どうもお久しぶりです。
3ヶ月以上更新が止まってしまって申し訳ありません。理由は色々とあったんですが、一番は引っ越しして、新しい環境に慣れたりするのに時間がかかったりしたことですかね。
それに加えてどうしても自分の中でのモチベーションが上がらなかったりもしていたので、結構長い間休んじゃいました。
ですが、もう大丈夫!また連載を再開しようと思います。正直なところ、自分でも書き方を忘れているのでリハビリしながらにはなりますが、なんとか面白い作品を書けるように頑張ります!
7月30日。
帝都中が一時混乱に陥った夏至祭初日のテロから4日、そして重傷を負ったイクスが目覚めてから1日が経過した今日、バルフレイム宮の広間にはトリスタへと戻る予定のⅦ組の姿があった。
「本当に今回はお疲れ様だったね、諸君。君達の処遇についてはまたこれからになると思うが、ひとまず全員無事でなによりだ。改めて僕からも礼を言わせてもらうよ」
「……恐縮です」
「サラ君も、ここにいない遊撃士の代わりに礼を言わせてくれ。今回の事件、一人でも多くの協力者がいたからこそ最小限の被害にとどめることができた」
「いえ、民間人の保護が遊撃士の最優先事項ですから」
予定よりも一日遅れで帰還することとなったⅦ組を見送るのは、皇族であり《Ⅶ組》というクラスの立案者であるオリヴァルト皇子。そして同じく皇族のアルフィンと、Ⅶ組に身内がいるマシロ、エリゼも彼らの見送りに来ていた。
マキアスの父であるカール帝都知事は夏至祭でのテロによる被害への対応に連日追われているため、残念ながら息子達の見送りには来ることが出来なかった。それを聞いたマキアスは少しだけ残念そうな表情を見せたものの、彼も父の事情は十分理解しているためそれほど気にする様子は見せなかった。
「……それにしても、《帝国解放戦線》ですか」
「ああ。ノルドの一件に続いて夏至祭でのテロ行為、それ以前にも活動していたような形跡はあったが、今回は遂に組織の名前を明らかにしてきた」
一通りの挨拶を終えてから、いつもよりも真剣な口調でサラが話し始めた。彼女が発した単語を聞いたⅦ組一同も先程よりも声に緊張が混じる。
「確か、リィン達が戦った奴らだったな」
「ええ。リーダーと直接戦闘したのはリィンとラウラね」
「正直言って、二人がかりでも全く歯が立たなかった」
「…………リィンとラウラの二人でも、か」
《帝国解放戦線》——バルフレイム宮でリィン達A班が遭遇した今回の事件の首謀者とみられる組織。そのリーダーである《Ⅽ》は《双刃剣》を巧みに操り、Ⅶ組でも武闘派のリィンとラウラの二人を圧倒していた。
その時の記憶を思い返していたリィンは、人知れず拳を握りしめた後で静かに言葉を続ける。
「……『静かなる怒りの焔を称え、度し難き独裁者に鉄槌を下す』———《Ⅽ》という男が最後に残していった言葉です」
「フン……『静かなる怒りの焔』に、『度し難き独裁者』か」
「“誰”を指しているのかは明白ですね……」
《Ⅽ》が語った言葉から一同が思い起こすのは、とある人物。おそらく帝国では、皇族と同じくらいの知名度を持つであろう有名人だ。そして、『静かなる怒りの焔』がその人物へのものだというのにもある程度の納得ができた。
と、ここでオリヴァルト皇子は、少し重くなってしまった空気を変えるため、思い出したようにイクスの方へと目を向けた。
「そうそうイクス君、本当に大丈夫なのかい? 君だけでも帝都に何日か残っても問題は無いが……」
「大丈夫です、殿下。流石にまだ傷は治っていませんが、エマの治療のお陰で何とか動けるようにはなりましたし、運動はできなくても座学の授業は出られますから」
「そうか……君がそう言うのなら僕からこれ以上言う必要はないかな。———それに、僕が言わずとも“彼女”の方から色々と説教を受けたようだしね♪」
「はは…………」
面白そうに笑うオリヴァルトとは対照的に乾いた笑いを浮かべるイクス。
彼ら二人と、苦笑いを浮かべたⅦ組メンバーの視線の先には、いつもよりもやや不機嫌に見えるマシロがいた。
「ええ、まあ、イクスが人を心配させるのが得意なのは今に始まったことでもありませんし、私も慣れていますよ? ただ、今回は少し長めにお説教をする必要があるかと思っただけです」
「…………すいません、反省してます」
