永久凍土帝国アナスタシアをプレイしていて、最終決戦でジャンヌ・オルタが出たらどうかなという思い付きで書いたもの。

タイトルも適当です。

初めてFateの二次小説を書いたので、おかしいという部分もあると思いますがご了承ください。

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Fate/Grand Order 竜の魔女と氷の皇女

 

 

 

 

 

 

 身も凍る雪原にて二組の男女が向き合っていた。

 

 客観的に見ても、対照的な二組だった。

 

 片方の男は銀色の髪と金色の目を持ち、目元には隈が出来ている。

 

 その傍には雪のような白い髪とドレスを着込んだ女性が寄り添っていた。

 

 汎人類史に敵対するクリプター『カドック・ゼムルプス』とそのサーヴァントであるキャスター『アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ』

 

 相対するのはそんな白色を汚す黒色。

 

 黒い髪に黒い戦闘服を身につけ、相対する男女を見る瞳には強い光が宿っていた。

 

 そしてそんな少年の傍には旗を持った魔女が立っていた。

 

 黒い鎧を身に纏い、その表情は残酷な笑みを浮かべている。 

 

 世界最後のマスター『藤丸立香』と黒き魔女『ジャンヌダルク・オルタ』である。

 

 「そんな隠し玉まで用意していたとは。救国の聖女ジャンヌ・ダルク」

 

 「あんな女と一緒にしないで欲しいわね。私は聖女ではなく魔女よ」

 

 「……なるほど。君はこちら側に近いと思うけど―――」

 

 「言っとくけど懐柔なんて無駄よ。アンタ達につく気なんて欠片もない」

 

 「此処まで来てそんな事は言わないさ」

 

 男は意思を切り替えるように目の前の少年を睨みつける。

 

 「彼は立ち直ったの?」

 

 「元々大して堪えちゃいなかったようだ。大方自分達のやろうとしている事に気がついていたんだろうさ。流石は世界を救っただけはある」

 

 だからこそ倒す必要があるとカドックは拳を握りしめた。

 

 油断はない。

 

 慢心もない。

 

 カドックは自身の能力を誰よりも理解しているからだ。

 

 「こうなる事も想定済みだよ」

 

 策を講じ、その中にカルデアも取り込んで無事に邪魔者は排除出来た。

 

 その上で連中も倒せれば万々歳だったが、そこまで甘くないという事。

 

 「ふん、やっぱり何もかも上手いことはいかないか」

 

 人生なんてそんなものだと自嘲するように呟いた。

 

 「当たり前でしょうが。コイツがあんな程度で諦める訳ないでしょ」 

 

 戦意を漲らせる男女に魔女は当然とばかりに呟いた。

 

 「お人好しで、ボンクラで、前向き。ホント、どうしようもないくらい平均的。でも怯えようと、絶望しようと、進む事だけはやめない」

 

 笑みを浮かべ、宣戦布告とばかりに旗を男女へ突きつける。

 

 「そんな人間だからこそ、世界を救えたのよ」

 

 「そうか。だからこそ僕はお前達を倒し、アナスタシアに相応しいマスターになる」

 

 「ええ、それでこそよ、カドック。決着をつけましょう」

 

 アナスタシアの精霊ヴィイが大きく真の姿を現していく。

 

 「私もヴィイも全力よ。マスター、回路を回しなさい」

 

 「いくわよ、皇女様。アンタの氷をドロドロに溶かしてやるわ」 

 

 「やれるものならやってみなさいな、魔女」

 

 氷と炎を手に二騎のサーヴァントはこの異聞帯、最後の交戦を開始した。

 

 

 

 

 昔に思った事がある。

 

 此処に居るのは本当に自分でいいのだろうかと。

 

 人理焼却。

 

 人類を絶滅させる未曾有の危機。

 

 それを打開すべく人類継続保障機関カルデアに集められたマスター候補。

 

 適応番号48『藤丸 立香』

 

