英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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昨日に引き続き連続投稿です。
何とか9月から3章を開始できそうですね。





第27話 妖しく舞う青き蝶

 冷たい夜風が通り抜ける。先程まで少し緊張するような場にいて体が火照っていたからか、5月にしてはやや冷たい気もする夜風も今は心地よく感じた。

 

 辺りもすっかり暗くなっており、街にある家や街灯はどこも導力灯によるオレンジ色の光が灯っている。残念ながら今日は靄がかかって星空は綺麗には見えないが、靄によってぼんやりと月が光る朧月夜であった。

 

「予想はしてたけど、結構遅くなっちゃったわね」

 

「まあ、仕方あるまい」

 

「あはは、トリスタに着くのは9時くらいになりそうだね」

 

 俺の後に続いて屋敷からみんなが出てくる。予想通り辺りが暗くなっているのを見てトリスタに帰るのが遅くなるのを確信し、少しだけ落胆した様子を見せていた。

 

 パルムで人形兵器たちとの戦闘を終えた俺たちは、その場にいたニールさんを取り押さえて路線事故の後処理をしていた鉄道憲兵隊にその身柄を引き渡した。幸いなことにクレア大尉が駆けつけた頃には展開していた人形兵器はあらかた片付いており、路線事故による負傷者の中には死人は出ていなかった。

 

 鉄道憲兵隊と手伝いに駆けつけた俺たちの他にもサザーラント州の領邦軍などの応援もあって怪我人の手当てや脱線した列車の処理も夕方ごろには全て完了していた。

 

 今回のセントアークからパルムで起きた騒動は、不幸中の幸いか死者0名で済んだのである。

 

 そして俺たちB班は一度セントアークに戻って今回の事件についての調書を取られた後、実習が終了したことをサザーラント州の領主であるハイアームズ侯爵に伝えていた。

 

「大尉たちは駅で待ってくれているのだったな」

 

「ああ、そのはずだ」

 

 屋敷を出た俺たちはトリスタに帰還するためにセントアーク駅に向かっていた。俺たちに協力してくれたナオミちゃんやクレア大尉も、俺たちを見送るために駅で待ってくれているのだ。

 

「あら、侯爵さんへの報告は終わったみたいね♪」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

 予定通り駅前で俺たちのことを待っていたナオミちゃんとクレア大尉と合流する。そして、二人の他にも意外な人物が俺たちを待っていた。

 

「ご苦労だった。トールズ士官学院《Ⅶ組》の諸君」

 

「あなたは……!」

 

「ミハイル少佐……!」

 

 二人の横に立っていたのはミハイル少佐だった。初めて会った時の印象では少し怖いイメージがあった彼の表情は、あの堅物そうな表情よりも心なしか柔らかく感じる。

 

「人形兵器によるパルム襲撃の未遂犯の身柄確保。そして路線事故の負傷者の手当ての手助け等、今回は君たちの行動に非常に助けられた」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「当然のことをしたまでです」

 

 思わぬ人物から称賛されたことで、俺たちは謙遜しながらも少し誇らしげに感じていた。照れ臭そうにする俺たちを見たミハイル少佐は一度咳払いしてから付け足す。

 

「しかし、今回はたまたま上手くいっただけだ。昨日も言ったが諸君らはまだ学生の身。今後こういったことが起きた場合は、がむしゃらに突っ込むのではなく自分たちの実力を考えて行動したまえ」

 

「……了解です」

 

 やはりただで褒めてくれる人物ではなく、最後はお決まりの忠告をしてからミハイル少佐は先に鉄道憲兵隊の車に戻っていった。

 

 ミハイル少佐の忠告を受けた俺たちに横で見ていたクレア大尉は、微笑みながら先ほどのミハイル少佐の言葉に付け加えた。

 

「落ち込む事はありませんよ。わかり辛かったかもしれませんが、少佐もあなたたちのことを多少なりとも認めてくれたからこそ、あのような言葉をかけたんだと思いますから」

 

「そうなんですか……?」

 

「確かに、先程の言葉も俺たちを心配してくれているからこそのものなのかもな」

 

 既に車の方に向かってしまったためその姿は見えなくなっていたが、立ち去る時も俺たちを本気で怒っているような感じではなかった。ガイウスの言ったように厳しい言葉の裏には俺たちへの思いやりも確かにあったのだろう。