マシロが不機嫌になるのも当然、今回の事件の際に《隻眼の狼》と交戦したイクスは、幼馴染であるマシロの目の前で瀕死の重傷を負っている。
イクスが目覚めてⅦ組メンバーと情報を整理した後、彼は約一時間に及ぶ説教をマシロから食らっていた。
最初は今回の事を含めた彼の無茶しがちな部分に始まり、最終的には学院での成績や生活習慣など本題から離れた部分に関しても説教を受ける羽目になったのである。
「えっと、なんというか…………」
「頭が上がらないとはこの事だな」
「完全に尻に敷かれてるね」
「ふふっ、話には聞いていましたけれど、会長とイクスさんは本当に仲がよろしいのですね。エリゼも参考にしてみたらどうかしら?」
「ひ、姫様……!」
実際には、マシロの場合もイクス達が助けに来るまでテロリストと一人で交戦するという彼を十分に心配させるような事をしていたわけなのだが、学院に入ってから彼女を心配させていた事など反省すべき点が自身に多くあったため、イクスは素直に説教を受けざるを得なかった。
そんな二人のやり取りを微笑ましく見守る一同。ここにいる全員がイクスとマシロの関係について把握しているため、このやり取りも二人の信頼関係から成り立っているものだと分かっている。
Ⅶ組メンバーはイクスに声をかけ、兄に似たのか、色恋沙汰には少々敏感なアルフィン皇女はエリゼをからかったりする。ようやく和やかな空気になったと思われたが、ここである人物が不用意な一言を言ってしまった。
「はは、確かにイクスって色々と危なっかしいって思う時が多いよな」
ピシリ、という音がその場で聞こえた気がした。
それまでイクスとマシロの方に集まっていた視線は一斉に先の発言をしたリィンの元に集まる。
イクスを含むⅦ組メンバーからは呆れるような視線が、オリヴァルト皇子達も若干の苦笑いを浮かべてリィンを見る。その中でもアリサとエリゼからは突き刺さるような鋭い視線が注がれ、ただ一人リィンだけが状況が理解出来ずに困惑していた。
「え、えっと、何か変なこと言ったか?」
「さぁ? 自分の胸に手を当てて考えてみたら?」
「そうですね、兄さまも少しは日頃の行いを振り返った方がよろしいかと」
「ええ?!」
思わぬところでアリサとエリゼの機嫌を損ねてしまったリィン。
彼自身の自覚症状は薄いものの、イクスと同等かそれ以上にリィンの方が見ていて危ういと思われる場面は多い。幼い頃から彼を見ていたエリゼや、クラスメイトであるⅦ組からしてみれば、先の発言は「お前が言うな」と思わざるを得なかった。
未だ責められている理由をイマイチ理解できないリィンが途方に暮れていると、その場に流れていた微妙な空気を打ち払うように、可愛らしさの残る少年の声がホールに響いた。
「兄上ー、みなさーん!」
「おや、来たようだね」
「え……」
「あの人はまさか……!」
その場に現れたのは、リィン達よりも少し年下のように思われる少年。
一見すると、少女と間違えてしまいそうな中性的な顔立ちと体格。やや頼りなく見えるその容姿からは、とてもではないがリィン達が驚くような人物には思えない。
だが、一際目を惹く真紅の衣装と、オリヴァルト皇子やアルフィン皇女と同じ気品のある金色の髪が、その少年の身分を明らかにしていた。
「初めまして皆さん。セドリック・ライゼ・アルノールです。この度は自分共々、帝都の危機を救っていただき、本当にありがとうございました。心よりお礼を言わせてもらいます」
「……勿体無いお言葉」
「あわわっ……光栄です!」
「ありがとうございます、殿下」
行儀よく礼をする少年セドリックに礼を返すⅦ組達。それも当然、彼こそがオリヴァルトやアルフィンと同じ皇族の一人であるからだ。
その姿を見るのが初めてだったフィーは、いつも通りのペースでセドリックに可愛いい感じだという評価をしたが、幸いそれは本人の耳には入らなかった。そんな中、一連の挨拶を終えたセドリックは目を輝かせてイクスに話しかける。
「改めて初めましてですね、イクスさん! クルトからいつも話を聞いていて、今日はこうして会えて嬉しいです!」
「いやいや、それはこちらの台詞ですよ、殿下。自分の方こそお会い出来て光栄です」
「そういえば、イクスはヴァンダール家とも親交があるんだったっけ」
「オリヴァルト殿下とも前から知り合いだったみたいだし、何気にイクスの交友関係って幅広いわよね……」
「そこにマシロさんの交友関係も加えると更に凄いことになりそうだな……」
