英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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第21話 謎の美女と不撓の男

 

「忘れ物、ですか…」

 

「ああ、昨日のランチタイムに来店した人の物だと思うんだが……」

 

 特別実習を開始した俺たちは、俺とガイウスとアリサのチームと、ラウラとエリオットのチームに分かれてそれぞれ一つずつ依頼をこなしている。俺たちが今いるのはセントアークの住宅街にあるカフェ《エイプリル》という店で、依頼はその店の店員のナッシュさんからのものだった。

 

 話によれば昨日のランチタイムに訪れた客が忘れ物を置いて行ってしまったようで、その忘れ物の持ち主を探して届けてほしいとのことだ。

 依頼の内容についてはリィンが自由行動日にやっているような内容で問題はなかったが、一つだけ懸念があった。

 

「忘れ物を届けるのは問題無いんですけど、その持ち主ってまだセントアークにいるんですか?」

 

 ナッシュさんの依頼は忘れ物の持ち主を“探して”届けることだ。セントアークの住人なら、家を訪ねればわざわざ探す必要も無い。“探して”と付け加えるということは、少なくともナッシュさんは持ち主と面識がないということになる。流石に俺たちも持ち主がセントアークを既に離れていれば、届けるのはかなり難しい。

 

 しかし、俺の心配は無用のものだったようで、ナッシュさんはすぐに俺の心配に答えた。

 

「それなら心配は要らない。あのお客さんと話してた時に、数日の間ここに滞在するって言ってたのを聞いたからな」

 

「それなら安心だな」

 

「ええ、少なくともサザーラント州を離れていることは無いわね」

 

 ナッシュさんの話を聞いて一安心する。数日の間セントアークに滞在しているということは、アリサの言う通りサザーラント州を離れていることは無いだろう。今もこの街にいる可能性が高い。

 

 依頼の解決が不可能なものではないと分かり、改めてガイウスがナッシュさんに質問した。

 

「では、その持ち主の特徴を聞かせてはくれないだろうか」

 

 ガイウスに尋ねられたナッシュさんは、上機嫌でその持ち主のことについて話し始める。

 

「いやぁその人がこれまた美人なお姉さんでさ〜、この辺じゃあまり見ない格好だったんだけどその服がその人の美しさを際立たせてるって感じで綺麗だったなあ」

 

「この辺じゃ見ない格好ってどんな格好なんですか?」

 

「そうだなぁ、俺も詳しくは知らないから間違っているかもしれないけど、多分あれは東方の衣装の“キモノ”ってやつだな」

 

「“キモノ”……」

 

 俺も本で見た知識でしか知らないが、確か“キモノ”というのは東方の文化にある衣装のことだ。上下で服が分かれておらず、腰の部分を“オビ”というもので締めて着るものらしい。

 東方由来の剣術・八葉一刀流の使い手であるリィンがいればもう少し詳しいことが分かったかもしれないが、無い物ねだりをしてもしょうがない。

 

 その人の特徴を話したナッシュさんはあることを思い出した。

 

「おっと、そういえばまだ忘れ物を見せてなかったな。ほら、こいつだ」

 

「これは……」

 

「……懐中時計ね」

 

 ナッシュさんが取り出したのは黒い懐中時計だった。その懐中時計はかなり年季が入っているようで、塗装の部分も少し剥がれている。一応裏なども確認してみたが、名前らしきものは書いていなかった。

 

 ナッシュさんも相手の名前などは聞いていないそうなので、ここから先は自分たちで調べるしかなさそうだ。

 

 一通りの情報を聞いた俺たちは一旦カフェを出て、早速街で聞き込み調査をすることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なかなか見つからないわね……」

 

「ああ、目撃情報はいくつかあったが」

 

「さっきのところも既にいなくなった後だったしな……」

 

