英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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それでは特別実習編スタートです!




第20話 《白亜の旧都セントアーク》

 

「これでどうだ!」

 

 イクスの手がふりかざされた瞬間、突如として出現した激しい稲妻がガイウスを襲う。

 

「そう来たか……」

 

 稲妻はガイウス自身には直撃することはなく、彼の前にあった十字の槍がその一撃を受けていた。しかし、稲妻の衝撃を一身に受けた槍は無残に散ってしまい、バラバラになった破片は電光によって起きた炎に焼かれていた。

 イクスの攻撃を受けたガイウスにもまだ手は残っていた。自らの得物でもある槍の仇を取らんとするため、ガイウスはすかさず反撃に転じる。

 

「これを使わせてもらおう」

 

 ガイウスが繰り出したのは大きな鏡を出現させる魔法だった。だが、その鏡はただの鏡ではない。場に現れた鏡はイクスとガイウスの2人を映しだし、眩い閃光を放つ。

 

 光が消えると同時に戦況には大きな変化が生じていた。イクスの目の前にあるのは灰と化したかつて槍であったモノと見知らぬ武器たち。そして、ガイウスの前には先程まで自分の前にあった武器の数々。

 

 そう、2人の所持していた武器たちが入れ替わってしまったのだ。

 

 先の魔法によって戦況は逆転し、今度はイクスが不利な状況に陥っていた。自らの放った攻撃は、皮肉にも自分の首を絞めるものになってしまったのである。

 

「……甘いぜ、ガイウス」

 

「む……?」

 

 だが、イクスの目は光を失っていなかった。この勝負に決着をつけるべく、彼は勝負の一手を繰り出す。

 

「これで終わりだっ!」

 

 イクスが放ったのは先程ガイウスが使った魔法だった。再び戦場に閃光が走り、イクスとガイウスの戦力が入れ替わる。2人に残された手も僅かであり、イクスは最後の一撃として最大の威力を誇る“大剣”が残っている。このまま勝負が続けばイクスの勝利は確実だろう。

 

「……?」

 

 イクスは自らの勝利を確信しガイウスの方を見る。だが、ガイウスの表情には焦る様子はなく、それどころか余裕そうな笑みを浮かべている。

 

 一体何を考えているのか。イクスがそれを考えようとしたとき、ガイウスは次の一手を繰り出した。

 

「……悪いな、イクス。俺の勝ちだ」

 

「何っ、まさか……!?」

 

 イクスの嫌な予感は当たってしまった。

 

 再び戦場にあの鏡が現れ、眩い光を放つ。閃光が止むと同時にイクスの目の前に現れたのは、ガイウスが所持していた武器。ガイウスの目の前には再び自分の武器が並んでいる。ガイウスはこの状況を読んでいたのだ。

 

 予想外の攻撃を受けたイクスは最後の一手であった大剣を自らの場に出すが、勝負は既に決していた。ガイウスが繰り出した最後の一手もイクスと同じ大剣。

 

「……負けました」

 

「ああ、いい勝負だった」

 

 イクスは自らの負けを認めてガイウスに礼をする。勝負が終わった2人の間には武器と数字が書かれたカードがいくつか並んでいる。

 

 イクスは本日3度目となる敗北を味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日は5月29日、2回目となる《特別実習》の日だ。

 俺たちB班は全員寝坊することなく早朝の列車に乗って、実習地である《旧都セントアーク》に向かっている。

 

 俺とガイウスが先程までやっていたのは《ブレード》というカードゲームだった。《ブレード》はルールも簡単で初心者でも楽しみやすいカードゲームで、初心者のガイウスも初めてながら2勝を挙げている。

 先月行ったケルディックよりも乗車時間が長いので、暇つぶしに《ブレード》で勝負することになっていたのだ。アリサとラウラもルールを知っているため、全員で勝負を楽しむことができていた。

 

「3連敗か……なんか今日は引きが悪いな」

 

「あはは、まあそんな時もあるよ」

 

 まさかの3連敗に凹む俺にエリオットが慰めの言葉をかける。慰めてくれるのは嬉しいが連敗の内の一つは彼との勝負もあるため、複雑な気持ちだ。

 

「まあ、勝負は次の機会にするべきだろう。そろそろ駅に着くころだ」

 

「ええ、私たちも降車の準備をしましょうか」

 

 俺としてはもうひと勝負と言いたいところだったが、ラウラの忠告によってそれは止められた。ブレードに夢中で気づかなかったが、目的地であるセントアークまであと少しのところまで来ていた。

 

