今回はクルトに続いて閃Ⅲから“あの子”も登場しますよ。
それと前回でお気に入り件数が100件を超えてました。これも今までこの作品を読んで応援してくださった方のお陰です。
まだまだ拙い文章ですが、少しでも面白いものになるように精一杯努力していきます!
《ヴァンダール流》―――ラウラの実家の流派である《アルゼイド流》と並んで帝国二大剣術と称される流派の一つであり、剣の道に通ずる者であれば一度はその名を耳にすることは間違いないだろう。
帝国各地にもその流派の使い手たちがいるとされ、ヴァンダール家の人間は代々皇族の護衛に就くことからも、まさに帝国を代表する流派と言っても過言ではなかった。
その総本山とされるのが帝都ヘイムダルのライカ地区にあるヴァンダール家の実家であり、当然ながらそこには一族の人間もいる。
「どうぞ、兄弟子の淹れるものと比べればまだまだですが」
「いえ、どうぞお構いなく」
「ありがたく頂こう」
そしてヴァンダールの姓を持つ者であるクルト・ヴァンダールは、突然訪問してきたB班を一族を代表して快くもてなしていた。
「お、中々上達したんじゃないか?クルト」
「本当ですか?」
「ああ、味も香りもしっかり出てるよ」
「確かにこれならその辺のメイドの淹れたものよりも味は上だろうな」
「恐縮です」
クルト自身が淹れたという紅茶は、日頃から良く飲んでいるイクスとユーシスにも好評だった。それも当然といえば当然で、クルトに紅茶の淹れ方を教えたのはⅦ組でもその腕を認められているイクス本人なのである。
出された紅茶をそれぞれ口にして一息ついてから、クルトは改めて自己紹介を始める。
「では改めて。ヴァンダール家次男、クルト・ヴァンダールです。以後お見知り置きを」
「エマ・ミルスティンです。よろしくお願いしますね」
「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」
「フィー・クラウゼル。ま、よろしく」
前々から知り合いであるイクスと初対面ではなかったユーシスを除いたメンバーがそれぞれクルトと自己紹介を交わし、クルトもその名前と顔を一通り覚えていく。自己紹介を軽く済ませたのを確認してからB班をここへ連れてきたイクスが話し始めた。
「悪いなクルト、突然来ちまって」
「まぁ、ちょうど休憩時間も近かったので構いませんよ。それにら兄弟子が連絡も無しに訪ねてくるのは今に始まったことでも無いですから」
「その言い方だといつも俺が唐突に訪ねているみたいに聞こえるんだが……」
「割とそうじゃないですか」
イクスを軽くあしらうクルトとやや不服そうな表情を浮かべるイクスの二人の関係性について、他のメンバーから見ても二人の親密度の高さは伝わっていた。何も知らない人が彼らのやり取りを見れば、本当の兄弟と勘違いするかもしれない。
「あの、先ほどから気になっていたんですが、お二人は兄弟弟子という事で良いんですか?」
「イクスの事を“兄弟子”と呼んでいるようだしな」
そんな二人を見ていたエマ達は改めて彼らの関係についてイクスに質問する。
クルトがイクスを呼ぶ時に使っている言葉は“兄弟子”という呼び方である。それを意味通りに受け取れば、この二人は同門の兄弟弟子という関係となり、イクスもクルトと同じく《ヴァンダール流》の使い手という事になるだろう。
が、この二人に限ってはそれに当てはまらなかった。
「あー、違う違う。兄弟子っていうのはこいつが勝手にそう呼んでるだけ。そもそも俺は《ヴァンダール流》じゃないしな」
「? どういうことだ?」
「よくわかんない」
「んー、じゃあ一から説明するか」
自分の発言ではなく更なる混乱を招いたイクスは頭をガシガシと掻いてから、自分と《ヴァンダール家》の少し特殊な関係から説明を始める事にする。
「えっと、俺が帝都に来てからヴァンダール流の道場に通っていたって事は前に話したよな?」
「ああ、それは聞いたが」
「確かイクスの剣術はヴァンダール流のものも取り込んでいるから“我流”に近いものになっているんだったか」