 東方風の衣装を着ていることもあって案外簡単に見つけられると思っていたが、懐中時計の持ち主は未だ見つかっていなかった。聞き込みで得た情報の場所に向かっても、既にいなくなった後で、俺たちは完全にその持ち主に振り回されている。

 

「けど、奇妙な魔獣のことを色々と聞けたのは収穫だったわね」

 

「ああ、最近になって目撃情報が多発してるみたいだな」

 

 持ち主は未だ見つかってはいなかったが、それ以外にも街の聞き込みで得られた情報はあった。

 住人から聞いた情報では、最近セントアーク周辺で見たことの無い魔獣が現れているらしい。遠くから見た人やちゃんとその姿を見ていない人が多かったため、情報には少しばらつきがあったが、全ての情報に共通していたのはその魔獣が“機械のような見た目”だったということだ。

 

 機械のような魔獣というと実技テストで使われている《戦術殻》を思い出したが、目撃情報とは見た目が一致しなかったため、おそらく別の何かだろう。

 

「しかし“機械のような魔獣”か……帝国の伝承にはそれに近いものは無いのか?」

 

 住民の情報を思い出していたガイウスが帝国出身である俺とアリサに尋ねる。ガイウスの質問に俺たちは頭を悩ませた。

 

「うーん、少なくとも私は聞いたこと無いわね」

 

「俺も機械みたいな魔獣っていうのは知らないな。暗黒時代にいたって言われてる魔導のゴーレムは流石に違うだろうし……」

 

 暗黒時代には今とは違い、旧校舎で戦ったガーゴイルの様な“魔物”と言われるほど強力な奴らがいたらしいが、さすがにそれが多数目撃されているというのは考えにくい。俺が言ったゴーレムも伝承上のものであるため、そもそも実在したかどうかも定かでは無い。

 

 懐中時計の持ち主も見つからず、奇妙な魔獣の情報についてあれこれと考えていると、不意に俺の後ろで何かがぶつかった。

 

「あいたっ!?」

 

「っと、大丈夫か?」

 

 後ろから聞こえた声に振り返ると、俺の足元には一人の男の子が尻餅をついていた。どうやら道に立っていた俺たちに気づかずぶつかってしまった様だ。

 俺は尻餅をついている男の子に手を差し伸べて、立ち上がらせる。

 

「悪い、考え事をしてたから背後の気配に気がつかなかった。ケガはないか?」

 

「うん、大丈夫。こちらこそぶつかってごめんなさい」

 

 幸い、どこにもケガはなかったようで一安心した。素直に謝った男の子にアリサが話しかける。

 

「ふふ、ちゃんと謝れて偉いわね。この辺に住んでるの?」

 

「うん、そうだよ!」

 

 アリサに話しかけられた少年は元気よく返事をした。どうやら地元の子だったようで、それを確認したガイウスは少年にあることを尋ねる。

 

「この辺で少し変わった服を着た女の人を見なかったか?」

 

 ガイウスに尋ねられた少年は少しの間考えた後、何かを思い出したようで元気に答える。

 

「あ、そういえばさっきそっちの方で猫と遊んでる女の人がいたよ!なんか変な服も着てた!」

 

「あちらの方角は……」

 

「セントアーク空港か……!」

 

 少年が指指した先にあるのは空港だった。今までの目撃情報では出ていなかったところであり、空港と聖堂広場は一本道であるためすれ違う可能性は低い。今度こそ持ち主に会うことができそうだ。

 

「よし、早速行ってみようぜ」

 

「そうね。それと、貴重な情報ありがとうね」

 

「協力感謝する」

 

「えへへ、よくわかんないけど頑張ってね。お兄ちゃんたち」

 

 貴重な情報をくれた少年に感謝して、俺たちは早速空港の方へ向かう。そして、歩いて数分で目的の人物を発見することができた。

 

「ほれほれ、ここがええんやろ?」

 

「にゃ〜」

 

 空港に行く前の通路で猫と戯れている女性が一人、ナッシュさんの言う通りその女性はかなりの美人だった。

 

