シャーロット家の秘蔵子は『つまらない』やつ   作:傍目

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お役御免!

 

 

 

……いや、おれァ確かに『麦わらは超新星(ルーキー)随一の馬鹿』って言ったよ。

 

言ったけどさァ……。

 

 

 

 

喧嘩売った相手の玄関先で自滅するほどの馬鹿だとは思ってなかったぞ!!?

 

 

 

 

 

《どういうことだトライフル!?船長が死にかけてるって!!?》

《ウチに来る前にどこかで交戦したのか?》

《だとしてもなんで船長()()死にかけてるんだ!?説明がつかねェ!!他の奴ら暢気(のんき)にメシ食ってんだろ!?》

 

 

兄弟達まで大混乱じゃないか…。

会議室で大見栄切った自分が恥ずかしいわ………。

 

 

「……おれの目で視た限り……こいつは毒に侵されてるな。」

 

《毒ゥ!!?なんで船長だけ毒にやられてんだ!?》

《やっぱり交戦して運悪く船長だけ毒矢か何か当たっちまったとか?》

《フグでも釣りあげて丸飲みしちまったとかー?アハハハハ!!》

《おいおいニューゴ、冗談言ってる場合か。ペロリン♪おれ達とは比べモノにならないが、それでも一応5億の首が懸かってる一船の船長だぞ。ママに喧嘩売ったとはいえ、そこまで馬鹿なワケ……》

 

「……おれこの症状を起こす毒物、知ってるわ…。

 フグじゃないけど魚の毒だ。食ったら死ぬやつの…。」

 

『大馬鹿かッッッ!!!???』

 

 

本日三度目の兄弟達のハモリが響いた。

続いて《冗談で言ったのに……》というニューゴ兄ちゃんのばつの悪そうなつぶやきが聞こえた。

 

とりあえず視える限りの状況と、前世にて記憶しているルフィの性格を結び付けて仮説を立ててみる。

 

 

「…麦わらの症状と船内のゴミ箱に捨ててある魚の残骸から視ても明らかだ。

 こりゃ、熱々海(ねつねつかい)の"ヨロイオコゼ"の皮を口にしちまったんだろう。」

 

《ヨロイオコゼって…あんな毒々しさ丸出しの魚の皮をなぜ何の疑いもなく食うんだ……。》

 

 

そうだよな、ダクワーズ兄ちゃん。そう思うよな、普通。

だけど『俺』は知っている。ルフィがそういう奴だって事を。

 

 

「船内を確認したが、…冷蔵庫にも倉庫にも食料らしきものが視当たらない。

 何かの手違いで食料が底をついちまったんだと思う。

 食糧難のなか、熱々海(ねつねつかい)でやっとこさヨロイオコゼを釣り上げたってとこかな。

 

 ……メモのついた魚図鑑とレシピがキッチンに置いてあるから、船員(クルー)達はちゃんと処理したものを食べたみたいだけど……

 

 麦わらだけ待ちきれなかったのか、船員(クルー)の言うことを聞かなかったのかで…猛毒の皮を食ったんだと思う。」

 

《…その予想が正解だとしたら、本当に馬鹿じゃねぇか……。》

《麦わらの一味はこんなんが船長でよく今日までやっていけたわね…。》

 

 

本当だよな、麦わら船員(クルー)の有能さをひしひしと感じるよ。

食の問題に関してはスペシャリストのサンジがこっちにいるから致命的だしな。

 

 

《そもそもなぜ船医を乗せていない!?医術を心得た者無しに船を出すなど無謀の極みであるからして!》

《てゆーか、ヨロイオコゼの毒って摂取したら即死じゃなかったかしら?》

 

 

ヌストルテ兄ちゃんは憤慨してるが一応いるんだよね、船医…。

しかしポワール姉ちゃんの言う通り、ヨロイオコゼの毒は巨人族でも即死するレベルの猛毒だ。

即死の毒に特効薬なんてあるわけないから腕の良い船医が乗っていてもまずどうすることもできない。

死なせてしまっても誰も悪くはないだろう。しいていうなら食ったやつが悪い。

 

 

「けど、生きてるんだよ姉ちゃん。かろうじてだけど……。信じられねェが抗体持ってるみたいだな。

 あとヌストルテ兄ちゃん、一応医学を心得たやついるみたいだよ。処置は施されてる。

 