イクスが入学式の時のオリエンテーリングで旧校舎地下を探索する際、一緒に行動する事になったリィンやガイウスやエリオットに対して自らの剣術を“我流”だと語っていた。その時は彼らに少し誤魔化したような言い方だったが、実際のところ彼の双剣術はかなり独自のものになっている。
元々彼の流派は自らの実家の剣術だった《ライガスト流》であり、彼が10歳の時に故郷とともに流派自体が消滅してしまったためそれも初伝で止まってしまっている。彼の剣技にはそれに加えて《ヴァンダール流》やそれ以外にも様々な流派のものも少しずつ取り入れていることもあって、ほとんど“我流”と言ってもいいものになっているのだ。
そして彼の中の一つのけじめとして《ライガスト流》以外の流派に新しく入門しないという誓いがあった。いくら流派自体が無くなって自分の剣術もそこから離れたものになったとしても、《ライガスト流》というのは彼の誇りに違いなかった。
つまり、彼自身は未だ《ライガスト流》の剣士であり《ヴァンダール流》の剣士ではないという事である。
「なら少し疑問に思わないか? 『どうしてその流派の人間じゃない奴が流派に入門せずに道場に通えるのか?』ってさ」
「言われてみればそうだな……」
「そ、そういうものなんですか?」
「まあ、普通ならありえん事だな」
剣術の流派に関わらず、何かしらの武術の流派の道場は通常その流派の者以外が通うことなどあり得ない。その流派の技や教えなどは流派の人間に伝えられるものであり、他の流派の者が交流のために訪れることはあっても自由に出入りするなどというのはまずあり得ない事である。
つまり、《ヴァンダール流》の使い手ではないイクスがヴァンダール流の道場、しかもその総本山である本家に通って稽古を受けるというのは普通であれば考えられないことなのだ。
ならばなぜそんな事がイクスには可能だったのか。そんな疑問が含まれた視線を集めたイクスは彼らの疑問に答えを出した。
「まあ、平たく言えば俺の家がけっこう古くからヴァンダール家と親交があったからだな。そのよしみもあって特別に道場に通わせてもらってたんだ」
「イクスの家といえば……」
「《ライガスト男爵家》か。確かに貴族同士であれば古くからの縁もある家同士も少なくはないが」
ユーシスが言ったように彼の実家である四大名門《アルバレア家》も含めて、帝国の貴族は古くから続いているものかま多い。そのため貴族では家同士の親交が現在も続いているものはそれなりに多かった。
イクスがヴァンダール流の道場に通う事が出来たのもそう考えれば納得できるが、話を聞いていたエマ達には新たに疑問が生じていた。
「ですが、イクスさんのご実家があった場所と帝都はかなり距離がありますよね?」
「家同士が離れていても大丈夫だったのか?」
「ぶっちゃけ、どれくらい前からの関係なの?」
「えーっと、実は……」
イクスの故郷であり彼の実家である《ライガスト家》があった《ロウフェル》は、エレボニア帝国北東部のカラブリア丘陵付近にあったとされ、まさに辺境の地と言っても過言ではない場所に存在していた。
現在はそこに続く路線も廃線になってしまっているが、仮に鉄道が通っていたとしても帝都まではかなり時間がかかる。そんな場所にある家とヴァンダール家が鉄道も通っていない時代から親交があったというのは確かに少々不自然である。
エマ、ガイウス、フィー、と3人から立て続けに質問されたイクスがその返答に困っていると、今まで黙って話を聞いていたクルトが彼に助け船を出した。
「――僕の家と兄弟子の家が昔に親交があったという話は本当ですよ。ただ、それに関する記述などがほとんど残っていないんです」
「え……?」
「残っていない……?」
「どういう事だ?」
「2つの家の祖先同士に親交があったというのは伝わっているんですが、当時の事が書かれたものがほとんど残っていないので詳しい関係が分からないんです」
「唯一分かるのは俺の家も昔は帝都にあったって事と、《ライガスト流》こ双剣術が《ヴァンダール流》にも影響を与えていたって事くらい。まあ俺もこっちに来て初めて知ったことなんだけどな」
