英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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第15話 咆哮する巨猿

 

「見つけた……!」

 

「間に合ったみたいだな……!」

 

 時間もそこまでなかったため、俺たちは今日の依頼にあった財布の持ち主探しを終わらせたあと、早速ルナリア自然公園に来ていた。

 

 入り口には頑丈そうな南京錠がかけられていたが、リィンの八葉一刀流の妙技によって南京錠を静かに破壊することができ、俺たちはそのまま自然公園の中に入ることができた。

 

 また、自然公園の入り口で、アリサが帝都の商人が扱っていたというブレスレットを発見していた。盗まれた商品を途中で落としてしまったと考えれば、読み通りこの自然公園の奥に事件の犯人がいることは明らかなことだった。

 

 ルナリア自然公園はかなり広い森で魔獣も徘徊していたものの、俺たちは無事終点と思われる森の奥に到着し、そこで今回の事件の犯人と思われる偽管理人の連中を見つけることができた。

 

 数は4人、その男たちの近くには盗んだであろう商品がある。耳をすまして会話を聞いてみると、男たちを手助けした者もいるようだ。

 手助けした者も気になるが、まずは男たちを取り押さえることが先決だ。

 

「――総員、戦闘準備。戦術リンクも使って彼らを取り押さえるぞ」

 

「了解」

 

 リィンの指示で全員が武器を取り出し、戦術リンクを起動した。準備が整ったことで俺たちは男たちを取り押さえにかかる。

 

「――そこまでだ」

 

「な、何だお前ら!?」

 

「こ、こいつら昨日の……!?」

 

 突然現れた俺たちに男たちは驚く。男たちの中には昨日俺がカマをかけた自称管理人の2人もいる。

 俺たちの登場に驚く男たちにリィンたちは話しかける。

 

「お前たちがこの事件の犯人だな。拘束させてもらうぞ」

 

「それと、盗品の方も回収させてもらうわ」

 

「ぐっ……」

 

 リーダー格と思われる男は悔しげな表情を見せたあと、笑いながら武器を取り出す。

 

「ハッ、誰が拘束されるかってんだ。おい、やっちまうぞ!」

 

 リーダー格が男たちに促すと、他の連中も笑いながらリーダー格と同じ導力銃を取り出し始める。どうやらこちらが学生とあって完全に舐めてくれているようだ。

 

 それを見たリィンは俺たちに号令をかけた。

 

「――いくぞ!《Ⅶ組》A班、これより野盗を拘束する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リィンの合図と同時に全員が動きだす。男たちの得物は銃であるため、こういう時は狙いを絞らせないために動き続けるというのがセオリーだ。

 数はこちらの方が勝っているため1人ずつ確実に戦闘不能にしていこうと思ったのだが、ひとつだけ誤算があった。

 

 男たちの練度が意外にも高いのだ。猟兵とまではいかないものの、その動きはただの野盗にしてはかなり練度が高い。俺たちが一斉にバラけても慌てずに弾幕を張り続けている。

 

「ハハハッ、どうした、どうした!」

 

「ほらほら当たっちまうぞ!」

 

「チッ…!」

 

 こうも弾幕を張られては近接武器である俺とリィンとラウラは中々近寄れない。だが、それはこちらも承知の上だ。男たちの動きを見た俺たち前衛組は既に別の動きをしていた。

 

「そこっ!」

 

「くっ、危ねえっ!」

 

 後ろからアリサの攻撃が野盗の1人に放たれる。男はその攻撃をギリギリで避けた。

 

 俺たち前衛組はなるべく男たちの狙いをこちらに向けさせるために、敢えて射程距離のギリギリを走り回っている。アリサたち後衛に狙いを向けさせないためだ。

 いくら弾幕を張っていても、数の有利はこちらにある。1人を戦闘不能にできればそこから先は崩すことが容易になるはずだ。

 

 そして、アリサの射撃が終わった後本命の攻撃の準備が整う。

 

「《ゴルドスフィア》!」

 

「な、なあっ!」

 

 エリオットが先ほどから準備していたアーツを発動させる。金色に光り輝く3つの球体が男たちの頭上で回り始め、そして停止した瞬間、男たちの間に向かって勢いよく落下した。

 

