色々手直ししてたら時間がかかっちゃいました。
「ここは…」
「どうやら終点のようだな」
新たに旧校舎に出現した迷宮区画を進んでいた俺たちは、無事終点と思しき扉の前に辿り着いていた。
迷宮には前回と違い、大きなナメクジ型の魔獣《デイゾルスラッグ》や崩れた石材などを身に纏った《ダスタードグミ》、ぴょんぴょんと跳ねながら動き回る可愛げな魔獣《ポム》などの新たな魔獣が徘徊していたが、俺たちの敵ではなかった。
というのも今回は前回と違って、《ARCUS》の真価ともいえる機能――《戦術リンク》を使っていたからだ。
元々入学式のときにパーティを組んでいたこともありそれなりの連携が可能だったが、そこにリンクした相手の行動が分かるようになる《戦術リンク》が加わった俺たちは、まさに鬼に金棒の状態だった。
新たに徘徊していた魔獣も、前回のときのものに比べてそれ程レベルも変わらず迷宮自体にも特殊な仕掛けも無かったため、予想よりも早く終点らしき場所に着くことができていたのだ。
「ここまで来たんだし扉の中も確かめてみようぜ、リィン」
「ああ、みんな十分警戒してくれ」
リィンを先頭に俺たちは扉の奥に進む。そこには予想外の光景が広がっていた。
「……何もないな」
「もしかして行き止まりなのかな…?」
扉の奥には少し広めの空間があるだけだった。どこかに繋がる通路も無ければ変わったオブジェクトも無い。魔獣の姿も見当たらず、完全に行き止まりの状態だ。
ギミックらしきものも見当たらないため、引き返す事も考えたその時、突如後ろの扉がひとりでに閉まる。
「えっ!と、閉じ込められちゃった!?」
「…!気をつけろみんな!」
扉が閉まるのとほぼ同じタイミングで、部屋の中央部で禍々しい黒い稲妻のようなものが起こる。そしてその稲妻から体長が3アージュはありそうな魔獣が姿を現した。
魔獣の放つプレッシャーは徘徊していた魔獣のそれよりも強力だ。おそらくヤツがこの地下迷宮のボスということだろう。
「どうやらコイツを倒さないと出られないみたいだぜ」
「ああ、みんな最大限に連携して撃破するぞ!」
リィンの号令と同時に、それぞれ武器を構えて戦術リンクを起動した。
「グオオオ!」
俺たちが戦術リンクを起動させるのと同時に魔獣はこちらへ向かって走り出して来る。
「敵ユニットの傾向を解析……」
後ろではエリオットがセオリー通り《アナライズ》で敵の情報を読み取っていた。《アナライズ》をしている間、アーツと同じく彼は身動きが取れなくなるため、完了するまで敵を引きつけなければならない。
「イクス!」
「おう!」
《戦術リンク》を繋いでいる俺とリィンはお互いに確認をしただけで動き出していた。
最初は言葉を交わさずとも相手の行動が分かるという感覚に慣れなかったが、コツが掴めれば自動で相手と“呼吸”を合わせることができる。一度使いこなせばこれ以上の連携は無いだろう。
「はあっ!」
俺は魔獣の正面で跳び上がり、そのまま両方の剣で頭部に斬りおろしを放つ。その攻撃を魔獣はその太い両腕を交差させて防いだ。魔獣の腕はかなり筋肉が発達しているらしく、俺の双剣はその刃を通さない。
しかし、俺の攻撃は奴の視線を引きつけるための囮だ。俺の攻撃の間に背後に回り込んでいたリィンは魔獣の背中に鋭い一撃を与える。
「せいっ!」
「ガアッ!?」
完全にリィンのことを見失っていた魔獣は背後からの不意打ちを喰らい、悲鳴をあげた。そして、エリオットが敵の解析を終了させる。
「解析完了!えっと、名前は《ミノスデーモン》風属性のアーツに弱くて、弱点は頭部だよ!」
「……なるほど」
エリオットの解析結果を聞いて俺は思わず呟く。先程の攻撃の際に頭部をしっかりとガードしていたのはそういうことか。
リィンの攻撃から立ち直ったミノスデーモンは標的をリィンに変更し、腕を振り下ろすがその拳はリィンには当たらない。ミノスデーモンは力こそ強いが、動きは単純で前回戦ったガーゴイルほどのスピードも無い。そのため、リィンがその攻撃を避けるのは余裕のことだった。
「はあ!」
「ガアッ」
リィンに気をとられていたミノスデーモンは、隙ができるのを待っていたガイウスの攻撃をもろに受ける。
