シャーロット家の秘蔵子は『つまらない』やつ   作:傍目

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シャーロット家の朝の風景

 

 

 

コツ、コツ、コツ、

 

 

広い廊下に靴音を響かせながら、男はまっすぐその部屋に向かう。

 

 

「開けろ、静かにな。」

 

 

目的の部屋の前で止まると、魂が宿るドアに話しかける。

扉は男に言われた通り静かに開いた。

 

部屋の主が返事をできないと知っている男は許可も求めず中に入り、閉ざされたビロードの遮光カーテンの紐を引いて、窓から薄暗い部屋の中へ太陽の光を招き入れる。

 

陽光は部屋に鎮座する豪奢な天蓋付きのベッドへと伸びていく。

 

ベッドを囲うレースカーテンの向こうには柔らかそうな大量のマカロンクッションが枕元を占拠し、遠めでも肌触りの良さが伝わるシルクのブランケットが微かに上下している。

 

男はベッドに近づき、カーテンを開けると天蓋の柱を持っていた杖でコンコンと軽く叩いた。

 

 

「可愛い弟よ、お目覚めの時間だ、ペロリン♪」

 

 

大量のクッションに頭を埋めてスヤスヤと眠る少年は、その声に瞼を上げた。

男はベッドの縁に腰を掛け、少年の顔を覗き込むように身体を傾け挨拶をした。

 

 

「おはよう、トライフル。昨夜はよく眠れたかい?」

 

 

目覚めた弟、トライフルは右目をこすりながらまず挨拶を返した。

 

 

「…ん…うーん……ペロス兄、おはよう。」

 

 

トライフルは上半身を起こし伸びをすると、軽くほぐすように体を動かし、兄・ペロスペローに自身の状態を告げる。

 

 

「うん、大丈夫。しっかり眠れたから体調も万全だ。」

「それはなにより。ならば朝食にしよう、ペロリン♪報告したいこともあるんだよ。」

 

 

そう言ってベッドから腰を上げたペロスペローは部屋を出ていった。

だがそのまま他の家族達が食事をしている広間へ向かわず、弟が身支度を整えるのを外で待っていることを知っているトライフルはすぐにベッドを抜け出した。

 

 

カランコロンと鳴り響く赤子用の玩具で結いまとめた、膝裏まである長い三つ編みを揺らしながら向かったのは洗面所。

 

蛇口から勢いよく流れ出る水を両手ですくい、顔をバシャバシャと音たてて洗う。

キュッとコックを捻って水を止め、ふんわりと毛が立ったタオルで水滴をふき取る。

 

 

「ぷはっ!……うん、汚れなし。寝ぐせなし…オッケー。」

 

 

洗面台の鏡に身を映し、身だしなみを整える無表情の少年は―――――――――

 

 

左目が潰れていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

俺が『シャーロット・トライフル(  お  れ  )』になってから十数年の月日が流れた。

 

いやー、さすが四皇『ビッグ・マム海賊団』。

たった十数年の間でそれはそれは、炭酸ジュースにポップロックキャンディぶち込むが如き刺激は味わいまくった。

 

前世の記憶を持ってたおかげで兄弟の言葉を赤ん坊の頃から理解出来た為、割とすぐにここがあの『ONE PIECE』の世界だと気づいたこと。

 

「あ、平穏望めねぇ。」と早めに夢砕かれ、さらにウチら海賊やで?カーチャン四皇ビッグ・マムやで?と発覚し「オワタ!」状態になったこと。

 

おれの生まれた『万国(トットランド)』はやっぱり世界から見てもおかしな国だってこと。お菓子だけに。

 

あらゆる種族が差別なく暮らせる国の筈が、特殊な体をした兄弟達は昔、よくいじめられていたこと。

 

俺の双子の妹プリンも例に漏れずそうなったこと。

そのせいで…いや、()()()()()()()あるんだろうけど、プリンの性格がちょっぴり歪んだこと。

 

…おれの左目が無くなったこと………

 

 

 

 

 

 

 

は別に大した刺激(こと)じゃねぇな。俺自身全然気にしてねぇし。(どーん)

 

そんなことより、そのおかげで三つ目族の能力(ちから)らしきものが現れたこと。

 

そして、おれ、なんとあの『悪魔の実』を食べて能力者になったことだ。

不味いとは知ってたが、不味かった!!!拷問かと思うほど不味かった!!!!!!

