ちなみに自分はアリサエンド安定でした。
個人的に一番好きな女キャラはフィーなんですが、やっぱりリィンの隣が一番似合うのはアリサなんですよね。閃Ⅰの頃からずっとアリサエンドだったので感慨深いものがあります。
次回作がいつになるか分からないですが、個人的な要望としてはギャルゲー要素をもう少し控えめにしてほしいって事くらいですかね。
無くせとは言いませんが、あくまで軌跡シリーズはRPGとして楽しみたいので。
イクス達B班の宿泊場所として用意されていたのは、2年前まで帝国でも活動していた遊撃士協会の支部だった。といっても、この建物自体は2年前に帝国のギルドが襲われるという事件の後から長い間利用されなくなっていた。
しかし、予め掃除などが一通りされていたのか、建物の中は物こそ殆ど置いていないもののイクス達が眠るためのベッドが人数分用意され、寝泊まりする程度であれば十分な設備は整えられていた。
B班のメンバーはそれぞれ自分達の荷物を部屋に置いて、一階の簡素なテーブルで彼らを待っていた先客と話をしていた。
「遊撃士協会所属、ナオミ・ブーゲンビリアよ。改めてよろしくね、Ⅶ組のコたち♪」
「あ、ああ……」
「……よ、よろしくお願いします」
「ん、ども」
おそらく初めて遭遇するであろう種類の人物を前にして、ユーシスとエマはウィンクしながら自己紹介する筋骨隆々な男にかなり戸惑っていた。
ナオミの知り合いであるイクスと5月の実習で既に知り合っていたガイウスはそのギャップに慣れていたのに加えて、初対面であるフィーもナオミの強烈なキャラについてそれほど気にする様子は無かった。
イクスの方からナオミとの馴れ初めについては軽く話されていたため、自己紹介をしてからイクスは早速ナオミがこの場所にいた理由について尋ねる。
「でもどうしてナオミちゃんが先にいたんだ?わざわざ俺たちのためにここで待っていたとは思えないけど」
「まぁ、イクスちゃん達を待っていたのは確かについでね。アナタ達も既に大尉さんに聞いていると思うけど、帝都では今テロリストが水面下で動いている可能性があるのよ」
「では、ナオミ殿もその調査に?」
「それもあるんだけどね。アタシ達遊撃士の本命はその裏で糸を引いている可能性がある《結社》の方よ」
「《結社》……!」
「人形兵器とやらを作っている組織だったか」
結社―――《身喰らう蛇》と名乗っているその組織は、イクス達も初めて聞く単語ではなかった。
5月のセントアークでの実習でイクス達が戦った《人形兵器》。帝国以外でも目撃されているその兵器以外にも様々な事件に関わっているとされる裏組織の名前が上がり、イクス達の警戒心は更に高まる。
「もちろん人形兵器についても警戒しなければならないけど、それ以上に今回は《執行者》にも警戒しないとダメね」
「《執行者》……?」
「何やら物騒な名前だが……」
人形兵器という厄介な存在により一層の警戒心を強めるイクス達に、ナオミの口から《執行者》という新たな単語が出る。《執行者》については5月の実習でナオミから《結社》の事を聞かされたイクスとガイウスも初めて聞く言葉だった。
「結社には何らかの作戦を遂行するための実動部隊があって、その中でも《盟主》と呼ばれている組織のボスから認められた特別なエージェント達がいるの。それが《執行者》、全員がかなりの戦闘力を持っているらしいわ」
「人形兵器に加えてそんな奴らまでいるのか……」
「ええ。アタシも何度か数名の執行者とやり合ったことはあるけど、いづれもかなりの苦戦を強いられたわね」
「A級の遊撃士ですら苦戦する程とは……」
「相当ヤバいっぽいね」
元A級遊撃士だったサラも含め、S級を除けば最高のランクであるA級にはかなりの実力者が多い。
その中でもベテランであり、イクスもその実力を知っているナオミですら苦戦するという事から《執行者》という存在がどれほどの脅威であるのかは明確だ。おそらく今のイクス達では束になっても勝てない可能性は十分に考えられる。
