英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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第4話 迷宮の番人

 

「…………」

 

「あれ、どうしたのリィン?」

 

 ラウラたちと別れた後、俺たちは探索を続けていると、柱のある少し広めの空間に出た。魔獣の姿もなかったため、エリオットたちが先に進もうとすると、リィンは何かに気づいたように足を止めた。

 

 リィンが急に足を止めたため、俺たちも周囲を確認してみるが、やはり魔獣の姿は何処にもない。

 だが、リィンと同じくガイウスも何かに気づいたらしく、部屋の中央にある柱の方に視線を向ける。

 

「この気配は…」

 

 ガイウスが見ている柱に目を向けると、その裏から小さな人影が姿を現した。

 

「ふぅん、けっこう鋭いね」

 

 出てきたのはあの銀髪の少女だった。

 どうやら俺たちを待ち伏せして自分の気配に気づくかどうか試していたらしい。

 

 リィンは無事を確認できたことで、少しホッとしながら彼女に話しかける。

 

「よかった、無事だったか。…といっても、その様子じゃ心配することもなかったかな?」

 

「うん、必要ない。わたし、小柄だし結構すばしっこいから」

 

 そう言う銀髪の少女には傷一つ無く、余裕そうな表情をしていた。

 そんな彼女に俺は先程から気になっていたことを質問する。

 

「あの落とし穴の時も一人だけ対応出来てたみたいだし、こうして俺たちをわざわざ待ち伏せしてたってことは、もしかしてもう終点を見てきたのか?」

 

「ん、そうだよ」

 

「ええっ!?」

 

「ほ、本当か!?」

 

 俺の質問に銀髪の少女が返答し、それにエリオットとマキアスが驚く。言葉通りなら徘徊している魔獣も一人で倒しながら終点まで辿り着いたことになるが、彼女は別段大したことはないという表情だった。

 俺たちが驚いているのを気にせず少女は話を続ける。

 

「もう半分は超えてるから、その調子で行けばいい。それじゃあ」

 

 伝えるべきことを伝え、去ろうとしたところを俺が引き止める。まだ聞いていないことがあるのだ。

 

「…ちょっと待った。名前をまだ聞いてないんだが?」

 

 引き止められた少女はどうやら本当に自己紹介を忘れていたらしく、思い出したように自らの名前を告げる。

 

「あ、忘れてた。フィー・クラウゼル、フィーでいいよ。じゃね」

 

 そう言ってフィーは名前を告げるとそのまま壁の方へ向かって走り出す。

 何をするのかと思った途端、彼女は壁を器用に蹴って、そのまま上の通路に走り去っていった。

 

「なあっ…!?」

 

「す、凄い…!」

 

 フィーの驚くべき身体能力にエリオットとマキアスが再び驚く。さっきから思っていたがこの二人は本当にリアクションがいいな。

 とはいえ、今の動きには俺も驚いていた。只者ではないとは思っていたが、まさかあそこまで身体能力が高いとは。

 

 そんなフィーに対して、思わずある感想を漏らしてしまう。

 

「なんつーか、身体のしなやかさといい猫みたいな子だったな」

 

「そうだな、あの様子なら心配は無さそうだ」

 

 ガイウスも俺の言葉に頷き、リィンもそれに続く。

 

「ああ、あの子の言葉通りなら終点までもう少しみたいだし、俺たちも行こう」

 

 そうして、リィンを先頭に俺たちは再び奥へ向かって行く。

 

 俺は歩きながらふとあることを思い出す。

 

 そういえば、リィンは彼女の気配にいち早く気づいていたな…八葉の使い手というのはそういう修行もしているのだろうか?

 そんな事を考えながら、俺は皆の後に続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それで、何の用だ?」

 

 フィーと会った後、進んで行った先の通路で俺たちは剣戟の音を聞き、音のした方に駆けつけると、そこには魔獣に囲まれたユーシスの姿があった。

 

 加勢しようかとも思ったが、彼の宮廷剣術はかなりのものであり、彼を囲んでいた魔獣はあっという間に倒されてしまった。流石に言うだけのことはあるらしい。

 戦闘を終えたユーシスに、リィンが賞賛の言葉を送る。

 

「いや、お見事。リィン・シュバルツァーだ。さっきは名乗る暇も無かったから自己紹介をしておくよ」

 