二度と食いたくねぇな!!!まあ次食ったら死ぬけど!!!

 

あとカイドウに会ったこと!

まだ幼かったおれは能力による補助目的でクイーン・ママ・シャンテ号に乗せてもらったが、すっげー迫力だった!海賊・四皇同士の戦い!おれ、死にかけたけど!!

 

あと最近の出来事なんだが、おれすっかり忘れてた!あの『事件』!

 

魚人島から、あの、『モンキー・D・ルフィ』が、

 

 

ビッグ・マム海賊団(おれら)』に宣戦布告かましてきやがった!

 

 

おれはその時、現場にいなかったのだが、後でプリンから聞いて『あ~!そういえば~!』って思い出した。ってゆーか、あん時ビッグマムの傍にいた三つ目っ娘ってプリンだったんだな。

『魚人島編』、懐かしい。

 

ちなみに俺は本誌でワンピ読んでて、最後に見たのは『ドレスローザ編』終わったとこ。

確かドフラミンゴ倒して、麦わら一味の懸賞金が大幅アップした話だな。

なんかサンジだけ手配書がおかしかったの覚えてるけど、アレ結局なんだったんだろ?

次号読めずに死んじまったからなぁ…、ゾウに向かってその後どうなったんだか。

 

でも、ちゃんと一区切りついたところで読み終われたのはよかった。

変なところで止まっちゃったら気持ち悪ぃーしな。ローとコラさんの話、よかったなぁ~。

ルフィと一緒にゾウへバルトロメオの船で向かってたけど同盟は終わっちゃったのかな?

でも麦わら一味はドレスローザで押しかけ子分出来たから、いつかそいつらとここへ来るかもな。

 

 

…ってこんなことのほほんと考えてると、主人公と戦うことに躊躇いは無いのかって言われそうだけど……

 

 

 

ぶっちゃけていうと無いね。

 

戦いに来るのならおれは『ビッグ・マム海賊団』として全力で迎え撃つ。

 

 

――――――ガチャッ

 

 

「ぺロス兄、おまたせ。」

「ペロリン♪有意義な時間だったよ。さァ広間へ行こう。」

 

 

―――なぜならおれは『シャーロット・トライフル』。

 

 

「別に付き添いなんかしなくていいんだぜ。暇じゃないんだし、毎度毎度大変だろ?」

「くくく、そういう一丁前な口は、ちゃんと広間まで辿り着けるようになってから言うんだな。」

 

 

今生のおれは、この国と家族を愛している。

だからおれは大切な彼らを守るために戦う。

 

 

悪に徹する覚悟は、とうの昔に出来ている。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(アーサー)♪ (アーサー)

家具(カーグー)♪ (ハーナー)

 

 

「おはよう!」「おはよう~♪」「おはよう!トライフル様!」

 

「今日のお迎えはペロスペローさまだ♪」

 

 

ブンチャー♪ ブンチャチャ♪ ブンチャー♪

 

 

「アーサー♪朝♪新し~い朝♪素敵~な朝が来た~♪」

「どこに~?」 「決まってる~♪」「ここだよ!」

 

 

万国(トットランド)に♪」

「ホールケーキ(シャトー)に♪」

 

「私達の『ビッグ・マム海賊団』に♪」

 

 

(アーサー)♪ (アーサー)♪ ブンチャチャブンチャー♪

(カーガーミー)♪ (ハーナー)♪ 

 

 

「素敵~な朝♪」

「おいし~い朝♪」

 

「お待ちかねだよ♪」「誰が~?」「わかってるくせに~♪」

 

 

「素敵な兄弟達が待つ♪」

「陽気な朝餐会(デサジューノ)♪」

 

