英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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今年最後の更新。

ちなみに、タイトルは『せんしばんこう』って読んでください。正しい熟語ではなく造語です。


第56話 戦士万紅① 〜開戦〜

 

 

 

 

 

 昼下がりの帝都。

 

 

 つい数時間前にバルフレイム宮から皇族の乗せる三台のリムジンが出発してそのまま凱旋パレードが行われ、丁度今はマーテル公園とヘイムダル大聖堂と帝都競馬場にてそれぞれ皇族が出席する催し物が行われている最中であろう。

 

 テロが警戒される中で無事に凱旋パレードも終わり、それ以外の場所には比較的穏やかな時間が流れていた。

 

 

 

「さてと、他の場所は終わったことだし、チェックがてら少し休憩していこうぜ」

 

「賛成」

 

 

 

 昼食を済ませ、午後からもう一度帝都西側を巡回していたイクス達B班は《ドライケルス広場》に到着する。彼らはリーダーであるイクスの提案で一度休憩を挟むことになった。

 

 

 正午も過ぎて大方の者たちが昼食を食べた後のドライケルス広場には凱旋パレードの時に比べて人はまばらになっていた。先に見えるバルフレイム宮を目当てにした観光客もリムジンの方を追ったのだろう。

 

 しかしこの時間は屋台を営む者にとっては貴重な時間でもある。昼食時のピークを終えた屋台の店主たちは皆肩の力を抜いているようで、時折来る客が現れるまでは出来る限り休んでいた。

 

 

 イクス達も休憩がてら少しゆっくりと歩きながら念のため広場を確認していく。すると、水辺に近い場所に差し掛かったところで見知った顔を二人発見した。

 

 

「トワさん、アンゼリカ先輩も……!」

 

「あ〜っ、イクス君たちだ!」

 

「やぁ、これは奇遇だね」

 

 

 イクスが声をかけたのは士官学院の先輩であるトワとアンゼリカ。更に言えば、彼女達はクロウやジョルジュとともにⅦ組の前身として活動していたため、その意味でもⅦ組の先輩と言える存在である。

 

 

「導力バイクで来たんですね」

 

「ああ、こちらの方が鉄道よりも早く着くし、何よりトワと二人きりで乗れるからね」

 

「もう、アンちゃんったら〜」

 

「導力…バイク……?」

 

「鉄で出来た馬のようなものか」

 

「こんなものがあるんですね……」

 

 

 以前に導力バイクのテスト走行をしたイクスを除いて、他のメンバーは当然ながら導力バイクを見るのは初めてである。導力系の授業でも習ったことのない技術に彼らも興味津々にそれを眺めていた。

 

 

「ところで、二人はどうしてここに?クロウ先輩みたいに遊びに来たんですか?」

 

「あれ、クロウ君も来てたんだ」

 

「おそらく彼は今日の夏至賞目当てだろうね。特賞を当てると張り切っていたよ。……ま、結果は見えているが」

 

「どういう事ですか?」

 

「彼の予想は1-2-6。けど、さっき耳にした話だとレースの結果は4-5-3だったみたいだ」

 

「あー……」

 

「今頃は競馬場で膝から崩れ落ちているところだろうな」

 

「そしてもう一つ言うと、私が懸賞で送った予想も4-5-3だったりする」

 

「……それ、クロウ先輩が聞いたら泣きますね」

 

 

 

 イクス達も数時間前にクロウと遭遇しており、その時チラリと見えたメモ用紙にも1、2、6の数字に丸が付いてあったため、アンゼリカの言った通りクロウの予想は1-2-6だったらしい。

 

 更にアンゼリカが気まぐれに出した予想がレースの結果ピタリと一致したこともあり、イクスは高笑いしていたクロウの姿を思い出して若干同情した。

 

 

 

「あ、そういえば何でわたしたちがここにいるのかって話だったよね。実はテロリストの件でイクス君たちが心配になってちょっと様子を見に来たんだ」

 

「トワさんもテロリストの事を知ってたんですか……!」

 

「うん、わたしも時々Ⅶ組の実習のお手伝いをしてるからね。昨日も知事さんの要請を取り次いだ時に聞いたんだ」

 

「おや、確か細かい手続きや書類作成もやってるんじゃなかったかい?サボりがちなサラ教官のフォローで各方面への連絡をしているのも見たことがあるが」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「……どうやら俺たちの知らぬ所で迷惑をかけていたらしいな」

