英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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第55話 異邦の少女と双剣士、ときどき黒兎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ………。もう、どこいっちゃったのよ〜………」

 

 

 

 

 緋色で統一された建物が立ち並ぶ帝都。夏至祭で各区が賑わう中、一人の少女は時折見える屋台などにも目もくれずに街の中を走り回っていた。

 

 

 キョロキョロと辺りを見渡しながら息を切らして走る少女。走るたびに後ろでまとめ上げられた明るいピンク色の髪が短い尻尾のように揺れる。必死になって帝都を駆ける少女の顔には不安の色が現れていた。

 

 夏至祭を楽しむ他の者たちは少女とすれ違った際に不思議な様子で振り返るが、彼らが声をかける前に少女はその場から走り去ってしまう。同時に少女の方も周りの通行人に話しかけることは一切なかった。

 

 

 

「ハァ、ハァ…………あれ……?」

 

 

 

 夢中で走っていた少女はふと足を止める。

 

 

 気がつけばそこは少女が先程まで走っていたところと少し様子が違っていた。街の至る所にある装飾は変わらないが、今いる場所はさっきよりも静かに感じる。通行人も幾分少ないようだ。

 

 

「ここ、どこだろ……?」

 

 

 か細い声で少女は呟いた。その声は誰にも届かずに、夏の青空に消えていく。

 

 

 そしてここで、少女は自分が道に迷ってしまったことに気がついた。

 

 

 帝国最大の都市である帝都ヘイムダルは途轍もなく広い。地元の者でも街の中で迷ってしまうことはしばしばあり、迷子の捜索に帝都憲兵隊が駆り出される光景もそう珍しいことでもないのである。

 

 

 実際、この少女が迷ってしまったのも無理もないことだった。

 

 

 そもそも彼女は帝都市民ではないし、ましてや帝国民ですらない。彼女の出身は帝国と東のカルバード共和国に挟まれる地域《クロスベル自治州》であり、帝国に足を踏み入れたのも今日が初めてなのだ。

 

 そんな彼女が広大な帝都の土地勘などあるはずもなく、先程もただがむしゃらに街を走り回っていたに過ぎない。彼女が迷子になってしまうのも必然といえば必然だった。

 

 

 自分が迷ってしまったことに気づいた瞬間、少女の顔を汗が次々と伝っていく。

 

 知らない土地で一人になってしまったという不安と恐怖。帝国にあまりいいイメージを持っていない彼女が頼れる者など誰一人いない。急に姿を現した孤独感に少女は思わず涙が溢れそうになる。

 

 

 どうして良いかもわからず、途方に暮れる少女。そんな彼女に不意に声がかけられた。

 

 

 

「ねえねえ、そこのカワイ子ちゃん」

 

「うぇっ……?あ、あたし……?」

 

「そうそう、君だよ君」

 

 

 

 突然声をかけられた少女は声の主の方に振り返る。

 

 

 不安に駆られていた彼女は若干の期待を込めて振り返ったが、残念ながら直ぐにそれが救いの声でないことがわかる。

 

 

「君、今ヒマ?良かったら俺らとお茶でもしない?」

 

「もちろん奢るしさ、どう?」

 

「あの、えっと、あたし………」

 

「だいじょぶだいじょぶ、悪いようにはしないからさ。ホラ、俺たちって紳士だし」

 

 

 少女に声をかけてきたのは彼女よりも少し年上に見える三人組の男たちだった。

 

 

 その言葉から分かるように彼らの目的はナンパ。少女も初めて経験するが、ここまでわかりやすく誘ってくるものだとは思っていなかった。

 

 

 突然話しかけられた少女が戸惑っているのをいいことに、男たちはそのままぐいぐいと少女に迫る。その圧力に少女も後ずさりしてしまう。

 

 

「ね、ちょっとだけでいいからさ、お願い」

 

「や、でも、あたし……!」

 

「ホント軽くお話するくらいでいいから。10分、いや、5分でいいから!」

 

「ちょ、いい加減に………!」

 

 

 あまりにもしつこく絡んでくる男たちに少女もとうとう怒りを感じ始める。

 

 