セドリックの護衛であるのと同時にイクスの弟分でもあるクルト。共通の人物から互いの話は聞いていた二人は、再会を喜ぶかのように話に花を咲かせ始める。その様子を見ながら、Ⅶ組一同は改めてイクスの多方面への繋がりの多さを認識した。
高い天井のホールに、再び楽しげに談笑する声が響く。イクスとセドリックだけでなくリィン達も皇族達と話をしようとしていたその時、セドリックが駆けてきたばかりの廊下の奥から聞こえた声が、たった一言でその場の空気を一変させた。
「———どうやらお揃いのようですな」
その場にいた全員の視線を一気に集めるほどの迫力を感じさせる声色。決して声量は大きくはない。それでもここまでハッキリと全員の耳に届いていることは、その人物が『政治家』としての優れた証拠なのだろう。
そしてこの場においては色々な意味でタイムリーな人物だった。
「ギリアス・オズボーン宰相……」
ポツリ、とⅦ組の誰かが呟く。
《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン。
この帝国において皇族と同等、もしくはそれ以上に名前の知られる人物。その表現は決して単なる比喩ではなく、近年のエレボニアの発展と彼の実績を照らし合わせれば誰でも分かる“事実”から成るものだ。
「アルフィン殿下、セドリック殿下におかれましてはご無事で何よりでした。これも女神の導きでありましょう」
「ありがとうございます、宰相」
「ありがとうございます」
「そしてオリヴァルト殿下も、帝国解放戦線に関しては既に帝国全土に手配を出し、背景の洗い出しを進めております。その他の協力者とみられる者たちにつきましても同様に調査を進めておりますので、どうかご安心ください」
「……やれやれ、手回しの良いことだ。これは来月の通商会議も安心ということかな?」
「ええ、万事お任せあれ」
一見すると何も不自然なところはない会話。だが、オリヴァルトとオズボーンの間には何か言いようのない裏の駆け引きを感じさせる。
しかしながら、この独特な空気に他の人物が入り込む余地は無い。Ⅶ組の面々も例外なくその空気に飲まれていた。そして、それに気づいたのか、その場の空気を作った張本人は変わらない口調でⅦ組へ目をやった。
「———失礼、諸君への挨拶がまだだったな。帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。《鉄血宰相》という名前の方が通りがいいだろうがね」
「は、初めまして、閣下」
「そ、その……お噂はかねがね」
「フフ、私も君たちの噂は少しばかり耳にしている。帝国全土をまたにかけての特別実習、非常に興味深い試みだ。これからも頑張りたまえ」
「……恐縮です」
「…………ども」
武人の放つそれとも違う異様なプレッシャーで萎縮するⅦ組とは対照的に、堂々とした態度を崩さないオズボーン。彼に会うのが初めてであるイクスもその圧力に圧され、視線を外すことができなかった。
「それと…………。久しいな、遊撃士。転職したそうだが息災そうで何よりだ」
「ええ、おかげさまで。“その節”はほんっとーにお世話になりました」
オズボーンは元遊撃士のサラとも知り合いらしく、サラは嫌みたっぷりの返事を、オズボーンもそれを気にも留めてすらいないように余裕の笑みを崩さない。
気づけば、サラとオズボーンのやり取りが終わろうとしていた。完全にこの空気に呑まれていたことをようやくイクスが自覚しようとした時、不意にオズボーンと彼の目が合う。
「イクス・ライガスト君、だったな。どうかね、傷の具合は」
「あ、えっと、大丈夫です」
「そうか、それは何より」
急に尋ねられたイクスは、思わず間の抜けた返事をする。以外にも自分個人の名前を憶えてくれていたことにイクスが驚いていると、オズボーンは更に続けた。
「若さゆえの行動力は結構。だが、くれぐれも"自分の力"は見誤らないことだ。無茶もほどほどにしておきたまえ」
「…………はい、肝に銘じておきます」
イクスは、オズボーンが『力』という言葉をやけに強調して話したような気がした。
もちろんながら彼の謎の力に関しては、Ⅶ組メンバーやマシロなど限られた者にしか知られていないはずである。そして、イクスとオズボーンは今日が初対面で間違いない。
(考えすぎ、だよな…………)