 

「……感謝」

 

「一応、担任に変わって礼を言っておこう」

 

「そ、そんなに気にしなくていいよ……!サラ教官も色々と忙しいみたいだし……」

 

 

 

 学院でもお人好しとして有名なリィンと同じくらいの人の良さの持ち主であるトワ。

 

 

 生徒会会長としても忙しいはずなのに、その上自分たちⅦ組のフォローまでしてくれている事を知っ改めてトワに感謝するとともに自分たちの教官のだらしなさに申し訳なさを感じるB班一同。

 

 

 お礼を言われたトワはやはりというべきか、慌ててサラ教官のフォローをしながら謙遜していた。

 

 

 

「おーい、みんな!」

 

「お、A班のみんな」

 

「あ、リィン君たちも来たんだね」

 

「トワ会長……、アンゼリカ先輩まで……!」

 

 

 

 そしてここで東側を担当していたリィン率いるA班も合流し、リィン達もそこにいたトワ達と軽く挨拶を交わす。

 

 

 偶然にもⅦ組全員が揃ったことでリィン達も休憩がてらトワ達と談笑をすることになり、話題はⅦ組が昨日会った皇族の話に移っていた。

 

 

 

 イクスと同じく帝都のヴェスタ通りに住んでいるトワにとっては皇族は憧れの存在であり、それと直接話をしたリィン達をかなり羨ましがっているようだった。途中、アンゼリカが変なテンションになっていたが、彼女と親しいトワとアリサにとっては割と日常茶飯事らしい。

 

 

 

「そうだ、イクス君。マシロちゃんにも会いたいんだけど、今どこにいるかな?」

 

「あー、今はちょうどバルフレイム宮にいると思います」

 

「バルフレイム宮?何でそんなところに……?」

 

「そういや、リィン達にはまだ話してなかったか。アルフィン殿下やオリヴァルト殿下の計らいでマシロは今日皇帝陛下達とお話する機会を貰えたんだよ」

 

「こ、皇帝陛下達と!?」

 

「それはすごいわね……!」

 

「あくまで女学院の学生会長としてな。そのまま晩餐会にも出席する予定になってるから今日会うとしたら夜になると思います」

 

「そっかぁ……じゃあそれまでは街を見て回ろうか、アンちゃん」

 

「もちろんさ、トワとなら何時間、いや何日でも……!」

 

「ア、アンちゃん……!」

 

「あはは………」

 

 

 

 

 またもや暴走するアンゼリカと恥ずかしそうにするトワとのやり取りをⅦ組も苦笑して見守る。

 

 そんなやり取りをしていると気づけばかなり時間が過ぎていたらしく、遠くから午後3時の時を告げる鐘の音が聞こえ始めた。

 

 

 

「っと、もう3時か」

 

「割と話し込んじゃったわね」

 

「休憩も十分取ったし、俺たちもそろそろ巡回に戻るか」

 

「ちょうど各地区のイベントも終わる頃だろうしな」

 

「そだね」

 

 

 

 

 Ⅶ組はあくまでもテロに備えての巡回をしている途中。いつテロリストが動き出すかわからないため、いつまでもドライケルス広場にいるわけにもいかない。これからハーシェル雑貨店に顔を出すというトワ達と別れて再びA班B班で行動を開始しようとした時だった。

 

 

 

「………!!」

 

「これは……!」

 

 

 

 気配察知に長けているリィン、ガイウス、そしてイクス、ラウラ、フィーの五人が何かに気づく。

 

 

 

 彼らが感じたのは何らかの圧力。

 

 それを探ろうとした瞬間、事は起きた。

 

 

 

 

「うわあーー!?」

 

「な、なんだーー!?」

 

 

 

 

 あちこちで上がる困惑の悲鳴。

 

 その原因は次々と立ち上っていく水柱。広場にある噴水はいつもよりも激しく水が噴き出し、水柱はマンホールの蓋を吹き飛ばしていた。

 

 

 

「こ、これは一体……!?」

 

「……夏至祭の演出って感じじゃないのは確かだな」

 

「テロリスト達の仕掛けか……!」

 

 

 

