英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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いやー、遅れて申し訳ありません。久しぶりの更新です。
色々と立て込んでしまって中々更新する機会がなかったので、かなり遅れてしまいました。
今回から実習編スタートです。それではどうぞ。





第46話 《緋の帝都 ヘイムダル》

 

 もう8月も近いということもあり、早朝のトリスタの空には既に太陽が昇っていた。先月までならまだ少し肌寒さを感じるような時間帯だろうが、照りつける太陽によって地面はある程度温められているため、むしろ暑さを感じる程になっている。

 

 今日の日付は7月24日、イクス達Ⅶ組の特別実習の初日だ。

 

 いつもの特別実習であれば実習地に行くために早朝の列車に乗る必要があるが、今回はA班B班共に実習先がトリスタからほど近い帝都ヘイムダルであるため時間には余裕がある。そのため、早朝のトリスタにはⅦ組の姿は無かった。

 

 

 しかし、そんなトリスタの町に一人。町の中央部にある公園のベンチに一人の人物が座っていた。

 

 

「……………」

 

 

 その人物の名はクロウ・アームブラスト。リィンやイクスとも交流が深く、Ⅶ組にとっても頼れる先輩の一人でもある。

 

 そのクロウは早朝のトリスタに特に用がある訳ではなく、先程からずっと一人で公園のベンチに座っているだけだった。黙って座る彼の表情はいつになく真剣なものであり、彼が発している空気もまるでこれから戦いに赴く戦士のような臨戦態勢に近いピリついた感じがある。

 

 そうして何をするわけでも無くただ座っている彼に一人の女性から声がかけられる。

 

「随分と真剣な表情ね、何か考え事かしら?」

 

「………ヴィータか」

 

 現れたのは眼鏡と帽子を身につけた若い女性だった。クロウに“ヴィータ”と呼ばれたその女性が出てきたのはトリスタのラジオ局であり、彼女は声をかけた後にクロウの方に近寄っていってそのまま彼の座るベンチに腰を下ろす。

 

「一応、今は“ミスティ”なんだけどね」

 

「なんだ?そっちの方が良いんならそう呼ぶが」

 

「別に構わないわよ。“クロウ・アームブラスト君”」

 

「やめてくれ、アンタに君付けされるのは気持ち悪い」

 

「なら私もいつもの呼び方で呼んでちょうだい」

 

「へいへい」

 

 どうやら知り合いであるらしい二人は彼ら以外に誰もいない早朝のトリスタで他愛のないやり取りを交わす。一通りのやり取りを終えた後はお互いに黙って自分たちの正面に置かれているもう一方のベンチの方を眺めていた。

 

「本当にいいの?」

 

「何がだ?」

 

「決まってるでしょう、2日後の話よ」

 

 少しの沈黙の後、痺れを切らしたヴィータからクロウに話しかける。クロウもわざととぼけるような返事をしていたが、ヴィータの言わんとしていることは当然彼にも分かっていた。

 

「良いも何も今更止められるもんでも無いだろ。今頃あいつらの方で“仕込み”も進めてるんだ」

 

「それはそうでしょうけど」

 

 ヴィータの問いに対してクロウは半ば諦めているかのような態度で答える。その返事を聞いたヴィータは彼の答えに少し納得がいっていない様子である。

 

「それとも何か不安でもあんのか?」

 

「いいえ、全く。ただ、今回のはあまり“あなたらしくない”と思っただけよ」

 

「……俺らしくない、ね」

 

 ヴィータの指摘を受けたクロウは彼女の言葉を一度自分の中で反芻する。

 指摘したヴィータはクロウの返答を急かさずにその横顔を見つめていた。

 

 クロウの視線はベンチから朝日の昇る空の方に移されており、朝日が眩しかったのか目線を変えずに静かに目を閉じる。そして一秒程度目を閉じた後、何か決意したような表情で再び目を見開きベンチから立ち上がった。

 

 

「――とっくに肚は括ってるからな、今更止めるつもりはねえよ。この作戦の方がそっちにとっても都合はいいんだろ?」

 

「まあね。私も下見くらいはしておきたかったし」

 

「だったらそれで良いだろ。それにあくまでも今回は下準備、本命はまだ先だ。と言っても、チャンスがあるならいつでも狙うがな」

 

 