彼が今放ったのは、風を槍に纏わせて勢いよく飛ばす《ゲイルスティング》という技だ。ある程度溜めの時間が要求される技なので敵が近くにいるときには使いづらいが、あらかじめ距離を取っているためその心配はない。
俺たちが攻撃している間にエリオットは風属性のアーツの駆動をしている。あれが決まればこちらの勝機は確実だろう。
「グオオオッ!」
再び俺とリィンの連携攻撃が決まり、ミノスデーモンは大きく体勢を崩した。
「チャンス…!」
それを逃さず俺は倒れ込んでいるミノスデーモンに追撃しようと《烈風刃》の構えを取りながら走り出す。
だが、俺が攻撃を放つ前にミノスデーモンは早くも立ち直り、迎撃の構えをとった。
「しまっ…!」
「ガアッ」
咄嗟に双剣でガードの姿勢をとるが、ミノスデーモンの放った攻撃はその腕によるものではなく、黒い煙のようなブレスだった。
「くそっ、前が…!」
予想外の攻撃をまともに喰らってしまった俺は、その攻撃によって視界を奪われてしまった。どうやらあのブレスは目くらましの効果があるようだ。
一向に視界から暗闇が晴れずに立ち止まっていると、腹部に重い衝撃が加わり俺の体はそのまま壁に叩きつけられた。
「がはっ…」
「イクス!」
壁に突然叩きつけられた衝撃で肺から息が漏れる。遅れて、殴られたであろう腹部に痛みが走った。その痛みと視界を覆う暗闇で俺はすぐに動くことができずにその場で身悶える。
「グオオオ!」
大きな足音がこちらに迫ってくる。間違いなく俺にとどめを刺す気だろう。しかし、その足音がそれ以上俺に近づくことはなかった。
「《エアストライク》!」
「ガアアッ…!」
先程から準備していたエリオットの風魔法がミノスデーモンに当たったようで、その攻撃でミノスデーモンは足を止めていた。そして間髪を入れずにリィンとガイウスが追撃する。
「《ゲイルスティング》!」
「八葉一刀流・四の型、《紅葉切り》!」
「グオオオ…」
リィンとガイウスの攻撃でミノスデーモンは力尽きたようで、弱々しく叫んだ後その生気を失った。
ミノスデーモンが倒された後、みんなが俺の下に走り寄ってくる。
「イクス!」
「大丈夫か!」
「待ってて、今、回復魔法をかけるから!」
エリオットが回復魔法をかけると、俺の腹部の痛みは弱まっていった。そして徐々に視界が晴れていく。
「…サンキュー、エリオット。悪いな、油断した…」
目の前には心配そうな表情でこちらを見つめるみんなの姿があった。
俺が申し訳なさそうに言うとリィンたちが声をかける。
「あの場合は仕方ないさ。俺もあのときは好機だと思ったからな」
「ああ、攻撃の最中にアレを避けるのは不可能だろう」
リィンたちはフォローしてくれているが、あのときは迂闊に飛び込むべきじゃなかった。完全に自分の失態だ。
だが、彼らの暖かい言葉に水を差すわけにはいかないので、ここは心の中で反省する気持ちを抑えて感謝の言葉を言う。
「…ありがとな。みんなのフォローが無かったら危ないところだった」
「えへへ、当然だよ」
「イクスが無事でなによりだ」
リィンたちにお礼を言うと、後ろの扉が開いた。やはりあの魔獣と連動していたようだ。
痛みもある程度引いたので、俺は立ち上がってみんなに話しかける。
「うっし、俺はもう大丈夫だ。それよりここのボスも倒したことだし学院長の所に報告しに行こうぜ」
「…そうだな。これ以上ここに留まる理由も無いし戻るとしよう」
リィンも俺がこれ以上心配をかけたく無いことを察してくれたようで、また彼を先頭にして、俺たちはその部屋から立ち去っていった。
俺たちは旧校舎から戻り、学院長とサラ教官に報告を終えていた。
あの部屋のすぐそばにあったオブジェクトに触れた途端、一瞬で入り口に転移したりと旧校舎にはまだまだ謎があったが、外は既に夕方になっていたこともあり今日の探索は終了ということになった。
学院長によればあの旧校舎はどうやら《暗黒時代》からあったものらしく、今回のように地下の構造そのものが変わるというのは聞いたことが無いそうだ。