 イクスも帝都での夏至祭を何度も経験してはいるものの、このような演出は聞いたことが無い。そもそも、広場にいる衛士隊が混乱している時点でこれが演出ではない事は確実だった。

 

 

 

「アンちゃん!」

 

「わかっている、一般人の避難誘導だね!」

 

 

 

 テロが開始したとわかった瞬間にまず動いたのはトワだった。信頼できる親友に声をかけると、その親友も待ってましたと言わんばかりに即答する。

 

 

 そして、その声を聞いたリィンもすぐに行動に出た。

 

 

 

「トワ会長!俺たちも!」

 

「ううん、リィン君達にはやるべきことがあるはずだよ!この場はわたしたちに任せて!」

 

「……! 分かりました!」

 

 

 

 

 自分たちのやるべきこと。

 

 

 

 

 それはクレア大尉に与えられた『遊軍』としての使命を果たすこと。現在警備を展開している敵の狙いであろうマーテル公園、ヘイムダル大聖堂、帝都競馬場の応援に向かうこと。

 

 

 

 これまで三度の実習を経験してきたⅦ組全員の頭はすでに切り替わっていた。

 

 

 

「おそらくこれは陽動。多分敵の狙いは三ヶ所のうちのどれかか全部」

 

「けど戦力を確認してる暇もない。ここはバラけた方が良さそうだな」

 

「良し、今から三班に分かれて―――」

 

「待て!何か来る!」

 

 

 

 

 手早くこれからの動きを決めてリィンが指示を出そうとする。が、その言葉をガイウスが遮った。

 

 

 

 

 ――何か来る

 

 

 

 

 ガイウスは一体何を感じ取ったのか。慌ててリィン達もそれを探ろうとしたが、その必要はなかった。

 

 

 

 

「あれは……!」

 

「飛行艇だ!」

 

 

 

 

 突如空に現れたのは2隻の飛行艇、それらは瞬く間にドライケルス広場の上空を通過し、一直線に緋き城へと向かっていく。当然、2隻がその城を更に通り過ぎるはずはない。飛行艇はそれぞれ城のすぐ近くに降り立った。

 

 

 飛行艇が着いた途端、そこから次々と武装した人が地上に降りていく。そしてその中には結社が用いる《人形兵器》らしき姿もあった。

 

 

 

 

「ねぇ、もしかしなくてもあれって……」

 

「……それしかなさそうだな」

 

「なるほど、行方不明になってた飛行艇はこの仕掛けだったわけか」

 

 

 

 

 イクス達B班への依頼で訪れることになったヘイムダル空港。そこで彼らは情報局のレクター大尉から輸送中の飛行艇2隻が積荷だけを残して消えたという事件を聞いていた。

 

 

 その手口は不明だが、おそらくあの飛行艇がその行方不明になったものであり、積荷だけを残して消えたのは大量の人形兵器とテロリストを乗せるためだったに違いない。いや、もしかすればレクター大尉を遠ざけるための作戦も兼ねていたのかもしれなかった。

 

 

 

 これにはⅦ組だけでなく、動こうとしていたトワ達も驚いていた。

 

 

 

 クレア大尉が事前に立てた作戦はテロリストが狙うであろう三ヶ所に警備を展開するというもの。鉄道憲兵隊だけでなく帝都憲兵隊や正規軍の一部も連携しての警備、加えてサラ教官や遊撃士などの実力者もいる。

 

 だがここに来て敵はバルフレイム宮に戦力を展開してきた。相手の策はクレア大尉の読みを更に読んでいた。この状況で考えられる最悪の状況は味方戦力が集中する三ヶ所が本命ではなく、戦力が薄くなっているバルフレイム宮の方が敵の本命であるという状況であった。

 

 

 

 

(……待ってくれ……そうだとしたら今あそこには……!)