 立ち上がったクロウの目は勝負師のそれに変わっていた。彼がこれから何の勝負をしようとしているのかは定かではないが、彼にとってその勝負が重要であることは間違いないだろう。

 

 ヴィータに自らの決意を語ったことで満足したのか、クロウはそのまま第二学生寮の方に足を向ける。

 

 

「じゃあな、明後日はよろしく頼むぜ」

 

 

 相手の返答を待たずして半ば言い逃げのような形でクロウはその場から立ち去る。

 学生寮に戻る彼は既にトールズ士官学院2年Ⅴ組所属のクロウ・アームブラストに戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まもなくヘイムダル、ヘイムダル。10分ほどの停車の後にヘイムダル駅を出発します。引き続きご利用の方はそのまま席でお待ち下さい。また、ルーレ行きの列車にお乗り換えの方は3番ホームへ。クロスベル行きの列車にお乗り換えの方は――』

 

「おっと、もう着くみたいだな」

 

「流石に早かったね」

 

 次の停車駅を知らせるアナウンスが流れ、車内が先ほどよりも少し慌ただしくなる。朝の列車には通勤のために利用している乗客だけでは無く、それ以外にも帝国の中心地である帝都に用事のある者が多いためこの駅で降りる乗客は他の駅よりも格段に多かった。

 

 そしてその乗客の中には特別実習に向かうトールズ士官学院Ⅶ組の姿もある。彼らもまた今回の実習先が帝都ヘイムダルであるため、他の乗客と同じく降車の準備を進めていた。

 

「それにしても帝都ですか……。一応、士官学院に来るときに駅の中を見る機会はありましたけど街の方はどうなんでしょうか?」

 

「俺も同じく帝都自体は見たことがないな」

 

 ノルドなどかなり離れた場所から来ているガイウスやエマは、帝都ヘイムダルの街がどのようなものであるかを知らなかった。

 人口が約80万人の大都市であり帝国のあらゆる分野の中枢機関としての役割担っているという知識はあるものの、やはり本の知識と実物を見るのとでは全く違うものがある。

 

「そうだな、とにかく人が多いというのが一番だろう。それに街自体も16区に分かれている程の広さだからな」

 

「うんうん、地元の人でもあまり知らない地区に行くと迷っちゃうくらいだしね」

 

「俺は何度か訪れたことはあるが、バリアハートよりも街としての規模は確実に帝都の方が上だろう」

 

「俺もあまり行ったことはないが、概ねユーシスと同意見かな」

 

「ま、初めて見たらびっくりするっていうのは保証しておくぜ」

 

 先に荷物をまとめていた男子を中心に帝都についての印象について語っていく。ちなみに、地元であるマキアスやエリオット、そしてイクスの3人に関しては今回の実習でそれぞれの班の案内役を任されていた。

 

「うん、これで良し」

 

「別にそのままで良かったのに」

 

「ダメよ。身だしなみは女子の基本なんだから」

 

「うむ、流石に寝ぐせくらいは直しておくべきであろう」

 

 そして男子の座っている席の隣にあるボックス席ではアリサ達がフィーの寝ぐせを整えていた。フィーの横に座っていたアリサが10分程前に彼女の寝ぐせに気づき、そのままそれを直していた。

 

 実はなにかと面倒見のいいアリサを中心にラウラやエマも手伝って寝ぐせ以外にもフィーの身だしなみを一通り整えていた。今はちょうどその作業が終わり、エマが少し散らかってしまった荷物を整理していたところだ。

 

 そうこうしている内に程なくしてⅦ組を乗せた列車がヘイムダル駅に停車する。女子達の方も荷物をまとめ終わり、Ⅶ組全員で列車から降りた。

 

 

「――ふふ、時間通りですね」

 

「あなたは……」

 

「クレア大尉……!」

 

 

 列車から降りて来たⅦ組を待っていたのはイクス達が4月や5月の実習でもお世話になったクレア大尉であった。イクス達を出迎えたクレア大尉はⅦ組全員を一瞥してから改めて自己紹介を始める。

 

「初めての方もいるようなので改めてご挨拶を。鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です。よろしくお願いしますね、Ⅶ組の皆さん」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「なるほど、あなたがリィン達の言っていた……」

 

「鉄道憲兵隊の女性将校、《氷の乙女》だったか」

 

