英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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書いてたら予想以上に長くなってしまった……
それと今回はイクスの過去がちょっとだけ明らかになります。ただ、本格的な話をするのは次の章になると思うので詳しいことはそちらで。




第35話 剣士と猟兵

 

 少し強めの風が周りに生えている草木を揺らした。辺りには街灯もなく夜空に浮かぶ月と星々だけが唯一の光であり、俺たちのいる祭壇を薄く照らす。暗い中では数アージュ先までうっすらとしか見えなかったが、それでも目の前に立つ相手の表情ははっきりと見えている。

 

「ほ、本気なのか二人とも……!?」

 

「何も戦わなくていいんじゃ……」

 

「止めないでくれ、マキアス、エリオット」

 

「ん、これはわたしたちが決めたことだから」

 

 止めようとする仲間の声を俺と相手は聞かなかった。俺たちを離れたところで見守る三人のうちの一人であるラウラは、もはや何も言うまいと先程から黙っている。今回の実習で共に行動しているモナさんは空気を読んでくれたのか一足先に宿泊小屋に戻っていた。

 

「それじゃあ念のため確認するぞ。俺が勝ったら、フィーのことについて聞かせてもらう」

 

「そして、わたしが勝ったらイクスのことを聞かせてもらう。で、いいよね」

 

「ああ、OKだ」

 

 このルールを決めたのはフィーの方だった。彼女曰く猟兵の勝負では勝者が報酬を得る権利が与えられるというのが“猟兵の流儀”らしい。自分のことについて知りたいのならそれを勝ち取ってみろということだ。

 

 改めて勝者に与えられる報酬を確認した俺たちはともに自らの得物を抜く。お互いの武器が月明かりをわずかに反射する。俺の前に立つ少女は俺よりも一回り身長が低いが、その目から発せられる圧力はその体を大きく感じさせた。

 

 

 これから俺とフィーが始めるのは互いの本気をぶつけ合う“真剣勝負”だというのに俺の心は不思議と緊張するどころか落ち着いていた。いつもと違う自分に気づいた俺は握っていた剣を軽く振ってみる。

 

 

(――軽い)

 

 

 昨日の夜にラウラと勝負した時もそうだったが、ここ最近は剣に重りでもついているかのようにずっしりと重かった。だが今は、その重りが取れたかのように軽い。久しぶりに剣を握っていて心地よい感覚があった。

 

 得物の感覚を確かめてから俺は再び少し離れたところに立つフィーを見据える。お互いの視線が交錯し、穏やかだった俺の心も徐々に戦闘体勢に切り替わる。

 

 

 剣を下段に構える。今まで周囲のことを把握するのに割かれていた五感が研ぎ澄まされていく。目に映るのは眼前の少女のみ、わずかに聞こえるのは風とそれによって揺れる草木の音だけ。

 

 視線は相手の目から一瞬たりとも動かさず、その時を待つ。

 

 風によって飛ばされた一枚の葉が俺たちの前に落ちた。

 

 

「――ッ!」

 

「――シッ!」

 

 

 それを合図に両者は同時に動いた。スピードに自信のあるフィーはやはり先制攻撃を仕掛けるべく猛然とダッシュする。そして俺も彼女に劣らない速度で風になる。

 

 お互いの間にあった距離がゼロになるのに時間はかからなかった。攻撃範囲に入った瞬間に俺は準備していた双剣を振るう。

 片方の剣がフィー目掛けて跳ね上がり、下からきた俺の剣をフィーは素早くいなす。だが、俺の剣はリィンやラウラのように一本ではない、そのまま間髪入れずに第二撃を放つ。

 

 鋭く振られた剣はフィーに命中することはなかった。加えられた二撃目を彼女は二対の銃剣でがっちりとガードし、剣ごと俺をはじきかえす。二撃目を弾かれたことで体勢を崩した俺に向かって銃剣が横薙ぎに振られた。

 

「ふっ!」

 

 眼前に迫ってくる刃を咄嗟にしゃがんで回避する。そして回避しながら俺は初撃を放った方の剣を水平に振るった。が、フィーもそれを読んでいたか俺の振った剣は彼女に当たらない。

 

「やっ」

 

