建物も人影も見えない、人工物の一切ない
青く晴れた空に、流れていく白い雲。
日は穏やかで心地よい風が頬を、髪を撫でて過ぎていく。
小鳥は歌い、蝶が舞い、草木は生い茂り、花が香る。
生まれた故郷とは違い、素朴で静かな一人きりの世界。
孤独だがまどろむには最適な空間だ。
あと少しだけ、この心地よさに身を委ねようと意識を揺蕩わせる。
―――――――――パタン!
「15分ジャストだ。」
響く声にパチリと目を開けると、見知ったいつもの風景。
晴れた空には日が高く上り、雨上がりでもないのに虹が差している。
産毛に当たる、そよ風が運ぶ甘いお菓子の香りは、不思議と口の中まで甘くする。
聞こえてくるのは賑やかな話し声、楽し気な歌声。
五感の全てに色を感じるおれの故郷。
ここはホールケーキ
「どうだ?気分は。」
座り込んで壁に背を預けて寝ていたおれの顔を覗き込むように、モンドール兄ちゃんが腰をかがめる。
「…大丈夫、悪くない。やっぱ昼寝は兄ちゃんの能力に限る。」
先ほどまでの穏やかな光景はモンドール兄ちゃんの本の中のものだ。
兄ちゃんの能力は本によっては、こんな癒し効果もある。
まあ、敵にはそれはそれはおぞましい使い方をされるがな。
「ありがとう、兄ちゃん。ふぁ~…じゃ、もう一仕事するか。」
あくびを一つして、おれの武器である棍を杖代わりにして立ち上がる。
たったそれだけの動作なのにモンドール兄ちゃんは渋い顔をする。
「……もう少し休ませてやりてェが、悪ィな…。」
「なんで兄ちゃんが謝るんだよ?ママ直々にくれたおれの仕事だぜ?普段が休みっぱなしなんだから、おれにも活躍させてくれよ。」
本当に過保護なんだから。
おれだって海賊なんだから、らしいとこを見せてやる。
棍を片手にタンッ、と地を蹴って、とろけた生クリームを模した高い壁の上に着地する。
前世なら考えられない跳躍力だ。これも兄弟達から受けたしごきの賜物だな。
遮蔽物がなくなり、先ほどよりずっと強く風を感じながら、目を閉じ、息を深く吸って吐く。
深く、冷静に。意識を集中させ、カッと目を見開いた。
「"
おれの中に流れる『血』の
―――――――――――――――――――――
トライフルが能力を発動したのを見届けると、おれはその場を後にした。
今回は能力の発動範囲が限界まで使用されている。
精度が保てるよう集中を欠かねえようにしなければならないため、迂闊に声はかけられない。
身を粉にして働く弟に労いの言葉一つかけてやれない現実に歯噛みする。
「モンドール、トライフルの様子はどうだい?」
屋上から城内に戻ると、通路にかけてある鏡の中からブリュレの姉貴が心配そうな顔で声をかけてきた。
「…一応小休憩は取ったが、明らかに疲れは溜まってきている。
立ち上がる際、半身に力が入ってなかった。それに、あのあくびはいつもの過眠からくるものじゃなく寝不足からきているモンだ。」
苦々しい気持ちのまま吐き捨てるように言えば、姉貴は弟を想ってうなだれた。
「ああ!心配だよォ…。あの子が倒れたりしちまったらアタシは……!!」
「…いっそ、倒れてくれりゃイイんだよ。ただ寝てるだけなら気が楽だ。」
睡眠とっているだけならだれも心配なんぞしない。
だが、その眠りがあいつ自身の命に関わっているとなると別だ。
いつぞやの、生死の境を彷徨い何日も目覚めない弟の姿を見るようなことなど二度とゴメンだ。
「"麦わら"め…!本当に
トライフルはここ数日、ほとんど不眠不休で
―――――――――――――――――――――
数日前、この国の女王『ビッグ・マム』の依頼で
ビッグ・マムの依頼した薬は彼女の悲願であったために諦めることなどできるはずもなく、彼女は自身のもつ強力な情報網を駆使して科学者『シーザー・クラウン』をわずかな期間で発見した。