 けど、その抗体と解毒処置による延命もここまでだ。

 

 解毒薬は底をついちまったようだし、…解毒効果のある薬草の類も確認できない。

 抗体も万能じゃないみたいだ。抵抗力がなくなって麦わらの容体はどんどん悪化している。

 

 これじゃ、一番近いカカオ島に着く前にポックリいくぞ。」

 

 

至って穏やかで過ごしやすい気候の中、芝の生い茂る甲板で「さぶい…さぶい…」とうわ言を言いながら震えるルフィの傍らでチョッパーは薬を求めて泣き叫ぶことしかできないでいる。

即死の猛毒にどんだけ解毒剤つぎ込んだって意味ないんだから気に病まなくてもいいと思うぞ。

 

 

《……はあ~~~馬鹿馬鹿しい。これが5億の男の最期とか。》

《こんなのに負けたとか"天夜叉"が哀れになってきたわ…。》

《勝手に死んでろ。ったく、トライフルの今日までの苦労は何だったんだ……。》

 

 

言わないでタブレット兄ちゃん、おれが一番この状況に顔を覆いたいんだから…。

 

 

《アタシは納得しないよ!あいつらのせいで可愛い弟が今日までどれだけ骨身を削ったと思ってんだい!?八つ裂きにして晒し上げにでもしなきゃ気が収まらないよッ!!》

 

 

兄弟達から大切にされている自覚はあるが、その中でも特におれを溺愛しているブリュレ姉ちゃんは、目の前まで来てあの世へと進路変更しようとする麦わらに憤慨している。

 

…苦労はしたけど、おれ自身は報復なんて望んでないから別にどうでもいいんだけど……。

 

 

《まあ落ち着けブリュレ。そのことは全面的におれも同意するが、ペロリン♪残念ながら毒に当たっちまった麦わらは殺す前に死んじまうだろう。我らが弟を大変かわいがってくれた礼は、ペロリン……♪

 

 

 

 

 

 麦わらの死体と、その亡骸に縋りつき慟哭する惨めな残党共にしてやろうじゃないか!》

 

 

 

 

 

長兄の悪辣極まりない提案に、弟妹達は歓声をあげて同意した。

 

 

《それがいい!おれの"プレッツェル"で麦わらの首を切り落とし、胴体を幾千万の刃で貫き、切り刻んでやろう!》

《ずるいぜクラッカー兄ちゃん!おれ達も遊ぶなら麦わらの方がいい!!》

《そうだそうだ!"泥棒猫"は弱そうだし、殺し甲斐がなさそうだもんよ!》

《女と動物とひょろいのしか乗ってないんじゃ張り合いないしな。》

《だったら死体でも、船長をいたぶる方が幾分楽しめるな。》

 

《ならその猫女とウサっ()はアタシが殺るよ!かわいいお顔を引き裂いて、大鍋でじっくり煮込んでスープにしてやろう!ウィッウィッウィ!》

《ブリュレ様、おれも連れてって。お腹ワニペコにしておくから猫とウサギのスープ飲ませてください♡》

《姉さん、私も小娘がいいわ。泣いて惨めに許しを請うまで痛めつけてやりたいのよ。》

《『許しを請うまで』なんてガレットってば、許してって言われてもやめないくせに性悪~。》

 

《…ペドロのことは私めにお任せ願いたく存ジュール。奴とは…因縁があります故……。》

 

《なんでもいい!とにかくおれ達は奴らへの不満が溜まりに溜まってる!

 麦わら一味をぶっ殺して、憂さを晴らせりゃそれでいいんだよォ!!!》

 

 

電伝虫の向こうから聞こえる残忍な会話と笑い声を聞きながら、おれは"先見之眼(ヴィルーパークシャ)"を解かずに海の向こうにいる彼らを視続ける。

 

 

 

―――【薬草が足りね…よ゛ー……島をみつけねーと……んまっ!】

―――【ルフィ~……死にそ…なの?】

―――【………川が……きれいだ………】

 

 

 

大分万国(トットランド)に近づいてきたから声もかなりはっきりと聞こえるけど、やっぱりマジで状況悪そうだな、ルフィ達………。

 

兄弟達はこの様子だから、わざわざ船を沖に出して助けに行ってやろうなんてことはまず無い。

もう一度船内を視ても、他に仲間もいないし延命に使えそうな薬も道具もやっぱり無い。

 

万事休すとはまさにこのことだ。

 

 

「…呆気ない……。」

 

 

『俺』はドレスローザ編終了以降の物語は、死んでしまったためにまったく内容を知らない。

ルフィがヨロイオコゼを食ってしまったことは『俺』が死んだ後も続いているであろう『ONE PIECE』でも起こる出来事なのか?