 十分な助走などが無いにもかかわらずフィーはそのしなやかさを活かして俺の頭上に跳んでいた。空中で回転してからフィーは俺の後ろに着地する。だが俺もフィーがジャンプした瞬間に次の行動に移っていた。

 

「はあああっ!」

 

「っ!?」

 

 若干前屈みになっていた姿勢になっていた俺はそのまま左足を前に出して体を捻っていた。フィーが俺の方に振り返ろうとした瞬間に力を解放して《嵐霆斬》を放つ。

 

 もともと広範囲攻撃だったそれを喰らったフィーはかろうじて防御はしたもののその衝撃で後方に吹き飛ばされる。雷撃を放った俺は追撃に向かおうとしたが、フィーはそれを許さない。

 

「くっ……!」

 

 通常、フィーの持つ重量の軽い剣はその分刃渡りも短くなるため攻撃する際には相手の懐に近寄らなければならない。しかし、彼女の持つ双銃剣はその例に当てはまらない武器だった。

 

 吹き飛ばされたフィーは体重の軽さを活かして無理に着地しようとはせず、そのまま後方に飛びながら俺に向けて銃による攻撃に切り替えていたのだ。フィーのように咄嗟の遠距離攻撃ができない俺はその銃弾を避けながら後退せざる得ない。銃弾を全て避けるのにかかったわずかな時間はフィーの体勢を整えるのには十分だった。

 

 距離が離れたフィーはそのまま銃による攻撃を続行する。射程距離自体はそこまで長くないためある程度距離を取れば銃弾が当たることはない。俺は足を止めることなくその射程距離から逃れるため走り続ける。

 

(やっぱり、この子は凄い……)

 

 銃弾を避ける中、俺はフィーの実力に改めて感心していた。先ほどの咄嗟の判断といい明らかに戦闘慣れしている動きだ。瞬時の判断力と身のこなしで言えばおそらく俺やラウラやリィンなどを凌いでいるかもしれない。それも自分より3歳は年下であるはずの少女なのである。

 

 それだけに彼女が一体どんな環境で育ったのかが余計に知りたくなる。最初は自分の過去と関係があるのか知りたいという目的だったが、今は純粋にその強さの成り立ちを知りたくなっていた。

 

 

 銃では埒があかないと判断したフィーは再び双銃剣を剣として持ち替え、俺に突進してくる。俺もそれを迎え撃つべく再び剣を握る力を強める。

 

 軽やかな金属音を響かせて俺とフィーの剣は幾度もぶつかり合う。一方の剣が振るわれればもう一方はそれをいなし、自らの剣を振るう。それをまた一方が受け流し相手に向けて刃が振り遅される。

 

 そのやり取りはどんどん加速していき、考えるよりも先に体が反応していくほどになっている。繰り返される二人の剣戟はまるで舞を踊っているかのようだった。

 

「だあっ!」

 

 だが、その硬直した状況は俺の放った斬り上げによって崩される。フィーの左手に握られていた銃剣はクルクルと回転しながら頭上に飛ばされていった。

 

 俺の得物は手数を重視するものだが、それでもフィーの得物に比べれば十分に重い。加えてフィーは前衛の中ではパワーはあまりないため、斬り合いで俺がフィーの剣を弾くのはそう難しいことではなかった。

 

(もらった……!)

 

 俺の剣をフィーは片方の剣だけでは受けきれない、勝負を決めるべく俺は続けざまに剣を振るおうとした。

 

 

「――甘いよ」

 

「何……!?」

 

 

 剣を失ったはずのフィーの左手は後ろに回されていた。それを見た瞬間に俺は彼女の武器が一つではないことを思い出す。だが、それに気づいた時にはもう遅かった。

 

「ぐうっ!?」

 

 フィーの左手から何かが放たれた瞬間、衝撃とともに俺の視界が白で染まる。彼女が投げたのは閃光手榴弾、強烈な光によって相手の視界を奪ってから自分の有利な状況に持ち込む夜行戦闘におけるフィーの得意技だった。

 

 未だ視界が白く染まる中、俺は反射的に後ろに跳んだ。フィーも多少は目がやられてはいるだろうが、彼女は夜目がきくからすぐに攻撃の体勢に入る。足を止めていてはその攻撃をモロにくらってしまうだろう。

 

 反射的にに後退した俺は徐々に視界が戻りつつあった。なおも銃撃による攻撃を仕掛けてくるフィーからさらに距離を取って視界が戻るのを待つ。銃撃の音が止み、俺の視界が戻ろうとしたその時だった。

 

「――ひゅっ」

 

「くっ!?」

 

 銃撃を避けるのに気を取られていた俺の右手から剣が離れる。宙に舞っていく剣にはワイヤーが巻き付いていた。

 

(なるほど、左手の剣を手放したのもわざとだったわけか……!)

