実は昨日には更新する予定だったんですが、保存していた文書がどこかにいってしまったので書き直してました……
今後はこういう事の無いように気をつけます!
「よし、そんじゃまずは大市の方から行ってみようぜ」
「うん、確か店名は《フリント薬局》だったな」
宿から出た後、俺たちは二手に分かれて受け取った依頼を一つずつこなすことになっていた。依頼は魔獣退治の他に2つ、いずれも手伝いをする内容のものがあったので、まずはそれらを手分けして片付けてから全員で魔獣退治に向かおうということになった。
俺とラウラはケルディックの教区長であるジルベルさんの依頼で、風邪薬の材料になる『ベアズクロー』という薬草と『皇帝人参』をそれぞれ受け取ってきてくれと頼まれていた。
「へぇ、結構いろんな屋台が並んでるんだな」
「うむ、なかなかの賑わいだ」
ケルディックに着いたときにちらっとだけ見ていたが、近くで見るとその人の多さがよく分かる。人が多いだけでなく、食料品からアクセサリーなどの装飾品まで様々な所からの輸入品が売られている。
色々と見て回りたい気持ちもあるが今は依頼をこなすのが優先のため、俺とラウラは早速大市にある《フリント薬局》に向かう。
「いらしっしゃいませ、フリント薬局にようこそ」
店の店主は白髪の老人だった。店主は俺たちを見て慣れた口調で接客する。
依頼を受けたものの他に買うものも無いので、俺は早速本題に入る。
「すいません、俺たちジルベル教区長にお使いを頼まれた者です。『ベアズクロー』っていう薬草を受け取りに来たんですけど」
「ほう、ジルベル教区長の使いで。では、取り置きしておいた分をお渡ししましょう」
あらかじめ取り置きしていたようで、フリント老人は奥にあった箱の中から薬草を取り出して俺に渡した。
「どうもありがとうございます。……それにしてもコレ随分トゲトゲしてますね」
渡された『ベアズクロー』はかなりトゲの多い薬草だった。
フリント老人の話によれば、『ベアズクロー』という名前はこのトゲが熊の爪に似ていることからそう名付けられたのだそうだ。そしてここの店では帝都で空輸された後に、鉄道便で届けられたリベール王国産のものを仕入れているらしい。
無事『ベアズクロー』を入手することが出来たので、次は『皇帝人参』を受け取りに行くとしよう。
「次は西ケルディック街道の農家だったな……ってあれ?」
ラウラに確認を取ろうとすると、さっきまで隣にいたはずのラウラがいない。いったいどこに行ったのかと周囲を見回すと、すぐ近くの店に彼女の姿が見えた。
「ふむ、なるほど……」
ラウラがいたのは各地のぬいぐるみを集めた店で、その中で彼女が真剣な眼差しで見つめていたのはなにやら猫に似たぬいぐるみであった。売り場のところには『クロスベルからやって来た人気者!その名も“みっしぃ”!』と書かれている。
リィンたちも別の依頼をやっている以上こちらが寄り道をするわけにもいかないため、ラウラに声をかける。
「おーいラウラ、そろそろいこうぜ」
俺が声をかけると、ラウラはこちらに全く気づいていなかったのか普段の彼女からは想像できない驚き方をする。
「そ、そなたいつの間に後ろにいたのだ!?」
「いや、さっきからいたけど……。というかそろそろ次に行かないか?」
俺が出発を促すと、ラウラは一度咳払いして落ち着きを取り戻し何事も無かったかのように振る舞う。
「…うむ、そうだな。では農家の方へ急ぐとしよう」
「お、おう」
そう言ってラウラは足早に歩いていってしまい、俺も置いていかれないように彼女の後を追いかける。大市を出る直前にラウラは小さな声で「みっしぃか…」と呟いていた。
もしかして彼女はああいうのが好きなんだろうか?