そもそもここへ来るという事自体、ちゃんと原作に沿った話なのかわからないし。

 

 

なによりも『おれ』……『シャーロット・トライフル』の存在はこの世界にどれだけ影響を及ぼしているのか。

 

 

もし原作の方にもビッグ・マム海賊団に『トライフル』という全く同一の人物がいるとしたら、おれは『転生』というより『成り代わり』に近い存在だろう。

そんなキャラクターは一切存在しないとすれば、『トライフル(おれ)』の存在は完全なイレギュラー。

 

どちらであったとしても、『傍観者』だった者が『当事者』として介入してしまった世界はどれだけ原作を逸脱するのか、はたまた何も変わらず描かれた運命通りに進むのか見当もつかない。

 

 

だが『おれ』という存在が、この世界に僅かでも歪を生じさせたとしたら……

 

 

 

 

 

ルフィがここで死ぬ確率はゼロではない。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にここで終わる気か…?」

 

 

 

 

 

こぼれた疑問を拾ってくれるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

《トライフル、お前ももう能力解いて戻ってこい。29番タルトから念波をキャッチしたと連絡が入った。奴らの情報はおれ達が伝えておくからお前は部屋で休んでろ。》

 

 

能力の性質からウチでは司令塔役として活躍するモンドール兄ちゃんから、任務終了のお達しが下った。

 

 

「ん~…すっきりしないけど、しょうがねェか……。わかったよ兄ちゃ………」

 

 

 

―――【ウチの『偵察船(タルト)』だガオ!!…うまくやるから…黙ってろ!】

 

 

 

能力を解こうとした刹那、ぺコムズの声にそれをとどめた。

 

 

(タルトがもう?早すぎないか……?)

 

 

あまりにも行動が早すぎることを疑問に思い、もう一度サニー号の周辺を視渡した…。

 

 

 

 

 

 

―――【…麦わらの一味の船と見受ける……】

 

 

 

 

 

「ッッッ!!??」

 

 

その船…いや、()()()()に張られた帆に息をのんだ。

 

 

「…なぜわざわざその船へ接触を……!?」

 

 

《さあ!おれ達も解散だ!各自、自分の持ち場へ戻……》

 

「待ってくれ!!みんな!!!」

 

 

慌てて受話器に向かって声を上げ、兄弟達を引き留める。

 

 

《あァ?どうしたトライフル。お前もさっさと……》

 

「ちょっと黙っててくれ!様子がおかしい!!もう一度確かめる!」

 

 

兄弟を静かにさせて再度集中すると、それぞれの船の者達は甲板越しに顔を合わせて何やらもめていた。

 

 

 

―――【…頼むよ!解毒剤くらい…あるだろ!!?】

―――【……頼みます!!どうかルフィさんを……!!】

―――【……私に人助けの趣味はない……】

 

 

 

…どうやらチョッパー達は解毒剤を恵んでもらおうとしているみたいだが、頼まれてるほうは拒否しているようだ。

 

相手が悪すぎたな、麦わら一味……。

そいつらは任務じゃなきゃ働かない集団だ。大枚はたけば交渉成立するかもしれんが…。

 

無償の善意で動いてちゃァ、戦争屋なんてやってけるわけねーから当然……

 

 

 

―――【ケチくさい事言ってんじゃないよ!!!】

 

 

 

「ええッッ!!?」

 

《!?どうしたトライフル!!?》

 

 

血も涙もないと言われる奴らのはずなのに、仲間の冷たい言葉を文字通り一蹴する女が現れた。

 

 

 

―――【……ごめんなさいね。弟は…情の欠片もない人でなしなの!】

―――【…レ…ュ~~~!!!おのれ…私に恥をかかせたな!!】

―――【お黙りっ……恥知らずはどっち…!!】

 

 

 