「ええ、そう呼ばれるのは少し恥ずかしい部分もありますが」

 

 初対面であるユーシス達と自己紹介をしているクレア大尉はユーシスが言った自らの渾名を聞いて少し照れくさそうに笑う。その様子を見ていたイクスはここであることに気づいた。

 

「あ、ということは今回の実習はクレア大尉――つまり鉄道憲兵隊から実習の課題とかを出されるってことですか?」

 

「そういえばまだ今回の実習について詳しい話は聞かされてなかったな」

 

 水曜日の実技テストの際にイクス達に知らされていたのは、今回の実習地が帝都であることとその実習での班分けだけであった。

 

 これまでの実習では実習先でそれなりの力を持っている人物から課題を受け取ってそれをこなしていくという手順であった。イクスは今回もその例に倣って、自分達を出迎えてくれたクレア大尉の所属する鉄道憲兵隊が今回の実習で課題を出すのではないかと推測したが、残念ながら彼の読みは外れだ。

 

 

「いえ、今回はあくまで場所を提供するのと皆さんに少しお願いがあるだけです。実習の課題を出されるのは――」

 

 

「――やあ、丁度良かった」

 

 

「え―――」

 

 

 クレアと話すⅦ組のもとに新たに一人の男性が姿を現わす。

 

 年齢は40代〜50代といったところだろうか、不思議と良く通るバリトンボイスの持ち主であるその男性は眼鏡に高級そうなスーツを身につけた人物だった。その身なりからは彼がそれなりの地位にある人間であることが想像できる。

 

 同時にその顔立ちなどがどこかで見たことがあるような気がする男性に、Ⅶ組の面々は一瞬その人物を見て黙ってしまう。その沈黙を最初に破ったのは動揺を隠しきれない様子のマキアスだった。

 

「と、父さん!?どうしてここにいるんだ!?」

 

「ハハ、久しぶりだなマキアス。クレア大尉も今回は助かるよ」

 

「いえ、お安い御用です。知事閣下」

 

「知事閣下、それにマキアスのお父さんってことはつまり……」

 

「帝国時報で見た……」

 

 驚くマキアスに笑いかける眼鏡の男性の正体は、ここ帝都で平民初のヘイムダル知事を務めるカール・レーグニッツ知事であった。そして同時にマキアスの実の父親でもある。

 

 多忙の身である父の登場を予想すらしていなかったマキアスに対してレーグニッツ知事は軽く挨拶を済ませてから同様に驚いているⅦ組一同に話しかける。

 

 

「まあ、一応自己紹介をしておこうかな。マキアスの父、カール・レーグニッツだ。帝都庁の長官にしてヘイムダル知事を務めている。よろしく頼むよ、Ⅶ組の諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

「まさか父さんまで常任理事の一人だったとはな……」

 

 午前9時、クレア大尉とマキアスの父であるカール・レーグニッツ帝都知事と出会ったⅦ組一同は、クレア大尉の案内で駅構内に設置されている鉄道憲兵隊司令所のブリーフィングルームへと場所を移していた。

 

 そしてその場所で今回の実習内容を聞くとともに新たな事実がリィン達に伝えられていた。

 

 ユーシスの兄であるルーファス・アルバレア、アリサの母であるイリーナ・ラインフォルト。この二人に加えてマキアスの父であるカール・レーグニッツ氏もまたトールズ士官学院の常任理事だったのである。

 

 今回の特別実習ではレーグニッツ知事が常任理事の立場としてⅦ組に実習の課題などを用意していたということだった。

 

「さてと、あまり時間も無いし実習について説明させてもらうよ。既に聞いている通り、今回の実習は今日も含めた3日間。最終日が夏至祭の初日にかかるという日程だ。そして実習範囲は帝都の中央部である《ヴァンクール大通り》を境として東側をA班、西側をB班に担当してもらう」

 

「東と西で分担か」

 

「それだけ帝都が広大だということですね」

 

(俺たちの班が西側ってことは………なるほど、だからこの班分けか)

 

 レーグニッツ知事から告げられた内容を聞き、それぞれが帝都という街の広さを改めて実感する中、イクスは一人、今回の実習の班構成について考えていた。

 

