今日発表された閃Ⅳの情報で一番驚いたのは、カシウスが太刀を持っていたことですね。
あのチート親父の本気が見れるのでしょうか……
「―――……!」
奇妙な機械音を上げながら戦術殻と呼ばれる物体は動きを停止する。徐々に弱弱しくなっていく機械音は、まるで魔獣が倒される時の断末魔の叫びのようにも聞こえた。
「ふぅ、なんとか倒せたね……」
「ええ、前回よりは私も《戦術リンク》を使いこなせたと思います」
「ん。先にリィンたちが戦ってたからやり易かった」
戦闘を終えたエリオット、エマ、フィーの3人はお互いを褒めながら武器を収める。サラ教官も前の組に続いてエリオットたちがいい結果を出していたため、満足そうな表情だ。
今の戦闘でも既に《戦術リンク》を使いこなしていたエリオットを中心として、危なげなく敵を倒すことができていた。
そんな中、次に戦術殻と戦うことになっている俺の胸中は不安で一杯だった。
「さあ、僕たちもとっとと終わらせるぞ!」
「フン……貴様が指図をするな」
「な、なんだと!?」
呆れる俺を挟んでユーシスとマキアスがいつも通りの睨み合いをしている。もはや止めるのも面倒になってきたため、睨み合う2人を放って戦闘準備を始める。
最後に残った組は俺とユーシスとマキアスの3人だった。
5月26日水曜日。
この日も朝から青空が広がり、外も空から降り注ぐ日光によって程よい暖かさに包まれていた。先月に引き続き、俺たち《Ⅶ組》はグラウンドで《実技テスト》を行なっている。
グラウンドに集まった俺たちに、サラ教官は先月同様《戦術殻》と呼ばれる動くカカシのような機械を見せた。その形や色は先月の時と変わっており、サラ教官によれば前よりも強化されてその名前も《戦術殻β》に変わっているとのことだ。
《実技テスト》についての説明は先月終わっているため、サラ教官は早速俺たちを3チームに分けてテストを開始した。
最初の組はリィン、ガイウス、アリサ、ラウラの4人で、全員が《戦術リンク》を使いこなせることもあり、強化された戦術殻もあっさりと倒されてしまった。
2番手は先ほど戦っていたエリオットたちの組で、こちらも先程のリィンたちの戦闘を参考にして《戦術リンク》を使いこなし、なかなかの結果を残している。
そして最後に残った俺、ユーシス、マキアスのチームも戦術殻を相手に《実技テスト》を開始していた。前の2組がいい成績を残しているため、こちらもそれなりの結果を出したかったのだが……
「くっ、僕の射線上に入ってくるな!後ろから撃たれたいのか!」
「貴様こそ俺の邪魔をするな!」
「2人とも集中しろ!」
前の2組のように《戦術リンク》を用いたチームワークで善戦するのではなく、3人それぞれから怒号が飛び交うというおよそ連携が取れているとは言えない状況に陥っていた。
俺たちがここまで苦戦してしまっている原因は主に2つある。
1つ目はユーシスとマキアスの《戦術リンク》による問題だ。
ユーシスは剣の他にもアーツも使える遊撃タイプ、マキアスは導力銃とアーツで支援をする後衛タイプである。俺が典型的な前衛タイプであるため、普通ならユーシスとマキアスで《戦術リンク》を繋いでユーシスが遊撃をしながら前衛の俺にマキアスの攻撃を知らせるというのが理想の戦い方だ。
しかし、2人はその仲の悪さからリンクを繋いでもすぐに断然してしまうため、その戦い方が不可能であった。
そしてもう一つは、サラ教官が今回の実技テストで課した条件だった。
今回の実技テストでは、ただ単純に戦術殻を倒すのではなく“戦術殻のアーツの駆動を解除しろ”という条件が付けられているのだ。
ただでさえ2人のことに気を配らなければならないというのに、敵の行動にも注意しないといけないというのが厄介なのである。
ロクな連携も取れない俺たちに機械である戦術殻が気を使ってくれるわけはなく、容赦なく俺たちに攻撃を仕掛けてくる。
「―――!」
「ぐっ……!」
「小癪な真似を……!」
戦術殻はその身体から電気を放出し、広範囲に放出された電撃を俺たちはまともに受けてしまう。電撃によって俺たちが痺れている間に戦術殻はアーツを駆動し、動けない俺たちはそれを阻止できなかった。