嘘だろおい。あの国にまともに非礼を詫びれる常識人とかいんのかよ……。

…でも、男の方はマジで人でなしみたいだな。身内にまでディスられて…。

 

そして……蹴り飛ばされた海中から能力でもなんでもなく、『技術』で空へ舞い戻ってきた男。

……『アレ』がママが欲しがってるものか……。

 

 

 

―――【…じゃあ()()()()()()()()かしら♡】

 

 

 

「…?どういう意味だ……?」

 

 

女の発した言葉に疑問符が浮かぶ。

 

 

 

―――【この毒は……特殊なの……食いしん坊ね……巨人族でも即死よ。】

―――【えェ!!?どうしよ…!おれは船医失格だァ!!うおお…ん!!!】

 

 

―――【……この子運がいいわ。】

 

 

 

「……運…?」

 

 

その言葉に片眉がぴくりと動く。

この絶望的状況下を覆す"それ"を持つ者は()()()()()で発覚した『アイツ』も……。

 

 

 

―――【私は……この毒が、大好物♡】

 

 

 

女がルフィの口に自身のそれを寄せた。

 

 

 

―――【いただきます♡】

 

 

 

そう言って、女はルフィに口吸いをかました。

 

 

「げェ!!?正気かよ!!?」

 

《何がだ!?お前何が視えてんだ!!?トライフル!!》

 

 

オイオイオイ!!なんて命知らずな女だ!?

ハンコックが知ったら殺されるぞお前!!

 

あ、ハンコックの前におれらが殺す予定だ、ジェルマ。

 

 

 

―――ズズズ……

 

 

 

とか思ってたら、女の方へルフィの毒が流れていく!?

逆にルフィはヨロイオコゼ中毒患者の証である湿疹がどんどん消えていく!

 

 

まさか…嘘だろ……!?

 

 

 

 

 

―――【ぶっはァ~~~~~~!!!ゲホ…ケホ……?】

―――【ル゛ブィ~~~~~~ィ!!!よかった―――…!!!】

 

 

 

 

 

……もし『俺』がこれを紙面上で見ていたなら、"主人公なのだから"と、"予定調和だ"と流していただろう。

 

けど、『おれ』は今は当事者だ。

傍観していたあの頃とは違う、肌で感じるその異様な光景に全身が粟立った。

 

 

奴が……"奴ら"が持っている運は『偶然の幸運(ラッキー)』なんかじゃない。

 

 

 

 

 

これはまさしく……『運命(さだめ)』だ……!!

 

 

 

 

 

「……『アンタ』も…こんな風に感じたのか…?」

 

 

思い浮かぶのは雪降る島で起こった悲劇の物語。

おれも大好きだった人物(キャラクター)の最期の姿……。

 

 

 

 

 

 

―――(やっぱりロー…お前は()()()()()るんだ。)

 

―――(次から次へと救いの神が降りて来る。)

 

 

 

 

 

 

あの兄弟と死の外科医の衝撃的な過去。

どこまでも優しい男の言葉はよく覚えている。

 

 

 

「……これが『D』に舞い降りる奇跡だっていうのか……?『コラさん』…。」

 

《おいトライフルまだなのか!?応答しろ!!》

 

 

電伝虫から聞こえてくる声に、おれは受話器を持ち上げた。

 

 

 

「……兄ちゃん達、麦わらをぶっ殺したかったんだろ?よかったな。

 

 

 

 ジェルマが奴を救った。麦わらは生きてここへやって来るぞ。」

 

《!!?》

 

 

おれの発した言葉に兄弟達が息をのむのがわかった。

 

 

《ジェルマ…だとォ……!?》

《どういうことだ!?なぜあの非道な戦争屋が人助けなんか…!!》

《それもそうだが、どうやってあの猛毒から救ったんだ!?》

 

「……ジェルマの科学力ってやつなのかねェ…詳しくは桃色の髪の女に聞いてくれ。多分、婿殿の身内だ。ふぁ…顔似すぎだろ、この(きょー)(だい)……。」

 

 

やべェ……ルフィ達が来るってのに……これで任務終了だと思ったら……

 

 

《桃色の髪?黒足の身内…?》

《そいつが麦わらを生かしたのか!?》

 

 

……力抜けてきた………意識が…もーろー…と………

 

 

「…にーちゃんたち……ママに…ふぁ~……ほーこく……たの…む……。」

 

