英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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第2話 訳アリのクラス

 パチィーンと乾いた音が辺りに響き渡る。

 

 それなりの広さの空間であるというのもあるが、音が割と反響するということは壁は石か何か硬い材質なのだろう。

 

 そんな事を考えながら横を見ると、入学式で知り合った黒髪の男子 リィン・シュバルツァーの頰には真っ赤な紅葉が刻まれていて、少し離れたところでは金髪の女子が怒りを露わにしている。先程の音はリィンが金髪の女子に平手打ちを貰った際の音だった。

 そしてその横では橙髪の男子 エリオット・クレイグが苦笑を浮かべている。

 

 俺は入学式の際に、偶然自分と同じ赤い制服を着た彼らと隣同士の席になり、その時既にお互い自己紹介を済ませていた。

 

 エリオットは士官学院を志望する割には、少しほっそりとしていて、やや中性的な顔立ちからも温厚そうな雰囲気を漂わせている人物だった。

 

 リィンの方はエリオットに比べれば体付きはしっかりしていて、“好青年”という言葉が似合う顔つきの男子だ。とてもじゃないが女子にいきなりビンタを喰らうような人には見えない。

 

 そんなリィンにエリオットが話しかける。

 

「その、災難だったねリィン」

 

「ああ、厄日だ…」

 

 リィンは赤くなった頰をさすりながら、肩を落とす。

 一体なぜこんなことになっているのか、時間は少し前に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 入学式の後、生徒たちはそれぞれ指定されていたクラスに移動するように指示されたのだが、俺を含めた赤い制服の生徒は皆自分のクラスを事前に知らされていなかった。

 

 困惑している俺たちの前にワインレッドの髪の女教師が、赤い制服の生徒たちは自分についてくるようにと言い、俺たちは仕方なく女教師の指示に従うことにしたのだが、到着したのはグラウンドや教室ではなく、校舎の裏手にある旧校舎だった。

 

 旧校舎の中に入った後、サラ・バレスタインと名乗る女教師は俺たちがの所属するクラスが今年度から新設されたクラス《Ⅶ組》であり、自分がその担任教官だと言った。

 トールズ士官学院ではⅠ・Ⅱ組が貴族生徒、Ⅲ〜Ⅴ組が平民生徒というようにクラス分けしているのだが、サラ教官によるとこの《Ⅶ組》は身分に関係無く選ばれたクラスなのだそうだ。

 

 しかし、帝国は身分制度が未だ根強く残る国だ。それを聞いて全員がはい、そうですかと納得する筈もなく、サラ教官に冗談じゃないと抗議する生徒が現れる。

 

 マキアス・レーグニッツ。眼鏡をかけた生真面目そうな男子であり、理由はわからないがその口振りから察するに相当な貴族嫌いの様子らしく、サラ教官にクラス替えを求める。

 

 だが、サラ教官が答える前に隣の金髪の男子がマキアスを嘲笑った。

 

 当然マキアスがそれを聞き流す筈は無く、金髪の男子に名前を尋ねると、金髪の男子はユーシス・アルバレアと名乗る。

 

 帝国には四大名門と呼ばれる帝国の各州を治める貴族が存在する。ユーシスの家名であるアルバレア家は帝国東部のクロイツェン州を治める正真正銘の大貴族であった。

 

 ユーシスが貴族であるからか、それとも彼の尊大な態度が気に入らないのかマキアスはユーシスに啖呵をきり、一触即発の状況になったが、サラ教官がそれを遮った。

 

 仕切り直したサラ教官は、これから俺たちに特別オリエンテーリングをやってもらうと言ったのだが、その場にいた全員はオリエンテーリングという聞き慣れない単語に疑問を浮かべた。数名の生徒がサラ教官に質問するが、サラ教官は何かはぐらかしているような曖昧な返答しかしない。

 俺たちが不審に思っていると、サラ教官はおもむろに壁際へ後退する。そして、事前に用意していたのか、隠して取り付けてあったスイッチのようなものを押すと、次の瞬間俺たちが立っていた床が急激に傾いた。

 

 予想外の事態に銀髪の少女以外は対応できず、俺たちはそのまま地下へ転げ落ちていく。

 そして落ちていく直前、リィンが金髪の女子を助けようとしているところが見えたのだが、今考えるとこれが問題だった。

 

 落ちた先の床は石畳だったが幸いケガ人が出た様子は無いようだった。

 それぞれの生徒たちは突然の出来事に困惑しながら状況を確認しようと立ち上がると、彼らの前には衝撃的な光景が広がっていた。

 

 リィンが仰向けで金髪の女子の下敷きになり、位置の関係上金髪の女子がリィンの顔面に胸を押し付ける体勢、いわゆるラッキースケベという状況になっていたのだ。

 

 その後、リィンも謝罪はしたのだが金髪の女子は羞恥の怒りを抑えきれず、先の状況に繋がったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 そうしたハプニングから全員が落ち着きを取り戻し、改めて周囲の状況を確認すると、現在俺たちがいるのはどうやら広めのホールのような空間らしい。さらに目を凝らすと壁際に台座のようなものが複数あり、その上には何やら荷物が置いてある。

 一体何をするつもりなのかと考えようとした瞬間、ポケットの中からいきなり電子音が鳴り響く。音の正体は入学案内と一緒についてきたあの戦術オーブメントからだった。

 

 恐る恐る全員が戦術オーブメントを開くと、驚くべきことが起こる。

 

『それは特注の戦術オーブメントよ』

 

 なんとその戦術オーブメントからサラ教官の声が聞こえてきたのだ。

 