戦術殻が発動したのは《アダマスシールド》というもので、物理攻撃を防ぐアーツだった。戦術殻のまわりに半透明の障壁のようなものが展開し、俺たちもようやく動けるようになる。
アダマスシールドが展開している間は物理攻撃が通らなくなるため、アーツによる攻撃が有効だ。普通なら1人がアーツで敵の動きを止めてその隙に障壁を破壊すれば良いが、ここでも連携の乱れが発生する。
「「ARCUS駆動――!」」
「なっ!?」
ユーシスとマキアスが同時にアーツの駆動を開始してしまったのだ。
一度駆動を開始してしまった以上、アーツを発動するまで2人は身動きが取れなくなる。俺の他にもう1人フォローできる者がいれば問題ないのだが、今は2人以外は俺しか動くことができない。
当然、戦術殻もその隙を見逃すはずもなく、再びあの電撃攻撃の準備に入った。
このままでは2人の駆動も解除され、《アダマスシールド》ももう一度張り直されてしまう可能性もある。そうなればますますこちらの状況が悪くなるため、俺は戦術殻に向かって走り出した。
「《嵐霆斬》!」
戦術殻のまわりにある障壁を破壊すべく、俺は至近距離で《嵐霆斬》を放った。本来なら周りの敵を一掃する技であるため敵の至近距離で使うことはないのだが、至近距離で発動すればその破壊力で障壁を壊せるだけの威力はある。
狙い通り戦術殻のまわりにあったアダマスシールドはその衝撃で破壊された。だが、戦術殻自体にはダメージは届いていないため、敵はその動きを止めずに電撃を放とうとする。
「させるかっ!」
「―――!」
電撃を放つ瞬間、俺は戦術殻に飛びついた。放たれた電撃は広がることなく俺に直撃する。
「があっ……」
広範囲に放たれるはずの電撃を一身に受けた俺は先程よりも強烈な衝撃でその場に倒れた。身体も完全に痺れて手足が動かせない。
だが、それによってユーシスたちに電撃がいくことはなかった。アーツの準備が完了した2人は同時に攻撃を放つ。
「《エアストライク》!」
「《ニードルショット》!」
攻撃後で隙ができていた戦術殻はその攻撃をモロに喰らい、戦術殻は大きく仰け反る。連携ができていなかったとはいえ、今までそれなりのダメージは与えてきた。コイツもそろそろ体力の限界だろう。
本来ならここで俺がとどめを刺すところなのだが、未だに身体の痺れが取れない状態だった。
戦術殻もやられるわけにいかないため、再びアダマスシールドの駆動を開始する。
しかし、流石に2人もそれをみすみす許すわけはなかった。
「《クイックスラスト》!」
走り寄って来ていたユーシスが戦術殻に高速の突きを数回繰り出す。その攻撃で戦術殻の駆動は解除され、すぐさま後ろから追撃が飛んで来た。
「これで終わりだ!《ブレイクショット》!」
リミッターを外したことで威力が上がった弾丸が戦術殻を撃ち抜き、戦術殻は動きを停止した。ユーシスも辛うじてその弾丸の射線からずれているようだった。
俺もようやく痺れが取れて起き上がる。
なんとか条件をクリアして倒したが、これは良い成績が貰えなさそうだった。
「……分かってたけど、ちょっと酷すぎるわねぇ。イクスはともかく、そっちの2人はせいぜい反省しなさい。この体たらくは君たちの責任よ」
「……くっ……」
「………(ギリッ)」
こうして全ての組の《実技テスト》が終了し、サラ教官はいつになく厳しい言葉をユーシスとマキアスに送っていた。それだけ俺たちの結果が酷かったということだ。
《実技テスト》が終了したことで、サラ教官は気をとりなおして今週末にある2度目の《特別実習》の内容が書かれたプリントを俺たちに配る。
が、そこに書いていた内容は衝撃的なものだった。
[5月特別実習]
A班:リィン、エマ、マキアス、ユーシス、フィー
(実習地:公都バリアハート)
B班:イクス、アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウス
(実習地:旧都セントアーク)
A班の行き先であるバリアハートは、ユーシスの実家であるアルバレア家がある帝国でも2番目に大きいとされる都市であり、クロイツェン州の州都でもある。