 

 フィーが俺の斬り上げで剣を手放してから手榴弾を握るまでには動きに迷いがなかった。おそらく一連の動きはあのワイヤーで俺から剣を奪うためのものだったのだ。

 俺から見事に剣を奪ったフィーは勝負を決めにかかる。

 

「――いくよ」

 

 再び銃剣を両手に握ったフィーは目にも留まらぬ速さで突進してきた。駆け抜けながらの攻撃を防御したと思ったが、フィーの動きはそれで止まらずに加速しながら四方から斬撃を放つ。

 

「くっ……」

 

 そのスピードで放たれる連撃をなんとか防御した俺にフィーは攻撃の手を緩めなかった。

 

「《シルフィードダンス》!」

 

 猛スピードによる接近攻撃を終わらせたフィーは少し離れたところに着地し、そのまま回転しながら銃弾の嵐を俺に浴びせる。先ほどの攻撃をガードしたために動きが止まっていた俺は銃撃の射程範囲から離れることができない。俺には止まない銃弾の嵐を防御する術もなかった。

 

(――過去と向き合うためにも、負けるわけにはいかないんだ!!)

 

 迫り来る銃弾に俺は勝負を諦めてはいなかった。この戦いでフィーと向き合うためにも俺は最後まで全力で彼女にぶつかり合わなければならない。瞬時に覚悟を決めた俺は一か八かの勝負に出る。

 

「いっけええええ!」

 

「っ!?」

 

 雷を纏わせた剣を俺はフィーに向かって投げつけた。投げられた剣は俺に来るはずの銃弾を弾きながらフィーに向かっていく。俺の投げた剣に気づいたフィーは咄嗟に銃撃を止めてそれを避ける。

 

 フィーが俺の剣を避けるのにかかった時間はわずかなものだったが、俺にとってはそれで十分だった。一瞬できた隙を見て俺はフィーに向かってダッシュする。

 

「やああっ!」

 

 向かって来る俺に対してフィーは銃を放つ。俺はその銃撃に怯まず、最小限の動きでフィーとの距離を詰める。一発が俺の頰を掠めていきそこから血が流れる。その他の銃弾も何発か俺にかすった。

 

 そして遂にその距離がゼロに近づく。フィーは銃撃から剣に切り替えてその刃を振り下ろそうとしたが、攻撃の速さは武器を持っていない俺の方が早かった。

 

「《螺旋掌》!」

 

「うぐっ……!?」

 

 腰から腕に移った回転の力はさらに腕の回転の力を加えながらその掌に乗せられ、フィーの鳩尾辺りに撃ち込まれる。そのエネルギーを喰らったフィーはその剣を振り下ろすことなく静かに膝から崩れ落ちた。

 

 

「はあ、はあ……俺の勝ち、だな」

 

「……みたい、だね……」

 

 

 こうして俺とフィーの勝負は俺から得物を奪ったフィーではなく、最終的に武器を失った俺が勝利を収めるという結果に終結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か、フィー?最後、結構強くやっちまった」

 

「……ん、大丈夫。本気の勝負だったから手加減できないのは仕方ない」

 

「だ、大丈夫か二人とも!?」

 

「待ってて、すぐに応急処置するから!」

 

「ふふ、随分と派手にやりあったな」

 

 勝負を終え、俺は膝をついていたフィーに手を差し伸べる。俺の手を握ったフィーは大丈夫だと言っているが、やはりダメージはあるらしくその小さな手が少し震えていた。

 

 俺がフィーを起こすと、勝負を見届けていたマキアスたちが近寄ってきた。フィーの銃弾を何発か掠っていた俺も含めてエリオットがアーツによる応急処置をしてくれる。

 

「ありがと、エリオット」

 

「サンキューな」

 

「ううん、気にしないで」

 