もう一度イクスはオズボーンの方を見る。しかし、話が終わったからか、今度は目も合わず、その横顔からはあの堂々としたオーラが変わらず発せられているだけだった。
「では、諸君らも……どうか健やかに、強き絆を育み、鉄の意志と鋼の強さと肉体を養って欲しい。————これからの激動の時代に備えてな」
そう言って、オズボーンはⅦ組を一瞥してからその場を後にする。
オズボーンが去る直前、イクスの視界の端で一瞬、リィンが胸を抑えるような仕草をしていた。
蒼天の下、緋色の街に風が吹いた。
その風は空中と地を駆けるように流れ、途中にあったものを少しばかり揺らす。そして、風の行き着く先のちょうど終着点の辺り、人気のない一つの建物の上で綺麗なブロンドの髪が揺れた。
「………………」
長い旅を終えた風はそのままそよ風になって消えていく。ブロンドの髪を揺らされた人物は、変わらずに遠くのバルフレイム宮を望んでいた。
その人物の恰好は、正直に言って異常である。
全身を銀色の甲冑で包み、その顔を同じく銀色の兜ですっぽりと覆っている。兜の隙間から出ている長いブロンドの髪から女性ではないかとは思われるが、その真相は分からない。まるで中世に出てくるような恰好は《騎士》と呼ぶに相応しかった。
「————あら、クロスベルの方はよろしいんですか?」
「…………貴女でしたか」
そこに、一人の女性がどこからともなく姿を現した。知り合いなのか、騎士はその女性の方を振り返って話を続ける。
「クロスベルは今、彼女に任せてあります。《赤い星座》の方々も向かわれるようですし、問題ないでしょう」
「随分と信頼なさっているんですね、隊長さんの事」
「ええ、彼女であれば不測の事態が起きても対処できるでしょうから」
「ふふ、貴女の右腕ですものね」
騎士と話す女性は優雅に笑う。これが人通りの多い街中であればこうはならないだろう。なぜなら彼女はこの帝都歌劇場のトップスター、ヴィータ・クロチルダその人なのだから。
しかし、今現在に限って言えば彼女は帝都歌劇場で歌う歌手ではない。今の彼女は、この騎士と同じ組織に属する、いわば同僚の関係にある。
そんな彼女はふと思い出したように、騎士にある話題を振った。
「そういえばご存知ですか? 彼、覚醒めたみたいですよ。もっとも、覚醒させたというよりは、無理やり起こされたという方が正しいんですけど」
「…………はい、どうやらそのようですね」
彼、というのが誰を指すのかは、話している二人にしか分からない。ただ、少し楽しそうな表情を浮かべるクロチルダに比べて、素顔の見えない騎士の声色は、どこか案ずるようなものだった。
「————《深淵》殿、貴女に一つお願いがあります」
「はい?」
ここで初めて騎士の方からクロチルダに話しかけた。
話しかけられたクロチルダは、意外そうな表情を浮かべて騎士のお願いについて尋ねる。
「先日、貴女が仰っていた例の魔術。あれを少々お借りしたいのですが」
「………………なるほど、そういうことですか。ええ、構いませんよ」
「感謝します」
騎士からの提案を、クロチルダは妖艶な笑みを浮かべて了承した。人知れず、何か重要な取引が成立した瞬間である。
「それでは私はこの辺りで失礼させていただきますね。貴女のお願いの準備もありますし」
「はい、ゆっくりと待ちますよ」
「わかりました。では———」
そう言うと、クロチルダは音もなくその場から消え去り、建物の上にはまた騎士が一人になった。
相も変わらず、緋色の街には時折風が吹く。その強さはその時によって様々だが、そのいずれも騎士のいる建物を、騎士の髪を揺らしながら流れていく。ある風はそよ風として優しく、またある風は急ぐように。
「………………」
無言で街を見下ろす騎士は何を思っているのか、それは誰にも理解できない。嬉しいのか、悲しいのか、寂しいのか、清々しいのか、その真実は兜の下。
蒼天の下、ブロンドの髪がさらさらと流れていた。
今回でやっと4章も終わって次回からは5章に入っていきます。
色々と謎が増えてきたイクスに加えて、原作の主人公であるリィンにも色々と大変なことが起きてくるので彼ら二人の主人公を応援して頂ければと思います。
最後に、感想欄で生存確認をしてくれた方々、本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。