英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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今回はちょっとだけ短めです。


第23話 結社《身喰らう蛇》

 

「――それじゃあ改めて紹介するよ。この人はナオミ・ブーゲンビリア、現役のA級遊撃士で俺の恩人なんだ」

 

「よろしくね、《Ⅶ組》のボウヤたち♪」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 イストミア大森林から戻った俺たちはラムゼン大司教に『エリンの花』を届けた後、窮地に陥っていた俺たちを助けてくれたナオミちゃんと共に一度宿に戻っていた。

 

 ナオミちゃんはみんなにウインクをしながら自己紹介をするが、自己紹介された《Ⅶ組》のメンバーは全員戸惑いの表情を見せている。アリサとエリオットは完全に顔が引き攣っているし、ラウラとガイウスでさえも初めて遭遇するタイプの人物に動揺を隠せずにいた。

 

 まあ、彼らが動揺するのも無理はないだろう。俺の横に座る身長2アージュはあるかという大男は、その見た目とは正反対の乙女思考の持ち主なのだから。

 停止していた思考が少し回復したラウラとガイウスは、若干の戸惑いを見せながら質問する。

 

「その、ナオミ殿はイクスの恩人だそうだが、具体的には一体何があったのだ?」

 

「ああ、それはかなり気になるな」

 

 ラウラとガイウスが質問すると、隣に座っていたアリサとエリオットもようやく思考回路が戻ったようで、こちらに視線を向けた。

 俺がナオミちゃんとのことを話そうとする前に、ナオミちゃんは少し不機嫌そうに喋り始める。

 

「“ナオミ殿”なんて堅苦しく呼ばなくていいわよ〜。気軽に“ナオミちゃん”って呼んでちょうだい♪」

 

「ぜ、善処する」

 

「ナオミちゃん、初対面でいきなりその呼び方は難易度高いから」

 

「あら、そう?」

 

 このまま放っておくと完全にナオミちゃんのペースになってしまうため、俺は横にツッコミを入れながら話題を戻した。

 

「えっと、俺とナオミちゃんのことについてだよな。実は、俺が帝都にいた頃に街道で迷子になって魔獣に襲われそうになったことがあってさ、それを助けてくれたのがナオミちゃんなんだ」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

 ナオミちゃんと初めて出会ったのは今から約7年前。当時、まだ幼かった俺はとあることがきっかけで一人で帝都の街道に出てしまい、帰り道がわからなくなって迷子になってしまったのだ。

 当時の俺ではまだ魔獣の群れを撃退できるほどの力もなかったため、魔獣の群れに囲まれてしまった時には死を覚悟した。そんな時に俺を助けてくれた命の恩人が他でもないナオミちゃんだったのである。

 

「その後も、ナオミちゃんには徒手空拳とか戦闘技術なんかを教えてもらったりもして、俺にとっては色んな意味で恩人なんだ」

 

「なるほど、ナオミ殿はイクスにとって師匠の一人でもあるわけか」

 

 今の俺の戦闘スタイルを形作っているのには間違いなくナオミちゃんの影響もあるだろう。父を失ったことで《ライガスト流》を極めることができなくなってしまった俺は、剣術以外の戦闘技術も取り入れて独自の剣術を編みだそうとしていたのである。

 

 俺とナオミちゃんの関係を一通り話し終えたところで、俺たちは本題である“機械の魔獣”についてナオミちゃんに尋ねた。

 

「ナオミちゃん、俺たちが戦ったあの“機械の魔獣”は一体何なんだ?」

 

「知っているのならば、是非お聞かせ願いたい」

 

「そうね。あなたたちも戦った以上は知っておいた方がいいでしょう」

 

 俺たちの疑問に対し、ナオミちゃんはいつもよりも真剣な表情になる。そして、これから話すことはくれぐれも関係の無い人間には話さないように念を押してから語り始めた。

 

「まずはあなたたちが戦った“機械仕掛けの魔獣”についてね。あれは《人形兵器》と言ってある連中が作り出した使い捨ての厄介な兵器なのよ」

 

「《人形兵器》……」

 

「その、ある連中って一体どんな集団何ですか?」

 

 俺も含めて全員、人形兵器という名前に心当たりは無かった。そしてアリサが人形兵器を作った連中についてナオミちゃんに尋ねる。

 

