英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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第12話 悩める若獅子たち

 

「それではあなたが実習の《依頼》を……?」

 

 魔獣退治の依頼を無事完了した俺たちは一度ケルディックに戻っていた。

 そして、ちょうど戻ったときに大市の方で騒ぎがあり、俺たちも様子を見るために大市に向かっていた。

 そこで起きていたのは、二人の商人の言い争いだった。近くにいた人に話を聞くと、二人の商人が店を開くはずの場所が同じになってしまったようで、その場所を巡って諍いになっていた。

 

 通常、こういった市での出店許可は領主が管理するものだが、困ったことにどちらも同じ許可証を持ってしまっているらしく、どちらも自分の権利を主張するばかりの状況だ。

 

 話を聞いてどうしたものかと悩んでいると、二人の諍いがヒートアップしてしまい遂には殴り合いになるかという状況になったため、俺たちは急いでその二人を止めた。

 

 幸い殴り合いには発展しなかったものの二人の熱はまだ冷めないため、どうするか悩んでいた所に、一人の老人が姿を現した。

 

 その老人はこの大市の元締めを務めるオットー元締めという人物であり、彼の出現によって二人の商人も落ち着き、そのまま元締めの手によって一旦その件は解決した。

 

 そしてオットー元締めの計らいによって、俺たちは彼の家に招待され実習についての話をしていた。

 

 オットー元締めはトールズ士官学院の学院長であるヴァンダイク学院長と旧知の仲であり、学院長の頼みで俺たち向けに今回の実習の依頼を見繕ってくれていた。元締めを務めていることもあり、ケルディックの住人からもかなりの信頼を寄せられているようで今回の依頼のようなものもしょっちゅうあるらしく、元締めにとっても俺たちの働きには感謝してくれていた。

 

 今回の実習の依頼について話を聞いたあと、アリサが先程の件について話題を変える。

 

「結局、先ほどの場所は交替で使うことになったみたいですね?」

 

「うむ、結局どちらの許可証も本物じゃったからの。週ごとに2つの場所を交替で使用するというのに落ち着いた。まあ、正面の位置と比べると奥は目立たぬから売り上げには影響するじゃろうが」

 

 やはり二人の商人が持っていた許可証はどちらも本物だったようで、仕方なくオットー元締めは週ごとの交替制で話をつけていた。しかし、通常ならば許可証は領主の名で発行されるものであるため、今回のような手違いは起こらない筈だとラウラが指摘する。

 

 ケルディックはクロイツェン州の街であるため、ユーシスの実家である《アルバレア公爵家》の管理下である。つまり、あの許可証もアルバレア公爵家が発行しているものだ。

 オットー元締めはアルバレア公爵家についての話が出ると、顔をしかめて話し始めた。

 

「実は先日、大市での売り上げ税が大幅に上がってしまったんじゃ。売り上げから相当な割合を州に納めなくてはならなくなった分、商人たちも必死になっていてな」

 

 確かにそういう事情があれば、あのような諍いに発展してしまうのも無理はないだろう。しかし、売り上げについての増税について疑問を覚えた俺はオットー元締めに質問する。

 

「でも、売り上げ税ってそう簡単に上げていいものじゃないですよ。確かに州ごとの税収についてはその領主に一任されてるけど、上げすぎれば領民の生活が苦しくなる。そこのところで反対はしなかったんですか?」

 

「当然、バリアハートにある公爵家には何度も陳情に出かけた。じゃが、一向に取り合ってもらえず、門前払いといった感じでな。その状況が二月ほど続いておるのじゃよ」

 

 どうやら想像していた以上に苦しい状況になっているようだ。そんな状況が続いている以上、公爵家が元締めの話を聞く可能性は低いだろう。

 

 その話を聞いて、リィンが許可証の手違いについても疑問を浮かべる。確かに普通は起こらないはずの手違いも意図的に行われた可能性は充分にある。

 リィンの指摘を聞いたオットー元締めはさらに続ける。

 