 だがその実体は数合わせの一般枠であり、ただの補欠だ。 

 

 体はサーヴァント達の教えや自主トレのお陰か、それなりに鍛えている。

 

 しかし魔術はからきしだ。

 

 知識はそれなりに増えても、基礎である強化すら使えない。

 

 そんな自分にマスターの資格はあるのだろうか。

 

 力を貸してくれる英雄達に見合う自分なのだろうかと。

 

 『マスターとして時代を巡る事に魔術の才能は、重要な事ではありません』

 

 『何故なら、どのような天才、どのような才人であれ、この天変地異の前には等しく無力なのです』

 

 『人理を守る為にもっとも必要なものは困難から目を背けない性質だと私などは思うのですが』

 

 盾持つ王はそう言っていた。

 

 確かにどんな残酷な現実にも目を背けないようにしてきたつもりだ。

 

 カルデアに残されたマスターは自分しかいないと歯を食いしばった。

 

 ただ必死で余計な事を考える余裕が無かっただけかもしれない。

 

 それでも信頼してくれた皆の為に。

 

 失ってしまったモノの為に。

 

 歩みを止める訳にはいかなかった。

 

 でも。

 

 

 『君より僕の方が、僕より僕以外のAチームの誰かが。そして誰よりも、ウォーダイムの方が多分、犠牲はずっとずっと少なかった』

 

 『人理焼却の犠牲者は少なくない。おめでとう、君は最多の犠牲者を出した訳だ』

 

 

 本来レイシフトで特異点に挑むAチームのマスターだった『カドック・ゼムルプス』はそう言った。

 

 それは正しい。

 

 そうなっていれば―――

 

 「先輩、どうしたんですか?」

 

 「え?」

 

 我に返ると頼れる後輩であるマシュ・キリエライトが心配そうに顔を覗き込んでいた。

 

 そこでようやくシャドーボーダーの中にある自分の部屋に居た事に気が付く。

 

 身に纏う礼装は汚れ、履いている靴は溶けた氷でベチャベチャになっていた。

 

 「お疲れですか、先輩? それも無理はありません。少しベットで眠られたらどうでしょう?」

 

 「ありがとう、マシュ」

 

 「外は吹雪で満足に横になれる所も無かった筈ですから」

 

 今、自分達が居るのはロシア。

 

 人理焼却という危機を乗り越えたカルデアは崩壊し、地球は漂白された。

 

 文字通り、何もない真っ白な荒野に変えられてしまったのだ。

 

 この事態を解決する為、虚数潜航艇シャドウ・ボーダーと呼ばれる大型特殊車両に乗り込み異聞帯と呼ばれる、正史とは異なる歴史を歩んだロシアを調査しているのだ。

 

 「もう十分休んださ」

  

 「先輩、でも」

 

 「そんな深刻な顔しないで。マシュこそ、体は?」

 

 「外で調査を行っている先輩に比べれば大した事はありません。あの、先輩……カドックさんが言われた事を気にしていますか?」

 

 心配そうにマシュが見つめてくる。

 

 詳しい事は知らないけど、以前から交流があったマシュの方が辛いだろう。

 

 顔見知りと敵対しているのだから。  

 

 気遣ってくれる後輩を少しでも元気づけようと笑みを浮かべる。

 

 「俺は大丈夫だ」  

 

 へこたれている暇はない。

 

 彼の言う通りであるからこそ、犠牲になった誰かの為にも歩みを止める事は出来ないのだ。

 

 例えこの先で再び犠牲が出るのだとしても。

 

 

 

 

 「アンタって本当に馬鹿ね」

 

 自分の部屋を出て遭遇した黒い魔女は開口一番、辛辣な言葉を掛けてきた。

 

 「相変わらずだなぁ、オルタは」

  

 「ふん、アンタもでしょうが。相変わらずの緩い顔」  

 

 どこか不機嫌そうにジャンヌ・オルタは鼻を鳴らすと顔を近づけてくる。

 