「ど、どうも…エリオット・クレイグです」

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」

 

「イクス・ライガスト、よろしくな」

 

「ユーシス・アルバレア。一応、改めて名乗っておこう」

 

 マキアス以外全員が自己紹介を済ませると、ユーシスはマキアスの方に視線を向ける。

 

「フッ、それにしてもなかなか殊勝な心構えだな」

 

「な、何がだ?」

 

 ユーシスの白々しく感心する態度に、マキアスは若干苛立ちを見せながら食いつく。

 

「あれだけの啖呵を切ったくせに連れ立ってくるとは……大方、すぐに頭を冷やして殊勝にも侘びを入れたのだろう。いやはや、“貴族風情”にはとても真似できない素直さだ」

 

 ユーシスはマキアスの発言をわざと強調し、明らかにマキアスを煽るように見え透いた挑発をする。

 そしてやはりと言うべきか、マキアスはユーシスの挑発に乗ってしまう。

 

「くっ、何様のつもりだ……!?その傲岸不遜な態度…君たち貴族はみんな同じじゃないか!」

 

 完全にキレてしまったようで、マキアスは声を荒げて、なおも止まらない。

 

「特にアルバレア公爵家といえば、帝国で一、二を争う大貴族…さぞ僕たち平民のことを見下しながら生きているんだろう!!」

 

 マキアスのあまりの憤激ぶりに俺たちは少し気圧されてしまうが、ユーシスだけは違った。その姿勢を崩すことなく涼しげな顔でマキアスに発言する。

 

「―そんなことをお前に言われる筋合いは無いな。レーグニッツ帝都知事の息子、マキアス・レーグニッツ」

 

「帝都知事…」

 

「ああっ、そういえば“レーグニッツ”って…!」

 

 ユーシスの指摘で俺やエリオットは思い出した。帝都ヘイムダルを管理する初の平民出身の行政長官、カール・レーグニッツ帝都知事。どこかでマキアスの苗字を聞いたことがあると思ったが、まさか彼の父親がそんな有名人とは思いもよらなかった。

 

 そして彼の父親であるカール・レーグニッツ知事はあの《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンと盟友と言われている“革新派”の有力人物でもある。

 “革新派”はユーシスの家であるアルバレア家を筆頭とした“貴族派”と対立しているため、マキアスがユーシスを敵視するのは確かに自然な流れだろう。

 

 自分の父親のことを引き合いに出され、ムキになるマキアスにユーシスはさらに追い討ちをかける。

 

「なに、お前のその露骨なまでの貴族嫌いの言動……ずいぶんと安っぽく、“判りやすい”と思ってな」

 

「このっ……!」

 

 とうとうマキアスも耐えられずに、ユーシスに殴りかかろうとする。

 流石にまずいと思った俺とリィンは、咄嗟にアイコンタクトを交わし、二人を止めに入る。

 

「ぐっ……!」

 

「落ち着け、マキアス!」

 

 リィンは背後からマキアスを羽交い締めにし、俺はマキアスとユーシスの間に割って入り、ユーシスを非難する。

 

「安い挑発に乗るマキアスもそうだが、ユーシス、お前もだぞ。自分たちのことでケンカするならともかく、親や家族のことを引き合いに出すのは帝国貴族としてどうなんだ?」

 

「……フン、確かに口が過ぎたようだな」

 

 ユーシスは口調こそふてぶてしかったが、自分の行いを反省はしているようだった。彼も性根は悪い人物ではないのかもしれない。

 

「もういい、離してくれ!」

 

 マキアスも流石に落ち着いたようで、リィンが離した後にユーシスの方へ向かっていくようなことはしなかった。

 しかし、このままユーシスと顔を合わせていると、またいつケンカになるかわからないと思ったのか、頭を冷やしてくると言って先に進んでしまった。

 

「まぁ、今は一人にしておいてやろうぜ。それでどうする、せっかくだしユーシスも一緒に行動するか?」

 

「えっ!?」

 

 俺の提案にエリオットは驚きを見せる。先程から思っていたが、ユーシスに対して少々ビビり過ぎじゃないだろうか。

 そのエリオットの様子も考慮したのか、ユーシスは俺たちに返答する。

 

