英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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お久しぶりです、お待たせしました!

それと、遅ればせながらあけましておめでとうございます。

一年の始めからいきなり日を空けての投稿というよろしくないスタートを切ってしまいましたが、今年もどうぞよろしくお願いします。





第57話 戦士万紅② 〜緋き城へ〜

 

 

 

 

 

 帝都東、マーテル公園―――

 

 

 

 

「――分かったわ、アンタたちはそのまま避難誘導を続けて。こちらも制圧次第バルフレイム宮に向かうから」

 

 

 

 出来るだけ必要最小限に抑えた通信。聞きたいことや言いたいことは山ほどあるが、サラはそれを無理矢理押し込んでARCUSの通信を切った。

 

 

「状況は」

 

「考える限り最悪ね。バルフレイム宮の方に行方不明になっていた飛行艇を使っての侵入作戦。トワからの通信だとあの子たちもバルフレイム宮の方に向かったらしいわ」

 

「……やられましたね」

 

 

 駆け寄ってきたクレアにサラは極めて冷静に情報を伝達する。しかしながら会話をする二人の手は一瞬も止まってはいない。駆け寄ってきたクレアもARCUSでの通信を終わらせたサラの両者とも展開している人形兵器や魔獣を次々と片付けながら会話していた。

 

 

 ここはすでに戦場。相手がたとえ人間でなくともやるべきことは変わらない。

 

 皇族であるアルフィンとその親友のエリゼ、そして園遊会に出席していたレーグニッツ帝都知事たちはテロが開始されてすぐにサラとクレアの指示でひとまず安全な場所に避難させている。そこも絶対安全という保証はないが、たまたま居合わせた士官学院生のパトリックにも警護を任せているのである程度は安全なはずである。

 

 離れた場所からも今なお戦闘の音が飛び交っている。サラたちと共にここの警備に当たっていた鉄道憲兵隊と帝都憲兵隊も戦闘をしている真っ最中であった。

 

 

「ったく、数が無駄に多いの、よ!」

 

「サラさん、右です!」

 

「分かってるっつーの!」

 

 

 悪態を吐きながらも着実に敵を屠るサラとそれを後方から支援するクレア。

 

 

 色々な因縁の所為で普段からあまり仲が良いとは言えない二人ではあるが、そこはやはり元A級遊撃士と片や現役の鉄道憲兵隊将校。協力する以上、そういった私情は戦場には持ち込んでいなかった。

 

 

 その勢いのまま、あっという間に二人を囲んでいた敵は倒されていく。周辺の敵を排除したサラとクレアは未だ魔獣たちとの戦闘が続いている場所へ向かおうとする。その時、彼女たちの後方から何かが飛来してきた。

 

 

 

「っ!何!?」

 

「待ってください!サラさん!」

 

 

 

 背後に何かの気配を感じ取ったサラはすぐさま振り返って改造した導力銃をそれに向けたが、同じく振り返ったクレアが急いでサラを止めて飛んできたそれに駆け寄る。

 

 

 ドサッという音を立てて二人のすぐ近くに飛んできたのは敵の攻撃ではなく、帝都憲兵隊に所属する一人の兵士のようだった。兵士に駆け寄ったクレアはすぐに脈があるかを確認する。幸い、命に別状は無く気を失っているだけだった。

 

 

 だが、ホッとしたのも束の間。新たに近づいてきた気配に、サラとクレアの警戒心は一気にトップレベルまで引き上げられる。

 

 

 

 

 

「おいおい、そんな怖い顔で睨むなよ。せっかくの美人さんが台無しだぜ、お嬢さん方」

 

 

 

 

 

 そこにいたのは一人の男。警戒心を露わにするサラ達に、男は煙草をふかしながら飄々と口説き文句を言う。

 

 

 その男は帝都地下道にてイクス達B班が遭遇していた“掃除屋”を名乗る男だった。

 

 

 

「B班のレポートを見てまさかとは思ったけど、本当にアンタが来ていたとはね」

 

「いやー、オジサンこれでも仕事には真面目だからねぇ。それに今回は《炎撃》の相手をしなくて済むし、キレイなおねーちゃん達が相手なら多少なりともやる気は出るさ」

 

「その口ぶりからすると、他の場所にも何人かの刺客がいるようですね」

 