 応急処置を終えたフィーは相変わらずの無表情だったが少し顔色が良くなったような気がした。痛みが引いたフィーは先ほどの勝負を振り返る。

 

「最後のイクスの攻撃、流石に予想外だった」

 

「うむ、私もまさかもう一方の剣を投げつけるとは思わなかったぞ」

 

「ねえ、イクス。最後の攻撃、らせんしょう?って言ってたけどあれもイクスの技なの?」

 

「確かに、素人目で見てもあれがちゃんとした技だということはわかったぞ」

 

「ああ、あれな。エリオットとマキアスが言った通り俺がやった攻撃は《螺旋掌》っていう技だよ。簡単に言えば腰と腕の回転を乗せた掌底なんだ」

 

 俺が最後に放ったのは《螺旋掌》といって、元々は剣が手元に無い時に使う技だ。俺は帝都にいた頃、ナオミちゃんに徒手空拳を教えてもらっていたことがあり、この技もその時に編み出したものだった。

 

 螺旋掌はあんな場面で無理矢理使うものではないのだが、俺も無我夢中だったため自然とあの技を使う体勢に入っていたのである。

 

「ふふ、そなたにはいつも驚かされるな」

 

「ん、自分から得物を手放すのはイクスくらいしかやらないと思う」

 

「え、そうか?」

 

「あはは、でも成功させちゃうんだからすごいよね」

 

「まあ、毎度やられてはこちらもヒヤヒヤするがな」

 

 いつの間にか俺たちは自然と会話を続けることができていた。なぜか俺が日頃から変なことをしているといじられるような流れになっていたが、不思議と今はそれが嫌に感じないどころか久しぶりの自然な会話が心地よく感じる。

 そんな会話がひと段落した後、俺はフィーに約束していたことを尋ねた。

 

「――フィー、俺たちに君のことを教えてくれるか?」

 

「……いいよ、約束だもんね」

 

 そう、この勝負の報酬は勝者が敗者のことについて知ることができるというルールだ。フィーは自らが提示した条件に則って自分自身のことについて静かに語り出した。

 

 

 

 フィーが学院に来る前にいたのは《西風の旅団》という大陸でも最強格の猟兵団であった。彼女は物心ついた時には戦場を一人で彷徨っており、それを拾ったのが《猟兵王》と呼ばれる《西風の旅団》の団長、フィーにとっての父親のような人だった。

 

 そして猟兵団に拾われその団員たちと共に成長していったフィーはいくつもの偶然が重なってわずか10歳で実戦を経験することになり、結果的にそのまま《西風の旅団》の一員になってしまった。

 

 そうして猟兵として生きる中、ある時《西風の猟団》と双璧を成すと言われる《赤い星座》という猟兵団の団長が団長同士での決闘を仕掛けてきた。その結果、決闘は相討ちという形に終わり《猟兵王》も命を落としてしまったということだった。

 

 そしてその流れで団自体も解散することになり、フィーを残して次々と団員が消えていってしまった。再び居場所をなくしてしまっていたフィーをサラ教官が見つけて、彼女は士官学院に来ることになったそうだった。

 

 

 

「……これが、わたしが士官学院に来るまでのこと。わたしが元猟兵であることには変わりないよ」

 

「…………」

 

 フィーの口から語られた真実に俺は言葉を失った。元猟兵ということは知っていたが、こんな少女がそんなにも過酷な状況で生きてきたとは想像もつかなかったからだ。話を聞いた エリオットやマキアスはその過去に俺同様なんと言っていいのかわからないという表情だ。

 

 だがそんな中、フィーの話を聞いたラウラが口を開いた。

 

「……ありがとう、フィー。そなたのことを話してくれて」

 

「え……」

 

 ラウラから感謝されたフィーは少し戸惑う。俺とフィー以外にもラウラもフィーとうまくいっていなかったため、フィーはいきなりラウラから感謝の言葉を述べられたのに驚いてしまっていた。

 

「私は今まで己の目指す強さこそが、“騎士道”こそが正しい強さだと思っていた。それ故に猟兵の強さというものはどうしても“邪道”だと思い込んでいたのだ」

 

「…………」

 

(正しい強さ、か……)

 

 ラウラの言葉に俺も思い当たる節があった。同じ剣士として猟兵という存在は確かに“邪道”という存在であると思っているのかもしれない。

 しかし、それを語ったラウラの口から次に出た言葉は驚くべきことだった。

 