 長く伸ばした髪は吸い込まれるような漆黒で、その身を青を基調とした東方風の衣装で包んでいる。その傍には赤い東方風の傘もあり、まるで絵の中から出てきたような姿だった。

 

 俺たちがその女性に見とれていると、女性の方が俺たちに気づいたらしくその腰を上げて俺たちに話しかけてきた。

 

「さて、さっきからうちのことを見とるみたいやけど、何か用があるんやろか?」

 

「あ、えっと実はあなたのことを探してて」

 

「これ、あなたのものじゃないですか?」

 

 こちらを見る女性に、俺はあの懐中時計を差し出した。やはり女性のものだったようで、女性は目を丸くしてこちらに駆け寄ってくる。

 

「あら、うちの時計やないの。何であんさんらが持ってはるんや?」

 

「実はですね――」

 

 俺は女性にカフェで忘れ物をしていたということ、そして自分たちがその持ち主の捜索をしていたことを話すと、女性は昨日のことを思い出しながら納得していた。

 

「なるほどなぁ。そういえばあのカフェはまだ探してへんかったわ。ほんまおおきにな」

 

「喜んでもらえて良かったです」

 

 懐中時計が手元に戻ってきたことで喜ぶ女性にガイウスが質問をする。

 

「ところで、その懐中時計はかなり使い込まれているようだが……」

 

「ああ、これな。うちの宝物やさかい、ずっと使ってるものなんや」

 

「へえ、そうなんですか」

 

 そう言う女性は懐中時計を大切そうに眺めている。本当に大事なもののようだ。

 

 俺たちから忘れ物を受け取った女性は改めて俺たちに感謝してから立ち去ろうとする。

 

「それじゃ、おおきにな。特別実習とやらも頑張ってや」

 

 女性は聖堂広場の方に歩いて行く。歩く姿もどこか妖艶さを感じさせるもので、俺たちは皆無言でその後ろ姿を見ていた。

 

「なんていうか、妙に色っぽい人だったな」

 

「ええ、私も見とれちゃってたわ」

 

「東方にはあのような女性が多いのかもな」

 

 それぞれ感想を漏らした後、無事に依頼を終えたことをナッシュさんに報告するため、早速俺たちは住宅街へ向かうことにした。

 

 足をすすめながら俺はあることを思い出す。

 

(そういえば、あの人の名前を聞いてなかったな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全滅、ですか……」

 

「はい、運転していた隊員も一人残らず殺されていました」

 

 それぞれ依頼を終えた俺たちは合流し、魔獣退治をする前に昼食を済ませていた。昼食を済ませた後、セントアーク駅の方で鉄道憲兵隊の姿を発見し、そこにいたクレア大尉と再会を果たしていた。

 

 鉄道憲兵隊は最近、セントアーク周辺の路線で事故が多発しているためその警備と調査をしているらしい。クレア大尉もその任務のためにセントアークに来ていた。

 俺たちも最初は挨拶をするだけのつもりだったのだが、クレア大尉が俺たちにも関わる話があるということで場所を移して話を聞いている。そして、クレア大尉から話された内容は衝撃的なものだった。

 

 先月の特別実習でA班が捕まえようとしていた野盗たちを乗せた車が、鉄道憲兵隊によって帝都に連行される途中に何者かに襲撃されたということだった。

 

「しかし、帝国軍でも精鋭揃いとされる鉄道憲兵隊を襲うとは……」

 

「犯人はどのくらいの人数だったんですか?」

 

 話を聞いたラウラとアリサがクレア大尉に尋ねると、クレア大尉は悔しそうな表情を浮かべながら答えた。

 

「それが……犯人はおそらく一人のようなんです」

 

「ひ、一人!?」

 

「……驚いたな」

 

 クレア大尉の口から出た事実に俺たちは皆驚く。クレア大尉の言ったことに驚いたエリオットは思わず質問してしまう。

 