イクスが故郷を失ったのは彼が10歳の時。その時に彼の実家も殆ど焼けてしまったのに加えて、彼自身もヴァンダール家との繋がりをあまり聞かされていなかったためその存在程度しか知らなかった。
そしてもう一方のヴァンダール家の方にも当時の記述があまり残されていなかった事も重なって、両者の家の関係を深く知っている者はいなかった。しかし、ヴァンダール家の方にもライガスト家の事は口でも伝えられていたこともあり、ライガストの血を引くイクスは特別に道場に通う事が出来ていたのである。
「それで何の話をしてたんだっけ……。ああそうだ、何でクルトが俺の事を“兄弟子”って呼ぶのかっていう話だったな」
「あ、そういえばそうだった」
「すっかり忘れていたな」
前置きの話を掘り下げすぎて話が脱線しかけていたところで、イクスは話を本題に戻す。
「さっきみんなも見たと思うけど、クルトの得物は俺と同じ《双剣》で、こいつ自身は《ヴァンダール流双剣術》の使い手なんだ」
「それじゃあ、イクスさんと知り合ったのも同じ武器を使っていたからなんですか?」
「いや、俺が最初にクルトと知り合った時は双剣は使っていなかった。兄のミュラーさんと同じ剛剣使いを目指していたんだよ」
「え……!?」
『クルトが元々双剣使いではなかった』という事実にエマ達は驚く。普通ならエマの言ったように、イクスとクルトが知り合ったきっかけが同じ武器を使っていたからというものを想像するだろう。
意外そうな表情を見せる他のB班のメンバーに対してクルトは少し照れ臭そうに笑う。
「兄弟子の言ったように、僕も昔は父や兄こようになりたいという憧れから剛剣使いを目指していたんです。でもこの体格にはあまりそれが合っていなかったから中々剣術も上達しませんでした。――そんな僕の前に現れたのが兄弟子だったんです」
ヴァンダール流といえば現当主であるマテウス・ヴァンダールや、クルトの兄であるミュラー・ヴァンダールが使うような剛剣のイメージが強い。クルトも幼い頃からそんな父達の姿を見て育ったため、自らもそうなりたいという想いが強かった。
しかし、そんな彼の想いとは裏腹に、体つきも父達に比べれば細く敏捷性の方が優れているため、クルトにはパワーで押すような剣術がそもそもあまり向いていなかった。
そんな彼に《双剣》という道を示してくれたのが他ならないイクスだった。
「初めて会ったばかりの頃は兄弟子の実力をあまり認められなかったんですが、とある機会に試合をすることになって、そこで兄弟子に完膚なきまでに打ち倒されてから憧れるようになったんです」
「で、それから徐々に俺に懐くようになっていく内にクルトの方から俺の呼び方を色々と提案されてさ。俺も普通で良いって言ったんだけど、クルトの方がそれを曲げなくて最終的に俺が諦める形で“兄弟子”っていう呼び方に収まったわけ」
「そういう事だったのか」
「じゃあ、イクスに憧れて双剣を使うようになったんだ」
「はい、そういう意味でも自分にとって兄弟子は『もう一人の兄』のような存在でもありますね」
クルトは実兄であるミュラーとはかなり歳が離れている。もちろんクルトにとって尊敬する人物の一人ではあるものの、オリヴァルト皇子の護衛を務めている時などは家にいないことも多かったため、兄と接する機会というのは一般的な兄弟と比べれば少なかった。
そんな彼にとって、自分ともそれなりに年齢が近く、同じ双剣使いであるイクスはかなり親しみやすい存在だったのである。
もう一人の兄のように尊敬しているという少々恥ずかしいセリフを他のメンバーがいる中で言われたイクスは、ムズムズするような気持ちを少し冷めた紅茶と一緒に喉の奥に流し込む。紅茶を一気に流し込んだせいなのか、風味は先程よりも感じなかった。
それから軽い世間話をまじえながらクルトと話したB班は、まだごぜんにやるべき依頼が残っているため、ヴァンダール家を後にすることにした。