「ま、概ねその通りだな。けど、ウチはあくまで《深淵》さんの指示で協力してるだけ。ウチ以外にもチラホラ別の協力者もいるが、そいつらも大体同じだ」

 

「……なるほど」

 

 

 

 サラとクレアがその男と直接対面するのは実際にはこれが初めて。だが、二人はそれぞれ以前からその男の情報は耳に入っていた。サラは自分の師の一人でもあるナオミの口から、クレアは情報局のデータベースから。

 

 

 

 軽く会話を済ませた男は少し名残惜しそうに咥えていた煙草を捨てる。半分近く残っていた煙草が地面に落ちた瞬間、男の尋常ではない闘気がその場の空気を震わせた。

 

 

 

 

 男が取り出したのは自身の身の丈以上に巨大な武装―――《大剣槍》という名のその武器は、その名の通り剣の柄の部分が槍のように長い。そしてそれこそが腕利きの遊撃士などにも名前が知られている男の象徴とも言える武器だった。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、一応軽く自己紹介はしようか。オジサンは執行者No.Ⅶ、《燼滅槍》なんて呼ばれてる―――それじゃあオジサンと少し遊ぼうか、可愛いお嬢さん方」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都西、ヘイムダル大聖堂前―――

 

 

 

 

 いつもは静かなサンクト地区には銃火器や剣戟の音、そして悲鳴や怒号などの声が響いていた。ここにも数十分ほど前にテロリストの仕掛けである人形兵器や魔獣が放たれ、今もなお警備に当たっていた兵士達がそれの制圧を行なっている。

 

 その中にはオリヴァルト皇子の守護役を任されているミュラー・ヴァンダールの姿もあり、その周りには彼の所属する第七機甲師団の兵士達の姿も見える。

 

 

 

 それらの者たちが戦う中、戦場と化したサンクト地区に周りの者たちと比べると明らかに異質な存在があった。

 

 

 

「いっけー!ガーちゃん!」

 

「クラウ=ソラス」

 

 

 

 

 そこにいたのは年端もいかない二人の少女。

 

 

 

 一見場違いだと思える二人ではあるが、両者の傍らには白と黒の対照的な傀儡の姿があり、その傀儡たちはそれぞれの小さな主の指示に従って硬い拳をぶつけ合っていた。

 

 

 

「ニシシ、キミもやるねー」

 

「その評価はこちらも同意見です。私の方がスペックが上のはずですが、どうやらそちらのデータを上方修正する必要がありますね」

 

「えへへ、ありがとー」

 

「なぜそこで感謝するのですか。理解不能です」

 

 

 

 

 白い傀儡を従えるのは無邪気な笑顔を見せる水色の髪の少女。一方、黒の傀儡を従えているのは無表情で淡々と戦闘を行う白銀の髪の少女。

 

 

 

 前者の方の少女はミリアム・オライオン。

 

 情報局に所属する《鉄血の子供》の一人であり、今は同じ《鉄血の子供》であるクレアの指示でここサンクト地区の警備に当たっていた。テロを止めるために動いているⅦ組とは味方同士の関係にある。

 

 

 

 現在は結社の人形兵器達と共に強襲してきた相手の少女と戦闘をしている最中。己の武装であり相棒の白い傀儡《アガートラム》を従えるミリアムは相手の少女とは対照的に容姿相応の元気な笑顔で尋ねた。

 

 

 

「ねーねー、そういえばさ、キミの名前ってなんて言うの?もしかしてボクの“妹”だったりする?」

 

「……………」

 

 

 

 およそ戦闘中とは思えないような軽い雰囲気で相手に尋ねるミリアムには、ここまでの戦闘で目の前の少女が“自分と同じ”ではないかという確信を持っていた。他人から見れば容姿などがあまり姉妹とは思えないだろうが、二人の操っている傀儡はとても偶然とは思えないほど酷似している。

 ミリアムに尋ねられた少女は少しの間沈黙していたが、やがて口を開いた。

 

 

 

 

「私の名前はアルティナ・オライオン、コードネームは《黒兎》です。この子は《クラウ=ソラス》。それと、二つ目の問いに関しては“ある意味で”その通りかと」

 

「ふーん……なるほどねー……」

 

 

 

 