――prrrrr prrrrr――
「あら、ごめんなさい」
その時、ナオミのARCUSに通信が入る。着信音を聞いたナオミは、一旦席を外してARCUSを開いた。
「もしもし、どうしたの?――あぁ、そっちもⅦ組のコ達と会ったのね。ええ、分かった、それじゃあ広場の方で合流しましょ」
イクス達の座っている所からは距離が少し離れていたため、ナオミの通信先の相手の声は聞こえなかった。しかし、ナオミの話す口調と会話の流れからして、B班のメンバーは相手の正体に大方の見当はついていた。
「ナオミちゃん、今のって他の遊撃士の人?」
「そうよ、あっちはA班の方の様子を見に行かせていてね。それとゴメンなさい、これからその男と合流しなくちゃだから先に行くわね」
もう一人の遊撃士と合流するべくナオミは足早に荷物をまとめてその場を去ろうとする。そして扉の前に来たところでイクス達に伝え忘れていた事を思い出した。
「――そうそう、さっき言った《執行者》とはできるだけ戦っちゃダメよ。もし戦うとしても“勝とう”とはしないこと、凌ぐことを優先しなさい。それじゃあね、実習頑張りなさい」
最後に忠告を付け加えてから、オレンジ色のアフロヘアーは遊撃士として行動を始める。旧ギルド支部には紅い制服を見に纏う男女5人だけが残っていた。
少しの間、B班の面々は結社の話も含めて今回の実習が今まで以上に大変なものになるかもしれないということを心配していたが、イクスはその不安を断ち切るかのように一度パチンと手を鳴らした。
「色々と気になることは多いけど、ナオミちゃんの言ってた通りまずは特別実習に集中しようぜ」
「ん、そだね」
「確かに、それが疎かになっては本末転倒というものだからな」
今回の実習での案内役に加えて、B班のリーダーとしての役割を担っているイクスを中心としてB班は改めて気持ちを特別実習に集中させることにする。レーグニッツ知事から封筒を受け取っていたイクスは、その中から今日の課題を取り出した。
「必須の依頼が3つとそれ以外にもう一つですか」
「魔獣退治の依頼もあるようだな」
「依頼の内容次第ではかなり時間がかかりそうだが……」
「どうするの、イクス?」
「うーん……」
今日与えられた依頼は4つ。その中の3つは必須のものであるため、最低でもこの3つはこなさなければならない。詳しい依頼内容までは書かれていなかったが、地下水道での魔獣退治だけでもそれなりの時間が要求される可能性もあるだろう。
魔獣退治以外の依頼については手分けしてやった方が確実に効率は良いだろうが、今回の実習に限ってはそうもいかなかった。
「仕方ない、必須のものを優先的に全員で片付けていこう。幸い必須じゃない方の依頼はヴェスタ通りで受けられるものだから、そっちの方は詳しい事情を聞いてからってことで」
「了解した」
「それが妥当なところか」
今までの実習に比べて、帝都という場所はかなり広く複雑な街である。そしてB班の中である程度の土地勘があるのはイクスのみであった。
ここ帝都で土地勘のない者が歩き回ると迷ってしまうこともよくあるため、手分けして依頼をこなす方がかえって効率が悪くなる可能性もあるとイクスは判断したのである。
また、イクスは初日のうちに今回の実習範囲を全員に案内しておこうとも考えていたこともあり、全員で依頼をこなしながら街の案内もするという方針をとることにしたのだ。
方針が決まったB班は、それぞれ自分の得物など最低限の荷物を持ってから旧ギルド支部を後にする。建物の鍵をかけてからイクスは自らに気合いを入れる意味も含めて号令をかけた。
「よし、それじゃあ実習開始だ!」
午前10時半、早速初日の実習を開始したイクス達B班は早くも一つ目の依頼を終了させていた。最初に受けた依頼はヴェスタ通りに住むとある一家からのものであった。