 こう見えても彼女は警察学校に通っているため、腕には多少の自信がある。男三人程度なら自分でも撃退できるはず。気が強い彼女はそう考え始めていた。

 

 

 男たちの一人が少女の手を無理やり取ろうとする。彼女がその手を振り払おうとした時だった。

 

 

 

 

 

「すみません、彼女に何か用ですか?」

 

 

 

「え―――?」

 

 

 

 

 

 近づいて来ていた男の手が何者かにがっしりと掴まれる。男の手を掴んだ人物の声には少々怒気が含まれていた。

 

 

「げ、彼氏持ちかよ」

 

「ちぇ、つまんねー」

 

「クソ、放せっての!」

 

 

 その人物が現れた途端、男たちはその場から立ち去っていく。手を掴まれた男も乱暴に振りほどいて仲間たちと一緒に少女から離れていった。

 

 あまりにも呆気なく立ち去っていった男たちを見て、少女はぽかんと口を開けるしかなかった。

 

 

 

「君、大丈夫か?」

 

「え?あ、えっと……」

 

 

 

 少女が呆気にとられていると、男たちを追い払った人物が彼女に声をかけた。その声で我に帰った少女は改めてその人物の方を向く。

 

 

 

 

 その人物は、一言で言えば『美少年』だった。

 

 

 

 イケメンとはこういう人のことを言うのだろうと言わんばかりの整った顔立ち。男の子にしては線は細く、淡い青髪も合わさってそよ風のような爽やかさを醸し出している。身体の方もスラリと細くしていながら、男らしい筋肉も付いていた。

 

 

 まさに美少年そのものと言えるその姿に少女も一瞬見惚れてしまっていた。

 

 そして当然ながら、その人物は少女の恋人というわけではない。それどころか、全くの初対面である。

 

 

 

 いや、もしかすると自分が忘れているだけで実は以前に知り合ったことのある人なのか。

 

 予想外の出来事が連続して混乱していた少女は、今度はわたわたと自分の記憶を探り始めようとする。この時点で完全に本来の目的を忘れていた少女だったが、彼女が自分の記憶を探る前に少年の方が声をかけた。

 

 

「………もしかして君、観光客か?」

 

「ほぇ……?」

 

「……いや、待てよ。この状況からすれば、道に迷ったという方が正しいのか」

 

「え!?どうして分かったの!?」

 

 

 

 観察するようにこちらを見ていた少年の推理に少女は驚きを隠せなかった。自分が迷ってしまったという事実はあまり受け入れたくはなかったが、それ以上に今の自分の状況を一目で理解した少年への驚きの方が強かった。

 

 

 

「簡単な話さ。まず君が観光客ってことについては、君自身をこの辺で見かけたことがないということと君の服装が帝都でよく見る君ぐらいの年頃の女の子のものと違うから。そして君がここで迷っていたことについては、この場所がどちらかといえば住宅地につながる路地で、もっと言えば女の子が好きそうな店があまり無いから。あとは君の髪や服装が少し乱れていて、汗だくになっていることからも君が何か慌てて探していたんじゃないかっていう予測は立つよ」

 

「すご〜い!なんか探偵さんみたい!」

 

「僕の兄のような人から教えてもらった技術でね。初対面の人間でも、色々と観察すればその人の情報はある程度予想できるって言っていたな」

 

 

 

 少女が警察官を志望していることもあってか、少年の見事な推理は図らずも彼女の警戒心を無くしていた。彼女の反応から少年は自分の推理が合っていた事は分かったため、親切心で彼女にある提案をする。

 

 

「良かったら話を聞かせてくれないか。ここは僕の地元だからそれなりに詳しいし、君の力になれると思う」

 

「えっと、じゃあお願いしようかな」

 

「わかった、ならひとまずそこのベンチに座ろうか」

 

 

 近くにあったベンチを指差し、帝都出身である少年は異邦の少女に協力することにした。少女が汗をかいていたため、少年は自分のポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを取り出してそれを差し出そうとする。

 

 

 そこで彼は一つ、重要なことを思い出した。

 

 

 

 

 

「……そうだ、名乗るのを忘れていたな。僕はクルト、クルト・ヴァンダールだ。君の名前は?」

 