《おいトライフル?トライフル!?》

 

 

……だめだ…ねみぃ…………

 

 

 

 

「お役…御免だ………おやすみぃ~………」

 

 

 

 

かくしておれは眠りについた……。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――――――かくん……

 

 

 

通話を切ることもしないままトライフルの意識は飛び、その体は糸が切れた操り人形のように後ろに傾いた。

 

 

《トライフル!?トライフル!!?応答しろ!!》

《まだ眠っちゃダメよ!!そこは城の屋上よ!?》

 

 

受話器から発せられる声に返事もできないまま、体は壁の内側へ―――外側に比べれば雲泥の差だがそれでも相当な高さのそこから重力に従い、

 

 

 

 

―――――ひゅるるるる~~~

 

 

 

 

そのまま真っ逆さまに落ちてていった。

 

 

 

《トライフル起きろ――――――!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ぽすんっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くかー……くかー……」

「ふぅ……危なかった…。」

 

 

壁上から落ちたトライフルを受け止めた人物はホッと息をついた。

そしてトライフルを抱えたまま、彼の手から念波の切れていない電伝虫の受話器を持ち上げ声を発信した。

 

 

「こちらシフォンよ。トライフルは大丈夫。私が受け止めたわ。」

《シフォン!?そこにいるのか!!?》

《よくやったシフォン!だが……》

 

 

電伝虫の向こうの兄弟達は弟の無事に一安心するも、彼を救った人物がシャーロット家の22女『シャーロット・シフォン』であるとわかった途端、含み声になった。

 

 

「トライフル、相当疲れてるみたいでぐっすりだわ。このまま私が部屋まで連れて寝かせるから、みんなはそれぞれの仕事へ戻ってちょうだい。」

《ペロリン♪……あぁ、それは助かるよシフォン。

 

 

 

 だが、間違ってもママと鉢合わせるなよ。

 ママが相手じゃおれ達はお前を助けてやれない。

 

 なにより疲弊しきった哀れな弟にこれ以上ムチ打つような真似はさせられない。

 シフォン、絶対に()()()()()()()()を頼るなよ……。

 

 なにかあったらおれ達はトライフルの方を優先するからな。》

 

 

シフォンには電伝虫の顔を見なくても、その声だけで長男含めた全兄弟達が自分を厳しい表情で見ていることを悟ることができた。

 

 

「……わかってるわ。トライフルは私達にとっても、『ビッグ・マム海賊団』にとってもかけがえのない宝物…。

 絶対にこの子の命を危険に(さら)すような真似はしないわ……。」

 

 

シフォンはすっかり悟りきった顔で、しかし声だけは毅然として彼等に返した。

 

 

《…わかっていればいい……すまないな。シフォン……。》

 

 

ペロスペローはそんな妹の覚悟を読み取り、厳しい言葉を掛けておきながらも申し訳なさそうに謝った。

 

 

《…じゃあ、さっき言った通り、ママへの報告はおれがする。全員所定の位置へ戻れ!解散!!》

 

 

モンドールの合図と共にガチャリと念波が断たれ、電伝虫は持ち主と同じようにスヤスヤと眠りについた。

シフォンは張りつめた空気が霧散すると同時に自身の緊張の糸も切れ、はぁっとため息を吐いた。

 

そしてトライフルを抱えなおすと、その場を後にした。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ホールケーキ(シャトー)、トライフルの部屋。

 

シフォンはまったく起きる気配のない弟を、豪奢な彼専用のベッドに横たえ、その身にブランケットを優しくかぶせた。

ここ数日で溜まりこんだ疲れが取れるよう柔らかなクッションを積み上げていると、その部屋に許可も取らずズカズカと男が一人入ってきた。

 

 

「……どうだ?」

「……爆睡してるわ。こうなると何かよっぽどの事が無い限り起きないわよ、この子は。」

 

 

鼻提灯を膨らませながら寝ているトライフルに、男は鼻を鳴らした。

 

 

「…ハッ!麦わら()がやって来るってェのにいい気なもんだな、秘蔵(ひぞ)っ子の弟様はよ。」

「秘蔵っ子は秘蔵っ子なりにかわいそうな思いもしてるのよ。ママが一番の原因だけど、兄さんや姉さん達も本当にこの子に何もさせやしないからねェ…。

 万国(トットランド)よりずっと遠くの海を、もう一度見せてあげたいもんさ。」

 