「ありがとう、イクスお兄ちゃん、他のお兄ちゃんたちも!」
「本当にありがとうね」
「どういたしまして。リサーナも今度からはちゃんとリードをつけておけよ」
「うん!」
イクスが元気よく感謝の言葉を述べる少女の頭を撫でてやると、少女の側に座っていた茶色の小型犬もアン!とイクスに吠える。イクスは吠えた犬も同様に撫でてやると犬の方も満足そうに甘い声を漏らした。
イクス達が最初にこなした依頼は、いわゆるペットの捜索だった。
依頼主はイクスの知り合いでもある一家の母・メリッサとその娘・リサーナであり、依頼内容はその家のペットである犬のココアが昨日逃げ出してしまったためそれを探して欲しいとのことだった。
逃げ出した原因は飼い主であるリサーナがココアのリードをしっかりとつけていなかったため、散歩の途中でリードが首輪から外れてそのまま逃げてしまったということだった。
イクスもこの家族とは前々から知り合いであったために放っておけず、まずはこの依頼を片付けてから他の依頼をやろうということにした。イクスの指示のもとB班5人で懸命に探した甲斐もあり、その捜索も思いの外早く完了していた。そして今は無事にココアをリサーナ達のところに届けたところである。
一つ目の依頼を達成したB班は後ろで愛犬を抱えて手を振る少女とその母にみおくられながら、次の依頼に向かうべくトラムの停留所の方へと歩いていた。
「必須の依頼ではありませんでしたけど、まずは一つ終わりましたね」
「ああ、中々順調だろう」
「それにしても、かなり知り合いが多いようだな」
「まあな、トールズに入学するまではここで7年も過ごしていた訳だし」
「さっきの子とはどういう関係だったの?」
「そうだな……主にはさっきの犬で知り合った感じかな。俺もロウフェルにいた頃は家に犬がいたんだよ」
「そうだったんですか」
道中でイクスの昔話なども交えながら会話をしていると、不意に彼らに声がかけられた。
「なぁ、あれってイクスじゃね?」
「おお、ホントじゃん!」
「ん?」
自分の名前を呼ばれたような気がしたイクスは声のした方向に振り返る。するとそこにはイクス達の方に駆け寄ってくる二人の男の姿があった。
「はは、久しぶりだな、ジョット、ケイ」
「よお!やっぱりイクスだ!」
「久しぶりだな、おい!」
イクスはそのまま駆け寄ってきた二人と挨拶を交わし、それぞれハイタッチなどをしながら久しぶりの再会を喜んでいる様子だ。イクスの後ろにいた他のメンバーはいつになく嬉しそうな彼の表情と、彼と親しげに話す二人の登場に少し戸惑っていた。
「あの、イクスさん、その方たちは……」
「ああ悪い、紹介がまだだったな。こいつら二人は俺の友達」
「よっす、俺はジョット。イクスの悪友ってところだな」
「あ、俺はケイ。まあ俺もジョットと同じ感じだ」
初対面にも関わらず他のメンバーにも気さくに話しかけるジョットとケイと名乗る二人は、ここヴェスタ通りに住むイクスの地元の友達だった。そして同時にこの二人はイクスも含めてここヴェスタ通りではちょっとした有名人でもある。
「ってかその制服、お前ホントに士官学院に入学したんだな。いやー、正直未だに信じられねーわ」
「確かに、あのイクスがなぁ」
「うるせ、俺はお前らと違ってやればできる子なんだよ」
「よく言うぜ、俺らと一緒によく怒られてたクセに」
「特にイクスはマシロちゃんにもよく怒られてたよな」
実はこの3人、イクスも含めてヴェスタ通りではよく問題を起こす悪ガキとして有名だった。そして事あるごとに住人などに叱られたり、時にはイクスとも親しい仲であるトワやマシロなどにも揃って説教されることもあったりする。
「あはは、地元の友達ならではって会話ですね」
「なるほど、イクスがあまり貴族らしくない理由はこういう所も原因だったのか」
「フン、大方アイツの喋り方もあの二人に影響されたといった所だろう」