『ベアズクロー』を受け取った後、俺たちは西ケルディック街道にある農家を訪れ、そこに住むポールさんから『皇帝人参』を受け取っていた。『皇帝人参』は普通の人参よりもかなり色の濃いもので、話によれば皇族への献上品としても用いられるほど栄養価が高く、薬効もものすごく高いらしい。
「よし、これで全部揃ったな」
「うん、教区長のところに届けるとしようか」
ラウラも先ほどの慌てぶりから完全に平静さを取り戻していた。なんとなくだが、さっきのぬいぐるみについてつっこむとロクな事にならない予感がするので、敢えて聞かないことにしていた。
「あ、そっちも終わったんだ」
俺たちが農家を出ると、ちょうど他の依頼を終えたリィンたちと合流した。彼らは西ケルディック街道の導力灯を入れ替える依頼だったようで、途中で魔獣の襲撃もあったものの問題なく終わったみたいだ。
どちらも依頼主に報告すれば依頼完了であるため街まで一緒に戻ろうとしたとき、俺は街道の先にまだ道が続いているのに気づく。
「そういえば、この先って何があるんだ?」
「……言われてみれば。少し時間もあるし行ってみないか?」
「ええ、気になるし行ってみましょう」
街道を進んだ先にあったのは周りの田園風景とは違う自然が豊かなところだった。近くにあった看板には《ルナリア自然公園》と書かれている。
ルナリア自然公園を見たラウラは思い出したように呟く。
「ふむ、いわゆる《鎮守の森》なのかもしれぬな」
鎮守の森とは古代に信仰されていた精霊信仰において精霊を鎮めるための場所であり、帝国にも各地に今も残っているとされている。ラウラやリィンの故郷にもあったそうだ。
俺たちが《ルナリア自然公園》の前で話していると、自然公園の門の前にいた2人の男たちがこちらに近づいてきた。
「おい、なんだお前たちは?」
「ここに何か用かよ?」
近寄ってきた男たちはやけに威圧的だった。その態度に俺たちが少し戸惑っていると、ラウラが男たちに答える。
「少し通りがかっただけだが……そなたたちは?」
ラウラに素性を尋ねられた男たちは若干めんどくさそうに答える。
「俺たちゃ、この自然公園の管理人だ。見ての通り今は立ち入り禁止でな。悪いが出直して貰おうか」
自然公園の管理人と名乗る男が言うには、自然公園は立ち入り禁止になっているらしい。リィンも工事か何かやっているのかと尋ねるが、男たちは曖昧な返事を返しここから立ち去るように言ってきた。
立ち入り禁止と言われては仕方ないため、俺たちは男たちに若干追い払われる形で自然公園を立ち去ろうとする。
しかし、男たちの態度に不信感を覚えた俺は彼らに少しカマをかけてみる。
「…そういえば、ここの自然公園って何が有名なんですか?」
「え、いや、それは……」
「し、自然公園なんだからこの自然に決まってるだろ!さあ、質問が終わったなら行った行った!」
片方の男が口ごもると、もう一方はそれを誤魔化すように俺の質問に答えてから、俺たちを追い払った。さすがにこれ以上は彼らも答えてくれそうに無いため、素直に引き下がり自然公園を立ち去っていった。
「さっきの質問の答えといい、あいつらなーんか怪しいんだよなぁ」
「うん、あの人たち本当にあそこの管理人さんなのかな?」
「ちょっと不自然な感じだったわよね」
俺の意見にエリオットとアリサも同意する。リィンが尋ねたように工事をしている様子もないし、俺の質問にもすぐに答えられなかったのは、正直不審だ。
しかし、確信が無い以上憶測の域を超えないためリィンは彼らについては一旦保留にして、俺たちはケルディックに戻っていった。
「……あいつか」
2つの依頼を完了した俺たちは東ケルディック街道にいるという魔獣退治の依頼を受けていた。