 

シフォンはトライフルの前髪を整えてやりながら、出国を許されない籠の鳥な弟を憐れんだ。

 

 

「……しかし好都合だ。どこもかしこも監視されてたおかげでこっちまで身動き取れなかったからな。

 このまま眠りこけてくれていれば、()()()()()()はよりスムーズになる。」

 

 

薄暗闇でニヤニヤと笑う男に、シフォンは固く口を結んだままトライフルの安らかな寝顔を見つめる。

 

 

「……シフォン、お前達兄弟がなぜこんなにこのガキに執着するのか深くは問わねェ。

 

 だが、この計画はお前とペッツの為でもあるんだ。だからこそ腹を決めてほしい。」

「………えぇ、わかってるわベッジ。私はもうあの()()も兄弟達も『家族』とは思っていない。

 どれだけ恨まれたってかまわない。私の家族はアンタ達だけだよ……。」

 

 

眠る実の弟に背を向け、夫である『カポネ・"ギャング"ベッジ』の顔をまっすぐ見つめてシフォンは言い切った。

 

 

「フッ…愛する家族を守れねェようじゃ頭目(ファーザー)は名乗れねェ。

 計画は必ず成功させる!最終段階に入るぞ!!」

 

 

踵を返すベッジに続いてシフォンも部屋を後にする。

 

扉を出る直前、シフォンは一瞬立ち止まり、俯いて小さく言葉を零すと、再び前を向いて歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ごめんなさい、トライフル……。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くかー……くかー……くかー…………

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 ……………ふががっ!!?そういや一つ報告し忘れたッ!!!」

 

 

 

―――ボオォー……ン

 

 

 

トライフルが兄弟に言い忘れたことを思い出して飛び起きると同時に、窓の外から微かに爆発音のようなものが聞こえた。

 

 

 

「ん?なんだ??…つか、おれの部屋?あれ?だれが運んだんだろ?」

 

 

ベッドを出て寝ぼけ眼をこすりながら窓の外を見ると、ビッグ・マムの本拠地である城へ"それ"が猛進してきているのが確認できた。

 

 

 

 

「……!!!やべェじゃねーか!!!!!」

 

 

 

トライフルは壁にかけていた棍を手にすると、窓に向かって走り出し……

 

 

 

―――バンッ!!

 

 

 

蹴破るように勢いよく外へ飛び出して行った。

 

 

 

 

―――ヒュオオオオォォ……!

 

 

 

 

叩きつけるような風を全身に浴びながら、地面へ吸い込まれるように下降していく。

 

下の様子がわかるようになる頃には、そこにいる人々もこちら側に気付き、なんだなんだと皆一様に上を見上げる。

 

 

 

 

―――ヒュウゥ――――――……スタンッ!!

 

 

 

 

何十メートルもある場所から、城の外"首都・スイートシティ"へと軽やかに着地した。

突然空から降ってきた人影に町の住人達は驚くが、カランコロンと響く玩具の音に、その影の正体を突き止めると()()()目を輝かせた。

 

 

「あ!と、トライフル様!!」

 

 

町民の一人が声をあげると、周りの人々もその姿をとらえ口々に彼の名を呼ぶ。

 

 

「トライフル様だ!!」

「おお!トライフル様が来てくださった!!」

「トライフル様!大変なんです!女王様が……!!!」

 

「わかってる!お前達、絶対に"アレ"に近寄るなよ!!」

 

 

住人達の言うセリフなどわかりきっているトライフルは彼らに注意すると、風よりも速く町を駆け抜けた。

 

 

 

 

「まったく!結婚式は目前、ルフィ達もやって来たってのに………!!」

 

 

 

 

壊されゆく街並み、逃げ惑う人々の真ん中に、飢えた猛獣はそこら中にある菓子を食い散らかしてなお求める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……違う!これじゃねェ…!!これでもねェ!!!……早く持って来い!!

 

 

 

 

 邪魔する奴は…――――――殺すよォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママの『食いわずらい』がこんな時に起こるなんて!!」

 

 

 

菓子を求めて町を破壊するビッグ・マムのもとへ、トライフルは疲れも忘れて走った。

 

 

 

 

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