対して俺たちB班の行き先であるセントアークは、帝国南部のサザーラント州の州都である。
しかし、問題は行き先ではなくその班構成だった。
「――冗談じゃない!サラ教官!いい加減にしてください!何か僕たちに恨みでもあるんですか!?」
「……茶番だな。こんな班分けは認めない、再検討をしてもらおうか」
マキアスとユーシスは怒りを露わにしてサラ教官に班分けの再検討を要求する。前回の実習に引き続き、今回もこの2人が同じ班になっているのだ。
それに先程の実技テストでも同じ組にされて不甲斐ない結果を残した後ということもあり、2人の怒りも頂点に達していた。
班分けを要求する2人にサラ教官はこの班分けがベストだと言って譲る気は無いようだった。
バリアハートはユーシスの故郷であるためユーシスは外せないし、バリアハートは貴族が特に多い都市であるため、敢えてマキアスも外す訳にいかないそうだ。
そして納得がいっていない様子の2人に対してサラ教官は2人を挑発するように言う。
「ま、あたしは軍人じゃないし命令が絶対だなんて言わない。ただ、Ⅶ組の担任として君たちを適切に導く使命がある。……それに異論があるなら、いいわ。――2人がかりでもいいから、力づくで言うことを聞かせてみる?」
サラ教官はにっこりと笑っていたが、放っているプレッシャーは凄まじいものだった。サラ教官も2人に大分怒っているらしい。
そして、ユーシスとマキアスもサラ教官に言われて黙っているわけはなく、再び得物を取り出してサラ教官の前に立った。この様子だと止めても無駄なようだ。
挑発に乗ってきたユーシスとマキアスを見たサラ教官も自らの得物を取り出す。
彼女が出したのは片手剣と通常よりも大きめの導力拳銃だった。
「!?」
「な……!」
サラ教官の武器を見たマキアスとユーシスは驚く。彼らだけでなく後ろから見ていた俺たちも初めて見るサラ教官の凶悪そうな武器に驚いていた。また、それを持つサラ教官から放たれる闘気も凄まじく、それを見た俺とラウラもサラ教官が改めて自分よりも上の武人であることを確信していた。
そして、サラ教官はついでにリィンを参加させて戦闘開始の合図をする。
「それじゃあ《実技テスト》の補習と行きましょうか。トールズ士官学院・戦術教官、サラ・バレスタイン――参る!」
その合図と同時に、全員が動き出す。
しかし、そこから始まったのはおよそ戦闘と呼べるものではなかった。
まずはじめにリィンたちはサラ教官から距離を取り、固まっているところをやられないようにバラバラに散らばった。散らばることによって様々な方向から攻撃するのが狙いだったのだが、相手が悪かった。
サラ教官はリィンたちが散らばることも予測していたようで、迷うことなく一番近くにいたユーシスに狙いを定めて走り出す。猛スピードで迫ってくる相手をユーシスも迎え打とうとするが、ユーシスの剣はサラ教官に掠ることもなかった。
ユーシスの攻撃をいとも簡単に避けたサラ教官はそのままユーシスに導力銃の攻撃を浴びせて、彼を一瞬で戦闘不能にした。
いくらサラ教官といえども攻撃後は隙ができる。その一瞬の隙を逃さなかったリィンとマキアスはサラ教官に同時攻撃を仕掛ける。
しかし、サラ教官は2人の攻撃をも読んでいた。
リィンが放った《孤影斬》による斬撃をジャンプして躱しながら、マキアスの弾丸を右手の剣で弾いたのだ。飛び上がったサラ教官はそのままマキアスに攻撃を喰らわせて、あっという間に3人のうちの2人を倒した。
そして、なんとか一太刀浴びせようと走り込んできたリィンの攻撃を受け流し、体勢を崩したリィンに剣を向ける。その刃はリィンの首元で止まっており、リィンも太刀を離して降参する。
サラ教官が全員を戦闘不能にするまでにかかった時間は僅か1分にも満たなかった。
悔しそうな表情のリィンたちに、サラ教官は満足そうな顔を浮かべる。
「フフン、あたしの勝ちね。それじゃあA班・B班共に週末は頑張ってきなさい。お土産、期待してるから♡」
というわけで次回からオリジナルの特別実習です。
新たなオリキャラたちも出てくるのでそちらの方もお楽しみに。