 エリオットは敢えてゴルドスフィアを直撃させなかった。男たちの装備は軽装であるため、普段魔獣に使っているアーツを直撃させるのは危険だと判断したからだ。

 しかし、直撃させずともその効果は十分だった。

 

 アーツの衝撃で男たちは一瞬動きを止め、同時に弾幕も止まった。彼の狙いはこれだったのだ。

 

「《烈風刃》!」

 

「な、うわあっ!」

 

 その一瞬の隙を逃さず、俺は野盗の1人に斬りかかる。突進してきた俺に驚き、男は動けずに斬られるのを覚悟する。

 

 しかし、男から血が流れることはなかった。

 俺の狙いは最初から持っていた銃の方だったからだ。俺の攻撃によって男の持っていた銃は破壊され、男は戦闘不能になる。

 

「ラウラ!」

 

「承知…!」

 

 野盗の1人がやられたことで、弾幕は崩壊した。リィンとラウラも他の野盗の動きを止めるべくそれぞれ動き出す。

 

「く、来るなあぁぁ!」

 

 俺はそのままもう1人の野盗に向かって走っていた。陣形が崩されたことで男は焦り、俺に向けて銃を乱射している。

 

 しかし、狙いを絞らせないよう縦横無尽に走る俺に、冷静さを失っている男は弾を当てることができない。男から3アージュほどの距離に近づいた俺は高く跳び上がった。

 

 突然跳んだ俺に驚いた男に向かって、俺は左の剣を投げた。

 

「うわっ!?」

 

 飛ばされた剣に驚き、男は咄嗟に飛んできた剣を避ける。だが、それも俺の狙い通りだった。

 

「はあっ!」

 

 飛んできた剣を避けるために、男の視線は一瞬俺から離れていた。その一瞬の隙を逃さず、俺は落下しながら男の銃に向かって斬りおろしを放つ。

 バキン!という音とともに銃は破壊される。着地した俺は尻餅をついている男に剣を突きつけた。

 

「どんなことがあっても、相手から視線を外さないのは戦闘の基本だぜ」

 

「ひいっ」

 

 剣を突きつけながら、周囲を確認する。リィンとラウラも野盗の銃の破壊に成功したようで、戦える者は残っていなかった。それを確認した俺は突きつけていた剣を離す。

 

「ふう、どうやら勝てたみたいね」

 

「ふむ、ただの野盗にしてはそれなりに練度が高かったな。一体どこでこんな戦闘技術を……?」

 

 ラウラの指摘に俺も疑問を浮かべる。最後の方は冷静さを失っていたが、先ほどの戦い方は素人のものではない。だが、それにしては彼らの装備はいささか貧弱すぎる。

 武器を収めたリィンはリーダー格の男に話しかける。

 

「――勝負はあった。あんたたちがどこでその戦闘技術を教わったのかも含めて聞きたいことがある。大人しく投降してもらうぞ」

 

「くっ……」

 

 リーダー格の男は悔しげな表情を浮かべる。他の野盗たちも同様の表情だった。

 

 しかし、俺たちは油断していた。男たちの得物は銃だけだったため、彼らはもう抵抗する術は無いと思っていたからだ。

 

「くそっ、このまま捕まってたまるかよ!」

 

「なにっ!?」

 

 そう言って男は懐から隠し持っていたものを投げる。その瞬間、激しい光が俺たちの視界を覆った。

 

「きゃあああっ!?」

 

「くっ……!?」

 

 男が取り出したものは閃光手榴弾のようだった。完全に油断していた俺たちはその激しい光で、身動きが取れなかった。俺たちが動きを止めている間に男たちは逃げていく。

 

「お前ら、今のうちだ!」

 

「おうっ!」

 

「くそっ、待ちやがれ!」

 

 男たちを止めようとするが、視界が奪われたこの状況では男たちを追うことは不可能だった。次第にその足音が遠ざかっていく。

 

「くっ、みんな大丈夫か!?」

 

「ええ、なんとか!」

 

「ううっ、目がチカチカする……」

 

 徐々に視界が戻り、辺りを確認すると、そこには俺たちしかいなかった。野盗たちに完全に逃げられたようだ。

 

「……油断した。どうやら取り逃がしたようだ」

 

