「はぁっ」
水平斬りが決まり、ギギッと奇妙な鳴き声をあげながら昆虫型の魔獣《コインビートル》は消滅していく。周囲を確認すると、ちょうど今ので最後だったようで魔獣の姿は見えなかった。
「ふぅ、数が多かったけどなんとかなったな」
「ああ、良い連携だった」
同じように他の魔獣の姿がないことを確認したリィンとガイウスもひと息つく。
ダンジョン区画には、《飛び猫》や《グラスドローメ》などの魔獣が徘徊していたが、前衛を俺とリィン、遊撃をガイウスが、後衛でアーツによる支援をエリオットが担当するというように、即興のフォーメーションながらも戦闘を繰り返す事で、それらの魔獣も危なげなく倒すことが出来ていた。先程のコインビートルも数こそ多かったが、苦戦を強いられる程の相手ではなかった。
俺たちが武器を一旦収めると、エリオットは杖を支えにしてその場にしゃがみこんでしまう。
「はあぁ〜っ」
「エリオット、大丈夫か?」
「怪我はなさそうだが…」
「う、うん…緊張しっぱなしで気が抜けちゃったみたいで…」
確かに、エリオットは戦闘中ずっと身体に力が入り過ぎていて、動きも固かった。彼の体つきからも想像はしていたが、魔獣はおろか戦闘経験そのものが殆ど無いのだろう。
今のところは大丈夫そうだが、戦闘中にずっと気を張っていれば、予想以上に体力を消費していってしまう。万が一の時も考えて、一度休憩を挟んだ方がいいかもしれない。
「どうするリィン、まだ先もあるし少し休憩でも挟むか?」
念のために休憩を挟むことをリィンに提案したが、エリオットもあまり気を使わせては悪いと思ったのか、笑顔を見せながら俺の提案を断る。
「あはは、そんなに大したことないよ。ちょっとヨロけただけだから。よいしょっと…」
そう言って、エリオットが立ち上がろうとした時、ガイウスが何かに気づく。
「おい…!」
「エリオット!」
倒したと思っていたがまだ残っていたのか、エリオットの頭上にコインビートルが一匹迫っていた。
「っ…!」
まさかの事態にエリオットは動けず、息を呑む。
「くそっ!」
距離的に一番近かった俺が、咄嗟にエリオットを庇おうと地面を蹴る。
タイミング的にはギリギリであるため、俺はダッシュしながら剣を抜き、迎撃の体勢をとる。
だが、俺がコインビートルを迎撃することはなかった。
コインビートルはバァンという破裂音とともにエリオットから数アージュ離れた場所に飛ばされていき、転がった先に向かったリィンにそのままとどめを刺された。
そして、奥の通路の方から聞き覚えのある声がした。
「よかった。間に合ったみたいだな」
声のする方を見ると、そこには先行していた筈のマキアスがショットガンを構えて立っていた。先程の破裂音は彼の持っている得物によるものであった。
話を聞くと、あの後、自分の身勝手な振る舞いを反省し、他の生徒と合流しようと引き返してきたそうで、ちょうど引き返してきた先に俺たちがいたという事だった。
事情を話し終わると、マキアスは少しばつが悪そうに続ける。
「…その、あんなことを言った手前で図々しいとは思うのだが、良ければ僕も同行して構わないか?見ての通り、銃が使えるからそれなりに役に立つはずだ」
ユーシスとの諍いで勘違いしてしまいそうだが、彼は多少融通の利かないところはあるものの、根は真面目な人物なのだろう。それだけにユーシスとは反りが合わないようだが。
どちらにせよ、断る理由もないため俺たちは快く申し出を受ける。
「ああ、喜んで。リィン・シュバルツァーだ」
「エリオット・クレイグだよ。よろしくね」
「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」
「イクス・ライガスト、よろしく頼むぜ」
「マキアス・レーグニッツだ。改めてよろしく」
改めて自己紹介を済ませると、マキアスは俺たちを一瞥してから質問をする。
「…そういえば、身分を聞いても構わないか?その、含む所があるわけじゃないんだが、相手が貴族かどうかは念のため知っておきたくてね」
帝国でも身分を気にする人は平民にも貴族にも少なく無いが、初対面の相手に身分を聞いてくるあたり、彼の身分に対するこだわりは相当のものらしい。