「さあ♪ドアが開くよ♪」

 

 

(ドーア―)

 

―――ギィ~~~~~~

 

 

「ス・テ・キ・な♪」

 

 

(ア~サ~)だ~よ~~~~~~♪♪♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くか―――。」

 

『寝た~~~~~~!!!???』

「ハァ…やっぱり駄目だったな。まァ広間(ここ)までこれただけ上々か。起きろトライフル。」

「……ふがッ!?」

 

 

ぺロス兄に肩を揺さぶられて目が覚めた。いかん、また寝てしまった。

 

 

「ハハハ!おれの勝ちだ!いただくぞ、兄貴!」

「うぐ!?で、でも広間には来たファ!結果はドローってことでもう一度…」

「往生際が悪いわよ、オペラ兄さん。『トライフルが席に着くまで眠らなければ』と私はちゃんと聞いたわ。賭けはクラッカー兄さんの勝ちよ。」

「ぐぬぬ~、ガレットまで…。」

 

 

広間に目を向けるとクラッカー兄ちゃんが他より大きめのチュロスを悔しがるオペラ兄ちゃんの前から掻っ攫った。

どうやらおれがちゃんと広間まで来て朝飯が食えるか賭けてたようだ。

 

 

「トライフル!お前もうちょっと気張れよ!食いっぱぐれちまったファ!!」

「え~、だってここへ来るまでの間ずっとホーミーズが子守歌歌ってんだもん。」

「子守歌じゃな~~~い!!??」

「むしろ目覚ましソングだよ、トライフル様!!!」

 

 

なんか騒いでるホーミーズを無視しておれとぺロス兄も席に着いた。

 

 

「大体兄ちゃんも姉ちゃんも過保護だよ。おれ海賊だよ?みんな働いてる中でおれだけ何時間睡眠とってると思ってるんだよ。もはや過眠の域だぞ。」

「そう言ってやんなって。これもお前の為であり、ひいては私達の為でもあるんだよ。」

「ウィッウィッ!み~んなアンタが可愛いんだよ。素直に聞いておきな。」

 

 

コンポート姉ちゃんとブリュレ姉ちゃんにそう言われて渋々引き下がる。

 

こうなったのもおれが食った『悪魔の実』のせいだ。

おれの能力はこの『ビッグ・マム海賊団』において非常に重要性の高いものであり重宝されてるのだが、使うほどに俺自身への負担が大きいのだ。

その為、兄弟達はおれに対して過剰に世話を焼くのである。睡眠管理もその一つだ。

おれも自身の能力の有用性をわかっているので体調管理を怠るつもりは無いのだが、それにしても寝過ぎなような気がするんだが…。

 

おかげでおれは油断するとすぐ寝てしまう。

一人で起きると大抵は広間に辿り着けず廊下で寝てたり、酷い時はなぜか(シャトー)の外へ出ていて、コーンアイスの屋根に突き刺さっていたり、ジュースの川で溺れかけてたりもした。

 

最大の事件はホールケーキアイランド内を探しても見つからず大騒ぎになったときだな。

ちなみにその時おれは何があったのか、ヤキガシ島でクッキーの間にクリームと一緒にサンドされてた。

 

そんなことがあっておれが寝起きする際は兄弟の誰かが必ず付き添うようになった。

 

しかし朝までナイトフィーバーしたいティーンエイジャーにゃ酷って話しだぜ、ブラザー!

 

 

「ハハハ!じゃあ目覚ましに一つ面白い話してやるよ。」

 

 

モンドール兄ちゃんがニヤニヤ笑いながら人差し指を立てた。

 

 

「おれ達の可愛い可愛い妹…プリンがな……

 

 

 

 結婚することになったんだぜ。」

 

 

……………

 

 

 

プリンが……

 

結婚する……………???

