もうすぐ夕暮れ時とあって、午前中まで広がっていた青空はオレンジ色の夕陽と混ざり合って空色と茜色の中間のような色に染まっている。その下にある街には木造の家か建ち並び、夕飯の買い物に出かける女性や日が暮れるまで遊びたい子供など様々な人が動いているという風景は、どこか懐かしさを感じさせる。
旧都セントアークから更に南にある紡績が盛んな町《パルム》に到着したのは、俺たちがセントアークを出発してから約一時間後のことだった。
「ここがパルムかぁ、ガイウスたちが先月に来たところなんだよね?」
「ああ、ここに来るのはまだ二度目だが、なんだか故郷に帰ってきたような感覚だ」
先月の実習では俺たちA班以外のメンバーがこのパルムで実習活動を行なっていた。主にマキアスとユーシスのせいで実習自体は散々な結果だったそうだが、ガイウスは一月ぶりにパルムに訪れることが嬉しいようだ。
「そういえば、イクスはパルムに来たことがあるんだっけ?」
「来たことがあるっていっても、たった一回だけだからパルムについてそこまで詳しい訳じゃないぞ」
「ふむ、そうなのか」
このパルムには《ヴァンダール流》の道場がある。
俺は帝都にいた頃、ライカ地区にある《ヴァンダール流》の道場に良く顔を出していた。その頃に一度だけ、パルムの門下生と試合をするために訪れたことがあった。その時は日帰りで来ていたため、ゆっくりと町を見る時間もなかったのである。
「さてと、それじゃあアタシはちょっと野暮用があるからここでお別れね。少し遅くなると思うから、アタシに気にせずセントアークに帰って構わないわ」
「わかった。ナオミちゃんも頑張ってくれ」
「ええ、イクスちゃんたちも実習頑張ってね♪」
一緒について来たナオミちゃんは何やら遊撃士としての仕事があるらしく、俺たちとは一旦お別れとなった。
町の方に消えていったナオミちゃんを見送った後、俺たちは改めて依頼の内容について確認する。
「えっと、確か依頼は《ドワイト商会》の店主さんからのものだったわよね」
「うむ、何やら知り合いの調査をしてほしいとのことだが……」
リーゼさんから受け取った依頼はパルムにある武具・工房の店《ドワイト商会》の店主からの依頼だった。
依頼内容はそこで働いている技師の一人について俺たちに調査してほしいという内容だ。しかし、肝心の技師の名前や調査してほしい内容が書かれていない。これでは俺たちも何を調べれば良いのかもわからない状態だ。
「正直、書かれてる文面だけじゃ良く分からないし、依頼人に詳しい事情を聞いてからの方が良さそうだな」
「そうだね。それで、《ドワイト商会》はどこにあるんだろう?」
「《ドワイト商会》はあちらの建物だ。俺たちも先月の実習で行ったことがあるから、みんなついてきてくれ」
先月の実習でパルムの建物をある程度記憶しているガイウスを先頭に、俺たちは早速《ドワイト商会》へ向かった。
「いやぁ、すまんの。先月みたいに町の手伝いをしてくれた連中がセントアークに来ていると聞いたもんで急いで依頼を書いたから、色々と書き忘れてたみたいじゃな」
照れ臭そうに笑いながら俺たちに話すのは《ドワイト商会》の店主であるドワイトさんという老人だ。先月の実習ではB班に依頼を出した人物の一人であり、俺たちがセントアークに来ているのを聞いて、急いで依頼を出したらしい。
「いや、こちらも頼ってくれるのは嬉しいことですから」
「それで御老人、我らに依頼したい内容を詳しく聞かせてくれるだろうか?」
「おお、そうじゃったな」
ドワイト老人が俺たちに調査してほしい人物はニールさんという人だった。
ニールさんはこの商会で働く技師で、数ヶ月前から技師としての腕を磨くためにドワイトさんに弟子入りしたそうだ。ニールさんは技師としての腕はまだまだ未熟だが、真面目な性格であるためじっくりと時間をかけて修行すれば良い技師になれるとドワイトさんも気に入っているらしい。
「だが近頃、ニールの様子がおかしくてな……」
「様子がおかしい……?」
「それは具体的にはどのような?」
「うむ、ニールには商品の運搬や遠くの場所にある導力灯の交換なんかを良く頼んでいるんじゃが、最近はその帰りがあまりにも遅いんじゃ」
「帰りが遅い……?」
以前であれば仕事が終わった後にすぐに店に戻って来たそうなのだが、最近のニールさんはその帰りがあまりにも遅くなっているらしい。
その他にも仕事中に上の空になっていたり、良く独り言を呟いたりと明らかに様子がおかしくなっているそうなのだ。そのことをニールさんに問いただそうとしても、ニールさんは逆ギレしたり誤魔化したりと理由もわからないとのことだ。
「つまり、俺たちにニールさんが一体何をしているのかを調べてほしいということですね?」
「そうじゃ。何もなければそれで良いのだが、どうしても心配でな」
ドワイト老人は、弟子であるニールさんが何か良からぬことをしているのではないかと本当に心配している様子だった。