 そんなミハイル少佐を見送った後、俺たちはある事をクレア大尉に尋ねる。

 

「あの、ニールさんはあの後どうなりましたか?」

 

「正直、取り押さえた時も彼は正気ではなかったな」

 

 俺たちが心配していたのは、今回の事件の犯人であるニールさんについてだった。

 

 俺たちが人形兵器を倒した後その場にいたニールさんを取り押さえたのだが、彼はなぜか抵抗することなくずっとうわごとを呟き続けるという異常な精神状態に陥っていたのだ。そのため確保するのには手間はかからなかったものの、俺たちが鉄道憲兵隊に身柄を引き渡すまで彼は正気に戻っていなかった。

 

「……現在、複数の隊員でニールさんを調べていますがあれから彼の精神状態も回復しておらず、未だ事情聴取も取れない状況です」

 

「そんな……」

 

「一体ニールさんの身に何が起こったというのだ……」

 

 ニールさんが捕まるのが嫌であの態度をわざと取り続けているのならまだ良いのだが、彼の精神状態は明らかにそんな様子ではなかった。まるで心を失ってしまったかのように虚空を見つめていたのだ。

 

 ニールさんはこの後、鉄道憲兵隊によって帝都の精神科の病院に連れていかれるそうだ。そこで回復を待ってから改めて事情聴取を行うらしい。

 

「改めて今回は本当にありがとうございました。皆さんの協力がなければここまでスムーズに事件も収まっていなかったと思います」

 

「あはは、そう言ってもらえて良かったです」

 

「こういった場合に対処するのも特別実習の一環であるからな」

 

 この特別実習で求められるものが、今回のような事件でいかに自分たちで考えて行動するのかということであるのは先月の実習で分かっていた。今回も色んな人たちの助けはあったとはいえ、事件への対応は俺たちなりに手ごたえを感じている。

 自分たちの成長を実感している俺たちの言葉を聞いたクレア大尉は優しい笑顔で挨拶した。

 

「ミハイル少佐も言っていましたが、くれぐれも自分の命を守ることを考えた上で行動してくださいね。それでは、私はこれで。今後も特別実習、頑張ってくださいね」

 

「はい!」

 

 俺たちに一礼した後、クレア大尉も鉄道憲兵隊の車の方に向かっていった。その後ろ姿を見送った後、空気を読んで黙っていたナオミちゃんに声をかける。

 

「ナオミちゃんも今回は色々とありがとう」

 

「色々と危ない場面を乗り越えられたのも、ナオミさんのおかげです」

 

「いいのよ、アタシもアナタたちと一緒に行動してて久しぶりに楽しかったから♪」

 

 ナオミちゃんは気にするなと言っているが、実際この人の協力が無かったら今回の事件も解決することはできなかっただろう。最初の方はそのキャラのギャップに戸惑っていたB班のメンバーもすっかりナオミちゃんと打ち解けていた。

 

 感謝する俺たちに少し照れ臭そうにしていたナオミちゃんは、ふと真剣な表情でアリサの方に視線を向けた。

 

「そういえば、昨日からずっと気になってたんだけど……」

 

「わ、私ですか……?」

 

 いつも以上に真剣な眼差しでナオミちゃんはアリサに顔を近づける。アリサも突然真剣な表情でナオミちゃんに見つめられたことで、その迫力に圧倒されていた。

 

「もしかしてアリサちゃん、アナタ――」

 

「え、え……!?」

 

 アリサも何か心当たりがあるのか、ナオミちゃんが言おうとしている言葉を考えてあたふたし始めた。そのあまりに真剣な空気に俺たちもアリサのフォローを忘れて息を呑む。

 

 そして、慌てるアリサに構わずにナオミちゃんはその言葉の先を言い放った。

 

「――アナタ、気になってる“男”がいるわね」

 

「へ――?」

 

「え――?」

 

 真剣な表情のナオミちゃんの口から出た言葉にアリサだけでなく俺たちも唖然とし、思わず間抜けな声を出す。そして固まっていたアリサはナオミちゃんの言葉の意味を理解して、顔が茹で蛸のように真っ赤になった。

 