 「で、分かってるんでしょ」

 

 「……何が?」

 

 「仮にこの異聞帯って奴を処理したら、どうなるのかって事をよ」

 

 「ッ!?」

 

 ジャンヌ・オルタの指摘に思わず声を詰まらせる。

 

 誤魔化しても無駄。

 

 きっとこのシャドウ・ボーダーに居る誰もが気が付いている筈だ。

 

 元々は正史から外れ、世界から剪定された歴史。

 

 此処を排除するという事は。

 

 この異聞帯の結末は―――

 

 「覚悟は出来てるんでしょうね?」

 

 一瞬だけ共に戦った者達の顔が脳裏を過る。

 

 耐えがたい痛みが胸を突く。

 

 本当にどうしようもない苦痛と叫び出したい程の苦悶だった。

 

 それでも答えは変わらない。

 

 『鋼鉄の意志』で痛みを、苦悶を、すべてを呑み込み蓋をする。

 

 「うん」

 

 「そ、ならいいわ。今度奴らと対峙する時は私を呼びなさい」

 

 素っ気なく答えたジャンヌ・オルタはマントを翻し歩いていく。 

 

 「これは聖杯戦争と同じ。勝者こそが望みを叶える権利を得る。ただそれだけよ。アンタはいつも通り、能天気な顔で前だけ見てりゃいいのよ。邪魔な奴らは私が消し炭にしてあげるから」

 

 「ジャンヌ・オルタ」

 

 「何?」

 

 「心配してくれてありがとう」

 

 礼を言うとあからさまに狼狽えた様子でジャンヌが振り返った。

 

 「なっ、な、何言ってるわけ? 全然心配なんてしてないっての!」

 

 「ふふ」

 

 「笑うな!」

 

 ジャンヌ・オルタは両手で頬を掴み、思い切り引っ張ってくる。

 

 「いひゃい、いひゃい」

 

 「アンタは何時も一言多いのよ!」

 

 顔を赤くして今度こそ去っていくジャンヌ・オルタの背中に再び声を掛けた。

 

 「ジャンヌ・オルタ」

 

 「今度は何よ!」

 

 「頼りにしてる」

 

 その言葉に一転して表情を変えたジャンヌ・オルタは好戦的な笑みを浮かべて高らかに告げた。

 

 「当然でしょ。アンタを勝たせる為に私は此処に居るのよ!」

 

 

 

◇ 

 

 

 

 猛る炎と奔る氷。

 

 互いが放った攻撃が相手を射貫かんと空中で激突する。

 

 「チッ」

 

 炎の一撃で消し去った筈の氷はいつの間にか再びジャンヌの周りに形成され、一斉に四方から降り注いだ。

 

 「舐めんじゃないわよ!」

 

 ジャンヌ・オルタの周りから放射された炎の壁が迫る氷を蒸発させ、さらにアナスタシアの方へと押し迫った。

 

 だがアナスタシアは手をかざし、作り出した氷の壁で炎を掻き消してしまった。

 

 「大きな口を叩いておいてこの程度かしら、魔女」

 

 「調子に乗らないで欲しいわね、皇女様」

 

 生み出された無数の氷槍が駆けるジャンヌ・オルタに矢継ぎ早に襲い掛かる。

 

 「次から次へと!」

 

 消しても消しても襲い掛かってくる氷に辟易したように表情を曇らせるジャンヌ・オルタ。

 

 それを見透かしているかのようにアナスタシアは冷静な表情を崩さない。 

 

 その場から飛び退き、氷槍を旗で砕くと続け様に放たれた氷弾から逃れる為に再び高速で移動を開始する。

 

 視界すべてを覆う無数の氷塊が走るジャンヌ・オルタの背後から迫ってきた。

 

 「マスターごと潰れなさい」

 

 「やらせるかっての!」 

 

 立香を守るように着地し、迫ってきた氷の雨を発した炎の砲撃で薙ぎ払った。

 