 

 

 

 

「あ、ミュークル姉ちゃんミルクとって。おれのグラノーラ入ってない。」

「オイ、聞いてたか!?まだ寝ぼけてんのかオメー!?」

「失礼な、起きてるし聞こえてるよ。」

 

 

ミュークル姉ちゃんからミルク差しを受け取りながらモンドール兄ちゃんに返事をする

 

 

「たく、どんな話かと思ったら。そんなことでおれが動揺して目が覚めると思ったのかよ?」

 

ジャ――――――

 

「ギャ~~~~~~!!やめて~!ふやけちゃう~~~~~~!!!」

「トライフル、お前がミルクかけてるのワッフルだぜ。」

 

 

ぺロス兄の呆れた声にハッとしてテーブルを見ると、ワッフルのホーミーズが牛乳まみれになってた。

 

 

「おっとっと、手が滑った。大体今更、兄妹が結婚したのなんだので驚くわけないだろう。縁談なんてプリンにもいつ来たって不思議じゃなかった話じゃないか……ぐぎッ、このビスケット硬すぎない??」

「トライフル、それはソーサーだ。ビスケットじゃない。」

「お前表情以上に行動に動揺現れまくってんじゃねェか…。」

 

 

クラッカー兄ちゃんに言われてよく見ると本当に皿をかじってた。

てか表情以上とは何だ。確かに『トライフル』は表情筋が死んでるのかと思うほど無表情がデフォだが、そんな行動と差をつけるほどじゃねえ!おれは感情も表情も豊かだ!

 

 

「失敬な。動揺なんかしてない。これは、アレだ……。寝ぼけてんだ。」

「お前さっき起きてるって言ったろーが!!!」

「取り繕うの必死すぎファ!!!」

 

 

言い訳をやめたおれはがっくりとうなだれた。プリン…結婚かぁ……。

 

 

「あ~あ~…報告ってこれかぁそっかぁ…。いつか来るとはわかってたけど…。」

「気持ちはわかるさ。だがな、これはママが決めることだ、ペロリン♪だれであっても絶対なんだよ。」

「わかってるよ…おれだって一応結婚したしな。式当日に男やもめになったけど。」

 

 

ママが決める結婚は全部政略結婚なのだが、おれの結婚は完全に新婦側の武力目当てのそれだった。

故に式の真っ最中に新婦は親族一同共々お陀仏した。ビッグ・マムに慈悲など無いのだ。

 

おれがぽつりと呟いた言葉に広間の全員目を逸らした。うん、酷かったよなあの結婚。

 

おれの結婚相手の顔は、本当にワンピース美女界でも屈指といえるほど美人だった。

しかし、首から下がウルージ(破戒僧野郎)級のゴリマッチョで、ウチの最強次男坊よりデカブツだった。

 

当時、結婚相手の顔写真を見た一部の男兄弟達はおれをはやし立て、その後、全身像を見た瞬間、全員白目をむいた。

兄弟姉妹、全員白目をむいた。おれも「健康そう」って感想しかでなかった。

 

血塗れの結婚式が終わった後の兄弟達はいつも以上に優しかった。

 

 

「ま、まあ安心しろよ。マジな話じゃねェからよ。今回の『目的』はお前の時と一緒だ。」

 

 

引きつった顔のままモンドール兄ちゃんが話の続きを始めた。

 

 

「…?てことは『力』だけ?珍しい。そんなに相手は役に立たないやつらなのか?」

「いや、そうじゃない。此度は『得る力』が絶大だからだ。くくくく、やつらの持つ『科学力』と『軍隊』が手に入っちまえばもう用無しだ、ペロリン♪どうせ向こうもおれ達に従う気はさらさらないだろうしな。」

 

 

ぺロス兄がティーカップ片手に、ここにいない新郎の顔でも見ているかのように不敵に笑う。

 

ママは基本、戦力として換算できるもの、忠誠を誓う者は傘下としておいてやっている。

2年前に白ひげが倒れ、後ろ盾の無くなった魚人島を守るためおれ達に下ったジンベエ率いる『タイヨウの海賊団』や、おれ達に挑んできたもののすぐさま降伏した超新星(ルーキー)の内の一人、カポネ・“ギャング”ベッジ率いる『ファイアタンク海賊団』なんかがその例だ。