「な、なな、何を言ってるんですか!?そんな人いませんよ!?」

 

「いやぁ〜、初めて会った時からピンときてたのよね〜♪うんうん、やっぱり学生って言ったら甘酸っぱい青春のラブストーリーよね〜♪」

 

「き、聞いてください!!」

 

 アリサは顔を真っ赤にしながら必死にナオミちゃんに抗議するが、ナオミちゃんは既にアリサの話を聞いていなかった。その様子を見ながら俺はあることを思い出す。

 

 ナオミちゃんはその外見とは裏腹に好きなものが恋バナと言い張るほどの乙女思考の持ち主なのだ。今までは実習や結社などの話で忘れていたが、この人の頭の中は基本的に砂糖でできているのである。

 

「あの表情から何を言うのかと思ったよ……」

 

「うむ、正直もっと深刻な内容かと思ったぞ」

 

「まあ、あながち間違いではなさそうだがな」

 

 予想外の展開に驚いていた他のメンバーもようやく思考回路を取り戻していた。アリサについての重要な情報ではないと分かってホッとしたため、いまだ抗議中のアリサのフォローを忘れてしまっている。

 そして、なおも慌てながら抗議するアリサにナオミちゃんは追い討ちをかける。

 

「んー、でもこの中にいる男子たちじゃなさそうなのよね〜。もしかして、別の班にいるのかしら?」

 

「にぇっ!?」

 

 ナオミちゃんの指摘が図星だったのか、アリサは良くわからない単語を発した後口をパクパクさせる。俺も思わず静観していたが、流石にこれ以上はアリサがかわいそうになったので、アリサの反応を面白がるナオミちゃんにツッコミを入れた。

 

「はいはい、そこまでにしとけってナオミちゃん」

 

「あら、残念だけどそうせざるを得ないみたいね♪」

 

 ナオミちゃんの質問責めで頭がオーバーヒートしてしまったようで、アリサは頭からプシューと蒸気を出していた。これではもはや反応すら返ってこないだろう。

 

 

 オーバヒート状態だったアリサを冷やして何とか平常心に戻すと、アリサは肩を落として呟く。

 

「うう……最後の最後にどっと疲れたわ……」

 

「あはは、ドンマイ。アリサ」

 

「そなたはそちらの方も精進する必要がありそうだな」

 

 俺たちもアリサのことについてはある程度察しはついているため、あまり追求はしなかった。アリサもまさかの精神攻撃で疲れた様子だが、しばらくすれば元に戻るだろう。まあ、トリスタに戻った後にあの朴念仁と会ったらまたややこしいことになりそうだが。

 アリサの様子を確認した俺は改めてナオミちゃんに挨拶する。

 

「それじゃあ改めて、今回は本当にありがとうナオミちゃん」

 

「いいのよ、アタシもみんなのことは色々と応援したくなったし。それに何よりイクスちゃんの成長もこの目で確かめられたしね♪」

 

「ふふ、そういえばそうだったな」

 

「イクスもこの実習で壁を一枚破れたようだな」

 

「ああ、みんなのおかげだ」

 

 俺も成功するかどうかは分からなかったが、何とかぶっつけ本番で奥義を完成させることができていた。これもB班のメンバーやナオミちゃんのおかげだろう。

 成長を実感した俺の姿を見たナオミちゃんは満足そうに頷いてから、改めて俺たちに忠告する。

 

「アナタたちも今回実感したでしょうけど、この帝国で何かが起きようとしているのは確かよ。この先の特別実習でも何が起こるかわからない。くれぐれも自分たちの命を大切にね」

 

「了解です」

 

「お心遣い感謝する」

 

 今回俺たちが戦った人形兵器は正直かなり厄介な相手だった。そして、それを作っているという《身喰らう蛇》という連中もいつ俺たちの前に姿を現わすかわからない。ナオミちゃんの言う通り、俺たちも腕を磨かなければならないだろう。

 

 新たに判明した脅威を胸に刻んだ俺たちは、もうすぐ到着する列車に乗り遅れないために駅へ向かう。

 

「本当にありがとうございました!」

 

「ナオミちゃんも元気で!」

 

 駅に向かいながら別れの挨拶をする俺たちに、ナオミちゃんは手を振りながら見送ってくれた。

 

