英雄伝説 花の軌跡   作:阿賀美 アクト

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予想通り一日空いちゃいましたね。
自由行動日編は1話にまとめるつもりだったんですが、思いのほか長くなりそうだったので前後編に分けました。


第7話 初めての自由行動日(前編)

 

「……うーん、どうすっかな…」

 

 現在時刻は午前10時半。今日は待ち望んでいた《自由行動日》なのだが、俺は完全に暇を持て余していた。

 

 というのも《園芸部》の今日の活動は、朝の水やりと昨日残っていた花壇の土の入れ替え作業のみで、あまり時間がかからなかったのだ。

 

 この時期は、肥料を与える時期も過ぎてしまっているため、そもそも作業そのものが少ない。春は水やりも早朝から午前中に一度やれば十分で、それ以外の時間にあまり水は与えなくても良い。

 季節の変わり目は水を与え過ぎると根腐れを起こしてしまう恐れがあるため、春から夏にかけて徐々に水の量を増やしていき、土が乾いているようなら水を与えるというのが基本なのである。

 

 今日の活動で、花のそばにいたミミズをいつも通りにこにこしながら素手で掴んだエーデル部長によれば、花も俺たちと同じ生き物であり、ある程度自分たちで成長せずに、人間があまり過保護に接し過ぎるといい花を咲かせてくれないとのことだ。

 

 俺は、部長の中々説得力のある言葉に感心していた。

 

 普段はマイペースでどこか抜けているような印象があるが、時々ある名言のようなものからも、実際は彼女が自分なりの価値観をしっかり持っている人物であることが分かる。

 それだけに、何故彼女が、帝都のサンクト地区にある聖アストライア女学院のようなところではなく、士官学校であるトールズ士官学院に居るのかが気になるのだが…

 

 

 そんな感じで早くも午前中にクラブ活動を終えてしまい、俺はすることが無くこうして暇を持て余しているという訳だ。

 

 実は部活が終わった後、昨日考えていたように、トワさんに改めて挨拶しておこうと《生徒会室》に向かったのだが、何やら会議のようなものをやっている最中であり、とてもじゃないが部外者の自分が入れる様子ではなかったため、午後に改めて伺おうということにしていた。

 

 その他にもギムナジウムで稽古でもしようかとも考えたが、こちらは《フェンシング部》が使用中であり、グラウンドも《ラクロス部》や《馬術部》が活動中だったため、落ち着いて剣を振れる場所が見つからず稽古をするという考えもあえなく撃沈してしまい、行き場を失っていた。

 

 しばらくぶらぶらと学院内をうろついてみたものの、やはりすることが見つからず、気がつくとトリスタの街の方まで歩いて来ていた。街にある店を見ながら、今後の予定を考える。

 

「昼食を摂るにも少し早いし、かといって部屋でサラ教官みたいにゴロゴロするっていうのはなあ…」

 

 サラ教官は昨日の夜遅くに帰ってきたようで、今はそのまま部屋で酒を飲みながらゴロゴロするという自堕落な過ごし方をしている。学院内には他の教官は出勤していることもあり、彼女のだらしなさが際立っていた。

 さすがにアレと同じようにはなりたくないので、トリスタの街でぶらぶらしていると、不意にキルシェを通り過ぎようとした辺りで声をかけられる。

 

「…ん?イクスじゃないか、どうしたんだこんな所で?」

 

 呼ばれた方には、キルシェのテラス席でコーヒーを飲むマキアスの姿があった。

 

 

 

 

 

「……なるほど。つまり、せっかくの《自由行動日》なのにすることが見つからずにフラフラしていたというわけか」

 

 マキアスは朝からキルシェで自習をしていたようで、勉強の合間に休憩していたときに、ちょうど俺が通り過ぎようとしていたため、声をかけてくれたとのことだった。その後、俺も行くあてがないので、キルシェで注文をしてからテラス席でマキアスと相席することになっていた。

 

「概ねそんな感じだ。……ところで、俺からすればせっかくの《自由行動日》に自習しているマキアスの方が信じられないんだが。クラブとか入ってないのか?」

 

「何を言う、学生の本分は勉強だぞ。こういう時こそ予習・復習のチャンスだろう。……そうだ、この際だから言っておくが君とフィーは授業中に寝すぎだぞ。いいか、授業というのはただ受けるだけでは意味がなくてだな――」

 