「先程の騒ぎにしても以前なら詰所の兵士たちが仲裁に駆けつけていたし、増税の陳情を取り消さぬ限り、大市には不干渉を貫くつもりらしい。実は先程もそのようなことを詰所の隊長殿から仄めかされたばかりなんじゃ」

 

「そんな……」

 

 オットー元締めの言う通り、俺たちが仲裁に駆けつけたのは騒ぎが既に起こっている最中だった。確かに普通なら領邦軍の兵士たちの方が先に駆けつけて、仲裁に入るはずだ。つまり、領邦軍も含めて増税の件については一切取り合わないつもりらしい。

 

 そんな話をしてくれたオットー元締めは、俺たちに余計なことを話してしまったと言い、この事は自分たち商人の問題であるため、俺たちには明日も引き続き実習の方に集中するように言った。

 

 俺たちもそれ以上元締めに話させるわけにもいかないため、依頼の件を了承してオットー元締めの家を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは、夕方のセールタイムってこともあって賑やかだねえ」

 

「ああ、俺たちも少し屋台を見てみるか」

 

 オットー元締めの家から出た俺たちは宿に戻る前にせっかくなので大市を見て回ろうということになっていた。ちなみに、アリサとラウラは二人で屋台を見ているため、俺たち男子組は女子たちとは別に大市を回っている。

 

「おお、この茶葉って帝国じゃ中々出回らないやつじゃないか。せっかくだし買っていこう」

 

「へえ、そうなのか」

 

「イクスって紅茶に詳しいんだね」

 

「ああ、まあな。そうだ、実習から戻ったら新しく手に入れたこの茶葉を使ってご馳走してやるよ」

 

「それは楽しみだな」

 

 こんな感じで俺たちも大市での買い物を楽しんでいた。俺は先程の茶葉を、リィンは妹に送る用のアクセサリーを、エリオットも家族に送る用の食料品をいくつか買っていた。

 

 それぞれ思い思いに買い物をしていると、大市にある広場のようなところに何やら人が集まっているのが見える。

 

「あれ、なんだろう?」

 

「…ちょっと気になるな。二人とも行ってみないか?」

 

「ああ、行ってみようぜ」

 

 人混みに近寄って見てみると、そこではピエロのお面をつけた人が大道芸をしていた。ちょうど今はジャグリングをやっているようで、6個のボールを使ってあざやかにジャグリングをしている。

 

「へえ、上手いもんだな」

 

「うん、僕がやったら絶対ムリだよ」

 

 そしてピエロはジャグリングしていたボールを全てキャッチし、その芸に人々は拍手をする。俺たちも自然と拍手を送っていた。

 ピエロは拍手をするギャラリーに一礼すると、手に持っていたボールをしまい、喋り出した。

 

「アハハ、それじゃあギャラリーも集まってきたことだし、特別に“大技”を披露しちゃいましょ〜」

 

 お面のせいで少し声はくぐもっていたが、ピエロの声は少し甲高い男の声のようだ。笑い出したピエロはそのまま懐からナイフを6本取り出す。

 

「それじゃあ、いっちゃうヨ〜」

 

 何をするのかと思いきや、ピエロはそのナイフを先程のボールと同じようにジャグリングし始めたのだ。ナイフの刃からしてあれは間違いなく本物だ。一歩間違えればケガをする恐れもある。

 

 そのあまりに危険な芸にギャラリーの一部からも悲鳴があがるが、ピエロはナイフが全く怖くないのか、むしろ楽しんでいるように愉快に笑いながら次々と手からナイフを放していく。

 ピエロのジャグリング技術は相当なもので、ピエロが投げたナイフはピエロに刃を向けることなく踊るように空中を舞う。最初はヒヤヒヤしていたギャラリーも、次第にピエロのあざやかなジャグリングに魅了され、その声も悲鳴から歓声へと変わっていく。

 

「わあ、すごいすごい!」

 

「ああ!これは確かに見事だ!」

 

 俺たちもピエロの芸にすっかり夢中になり、ピエロもその様子を楽しんでいるのかジャグリングするナイフをさらに2本増やす。

 空中を舞うナイフがさらに増えたことでギャラリーの熱気も高まると、ナイフジャグリングも遂にクライマックスを迎える。

 

