英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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本日やっと閃Ⅳの店頭PVが発表されましたね!
情報量が多くて何回も見直しましたが、閃だけでなく空や碧のキャラも多数出てくるようなのでまさに集大成って感じでした!
まだ見ていないという人は是非見てみてくださいね!


第22話 焔の鉄拳

 

「――っと」

 

 泥濘に足を取られそうになり、反射的にもう片方の足を出してバランスをとる。足を取られそうになった地面には自分の靴底の模様が刻まれていた。

 

 周りでは自分たちよりも遥かに背の高い樹々たちが鬱蒼と生い茂っており、自らの生命力を示すかのようにその枝から沢山の葉を広げて俺たちを見下ろしている。広げられた葉は空から降り注ぐはずの日光を遮り、森全体に降り注ぐはずの陽の光を極端に少なくしていた。

 日光が遮られていることによって、森全体が薄暗くなっているばかりか地面も濡れて歩きづらい。静寂に包まれた森林はまるで別世界のような雰囲気だ。

 

 《イストミア大森林》――旧都セントアークの西にある街道を行ったところにあるかなり大きな森だ。その大きさは帝国西部の《ラマール州》の州境付近にある《エイボン丘陵》まで広がるほどで、あのルナリア自然公園を含む《ヴェスティア大森林》よりも面積が大きいとされている。

 

 現在俺たちはそのイストミア大森林で、ある物を探していた。

 

「ねえ、イクス。大司教さんが言ってた『エリンの花』ってどういう花なの?」

 

「えっと、確か『ラベンダー』の一種だな。ラムゼン大司教も言ってたように昔から沈静・安眠の効果のある薬草として使われていて、綺麗な青い花を咲かせる植物だったはずだ」

 

「ラベンダーかぁ……いい香りがしそうね」

 

 俺たちが受けた魔獣退治の依頼はセントアーク大聖堂の大司教ラムゼンさんからの依頼だった。

 

 最近、このイストミア大森林の魔獣が凶暴化してしまっているため、教会の人も含めてなかなか立ち入ることが難しくなっているらしい。そのせいで、ここに自生している植物である『エリンの花』も採取することが出来ずに困っていたそうだ。

 元々は凶暴化している魔獣を退治してほしいというものだったが、どうせなら一緒に『エリンの花』も俺たちが採取してこようと提案し、ラムゼン大司教から改めて依頼を受けたのだ。

 

「しかし、大司教の言う通りここにいる魔獣は妙に気が立っているようだったな」

 

「うむ、我らを見つけた途端に襲いかかってくるものがほとんどだった」

 

 背後にも気をつけるために最後尾を歩いているガイウスとラウラが、大森林にいた魔獣たちについて思い出していた。

 

 大森林に入る前の街道でもそうだったが、魔獣たちの雰囲気は今まで見てきた魔獣よりも明らかに違っていた。侵入者を追い払うように威嚇する姿の裏にはどこか恐怖心めいたものも感じるような気がしたのだ。

 

 俺たちもこの2ヶ月でそれなりの場数を踏んできたこともあり、襲いかかってくる魔獣に遅れをとるようなことは無かった。しかし、どんな魔獣が潜んでいるのかもわからないため、俺たちは十分に警戒しながら森を進んでいる。

 周囲の気配に注意しながら足を進めていると、先頭を歩く俺の足先に何かが当たった。

 

「何だこれ?」

 

「それって、歯車?」

 

 足に当たったものを拾ってみると、それは金属製の歯車だった。なぜこんなものが森林に落ちているのだろうか?

 アリサが俺が拾い上げた歯車を近くで見る。

 

「これ、多分最近落ちたものね」

 

「ふむ、そうなのか?」

 

「ええ、だってこんな湿気の多い場所に落ちていたのにまだ錆びが殆どないんだもの。土汚れも少ないし、ここ最近に落ちたもので間違いないわね」

 

 確かに拾った歯車は周りについていた土を取れば、まだ真新しいものだった。何の部品なのかはわからないが、これならまだ使えそうだ。

 

「しかし、どうして歯車がこんなところに落ちているのだ?」

 

「それは流石に私にもわからないけど……」

 

 ラウラの言うとおりこんな森に金属製の歯車が落ちているというのは不自然だ。しかもそれが、最近魔獣が凶暴化しあまり人が立ち入らなくなっている森の道中に落ちているというのは、どうにもおかしい。

 

 まさか、俺たち以外にこの森に誰かが入ったのかという考えも浮かんだが、俺はあることを思い出した。

 