 

……正直、原作を所々うろ覚えながらも知っているおれは、この二人の忠誠には眉唾なんだよなぁ。

 

ジンベエは魚人島でルフィ達の仲間になる為、いつかウチとケジメつけるって確か言ってたし、チョロっとしか出てなかったけどベッジってキャラ的に…というか超新星(ルーキー)の奴らってどいつも誰かの下につきそうな感じしねーんだよな…。

 

けど、両者共にウチとは血縁を結んでいるからおれは特に進言はしない。

裏切りに対する報復の大義名分はその時点で得たし、何よりプラリネ姉ちゃんとシフォン姉ちゃんを悲しませるような真似をするならおれは容赦しない。

 

 

「ふ~ん。新郎一同も不憫だな、そんなすげー力持ってたばっかりにママに目ェつけられちまって。」

「キャハハハ!ママの一存じゃないのよトライフル!」

「そうだ!これは両家合意の婚姻!まァ、向こうは消されるなんて知らないだろうけどな、あははは!」

 

 

カンノーリを頬張りながら新郎を憐れんでいると、マスカル兄ちゃんとジョスカル姉ちゃんが長い首をゆらゆら動かして大笑いしながらそう話す。

 

 

「んあ?合意?よくわかんないけど有り余るような力持ってんだろ、何考えてんだ?」

「向こうが何を考えていようが知ったこと。どうせ式当日に死ぬのだから。」

「真の強者は立ちはだかる千の力だけでなく、時の流れさえ払いのける。それが出来なかった故に『ビッグ・マム』という大樹の陰に寄り掛かった。そういうことだ。」

 

 

流石は『鬼夫人』アマンド姉ちゃん、バッサリ切り捨てた。

当日も恐らくこの調子で相手を物理的にバッサリいくのだろう、怖ッ!!

レザン兄ちゃん、難しいこと言ってるけど、身内を上げまくって新郎側を落としまくってることだけは理解できる。

誰か知らねーけど新郎側不憫すぎる。まあ、おれもその哀れな子羊を屠る仕事させられるんだけど。

 

 

「んもう!トライフルおにー様ってば、そんなすぐ死ぬ虫けらさんの群ればっかり気にかけて!そんなどうでもいい人達のことより…キャハッ♡

 

カタクリおにー様もお見えになるのよ!!キャア~~~♡♡♡」

 

 

フランぺの最後のほうの言葉に他の姉妹達からも黄色い悲鳴があがった。(一部、兄弟達からも雄たけびがあがる。)

カタクリ兄ちゃん来るのか。久しぶりだな、ここしばらく大臣の仕事やら任務で国内にいないことも多かったからな。特に休んでる時間が多いおれは大体すれ違ってるし顔見るのも何日ぶりだろ。

 

 

「ほお~、そっかそっか。」

「淡泊ッッ!!うれしくないの!?カタクリお兄様に会えるのよ!!?」

「ぺロス兄、スムージー姉ちゃんやダイフク兄ちゃんやオーブン兄ちゃんは来ないの?」

「安心しろ、一大イベントだ。全員参加するに決まってる。」

「ちょっと~~~!!?私はカタクリおにー様の話をしてるのよ!?何勝手に他の兄弟の話を始めるの!?」

 

 

大好きなカタクリ兄ちゃんの話ができないことに苛立ったフランぺがおれに吹き矢を放ってきた。

おれはヒョイと簡単に避けるが、フランぺは連続で打ち込んでくる。全部避けれるけど容赦ねぇな。

 

 

「あぶねーな。てかフランぺ、お前こそカタクリ兄ちゃん以外に淡泊すぎだろ。」

「カタクリおにー様はみんなの憧れなのよ!!話の腰を折るおにー様が悪いわ!!!」

「おれだってカタクリ兄ちゃん好きだよ。けど一番じゃねーもん。」

 

 

そう言うとフランぺは信じられないという顔で机を叩き、立ち上がった。

 

 

「嘘!信じられない!!!じゃあトライフルおにー様の一番は誰なの!!?」

 