「でも、まだそう遠くには行ってないはずだ。すぐに追いかけようぜ!」

 

「ああ!」

 

 視界も元に戻ったため、俺はリィンに追跡することを提案する。リィンもそれに頷くと、不意にエリオットが何かに気づく。

 

「……あれ?」

 

「エリオット?」

 

「どうしたの?」

 

 何かに気づいたエリオットにリィンとアリサが尋ねると、エリオットもそれに答える。

 

「あ、うん。何か今、笛のような音が聞こえたような気がして……」

 

「笛……?」

 

 そんな音には気づかなかったが、彼は音楽をやっているようだし耳もいいのだろう。しかし何故そんな音がしたのか。

 

 エリオットにどんな音だったのか聞こうとしたとき、森に大きな咆哮が響き渡る。

 

「こ、これって……」

 

「大型の獣か……!」

 

 咆哮がした後、地響きがこちらにどんどん近づいてくる。そして、森の奥からその咆哮の主が姿を現した。

 

「巨大なヒヒ……!?」

 

「な、なんて大きさ……!」

 

 俺たちの前に現れたのは巨大なヒヒ型の魔獣だった。その体長は10アージュはありそうだ。

 そして、その魔獣に連れられて自然公園に徘徊していた《ゴーディオッサー》も2体やってきた。

 

 突如魔獣が現れたため、俺たちは武器を取り出す。武器を取り出しながらラウラはリィンに尋ねた。

 

「この自然公園のヌシといったところか……!――どうする、リィン!」

 

「野盗たちを追いかけたいところだが、この魔獣に追いかけられながらは流石に無理だ。みんな、まずはこの魔獣たちを撃破するぞ!」

 

 リィンの指示に俺たちも覚悟を決める。

 

「承知……!」

 

「っし!やってやるか……!」

 

「わ、分かったわ……!」

 

「女神さま……どうかご加護を……!」

 

 再び巨大なヒヒ型の魔獣が吠える。魔獣との戦闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、イクス!2人は取り巻きの《ゴーディオッサー》を頼む!アリサとエリオットはそれまで俺とヌシを足止めするぞ!」

 

「任せるがよい!」

 

「了解!」

 

 リィンの指示が飛び、俺たちはそれぞれ指示通りに動き始める。ラウラには左にいた方を任せて、俺は右にいる方へ向かっていった。

 

 正直、あの巨大な魔獣を3人だけに任せるのは不安だが、取り巻きを同時に相手するよりは俺とラウラが先にゴーディオッサーを倒し、改めて全員でヌシを倒すのがこの場合は一番だろう。

 そのためには俺とラウラは少しでも早く、ゴーディオッサーを倒してみんなに合流しなければならない。

 

 幸い、この場所にくる道中でゴーディオッサーとは戦っている。エリオットの解析結果も含めて、攻撃パターンは頭に入っていた。

 

「ホオオオッ!」

 

 ゴーディオッサーは真っ直ぐに走ってきた俺にその腕を振り下ろす。コイツの攻撃はそのパワーを生かした物理攻撃だ。当たればダメージは大きいが、その分動きが単調なので一度攻撃パターンを覚えてしまえば攻撃を躱すことは造作もない。

 

「甘いッ!」

 

「ウホオッ!?」

 

 振り下ろされた拳を躱した俺は、比較的やわらかい部位である胸のあたりを斬りつける。

 しかし、傷が浅かったかゴーディオッサーはすぐに反撃に出た。

 

「ウホオオ!」

 

「っぶね!」

 

 今度はもう一方の腕を横に振り回したため、俺は咄嗟にその攻撃をしゃがんで回避した。頭の上で振られた腕による風が吹き抜けていく。

 だが、ゴーディオッサーの足下はガラ空きだ。俺は足下を抜けるようにその左足を斬り裂いた。

 

「ウホオオ!?」

 

 片足を斬られたゴーディオッサーはバランスを崩して前に倒れこんだ。倒れたゴーディオッサーに俺はとどめを刺すべく跳び上がる。

 

「これで、終わりだ!」

 

「ホオオオオ……!」

 

 俺はゴーディオッサーの背中に双剣を突き刺した。狙い通り双剣は背中を貫通して心臓に届いたようで、ゴーディオッサーは弱弱しく叫んだ後、消滅していった。

 