「みたいだね」
悪友二人と会話する様子を見ていたユーシス達は、イクスという人物の成り立ちの一部を垣間見ていた。
元々イクスは貴族の生まれであり、基本的に彼が目上の人物と話す時はそれなりに丁寧な言葉遣いをしている。しかし、Ⅶ組のメンバーと話す時やそれ以外の場面ではあまり貴族らしくない砕けた言葉遣いになる。
Ⅶ組の中では同じく貴族の身分であるリィンもユーシスやラウラに比べれば砕けた口調ではあるが、イクスの場合はリィンよりもさらに口調が軽い。どちらかと言えば、彼らの先輩のクロウに近い喋り方である。
ユーシス達の予想通り、彼の普段の口調についてもヴェスタ通りでこの二人の悪友と過ごしていたのが原因でもあった。
「それはそうと、キミたち二人ともカワイイね」
「良かったらこれから一緒にお茶でもしない?」
「え、えっと……?」
「わたしも?」
そんなイクスと会話していたジョットとケイはスルリと会話を打ち切り、先ほどから気になっていたユーシス達に近づいていく。といっても彼らの目的は主にエマとフィーの女子二人の方だった。
突然ナンパされたエマとフィーが対応に戸惑っていると、二人をお茶に誘おうとするジョットとケイの頭に拳骨が振り下ろされる。
「あだっ!?」
「へぶっ!?」
「人のクラスメイトに手ぇ出すなっつの。それと、俺たちはこれから用事があるからお茶なんかしてる時間は無いから」
後ろにユーシス達がいるのも気にせずにナンパしようとした二人をイクスは手慣れた様子で成敗する。その光景をユーシス達も苦笑いで眺めていた。
その後、イクスは自分達が特別実習で帝都に訪れている事を軽く説明し、明後日の夏至祭の時も自分は二人とは回れないということを知らせておいた。今年はイクスが自分達と一緒に夏至祭を回れないと知ってジョットとケイは少し残念にしていたが、すぐに切り替えてイクス達に改めて挨拶する。
「その特別実習っていうのはよくわかんねーけど、まあ頑張れよ」
「今年の夏至祭はお前の分も俺たちが楽しんできてやるよ」
「ああ、それじゃあな」
ジョットとケイはイクスを軽く励ましてから町の方へ戻っていく。B班はそれを見送ってからトラムの停留所へと向かう。
「中々賑やかな二人だったな」
「ん、おもしろかった」
「アレとずっといるというのは少々鬱陶しいがな」
「あはは……いきなりナンパされるとは思いませんでしたけど」
「悪いな、いつもあんな感じなんだ。――ま、気を取り直して実習に集中しよう。次は《ヴァンクール大通り》の方に行くとするか」
案内役を務めるイクスは次の目的地をA班の実習範囲とも共通である《ヴァンクール大通り》の方に決める。そしてイクス達が停留所に着くのとほぼ同時にヴァンクール大通り方面行きのトラムが到着するのだった。
「これは……」
「……見事だな」
「……おっきい」
自分達から数十アージュ離れた先に聳え立つそれに、初めて見るエマ、ガイウス、フィーは圧倒される。当然、更に近寄ればそれの巨大さを感じることができるのだが、そこは特別な許可が下りなければ一般人が立ち入ることが許されない。しかし、数十アージュ離れたこの位置ですらそれは彼らを圧倒するには十分すぎるほどの威容さを放っていた。
「何度も見た事はあるけど、やっぱりいつ見ても圧倒されるな」
「ああ、それだけ帝国という国の巨大さを象徴しているのかもしれないな」
何度も見たことのあるイクスとユーシスでさえも、前方に見える巨大な城に圧倒されていた。その城はただ巨大なだけではなく、その色は帝都ヘイムダルの象徴とも言える“紅”で造られている。水の上に建てられたその城は幻想的な美しさを持つと同時に見る者を威圧するかのような迫力も持ち合わせていた。
B班が現在いる場所は《ドライケルス広場》。そして彼らはそこにある《バルフレイム宮》の前に来ている。