 俺たちB班が行く《旧都セントアーク》は帝国五大都市の一つであるサザーラント州の州都で、古くから“芸術の街”としても知られている。

 暗黒時代に帝都ヘイムダルが暗黒竜の瘴気によって死の都と化したとき、時の皇帝アストリウスⅡ世が残っていた民を率いて仮の都としたのが旧都セントアークである。現在の街並みは白というよりは灰色に近いものになっているが、当時は“白亜の旧都”と呼ぶにふさわしい純白に輝く街並みだったそうだ。

 

 しかし、俺もセントアークは実際に訪れたことがなかったため、今回の実習を楽しみにしていた。俺以外のみんなも同様で、それぞれ初めて訪れる街に期待を膨らませているみたいだ。

 

 皆が降車準備を進める中、ふとアリサが窓の外を見ながらため息をつく。

 

「リィンたち、大丈夫かしら……」

 

 今日の朝列車に乗る前にA班にも会ったが、A班のメンバーは案の定空気が重かった。ユーシスとマキアスだけでなく、リィンとマキアスも上手くいっていないからである。

 先月のB班の実習では主にユーシスとマキアスの関係のせいで最低評価をもらっており、今回はさらに状況が悪化している。アリサが心配するのは無理も無いだろう。

 

 しかし、俺はリィンならなんとかしてくれるだろうという期待を持っていた。この二ヶ月で改めて思ったが、彼は良くも悪くも《Ⅶ組》の中心人物だ。この複雑な関係を改善できるのも彼が一番適任だろう。

 

 そう思っていた俺は心配そうなアリサを元気にさせるために、少しからかってみる

 

「何だよアリサ、そんなにリィンのことが心配なのか?」

 

「そりゃまあ……って、違うわよ!べ、別に心配してるのはリィンだけじゃないからね!?」

 

「ふふ、そういうことにしておこう」

 

「もう、ラウラまでからかわないでよ!」

 

 顔を真っ赤にして否定するアリサを見たラウラも意味深な笑みを浮かべる。ラウラにまでからかわれたアリサはさらに顔を赤くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事セントアーク駅に到着した俺たちは、これからどこに行くべきなのか悩んでいた。

 

 前回はサラ教官に案内されて宿に連れて行ってもらったが、今回はどちらの班にもサラ教官はついて来ていない。サラ教官は『行けばわかる』としか伝えてくれず班全員が初めて訪れる土地であるため、俺たちはどこに向かえばいいのか見当もつかなかったのだ。

 

「どうする?とりあえず駅から出てみるか?」

 

「そうね、このまま駅に居てもしょうがないし……」

 

「うん、まずは宿を自分たちで探してみるか」

 

 とにかく動かなければ何も始まらないため、まずは駅を出ようとする。俺たちが駅から出ようとした時、後ろから声をかけられた。

 

「――トールズ士官学院《Ⅶ組》の方々でございますね?」

 

「え――」

 

 振り返った先にいたのは黒をベースとしたメイド服を着た女性だった。その女性の髪はメイド服同様の黒髪で、全身が黒と白でまとまっており彼女の上品さを際立てている。

 突然現れたメイド服の女性は俺たちに一礼をしながら自己紹介を始めた。

 

「わたくし、ハイアームズ家のメイド長を務めるリーゼという者です。今回は皆さまの実習で案内役を務めますので、どうぞよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

「うむ、頼りにさせてもらおう」

 

 丁寧に自己紹介をしてくれたリーゼさんに俺たちも挨拶を返す。サラ教官が言っていたのはおそらくリーゼさんのことだったのだろう。

 

 自己紹介を終えたリーゼさんは早速俺たちを宿に案内してくれた。

 俺たちが泊まることになったのは《ホテル・オーガスタ》というところで、今回は前回のように男女一緒の部屋というわけではなく、ちゃんと男女別で2部屋用意されていた。貴族も泊まることがあるホテルだけあって、用意された部屋もかなりいい部屋だった。ベッドもフカフカで寝心地が良さそうだ。

 

 俺たちが部屋に荷物を置いた後、リーゼさんはホテルのフロントで俺たちを待ってくれていた。

 

「皆さま、宿の方はお気に召したでしょうか?」

 

「はい、十分すぎるくらいですよ」

 

「ええ、今回はちゃんと男女別の部屋だったし」

 

「ふふ、そうだな」

 

 アリサとラウラも部屋の内装だけでなく、ちゃんと男女別の部屋になっているところが気に入っているようだった。

 

 俺たちの感想を聞いたリーゼさんは頷いて、俺たちをある場所に案内しようとする。

 

「では、皆さまにはこれから“ある御方”に会っていただきます」

 

「ある御方……?」

 

「それは一体……?」

 

 一体誰に会うのかわからない俺たちにリーゼさんは続ける。

 