依頼をしていた街道沿いの農家の話によると、二週間前から東ケルディック街道の高台付近にその魔獣が徘徊するようになったそうで、その凶暴性から高台の近くを通ることすら出来ない状況になっているらしい。
農家の人から話を聞いた俺たちは早速例の高台に向かった。そこにいたのは大きな背びれを持つ蜥蜴型の魔獣《スケイリーダイナ》だった。他の魔獣もスケイリーダイナに怯えているのか高台近くにはスケイリーダイナの姿しか無く、完全に高台付近を占領している。
魔獣の姿を確認したアリサはリィンに尋ねる。
「あの魔獣さすがに強そうね。どうするの?」
少し不安そうに尋ねたアリサにリィンは迷いなく答える。
「農家の迷惑になっている以上退治するしかない。みんな、装備の確認を。万全の状態で挑もう」
「承知……!」
「う、うん……!」
リィンの力強い言葉に俺たちも自分に気合いを入れて、戦闘準備をする。
「……!ガアアアッ!」
スケイリーダイナもこちらに気づいたようで、咆哮をあげながら突進してくる。
「……来るぞ!総員戦闘準備!」
「了解!」
リィンの合図でそれぞれ戦術リンクを起動させ、迎撃の体勢に入った。
「ラウラ!」
「任せよ!」
リンクを繋いだ俺とラウラがまず先行する。後ろではアリサがアーツの駆動に、エリオットが敵の解析を進めているため、奴をそちらに向かわせないように俺たちが先制攻撃を仕掛ける。
幸い突進してきたスケイリーダイナはそこまで速くないので、素早さならこちらの方が分がある。
「《烈風刃》!」
この中なら一番速さに自信がある俺がまずは先制攻撃を浴びせる。スケイリーダイナは突然ダッシュしてきた俺の攻撃を避けられずに攻撃をモロに喰らった。しかし、ヒットしたのが胴体だったためか、鱗の下にある肉がかなり厚く大ダメージとはいかなかった。
それでも、攻撃によってスケイリーダイナも動きを一瞬停止し、俺と同時に走りこんできていたラウラによって同じ箇所に痛烈な一撃が加わる。
「はあっ、ぜやぁ!」
「ガアアッ」
彼女が放ったのは《鉄砕刃》、一度飛び上がることで元々の剣の威力に重力も加わり、その名の通り鉄をも砕く一撃となる技だ。俺が傷つけた場所にさらにラウラの一撃が加わったことで、スケイリーダイナはその巨体を仰け反らせた。
「2人とも散開してくれ!」
後ろで控えていたリィンから俺たちに指示が届く。その指示と同時に俺とラウラは左右に跳びのき、後ろから炎が飛来する。
「《ファイアボルト》!」
アリサが駆動していたアーツをスケイリーダイナに命中させた。連続攻撃にスケイリーダイナは一瞬怯むが、まだ余裕がある。どうやら炎属性のアーツは弱点ではないらしい。
「解析完了!その魔獣水属性が弱点みたい!」
そしてエリオットの解析も完了し、全員にスケイリーダイナの弱点が伝えられる。エリオットの解析を聞いたリィンは瞬時に次の指示を飛ばした。
「よし、エリオットはそのまま水属性のアーツの準備を!アリサは俺と前衛のサポートをしてくれ!」
「わかった!」
リィンの指示でエリオットはアーツの駆動に入り、アリサはARCUSから弓に持ち替えて後方支援の体勢に入った。魔獣もその本能で危険を察知したのかアーツを駆動しているエリオットの方に走っていく。
「させるか!」
散開していた俺とラウラはエリオットのフォローに向かうと、魔獣は背後から近寄ってきた俺たちに振り返りその大きな背びれを震わせ始めた。
見たことがない魔獣の行動に俺とラウラが警戒していると、スケイリーダイナは俺とラウラに向けて口から怪音波を発した。
「くっ!」
「これは……!」
そのあまりに不快な音に俺とラウラは耳を塞いでしまう。そして無防備になった俺たちにスケイリーダイナは攻撃を仕掛けようとしたが、それは阻まれる。