その様子を見た俺たちは互いの顔を見て、この依頼を受けることを決意する。
「――わかりました。俺たちに任せて下さい」
「ええ、ここまで聞いてニールさんのことを放っておくわけにいかないものね」
「俺も先月の実習では世話になったからな」
俺たちが依頼を受けることを聞いたドワイトさんは、再び頭を下げた。
「ありがとう、よろしく頼む」
「ここがパルム間道か……」
「ここをずっと行くとリベール王国に行けるのよね」
ドワイトさんから依頼を受けた俺たちは、早速パルム間道に来ていた。
このパルム間道を南下して行くと国境にある関所のタイタス門があり、そこを越えればリベール王国である。といっても、今回は国境付近まで行く用事は無い。
「さて、件の導力灯はここから少し離れた場所にあるのだったな」
「ああ、一応ドワイト老人から地図も貰ったから迷うことは無いだろう」
俺たちにニールさんの調査を依頼するために、ドワイトさんは予めニールさんにパルム間道にある古い導力灯の交換をするように頼んでいた。間道に出る前に町の人にも聞いたが、ニールさんは俺たちよりも少し前に間道に出たらしい。
俺たちがニールさんのところに着いている頃には導力灯の交換も終わっているはずなので、何もなければそのままニールさんとパルムに戻れるというわけだ。
「街道は一本道だからすれ違うことは無いと思うけど、導力灯の交換をちゃんとやっていたのか確認したいから俺たちもすぐに向かおう」
「そうね」
「了解だ」
ドワイトさんの話だと仕事中も上の空になっていることも多いそうなので、ここは一応ニールさんの仕事の様子も確かめておきたい。
みんなも俺の方針に賛成してくれたため、俺たちは街道にいる魔獣に警戒しながら先を急いだ。
「あれ、いないね?」
「導力灯の場所ってここで合ってるわよね?」
「ああ、地図とも一致するし間違いないはずだ」
途中、魔獣を倒しながら俺たちはドワイトさんに教えられた街道の場所に着いたのだが、そこにはニールさんはいなかった。俺たちが間違っていないか地図で確認してみたが、やはりこの場所に間違いない。
「導力灯は交換されているようだな……」
「ああ、仕事自体はちゃんとやったらしいな」
ニールさんが頼まれた導力灯は全て新しいものに交換されていた。ということはニールさんがまだここに到着していないということは無い。
周囲を見回しても人影は見当たらなかった。魔獣を倒しながら進んでいたが、街道では俺たち以外に人は誰も通らなかったはずだからすれ違ってしまったということも考えにくい。
一体ニールさんはどこに行ってしまったのだろうか。それを考えようとした時、俺はあるものに目を奪われた。
「青い蝶……」
どこからやって来たのか綺麗な青い羽の蝶がひらひらと飛んでいた。
「わぁ、綺麗だね」
「ふむ、見たことのない蝶だな」
俺以外のみんなも気づいたようで、その蝶に視線を移していた。
ひらひらと舞う蝶の羽は鮮やかな青で、その羽には黒い不思議な模様が浮かんでいる。一見すればただの綺麗な蝶なのだが、空中で踊る青い蝶には何故だか惹かれるものがあった。
少しの間、俺たちが蝶に目を奪われていると不意に何者かの叫び声が聞こえた。
「うわぁぁぁぁ!?」
「今のは!?」
「街道の奥の方からだ!」
聞こえた叫び声は若い男性のものだった。このタイミングからしてニールさんの可能性が高い。叫び声を聞いた俺たちはすぐさま街道の奥へ走り出した。
走っている最中も男の叫び声や罵声のような声も聞こえて、それと同時に銃撃音も聞こえていた。その声を聞いた俺たちはスピードを上げて男の声のする方に急ぐ。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あれって!?」
「くそっ!なんで言うことを聞かないんだよ、このポンコツ!」
到着したのは導力灯があった場所から少し離れた高台のようなところだった。そこにはニールさんと思しき男性と《人形兵器》の姿があった。男は人形兵器の攻撃を辛うじて躱しながら罵声を浴びせ続けている。
「みんな、戦闘準備!」
「了解!」
男を取り囲んでいる人形兵器は小型のものが3体、しかも幸いなことに何故かこちらに注意を向けていない。ARCUSの戦術リンクを使って連携すれば、速攻で片付けられる。
剣を抜いた俺とラウラは互いにリンクを繋いで敵に向かって走り出した。
「うわぁぁぁ!?」
逃げ回る男に一体の人形兵器の攻撃が迫る。その銃口から弾丸が発射されようかといったところで、人形兵器の背後から一陣の風が吹いた。
「《烈風刃》!」
突然の攻撃に人形兵器は動きを止める。俺の放った技は人形兵器にクリーンヒットしていた。
周囲にはまだ二体の人形兵器がいたため攻撃範囲の広い《嵐霆斬》を使いたかったが、男にも当たってしまう可能性が高かった。そこで俺は狙いを攻撃しようとしていた一体に絞って《烈風刃》を撃ち込んだのだ。