 

 

「あたしはユウナ、ユウナ・クロフォードよ。よろしくね、クルト君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そうか。つまりその弟と妹とはぐれてしまって、それを探している内に君も道に迷ってしまったというわけか」

 

「うん………。あの子達まだ小さいし、今日は私とその子たちだけで来たから私も焦っちゃって……」

 

「無理もないさ。僕も君と同じ立場だったら焦るだろうし、何よりそこまで必死になっていたということは君がすごく家族思いだっていう証拠だからね」

 

「あはは、それほどでも……」

 

 

 

 すっかり落ち着きを取り戻したユウナは、これまでの経緯を大まかにクルトに説明していた。

 

 

 なぜ彼女たちが帝都へ来たのかというと、彼女の弟と妹が好きなクロスベルのマスコットキャラの『みっしぃ』というキャラクターのショーが見たいということで彼女は二人を連れて帝都まで来たらしい。このショーというのが今回の夏至祭限定のもののようで、更にそこで売っているグッズもそこでしか買えないものであるらしい。

 

 どうしても帝都に行きたいという二人を、たまたま警察学校の休みが重なっていたユウナが丁度忙しかった両親の代わりに連れて来たのだ。

 

 そして夏至祭に来てそのショーを見終わったのはいいものの、彼女がトイレに行っていた間に弟と妹がいなくなり、知り合いなどいるはずもない彼女は闇雲に帝都を駆け回っていたとのことだった。

 

 

 

 

 一通りの事情を説明された後、クルトは正直なところ困っていた。

 

 

「弟さんと妹さんの特徴は何かあるか?」

 

「うーん……双子だから顔は良く似てるかな。後は、二人とも髪があたしと同じ色だよ」

 

「それじゃあ、二人が他に行きそうな所に心当たりは?」

 

「ごめん、正直わからない。あたしもここに来るのは今日が初めてだし、そもそもあの二人の目的はみっしぃのショーだけだったから……」

 

「そうか……」

 

 

 

 手がかりが圧倒的に足りないのだ。

 

 

 クルトはもちろんユウナの弟と妹の顔は知らないし、ユウナ自身も二人が行きそうな場所の手がかりが全く無い。加えて帝都自体が広大であり、ただでさえ自由に動くことの多い小さな子の移動範囲を広げてしまっている。この状況でその二人を探すのにはあまりに情報が足りなすぎる。

 

 

 

 そしてもう一つ。クルトの隣に座るユウナにはまだ伝えていないが、実は彼にはタイムリミットがあった。

 

 

 彼の実家であるヴァンダール家は代々皇族を護衛する役割を担っていて、それは彼も例外ではない。元々彼は午後に行われる夏至賞のレースで挨拶する予定のセドリック皇太子の護衛に向かうために実家を出たところであった。

 

 真面目な性格である彼は時間よりも大分前に家を出ていたが、彼も護衛任務があるため少なくとも昼までには帝都競馬場に到着していなければならない。幸いまだ時間はあるが、それでもこのままユウナを連れて帝都中を探し回るのは不可能である。

 

 しかし、彼も自分から声をかけておいてこのまま彼女を見捨てることなどできなかった。彼自身も嫌であり、何よりここで見捨てれば誇りである実家の名に泥を塗ることになる。

 

 

 が、圧倒的に情報も時間も足りない。

 

 

 いたずらに過ぎていく時間を恨めしく思う彼を隣に座るユウナは申し訳なさそうに見ていた。

 

 

「……あの、やっぱりいいよ。クルト君にこれ以上迷惑かけるのもアレだし、あたしは一人でも大丈夫だから」

 

「いや、そういう訳にはいかない。僕も話を聞いた以上、責任があるからな」

 

「いや、でも………」

 

 

 

 遠慮して自分一人でも大丈夫だと強がるユウナ。自分も協力すると引き下がらないクルト。

 

 

 

 その二人のやり取りが2、3回繰り返された時、丁度ライカ地区に到着したトラムから降りて来た人物が彼らに声をかけた。

 

 

 

 

 

「―――あれ、クルト。そんなところで何してるんだ?」

 