「アハハ、それではナイフにごちゅうも〜く!」

 

 そう言ってピエロは8本のナイフを空高くに放り投げる。まさかあれを全てキャッチするのかと思った途端、ピエロは不意にカウントを始めた。

 

「3、2、1、ゼロ!」

 

 ゼロの合図と同時にピエロが指を鳴らすと、空中を舞っていたナイフはポン!という音をあげて一斉に爆発した。その爆発はただの爆発ではなく花火のようで、綺麗な閃光を放ちながら空中に霧散していった。

 

 予想外の展開にギャラリーもピエロに盛大な拍手を送る。ピエロの芸は大成功を収めていた。

 

「今のすごかったわね」

 

「うん、我らも途中から見ていたが見事なものだった」

 

 アリサとラウラも途中から見ていたようで、俺たちと合流してピエロに拍手を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 大道芸が終わったことで、広場に集まっていたギャラリーも皆それぞれ他の買い物をするためにいなくなっていた。俺たちもそれぞれ買い物が終わったので、そろそろ宿に戻ろうかという話をしていた。

 

 ちなみに、アリサは化粧品やらアクセサリーを買ったようで、ラウラもそれに付き合っていたようだ。そして敢えて言わなかったが、ラウラが持っている袋には午前中に見ていたぬいぐるみの屋台の袋があった。おそらくアレを買ったのだろう。

 

 そうして俺たちが宿に戻ろうとした時、不意に俺の肩がだれかに叩かれる。後ろを振り返ると、そこには先程大道芸をやっていたピエロが立っていた。

 

「あ、さっきの」

 

「アハ、さっきは見てくれてありがとう。特別に君にはこれをプレゼント〜」

 

 そう言ってピエロが渡してきたのは小さな箱だった。足を止めた俺に気づいたみんなが戻ってくる。

 

「あれ、イクスそれどうしたの?」

 

「ああ、このピエロが俺にプレゼントだって」

 

「へえ、なになに開けてみてよ」

 

 アリサだけでなくみんなもその箱の中身が気になるようで、俺が持っていた箱にその視線が集まった。かく言う俺も箱の中身が気になっていたので早速開けてみる。

 

「うわっ!?」

 

 箱を開けると、突然中から何かが飛び出してきた。予想外の出来事に俺も含めてみんな驚く。

 

「び、びっくりした〜」

 

「まさか、びっくり箱だとはな…」

 

「も、もう!いくらなんでも悪趣味よ!……ってあれ?」

 

 俺たちが前を向くと、先ほどまでいたはずのピエロはどこにもいなかった。辺りを見回してみるが、その姿はどこにも見当たらない。

 

「一体なんだったのだ……」

 

「…まあ、ああいうのも含めて芸の一部なんじゃないか?」

 

「だとしても、心臓に悪いよ……」

 

 びっくり箱を渡していなくなったピエロについて、みんな話をしていた。

 

 ふと、開けたびっくり箱の中身を見る。箱の中から飛び出してきていたものは狼の人形だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、ごちそうさま」

 

 宿に戻った俺たちは夕食を済ませ、テーブルで談笑していた。

 

 宿の食事はケルディックでとれた食材を使った料理で、地元の食材をふんだんに使用した料理は中々の美味だった。

 夕食についての感想を語った後、話題は俺たち《Ⅶ組》が集められた理由に移る。

 

 今回の実習でも思ったことだが、俺たち《Ⅶ組》が集められたのはただ単にARCUSの適性だけが理由とは思えなかった。俺たちがARCUSの適性以外の理由について予想する中、リィンがある予想をする。

 

「――士官学院を志望した理由がみんな同じってわけでもないだろうしな」

 

「士官学院への志望理由…」

 

「その発想はなかったわね…」

 

 確かに士官学院の志望理由というのは考えていなかった。リィンの意見を聞いたラウラは自分の志望理由を語る。

 

「ふむ――私の場合は単純だ。目標としている人物に近づくためといったところか」

 