「でも、どうして一人ってわかったんですか?一人の犯行に見せかけた可能性もあるんじゃ……」

 

「いえ、その可能性は無いかと。野盗たちと隊員は全員同じ刃物で殺されたようですし、その切り口も全く同じものでした。おそらく全て同一人物の犯行でしょう」

 

 鉄道憲兵隊の隊員も含めて一人がやったというのはにわかに信じがたいことだったが、クレア大尉が言うのだから間違いはないのだろう。

 そして、クレア大尉の答えを聞いた俺はあることに気づく。

 

「ちょっと待ってください。全員が同じ刃物で殺されたってことは、まさかエリックさんを殺した犯人と一緒ってことですか?」

 

「おそらくは。今回の遺体の殺され方とエリックさんの殺され方は非常に似ていましたし、我々もその線で捜査を進めています」

 

「なるほど、口封じといったところか……」

 

 エリックさんを殺害した犯人と同一犯ということは、あの野盗たちに手を貸していた人物がラウラの言う通り口封じのために殺したということだろう。

 

 俺たちがクレア大尉にさらに話を聞こうとすると、クレア大尉の後ろから声がかけられる。

 

「クレア、何をやっている!」

 

 現れたのはクレア大尉と同じ鉄道憲兵隊の隊服を着た男性だった。金髪を短く切り揃えており、生真面目そうな性格が顔にも表れていた。

 

「申し訳ありません、アーヴィング少佐。彼らにも関係のある話でしたので」

 

「だとしても時間をかけ過ぎだ!たかが学生に事件の詳細な情報を教える必要はない!」

 

 生真面目そうな男性はこちらに視線を送りながら、クレア大尉を叱責する。少佐ということは、この男性隊員はクレア大尉よりも階級が上の人物であるということだ。

 

 男性はクレア大尉を長い時間叱ることは無く、一度叱った後に鉄道憲兵隊の任務に戻ろうとするが、任務に戻る前に一度こちらに振り返った。

 

「一応、自己紹介くらいはしておこう。――私は鉄道憲兵隊所属、ミハイル・アーヴィング少佐だ。クレアから君たち《Ⅶ組》のことは聞いているが、まだ君たちは学生の身だ。無茶な行動は慎みたまえ」

 

「あ、はい」

 

「それでは失礼する」

 

「申し訳ありません、皆さん。いずれまたゆっくりと話せる機会があればその時に」

 

 ミハイル少佐の威圧感に少し圧倒されていた俺たちは、ちゃんとした挨拶もできずに彼らを見送った。

 二人の姿が見えなくなると、エリオットが肩の力を抜く。

 

「はぁ〜、あのミハイル少佐って人ちょっと怖かったよ〜」

 

「うむ、正直私も少し気圧されてしまったぞ」

 

 ミハイル少佐はクレア大尉とはまた違うプレッシャーがあった。彼もまた只者ではない人物なのだろう。

 

「だが、悪い人ではなさそうだ」

 

「ええ、口調は厳しかったけど私たちのことも心配してくれていたみたいね」

 

 ガイウスたちも言うように、ミハイル少佐は悪い人物ではなさそうだった。さっきの厳しい口調も鉄道憲兵隊の任務が優先だったためなのかもしれない。なんとなくだが、マキアスと同じような感じがした。

 

 思わぬ出会いをした俺たちは気を取り直して、特別実習を再開する。

 

「よし、じゃあ俺たちも最大限注意しながら特別実習を進めていこうぜ」

 

「うん、そうだね!」

 

「それでは魔獣退治に向かうとするか」

 

 そして、依頼主である大聖堂の神父に会いに行くことにしたのだった。

 

 




今回出てきた謎の女性の喋り方について、自分は関西出身ではないため喋り方が変に感じる方もいると思いますが、まあそこはフィクションですしエセ京都弁だということでご容赦ください。
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