「――だが、それはそなた自身を見るのには無用な価値観だった」

 

「え――」

 

「私はおそらくこの三ヶ月でそなたのことを自然と認めていたのだ。だが、私はどうにも頭が堅いようでな、私の凝り固まった頭がそなた自身を見るのを邪魔していたらしい」

 

「ラウラ……」

 

 ラウラの口調は優しかった。その話を聞くフィーだけでなく俺たちもラウラの言葉に聞き入る。そしてラウラからある一言がフィーに告げられる。

 

「そして、今の勝負を見て確信した。やはり私はそなたのことが“好き”なようだ」

 

「な……!?」

 

「ら、ラウラ!?」

 

「いきなり何を言いだすんだ!?」

 

 ラウラの衝撃的な発言にフィーだけでなくエリオットやマキアスまで驚く。二人が何か勘違いをしていると思った俺はその言葉に付け加える。

 

「いや、ラウラの言う“好き”っていうのはloveじゃないと思うぞ」

 

「え、あ、そうだよね」

 

「い、いや、もちろん僕たちも分かっていたさ」

 

 二人の勘違いが訂正された後、ラウラは気を取り直して話を続ける。

 

「だからこそ、私は今一度そなたと“友達”になりたい」

 

「あ……」

 

 そう言ったラウラはフィーに手を差し伸べる。差し伸べられた手にフィーは少しの間戸惑っていたが、やがてその手を握り返す。

 

「こちらこそよろしく」

 

「うん、よろしく頼む」

 

「あはは、なんていうか……」

 

「ラウラらしいな」

 

「全く、見てるこっちが恥ずかしくなってくるな」

 

 どこまでも真っ直ぐなラウラに俺たちは改めてその誠実さに感服していた。良くも悪くも彼女はこういうやり方が性に合っているのだろう。

 そしてフィーとラウラが改めて和解したのを見た俺はフィーに話しかける。

 

「フィー、俺からもありがとうな。過去を話してくれたこともそうだけど、何より全力でぶつかってくれたことが俺は嬉しかった」

 

「ん、わたしも。なんかスッキリした」

 

 あの勝負を通じて俺はフィーと分かり合えたような気がした。剣を交えたことで口で話し合うよりも彼女の人となりが伝わってきたのだ。フィーも俺と同じだったようで、俺に手を出す。俺も差し出された小さな手を強く握り返した。

 

 そして、フィーと和解できた俺はあることを決心する。

 

「――さてと、それじゃあ次は俺の番だな」

 

「え……?」

 

「イクスの番ってことは……」

 

「まさか、君の過去を……」

 

 みんなに自分のことを俺が話そうとすると、予想外の展開にフィーは思わず俺に尋ねた。

 

「何で?勝ったのはイクスだから、話す必要はないんじゃ……」

 

「いいや、それはフィーが提示した“猟兵の流儀”だろ。俺が話すのは“剣士の流儀”としてだ」

 

「剣士の流儀……?」

 

「ああ、剣士の勝負はどちらか一方が何かを得るんじゃなくて、どちらにも得るものあるというのが“剣士の勝負”の基本なんだよ。だからこれは俺の“剣士”としてのけじめなんだ」

 

「ふふ、そうであったな」

 

 確かに俺はフィーの提示したルールに則ってフィー自身のことについて知ろうとしたが、自分だけが相手のことを知る権利が与えられるというのはどうしても気持ちよくなかった。剣士としてというのもあるが、何よりも全力を尽くしてくれたフィー自身に不誠実な気がしたからである。

 

「だからさ、みんな良ければ聞いてくれるか?」

 

「……ん、そういうことなら」

 

「ああ、聞かせてくれ」

 

「僕たちもイクスのことはちょっと気になってたからね」

 

「慎んで聞かせてもらおう」

 

 みんなの同意を改めて得たことで俺は小さく頷く。一度息を整えてから俺は口を開いた。

 

「まず初めに、俺の本当の故郷について話そうか。俺の生まれ故郷は《ロウフェル》、帝国北東部にある《カラブリア丘陵》にあった小さな村だ」

 

「ロウ、フェル……?」

 

「ふむ、どこかで聞いたことがあったような気が……」

 