 《白兎》というコードネームと対照的な《黒兎》のコードネームを持つばかりか自分と同じ『オライオン』の姓を持つアルティナ。彼女の意味深な答えを聞いたミリアムは一人何か納得したような表情を見せる。

 

 

 だがミリアムが思案したのも束の間、彼女は「まあいっか」と頷きその話を保留にした。アルティナが自分と同じかもしれないという事は今の状況ではそれほど重要なことではなかったからだ。

 

 

 

「よーし、それじゃあやろっか!行くよ、アーちゃん、クーちゃんも!」

 

「#€%$?」

 

「変な呼び方でクラウ=ソラスを混乱させないで下さい。それと私のその呼び方もやめて下さい」

 

 

 

 

 突然付けられたあだ名にアルティナが抗議しつつ、再び兎達の戦闘が開始される。

 

 

 

 一瞬周囲の戦況を確認したアルティナはここにいるはずの協力者数名の姿が見えないことに気づく。

 

 

 だが、強引過ぎるミリアムとアガートラムの戦法に、アルティナもクラウ=ソラスで対抗しようとしたためその気づきはすぐに頭から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都西、帝都競馬場―――

 

 

 

 

 各所で戦闘が開始される中、当然ながらこの帝都競馬場でもテロリスト達の用意していた魔獣達が動いていた。ただ、他の場所に比べて通路などが制限されていることもあり、この場所が一番混乱が激しかった。

 

 

 突然の事態に客席の者たちがバラバラに逃げ惑ってしまい、展開されていた戦力もその避難誘導に何割かが割かれている状況。今は残った戦力でなんとか人形兵器たちを殲滅している真っ最中である。

 

 

 

「どっりゃああああ!」

 

「くっ、危ねえ!」

 

「退きなさい!」

 

「……っ!」

 

 

 

 そして最も戦闘が激しいレース場には周りよりも更なる激闘を繰り広げる猛者たちがいた。

 

 

 通常ではあり得ない速度での駆動を行うアーツ使いと豪炎を纏う拳を振るうオレンジのアフロ頭。その二人と向かい合っているのは、身の丈ほどはあろうかという大剣を持つ少女と同じくその身を隠すほど大きな盾を持つ少女。

 

 

 遊撃士でも屈指の実力を持つナオミとトヴァルの二人は突如自分たちに襲いかかってきた甲冑姿の少女二人を相手していた。

 

 

 

「だあーっ、もう!さっきからチマチマウザいのよ、そこのアーツ使い!男なら正々堂々その身で戦いなさいよ!」

 

「無茶言うな!そっちこそさっきから剣をブンブン振り回しやがって、駆動に集中できないだろうが!」

 

「……すみません、姉さんは脳筋なので」

 

「ってコラ、リヴ!誰が脳筋よ、誰が!」

 

 

 

 ナオミとトヴァルの相手をしている少女二人は容姿こそ似通っているものの、その性格はまるで正反対だった。大剣を携える活発そうな少女はどうやら姉らしく、もう一方の大盾を構える大人しそうな少女が妹らしい。

 

 

 

 

(……これが噂の《鉄機隊》ね。確かにこれは少し骨が折れそうな相手だわ)

 

 

 

 

 ベテランの遊撃士であるナオミも結社のエージェントについてはごく一部しか知らない。しかし、その中で《鉄機隊》という一つの部隊があることは知っていた。結社でも最強と言われる使徒第七柱《鋼》―――その直属の部隊であり結社最強の戦闘部隊が《鉄機隊》だと。

 

 

 

 ナオミの予想通り彼女たち姉妹も鉄機隊の隊士。隊士の中でも最年少の双子の姉妹であるリコとリヴ。ナオミとトヴァルが苦戦しているのも双子ならではの絶妙なコンビネーションが原因だった。

 

 

 大剣を持つ姉のリコが豪快な攻撃を繰り出し、相手からの攻撃を妹のリヴがその大盾で完璧にガードする。洗練されたそのコンビネーションにトヴァルの高速アーツもナオミの剛拳も完全に封じられていた。

 

 

 ナオミは一度周りの戦況を確認する。

 どうやら周囲の兵士達も展開された人形兵器や魔獣に手一杯になっているらしく増援は期待できない。それを確認してから、改めて姉妹達に向き直った

 

 

 