 

「兄弟子……!」

 

 

 

 

 

 

 クルトに声をかけたのは彼の信頼する人物であるイクス。

 

 

 

 八方塞がりだった状況は彼とⅦ組B班の登場で一気に解決へと加速しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏空の下、夏至祭で盛り上がる帝都のある場所に沈黙が流れ続けていた。

 

 

 

 若干人通りの少なくなっている《サンクト地区》のとある場所、そこは時間を切り取られたかのように先程から全く状況が変わっていない。時折そこを通り過ぎる者たちは皆その光景を不思議に横目で見るものの、各々の目的の場所に向かわなければならないため、わざわざ足を止めることはない。

 

 

 確かに不思議な光景ではあるが、それほど大変な事態にも見えなかったのである。

 

 

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは一人の少女と一人の子ども。

 

 

 

 少女の方は黒を基調としたややコスプレじみた衣装に身を包み顔色一つ変えずにその場に立っている。

 

 対して子どもの方は、特徴的な明るいピンク色の髪の男の子であり、彼は先程からずっと少女の衣装に付いている尻尾のようなものを握って少女をじっと見つめていた。

 

 

 

(………何故このような事態に)

 

 

 

 表情を全く変えない少女は心の中で困惑していた。

 

 

 

 少女の名はアルティナ・オライオン。

 

 

 とある組織から結社《身喰らう蛇》に借り出されている身である彼女は初の任務で帝都に訪れていて、現在は作戦開始時刻まで待機命令が出ている。目覚めたばかりでそもそも感情そのものの在り方が希薄な彼女がどこかを回りながら時間を潰すなどという方法は思いつくはずもなく、文字通り作戦開始時刻まで待機していた。

 

 そんな時、彼女の隣にいつのまにかこの子どもが現れていた。最初は気に留めなかったものの、自分の服の装飾を握り全く動く気配を見せない子どもに彼女は困惑していた。

 

 

 戦闘における対処のマニュアルは一通り頭に入っているアルティナだが、自分の服を握る小さな男の子への対処法など彼女のマニュアルの中には無い。この場合の適切な対応とは一体何なのか、それを模索しようとした時ずっと黙っていた子どもがついに口を開く。

 

 

 

「……黒いうさぎさん!」

 

「………何故私のコードネームを」

 

 

 

 噛み合っていそうで微妙に噛み合っていない会話。当然、子どもの方はアルティナの正体やコードネームを知っている訳ではない。彼女の服装からそのイメージに至っただけだ。

 

 

 

 ピンク色の髪の子どもはなおも尻尾を離さずにアルティナに話しかける。

 

 

 

 

 アルティナは困っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そうか、分かった。ああ、ヴァンクール大通りの百貨店の前だ。それじゃあ、また」

 

「見つかったの?」

 

「ああ、イクス達が姉の方を見つけていたらしい」

 

「ふぅ、意外と早く見つかったな」

 

「良かったわね、お姉ちゃん見つかったって」

 

「ほんとなのー?」

 

「うん、だからそなたも安心するとよい」

 

 

 

 ヴァンクール大通りにある百貨店前、B班と同じく帝都を巡回しているリィン達A班がいた。イクス達の後でクロウと遭遇した彼らは百貨店を出た後、偶然店の近くで泣いていた幼女を保護していたのだ。

 

 どうやら迷子になってしまったらしいその幼女はクロスベルから姉と双子の弟と一緒に来たようで、二人とはぐれて不安になり店の近くで泣いていたらしい。

 

 リィン達も帝都を巡回しなければならなかったが、迷子の子を一人放っておくわけにもいかずその子の家族を捜索しようとなっていたところ、同じく迷子の妹と弟を探している少女を保護したとの連絡がイクス達B班からあったため、彼らは百貨店の前で会うことになったのだった。

 

 

 リィン達も最初は捜索範囲があまりにも広すぎるため途方に暮れていたのだが、協力を要請しようとしていたイクス達が偶然にも姉の方を保護していたことで一安心していた。A班の保護したナナという幼女も姉が見つかったと知って安心したのか、今はアリサとラウラと遊んでいる。

 

 