 通常、導力通信を行うには通信専用の導力機が必要である。戦術オーブメントはエプスタイン財団を中心として開発が進められていて、俺もある機会に旧型の戦術オーブメントに触れたことがあるが、戦術オーブメントに通信機能を内蔵しているものはまだ開発されていなかった筈だ。

 

 生徒たちが驚愕する中、サラ教官は通信越しに話を続ける。

 

『それはエプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した次世代戦術オーブメントの一つ、第5世代オーブメント《ARCUS》よ』

 

「戦術オーブメント…魔法が使えるという特別な導力機のことですね」

 

 三つ編みの女子生徒がそう言うと、サラ教官はさらに続ける。

 

『そう、戦術オーブメントはクオーツをセットすることで魔法を使えるようになるわ。というわけで各自受け取りなさい』

 

 すると先程まで薄暗かった広間に照明がつき、壁際には人数分の台座とその上には正門で預けた荷物と小さなケースが置いてあった。

 

『君たちから預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。さ、受け取りなさい』

 

 少しの間、生徒たちは躊躇したがそれぞれ自分の荷物が置いてある場所に向かっていき、俺もそれに続く。

 台座の上のケースには雲の模様が描かれた黒いクオーツが入っていた。

 サラ教官によると、それはマスタークオーツという特殊なものでARCUSの中心にセットする事で使用者と共鳴・同調し、魔法が使えるようになるらしい。他にも機能があるそうだが、どうやら今は教えてくれないようだ。

 

 全員がARCUSにマスタークオーツをセットしたのを確認すると部屋の奥の壁が開いた。

 その先は魔獣も徘徊するダンジョン区画になっていて、終点まで辿り着けば、先程までいた旧校舎の一階に戻れるそうだ。つまり特別オリエンテーリングというのは終点まで自力で辿り着けという事なのだろう。

 

『それではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎一階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ。なんだったら、ご褒美にほっぺにチューしてあげるわよ♪』

 

 その言葉を最後に通信は切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 その後、ダンジョン区画の探索を開始することになったのだが、ここでも問題が発生した。

 

 最初にユーシスが単独でダンジョン区画に行こうとしたため、マキアスが一人で行くのは危険だと引き止めたが、ユーシスはマキアスを煽り、マキアスもそれに乗せられて二人は別々にダンジョン区画に入ってしまった。

 

 銀髪の少女もいつのまにかダンジョン区画に行ってしまい、それに続くように女子三人もチームを組んで先に進んでいったため、自動的に俺を含めた男子四人で一緒に行動することになったのである。

 

 そして、自己紹介がてらお互いの得物を確認しておこうということになっていた。

 

 

「うわぁ…キレイな刀身…」

 

 リィンの得物を見てエリオットが思わず言葉を洩らす。ちなみに彼が持っている得物は《魔導杖》といって、その名の通り杖状の新型の魔導器で、入学時に適正があったらしくそのまま使用武器に選んだということだった。

 

「…見事だな」

 

 そしてもう一人、浅黒い肌の長身の男子もエリオットに同意する。

 

 彼はガイウス・ウォーゼルといい、帝国の北東部にあるアイゼンガルド連峰の北方に位置する帰属未定地ノルド高原の出身の留学生であった。彼の得物は刃の部分が十字の形をした《十字槍》で、故郷にいたときに使っていたものらしい。

 

「これは《太刀》といって、東方から伝わったものなんだ。切れ味はちょっとしたものだけど、その分扱いが難しいから人によってはなかなか使いこなせないんだけどな」

 

 以前、リィンの持つ《太刀》を使う流派をひとつだけ聞いたことがある。

 《八葉一刀流》、《剣仙》の異名を持つユン・カーファイが創始したといわれる東方剣術の流派であり、西ゼムリア大陸にも何人かの使い手がいるらしい。おそらく彼もその一人なのだろう。

 

「それでは、そちらの方の得物が帝国では一般的なのか?」

 

 そう言って、ガイウスが俺の方に視線を向ける。そういえば、まだ俺だけ自己紹介をしていなかったか。

 

「剣の形でいえばその通りだ。それと改めて自己紹介だな、俺はイクス・ライガスト、得物は見ての通り《双剣》だ」

 

 自己紹介を済ませると、俺の得物を見たリィンが俺に尋ねる。

 

「《双剣》か…もしかして《ヴァンダール流》の使い手なのか?」

 

 剣の道に通じているだけあって、流石にリィンは《ヴァンダール流》を知っているようだ。

 

 《ヴァンダール流》は帝国ではかなり有名な剣術の流派であり、それを修めるヴァンダール家は代々皇族の護衛を任される名家でもある。

 《ヴァンダール流》といえばその剛剣が有名だが、実は双剣術を扱う流派でもあるのだ。

 

「へぇ、よく知ってるな。でも残念、《ヴァンダール流》は少しだけ取り入れてはいるけど、俺の剣はほとんど我流みたいなもんなんだ」

 

「そうなのか…」

 

 実際のところ“我流”というのは少し言葉不足だが、まぁ、今は伝えなくてもいいだろう。

 

「それより、自己紹介も一通り終わったところだし、俺たちもそろそろ先に進んだ方が良いんじゃないか?」

 

 少し強引に話題を変えるが、リィンも察してくれたのか俺のことについては追及はしてこなかった。

 

「それもそうだな。よし、俺たちも探索を開始しよう」

 

 そうしてリィンを先頭に俺たちもダンジョン区画に向かうのだった。

 

 




というわけで第2話でした。
最初は入学式のところの会話とか、旧校舎のところの会話もあったんですが、それだとなんかダレるなと思い、バッサリカットしました。
多分、今後もこんな感じで場面をカットしていくと思います。いちいち全部書いてたらダレるし、それなら実際のゲームやった方がいいですしね(笑)
目標はなるべく3日以内に更新していきたいと思います。
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