俺の攻撃によって男以外の人間がいることに気づいた人形兵器はこちらに標的を変えようとする。しかし、その対応はすでに遅かった。
「はあああ!!」
俺の横から走り込んでいたラウラの痛烈な一撃が人形兵器に叩き込まれる。二度の強烈な攻撃を許した人形兵器の一体はその活動を停止した。
俺は停止した人形兵器の横を走り抜けて、腰を抜かした男を保護する。
「き、君たちは……?」
「その話は後だ!」
俺は保護した男を自分の背後にしながら、再び戦闘の様子を確認する。だが、すでに俺の加勢は必要無いようだった。
「おおおおお!」
ガイウスの巻き起こした竜巻に二体の人形兵器は巻き込まれていた。竜巻の中の風による衝撃と人形兵器同士がぶつかり、それぞれの人形兵器は所々に傷ができている。
そして竜巻から解放された人形兵器に待っていたのはアリサとエリオットによるシンクロ攻撃だった。
「《ヒートウェイブ》!」
「《ゴルドスフィア》!」
地上からは噴きあげる炎が、そして空からは聖なる力を宿した球体が降り注いだ。逃げ場のない同時攻撃をくらった人形兵器たちが停止するのに時間はかからなかった。
「あなたがニールさんですね」
「あ、ああ」
人形兵器を片付けた俺たちは保護した男に質問をしていた。俺たちの予想通り、この男性がニールさんだった。
「どうして、こんなところにいたんですか?あなたは導力灯の交換に来ていたはずですよね」
「な、なんで知っているんだ!?」
「それは我らがドワイト殿からの依頼でそなたを探していたからだ。それよりも、我らの質問に答えてもらおう」
俺たちに詰め寄られるニールさんはひどく動揺していた。ラウラに再度尋ねられたニールさんは慌てた様子で考えてから答える。
「つ、疲れたからここで休憩してたんだよ!そしたら、あのポンコツどもが襲ってきたんだ!」
「こんなところで休憩……?」
「本当かしら……?」
ニールさんの答えは不自然なものだった。休憩するのであれば、わざわざこんなところまで歩いてこないでその場で休憩すれば良い。この場所は地面がボコボコで草もあまり生えていないため、腰を下ろすのにも適しているとは言いにくい。
何かを隠すような答えを言ったニールさんを疑っていると、ニールさんは自分が疑われる事を察して逆ギレ気味に怒鳴り出した。
「お、俺がどんな場所で休憩してたって俺の自由だろ!話も終わったしさっさと帰らせてもらうからな!」
「あ、ちょっと!」
強引に話を切り上げようとするニールさんは俺たちを置いて、パルムに戻ろうとした。その様子が気になった俺は立ち去ろうとするニールさんの肩を掴む。
「ぐぁっ!?」
後ろから肩を掴まれたニールさんは急停止した。そしてその衝撃でニールさんの懐から何かが転がり落ちる。
「これは……」
落ちたのは一つの真新しい歯車だった。それを拾い上げてどこかで見たような形が気になった俺の手からニールさんは強引に歯車を奪い取る。
「か、返せよ!」
「あ、ちょっと待ってください!その歯車はどこで手に入れたんですか?」
「偶然、拾ったんだよ!もういいだろ!俺は先に帰るからな!」
俺から歯車を奪い取ったニールさんはそのまま足早に去ってしまった。それを見送っていると、後ろからみんなが近寄ってくる。
「ねえ、今イクスが拾った歯車って……」
「ああ、間違いない。イストミア大森林で拾った時のものと同じだった」
「やはりか……」
俺が拾い上げた歯車は形も大きさもイストミア大森林で拾った時のものと瓜二つだった。あの人形兵器のものと思われる歯車と同じものをニールさんは持ち歩いていたのだ。
「でもなんであの人があんなものを持っているのかしら」
「先ほどの態度といい、怪しいな」
ニールさんはあの歯車を偶然拾ったと言っていたが、それにしては歯車は綺麗すぎた。先ほどの戦闘の最中に拾っているような素ぶりはなかったし、仮に拾っていたとしても多少汚れているはずだ。
ニールさんについて不信感が高まるばかりだったが、確信がない以上は憶測の域を出ない。
「まあ、色々と気になるけど、まずは俺たちも町に戻らないか?」
「そうね、そろそろセントアークに戻らないと夜になっちゃうでしょうし」
「今日はここまでだな」
アリサの言う通り、空はすっかり茜色に染まっていた。そろそろ戻らないと、夜の街道を馬で走らなければならなくなる。気になる事は多かったが、今日のところはすぐにパルムに戻ることにした。
俺は最後尾でみんなの背を見ながら歩く。ふと何かに後ろ髪を引かれたような気がして、先ほど戦っていた場所を振り返った。
そこにあったのは俺たちが破壊したばかりの三体の人形兵器の残骸。
そして、その周りをひらひらと舞う青い蝶がいた。
いやぁ、約一カ月後には閃Ⅳが発売ですね。この時期は毎日カレンダーを見るのが楽しいです。
ちなみに皆さんは1周目はどの難易度でやりますか?
自分は毎回最短でトロコンを目指しているので1周目はHARD安定ですね。