 イクスのいるB班が担当するのは西側のエリア。そこには彼が学院に来るまで住んでいた《ヴェスタ通り》も含まれるため彼の班が西側を担当することになっているのだろう。

 そして以前エリオットやマキアスから聞いた話では、彼らの出身はそれぞれ東側のエリアにある《アルト通り》と《オスと地区》であるらしい。そこからも今回の班構成がこうなった理由が読み取れた。

 

「そして、それぞれの班の方で今回の実習で君たちが寝泊まりする場所も用意している。各班、受け取ってくれ」

 

「これは、実習課題が入った封筒と……」

 

「鍵……それにこの住所は……」

 

 A班とB班を代表してリィンとイクスが渡された封筒と鍵を受け取る。

 

 封筒の方はこれまでの実習の時と同じくトールズのエンブレムが刻まれたものであるため、この中に実習課題が入っているのは明らかだ。しかし、同時に渡された鍵と何処かの住所を示したメモについてはこれまでと違っていた。

 

「父さん、まさか……」

 

「ああ、その鍵はメモにある住所で使える鍵た。そしてそこが君たちの宿泊場所になる。まあ、ちょっとした謎解きだと思ってくれ」

 

 直接Ⅶ組に宿泊場所を教えるのではなく、わざわざ鍵を渡してそこを自分達で探させようとするあたり、帝都知事であるマキアスの父は少々遊び心のある人物なのだろう。

 そんな父をマキアスは若干呆れるような目で見ていたが、マキアスを除いたⅦ組のメンバーは彼の父親が想像よりも親しみやすいところもあることに少し安心していた。

 

「知事閣下、そろそろお時間の方が……」

 

「おお、そうだったか。――すまない、夏至祭に向けて色々と回らなくてはならない場所が多くてね。悪いがここで失礼させてもらうよ。それでは後を頼みます、クレア大尉」

 

「はい、お任せください」

 

 秘書と思われる人物から時間を伝えられ、レーグニッツ知事はそのままⅦ組に挨拶してからブリーフィングルームを後にした。久しぶりの再会の後、すぐに仕事に戻ってしまった父の後ろ姿を見送るマキアスの表情は少し寂しそうにも見えた。

 

 そしてレーグニッツ知事が出ていってからクレア大尉が前に移動する。

 

「実習については先ほど知事閣下がお話された通りになります。それとホームの方でも少し言いましたが、実は今回、私の方からも皆さんに少々お願いあるんです」

 

「お願い……?」

 

「そういえば言っていたな」

 

 レーグニッツ知事に代わって話を続けるクレア大尉には、実習とは別にⅦ組に対してとある相談事があった。彼女にもまだ迷いはあるものの、彼女はこれまでのⅦ組の実績を少しではあるが知っている。それもあって、こうして話を切り出したのである。

 

「はい、引き受けてくださるかどうかは皆さんにお任せします。実はですね――」

 

 一応の前置きを置いてから、クレア大尉はリィン達にある依頼を話そうとする。が、その瞬間にブリーフィングルームの扉が何者かに勢いよく開かれた。

 

 

 

「ヤッホー!きたよ、クレア!」

 

 

「よう、お邪魔するぜ」

 

 

 

 開かれた扉から現れたのは元気の良さそうな水色の髪の少女と、若干チャラそうな赤髪の若い男の二人だった。

 

「ミリアムちゃん!?それにレクターさんまで……!」

 

「あれ、君は確か……」

 

「ノルドで会った……!」

 

 突然の乱入者にイクス達が戸惑う中、少女に名前を呼ばれていたクレア大尉が二人に驚きながら話しかける。同時に、リィンやアリサなども乱入者達と面識があるようだった。

 

「あ、久しぶりだね、ナナクミの人たち!初めて見る人もいるね!」

 

「あ、ああ……」

 

「えっと、知り合いなのか?」

 

「ええ、先月の実習で色々ありまして……」

 

 少女と知り合いなのは、先月の実習でノルドに行ったA班のメンバーであった。そのメンバーも含めて少女のエネルギッシュさに若干圧されていると、前にいたクレア大尉と赤髪の男が話をしていた。

 

「どうしたんですか、レクターさん?ミリアムちゃんと調査を進めているはずては……?」

 

「ああ、たまたま近くまで来てな。こいつらに例の事を話すトコだったんだろ?だったら、俺達も一応自己紹介をしといた方が良いと思ってな」

 