 軽く話題づくりに話を振った筈が、このままだと説教に発展しそうな雰囲気なので、俺は彼の言葉に耳を塞ぐ。

 

「アーアー、聞こえなーい」

 

「ーーって、こら!……全く、何というか君はそういうところもあまり貴族らしくないというか…」

 

 そう言いながら呆れるマキアスに俺は反論する。

 

「別に貴族だからって、みんなが優秀ってわけじゃないだろ。それに、それを言ったらマキアスも平民なのに勉強ができるのは変ってことになるぜ」

 

「む……それはまあ、確かに」

 

 マキアスも俺の言うことに一理あるらしく、反論が出来ずに口ごもる。しかし、少し考えた後、俺に話を続ける。

 

「…だが、それと授業中に寝るのは話が別だ。君とフィーは気をつけたまえ」

 

「…はーい」

 

 正論を言われると、反論の余地が無いためここは素直に返事をしておく。まあ、俺も授業中に寝るのは良くないというのはわかってるからな。

 

 マキアスもこれ以上の説教は無粋だと思ったのか、それ以上の追及はせずに新たに注文したコーヒーに口をつける。

 

「それにしても、この味わい深い苦味と香ばしい香り……、この店は中々いい豆を使っているようだ」

 

 美味しそうにコーヒーを飲みながら、通な発言をしていたため、俺はマキアスに尋ねる。

 

「へえ、マキアスってコーヒーに詳しいのか」

 

「はは、実は父さんが昔から中々のコーヒー好きでね。僕も勉強の合間に飲むようになって、すっかり覚えてしまったのさ」

 

 マキアスの父であるレーグニッツ帝都知事は《帝国時報》でたまに見かけるが、そこに載っている情報はあくまで“帝都知事”としての情報であるため、実際の彼がどういう人物であるのかはわからない。

 そのため、マキアスを通してレーグニッツ知事のプライベートな情報を知ることができたというのは、なんだか得したような気分だった。

 

 カップを置いたマキアスは少し苦い表情をしながら、こちらの方を見る。

 

「……ところで、君の飲んでいるのは紅茶か?」

 

「ん?ああ、そうだけど…」

 

 俺はコーヒーよりは紅茶の方が飲み慣れているため、紅茶を注文していた。キルシェはトールズの生徒も利用する人が多い。また、貴族生徒の利用者にも満足できるものを提供したいということから、店長も紅茶には少しこだわっているだけあって、中々の味だ。

 

 俺の飲んでいるものが紅茶だと分かると、マキアスは忌々しげな表情で語る。

 

「…やはり君もか。この間もあの忌々しい男が優雅に飲んでいたし、僕にはなぜそんなものを好んで飲むのか理解できないな」

 

「……ほう?」

 

 別にユーシスに肩入れするわけでは無いが、俺も紅茶には少々うるさいため、“そんなもの”と言われて黙っている訳にはいかなかった。

 

 俺は席を立ち、キルシェに向かいながらマキアスに告げる。

 

「マキアス、ちょっと待ってろ。俺が“紅茶”ってもんを教えてやるよ」

 

「へ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちどうさん。さ、飲んでみな」

 

「あ、ああ」

 

 数分後、俺はキルシェからテラス席へ戻り、マキアスに一杯の紅茶を差し出した。少しの間、マキアスは口にするのを迷っていたが、出されたものを飲まないというのは気が引けたのか、恐る恐るティーカップを口に運ぶ。

 

「……美味い…!」

 

「そいつは良かった」

 

 どうやら口に合ったようで、マキアスは目を丸くする。そして先ほど俺が飲んでいたティーカップを口に運んで、味を比べてみる。

 

「だが、どういうことだ?君の飲んでいるものよりもこっちの方が風味が良い。もしかして、特別な茶葉を使っているのか?」

 

「いや、茶葉自体は同じだよ。マキアスが飲んでる方は俺が淹れたんだ」

 

「な…!?」

 

 そう、俺は先ほどキルシェの店長に頼んで、自ら紅茶を淹れていたのだ。

 

 紅茶を淹れるのは俺の数少ない特技の一つで、プロが淹れる味にも劣らないという自負がある。そのため、紅茶の美味しさをあまり知らないマキアスも唸らせる自信があった。

 俺が淹れた紅茶の美味しさに驚くマキアスに、改めて感想を聞いてみる。

 