「よし、これで……!」

 

 ゴーディオッサーを倒したことで、リィンたちの加勢に向かえる。そう思って振り返ろうとした瞬間、エリオットとアリサの悲鳴が聞こえる。

 

「イクス!上、上!!」

 

「避けて!!」

 

 2人の言う通りに上を見上げると、俺に向かって大きな石が迫って来ていた。石に気づいた俺は慌てて横に跳ぶ。

 

「あっぶねー、死ぬかと思った……」

 

 先ほどまで俺がいたところには降って来た石が地面に深々と刺さっていた。避けていなければ間違いなく石に潰されていただろう。

 

 石が降って来た方向を見ると、そこにはあの巨大なヒヒがいた。おそらくアイツが俺に向かって石を投げたのだ。

 

「なんつーパワーだよ……」

 

 ここからリィンたちが戦っているヒヒまでの距離は少なくとも10アージュ以上はある。あの大きな石をこちらに投げたということはかなりのパワーの持ち主だ。

 

 ヒヒ型の魔獣は再びリィンたちと戦闘を始めたため、俺も立ち上がる。

 

「イクス、どうやら無事のようだな」

 

「ああ、なんとかな」

 

 ラウラもゴーディオッサーを倒したようで、俺に駆け寄ってきた。俺は駆け寄ってきたラウラと一緒にリィンたちの加勢に向かう。

 

「グオオオッ!」

 

「ラウラ!」

 

「うむ、ゆくぞ!」

 

 魔獣が再び咆哮し、近くにいたリィンたちはその音に耳を塞いでしまって身動きが取れない状態だ。このままだと魔獣の追撃をガードできない。

 俺とラウラは即座にリンクを繋ぎ左右に分かれてダッシュした。

 

「グオオ!」

 

 リィンたちに向かって魔獣の巨大な腕が振り下ろされる。リィンたちも咄嗟に防御しようとするが、あのパワーの攻撃は流石に防御しきれないだろう。

 しかし、その腕が振り下ろされる前に俺とラウラが左右からの攻撃を仕掛ける。

 

「《鉄砕刃》!」

 

「《烈風刃》!」

 

「グオオオッ!?」

 

 左右から走り込んでいた俺とラウラによって魔獣の脇腹にそれぞれ攻撃がヒットする。脇腹の肉質は比較的柔らかかったようで、血が吹き出し魔獣は悲鳴をあげた。

 

 動きが止まっている間にリィンたちも後退し、体勢を立て直す。俺とラウラも魔獣から離れてリィンたちと合流した。

 

「ラウラ、イクス!」

 

「ありがとう、助かったわ!」

 

「うむ、無事でなによりだ」

 

 合流した俺たちはお互いの無事を確認し合う。リィンたちもところどころ傷はあるものの、戦闘ができないほどの傷ではなかった。

 駆け寄った俺にエリオットが安心した様子で話しかけてくる。

 

「イクス!よかった、さっきのも避けられたんだね」

 

「ああ、アリサもさっきはありがとな」

 

 エリオットとアリサにお礼を言うと、魔獣の方も立ち直ったようで、俺たちを見据えながら咆哮した。リィンたちもダメージを与えてはいるようだが、あの様子だとまだ余力がありそうだ。

 

 エリオットが解析した結果によれば、あの魔獣の名前は《グルノージャ》という名前で弱点は先程まで俺が戦っていたゴーディオッサーと同じ火属性とのことだ。

 グルノージャはこちらの出方を伺っているのか、攻撃してこない。ラウラはグルノージャの情報を聞いてアリサに問いかける。

 

「アリサよ、そなたの火属性のアーツでどれだけダメージを与えられる?」

 

「そうね……今使える中で一番強い火属性のアーツでもそこまでのダメージにはならなかったわ」

 

「そうか……」

 

 この中で最も攻撃系のアーツに長けているアリサでも、グルノージャにダメージを与えるのは難しいようだ。仮にラウラの奥義と合わせたとしても、仕留めきれない可能性がある。

 

 悩む俺たちにリィンがある質問をする。

 

「ラウラ、アリサ、2人の攻撃で隙は作れるか?」

 