 俺の語った地名にみんなは首をかしげる。やはり誰もピンときていないようだ。

 

「まあ、知らなくても無理ないさ。ロウフェルは元々ラウラの故郷の《レグラム》みたいにとある子爵家が治める領地だったんだけど、ロウフェル自体は園芸農業が盛んに行われていたいわゆる農村部だったからな」

 

「そうだったのか……」

 

 俺の故郷であるロウフェルはケルディックほどの耕地は持たなかったものの、土地自体が非常に良い環境であったため主に農産物や様々な種類の花を栽培するところだった。しかも、帝国でもかなり辺境の地であるため知っていなくても無理はない。

 

「けど、今は《ロウフェル》という地はもう無い」

 

「あ……」

 

「まさかそれって……」

 

「…………」

 

「――ああ、俺の故郷《ロウフェル》は8年前、ある猟兵に襲われて村そのものが無くなった」

 

 そう、今の帝国にロウフェルという地は存在しない。いや、本来ならあるはずなのだがその領地はすでに帝国によって回収されていた。

 

「村にあった建物は一つ残らず焼き払われて、住民は俺と俺の幼馴染以外の全員が死亡か行方不明になった。村は壊滅して残ったのは俺たち二人だけ、辺境の地というのもあって村が消えるのは無理もなかった」

 

 その事件で残っていたのは俺と幼馴染の二人だけだった。家はおろか家族もほかの住民も一瞬にして失った俺たちがたった二人で村に残るわけにもいかなかった。

 

 そして俺の話を聞いていたマキアスはあることを思い出したようだった。

 

「ああっ!思い出したぞ!確か数年前に大陸横断鉄道で初めて廃線になったということがあって、それが確かその《ロウフェル》に繋がる路線じゃなかったか!?」

 

「えっ、そうなの?」

 

「……へぇ、さすがマキアス。よく知ってたな」

 

「いや、僕も小さい頃の記憶だから正直自信がなかったが、確かそんな記事が帝国時報に載っていたのを見たことがあってね」

 

 マキアスの言う通り大陸横断鉄道が開通してから初めて廃線となったのがロウフェルに繋がる路線だった。当時は近くにあったルーレなどに食料品や花などを届ける貨物線が主に運行していたが、ロウフェルが無くなり近くに他の大きい集落もなかったことでロウフェルに繋がる路線が廃線になったのだ。

 

「まあ、そんなことがあってから幼馴染の唯一の親戚が帝都にいてさ、俺は親戚もいなかったから幼馴染と一緒にそこに住むことになって、それで帝都で数年過ごした後にトールズに入学したんだ」

 

「そうであったか……」

 

「イクスもかなり大変な過去だったんだね……」

 

 俺の過去を聞いた面々は皆俺のことを心配そうな目で見てくれていた。その視線を受け止めながら俺は話をつづけた。

 

「今でも俺は猟兵については良い思いを抱いてない。正直、憎んでさえいるかもしれない。――けど、フィーと戦って一つ分かった。フィーはフィーだ、俺もラウラと同じでこうして三ヶ月過ごしてフィーが悪いやつじゃないってことは十分に分かってる。だから、フィーとはこれからも同じ《Ⅶ組》の仲間として仲良くしたい」

 

「イクス……」

 

 俺はもう一度今度は自分からフィーに手を差し伸べた。俺は手を出したフィーを真っ直ぐと見据える。

 

「……うん、わたしの方こそよろしくね」

 

「……良かったな二人とも」

 

「ふふ、一件落着だな」

 

「うん、これでようやくB班も元どおりだね」

 

 握られた手は暖かかった。その温もりを十分に感じてから俺は気持ちを新たにみんなに話しかける。

 

「それじゃあ改めて《Ⅶ組》B班、明日からは全員で協力してこの実習を乗り越えよう!」

 

「了解!」

 

 

 星空の下、俺たちB班は改めて明日に向けて士気を高める。

 

 

 雲がかかっていない月からの光が明るく俺たちを照らしていた。

 

 

 

 




というわけでイクスとフィー、そしてラウラとフィーの関係も落ち着きました。これで今後は全員で協力していけると思います。
そしてイクスの過去もちょっと明らかになりましたね。イクスの人物ノートも更新しておくのでそちらもどうぞ。
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