しかし、シーザーはビッグ・マムに敵対を宣言した男の船に乗っており、一旦船を沈めてからシーザーを引き上げようと攻撃するもうまくかわされ、そのまま逃げられてしまった。
取り逃がしはしたが、思わぬ良い誤算があった。
失踪した息子を探し、ずっと婚姻という傘下入りを渋っていた者達のその探し人が、逃げた船にシーザーと共に確認できたからだ。
これにはビッグ・マムも、息子を探していた相手も諸手を挙げて喜んだ。
傘下入りの話はとんとん拍子で進み、後はビッグ・マムの娘『プリン』の婿になる男、『ヴィンスモーク・サンジ』を連れてくるだけになった。
サンジとシーザーを乗せた『麦わらの一味』の海賊船はうまく逃げおおせたつもりだったが一つ大きな失態を犯し、さらに彼らは『ビッグ・マム海賊団』がいかなる組織か認識が足りなかった。
逃げる麦わら一味達は迂闊にも逃走先を聞かれてしまい、しかもその地は数多の種族で構成されるビッグ・マム海賊団
そこでサンジは
海で対峙した日から一週間後、幻の島『ゾウ』にてサンジとシーザーはビッグ・マムの手中へおちた。
《可愛い我が子達よ!とうとうおれの元にあの『ジェルマ』の力が手に入る日が来た!》
ホールケーキ
《ハーハハハマママ!これから式の準備と共に、"例の計画"を進める!前々からお前達に言っていたあの計画をね!
その為の会場の準備、招待状の手配、それからおれのお楽しみ♡ウェディングケーキの材料の確保!!シュトロイゼンがレシピを完成させたからね、各々ぬかりなくやるんだよ!!》
「もちろんさママ!ペロリン♪例の施設は設計図を基に7割は出来ている。シーザー君が到着するころには芸術的に完成させているさ!ペロリン♪ペロリン♪」
「"鉄の体"を持つと言われるジェルマの改造人間共を殺すための武器も用意できているわ!」
《ママママ!さすがおれの子達だ!他に言うべきことはないようだね、ならばこの調子で……》
「"麦わら"への対策はどうするんだ?」
その場にいた者達は皆一斉に、その声に振り向いた。
棍を肩にかけ腕組みし、椅子に片膝を立てて座る少年、トライフルは電伝虫から目を逸らさずに問う。
「タマゴ達の報告からだと婿殿は結婚を渋っているんだろ?しかも不在の船長に許可も得ず単身で来るそうじゃないか。これがあの"麦わらのルフィ"の耳に入ったら一味引き連れこの島へ乗り込んでくるかもしれないぞ。」
トライフルのこの発言に会議室はにわかにざわつきだす。
「オイオイ、馬鹿言ってんじゃねーぞトライフル!お前、ここがどこだかわかってるか?『四皇』のナワバリでママがいる本拠地だぞ!?そんな場所にホイホイ簡単にくるような奴が…」
「ここ2年で4人はいたな。
やつらも"
自分の言葉を遮るように紡いだトライフルの言葉に、モンドールの片眉がぴくりと動いた。
トライフルは少し目を伏せ、なおも話を続ける。
「…2年前のエニエス・ロビーで起こした奴らの行動にはおれ達だって驚いたはずだ。
170に及ぶ世界政府加盟国に…いや、『世界そのもの』に宣戦布告し、"司法の島"を焼き落とした。」
あの日、新聞の一面で見た事件を思い出し、その場の誰とも知れずごくりと喉を鳴らした。
「その後、自分の兄、"火拳のエース"処刑を阻止するためにあの大監獄"インペルダウン"に侵入し、多くの凶悪海賊と共に生きて出て来やがった。
さらにあの頂上戦争にまで参戦し、旧マリンフォード壊滅の一旦を担い、"火拳"どころかあの"白ひげ"さえ倒れたなかで生き延び、崩壊した一味を復活させた。」
兄弟、戦闘員達は顔を見合わせ、2年経っても色褪せない"新時代到来に至る事件"を思い出し、息をのむ。
「行方知れずだったシーザーを捕らえていたのはだれだ?