「……もしかしたら、これってあの“機械みたいな魔獣”のものなんじゃないか?」

 

「あ、そういえば……!」

 

「もし本当に“機械仕掛けの魔獣”であるならば、合点が行くな」

 

 俺たちが午前中の依頼をこなしていた時に住人の人たちから聞いていた“機械のような魔獣”が本当にいるのだとすれば、こんな場所に歯車が落ちているのにも納得できる。俺たちも半信半疑だったが、魔獣たちが凶暴化している理由もその“機械の魔獣”が原因ならその可能性は十分にある。

 

「ふむ……“機械仕掛けの魔獣”か。なかなか歯ごたえがありそうだ」

 

「どちらにせよ、注意して進む必要がありそうね」

 

「ああ。みんな、いつでも戦闘に入れるように準備しておいてくれ」

 

 未知の敵がいるかもしれないという可能性が高まり、俺たちは慎重に先に進む。

 

 度々起こる樹々のざわめきが俺たちに警戒を促しているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、なんだか幻想的だね」

 

「ええ、それにいい香り……」

 

 森の奥に進んだ先にあったのは少し開けた場所だった。背の高い木も少なく、先ほどまで進んできたところよりも日の光が当たっている。ここは目的である『エリンの花』の群生地だったようで、周囲には青い花を携えた『エリンの花』がいくつも咲いていた。

 

「けど、花の採取はもう少し後になりそうだな」

 

「ああ、どうやらそのようだ」

 

 何者かの気配にいち早く気づいた俺とガイウスは武器を構える。それを見た他のみんなもそれぞれ武器を取り出した。

 奥の茂みから出てきた者たちを見たラウラは不敵に笑う。

 

「ふふ、それなりの手ごたえはありそうだ」

 

 俺たちの前に姿を現したのは3体の巨大な蜘蛛型の魔獣だった。蜘蛛型魔獣も大森林にいた魔獣たちと同様に、怒りを感じさせる様子だ。

 

「ギシャアアア!」

 

「手順は今まで通りだ!みんな、まずはこいつらを片付けるぞ!」

 

 敵意を剥き出しにする魔獣がこちらに向かってくるのと同時に、俺たちはそれぞれのポジションに移動し、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「イクス!」

 

「任せろ!」

 

 前衛同士でリンクを繋いだ俺とラウラが先行する。あの巨体の魔獣を3体同時に相手をするというのは悪手であるため、まずは敵を分断させる。

 俺は走ってくる魔獣たちの前に立ち塞がり、双剣を水平に構えて体を引き絞った。

 

「《嵐霆斬》!」

 

 引き絞った体を一気に解放し、双剣から雷の衝撃波を起こす。放たれた電撃は全ての魔獣たちにぶつかり、その巨体を痺れさせた。

 

「《地裂斬》!」

 

 動きが止まった魔獣たちをラウラの一撃が襲う。大剣から放たれた気は地を裂き、そのまま魔獣たちに当たった。その衝撃で魔獣のうちの一体が集団から離れる。

 

「《ヒートウェイブ》!」

 

「《ゲイルスティング》!」

 

「ギシャアアッ!」

 

 集団から離れた一体にアリサのアーツとガイウスの一撃が加わった。集中攻撃を受けた蜘蛛型魔獣は堪らずに悲鳴をあげる。

 

「解析完了!みんな、そいつ毒を持ってるみたいだから気をつけて!」

 

 俺たちの攻撃の間に《ディフェクター》で敵の情報を解析していたエリオットから注意が飛ぶ。蜘蛛型の魔獣《アジルタラン》が、その爪や牙に毒を持っているという情報を聞いた俺たちは警戒を強める。どれほどの毒かはわからないが、解毒が間に合わなければ最悪の場合は死もあり得る。

 

「シャアアア!」

 

 動きを止めていた二体が再び動き出し、アリサたちの方向に走り出そうとする。それを阻止すべく俺とラウラが一体ずつ足止めに入った。

 

「ぐっ……!」

 

 足止めしようとする俺とラウラにアジルタランたちはその巨大な爪を振り下ろした。なんとか受け止めるが、その力は強く妖しく光る毒の爪が俺たちに迫ってくる。

 

「二人とも避けて!」

 

 エリオットの声が響き、彼の魔導杖から泡のようなものが飛ぶ。俺とラウラはその泡をギリギリまで引きつけて爪を躱した。俺たちが攻撃をギリギリまで引きつけていたため、アジルタランはその攻撃に対処できず、その泡を目に喰らった。