「え……」

 

「リィン……?」

 

 突然のリィンの質問にアリサとエリオットは疑問を浮かべる。彼の質問の意図を察したラウラはリィンに尋ねる。

 

「……ふむ、何やら秘策がありそうだな」

 

「ああ、隙さえできれば奴を仕留められるかもしれない」

 

 いつになく自信のある表情のリィンを見た俺は、彼を信じることに決めた。ラウラの言う通り、彼に何か考えがあるのだろう。

 

「よっしゃ!それじゃあ、ラウラとアリサは奥義とアーツの準備をしててくれ。エリオットと俺でなんとか時間を稼ぐ!」

 

「えええっ!?」

 

 俺と2人で時間稼ぎを担当することになったエリオットは驚く。まあ、アレを2人でどれだけの時間引きつけられるか分からないが、やってみるしかないだろう。

 

「ああ、悪いけど頼んだ」

 

「ううっ、やるしかないかぁ……」

 

 エリオットもしぶしぶ納得してくれたようで、戦術リンクを俺とエリオット、ラウラとアリサで繋ぎ直す。それと同時にグルノージャの方もしびれを切らして、俺たちに向かって突進してきた。迷ってる時間はなさそうだ。

 

「よし、いくぞエリオット!」

 

「う、うん!」

 

 グルノージャをリィンたちに近づけさせないために、俺とエリオットは迎撃に向かう。俺たちが走り出すのと同時に、アリサもアーツの駆動を開始した。

 

「グオオオッ!」

 

「ほら、こっちだ!」

 

 狙い通りにグルノージャは俺をターゲットにしたようで、走る俺にめがけて拳を次々と振り下ろす。俺の後ろではその衝撃で地面が揺れているが、俺は足を止めずに走り続ける。

 このままだと俺の体力が尽きてしまうが、この程度時間を稼げれば十分だった。

 

「《アクアブリード》!」

 

「ガアアアッ」

 

 俺が逃げ回っている間にアーツを準備していたエリオットが、グルノージャの顔面にアクアブリードを命中させ、グルノージャはその衝撃で顔を覆った。水属性は弱点ではないものの、俺にとっては十分すぎるほどの隙だ。

 

「喰らいやがれ!」

 

「グオオオッ!?」

 

 その一瞬の隙を狙って俺はグルノージャの懐に潜り込み、その腹に渾身の一撃を放った。俺とエリオットの連携でグルノージャに大きな隙が生まれる。

 

「今だ!アリサ、ラウラ!」

 

 俺はグルノージャの懐から離れて、アリサとラウラに合図を送る。彼女たちも準備万端のようで、間髪を入れずに攻撃を開始する。

 

「《ヒートウェイブ》!」

 

 アリサが用意していた火属性のアーツを放つ。グルノージャは弱点である火属性のアーツをくらってかなり苦しんでいる。そこへ、ラウラがすかさず奥義を叩き込む。

 

「《奥義・洸刃乱舞》!」

 

「グオオオッ!」

 

 ラウラに強烈な一撃をもらったグルノージャはその体勢を大きく崩した。それを確認したラウラは下がりながらリィンに呼びかける。

 

「今だ!リィン!」

 

「ああ!」

 

 ラウラの合図を聞いたリィンの太刀はごうごうと燃え盛る炎を纏っていた。

 

「――焔よ、我が剣に集え!」

 

 燃え盛る太刀を持ったリィンはグルノージャの下に素早く走り、その太刀を振り下ろす。

 斬りおろしを放ったあと続けざまに水平斬りを放ち、その焔の太刀を大きく振りかぶった。

 

「はあああ――斬ッ!」

 

 三度振られた焔の太刀によって、グルノージャの体は焼けていく。リィンの渾身の一撃によるダメージとその残火によってグルノージャは力尽き、その体から煙を出しながら消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ……」

 

「と、とんでもなかったわね……」

 

「さ、さすがにもうダメかと思ったよ……」

 

 見事に魔獣を撃退した俺たちは皆、息を切らして座り込んでいた。野盗に続けて魔獣と戦ったこともあり、アリサやエリオットだけでなく、俺やラウラももかなり体力を消耗していた。

 

 息を整えたラウラは先程のリィンの技について質問する。

 