一度はウチらの攻撃を逃れ、あまつさえ反撃までしやがったのはどいつだ?
あの"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"が失墜し、未だにその余波が世界中に広がっているのはだれのせいだ?
やつは…"麦わらのルフィ"は
おれ達は今、その馬鹿の仲間でも古株のやつを手の内に置いている…。
すでに
たった一人の人間を取り返しに、
事の重大さを示すように、彼は電伝虫の向こうにいる船長へ警告した。
先ほどの喜びに包まれた空気は嘘のように消え、静かな会議室で多くの者達が彼の不遜な態度に冷や汗をかく。
《………トライフル、それはお前の能力ででも
期待半分と、生意気にも意見したことに少々の怒りを含んだ声でビッグ・マムは息子に問いかける。
兄弟達はビクリと恐怖に肩を震わせるが、当の本人はそのような様子はおくびにも出さない。
そもそも彼は母の怒りに怯えてすらおらず、飄々とした様子で答えた。
「いーや、そうだったら今すぐにでもママを海賊王にしてやれるんだけどねェ…。
これはおれという一個人の意見で……ただの
でもさっき言った通り、やつの今までの行動から考えればありえなくもない可能性だ。
どうするかはママが決めてくれればいい。
ママが決めたことに、おれは従うよ………。」
揺らがないトライフルの決意に、少しの沈黙の後、電伝虫から笑い声が響いた。
《ハーハハハハハハ…ママママ…!!いい子だトライフル…!
お前の左目が今もちゃんとそこにあったなら、どれだけの貢献をおれにしてくれたことだか…。
トライフル、お前のその能力を買って特別任務を与えてやる。
"麦わら"の妨害に備えて、ホールケーキアイランド…いや。
この
ビッグ・マムがトライフルに課した任務に、その場の者達がどよめいた。
「なッ!?す、全てだと…!!?」
「そんな!!ママ!現れるかもわからない相手に…!!」
「期限は?」
狼狽する兄弟達に対して、トライフルは至極冷静に返した。
彼はすでにその任務を請け負う覚悟をしており、兄弟達はその堂々とした姿に驚きで目を見張る。
《今回の結婚式を……『ジェルマ暗殺計画』を確実に遂行させるまでだ!!
それまでに奴らが現れれば……その都度、お前達に指示するよ…!》
「わかった、まかせてくれママ。屋上の一角は借りるよ。準備に支障がないようにはするから。」
《ハーハハ!じゃあ解散だ!各自、自分の任にあたりな!!》
おろおろする家族達を尻目にトライフルはあっさりと返答し、ビッグ・マムも満足げに会議の解散を告げて電伝虫の通話を切った。
トライフルは椅子から立ち上がると、屋上へさっさと歩を進める。
「待て!トライフル!!」
その背を兄弟達は声を荒げて呼び止める
「お前ってやつは……!なんて無茶を承知したんだ!!」
「そうだよ!しかも結婚式が終わるまでだって!?あと何日あると思ってるんだい!?」
「ママに言って今からでもやめさせよう!」
皆の呼びかけに足を止めたトライフルは振り返らず答えた。
「……"エニエス・ロビー"、"インペルダウン"、"マリンフォード"。
麦わら達がぶっ壊してきたものは、おれ達が
それは海軍という正義が世界中の人々に示してきたもの。
絶対的な権威、結束、信頼、無敗を誇る力、弱き者達へ約束してきた安寧と守護。
それが10人にも満たない小さな海賊団に滅ぼされた。
「おれはこの国が……家族がもしも"そうなる"と思うと………。
それが何よりも怖いんだ…。」
実の子である自分達さえ恐ろしいと思う母に微塵の怯えも見せなかった弟の背中が、まるで幼子のように小さく兄弟達には見えた。
トライフルは彼らに向き直ると、とても分かりにくいが、しかしどこか困ったような笑顔でそこにいる者達に懇願した。
「皆には迷惑かけるけど…おれ頑張りたいんだ。
頼りにしてばっかで悪いけど……馬鹿な弟のわがまま、聞いちゃくれねェかな…?」
そんな風に言われてしまっては、もはや誰も何も言えなかった。
兄弟達はトライフルを止めることを諦める代わりに、休息の時間だけは設けてほしいと母に嘆願した。
ビッグ・マムもトライフルの能力事情はわかっているため、そこは了承した。
しかし、一日に総合して2、3時間程度という微々たるものだった。
それでも兄弟達の心遣いが嬉しいとトライフルは兄や姉に感謝するのだ。
国の為に粉骨砕身する少年にしてやれることの少なさにやるせなくなる兄弟達や家族同然の戦闘員達は、こうなる原因を作った麦わら一味に日を追うごとに憎しみを募らせていった。
―――――――――――――――――――――
「……ふぁ~っ!うぅ…眠っ!」
まさか自分が2時間しか寝てないわ~、なクソアピール野郎になる日が来るとは…。
しかし集中、集中!