「言ったはずだ、“馴れ合うつもりはない”と。俺は俺で勝手にやらせてもらう」

 

 そう言って彼は立ち去ってしまい、結局俺たちは最初の四人チームに戻ってしまった。

 少し微妙な空気になったところで、エリオットが話題を変えるように俺に質問をする。

 

「そ、そういえば、イクスってなんていうかあんまり貴族っぽくないよね」

 

「確かに、他の二人に比べればそうだな」

 

 ガイウスもエリオットの疑問に頷く。ここで言う二人とはラウラとユーシスのことだろう。

 

「俺は使い分けてるだけだよ。流石に公の場じゃそれなりの話し方に変えるしな」

 

「へぇー、そうなんだ」

 

 二人の言う通り自分の口調がラウラやユーシスに比べれば、軽いというのは自覚している。どうしても育った環境のせいか、あまり貴族らしくない口調が染み付いているのだ。

 ただ、きちんとした言葉遣いが出来ないというわけではない。普段はあまり使わないだけだ。

 

「イクスについての疑問も解消したことだし、俺たちもそろそろ先に進むとするか」

 

 リィンがある程度のところで話を区切り、俺たちは終点へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の場所から進んだ先にあったのは、広めの空間だった。通路も後ろにある来た道しかなく、また、奥の方には階段がありその先に陽の光が差し込んでいるということは地上に繋がっているらしく、どうやらここで終点のようだ。

 

「…どうやらここが地上に通じているみたいだな」

 

「ああ、陽も差し込んでいるし間違いないだろう」

 

 リィンとガイウスも俺と同じ意見だったが、俺はひとつ気がかりなことがあった。

 

「…けど、サラ教官の姿がどこにもないぜ。あの人、終点で待ってるんじゃなかったのか?」

 

 そう、肝心のサラ教官が何処にもいないのだ。てっきり終点で俺たちのことを待ち構えていると思っていたのだが、その姿が確認できない。

 

「あ、そういえば…!」

 

「確かにそうだな…」

 

 俺の指摘にエリオットたちも気づいたらしく、周囲を確認するが、やはり何処にもサラ教官の姿はなかった。ここが終点ではないということなのだろうか?

 

 色々と考えを巡らせていると、不意にどこからかガタガタという奇妙な音が聞こえてくる。

 

「な、なに?この音?」

 

「あれだ…!」

 

 ガイウスがいち早く音の正体に気づき、全員が彼の視線の先を見ると、そこには角と翼を持つ魔獣の形をした石像があった。

 

 しかし、その石像はただの石像ではなかった。

 

 最初は壁などと同じ鈍色をしていたが、ガタガタとその体を震わせながら、みるみるうちにその色は黒く変色していく。同時に、その肉体には先程までは無かった生気をも感じられるようになっていた。

 

「グオオオッ!」

 

「うわあっ!?」

 

 そして、完全に魔獣に変わると台座から飛び立ち、俺たちの前に立ち塞がった。立ち塞がった魔獣の姿を見て、俺は帝国に伝わるある伝承を思い出す。

 

 帝国には、古代ゼムリア文明が崩壊した後の混迷の時代、《暗黒時代》に、迷宮や神殿を守護する石造りの魔獣がいたという伝承がある。

 目の前に立ちはだかる魔獣はその伝承にそっくりだった。

 

「…石の守護者―《ガーゴイル》って奴か…」

 

「…帝国というのはこんな化け物が普通にいるのか?」

 

「そうだったら、まだ気が楽なんだけどな」

 

 ガイウスの少しズレた疑問にツッコミを入れながら、俺は双剣を構える。彼の言う通りこんなのがその辺の街道にいたとしたら、時々ある魔獣の被害はもっと酷くなっているだろう。

 そんなやりとりをしていた俺たちにリィンが号令をかける。

 

「とにかく、こいつを何とかしないとどの道地上には戻れない…!みんな、何とか撃破するぞ!」

 

 魔獣の方も臨戦態勢に入り、先程まで戦っていた魔獣とは比べ物にならないほどのプレッシャーを放つ。

 俺たそれぞれ武器を構えて、リィンの号令を合図に戦闘を開始するのだった。

 




第4話終了です。
というわけで次はいよいよ戦闘シーンです。正直なところ戦闘描写が難しくて、上手く書けるといいんですが…
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