 

 

 

 

 

 嫌な予感がイクスに走る。

 

 

 

 確かに敵の狙いがバルフレイム宮の可能性は高いがそうではないこともありえる。それにまだ城には精鋭揃いである衛士兵や皇族の護衛に残るマテウス・ヴァンダールなどの実力者もいるはずだ。

 

 しかし、視認した限りでも敵の数はかなり多かった。いくら精鋭揃いでもあの数を捌けるのか。

 

 

 

 

 

 一体どうすれば良い。どの行動が正解なのか。

 

 

 

 

 

 泥沼に陥る寸前になっていたイクスの思考を目覚めさせたのはリィンの声だった。

 

 

 

 

 

「―――行こう、みんな。バルフレイム宮へ」

 

 

 

 

 

 

 その言葉には一切の迷いは感じられなかった。そして彼の瞳にも迷いは無い。

 

 

 

「けどリィン、他の場所はどうするんだよ。もしかしたら戦力が足りてない場所もあるかもしれないし、それにマーテル公園の方にはお前の妹も――」

 

 

 

 リィンの声を聞いたイクスはすぐにその意見に反対する。リィンの妹であるエリゼはアルフィン皇女とともにマーテル公園にいるはずであり、そこがピンチになっている場合もある。

 

 

 だが、そのイクスの意見にリィンはノータイムで言葉を返した。

 

 

 

「イクスも分かってるんだろう、この状況で最も最悪なのがバルフレイム宮の方が奴らの本命だってこと」

 

「っ!、それは……」

 

「それにあっちにはサラ教官やクレア大尉もいる。正直俺もエリゼのことが心配だけど、あの二人がいるなら大丈夫なはずだ」

 

 

 

 リィンの意見にイクスは何も言えなかった。

 

 

 

 リィンの言っていることは尤もなこと。そしてそれは彼も理解している。この状況で自分達が取るべき選択はどれかということも。

 

 

 

 何も言い返せないイクスをリィンは真っ直ぐ見据える。迷いのないリィンの目からイクスも視線を反らせなかった。

 

 

 

 

 

「だから、イクスも俺たちのことを頼ってくれ。今度は俺がお前の力になる番だ」

 

「リィン………」

 

 

 

 

 

 

 知らずのうちにイクスは遠慮してしまっていた。今すぐあそこに行きたいという自分の気持ちを抑えていた。仲間の力を頼るのをどこか恐れていた。

 

 

 

 気がつけばリィンだけでなくイクス以外のⅦ組全員がイクスを見ていた。何も言わずとも彼らの目がリィンと同じことを語っている。

 

 

 

 

 

(……全く、他人には信じろって言っといて自分は仲間のことを信頼してなかったなんて、俺もバカだよな)

 

 

 

 

 

 イクスは改めて自分の未熟さを思い知る。心の中で一つ自分を笑ってから彼は答えを出した。

 

 

 

 

 

「―――頼む。俺はマシロを助けに行きたい。だから、みんなの力を貸してくれ!」

 

「了解!」

 

「フフ、言わずもがなだ」

 

「それに、奴らの本命がバルフレイム宮であるのは間違いなさそうだからな」

 

「ええ、行きましょう!」

 

 

 

 

 

 イクスの頼みを断る者など誰一人としていない。Ⅶ組の心は真の意味で一つになっていた。

 

 

 

 

「トワ会長、俺たちはバルフレイム宮へ向かいます!」

 

「わかったよ!けど一つだけ約束、絶対みんな無事に戻ってくること!」

 

「了解です!」

 

 

 

 最小限の会話をしてからⅦ組は全員走り出す。

 

 

 

 

 

 向かうは眼前の緋き城。戦いはすでに始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ……!」

 

「結構、距離があるな……!」

 

 

 

 バルフレイム宮を目指して走るⅦ組。後ろは気にせずひたすらに前へと進む。遠目には城の入り口付近で早速戦闘が開始されているようだ。

 

 

 バルフレイム宮とドライケルス広場を繋いでいるのは一本の道。両脇が水に挟まれるその道を彼らはひたすらに走っていた。

 

 

 ようやく道の半分辺りに到達し、彼らはペースを落とすどころか更にスピードを上げようとする。その時、先頭を走るリィンとイクスは走りながら己の武器を抜いた。

 

 

 

「はあっ!」

 

「フッ――!」

 

 

 

 突然前の二人が武器を抜いたと思った途端、二人は攻撃を弾き返していた。

 

 

 

 それぞれに投げつけられたのはナイフ。するとⅦ組の目の前に高らかな笑い声とともに一人の男が現れた。

 

 

 

 

「ハーハッハッハ!ご機嫌よう、士官学院Ⅶ組の諸君」

 

「お前は……!」

 

「《怪盗B》――!」

 

 

 

 

 派手な白い衣装を身に纏い、顔には特徴的な仮面。

 