マキアスの徹底ぶりに俺たちは少し躊躇うが、それぞれ身分を明かしていく。
「えっと…ウチは平民出身だけど」
「同じく、そもそも故郷に身分の違いは存在しないからな」
ガイウスの故郷であるノルドの民は、主に遊牧をしながら生活をするのだという。定住地を持たないというところからも身分制度という文化自体が根付き辛いのだろう。
「なるほど、留学生なのか。それで…君たちの方は?」
そう言ってマキアスは俺とリィンの方に視線を向ける。
一瞬自分の身分を明かすかどうか迷ったが、隠しておくのは得策とは思えないし、ここは素直に身分を明かしておこう。
「俺は一応貴族ってことにはなるな。って言っても階級自体はそんなに高くないから、それこそ資産家の平民の方がよっぽど裕福だと思うぜ」
「…そ、そうなのか」
俺が貴族だと知り、マキアスは俺に対して警戒心を強める表情を見せたが、ユーシスの時のように食ってかかってはこなかった。
ユーシスの時のようになるのを少し危惧していた俺は、心の中で少しホッとする。
そして、最後になったリィンは一瞬考えたあとマキアスに返答した。
「――少なくとも高貴な血は流れていない。そういう意味では皆と同じと言えるかな」
「そうか、安心したよ」
どこか言葉を濁したような感じもしたが、マキアスは気に留めなかったため、俺もそれ以上の追求はしなかった。
自己紹介がてら、エリオットも少しは休憩できただろうし、あまり此処に長居する必要もないだろう。
「そんじゃ、そろそろ行こうぜ。マキアスもいいよな」
「あ、ああ」
マキアスは俺にまだ警戒心を抱いていたが、今はとにかく先に進むことが優先のため、俺は気にせず先に進んで行った。
「――遅ればせながら、名乗らせてもらおう。ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ」
ダンジョン区画を進んだあと、俺たちは先に進んでいた女子3人と合流していた。
やや古風な口調で話す青髪の女子 ラウラの出身を聞いて、俺とリィンが反応する。
「レグラム…!」
「それにアルゼイドってことはもしかして、《光の剣匠》の…!」
「ふむ、どうやら父のことを知っているようだな」
レグラムは湖のほとりにある小さな街で、帝国の南東のはずれに位置する街だ。一番近いバリアハートからも離れているため辺境の地といってもおかしくない。だが、俺が驚いたのはそこではなく彼女の家名が《アルゼイド》だということだった。
そして彼女の家名を聞いて、マキアスも遅れて反応を見せる。
「アルゼイド…そうか、思い出したぞ!レグラムを治めている子爵家の名前じゃなかったか!?」
彼女の父はヴィクター・S・アルゼイド、レグラムを治める領主でありながら、《光の剣匠》と呼ばれる帝国でも最高峰の剣士である。帝国の剣術には二代双璧とされる《ヴァンダール流》と《アルゼイド流》があり、彼はその《アルゼイド流》を修める人物であった。
「確かに私の父がその子爵家の当主だが…何か問題があるのか?」
「い、いや…」
彼女が貴族だということがわかり反応するマキアスだったが、ラウラの凛とした態度に気圧されてしまう。
そして彼女は少し考えた後、マキアスを真っ直ぐに見据えて発言する。
「ふむ、マキアスとやら。そなたの考え方はともかく、これまで、女神に恥じるような生き方をしてきたつもりはないぞ?私も――たぶん私の父もな」
そう言ったラウラの瞳には怒りなどの感情は見られない。その発言からも彼女の誠実さが伝わっていた。
「いや…すまない。他意があるわけじゃないんだ」
ラウラの堂々とした発言にマキアスも自重したのか、すぐに謝罪をし、隣の眼鏡をかけた女子に話しかける。
「そ、そちらの君は…?」
「エマです。エマ・ミルスティン。私も辺境出身で……奨学金頼りで入学しました。よろしくお願いしますね」
エマと名乗ったその女子はイメージ通りというか、“優等生”というのがしっくりくる感じだ。サラ教官も言っていたが、首席入学とあって成績もかなり良さそうだ。
その彼女が持っていたのも形こそ違えどエリオットと同じ《魔導杖》だった。彼女もエリオットと同じく入学時に適正があったため、そのまま使用武器として選択したそうだ。
「……………」