「一応聞くけど、あなた達も引く気は無いのよね?」

 

「ええ、無いですよ。不本意とはいえこれも任務だから、私たちも《鉄機隊》の名に懸けて引く気は無いです」

 

「そう、なら無理矢理にでも押し通らせてもらいましょうか……!」

 

「そうこなくっちゃ……!」

 

 

 

 ナオミ達も遊撃士として民間人の保護をしなければならないためここでいつまでも足止めを食らうわけにはいかない。対してリコとリヴも作戦の内容にはあまり賛同はしていないが、自分達の主のためにも任務を投げ出すわけにはいかない。

 

 互いに譲れないものがあるナオミとリコの二人は闘気をぐんぐん高めていく。

 

 

 

 そんな中、その相方同士は別の意味で意見があっていた。

 

 

 

 

「おいおい、勝手に盛り上がんなよ……」

 

「……同意です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、今のうちだ!」

 

「Ⅶ組総員突入!」

 

 

 

 激しい戦場となっていた城門前をなんとか潜り抜けてⅦ組はようやく城の中へと突入する。最後尾にいたガイウスは全員が中に入ったのを確認すると、城内に余計な敵を侵入させないために素早く門を閉じた。

 

 

 既にⅦ組メンバーは全員それぞれの武器を構えていたが、城の入り口付近にあったのは破壊された人形兵器の残骸のみで同じく侵入したはずのテロリストの姿も衛士隊の姿も無い。奥の方から戦闘音が聞こえてくることから考えて、城内で戦闘が行われているのはこの先なのだろう。

 

 ここまでドライケルス広場から一気に走り抜けてきたⅦ組は状況を整理するためその場で一度息を整える。最初は荒かった10人分の息が段々と落ち着き始めようとした時、先に息が整ったリィンは隣にいた者へ心配そうに声をかけた。

 

 

 

「アリサ、大丈夫か?」

 

「……うん、大丈夫」

 

 

 

 リィンが声をかけたところで他のメンバーも皆無言でアリサの方に目を向けた。声をかけられたアリサは大丈夫だと答えたものの、その声は心なしかいつもより覇気が無いように感じる。

 

 

 

 それも当然だ。つい先程知った“ある人”の事実はその身内であるアリサには衝撃的な内容であり、アリサだけでなく他のⅦ組メンバーもまた混乱している。

 

 

 数分前に彼らを助けてくれた人物、第三学生寮の管理人であるシャロンのことで。

 

 

 

「まさかシャロンさんが《執行者》だったとはな………」

 

「で、でも本当にそうなのかな。何かの間違いってことも……」

 

「いや、それは無いだろう。一瞬しか見てないけど、あの人の戦闘能力は多分俺たちよりも確実に上。執行者だとしても何ら不思議はないと思う」

 

「そだね。多分、サラとも渡り合えるんじゃないかな」

 

「あれが執行者の実力か………」

 

 

 

 先程、バルフレイム宮に向かうⅦ組の前に立ちはだかった怪盗B。《怪盗紳士》の異名を持つ怪盗B―――ブルブランは結社《身喰らう蛇》の執行者と呼ばれる凄まじい戦闘力を持ったエージェントのNo.Xだった。

 

 

 

 そして、彼との戦闘になろうとしていたところを助けてくれたのがⅦ組もよく知る第三学生寮の管理人を務めるシャロンだった。

 

 

 

 ラインフォルト家のメイドであり今はⅦ組の住む学生寮の管理人を務める彼女がなぜこんな場所にいるのか。

 

 

 そんなⅦ組の疑問に答えたのはシャロンではなく、高らかに笑い始めたブルブランだった。愉しそうに笑うブルブランはこう告げた―――そうか、君がいたか!執行者No.Ⅸ《死線》のクルーガー!―――と。

 

 

 

 

 《死線》のクルーガー。

 

 

 

 Ⅶ組の知るシャロンのフルネームは『シャロン・クルーガー』。ブルブランと同じく執行者のNo.Ⅸが誰を指しているのかは明白。アリサも初耳の事実だった。

 

 知られることはある程度予想していたのだろう、その後シャロンは戸惑っていたⅦ組に対してこの場は自分が受け持つと告げた。彼らも衝撃の事実に驚いていたが、今はバルフレイム宮へ向かうのが先決と判断してその場を後にしていたのである。