彼らは《ヴァンクール大通り》である依頼を受けた後、イクスの案内ですぐ近くにある《ドライケルス広場》に立ち寄っていた。イクスはせっかく帝都に来たのなら、この《バルフレイム宮》を一度は目にしておいた方がいいだろうと判断したのだ。
「ここに皇族の方々が住んでいらっしゃるんですよね?」
「ああ。それと帝国政府が入っている場所でもある」
「そうか、ではマキアスの父上もこの場所で働いているのか」
このバルフレイム宮はエレボニア帝国の皇帝とその一族の住まいであると同時に、帝国の政治の中枢とも言える帝国政府が入っている場所でもあった。そしてここには、あの《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンがいるということにもなる。
ここドライケルス広場はそのバルフレイム宮を見られる観光地であるとともに、文字通り帝国の中枢部と言える所でもあるのだ。
「――あれ、イクス達も来てたのか?」
バルフレイム宮を眺めるイクス達に声がかけられる。イクス達が聞き覚えのある声がした方に振り向くと、そこには彼らと同じく実習の途中であるリィン達A班がいた。
「よう、やっぱりそっちもここには来るよな」
「ああ。まぁ、俺たちの場合は依頼の内容を聞くためでもあったんだけどな」
「エマ達の方は実習は順調なの?」
「ええ、アリサさん達の方は?」
「僕たちの方も順調だよ。今は二つ目の依頼をこなそうとしてる所かな」
「ふむ、状況は大体同じといったところか」
再会したA班とB班はそれぞれの状況を確認しあいながら会話する。どうやらどちらの班にも与えられた依頼は合計で4つだったようで、それぞれ一つ目の依頼を達成したところであった。
「む?フィー、そなた靴を変えたのか?」
「うん、依頼でちょっとね」
フィーと話していたラウラはフィーの履いている靴がいつものスニーカーでないことに気づく。フィーが今履いているものはかなり真新しいものである。
実はイクス達B班がヴァンクール大通りで受けた二つ目の依頼というのがこれだった。
依頼したのはヴァンクール大通りにあるブティック《ル・サージュ》。ここで取り扱っている商品の中にはフィーも日頃から愛用しているスニーカーを作っているメーカー《ストレガー社》のものもある。
そしてその新製品のテストというのがイクス達に頼まれた依頼であった。ストレガー社を愛用する人達の中には戦闘のような激しい運動をする利用者も多い。もちろん新製品もそのような激しい運動にも対応できるかどうかの耐久性のテストをしなければならないため、こうしてイクス達に依頼を出していたのだ。
そしてその愛用者であるフィーがその新製品のテスターとして現在それを履いているのである。
「そうだ……せっかくだし、あとでランチでもどうかな?」
「ふふ、いいかもしれませんね」
「確かに明日以降会えるかどうかもわからないしな」
「それに互いに情報交換もしたいところだな」
「それじゃあ、キリがいいところでARCUSで連絡しあいましょ」
「ああ、それじゃあまた後でな」
エリオットの提案で昼食を共にとることを約束したそれぞれの班は、互いにまだ実習の課題が残っているためドライケルス広場で別れることにする。イクス達は時間のかかりそうな魔獣退治の依頼を午後に回して、もう一つの依頼の方を昼食までに終わらせることにした。
「では俺たちも早速向かうとするか」
「はい、確か残りの依頼は《サンクト地区》でしたか」
「そして依頼主は《聖アストライア女学院》からだったな」
B班の残りの依頼はイクスの幼馴染であるマシロが学生会長を務める聖アストライア女学院からのものだった。詳しい依頼内容は女学院で説明すると書いてあるため、まずB班はそこに向かって依頼内容を聞く必要がある。
トラムの乗り方も覚えて来たB班のメンバーは早速停留所に向かおうとしたが、その彼らをイクスが呼び止める。
「えっと、みんな、その前にちょっと寄り道してもいいか?」