 

……そういう言い方をされると困る。

みんなの視線が集中しているのを感じ、持っていたプロフィトロールを口に放り込んでから手をこまねいた。

 

 

「むぐむぐ…う~ん、だれが一番って言われてもなあ………。

 

 

 

 

おれ、みんなのことが大好きだからだれか一人なんて決められねーんだよ。

もちろんフランぺ、お前のことも大好きだぞ。」

 

 

フランぺは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、しばらくすると「もういいわ。」と頬を膨らませたままそっぽを向いて座りなおした。

相変わらずこの妹は気分がコロコロ変わりやすい。

他の兄弟達も何故か笑っていたり、額に手を当て首を横に振ったりしている。

おれは真剣に悩み、考えているんだぞ。無表情だけど。

 

 

「……あ、でもプリンは別格で可愛いけどな。」

「おにー様のバカ――――――!!!台無しよ―――――!!!」

 

 

またフランぺが怒り出した。しかも今度はテーブルにあるもの手当たり次第に投げつけてくる。全部避けれるけど。

 

 

「大体『ベスト妹ーティスト賞』受賞の人気者の私を差し置いて、特別に可愛いなんてー!!!」

「お前が可愛いのは当たり前だろ。おれにとって弟と妹は可愛い、兄ちゃん姉ちゃんはかっこいいがデフォルトだ。

 

 

 ただプリンが可愛すぎるだけだ。おれの最初の妹だもの。」

「双子だから当然でしょー!!?完全なえこひいきじゃない!!そうじゃなければ私が最初の妹よ!!そうでなくても私が一番可愛いのよーーー!!!」

「フランぺ落ち着け!!!トライフルが怪我をしたらどうする!!!」

 

 

フランぺの近くにいる兄弟達が慌てて抑え込む。

というか広間をよく見りゃその可愛い妹がいねぇ。プリンの結婚が衝撃すぎて気がつかなかった。

 

おれは()()()()()()()()プリンを探してみた。

 

 

「……なんだママのところか。全部見る必要なかったな。」

「ペロリン…おい、トライフル。人探しくらいであまり力を乱用するな。どんなに些細な『疲労』でも積み重なればお前には負担になる。」

 

 

ぺロス兄他、モンペ属性持ちの兄弟達が窘めるようにおれを見る。

 

 

「だから過保護だって。使わな過ぎたってなまっちまうよ。軽い運動くらいしないとそれこそ身体に毒だ。いざという時にパッタリいっちまったら、大変なのはおれの大切な国と家族だ。…ごちそうさま。んじゃ、ちょっくらママにも挨拶してくるよ。」

 

 

残った紅茶を胃に流し込むと、そこへ向かうため広間を後にした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「はァ…我々の弟は、おれ達がどれだけお前の事を心配してるのかわかってないから困っちゃうぜ。」

「ウィッウィッウィッ!アタシ達があの子に抱いている想いを、あの子も同じように持っているってことは確かよ、ぺロス兄。…だからこそあまり無茶はしてほしくないのだけれどね。」

 

 

 

 

あの事件からもう10年以上経った。

 

 

『トライフル!!』

『なんだコレは!?一体何があったんだ!!?』

 

 

されど兄姉達には今でも昨日起こった出来事のように、少年の無残な姿も、己の心臓をえぐるような痛みも怒りも鮮明に思い出せる、一匙の甘味もない苦々しい記憶。

 

 

『…もうトライフル様の左目は…』

『ねえちゃん…にいちゃん……』

 

 

今でも彼らはその言葉が忘れられない。

 

 

『      』

 

 

『……!!!』

『~~~~~~~~~ッッ!!!』

『ッッ…馬鹿ヤロウ………!!』

 

 

ある者は言葉を失った。ある者は声も上げられず泣いた。ある者は振り絞るような声で吐き捨てた。

 

その日、兄弟達は心に誓った。

 

 

もう決して…この愚かでどうしようもなく愛おしい存在に傷一つつけてなるものかと…。

 

 

 

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