 「マスターを守るなんて、魔女という割には健気ね」

 

 「うっさい!」

 

 二体のサーヴァントの攻防は拮抗していた。

 

 それは二人の特性が噛み合っていたからというのがある。

 

 アナスタシアは強力な砲台だ。

 

 機動力に欠けてもそれを補って余りある火力がある。

 

 それはジャンヌ・オルタも同じ事。

 

 かつて戦った男は『人間要塞から反転した人間戦車。いや、戦艦……空母の方が正しいか?』とジャンヌ・オルタを評価したらしい。

 

 それはある種、正しい。

 

 並みいる氷の弾幕をすべて炎の砲撃で吹き飛ばしている。

 

 敵対している者からすれば呆れる程の火力であろう。

 

 そしてアナスタシアに無く、ジャンヌ・オルタにあるのは機動性だ。

 

 縦横無尽に飛び回れる機動性を生かし、ヒットアンドアウェイの戦法を繰り返していく。

 

 それがアナスタシアの火力を拡散させ、致命的な被害を防いでいた。

 

 「何故だ、どう見ても僕達の方が強い。なのに何故押し切れない!?」

 

 この状況に一番焦りを見せていたのはカドックだった。

 

 戦況は膠着状態。

 

 令呪は残り二画。

 

 誓って言うがカドックは藤丸立香を侮ってなどいない。

 

 口を開けば強い敵愾心が先に出るが、内心ではその能力を認めている。

 

 故に油断など微塵もなかった。

 

 なのに―――

 

 「くそ!」

 

 アナスタシアが氷の弾丸を振り撒けば、ジャンヌは炎を横薙ぎに払って消し飛ばす。

 

 「どうしたのかしら? 氷が全く届いていないわよ!」

 

 「調子に乗らないでもらいたいわ」

 

 アナスタシアの周りに無数の氷が作り出される。

 

 それはみるみる内に人間なら簡単に圧し潰す事も可能な程、巨大な氷塊へと姿を変えた。

 

 それでもジャンヌは余裕な笑みを崩さない。

 

 「潰れなさい」

 

 「ハッ、そんなもので!」

 

 彼女の手から放たれた炎のカーテンが巨大な氷塊を撃ち砕き、視界を奪う水蒸気が周囲を覆った。

 

 「今だ!」

 

 「ええ」

 

 此処が勝負の分かれ目。

 

 カドックは迷わずカードを切った。

 

 「「令呪を以って命ずる!」」

 

 それは偶然か。

 

 それとも相手も同じく勝負所であると判断したのか。

 

 全く同じタイミングで周囲に声が響き渡る。

 

 「上等だ。僕は君を―――!」

 

 二人のマスターは同時に令呪を解放する。

 

 

 「キャスター、宝具を解放せよ!!」

 

 「アヴェンジャー、宝具を使用しろ!」

 

 

 令呪によるブーストによって二騎のサーヴァントが強化。

 

 

 「ヴィイ、全てを見なさい。全てを射抜きなさい。我が霧氷に、その大いなる力を手向けなさい」

 

 「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮」

 

 

 発動させた宝具が解放される。  

 

 

 「『疾走・精霊眼球』(ヴィイ・ヴィイ・ヴィイ)!!」

 

 「『吼え立てよ、我が憤怒』(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!!」

 

 

 怨嗟の炎と魔眼の全力解放が激突する。

 

 宝具同士の対決は僅かな拮抗状態からアナスタシアの宝具が徐々にジャンヌ・オルタを押し込んでいく。 

 

 「残念ね、魔女。ヴィイの魔眼は弱点を見抜くのではないわ。『見た場所が弱点になる』のよ」

 

 「ッ!? くっ」

 

 アナスタシアの宝具を押し返そうとジャンヌは魔力を込める。

 

 だが状況は変わらない。 

 

 怨嗟の炎は凍りつき、魔眼による一撃が『吼え立てよ、我が憤怒』(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)を食い破っていく。