 笑い声とともに登場したのはリィン達A班が昨日遭遇した《怪盗B》であった。

 

 

 

 

「なぜお前がここに……!そこを退け!」

 

「悪いがこっちは急いでるんでね、アンタと遊んでる暇は無いんだよ……!」

 

「ハハハ、まあそう焦らないでくれたまえ。こちらの自己紹介も済ませて無いのだから」

 

「……お生憎様、聞くつもりはない」

 

「またあのふざけた遊びをするのなら、日を改めてもらおうか」

 

「フフ、それは私が“ただの怪盗”でなくともかな?」

 

「何……?」

 

「どういうことですか……?」

 

 

 

 

 道を急ごうとするⅦ組に意味深なセリフを言う怪盗B。彼は世間を騒がせる大怪盗として有名だが、彼にはもう一つの名前があった。

 

 

 

 

 

「それでは改めて名乗っておこう。――結社《身喰らう蛇》の執行者No.X、《怪盗紳士》ブルブラン。それが私の本来の姿だ」

 

 

 

「なっ……!?」

 

「執行者、だと……!?」

 

 

 

 

 

 執行者。

 

 

 

 秘密結社《身喰らう蛇》に所属するエージェント。彼らにはそれぞれ主かNo.が与えられ、その実力はタイプは違うものの一人一人が凄まじい使い手だと言う。

 

 

 

 

 

 ――《執行者》とは出来るだけ戦っちゃダメよ。もし戦うとしても“勝とう”とはしないこと。凌ぐことだけ考えなさい――

 

 

 

 

 

 イクスの脳裏にナオミの言葉がよぎる。

 

 

 

 先ほどの攻撃も自分とリィンが直前まで気づけなかった。そこから考えても、目の前の男が危険な存在であることは十分わかる。だが―――

 

 

「いいから退けよ。退かないって言うんなら、力づくでもここを通させてもらうぞ!」

 

 

 

 今のイクスに立ち止まっている時間などなかった。例え目の前に立っている者が執行者だとしても自分はあそこに行かなければならない。そのためであれば戦うことにも躊躇は無い。

 

 

 

 低く威圧するイクスの声にブルブランは臆すどころか再び愉快に笑い始めた。

 

 

 

 

「ハハハハハ、素晴らしい闘志だ。そう来なくてはな、イクス・ライガスト」

 

「えっ……!?」

 

「何で俺の名前を……!」

 

「フッ、君が思う以上に君という存在に興味を示している者は多いということさ。無論、私も含めてね」

 

「興味……?」

 

 

 

 

 もちろんながらイクスはブルブランに名乗ったことなど一度も無い。だが、彼はイクスのことを知っている。

 

 

 イクスがブルブランの言葉に気を取られようとする前にリィンが話を遮った。

 

 

 

 

「問答はここまでだ。悪いがここは通させてもらう」

 

「フフ、いいだろう!青き果実をここで摘み取るのも一興、存分に味あわせてもらおうか!」

 

 

 

 

 リィンの言葉を合図に両者が武器を構える。せめて何人かでも先へ進ませる、Ⅶ組全員が作戦を無言で決めた時だった。

 

 

 

 

「行くぞ!Ⅶ組総員戦闘準備―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――その必要はありませんわ」

 

 

 

「へ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 どこかで聞いたようなたおやかな女性の声。それとともにⅦ組の後ろから無数の糸がブルブランに向けて放たれる。

 

 その糸はただの糸ではなく《鋼糸》。ブルブランもそれを躱したかと思った瞬間、続けざまに凶刃が振るわれる。

 

 

 

 

 

 

 ブルブランの衣服を掠めた凶刃の持ち主はⅦ組も良く知る、そして誰よりもアリサの良く知る人物だった。

 

 

 

 

 

「――シャ、シャシャシャシャ、シャロン!?」

 

 

 

 

「はい。お待たせ致しました、お嬢様、そして皆さま。ここは、私シャロンにお任せくださいませ」

 

 

 

 

 

 

 





テロ勃発ということで4章もとうとう大詰めになりました。

原作と違い、Ⅶ組が向かうのはバルフレイム宮。おそらくそこでこの章のボス戦になるはずです。

また、サラ教官など他の人達が警備をしている場所でも陽動のために敵が動いているので、そちらの方も軽く描写すると思います。



それではみなさん良いお年を!
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