 

「おおおおっ!」

 

「ギシャアアッ……」

 

 分断されていた一匹はガイウスとアリサによってとどめを刺されていた。とどめを刺されたアジルタランは弱弱しく鳴きながら消えていく。

 

 これで残るは二体、先ほどのエリオットの泡を喰らった二体にはそれほどダメージは見られないが、数が一体減ったことでこちらの方が有利になった。

 

「よし、一気にケリをつけるぞ!」

 

 俺はアリサとリンクを繋ぎ直し、ラウラはエリオットとリンクを繋いだ。俺とラウラはそれぞれ別のアジルタランに向かっていく。

 

 走る俺の横をアリサの矢が通り過ぎ、アジルタランを牽制している。戦術リンクのおかげで、アリサは前衛の俺に合図をすることなく後ろから攻撃をすることができていた。放たれた矢を対処するアジルタランは俺への意識を削がれていた。

 

「喰らいやがれ!」

 

 足を止めるアジルタランに攻撃しながら、俺はそのまま後ろに走り抜ける。走り抜けた俺の方へ振り返ろうとしたアジルタランは、俺とアリサに気をとられて頭上の注意を怠っていた。

 

「はあっ!」

 

「シャアアアッ!?」

 

 横から回り込んでいたガイウスが上空からアジルタランに槍を突き立て、アジルタランの悲鳴とともに刺された部分から緑色の血が吹き出た。完全に動きが止まったアジルタランに俺がとどめの一撃をお見舞いする。

 

「《烈風刃》!」

 

 渾身の一撃を喰らったアジルタランは血を流しながら地に沈んでいった。

 

「はあああっ!」

 

 そして、もう一体のアジルタランもラウラの奥義によって倒されていた。全ての魔獣を倒した俺たちは一息つく。

 

「ふう、結構手強かったけどなんとかなったな」

 

「うん、これで『エリンの花』も採取できるね」

 

 魔獣との戦闘でエリンの花が散っていなかったか心配だったが、幸い奥に咲いていた花には影響はなかったようだった。近くに魔獣の姿も見えなかったため、安心したエリオットが奥の花を取りに行こうとする。

 

 俺たちもそれに続こうと歩き出そうとした時、獣が出す音とは違う何かの駆動音が微かに聞こえた。

 

「エリオット!」

 

「え?うわあ!?」

 

 俺は咄嗟にエリオットに飛びつき、自分と一緒に地に伏せる。そのすぐ後に何発もの銃弾が俺たちの近くに降り注いだ。

 

「だ、大丈夫!?二人とも!?」

 

「ああ、なんとか!」

 

「――来るぞ!」

 

 幸いにも銃弾は俺たちには命中しなかった。アリサがこちらに駆け寄ろうとする前にガイウスが注意を呼びかける。俺とエリオットも立ち上がりながら、先ほどの攻撃の主を確認した。

 

「……こいつらは」

 

「き、機械の魔獣!?」

 

 俺たちの前にいたのはエリオットの言った通り“機械の魔獣”だった。予想通りこの森にはこの機械の魔獣たちが潜んでいたらしい。

 しかも、その種類も豊富なようで俺たちよりも背の高いものもいれば、腰ぐらいの高さのものもいる。形は様々だがそれぞれ共通して目を思わせるカメラがついており、独特の駆動音を出しながらこちらを睨んでいる。

 

「数は全部で8体か……」

 

「こ、こっちの方が不利じゃない……!?」

 

「だが、どのみち戦うしかなさそうだ」

 

 ガイウスの言う通り退路は後ろにしか無いし、背を向ければ後ろから撃たれてしまう。『エリンの花』を採取するためにもここは撃破しなければならないだろう。

 

 俺たちは覚悟を決めて、それぞれ武器を構える。

 機械仕掛けの魔獣が奇妙な音を鳴らし、戦闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあっ!」

 

「――――!」

 

 獣を斬ったときとは違う重い感覚が腕に伝わる。今の一撃で機械魔獣は力尽きたらしく、火花を散らしながら停止した。

 

 しかし、足を止めている暇は無い。俺の立ち上がりざまを狙っていた大型の機械魔獣からいくつもの銃弾が発射され、俺は転がりながらそれを避けてエリオットのところに合流する。

 

「はあ、はあ……」

 

「エリオット、大丈夫か?」

 

「う、うん。でもこれで後2体だね」

 