 そうして待つこと10分。大通りの停留所に一台のトラムが停車し、そこからナナの姉であるユウナと彼女を助けたクルトを連れたB班が姿を現した。

 

 

「ナナーー!!」

 

「お姉ちゃーん!」

 

 

 妹の姿を見つけた途端、ユウナは一直線に妹の下へ走り出してそのまま受け止める。その光景をリィン達とイクス達は暖かく見守っていた。

 

 

「もう、バカ!心配したんだからね!」

 

「ごめんなさいなの……」

 

「まったくもう……」

 

「良かったね、すぐに再会できて」

 

「イクス達もありがとな、助かったよ」

 

「それはこっちも同じだって」

 

「一件落着、だね」

 

 

 家族思いの姉の姿にほっこりしながらお互いに感謝し合うA班とB班。

 

 

 これでこの事件も一件落着かと思われたが、ここでクルトがある質問をする。

 

 

 

「そういえば……弟さんの姿が見当たらないようですが……」

 

「あ、ホントだ。ナナ、ケンは?」

 

「わからないの。お姉ちゃんと一緒じゃないの?」

 

「え、リィン達が見つけたんじゃないのか……?」

 

「いや、というかイクス達が弟も見つけたんじゃないのか……?」

 

「なっ!?どういうことだ……!?」

 

「俺に文句を言うな、阿呆が」

 

「これは、マズいことになりましたね……」

 

「みたいね……」

 

 

 

 両者の班が見つけたのは姉と妹の一人ずつ。しかし、弟の方は両者ともに保護していない。ARCUSで通信していたリィンとイクスは会話の内容でお互いの探している人物が一致しているのが分かったため詳しく情報交換をしていなかった。そのため、共に相手の方が弟の方も保護していると思い込んでいたのだ。

 

 

 ここに来てノーヒントの状態で弟を探さなければならないという事態に直面し、Ⅶ組一同は困り果てる。

 

 A班とB班で別れて捜索するとしても帝都中を探すのにはかなりの時間がかかる。更に言えば相手は人間、それも行動パターンが読みづらい子どもともなれば捜索はかなり大変になる。

 

 

 だが、Ⅶ組もここで彼らを見捨てるわけにもいかない。

 

 

 ひとまず二班に分かれて捜索を開始しようとした時だった。

 

 

 

「お姉ちゃーん!ナナー!」

 

「ケン!?」

 

「ケンなのー!」

 

 

 

 人混みの向こうからこちらに手を振って走ってくるピンク色の髪の男の子。それはまさしく今探そうとしていたユウナの弟、ケン・クロフォードであった。

 

 

「ケン、このバカ!今までどこに行ってたのよ!」

 

「えっと、その、ごめんなさい……」

 

 

 元気よくユウナの胸に飛び込んだケンは怒られるとは思っていなかったのか、開口一番に叱ってきたユウナの表情を見て慌てて謝る。つい数分前に同じような光景を見たⅦ組とクルトは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「それで?どうしてあたし達がここにいるってわかったの?」

 

 

 弟にもひとしきり怒って落ち着いたユウナは改めて行方不明だった弟に今までどこにいたのか尋ねる。それはリィン達も疑問に思っていたことだった。

 

 

 

 ショーが行われていたのはドライケルス広場。はぐれたのもその場所で、仮にユウナ達を探していたとしても土地勘のないケンが人混みの多いヴァンクール大通りで彼らを見つけるのは少々難しいだろう。

 

 

 その疑問を投げかけられたケンはまた顔を明るくして少し興奮ぎみに話し出した。

 

 

 

「あのね、黒いうさぎさんがね連れてきてくれたんだよ!ビューンって空を飛んでね、凄かったんだ!」

 

「え?黒いうさぎさん?」

 

「うん!」

 

「一体何の事を言ってるんだ?」

 

「さぁ?」

 

 

 

 ケンの説明にユウナだけでなくⅦ組やクルトも首をかしげる。黒いうさぎというのも良く分からないし、それが空を飛んで彼を連れてきたというのも理解不能だ。

 

 

 結局、その件は保留として無事に弟と妹と再会することのできたユウナはⅦ組達にお礼を言うことにした。

 