 

 

 

 

 今頃はブルブランとシャロンが激闘を繰り広げている最中か。そう考えてⅦ組が閉じられた門の方をチラリと確認しようとした時、心配されていたアリサは両頰をパチンと叩いて自らに気合いを入れ直した。

 

 

 

 

「うん、これで本当に大丈夫!」

 

「アリサさん、本当ですか……?」

 

「無理をする必要は無いぞ」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。……まあ正直、心の中にモヤモヤしたのが残ってはいるんだけどね」

 

「だったら……」

 

「ううん、今は立ち止まってる暇はないでしょ?シャロンのことならこの戦いの後できっちりと聞くつもりだから心配ないわ。それよりも今は目の前のことに集中しましょう、みんな」

 

「……わかった、アリサがそう言うならこれ以上俺たちは何も言わないよ」

 

 

 

 

 実際のところ、アリサにはシャロンについて聞きたいことが山ほどあるはずだった。それは第三学生寮に住むリィン達も同じことである。

 

 

 だが今はアリサの言った通り先に進むのが先決。シャロンが自分たちを助けてくれたのもそのためであり、その思いを無駄にするわけにはいかない。今自分たちに出来ることを精一杯やる、それがⅦ組として動くことだった。

 

 

 

 アリサの言葉にリィン達も頷き、頭を切り替える。重心であるリィンは改めて全員の方に向き直った。

 

 

 

「よし、それじゃあ俺たちもすぐに城内の奥に向かおう。まだ戦闘音も聞こえるし、ひょっとしたら人手が足りてない可能性もある」

 

「問題はここから先が右翼と左翼に分かれてることだな。流石にここからじゃどちらに戦力が集中してるかわからないし」

 

「ならばここは我らもそれぞれの班に分かれて行くべきだろう。それならば両翼の援護に回れる」

 

「時間も無いしそれしかないか」

 

 

 

 作戦を手早く決め、今回の実習で行動したA班とB班にそれぞれ分かれる。A班は右翼へ、B班は左翼に行くことになった。

 

 

 

「お互い、女神の加護を」

 

「ああ、必ず全員無事に合流しよう」

 

 

 

 

 それぞれの班のリーダーであるリィンとイクスは拳を軽くぶつけながら互いに激励の言葉を送る。それ以上の言葉は戦いが終わってからで十分だった。

 

 

 

「Ⅶ組A班行くぞ!」

 

「同じくⅦ組B班行くぞ!」

 

 

 

 

 

 二人の声を合図に両班はそれぞれ城の奥へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ――!」

 

「……っ!!」

 

 

 

 

 ガキィンと金属がぶつかり合う音が響く。そして間髪入れずに数発の銃弾が撃ち込まれる音。が、その銃弾は命中しなかったらしく強い音と共に床にいくつかの傷をつけた。

 

 

 そこはバルフレイム宮内にある少し広めの場所。そこにはさらに奥へと続く通路と入り口へと繋がる通路があり、音の響くそこには何体かの人形兵器の残骸と三人の者達がいた。

 

 

 

 

「フフ、随分粘るのね、お嬢さん。正直ここまでやるとは思ってなかったわ」

 

「ハァ……ハァ……それはどうもありがとうございます。これも淑女の嗜みですから」

 

「フン、減らず口を」

 

「あら、いいじゃない。私は好きよ、こういう威勢のいい子」

 

 

 

 

 テロリストと思しき男女二人を相手取っているのはその手に《細剣》を携えたマシロだった。しかし相手が二人ということもあってからなのか、女学院の制服はところどころがボロボロになっており美しい顔などにも傷がある。テロリスト二人に余裕のある笑顔を見せてはいるが、その笑顔も幾分苦しそうに見える。

 

 

 

 皇族の方々との対談の場を控えていたマシロはテロが始まる前からバルフレイム宮にいた。各地でのイベントも終わって対談もすぐだった矢先にテロが始まり、バルフレイム宮へテロリスト達が侵入するのをいち早く気づいた彼女は急いで城にいた皇帝・皇后両陛下と政府関係者達を奥に避難させていた。

 

 しかし、城に残っていた衛士隊の数が少なかったこともあって組織の幹部達は警備を抜けてそのまま城の奥へと侵入してきたため、彼女は同行していた副会長のレイカを警備に残して単身テロリストの足止めを行なっていた。