数日前、クイーン・ママ・シャンテ号の帰還と共に"黒足のサンジ"がこの島へやって来た。
紙面上のルフィ達がどれくらいの日数でゾウに辿り着いたか、『俺』は知らないからサンジを追って
それでも、この世界が間違いなく『ONE PIECE』の世界であり、寸分の狂いもなく彼等が原作通りの道筋をたどっているのなら、絶対にここへ来る。
そうじゃなければ、麦わらの一味は仲間を一人失うことが確定なんだ。
『俺』の知っている『モンキー・D・ルフィ』なら絶対にそんなことはさせない。
今の『おれ』はお前とは敵の関係だが、それでもお前のそんなところは信じている。
「……だから失望させてくれるなよ…。」
前世のファンの期待を裏切るようなマネはしないでくれ。
そんな気持ちでおれは目を凝らした。
―――ザザー…ン ザザー……
目に映る風景はナワバリウミウシの念波に引っかからない、少しだけ遠くの海。
現在おれの能力で視える限界範囲だ。
すぐに引き離されたため、顔もよく知らない父から受け継いだ『三つ目族』の真の能力はこういうものではないらしいが、おれはドレスローザにいたヴァイオレットことヴィオラ姫の"ギロギロの実"の能力に似た使い方ができる。
鳥かごに覆われたドレスローザで大活躍していた"千里眼"だ。
彼女がどこまで見通せるのかは知らないが、おれの場合は
ただ範囲内ならばかなり細部まで視ることができるから、荷物に紛れて密航なんてことなら未然に防げる。
千里眼っつーかクレアボヤンスっていうのかな?こういうのは。
―――ザー…ン…ザザーン……
しっかし、敵影はおろか小舟の影すら視えねえな。
まあ、四皇のナワバリと知っていてやってくるような怖いもの知らずは
そんなことを思っていた時だった。
―――ザザー……【……おお…ん!】…ザー…ン…
波の音に混ざって、何か泣き声のようなものが聞こえた。
「…!!どこだ!?」
おれの目は視ることは得意だが、遠く離れすぎた場所だと範囲内であっても音声は聞き取りづらくなる。
ここ数日の溜まった疲労も相まって、余計に感度が悪い。
「けど…逃がしはしない……!」
この日が来る時まで温存していた力を加えて、さらに全てを見通す。
(……見えた!)