「お前の貴族に対する考え方はともかく、紅茶自体は悪くないもんだろ?」

 

 マキアスも自分で美味しいという感想を漏らしてしまったため、反論ができなかった。そして、少し葛藤した後、負けを認める。

 

「……まあ、紅茶に関しては考えを改めよう。だが、紅茶の味を認めるのであって、決してあの男のことや傲慢な貴族を認めたわけじゃないからな!」

 

「ああ、それで十分だよ」

 

 ユーシスのことは頑なに認めようとはしないマキアスだったが、紅茶に関しては、彼もその美味しさを分かってくれたようだ。彼も話せばわかる人物なのでユーシスの件についても、いずれ分かり合える時が来るだろう。

 

 また一人紅茶の美味しさを分かってくれた人が増えたことで、満足していると、ポケットの中のARCUSが鳴り始める。

 

「っと、悪い。誰かから通信だ」

 

「いや、構わない。早く出てやりたまえ」

 

 テラス席から少し離れたところで通信に出ると、通信の相手はリィンであった。

 

『あ、イクス。これからちょっと時間取れるか?』

 

「ああ、構わないけど。どうした?」

 

『実はさ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「……驚いたな」

 

「ってココ、完全に別の場所じゃない!?僕たち、こんな場所なんて通らなかったハズだよね!?」

 

「…みたいだな。にわかに信じられないが、地下の構造そのものが別物になってる」

 

 通信でリィンに頼まれたのはあの旧校舎の調査の手伝いをして欲しいとのことだった。

 

 入学式のとき以来、旧校舎には近付いていなかったが、最近旧校舎に様々な異変が起きていると生徒から報告があり、学院長がリィンにその調査を依頼していたのだ。

 

 リィンも自分一人で調査するのは、何かあった時に危険だと判断し、俺とエリオット、ガイウスに連絡を入れたそうだ。ちなみに、俺はマキアスにも手伝いを頼んだのだが、彼は水曜日の《実技テスト》にむけて銃をメンテナンスに出していたため、今回は参加できなかった。

 

 結局、俺たち4人で旧校舎の調査を始めることになったのだが、その旧校舎には驚くべきことが起きていた。

 

 俺たちは、前回ガーゴイルと戦った部屋から迷宮区画に行こうとしたのだが、その部屋は前回よりも二回りほど小さくなっており、その奥には前回無かった筈の扉が出現していた。

 この時点で既に、何かしらの異常が起きているのは分かっていたが、扉の奥も確かめてみようということになり、警戒しながら扉を開けて奥に進むと、前回とは全く違う迷宮が俺たちの前に広がっていたのだ。

 

 気配を感じ取ることに長けているガイウスは、目を閉じて周囲の気配を探る。

 

「徘徊している魔獣の気配も変わっているようだ。――どうする、リィン?」

 

 徘徊していると魔獣も変化しているということは、この先は完全に未知の領域になっているということだ。もしかすると、前回のガーゴイルのような魔獣やそれ以上に危険な魔獣が潜んでいる可能性もある。

 

 万が一のことを考えて、サラ教官や学院長に連絡し、後日改めて探索するという手もあったが、リィンは少し考えた後、答えを出した。

 

「――進もう。学院長の依頼は旧校舎に起きている異変の調査だ。こんな状況になっている以上、放っておくと何が起こるか分からない。俺たちで行けるところまで行ってみよう」

 

 予想通り、リィンの決断は調査続行だった。彼の言うとおり、何かが起きてからでは遅いので、ここは多少の危険を覚悟しつつ奥へ進むべきだろう。

 

「ううっ、やっぱりそうなるよね…」

 

 リィンの答えをある程度予想していたエリオットは肩を落とす。そんなエリオットに俺はフォローの言葉をかけた。

 

「そう落ち込むなってエリオット。水曜日のテストに向けて魔導杖の訓練かできると思えば、そう悪いことでもないだろ?」

 

「うーん、まあ仕方ないか…」

 

 エリオットもまだ不安は残っているものの、納得はしてくれたようだ。エリオットも覚悟を決めたところで、リィンはみんなに号令をかける。

 

「よし、それじゃあ十分注意して行こう」

 

「ああ、女神の加護を。行くとしようか」

 




書きたいことが多すぎてカットするのが大変ですね。これでも結構無駄なところはカットしたんですが…
後編も明日、明後日には更新できると思います。
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