 

 「このぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 「さあ、凍りなさい竜の魔女!!!」

 

 アナスタシアの視界に映る炎はすべて凍りつき、静寂のみがその場を支配した。

 

 「私の勝―――ッ!?」

 

 勝利を確信したアナスタシアだったが雪煙が晴れた先の光景に絶句する。

 

 そこで氷柱となって凍りついていたのはジャンヌが身につけていた黒いマントのみ。

 

 その時、カドックはアナスタシアの上に浮かぶものに気がついた。

 

 「アナスタシア!」

 

 カドックの声に身を引こうとするが、機動力に欠けるアナスタシアにソレを避ける術はない。

 

 上空に現れた無数の炎杭がアナスタシアを貫いた。

 

 それは確実に皇女の体に穴を開け、抉り、深い傷を与える。 

 

 「さっきの宝具は雪煙で身を完全に隠す為のもの?」

 

 立香は宝具同士を激突させ、周囲の雪煙を撒き散らす事でジャンヌ・オルタの姿を完全に隠匿。

 

 マントをジャンヌ・オルタ本人と誤認させる事で生まれた一瞬の隙を狙ったのだ。 

 

 「令呪を使った宝具を囮にした!?」

 

 「今、気づいても遅いっての!」

 

 止めを刺すべくアナスタシアへ突進するジャンヌ・オルタ。

 

 対してカドックの対応は早かった。

 

 こんな所で負ける訳にはいかない。

 

 そんな思いがカドックを突き動かした。

 

 「令呪を以って命ずる、皇帝になれ!!」 

 

 最後の令呪。

 

 それが重傷を負っていた筈のアナスタシアに漲る力を与え、自身を貫いていた炎杭を氷で消し飛ばす。

 

 「止まりなさい!」

 

 突撃してくるジャンヌ・オルタに今までにない強烈な氷塊が降り注ぎ、地面から氷柱が突き上がってくる。

 

 令呪の強化による攻撃の苛烈さは今までの比ではない。

 

 炎の防御すら突破し、必殺を狙う上下左右からの一撃は確実に敵の命を奪うだろう。

 

 しかも加速のついたジャンヌ・オルタに避ける術は無い。

 

 だが此処でも敵は想像外の一手を打ってきた。

 

 「令呪を以って命ずる、敵の背後に転移せよ!」

 

 「なっ!?」

 

 氷に挟まれ、貫かれようとしたジャンヌ・オルタの姿は一瞬で掻き消え、次の瞬間アナスタシアの背後に現れる。

 

 そして突き出された剣が背中から皇女の胸を貫いた。

 

 「カハァ」

 

 剣は霊核を貫き、アナスタシアは今度こそ致命傷を負った。

 

 勝敗は此処に決した。

 

 「……何故?」

 

 ニ騎のサーヴァントの攻防は拮抗していた。

 

 決して負けていた訳ではない。

 

 にも関わらずカドック達が敗れた理由はただ一つ。

 

 戦闘経験の差だった。

 

 確かに魔術師としても、マスターとしてもカドック・ゼムルプスは藤丸立香を上回っている。

 

 だがその差を藤丸立香は今まで培ってきた経験で埋めて見せたのだ。

 

 「カドック・ゼムルプス」

 

 「藤丸立香」

 

 再び男と少年は向き合う。

 

 その眼に迷いはない。

 

 決意と冷たい覚悟だけが宿っていた。

 

 「君の言った事に間違いはない。多分、俺よりもずっと上手く世界を救えたんだろう。犠牲も、きっと少なかった筈だ」

 

 その言葉には何の感情も籠っていない。

 

 「でも、前にマシュが言っただろう。『もしも』なんて考察に意味はないって。全部、俺が行った事だ。出してしまった犠牲も、助けられなかった人達も、俺の力不足によるものだ」

 

 ただ淡々と、どこか不気味さすら感じさせる静かな声で少年は言葉を紡ぐ。

 