「喰らいなさい!」
弓に持ち替えていたアリサから矢が連続で放たれ、動きを止めた隙にリィンが追撃する。
「《紅葉切り》!」
アリサとリィンの攻撃によってスケイリーダイナは動きを一瞬止めたが、その体力は凄まじくすぐに次の行動に移る。
「ガアアア!」
叫び声をあげながらスケイリーダイナはその場で回転し尻尾による攻撃をした。
「重い…!」
その太い尻尾は回転によってムチのように振るわれ、音波攻撃から立ち直っていた俺とラウラはガードはしたものの、その衝撃で2アージュほど後退してしまう。
「ぐっ……!」
そして先ほどの攻撃で魔獣の近くにいたリィンもその攻撃を喰らう。彼も太刀で受け止めたが、やはり俺たちと同じように後退してしまった。
完全にガードしきれなかったリィンを標的に変えて、スケイリーダイナは彼の方に走りながらその顎門を大きく開けた。
「やあっ」
アリサがスケイリーダイナに矢を撃ち込むが、スケイリーダイナはその足を止めない。彼女の矢ではその厚い肉に阻まれて、ダメージをあまり与えられなかった。
だが、スケイリーダイナがリィンに攻撃する前にエリオットからアーツが放たれる。
「《アクアブリード》!」
「グオオオッ!」
弱点である水属性のアーツを喰らったスケイリーダイナはその体を大きく仰け反らせる。その隙にリィンも立ち直り、俺も追撃に向かう。
瞬時にリィンとリンクを繋ぎ、まずはリィンが先ほど俺とラウラがダメージを与えた箇所に攻撃する。
「はあっ!」
「ガアアッ!?」
リィンの太刀はその斬れ味を遺憾なく発揮し、すでに傷が付いていたスケイリーダイナの分厚い肉を切り裂いた。同じ箇所に三度目の攻撃を喰らったことでスケイリーダイナも悲鳴をあげ、その傷から血が吹き出す。
「そこだ!」
完全に動きを止めたスケイリーダイナの背後から近寄っていた俺は、無防備になっていた背中に攻撃する。スケイリーダイナも俺に気をまわす余裕がなかったため、その背びれに大きなダメージを受けた。
「二人とも離れて!今よラウラ!」
「承知!」
ラウラとリンクを繋いでいたアリサが合図する。そして力を溜めていたラウラが渾身の一撃を放つ。
「――我が渾身の一撃、喰らうが良い。《奥義・洸刃乱舞》!」
光を纏った剣が二度振るわれた後、流れるように回転の勢いを加えた一撃がスケイリーダイナに与えられた。
スケイリーダイナはラウラの一撃でとどめを刺されたようで、弱々しい悲鳴をあげながら消滅していった。
「よし――やったか」
「な、何とか勝てた……」
魔獣の消滅を確認した俺たちはそれぞれ武器を収める。周囲にさっきのような魔獣の姿もないし、これで依頼完了だ。そして武器を収めたアリサは一人呟く。
「……《戦術リンク》が無かったら厳しかったかもしれないわね……。《ARCUS》か、悔しいけどそれなりに見込みはあるみたいね」
「悔しい?」
アリサが言った言葉にリィンが反応すると、アリサは少し慌てて誤魔化す。
「あ、ううん、気にしないで。それより退治したことを農家の人に伝えに行きましょう」
「……?ああ、そうだな」
リィンも彼女の態度が気になりはしたようだが、それ以上の追及はしなかった。
そんな中、俺の隣にいるラウラは何やら言いたそうな表情でリィンを見つめていた。その真剣な顔つきが気になった俺は思わず彼女に尋ねてみる。
「どうしたラウラ?リィンに何かあったか?」
「……いや、何でもない」
そう言ってかぶりを振ったあと、彼女はいつも通りの表情に戻る。本人がこう言っている以上、これ以上の詮索は無用だろう。
そして農家の人へ報告するために俺たちは高台をあとにした。