 たった今俺が倒した機械魔獣を含めて、合計6体の機械魔獣を停止させている。残っているのは現在ラウラたちが交戦中の大型と、先ほど俺に銃弾を放ってきたものだけだった。

 

 最初は数に圧されて苦戦していたが、なんとかここまで数を減らすことができていた。しかし、銃弾を常に避けながら攻撃しなければならなかったため、俺を含めてみんな息が上がっている。これ以上長引かせるのは得策じゃない。

 

「―――!」

 

 再び、大型の機械魔獣が俺たちに狙いを定めて両脇に付いている機関銃を撃ち始めた。リンクを繋いだ俺とエリオットは、動き続けたことで熱を持っている両足にムチを打って走り出す。

 

「これで!」

 

 弾幕を張り続ける機械魔獣の射程外からエリオットの魔導杖から簡易アーツが飛び出す。機械魔獣はその攻撃を機関銃で撃ち落とすべく、エリオットの方に注意を向けた。

 

「そこだっ!」

 

 その一瞬の隙を狙って俺は機械魔獣に突進する。機械魔獣は皆なんらかのセンサーを搭載しているため、背後から接近する俺にもすぐに気づいた。

 

 しかし、この突進は俺のブラフだ。俺は機械魔獣が振り返る前に急停止して、体を捻る。

 

「《嵐霆斬》!」

 

 双剣から強烈な雷撃が放たれ、接近攻撃だと判断していた機械魔獣はモロにその攻撃を喰らった。機械であるためか電撃で一時停止した機械魔獣にエリオットがアーツでとどめを刺す。

 

「《ゴルドスフィア》!」

 

 機械魔獣の頭上から3つの黄金の球体が降り注ぎ、黄色い閃光を散らす。機械魔獣はその攻撃で完全に動きを停止したようだった。

 

「はあ、はあ……これで」

 

「……ああ、あっちも終わったみたいだな」

 

 俺たちが倒すのとほぼ同じタイミングでラウラたちも機械魔獣を倒したようだった。全ての敵を倒したことで、俺たちは皆膝をつく。

 

「つ、疲れた……」

 

「流石に、これはキツイな……」

 

「……はあ、はあ。少し息を整えた方がよさそうだ」

 

 俺も双剣を支えにしながら、息を整えようとする。顔から出た汗が、地面の草に滴り落ちていた。

 

 だが、俺たちが息を整える間も無く新たな脅威が襲来する。

 

「う、嘘……!?」

 

「ま、まだこんなにいたなんて……!?」

 

 耳障りな駆動音を響かせながら、新たに6体の機械魔獣が俺たちの前に姿を現わす。流石にみんなの体力も限界に近い。このままでは『エリンの花』の採取はおろか、俺たちが無事にセントアークに戻るのも困難になる。

 

(くそ、ここは一か八か撤退するしか……)

 

 正直、撤退も難しいかもしれないがこのまま無理に戦って全滅するよりはマシだ。

 

 俺がみんなに合図をしようとした瞬間、俺たちの後ろから爆炎が機械魔獣たちに襲いかかった。

 

「バーニンッ!!」

 

「え――」

 

 突如現れた爆炎は瞬く間に機械魔獣を屠っていく。目にも止まらぬ速さで動き回っていた炎は人の拳によるものだった。

 

「《マッハイグナイト》!」

 

 最後の一体に炎を纏った拳が打ち込まれ、機械魔獣は派手な爆発音を響かせながら崩れていった。

 

「す、すごい……!」

 

「あの数を一人で……!?」

 

 俺たちが苦戦していた相手を一瞬のうちに倒した人物を見て、みんなは驚きを隠せなかった。そして、機械魔獣を倒した人物は手を払いながらこちらに振り返る。

 

 燃える炎を表すかのようなオレンジ色のアフロヘアー。ヴァンダイク学院長にも負けないほどの身長。その体にはやや暑苦しさを感じさせるほどの筋肉が主張している。

 

 その体格を見れば、ほとんどの人は中身も暑苦しい男だと勘違いするだろう。だが、その男は外見とは正反対のまるで乙女のような顔つきで俺に話しかける。

 

「――久しぶりね、イクスちゃん♪」

 

「な、ナオミちゃん!?」

 

 俺は思わぬところで、恩人との再会を果たすことになった。

 

 




というわけで2章で二人目のオリキャラの登場です。
新たに現れたオリキャラがイクスと一体どういう関係なのか、どういった立場の人物なのかお楽しみに!
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