 「だからこそ、その事実から目を逸らさない。力を貸してくれた英雄達の為に、カルデアの皆に恥じない自分でいる為に、帰ってこれなかった人の為に、俺は退けない」

 

 「ッ、まだだ、諦めない! 絶対に諦めるものか! 僕だって、君みたいに出来る筈だ!」

 

 カドックにとって最後の切り札。

 

 それを切ろうとした時、戦いを終わりを告げる銃声が鳴り響く。

 

 すでに勝敗は決していた。

 

 故に結末もまた決まっている。

 

 これは聖杯戦争。

 

 敗北した者は倒れ、勝者は次に駒を進める。

 

 異聞帯を成していた原因。

 

 空想樹と呼ばれた異物は切り落とされ、ロシアに出現した異聞帯は消失した。

 

 

 

 

 

 

 気が付いた瞬間、何も見えない暗がりの中で座り込んでいた。

 

 普通なら恐怖に怯えるのかもしれないが、取り乱す事もなく平常心を保っていられる。

 

 もうこの手の事には慣れっこだからだ。

 

 それにこれは夢。 

 

 夢に慣れているというのも変な話だが、こういった事象は日常茶飯事。

 

 何度も経験済みである。

 

 だから別段驚く事でもないのだが、流石に今回は面食らってしまった。

 

 何故ならば漆黒に染まった聖剣を喉元に突きつけた少女がこちらを見下ろしているのだから。

 

 「私の言葉を覚えているな?」

 

 その声は冷たく、視線には殺意が籠っている。

 

 覚悟を問われている。

 

 さらに過酷さを増した状況を前に「お前は戦えるのか?」と。

 

 もしも言葉を間違えたなら、即座に首が刎ねられてしまうだろう。

 

 なのに胸中には焦りも恐怖もなかった。

 

 そもそも彼女とはそういう契約だったのだ。

 

 だからいつも通りの答えを彼女に告げる。

 

 「俺は進み続けるよ。これからも」

 

 「世界を救う為に罪のない人々を蹂躙してもか?」

 

 「ああ」

 

 もう決めた事だ。

 

 犠牲になった人達の為にも。

 

 ロシアで出会った『負けるな』と言った友の為にも。

 

 そこで彼女は剣を引き、口元に笑みを浮かべる。

 

 「いいだろう。それでこそ我がマスターだ。しかし私との契約は変わらない」   

 

 「ああ」

 

 彼女は契約した時に告げたのだ。

 

 『貴様が膝を屈した時、その首を頂こう』と。

 

 「覚悟が出来ているのなら何も言う事はない。目を覚ますが良い、マスター。あの突撃女も五月蠅いだろうからな」

 

 「相変わらずだなぁ、君達二人は」

 

 今までの経験から目を覚まそうとしているのが何となく分かる。

 

 目を覚ませば再び戦場に立つ事になるだろう。

 

 今回のロシア以上の過酷な死地が待っているに違いない。

 

 それでも戦い続けていくのだ。

 

 例え罪なき世界を消し去る事になろうとも。

 

 昏い闇が周囲を覆い、何も見えなくなったその先に向かって藤丸立香は進み始めた。

 




読んでいただきありがとうございました!

Fateを含む型月作品は昔から好きだったんですが、設定が複雑すぎて上手く書ける自信がないんですよね。

今回も宝具同士の激突とかはこれでいいのか、今でも自信がないです。

アナスタシアのもう一つの宝具『残光、忌まわしき血の城塞』に関しても、FGO本編では使用されてないので今回は出しませんでした。

主人公である藤丸立香は初めは鉄心士郎みたいな感じで書こうかなと思ったんですが、流石にそれは不味いかなと却下し、傷ついても覚悟を決めてただ前に進むという感じにしました。

読んでいて不満はあったかと思いますが、ご容赦ください。

多分、今日から第2部2章が始まりますし、楽しみですね。


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