「どこか行きたい所でもあるの?」
「ああ、もしかしたら明日以降の依頼で行くかもしれないし、みんなにも案内しておきたいからな」
「ふむ、そういうことなら構わないが……」
「それで、どこに行くんだ?」
「それは着いてからのお楽しみってことで」
そう言ってイクスは先にトラムの停留所へ向かって行く。他のメンバーは彼がどこに向かおうとしているのか考えながらその後を追っていった。
「――着いたぜ、ここが《ライカ地区》だ」
一番最初にトラムから降りていたイクスは後から降りて来たB班のメンバーに自分達が今いる場所を紹介する。そこはイクスの住んでいたヴェスタ通りとは違い、少し高級そうな住居も建ち並ぶ場所であった。
「確かここには博物館もあるんでしたっけ」
「ああ、それならあそこの奥にある。それとここは楽器メーカーの《リーヴェルト社》やケネスの実家の《レイクロード社》の店舗もあったりするな」
「ケネスといえば、あの釣り好きの生徒のことか」
「中庭の池によくいるね」
イクスはB班を連れて歩きながら軽く街の特徴やここにある施設などを説明していた。
このライカ地区は芸術の町としても有名であり、多くの美術品などが保管されている帝国博物館をはじめ帝国でも有名な楽器メーカーである《リーヴェルト社》もある。そしてここに住む人々はそれなりに裕福な家庭が多く、オシャレなカフェなどもあったりするのである。
(そういえば、クレア大尉の苗字って“リーヴェルト”だったよな……何か関係があるのかな?)
「……? どうした、イクス?」
「え、ああいや、なんでもない」
話を止めて急に考え込み始めたイクスにユーシスが話しかけると、イクスは自分がみんなを案内していたことを思い出して再び足を進め始める。何か重要なことを考えていたイクスであったが、その気づきは彼の思考回路の遠くに追いやられてしまった。
そうして歩くこと数分、大通りにあったカフェの所を曲がったところを先に進むとB班の目の前に周りの住宅よりも一回り大きい建物が姿を現わす。
「ここは……」
「道場、ですか……」
「……フン、なるほどな」
建物の中からは人の声と何かを打ち付け合うような音が聞こえていた。それを聞いたイクスは中に人がいることを確認して、入り口の扉を開ける。
扉を開けた先にあったのは先ほどエマが言った通りとある道場であった。そこでは何人かの人達が掛け声をあげながら剣や槍などを振っている。そこを少し懐かしむような表情で入って行くイクスの後に続いてB班のメンバーもそこに足を踏み入れた。
最初にイクス達に気づいたのは入り口近くにいた門下生の一人だった。その人物は突然入って来たイクス達に少し不審に思っていたが、先頭を歩くイクスを見てその表情を怪しくに思うものから驚きの表情へと変わる。
「イ、イクス君……!」
「どうも、お久しぶりです」
イクスが驚く門下生に軽く挨拶するとそれに気づいた他の門下生達も一旦稽古を止めて突然の来訪者に驚く。そしてイクスはその人達に軽く会釈をしながら、とある人物のもとに向かっていた。
イクスが近づいていくと、周りの騒ぎに気づいたその人物もイクスが向かって来ている方へと振り向く。
淡いブルーの髪に少し女性らしさを感じさせるような線の細い顔。その体格も周りの門下生達に比べれば少し細いが、その身体はしっかりと引き締まっている。いわゆる美形と呼ぶべき少し幼さの残るその人物の両手には、イクスの得物と同じ《双剣》が握られていた。
「――久しぶりだな、クルト」
「――あ、兄弟子……!?」
イクスがここに来た目的でもある少年――クルト・ヴァンダールは自らの兄貴分とも言えるイクスとの再会に目を丸くするしかなかった。
前書きでも書きましたが、無事閃Ⅳの一周目が終了したので更新ペースを少し上げられると思います。
まだ当分忙しい状況が続くと思いますが、なんとか早めの更新を心がけます。