 

 

「本当にありがとうございました!みなさんのおかげで弟と妹も無事に見つけられました」

 

「いや、無事に見つかって何よりだよ」

 

「俺たちも正直、中途半端に見つけたわけだしな」

 

「報連相は確実に、だね」

 

「うむ、その通りだな」

 

「あなた達も今後はお姉ちゃんから離れないようにね」

 

「「はーい」」

 

「今度こそ、一件落着のようだな」

 

 

 

 Ⅶ組のメンバーにお別れの挨拶をするケンとナナ。そして最後にユウナはクルトにお礼の言葉を言っていた。

 

 

「クルト君もどうもありがとうね」

 

「いや、僕は何もしてないよ」

 

「そんな事ないよ!あの時クルト君があたしを助けてくれてなかったら、こうしてⅦ組の人たちと会わなかったかもしれないんだし!」

 

「はは、そうかな。じゃあ、そういうことにしておくよ」

 

「うん。だから、ありがとう」

 

「ああ。どういたしまして」

 

 

 

 危ないところを助けてくれたお礼とこうして無事に弟達と再会させてくれたお礼を改めて言ったユウナに、クルトも挨拶を返す。短い間ではあったが、別れが少々名残惜しくなるほどには親しくなっていた。

 

 

 

「それじゃあ、今回は本当にありがとうございました!Ⅶ組のみなさん、クルト君!」

 

「ありがとうございましたー!」

 

「ありがとうなのー!」

 

「また迷子にならないようになー」

 

「縁があればまたどこかでね!」

 

 

 

 感謝の言葉を送りながら異邦の少女とその家族は去っていく。

 

 

 

 少女とⅦ組が再会することになるのはまだ先のこと。

 

 

 そして、クルトとの再会もまだ先のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、適切な対応だったようですね」

 

 

 

 Ⅶ組とユウナ達、そしてクルトが分かれるところを建物の上から眺める一人の少女がいた。

 

 

 彼女はアルティナ。

 

 先程偶然保護する形になったユウナの弟を送り届けた人物だ。

 

 

 あの後、ケンの口から姉と妹とはぐれてしまったという事情を聞いたアルティナは彼女の持つ特殊な武装を用いて空中から探していた。そしてつい先程、Ⅶ組とクルトと一緒にいた特徴の一致する姉妹を発見し、ケンを地上に降ろしたのだ。

 

 

 

(……………?)

 

 

 

 無事に家族と再会できた男の子の姿を見たアルティナは少しだけ心に暖かいものが生じるのを感じた。だが、目覚めたばかりの彼女はこの感情の名前を知らない。分からないが、それが少し心地よい感覚であるのは理解できた。

 

 

 

 

「クラウ=ソラス」

 

「@&#$€」

 

 

 

 

 

 不思議な名前を呼んだ途端、何もなかったはずの空間から突然黒い傀儡が姿を現わす。

 

 

 

 それこそが彼女の有する特殊な武装。その形状はⅦ組の実技テストで使われる《戦術殻》やミリアムの操る《アガートラム》に酷似している。

 

 

 

「あれが報告にあった《Ⅶ組》ですか」

 

 

 

 その腕に座る形でアルティナはまた空を飛ぶ。

 

 

 Ⅶ組とその近くにいるユウナとクルトを一瞥してから、彼女はその場を離れていった。

 

 

 

 

 彼女は知らない。いつか自分もその輪の中に加わる日が来ることを。

 

 

 彼女は知らない。それがいつか自分にとって掛け替えのない存在になることを。

 

 

 目覚めたばかりの黒兎はまだ何も知らなかった。

 

 

 

 

 




そんなわけで新Ⅶ組三人がゲスト登場。この作品では閃Ⅲ開始時よりも前にユウナとクルト(ある意味アルティナも)が出会うことになりました。

そしてユウナとクルトに関してはこの時点で既にⅦ組と顔合わせをしてることにもなりますね。これが閃Ⅲ以降にどういった影響を及ぼすのか。

次回は日曜日に更新しようと思っているので、それが今年最後の投稿になると思います。それではまた次回、感想等いつでもお待ちしております。
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