そして奴らがいるであろう海に目を凝らし、視えたのは……
―――【うお…おぉ……ん!】…ザザー【…っかりし…!!…フィ~~!!!】ザーン…
直線状にカカオ島がある海の向こう……『俺』にはすっかり見慣れたスループ型帆船……
『サウザンドサニー号』だった。
「ったく!!噂をすれば…ってか!!」
それを捉えた瞬間、おれは電伝虫の受話器を上げた。
―――――――――――――――――――――
《緊急連絡!!緊急連絡!!!こちらトライフル!モンドール兄ちゃん!至急、電伝虫を全通話可能状態にしてくれ!!》
自分専用の電伝虫の受話器を上げたモンドールは、その向こう側から聞こえた声と言葉に眉を吊り上げた。
「っ!!マジかよ…!とうとう奴が来たってのかッッ!!?」
声を荒げつつ能力を展開し、兄弟及び称号持ちの戦闘員の番号が記載された電話帳からコードをのばし、集められた大量の電伝虫に繋げた。
―――プルルルル、プルルルル…
ガチャッ! ガチャッ。 ガチャ!
《こちらペロスペローだ。》 《クラッカーだ。》
《オペラだ。何の用ファ?》 《コンポートだよ。》
《こちらガレット。》 《"
《ボヨヨヨン。"
《ブリュレだよ!》《モスカートだ。どうした?》 《…"
目を閉じて念波を送信する電伝虫達が、次々と目を開けては声を発した。
コール音が鳴りやみ、全ての電伝虫が通話状態になったところでモンドールは自分の電伝虫に話しかけた。
「全員に繋がった、いいぞ!」
《こちらトライフル!非常事態発生により、兄弟及び重要戦闘員へ緊急連絡!
カカオ島より直線状の海にて敵影確認!掲げているのは海賊旗、海賊船だ!!
マークは『麦わら帽子をかぶった髑髏』!!
間違いない!麦わらの一味だ!!!》
見張り番である弟が放った言葉に、電伝虫の向こう側にいる者達がにわかにどよめいた。
《まさか!?本当に来たって言うのか!!?》《信じられん!》
《ですがトライフル様の目は確かでソワール!》
《馬鹿だとはあの子も言ってたけど…。》《本物の馬鹿だねえ、麦わらってやつは!》
「兄貴達!ちょっと落ち着いてくれ!まだトライフルが話してる途中だ!」
興奮気味に語り合う電伝虫達をなだめるようにモンドールが声をあげる。
《敵の数を確認する!少し待っててくれ……って、ん?…んんんん???》
「??おいどうした?トライフル?」
受話器から聞こえるトライフルの訝し気な声に合わせて、電伝虫の表情もそれに類する。(実物の顔はどうかわからないが)
《…あ、いや、とりあえず
"泥棒猫"『ナミ』を確認。》
《"泥棒猫"…麦わらの仲間にいたな、確か。》
《まあ麦わらの船に乗ってるんだから麦わらの仲間しかいないファ。》
《いや、そうでもないみたいだぜオペラ兄ちゃん。》
当たり前だと思って発した言葉を否定するトライフルに、オペラの頭に疑問符が浮かぶ。
しかし、トライフルは特に理由を応えずに敵の数を確認する作業を続けた。
《続けて麦わらの仲間、"ソウルキング"『ブルック』確認。
さらに、なんでコイツが乗ってんのか知らないけど……
タマゴ、お前が一番知ってるだろ。うちに昔やって来た
《!!?ま、まさかッ…!!》
タマゴ男爵に通じる電伝虫が息を吞む。
《5年前お前の左目を奪ったジャガーのミンク族"ノックス海賊団"『キャプテン・ペドロ』確認。》
《…!!ペドロ!なぜお前が…!?》
《なに、タマゴ、よくよく考えればわかることさ、ペロリン♪
麦わらが花婿殿達と落ち合おうと約束した場所はミンク族が住む島"ゾウ"だっただろう?