「良ければ明日や明後日にも来てください。その時は父や母もいると思うので」
「ああ。俺もマテウスさん達に挨拶しておきたいからな」
「ええ、是非。父上達も喜ぶと思います」
「依頼によっては、またライカ地区にも来るかもしれないからな」
「その時は是非立ち寄らせてもらいましょうか」
夏至祭での皇族の護衛などの話し合いのため、今日はヴァンダール家当主であるマテウスやその妻であるオリエは道場にはいなかった。
その二人に改めて挨拶するのも兼ねてまた後日訪れる事を約束し、イクス達は次の依頼主である《聖アストライア女学院》のある《サンクト地区》へと向かうのだった。
イクス達がライカ地区を出発してから数分後、彼らの目的地である《サンクト地区》のトラムの停留所に帝都ヘイムダルを象徴する色と同じ赤色のトラム一台が停車する。そのトラムの降り口から出てきたのは真紅の学生服を着た五人の男女だった。
「ここがサンクト地区……。ライカ地区とも雰囲気が違いますね」
「確か七耀教会の大聖堂があるのだったな」
「他には大使館のある場所でもあったか」
ここサンクト地区は帝国で最初に作られた教会の他にも、高級ホテルや外国の大使館など諸外国の人が訪れるのが多い地区でもあり、ヴェスタ通りなどに比べれば住宅が少ないこともあって人通りはそれほど多くはない。
そんな場所のシンボルの一つともなっている場所こそ、イクス達B班が今から向かおうとしている所だった。
トラムの停留所の正面にある少し緩やかな坂。坂の上にあるのは帝都にある学校の中でもかなりの歴史があり、帝都民ならその名を知らない者はいないであろう名門校であった。
「――よし、到着」
坂を登ったイクス達の目の前に建っていたのは、その古い歴史を感じさせないほど隅々まで清掃が行き届いている美しい校舎だった。その校舎とイクス達を隔てるように存在する鉄格子の正門は、関係者以外の者を容易に立ち入れさせないためのものである。
《聖アストライア女学院》―――リィンの妹のエリゼやイクスの幼馴染であるマシロに加えて、皇族であるアルフィン殿下も在籍しているという由緒正しき学校である。
「さてと、来たはいいけど……」
「どうやって入るの?」
無事に目的地に辿り着く事が出来たのは良いものの、女学院の正門は当然ながら閉じられているため入ることができない。依頼を受けたイクス達も流石に無断で中に入るのもどうかと思い、鉄格子の門の前で立ち尽くしてしまっていた。
守衛の姿も見えないため大声を出して中の人を呼ぼうかとも考えたが、その必要はなかった。
「――あら、どうかされましたか?」
いつの間にそこにいたのか、イクス達の前に正門を挟んで一人の女子生徒が立っていた。
ライトグリーンのゆるいウエーブのかかったショートヘアに、愛らしさを感じさせるくりんと丸いパープルの瞳。小首を傾げてこちらを上目遣いで見つめるというあざとさと持ち合わせた少女は、黒を基調とする女学院の制服を着用していた。
「えっと、ここの生徒か?実は俺たち、女学院の学生会にちょっと依頼を頼まれて来たんだけど」
「まあ、そうでしたか。それでは今、門を開けますね」
イクスの言葉に少しの疑いも見せずに少女は門を開けてイクス達を中に入れる。B班はそのまま敷地に入り、少女の案内で校舎の手前まで来た。
「学生会室は二階の奥にあります。階段を上がってすぐの廊下をまっすぐ右に進んでください」
「ありがとう、助かったよ」
「ふふっ、どういたしまして。では私はこれで。――頑張ってくださいね“トールズ士官学院《Ⅶ組》の皆さん”」
イクス達を案内した少女は学生会室までの道を伝えてからその場を去る。彼女ほ校舎には入らずに校舎裏の方へと歩いて行った。
「階段を上がってすぐを右だな。迷うことはなさそうだ」
「それじゃあ、行きましょうか」
お昼にはA班のメンバーと一緒に昼食を摂る約束があるため、イクス達と依頼を片付けるべく早速校舎の中に入っていく。外と同様、清掃が丁寧にされている校舎にはゴミ一つ落ちていなかった。
(――あれ?何であの子、俺たちのことを知ってたんだ?)
