなかった。

 

 

「ホギャー!オギャー!オギャー!」

 

 

息を吸って、吐くたびに響き渡るのは明らかに赤ん坊の泣き声。それが俺の口から出ている。

つまりこれは・・・もしかして・・・

 

 

「…んぎゃ、ふぎゃー!ほぎゃー!!」

 

 

困惑する俺に続いてもう一つ泣き声が響き渡った。直後、頭を抱えたくなるような言葉も響いた。

 

 

「産まれました!おめでとうございます!!元気な男の子と女の子です!!!」

 

 

おいおい、マジかよ…。

つまり俺は、これ、アレだ。

 

生まれ変わったってやつか…。

しかも、双子の兄妹で…。

 

今生でも俺はキョーダイというものと切っても切れないわけになるんか…。

まあ、いいか。どうなってもいいと望んだのは俺だし、人間に生まれたならキョーダイの一人や二人いるのは不思議じゃない。

ただせめて、仲良くはしたい。だってその方が楽しいし、人生が潤うじゃないか。

一緒に産湯で洗われながら、俺は赤ん坊だが妹に挨拶をすることにした。

 

 

(よろしくな。まだ名もない妹よ…ッッッ!!!???)

 

 

汚れを落とされ、視界がクリアになった俺の目に飛び込んできたのは…

 

三つの目を持った赤ん坊だった。

 

 

(ま、まさかの三つ目か、妹よ…。これから先苦労しそうだが強く生きろよ、俺も助けるから。)

 

 

とか思っていたら、産着を着せられた直後、母親らしき女が俺達を抱き上げ衝撃的な言葉を放った。

 

 

「生まれたよ。お前はもう用無しだ、とっとと消えな。」

「な!?リンリン!!待ってくれ!!お、おれの子をもっとよく見せてくれ!一度だけ抱かせてくれー!!」

(えぇー!!?出産直後にスピード離婚!!??)

 

 

すがりつく父親らしき男の声を背に、母親らしき女は俺達を抱えたまま彼を置いてけぼりにしていった。

なんちゅう親の元に生まれてしまったんだ、漫画映画みたいな家庭に生まれてしまった。すでに人生前途多難。

このお母ちゃんシングルで二人も育てられるほど余裕あんの?実はダメ夫だったの俺たちの父ちゃん。

っつか母ちゃんでかくないか?俺が赤ん坊だからそう見えるだけか?あとあんま日本人っぽく見えない。ここは外国?家の内装も洋風ってかファンシーだし。

 

生まれなおしたばかりながら、うんうんと考えていると俺達の前方から声が上がった。

 

 

「ママ!ついに生まれたんだね、おめでとう!」

「待望の三つ目族の血を引く子…私達の新たな兄弟!!」

「祝いの席を用意したよ!さあ、甘い甘い(パーティー)にしよう!」

 

 

バンッと音を立てて開かれた扉の先には、長テーブルいっぱいのお菓子の数々。祝いの言葉を贈る幅広い年齢層の男女達。そして…

 

 

「な~んて素晴らしい~日~♪」

「希少な血の一族♪その血を引く子供が~♪」

「二人も!生まれた~♪」

 

「お~め~で~と~♪」

「私達の~♪」

「おれ達の~♪」

 

「わ・れ・ら・が♪」

 

 

 

 

 

「ビッグ・マム!!!」

 

 

 

 

 

 

 

…歌う、無生物達……。

 

 

 

 

 

 

(なんだコレ…)

 

 

現実が現実離れしすぎている。これ何ランド?

あと滅茶苦茶足の長い女性が『私達の新たな兄弟』とか言ってたけど、あれ?もしかしてこの宴の席にいる人達(一部人なのかわからない奴ら含め)俺達の親類?多くね!!??

てか『ママ』って言ってたステッキの背高男、あなたも兄!?

見た目20~30位は離れているように見えるけど、あと足長女さんと顔全然似てないし、会場内の人々全員、全体的に顔も身体的特徴も似てない!!

似てないというよりもはやこれは種族レベルで違っているように見受けられる!

もしかしてさっきの俺達の父親らしき人物とのやり取りって毎回のルーティンなの!?これ皆、異父兄弟!!??

何これ人生ハードモードすぎィッッ!!!!!!俺も兄弟達も!!!