「――リィン、今しがた見せたのは?」

 

「ああ、修行の賜物さ。今まで実戦ではロクに使えなかったんだが……何とかコツが掴めたみたいだ」

 

「そうか……」

 

「はは、ぶっつけ本番で成功させたのかよ」

 

 リィンが見せた技は見事なものだった。アレをぶっつけ本番でやってのけるあたり、彼の底力を感じる。

 

 そうして俺たちが勝利に浸っていると、俺はある事を思い出した。

 

「……そうだ、あの野盗どもを早く捕まえないと……!」

 

「あっ、そうだった!」

 

 そう、魔獣を退治したはいいが肝心の野盗たちを取り押さえられていない。今すぐにでも奴らを追わなければ。

 リィンたちもそれを思い出して行動しようとした時、ピーという笛の音と共に厄介な連中がやってきた。

 

「手を上げろ!」

 

「抵抗は無駄だぞ!」

 

 現れたのは領邦軍だった。彼らは銃を構えながら俺たちを取り囲む。

 

「何故、我らを取り囲むのだ……!」

 

 領邦軍の行動にラウラは静かに怒りを燃やしながら隊長に問う。問われた隊長は白々しく返答した。

 

「フン、理由もなにもそこに盗品がありお前たちがここにいた。ということはつまり、お前たちがこの事件の犯人だったということだろう?」

 

「な、何ですって!」

 

「チッ、嵌められたか……!」

 

 どうやら領邦軍の連中は俺たちを犯人に仕立て上げるつもりらしい。このタイミングといい、やはりあの野盗と繋がっているのは間違いないようだ。

 しかし、その野盗がいない今、ここにいる俺たちが疑われるのは不自然なことじゃない。俺たちも自分たちがやっていないということを証明もできないため、状況は最悪だった。

 

「さて、それでは詰所の方でゆっくりと話を聞かせてもらおうか?」

 

「くっ……」

 

 どうすることもできずに絶体絶命の状況に陥っていると、そこに涼しげな声が響いた。

 

「――その必要はありません」

 

「え――」

 

 その声と同時に、灰色の衣装を身にまとった集団が現れた。そして彼らの後ろには拘束された野盗の姿も見える。突如現れた集団を見て、領邦軍の隊長は憎々しげに呟く。

 

「《鉄道憲兵隊》……鉄血の子飼が何故こんなところに……!」

 

 《鉄道憲兵隊》、帝国軍の中でも精鋭揃いとされる部隊だ。彼らは主に大陸横断鉄道で起きた事件に対応することが多いが、時にはその機動力を生かして帝国軍が向かえない場所で起きた事件にも関わることもできる。

 

 そして、先程の涼しげな声の女性が領邦軍の隊長に話しかける。

 

「お言葉ですが、ケルディックは鉄道網の中継地点でもあります。そこで起きた事件については我々にも捜査権が発生する。その事はご存知ですよね?」

 

「くっ……」

 

 その女性は口調こそ丁寧だったが、その言葉には確固たるものを感じる。そして女性は話を続けた。

 

「そして、先程取り押さえたこの者たち。彼らから聞いた話によればどうやらそこにある盗品を含めて、彼らの仕業のようですし。ですのでそこにいる学生さんたちが犯人である可能性は低いと思いますが、何か異議はおありでしょうか?」

 

 取り押さえられた野盗たちはどうやら鉄道憲兵隊に話を聞かれてしまったようで、彼らも観念して大人しく拘束されていた。

 

 女性の話を聞いた隊長は悔しげな表情をしてから撤収の号令をかけた。俺たちを取り囲んでいた兵士たちもいなくなっていく。隊長は最後にあの女性に何か言ったみたいだが、離れていたためその声は聞こえなかった。

 

 領邦軍が撤収したことで、女性は俺たちの方へ歩いてきた。俺たちがその女性に見とれていると、女性はにっこりと笑いながら俺たちに話しかけてきた。

 

「ふふ、お疲れ様でした。帝国軍・鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です。トールズ士官学院の方々ですね?調書を取りたいので、少々お付き合い願えませんか?」

 




いい感じの区切りが見つからなくて結構長めになってました。
多分次で第1章は終われると思います。
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