「そうでしたか……」

 

 赤髪の男の話を聞いたクレア大尉は落ち着きを取り戻して彼らが突然訪ねてきたことに納得する。訪問の理由を説明した男はⅦ組と話していた少女を自分の近くに呼んで、改めて自己紹介を始めた。

 

 

「そんじゃ、ちょっと自己紹介をさせてもらうぜ。俺は帝国軍情報局大尉、レクター・アランドールだ。そんでこっちが―――」

 

 

「ボクはミリアム、ミリアム・オライオンだよ!よろしくね!」

 

 

 レクターとミリアムがⅦ組に自己紹介を済ませたところで、クレア大尉は仕切り直して相談事について話し始めた。

 

 

「コホン、では話を続けますね。――皆さんにお願いしたいのは“テロリストの調査”です」

 

「え……!?」

 

「テ、テロリストって……!」

 

 

 クレア大尉の口から出たのは“テロリスト”というイクス達が予想だにしていない言葉だった。

 

「これは今のところ極一部の者しか知らない情報ですが、この夏至祭の期間中を狙って何らかの“テロ”を目論んでいる連中がいるということが分かっています。私達TMPや情報局が極秘裏にその調査を進めている状況です」

 

「つっても、情報としては奴さんの尻尾を少し掴んだ程度だかなァ」

 

「そ、そんな事が……」

 

「ということはそなたも……」

 

「うん。ボクも一応、情報局の所属ってことになってるからね」

 

 クレア大尉達の真剣な表情からどうやら冗談ではないらしいことを感じ取ったⅦ組は、水面下で既に何か大きな事が起ころうとしていることを実感する。そして今この瞬間にも、そのテロリスト達が帝都のどこかで活動している可能性もあるのだ。

 

 

「でもクレア大尉、その情報を俺たちに教えて良かったんですか?TMPや情報局が動いてもその組織の全容や狙いを掴めていない連中の調査を一学生である俺たちにも手伝わせるというのは、少し違和感があるんですが」

 

「イクス……」

 

「でも、確かにそうだね」

 

 

 クレア大尉を初めとしてTMPは精鋭揃いの組織であり、同時に情報局も帝国内だけでなく諸外国でも活動することがあるどちらもエリート集団と呼べる存在だ。

 

 その組織と比べて、一学生に過ぎないⅦ組とではあまりにその調査は荷が重すぎるのではないかとイクスが指摘する。

 

 確かに彼の言う通り、そのエリート集団ですら手を焼いている連中の調査を士官学校の一クラスが手伝うというのは普通に考えればありえない話だろう。しかし、それはもちろんクレア大尉にも承知の上での事だった。

 

 

「……正直私もなぜ自分がこうして皆さんにお願いしているのか、不思議に思う部分もあります。―――ですが同時に、皆さんなら何か有力な情報を掴んでくれるのではないかという期待もあるんです。これまでの実習で成果を残してきた《Ⅶ組》の皆さんであれば」

 

「あ―――」

 

「クレア大尉……」

 

「やれやれ、あんまりお前らしくないっていうか……」

 

「あはは、でもボクもクレアに賛成だよ。そっちの方がオモシロそうだし」

 

 

 自分達が予想以上に期待されている事を知ったリィン達は、その言葉を聞いて全員が決意を固めていた。一度、全員で目による意見の確認をしてから、全員を代表してリィンが答えを出す。

 

 

「――その話、俺たちにも是非協力させてください。A班、B班ともにこれまで培ってきたものを全てぶつけるつもりです」

 

「うん、今の我らの実力を試す絶好の機会であろう」

 

「まあ、ここまで情報を聞いておいて知らん顔という訳にもいかんしな」

 

「それに夏至祭をめちゃくちゃにしようとしてるなんて許せないよ」

 

「ええ、それだけは絶対に阻止しないと……!」

 

「……ありがとうございます、皆さん」

 

「えへへ。良かったね、クレア」

 

 

 3日間の実習の課題に加えてテロリストの情報を調査するという依頼もあれば、この実習はⅦ組にとってそれなりに負担が大きくなる。それを考慮してクレア大尉の方からは、できる範囲での協力で構わないとⅦ組に伝えられた。

 