「はい。皆さまに会っていただくのは、他でもないこのサザーラント州の領主であるフェルナン・ハイアームズ様です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、よく来てくれたな。トールズ士官学院《Ⅶ組》の諸君」

 

 優しい笑みを浮かべながら目の前に座る男性は俺たちに挨拶する。イメージとは違い温厚で良識のありそうな人物であるため、俺は少々驚いていた。ただ、優しそうな表情の中には、武人の放つプレッシャーとも違う大貴族としての誇りからくる独特のプレッシャーがある。

 

 フェルナン・ハイアームズ。このセントアークに居を構え、帝都南部のサザーラント州を治めている《四大名門》の一角であるハイアームズ家の現当主だ。そして、ハイアームズ家といえばあのⅠ組にいるパトリックの実家でもあるため、パトリックのようにプライドの高そうな人物だと思っていたのだ。

 パトリックを知っているエリオットも驚いているようで、目を丸くしていた。

 

「さて、自己紹介も済んだところで早速本題に入ろうか。リーゼ、例のものを」

 

「かしこまりました、旦那様」

 

 ハイアームズ候が指示すると、リーゼさんは予め用意していた封筒を俺たちに渡して来た。封筒にはトールズ士官学院のエンブレムである有角の獅子紋が刻まれている。

 

「そちらが今回の実習の依頼です。明日の分は宿の方に直接渡しておきますので、そちらでお受け取りください」

 

 リーゼさんから受け取った封筒の中身は今回の実習の依頼だった。先月の時と同様、依頼をいくつかこなす必要があるようだ。

 流石に侯爵の目の前で中身を確認するわけにもいかないため、俺が代表して封筒を預かる。俺たちが封筒を受け取ったのを確認したハイアームズ候は柔らかな表情で俺たちに話しかけてきた。

 

「依頼の方は私も目を通してある。普段、領邦軍が処理しきれないような依頼を入れているから、君たちの働きには期待しているよ」

 

 領邦軍という単語を聞いて前回のことを思い出したが、ここにいる領邦軍はハイアームズ家の管理下であるため、クロイツェン州の領邦軍よりはマシなはずだ。

 

 ハイアームズ候も忙しい身であるため、俺たちは挨拶をしてからその部屋を出ようとした。部屋から出ようとする俺たちにハイアームズ候は最後に忠告する。

 

「――そうだ。最近、サザーラントでも奇妙な魔獣や不審な人物の目撃情報がある。君たちもくれぐれも注意したまえ」

 

「あ、はい。ご忠告感謝します」

 

「失礼しました」

 

 ハイアームズ候の意味深な忠告を聞いてから俺たちは邸宅を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、緊張した〜」

 

「さすがは《四大名門》の現当主って感じだったわね」

 

「ああ、俺も感じたことのない風だった」

 

 邸宅を後にした俺たちは七耀教会の大聖堂がある広場で話をしていた。エリオットたちだけでなく、貴族である俺やラウラも面と向かって会話するのは緊張する。彼らが緊張するのは無理のないことだろう。

 

「まあ、感想はその辺にして早速依頼の内容を確認しようぜ」

 

「うむ、そうだな」

 

 受け取った封筒の中身を開けて中に入っていた依頼を見てみる。入っていた依頼は3つ。2つはセントアークの街の住人からの依頼で、もう一つは魔獣退治の依頼だった。

 

「前回と同じ感じだね」

 

「ええ、魔獣退治の先にまずは街の依頼をやった方がいいかしら」

 

「そうだな……」

 

 前回のケルディックと同じくまずは街を回りながら依頼をこなした方がいいかもしれない。セントアークの街を覚え、先ほどハイアームズ候に忠告してもらったことも住人に少し聞き込みをしていくのが一番効率が良いだろう。

 

 前回はリィンがリーダーを務めていたが、リィンがいない今回はなぜか自動的に俺がリーダーの役割になっていた。まあ、俺も嫌なわけではないため自然とその流れを受け入れている。

リィンもあちらで頑張っている以上、こちらもいい結果を残したい。心の中で改めて決意してから、俺はみんなに提案した。

 

「よし、それじゃあまずは前回と同じく二手に分かれて街の方の依頼をこなそう。その後に合流して魔獣退治ってことでいいか?」

 

「うむ、異論はない」

 

「それで行こう」

 

 みんなも俺の意見に賛成して頷いてくれた。全員の意見が一致したことで、俺たちは早速行動を開始する。

 

「それじゃあ改めて《Ⅶ組》B班、特別実習開始だ!」

 

 

 




最初に書いたブレードの部分はイメージです。実際は楽しくカードゲームしているだけなので、あんな風にはなっていませんよ。

今回からはオリジナルの話なので、特別実習でどんな事件が起こるのか、どんなオリキャラが登場するのかお楽しみに!
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