謎はますます深まるばかりだったが、わからないものは考えてもわからないため、今後も定期的に調査を依頼するとのことだ。
旧校舎の調査も終わり俺たちはその場で解散ということになった。リィンはトワさんに報告しに行くと言っていたが、俺は午後にトワさんのところに行こうと思っていたので、ついでに報告をしておくと提案し、リィンも俺に任せて他のところに行った。
そして俺は学生会館にある生徒会室まで来ていた。
「ありがとね、手伝ってもらっちゃって」
「いやいや、このくらい大したことないですよ」
生徒会室にはトワさんしか残っていなかったが、彼女はまだ仕事が残っていたため一人でそれを片付けていた。俺もせっかく来たのでトワさんの仕事を手伝い、手伝ってもらったお礼ということでお茶をご馳走になっていた。
「どうかな、イクス君の淹れる紅茶に比べたら美味しくないかもしれないけど…」
「そんなことないですよ。このクッキーも美味しいですし」
トワさんは謙遜しているが、紅茶は中々の味だ。一緒に出されたクッキーもアールグレイの風味のするものでかなりイケる。
トワさんもティーカップを口に運び、一息つく。
「ふふっ、よかった。そのクッキー私の手作りなんだ」
「そうなんですか…!」
前に一度トワさんの手料理を食べたこともあるが、お菓子も作れるとは知らなかった。このクッキーも美味しいし、日頃から結構作っているのだろうか?
俺がクッキーを口に運んでいると、トワさんは心配そうな表情で俺に話しかける。
「イクス君、本当に旧校舎のときのケガなんともないの?意地を張って無理しちゃダメだよ?」
「本当に心配ないですよ。エリオットがすぐに回復魔法をかけてくれたおかげで痛みももう引いてますし」
実際痛みはもう引いていた、この様子なら明日には全快しているだろう。それにこのケガだって油断しなければ負うはずのなかったものだ。
トワさんはまだ少し心配そうな表情で俺に言葉をかける。
「イクス君がそう言うならいいけど……。でも本当に無理しちゃダメだよ、私を含めて君のことを心配してくれてる人だっているんだからね」
「…善処します」
トワさんは結構頑固なところもあるので、ここは素直に返事をしておく。トワさんも俺が素直に頷いたことで、満足そうに話を続けた。
「うんうん、素直でよろしい。こうやって用事がなくても、いつでも来てくれていいからねイクス君!」
「ハハ、了解です」
やはり俺は彼女には頭が上がらないみたいだ。
夜、多くの生徒が待ち望んでいた《自由行動日》はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。
明日からはまたいつも通り授業に追われる日々が幕を開けるだろう。
明日からの授業に備えて予習をする者。一日の終わりの時間を趣味に費やす者。己の武器の手入れをする者。
各々の生徒が様々な夜を過ごす中、イクスは第3学生寮の自室で机に向かっていた。
だが、彼の手に握られているのはペンではなく、何枚かの便箋だった。どうやら誰かからの手紙を読んでいるようだ。
その手紙を読み終えたイクスは言葉を漏らす。
「…全くあの人は、自分の方が何かと忙しい立場だろうに」
言葉自体は呆れるような口調だが、その表情はどこか懐かしむような穏やかな表情だ。彼もその手紙の送り主に呆れているわけではないらしい。
「さてと、もう遅いし返信は明日にでも書くか」
そう言って彼は立ち上がり、なぜかベッドではなく窓の方へ向かう。そして、夜空を見上げながら自分に言い聞かせるように呟く。
「…あの程度の魔獣に苦戦してるようじゃまだまだだ。もっと強くならないと……。もう何も失わないためにも、もっと、もっと強く…」
そう呟く彼の瞳には強い意志が宿っていた。
しばらく夜空を見上げた後、彼はベッドで横になった。そして、ものの数分で眠りに落ちて行く。
こうして夜は更けていき、初めての自由行動日が終了する。生徒たちはそれぞれ異なる思いを抱きながら、また再び忙しない日々に戻っていくのだった。
というわけで自由行動日編終了です。
次回は実技テストの話の予定、多分問題無ければ明後日までには投稿できると思います。