 クレア大尉からの依頼を引き受けたⅦ組一同は実習に向けて気合を入れ直し、早速それぞれの班の宿泊場所を探すべくヘイムダル駅を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前9時30分。ヘイムダル駅でA班と別れたイクス達B班は鍵の住所に心当たりがあるというイクスの案内で、帝都西側の地区《ヴェスタ通り》に向かっていた。

 

 広大な都市である帝都ヘイムダルでは、車を持っている人以外の市民の主な交通手段として《導力トラム》というものがある。それぞれの地区を結ぶこの交通機関を使って、B班はヴェスタ通りを目指していた。

 

 そしてヘイムダル駅から乗車すること約10分、B班はイクスの第二の故郷とも言えるヴェスタ通りに到着する。

 

 

「ここが《ヴェスタ通り》………完全な住宅街といった感じでもありませんね」

 

「ああ、家屋の他にも色々な店がある」

 

「だが、これはこれで風情もあるな」

 

「……それに、なんかいい匂いもする」

 

 

 B班が現在いるヴェスタ通りは、様々な店が街のメインストリート沿いに立ち並び、その後ろの通りなどにアパートなどの民家があるという街並みだった。

 

 その店の種類も主に食料品店や食堂など、ここに住む人たちが日頃から利用することが多そうなものが多く、街全体の雰囲気を一言で表すなら“庶民の街”と言ったところだろう。

 

「いわゆる貴族が住むような高級住宅地は《ライカ地区》とか《サンクト地区》みたいに別の場所があるから、ここに住んでいる人の殆どは平民出身なんだ、それと、すぐそこに美味しいパン屋があるからいい匂いの正体はそれだろうな」

 

「なるほど、この香ばしい香りはパンの匂いか」

 

「ちょっと食べてみたい」

 

「ふふ、お昼はそこで食べるのもいいですね」

 

 久しぶりに戻ってきた街の特色を他のメンバーに説明してから、イクスは制服のポケットから受け取っていた鍵と住所を示したメモを確認する。そして小さく頷いてから、先頭に立って歩き始めた。

 

「さてと、それじゃまずは荷物を置いてからにしようぜ。俺の記憶が正しければこの鍵が使える住所は間違いなく“あそこ”の建物だ」

 

「フン、ならば道案内を頼むぞ」

 

「れっつごー」

 

 イクスの案内のもとトラムの停留所から歩くこと数分、B班はヴェスタ通りの住宅街にあるとある建物の前に着いていた。

 

「ここですか、イクスさん?」

 

「ああ、間違いない。それにしても、俺もここに来るのは久しぶりだな」

 

「どうやら民家ではないようだが……」

 

「……ここ、もしかして……」

 

 住宅街の中にひっそりと建っていたその建物を見て、イクスは少し懐かしむような表情を見せる。彼にとってこの場所は少々思い出もあるところでもあった。

 

 その建物の扉を開けようとイクスが鍵を開けようとした時、ガイウスが何かに気づいた。

 

 

「……待ってくれ、イクス。中に誰かいる」

 

「え……」

 

 

 気配察知に長けたガイウスはいち早くその建物の中に何者かの気配を感じ取っていた。故郷に戻ってきて気が緩み注意力を欠いていたのか、ガイウスの忠告を受けたイクスも慌てて中の気配を探る。

 

 

(確かに一人、中にいる。でもこの気配は……)

 

 

 中の気配を感じ取ったイクスはその人物の気配が自分が良く知る人物のものであると確信する。そしてそれを確認してから改めて扉に手をかけた。

 

「鍵が……」

 

「開いていたのか……」

 

「ったく、まさかとは思ったけど」

 

 既に鍵は開いていたため、イクスはそのまま扉を開けて奥に入っていく。警戒心を解いている様子を見て他のメンバーもイクスの後に続くと、その建物の中にイクス達を待っていた者がいた。

 

 

 

「――待ってたわよ、イクスちゃんたち」

 

 

 

 派手なオレンジ色のアフロヘアに、がっしりとした身体つき。その見た目とは真逆の女性口調の男性。

 

 

 イクス達を待っていたのは、イクスとは二ヶ月ぶりの再会となるナオミちゃんだった。

 

 

 

 

 




次回はもう少し早めに更新できるよう頑張ります。

感想などもいつでもお待ちしております。
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