 

 

ぜぇ…ぜぇ…

 

 

一言も口には出してないが、脳みそでツッコミまくってしゃべりつかれた。

でもおかげで冷静になれたし受け入れた。順応性が高いのは俺の長所だ。

 

なるほどなるほど、これが今生の俺が過ごす世界なのね。ファンタジー。

喋るはずのない無生物達に魂が宿ることも、兄弟達の奇抜なファッションやメイク、髪型も割と普通な事のようだ。俺は是非そのセンスは遠慮したいけど…。

 

 

「お~よちよち!可愛い弟ちゃ~ん♡初めまして、ブリュレお姉ちゃんでちゅよ~、よろちくね~♡♡」

「ボヨヨン。ん~?こっちの赤ん坊は目が二つしかないぞ?ボヨヨヨン。」

「揺れるなボビン!折角の兄弟との御対面に眠ってしまっては台無しだボン!どうやら弟君はママの血が濃く現れたようでソワール。しかし、三つ目族の血を半分引いていることもまた事実!二つ目でも能力(ちから)が宿っている可能性は無きにしも非ず。今後の成長に期待すルブプレ。」

 

 

祝われる俺達双子は兄姉達に順番に抱かれながら、親族ではない友人か何からしき人達と共に初めましての挨拶をする。

なんか足の長い髭グラサンの男に『弟君』とか呼ばれたり扱いが妙に丁重だけど、もしかしてウチってお金持ち?

母親が男をそういう意味でちぎっては投げちぎっては投げするのも、環境的な理由?

 

つかそんなことより、どうやら妹の三つ目は別に変なことじゃないらしい。

むしろ変なのは俺のようだ。

よかったな妹よ、よく見りゃその目、円らでキラキラしていて綺麗だぞ。三つもあってお得だな。

 

 

「フフッ、いい子ね。…ところでママ、この子達の名前はもう決まったの?」

 

 

絵本で見るような悪魔の角のようなものが生えた女と、パンダの被り物した口が裂けた女が俺をあやしながら母親に問いかけた。

つーか母親、お菓子に夢中で俺らのこと全然気にもかけてねぇ。俺達兄妹お菓子以下?

 

 

「んあ?ああ、もう決めてるよ。三つ目の妹の方は……『プリン』!」

 

 

…なあ、母ちゃん。アンタ今めっちゃプリンアラモード食ってるけど、前から考えてたんだよな?

いや、そうだったとしてもいいのか?明らかに親のエゴ丸出しネームだけど。

親が好きな物の名前を付けるならいいのか?いや、限度はあると思う。

でもまだギリギリ大丈夫だろう。うん、可愛い名前だ。プリン、俺の妹。

 

 

「目が二つしかねえ兄の方は…」

 

 

いや、言い方!言い方!!

目が二つしかねえって言うけど、この宴の席を見渡してみてくれ。

プリン以外皆目ぇ二つしかねえよ!

俺が異端だって暗に言いてえのなら別に責めやしないけど、それで妹に過度な期待押し付けないでくれよ。

 

 

「…兄の方は……『トライフル』だ…。」

 

 

………それはひょっとしてギャグで言ってるのか?

それともガチか?嫌味なのか、母よ…。

 

そのお菓子の名の『意味』を知っててつけたのなら『悪意』がある。

 

 

「『プリン』に『トライフル』か。ハハッ!イイ名じゃねェか、仲良くやろうや。おれ達の可愛い妹と弟よ!」

 

 

一部の人間のトラウマ刺激しそうなピエロ顔男が、俺を高々と掲げて兄弟達の視線を集めさせる。

皆、笑顔で俺達の誕生を祝福しており、少なくとも母親のような打算に満ちた感情はその目にこもっていない。

 

なんてこったい…兄ちゃん姉ちゃん達は純粋に俺の名を呼んでくれてるんだろう。

母は…どうなんだろうな。この先の俺の成長次第ってとこなんだろうか?ぐぬぬ、試される期待値。

 

 

 

 

『トライフル』……俺はその意味を知っている。

 

カスタード、スポンジケーキにフルーツ、泡立てた生クリームを器に層状に重ねて作るイギリス発祥のデザート。

残り物やあり合わせの材料で簡単にできるケーキであり、故に『Trifle(トライフル)』…

 

 

 

 

『つまらないもの』という名前が付けられたお菓子である。

 

 

 

 

(…はあ、なんてハードモードな転生をしてしまったんだ俺…)

 

 

だが嘆いていても仕方ない。これが運命ってやつだ。

幸い兄弟達はこんだけ大勢いる割には仲がいいみたいだ。俺もその中に加われるならこれは幸福だ。

変な生物達もいるけど、この国は平穏そうだし、絵本のような素晴らしい世界なのだろう。

 

 

(今生は兄弟仲良く、平穏な生涯を送りたいものだ。)

 

 

 

 

 

しかし、俺は知ることになる。

 

俺の生家はそれはそれは強く恐ろしい海賊一家であり、この世界は俺もよく知っている有名漫画の世界であり、

 

 

その漫画の主人公率いる海賊一味に立ちはだかる、強大な敵の一つであることに…。

 

 

 

 




初めまして、作者です。
小説は今回が初投稿となります。至らない点など多かったと思いますが興味を持っていただけたなら大変うれしいです。

実はすでに『つまらないやつ』シリーズは5話分書き上げておりますが、細かいところで間違いや不自然がないか推敲したいタイプの人間なので、投稿はゆっくりめになると思います。
のんびりお待ちいただけると幸いです。

読んでくださりありがとうございました。
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