 

 

 

 彼女が今相対しているのは、《法剣》という特殊な武器を操る《S》と名乗る女のテロリストと《G》と名乗る導力銃を持ったメガネの男の二人。

 

 

 ここまでその二人の足止めになんとか成功しているマシロだったが、気丈な態度とは裏腹に内心はかなり焦っていた。

 

 

 

(……どうしよう、このままだと……)

 

 

 

 実はマシロはこの二人と戦う前にも数体の人形兵器とも戦闘をしている。その種類は大型のものではなく機動力に長けた小型のものだけだったが、それでも体力はいくらか消耗していた。

 

 相手の方はまだ自分のようなハッタリではなく本当に余力があるはず。相手がまだ本気を出していないことくらいはマシロにも分かっている。このまま戦えばどちらが先に倒れるのかなど明らかだった。

 

 

 確かに彼女は剣術においても類稀な才能を持ってはいるが、彼女はイクス達のような士官学校に通っているわけではない。もちろん女学院で武術の訓練を日頃からするわけもなく、彼女の実力は日頃空いた時間で補っているもの。男性に比べれば体力的にも劣るはずの彼女がここまで善戦しているのも本来であれば有り得ないレベルである。

 

 

 実際、身体の方はすでに限界は来ていた。息はずっと荒く、足腰もフラつき始めている。そして実践経験の少ないことによる緊張からもかなりのスピードで体力は消耗していた。

 

 

 

 

(……けど、絶対に負けるわけにいかない)

 

 

 

 

 満身創痍のマシロを戦わせているのはもはや精神力のみ。

 

 彼女はここで負けるわけにはいかないのだ。相手ではなく自分自身に。

 その固い意志はいつも自分を守ってくれる大切な人の背中を少しでも支えられるようになりたいという恋する乙女の意地だった。

 

 

 

「さて、Gもそろそろ飽きてきたみたいだし、お遊びはこの辺にしましょうか」

 

「最初からそうしてもらいたいものだがな」

 

 

 

 

 ―――来る

 

 

 

 残っている力を振り絞ってマシロも細剣を構える。彼女が剣を構えると同時に先ほどよりも鋭くSがその法剣を振るった。

 

 

 

 いくつかの刃が連なる剣である法剣はムチのようにしなり剣としてはあり得ないほどのリーチでマシロに迫る。まともに受ければ次の刃がムチの要領で襲いかかってくるため、マシロは紙一重でそれを受け流す。

 

 だが相手は二人。ここまで導力銃とアーツでSの援護をしていたGからの攻撃を警戒し、マシロはGの方へと視線を向ける。銃であればもう一度後ろへステップを―――そうやって次の動作への対応を瞬時に判断しようとしたが、相手の攻撃はマシロの予想外の攻撃であった。

 

 

 

(手榴、弾―――!?)

 

 

 

 Gが投げていたのはピンの抜かれた手榴弾。自分のもとに近づいてくるそれを認識したマシロは咄嗟に後ろへ全力で跳んだ。

 

 

 数秒遅れて爆発。素早く反応したマシロは直撃こそしなかったがその爆風によってさらに吹き飛ばされ自らの武器も離してしまった。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 

 背中から着地したマシロは苦しそうな声を漏らす。さらに彼女の数アージュ後ろで彼女の手から離れた細剣が床に落ちる音が聞こえた。

 

 

 

 

「ごめんなさいね、恨むなら女神のもとで好きなだけ恨んでちょうだい」

 

 

 

 Sはせめてもの慈悲の言葉をマシロに投げかける。その声をかけられたマシロは全く身体が動かない。身体が限界になったマシロに法剣が振り下ろされた時だった。

 

 

 

 

 ―――キィン

 

 

 

 

 マシロに迫っていた法剣に横から一つの影が割り込み、その刃を弾いた。すると続けざまにアーツや銃弾などがSとGに打ち込まれていき、テロリスト二人は一旦その場から距離を取る。

 

 

 

 そして刃からマシロを守った影は彼女の方へと振り返った。

 

 

 

 

「―――ごめん、待たせた」

 

「イクス……」

 

 

 

 