「みんなも元気でね!アリサちゃんも今度はちゃんと聞かせてね〜♪」

 

「だ、だから違いますからーー!!」

 

 最後までブレないナオミちゃんに見送られながら、俺たちは2回目の特別実習を無事に終えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イクスたちがトリスタに向かう列車に乗り込んだ少し後、イクスたちが人形兵器と戦ったアグリア旧道の奥に一人の女性がいた。

 

「さあ、お行き。ちゃあんと“魔女さん”に報告してくるんやで」

 

 妖しく笑う女性の手から一匹の青い蝶が夜空に飛び立った。青い蝶はその羽からきらきらと鱗粉を散らしながら闇に溶けていく。

 

 それを見送った女性は蝶と同じ青い着物を着ていた。朧月の光を浴びる彼女は、美しさを感じさせると共にどこか近寄ってはいけないような空気を醸し出している。

 

「ふふ、あの坊や壊れてしもたみたいやなぁ。可哀想に」

 

 誰かを哀れむような言葉とは裏腹に、その女性はどこか楽しそうな表情だ。そんな女性の下にまた一人闇夜からその姿を現わす。

 

「アハハ、絶対心配してないでしょ姐さん。自分が言うのも何だけど姐さんも中々趣味悪いよね〜♪」

 

 現れた男は甲高い声で嗤う。その男はフードのついたぼろぼろの黒いコートのようなものを身に纏い、くすんだ赤髪を雑にカットしている。親しげに話しかける辺り彼らは知り合いのようだ。

 

「ホントにあんたにだけは言われとうないわ。それよりも、仕事はちゃんとやったんやろな?」

 

「アハ、心配しなくてもちゃんとやったよ。姐さんの方こそもう“蝶”は飛ばしたの?」

 

「ついさっきな」

 

 どうやら女性は何らかの方法であの青い蝶を操っているようだった。イクスたちの前に現れた蝶も彼女のものだったのだろう。

 女性と会話する赤髪の男は愉快に笑いながら女性をからかう。

 

「姐さんもヒドイよね〜、せっかくあんなに頑張ったんだからちょっとくらい『愛してる』とか言ってあげたらいいのに〜」

 

 男の言葉は一見女性を非難しているようだったが、愉快に話していることで同情している様子は欠片も感じられない。なぜなら彼はこの質問の答えを知っていたからである。

 

「そんなこと死んでも言いまへんわ。うちが愛を捧げるのは“あの人”しかおらんさかい」

 

「アハハ、ホント姐さんは“リーダー”のこと好きだよね〜」

 

 彼らが言っている人物が誰なのかは定かではないが、二人がどちらもその人物に好意的だということに間違いはなかった。男の言葉から出た“リーダー”という言葉から察するに二人は何らかの集団に属しているようだ。

 

 少しの間、女性はその人物のことを想ってトリップしていたが、自分の他にも赤髪の男がいることに気がついて咳払いする。

 

「さてと、仕事も終わったことやし、うちらも行くで“コルン”」

 

「はいはい、わかりましたよ〜」

 

 赤髪の男はいつの間に取り出していたのか、数本のナイフでジャグリングを始めていた。器用にジャグリングを続けながら“コルン”と呼ばれた男は女性の後に続く。

 

 気がつけば彼らの姿は闇に消えていた。もちろん彼らの他にその場所にいた者もいない。

 

 空に浮かぶ朧月は先程まで岩場を照らしていたが、いつしかその姿は深い雲に覆われて岩場も闇に包まれていた。

 

 

 

 

 

 




というわけで第2章終了です。次回からは第3章となります。
色々とオリキャラも出てきましたが、まだまだ序盤ということでオリジナル展開は控えめにしています。その分終章に向けて、そして閃Ⅱからはさらにオリジナル展開が多くなっていきます。そちらの方にもご期待ください。




オリジナル人形兵器《ディリゲント》
人形兵器を指揮することを目的とした試作機。背面にある4体の衛星機を飛ばすことで他の人形兵器へ指示を出す。これによって単純な動きしかできない人形兵器たちも戦術リンクに劣らない連携をすることが可能になる。
また、衛星機にはアーツの効果と範囲を増幅させる効果もあり、ディリゲントは味方機に指示を出しながら高位アーツなども使用する。
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