 彼女がいう目標の人物というのは、おそらく彼女の父親である《光の剣匠》のことだろう。もちろんそれ以外の人物かもしれないが、帝国でも最高峰の剣士である彼を目標にするのはおおよその想像がつく。

 ラウラが志望理由を言ったあと、アリサとエリオットがそれぞれ自分の志望理由を明かす。

 

 アリサは“自立”するという理由で、エリオットはもともと音楽系の進路だったが、色々あって士官学院に入ることになったそうだ。

 

 3人が志望理由を語ったあと、エリオットがリィンに話題を振る。リィンは少しだけ考えたあとに答えた。

 

「俺は……そうだな……“自分”を見つけるためかもしれない」

 

「え……」

 

「……ふーん?」

 

 予想していなかった答えに俺たちが驚いていると、リィンは訂正するように続ける。

 

「いや、その、別に大層な話じゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか……」

 

「えへへ、いいじゃないカッコよくて」

 

「ふふ、貴方がそんなロマンチストだったなんて、ちょっと意外だったわね」

 

 リィンの答えが少し気になりはしたが、あまり掘り下げることはしなかった。リィンは少し照れながら、俺に話題を振る。

 

「はあ……変なことを口走ったな。イクスはどうなんだ?」

 

「ああ、俺か?俺は……」

 

 俺は少し考えたあとみんなに話し始める。

 

「…俺は“約束”を守るためかな。その“約束”のためにも強くなりたくて」

 

 俺の答えにみんなは疑問を浮かべ、エリオットとラウラが話しかけてくる。

 

「約束…?」

 

「ふむ、それは誰との約束なのだ?」

 

 口を滑らせすぎたかなと若干心の中で思いながら、とりあえずラウラの質問に答える。

 

「まあ、約束の内容については伏せるけど、約束したのはなんていうか“幼馴染”みたいなやつだな」

 

「へえ、イクスって幼馴染がいるのか」

 

「それって、もしかして異性の人?」

 

「あー、うん」

 

 これ以上話を続けると、うっかり余計なことを言ってしまいそうになったため、俺はこの話題を切り上げる。

 

「まあ、その話はまた今度な。それより、レポートもあるんだしそろそろ部屋に戻ろうぜ」

 

「あ、うん」

 

「……そうだな」

 

 みんなもレポートのことを思い出したようで、席を立ち部屋に戻るために階段を上っていく。俺やリィンも上に上がろうとした時、後ろからラウラがリィンに声をかける。

 

「――リィン」

 

「? どうしたんだ?」

 

 ラウラはどうやらリィンに話があるようなので、俺は二人を残して先に階段を上がっていった。階段を上がる最中に聞こえてきたのはラウラがリィンの流派が《八葉一刀流》であることを尋ねるものだった。そして同時に、何故彼が“本気”を出さないのかと尋ねる内容だった。

 

 ラウラは彼女の父親である《光の剣匠》に“剣の道”を志すならいずれ必ず八葉の者と出会うだろうと言われたのだそうだ。それを聞いたリィンは謙遜しながらラウラに言う。

 

「俺は……ただの“初伝”止まりさ。確かに一時期、ユン老師に師事していたこともある。だが、剣の道に限界を感じて老師から修行を打ち切られた身だ」

 

「……え……」

 

 リィンの答えにラウラは驚いたような、どこかがっかりしたような表情を見せる。そんなラウラにリィンはさらに続ける。

 

「その、だから別に手を抜いてるわけじゃないんだ。八葉の名を汚しているのは重々分かっているけど……これが俺の“限界”だ。……誤解させたのならすまない」

 

「…………」

 

 リィンの言葉を聞いたラウラは少しの間戸惑っていたが、その言葉を飲み込んだあと落胆したような悲しげな表情を見せて、少し素振りをしてくると言って外へ行ってしまった。

 

 その様子を上で見ていた俺とエリオットとアリサは二人を心配していた。

 

 結局、ラウラが戻ってきたのは俺たちが既にレポートを書き終えた頃だった。

 




というわけで12話でした。
やっとイクス以外のオリジナルキャラを出せましたね。あのピエロが一体何者なのか、注目して欲しいところです。
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