廊下を歩くイクスはふと先程の少女について思い返す。
少女はイクス達と別れる際に彼らのことを“トールズ士官学院《Ⅶ組》の皆さん”と呼んでいた。イクスはもちろん他のメンバーも彼女に自分達のことを自己紹介などしていない。自分達の制服を見てトールズ士官学院の生徒だと判断するならまだしも、イクス達が《Ⅶ組》だと判断するのはさすがに不可能な筈である。
「イクス、どうかした?」
「ん?いや、なんでも」
「ふーん、そっか」
自分の横で歩いていたフィーに尋ねられたイクスは、あの少女のことが多少気になりはしたものの、大して問題でもないと判断して階段を登り始める。フィーもそれ以上の追求はせずにイクスの横を歩いていった。
「マシロ会長の幼馴染でしたか。結構好みのタイプですね♪」
一方、イクス達と別れたあの少女は校舎横にある道を歩きながら、先程会った赤い制服の学生達のことを思い返していた。
「エリゼ先輩のお兄様はいらっしゃらなかったみたいですけど、いずれお会いしたいですね」
先程からの発言から察するに、少女はどうやらマシロやエリゼとも知り合いらしい。そしてエリゼのことを“先輩”と呼んでいる事から、彼女の学年はエリゼよりも下の学年だということが予想できる。
そんな少女は一人校舎横を歩いていたが、何を思ったのか突然その足を止めてゆっくりと目を閉じた。そのまま数秒の間、自分の中で何かを確認するように思考を加速させた後、若干疲れた様子で目を開ける。
(――あれが特科クラス《Ⅶ組》。殿下の新たな一手ですか。今のところは盤上にあまり変化は無いみたいですけど、動きが少々読めませんね)
彼女がなぜイクス達《Ⅶ組》の存在を知っているのか、“盤上”とは一体何なのか。その思考を口にしていないのに加えて彼女の周りには人は一切いない。その真意を尋ねる者は誰一人存在していなかった。
(今は盤上の動きを見極めさせていただきましょうか。いずれ“指し手”として戦いに臨む時に備えて――)
少女は再び歩き出す。その紫色の瞳には何が映し出されているのだろうか。
それは少女自身にしか知り得ない事である。
「――ようこそ、聖アストライア女学院へ。学生会長として歓迎させていただきます」
学生会室に到着したイクス達を出迎えたのは、イクスの幼馴染であり女学院の学生会長を務めているマシロ・ガーデニアであった。そして彼女の傍には彼女と同じく一礼する青髮の女子生徒の姿もある。
「一週間ぶりくらいですね、マシロさん」
「はい、皆さんもお元気そうでなによりです」
今は完全に会長モードになっているマシロは、イクスと話す時のような若干砕けた口調ではなく、その立ち振る舞いもお淑やかさ全開のものになっている。
「ところで、隣の人は……?」
「申し遅れました、私は副学生会長を務めるレイカ・シュライデンといいます。皆さんのことは会長の方から一通り聞いていますので自己紹介は結構です。どうぞよろしくお願いします」
「“シュライデン”ってもしかして《シュライデン流》の?」
「ええ、流石にご存知でしたか」
「《シュライデン家》、たしかノルティア州の伯爵家だったか」
副学生会長であるレイカの名前を聞いたイクスとユーシスは彼女の家名には聞き覚えがあった。
彼女の家名である《シュライデン家》はノルティア州に存在する伯爵の位を持つ貴族の一つであり、同時に《シュライデン流》という槍術で有名な武術を扱う家でもある。武の道に通じているイクスも得物こそ違えど、その名前は知っていた。
軽く自己紹介を済ませた後、マシロは会長の席に座り直しレイカもその隣に立つ。イクス達もマシロ達のいる机の前に移動した。
「それで、俺たちへの依頼っていうのはどんなものなんだ?詳しいことはここで話すって書いてあったけど」
「え、えーっと、それは……」
「必須の依頼のようですから、何か重大な問題なんでしょうか?」
「えっ!? レイカ、必須の依頼ってどういう事!?」
「いえ、至急解決すべき案件と判断したのでそういう形で依頼しただけです」
「……聞いて無いのですけど」
「言ったら絶対に取り下げようとするじゃないですか」
「何やら揉めているようだが……」
「フン、何やら訳ありらしいな」
珍しく動揺しているマシロの姿をイクス達は見ていた。レイカと彼女との会話から察するに、マシロにとっては話しづらい依頼内容であるらしい。
そして少しの間マシロとレイカが揉めた後、結局マシロが折れる形で口論が終了する。しかし、マシロがどうしても自分の口から依頼内容を伝えるのが恥ずかしかったため、マシロに代わってイクス達に依頼を出したレイカがその内容を伝える。
「皆さんに解決していただきたいのは、この女学院にとっても由々しき問題です」
「???」
「えっと、それは一体?」
真剣な表情で話すレイカの横ではマシロが少し顔を赤くしている。レイカのただならない雰囲気にイクス達も息を呑んでその先を聞こうと身構える。
だが、レイカの口から語られた依頼はイクス達の予想の斜め上の内容だった。
「――皆さんにやってもらいたいのは“会長のストーカー被害”の解決です」
「―――は?」
予想外すぎる依頼にイクスは思わず声を漏らす。数秒の間、学生会室には沈黙が流れていた。
クルトの過去についてはちょっと改変しました。
彼は自分が兄や父達のような体格じゃないことにコンプレックスを抱いていたという事があったので、花の軌跡ではそれを拗らせてしまっていたクルトのもとに現れたイクスの影響で双剣使いを目指すという形にしました。
今回出てきたオリキャラのレイカもマシロとのサブエピソードがあったりしますが、それはまたの機会にということで。