そして先程からあの金髪の女子がリィンを睨むように見つめていた。リィンも視線には気づいているようで、どこか気まずそうだ。そんな彼女にラウラが気づき、自己紹介を促す。
「――アリサ・R。ルーレ市からやって来たわ。宜しくしたくない人もいるけど、まあ、それ以外はよろしく」
棘のある口調で話すアリサに一同が気まずい空気になっていると、仕切りなおしてエリオットがアリサに話題を振る。
「あはは…ルーレって、あのルーレだよね?」
「大陸最大の重工業メーカー、ラインフォルトの本社がある街か」
「ええ…まあ、そうね」
ラインフォルト社、帝国で圧倒的なシェアを誇る導力製品メーカーであり、その製品も家庭用のものから飛行船まで幅広いジャンルのものを製作・販売している大企業だ。ルーレ市にはその本社があり、帝国でも有数の工業都市であることから《黒銀の鋼都》とも言われている。
そして、謝るきっかけを作ろうとしたのかリィンがアリサの得物を見て彼女に話しかける。
「そ、そういえば…あのトランクの中身はその弓だったんだな?面白い造りをしているけど導力式なのか?」
彼女が持っていたのは少し変わった形の弓だった。
導力銃が使われるようになってからは、通常の弓は殆ど無くなってしまったため、彼女のものはリィンの言った通り導力式のものなのだろう。
ここから会話が続くといいのだが、そう簡単にはいかなかった。
「その通りだけどあなたと何の関係が?」
アリサにバッサリと会話の流れを断ち切られたことで、会話はそれ以上続かなかった。
今はこれ以上は無理だと判断し、俺は少々強引に話題を変える。
「まぁ、一通り自己紹介も済んだところだし、そっちはどうする?一緒に奥まで行くか?」
「いや、心配は無用だ。剣には少々自信がある」
そう言ってラウラは彼女の身の丈ほどありそうな大剣を取り出す。あの大きさであれば、使いこなせなければ逆に振り回されてしまうだろう。
だが、その構えには余計な力は入っておらず、彼女がそれを使いこなしていることを証明していた。
彼女たちもここまで問題なく来ているようだし、この先も多分大丈夫だろう。
「そうか、じゃあこのまま別行動ってことで。まぁ残りの2人を探すためにも別行動の方がいいだろうしな」
「うん、それで異存はないぞ」
方針も決まったことで、ラウラたちは先に進んでいく。
アリサはリィンを一瞥した後、フン!と鼻を鳴らしてから先へ進んで行った。
仲直りのきっかけを逃したことでリィンは落ち込んでいたが、アリサも悪いやつではないようだし、時期に解決するだろう。エリオットとマキアスがリィンに慰めの送った後、マキアスが思い出したように俺に話しかける。
「……その、イクス、君にも謝罪しておくよ。さっきは君に失礼な態度をとったな、すまなかった」
「いや、いいってあんまり気にして無いから。それにそっちにも事情はあるんだろうしな」
マキアスも俺に謝ったことでスッキリしたのか、切り替えて話を続けた。
「だが、女子3人だけで進むのは危険だな。誰か一人くらいは向こうに付いていった方がいいかもしれない」
「いや、その心配は無いだろう」
立ち直ったリィンがマキアスに返答する。リィンも俺と同じく彼女の実力について分かっているようだ。
「ああ、レグラムの《アルゼイド流》は帝国に伝わる騎士剣術の総本山。それにラウラの父親のアルゼイド子爵は、《光の剣匠》と呼ばれる帝国最高の剣士だ、その娘とあらば実力はかなりのものだろうしな」
「そ、そうなのか…」
「ふむ、そんな流派が帝国には存在しているのか」
俺の説明を聞いてマキアスとガイウスが驚く。俺が別行動の方針を採用したのにはこれもあった。
心配事も無くなったため、リィンはみんなに出発を促す。
「――そろそろ俺たちも行こう。アルバレア家の子息もそうだが、あの銀髪の子も心配だ」
リィンの意見に俺たちは頷き、先へ向かって行った。
やっと閃4のCMが公開されましたね!テンションめっちゃ上がってます!
CMを見た感じだと、デュバリィやクロウなんかはパーティイン確定っぽいです。後は、ちらっとだけクローゼとカシウスっぽいのも映ってました。レクターとの絡みもあるのかなぁ。
プレイアブルは一体何人になるのか…早くやりたいです!