ペドロはその島の出身だ。ベッジ達が話していた"例の件"で恩義に報いようと同乗したとしても不思議ではない話だ。ペロリン♪》
《ぺロス兄の予想通りだと思うぞ。女のウサギのミンク族も確認できた。》
流暢に独自の見解を述べるペロスペローにトライフルが同意した。
《…なるほどな。さっきのお前のセリフはそういうことファ。》
オペラの頭から疑問符が解消された。
《きっとゾウで味方につけたんだろうさ。あの種族は変に義理堅いところがあるからねえ。》
《……アンタが始末したぺコムズとかね、"
《…奴と比べれば、おれとアナタ方との縁は遥かに浅いでしょう。しかし今回のことは全面的にぺコムズに非があった事はご理解頂きたい!麦わらに肩を持つミンク族の巣の真っ只中ですぜ!?あそこでアイツを黙らせなければ"黒足"を連れてくることはできなかった!》
《あ~、話割ってすまん…ガレット姉ちゃん、そのぺコムズなんだが……
乗ってるぞ、麦わらの船に……。》
『…ハアッッッ!!!???』
言いにくそうに伝えたトライフルの言葉に、兄弟達は思わず声をあげた。
「何やってんだアイツ!?」
《まさか麦わらへの恩のためにうちを裏切ったのかい!?あのライオンめ!!》
《待て待て、ブリュレ。断定するには早計だ。ベッジの報告通りならぺコムズは相当な手負いの筈。ここへの案内役を無理矢理させられても逆らうことは不可能だろう。奴らにいいように使われてるだけかもしれん。》
《…クラッカー兄ちゃん。ぺコムズ、その敵とめっちゃ仲良さげにメシ食ってるんだが……。》
《何やってるんだあの亀野郎がァ――――――ッッ!!!》
折角庇ったのに、見事に裏切られたことにクラッカーがキレた。
しかし、怒っているのは他の者達も同じだった。
《…ボヨヨヨン…。ぺコムズ、裏切ったのか?
麦わらに恩だ??
トライフル様にだって
《そーさ!!!口を開けば奴ァトライフル様トライフル様って慕っていたのに!!》
《…もしそうなら…許せないわ……!!》
《み、みんな!落ち着くんだ!…トライフル、大丈夫か?》
多くの者が沸々と怒りを滾らせるなかで、モスカートは冷静にトライフルの心の内を案じた。
《…ちっとばかし距離が遠すぎてね。会話がうまく聞き取れないんだ。だからぺコムズがなんでそこにいるのかはわからない……。けどさ………
信じてやろうよ。アイツとおれ達は家族も同然なんだからさ。》
長年の付き合いである者に背信の疑惑が出ているにも関わらず、念波越しのトライフルの声色はひどく凪いでおり、ぺコムズの事を心から信頼していることは顔を見ずとも明確だった。
家族達は「トライフルがそう言うなら…」と一旦ぺコムズの件は保留することに決めた。
《んじゃ続けて…こいつも麦わらのとこの奴だけど…"わたあめ大好き"『チョッパー』確認。》
「あァ?なんだそのふざけた二つ名は?」
《ペロリン…そいつ確か麦わらのペットじゃなかったか?手配書に100ベリー懸けられてたけど…。》
《ガキのこづかい稼ぎじゃねーんだから…数えなくていいだろ。》
《いや、ママが気に入ったらコレクション入りかなと思って……。》
ペットを敵に換算することに怪訝な表情をしていた兄弟達だったが、そう考えると納得した。
珍獣マニアの母が気に入るなら生かして捕らえるのが妙案だ。
《よし。そいつはママに指示を仰ごう。》
《……んーと…
言い終わった弟の言葉に皆目を見開いた。
《以上!!?もっと派手な賞金懸けられてた仲間もいただろう!?なんで連れてこなかったんだ!!?》
《怖気づいたのか、我々を相当なめてかかっているのか……
後者なら麦わらは余程苦しんで死にたいようだな、ペロリン♪ペロリン…♪》
億越えの高額賞金の懸けられた正規メンバーが一人も乗っていないという事実に、手練れで沸点の低い戦闘員達の電伝虫がピキピキと青筋を立てる。
《……あー…その船長なんだけどよォ…。乗ってることには乗ってるんだが……。》
二重の念波越しからも伝わる家族達の怒気に、トライフルは若干まごついて『真実』を伝えた。
《………今、死にかけてる………。》
『……………はああ~~~~~~ッッ!!!???』
ビッグ・マム海賊団、本日一番の驚きの喚声が念波を通して