「人形兵器を作った連中の名前は《身喰らう蛇》。大陸各地で暗躍している秘密結社よ」

 

「ひ、秘密結社……!?」

 

「ふむ、こちらも聞いたことのない名前だ」

 

 新たに出てきた単語を俺たちは自分の記憶から探ろうとするが、やはり誰も《身喰らう蛇》という名前は聞いたこともない様子だ。

 得体の知れない集団について色々と想像を膨らませる俺たちに、ナオミちゃんはさらに《身喰らう蛇》について語る。

 

「名前を知ってるアタシでもまだまだ奴らについては知らないことが多くてね。遊撃士の中には奴らと色々と因縁がある人が結構いて、遊撃士全体にとっても因縁が深い連中なの。ここだけの話、一年前にリベールで起きた導力停止事件も連中の仕業だったりするわ」

 

「そうだったのか……」

 

「そんなことをしでかす連中なら、あの兵器を作ったとしても不自然じゃないわね」

 

 ナオミちゃんの口から語られた衝撃の事実に俺たちは驚いていた。アリサが言ったように国単位での事件を起こせるのなら、あの兵器を作る技術力があってもおかしくない。《身喰らう蛇》という奴らは俺たちの想像よりも遥かに危険な存在なのかもしれない。

 

「それじゃあ、ナオミさんはその《身喰らう蛇》の情報を集めるためにイストミア大森林に来ていたんですか?」

 

「もちろんそれもあるけど、一番はサラから君たちのサポートをするように頼まれていたからよ♪」

 

「えっ!?」

 

「サラ教官が?」

 

 エリオットから出た質問に答えたナオミちゃんの口から意外な人物の名前が出たことで、俺たちは思わず聞き返してしまう。俺たちの反応を見たナオミちゃんは意外そうな表情である事実を話した。

 

「あら、聞いてなかったの?サラは私の元同僚よ?」

 

「元同僚ということは……」

 

「サラ教官って元遊撃士!?」

 

 まさかのところで俺たちはサラ教官の事実について知ることになった。ナオミちゃんは話したらマズイことだったかもと若干後悔していたが、いずれ知ることだから結果オーライだとすぐに開き直る。

 

 確かにそう考えればサラ教官について色々と納得が点が多い。

 

 普段のあまり教師らしくない様子も遊撃士から転職したばかりならあり得るし、この実習も遊撃士がやるような内容が多い。サラ教官が実技テストの時に見せた化け物じみた強さも元遊撃士であるならば合点がいく。

 

「はぁ、全く。昔からサラは重要なことを伝えるのをもったいぶる癖があるのよね〜。士官学院の教官になってもその辺は変わってなかったか」

 

「あれって昔からだったんだ……」

 

 そう言いながらサラ教官のことを話すナオミちゃんは、どこか昔を懐かしんでいるようにも見えた。

 

 その後も遊撃士時代の時のサラ教官の話が気になった俺たちに、ナオミちゃんは色々と自分とのエピソードも交えながら話してくれた。

 

 サラ教官は史上最年少でA級遊撃士に上り詰めた実力の持ち主だったそうで、《紫電》という異名で呼ばれていたらしい。ナオミちゃんは遊撃士になったばかりのサラ教官とコンビを組んで鍛えていたこともあったそうだ。

 

 サラ教官のことについて俺たちが色々と聞いていると、俺たちのもとにハイアームズ家のメイド長であるリーゼさんが姿を現した。

 

「談笑中の所、失礼します。皆様、お疲れのところ申し訳ないのですが、もう一件依頼をお願いできますでしょうか?」

 

「依頼、ですか?」

 

「それは構わぬが、どんな依頼なのだ?」

 

「はい、こちらになります」

 

 そう言ってリーゼさんは俺たちに一枚の紙を渡してきた。代表して俺が受け取り、その依頼内容を確認してみる。

 

「これは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「け、結構高いね」

 

「エリオット、しっかりと俺に掴まっていてくれ」

 

「乗るのは結構久しぶりね」

 

「ふふ、頼むぞアリサ」

 

 馬に乗るのが初めてのエリオットはその目線の高さに少々怖がっているようだ。アリサとラウラはどちらも乗馬の経験があるため、そういった素ぶりは感じられず、むしろわくわくしているようにも見える。