 優しく笑いかけてきたイクスを見てマシロは安堵の表情を浮かべる。そして良く見れば自分の周りにはイクスと同じⅦ組B班のメンバーもいた。

 

 

 

「貴様らはノルドで邪魔をしてきた……!」

 

「確か、トールズのⅦ組だったかしら」

 

「やはりお前たちの仕業だったか」

 

「俺の故郷に続いて帝都でも……」

 

「見逃すわけにはいかないね」

 

 

 

 互いに武器を構えて牽制し合うテロリストとユーシス、ガイウス、フィーの三人。マシロからは三人の後ろ姿しか見えないが、年下であるフィーでさえも背中が逞しく見えた。

 

 

 三人が威嚇している間にイクスはマシロを戦闘に巻き込まれない所まで運んでいく。イクスはお姫様抱っこの形でマシロを抱えていた。

 

 

 

 

「ここから先は俺たちに任せてマシロはゆっくり休んでてくれ。頑張ってくれたマシロの分も含めてあいつらに一発ブチかましてきてやるからさ」

 

「……もう、いっつもそうやって格好つけるんだから」

 

「ま、性分だからな」

 

「うん、知ってる………ありがとう、頑張って……ね……」

 

 

 

 

 自分を抱き抱えてくれるイクスの顔を見て安心したのか、マシロはそのまま意識を失った。イクスは彼女の安心しきった寝顔を見てから離れたところに寝かせて横にいたエマに話しかける。

 

 

 

 

「悪い、エマ。マシロを頼む」

 

「はい、任せてください」

 

 

 

 エマの返事を聞き、イクスはすぐに前へ振り返った。再び双剣を抜いた彼はそのままテロリスト達と睨み合うユーシス達の方へ向かい、後ろではエマが横たわるマシロの傷の回復を始めている。イクスの眼光は先ほどまでマシロに向けていた暖かなものから相手への怒りをはらんだ鋭いものに変わっていた。

 

 

 

「あら、あなた達だけで私達の相手をするつもり?」

 

「ああ、今アンタたちをここで倒すのが一番手っ取り早い」

 

「4対2。数ではこちらに分がある」

 

「それにテロの主犯格をみすみす逃すわけにはいかんからな」

 

「覚悟してもらおう」

 

「調子に乗るなよ、ガキども……!」

 

 

 

 

 この城に入った時からイクス達の意志は決まっていた。さらにこの場所に来るまでに城で戦っていた衛士隊に奥へ進んでいたテロリスト達を足止めするように頼まれて来ている。ここでイクス達が引くわけにはいかなかった。

 

 

 

(相手の実力は不明。けど、せめて増援が到着するまでの時間稼ぎくらいなら―――)

 

 

 

 武器を構えたイクス達は無言で戦術リンクを繋いだ。そしてスピードに自信のあるフィーが先制攻撃を仕掛けようとステップを踏もうとした時、不意にどこからか青い蝶が何匹かその場に現れた。

 

 

 

 

「っ……!この蝶は……!」

 

 

 

 

「―――ふふ、お邪魔させてもらうで」

 

 

 

 

 ひらひらと舞っていた何匹かの蝶達が一箇所に集まる。すると次の瞬間、蝶達が舞っていた場所から青い光が溢れ、そこから二人の者たちが姿を現わす。

 

 

 

 一人は蝶と同じ青い着物姿の女性、そしてもう一人は血のような赤い髪を持った男。さらに男の方の額には眼帯をつけた狼のエンブレム。突如現れた二人はただ愉しそうに笑いながらイクス達に話しかける、

 

 

 

 

 

「アハハ、どうもみなさん初めまして〜」

 

「久しぶりやなぁ、双剣の小僧に西風の妖精?」

 

 

 

 

 その二人はイクスが以前の実習で遭遇していた二人。しかしながら、そのどちらも初対面で彼はその正体に気づけなかった。

 

 

 

 

 

「《隻眼の狼》………!!」

 

 

 

 

 

 眼帯をつけた狼のエンブレムは8年前のあの日からイクスは忘れたことはない。そしてあの日の光景とマシロと交わした約束も忘れたことはない。

 

 

 

 

 フィーから教えてもらったその猟兵団の名前は《隻眼の狼》。それはイクスにとって因縁の相手に他ならなかった。

 

 

 

 

 

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