 

「イクスちゃん、頑張ってね♪」

 

「……これ普通、位置逆じゃね?」

 

 そして俺は何故か自分よりもガタイの良い男が自分の腰に掴まって馬に乗るという妙な絵面になっていた。

 

 

 

 

 リーゼさんから貰った依頼はセントアークの南にある《パルム》の住人からのものだった。本来ならセントアークから鉄道でパルムに向かうはずなのだが、現在パルムに向かう路線は鉄道憲兵隊が調査を行なっているため、一時的に使用できなくなっている。

 セントアークから徒歩でパルムに向かうと日が暮れてしまうため、俺たちはハイアームズ家から馬を借りてパルムに向かうことになっていた。

 

 借りた馬は三頭で故郷で馬に乗っていたガイウスが後ろにエリオットを乗せ、乗馬経験のあるアリサとラウラは話し合いの結果でアリサの後ろにラウラが乗る形になった。そして俺の後ろにはナオミちゃんが乗るという、どう見ても逆の立ち位置で馬に乗っている。

 

 なぜナオミちゃんがついてきているのかというと、ナオミちゃんはこの後パルムに用事があるらしく、どうせなら一緒に行こうということになったのだ。まあ、まさか俺もナオミちゃんを後ろに乗せるとは思わなかったが。

 

「うわぁ、風が気持ちいいね!」

 

「ふふ、そうだろう?」

 

「あはは、風になったみたい!」

 

「なかなか気持ちが良いな!」

 

 普段では感じられないスピード感にみんな興奮しているようだ。俺も乗るのはかなり久しぶりだったが、この馬が良く躾けられているようで俺も安心して手綱を握っていられる。このスピードならすぐにパルムに着くことができるだろう。

 

 ガイウスたちの馬を先頭にして、俺たちの馬は最後尾を走っていた。後ろにあるセントアークが見えなくなってきた頃に、後ろからナオミちゃんが声をかけてくる。

 

「イクスちゃん、“あの子”とはちゃんと連絡取ってる?」

 

 話しかけてきたナオミちゃんの声は前を走るみんなにかろうじて聞こえないほどの声量だった。その声のトーンも少し落ち着いている。

 

「――ああ。ちゃんと手紙の返事は出してるから問題ないよ」

 

「ダメよ、返事だけじゃなくて自分からも手紙を出してあげなさい」

 

「善処するよ」

 

 ナオミちゃんの声は俺を叱責するようなものをではなく、親が子の間違いを優しく諭すような口調だ。ナオミちゃんのアドバイスにどこか気恥ずかしさを感じた俺は、ちゃんと聞いているのかわからないような生返事をする。

 

 普段ならナオミちゃんの話もツッコミを入れたりしながら受け流せるが、この話題の時だけはどうにも自分の中で照れ臭さが勝ってしまう。ナオミちゃんからは俺の顔ははっきりとは見えていないはずなのだが、ナオミちゃんにとっては全てお見通しらしい。

 

「確かに“あの子”はしっかり者だけど、そういう子に限って案外寂しがり屋なのよ。イクスちゃんのことだっていつも心配してると思うわ」

 

「そうかなあ……」

 

 ナオミちゃんとはもう2年は会っていないはずなのに、まるで今まで俺たちを見守ってきていたような感じだった。もしかしたらナオミちゃんの方が“あいつ”のことを知っているような気がして、少し不安になる。

 

「イクス!遅れてるわよ!」

 

「――ああ、今行く!」

 

 ナオミちゃんとの話に気を取られて、いつの間にかみんなから遠ざかっていた。馬に振り落とされないように背筋を伸ばしてスピードを上げる。

 

「イクスちゃん、帰ったら自分から手紙を出すこと。――約束よ」

 

「わかったよ」

 

 優しげな声でナオミちゃんは俺に約束させようとする。

 

 まだ気恥ずかしさは残っていたものの、俺は自分から手紙を出そうと心に誓った。

 

 




次回は少しパルムに寄ります。
予想はしていたんですが、2章も結構長くなりそうです。その分、内容は面白くなるよう気合いを入れて書きたいと思います。

後でキャラ紹介②も更新するので、よかったらそちらもどうぞ
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