機動戦士ガンダムSEED ~ Fall in a Nightmare ~   作:クラウス・リッター

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序章
第0話:プロローグ


 

 

 太古の昔より、人類は飽くなき欲望や願望、或いは探究心、好奇心を抱き、その果てに様々な技術や知識を生み出し、得て、そして学んで来た。

 

 それは、例えば鉄等の金属を精錬する技術であったり、肉や魚、野菜といった食物を長期保存する技術や知恵であったり。

 

 古くは生きる上で欠かす事の出来ない“火”を利用する術であったり、現代では太陽光や風といった自然エネルギーを利用する術であったり。

 

 人類が抱く欲望や探究心、好奇心は際限が無く、時が経つに連れてそれは増していく。そしてその果てに、人類は従来神の領域とされ禁忌として認識されていた分野、即ち人の根幹たる遺伝子、生殖に関わる分野に迄手を伸ばして行く。

 

 その結果誕生した、新たな人類。

 

 人の根幹たる遺伝子を、望むがまま、思いのままに調整(コーディネート)して生まれる彼等を、人々はコーディネーターと呼んだ。

 

 人類の欲望、願望、探究心、好奇心の末、人々から必要とされて生み出されたコーディネーターの存在は、人類の輝かしい未来の新たな幕開けになるかと思われたが、そのコーディネーターの誕生はそれまでの人類、即ち遺伝子操作を為されずに自然な形で生まれた者(ナチュラル)の存在をも同時に生み出し、それは新たな対立構造を招いた。

 

 遺伝子操作により生まれつき身体能力や頭脳が常人(ナチュラル)より高い状態で誕生したコーディネーターは、自分達よりも大抵の能力で劣ったナチュラルに対して自然と優越感や侮蔑感、差別感情を抱くようになり、自分達が暮らすコロニー群「プラント」が、国民の大半がナチュラルである大西洋連邦やユーラシア連邦といった地球各国による新たな植民地であり搾取の対象となっている現状も相俟って反感、憤り、憎悪の感情を徐々にナチュラル相手に抱く様になる。

 

 一方のナチュラルにおいても、コーディネーターの持つ優れた能力に対する羨望や嫉妬、それに起因する劣等感を次第に抱くようになる。そしてそれらの感情は、程無く

 

「ネアンデルタール人を我々人類の先祖が駆逐した様に、奴等(コーディネーター)我々(ナチュラル)を駆逐するだろう」

 

という恐怖感へと変化して行く。

 

 地球に住むナチュラルと、1基1基の宇宙コロニーの連合体であるプラントに住むコーディネーター。双方が抱いた現状に対しての不満や負の感情、差別意識を要因に、両者の間では確執、対立感情が生まれた。

 

 地球に住む多くのナチュラルの間では、反コーディネーターの思想の普及や活動の活発化が起こる。

 

 中でも、アズラエル財閥をバックボーンとして誕生した反コーディネーター団体の急先鋒、自然保護団体の「ブルーコスモス」は、後に誕生する地球連合及び地球連合軍内部に多くのシンパを擁する様になるなど大きな発展拡大をみせると共に、ブルーコスモスに代表される反コーディネーター組織や団体の誕生は、ナチュラルのコーディネーターに対する差別や迫害の過激化を招く。

 

 そして迎えた、C.E.53年8月1日。

 

 この日、人類最初のコーディネーターであることを告白したジョージ・グレンは、自身がナチュラルとして生まれた事に悲観した少年の手により、大西洋連邦ニューヨーク州の一都市であるニューヨーク市中にて白昼堂々暗殺された。

 

 この、経済的にも文化的にも世界有数の影響力を有する都市で起きた1つの暗殺事件が与えた影響は大きく、この事件以後、コーディネーターを対象としたテロ行為がこれまで以上に頻発する様になり、その規模や凄惨さも増した。

 

 テロ行為の標的となり命を奪われたコーディネーターは、プロのスポーツ選手や芸術家、学者、大企業の経営者、政治家など、社会的地位が比較的高い者、著名人だけに限らない。

 

 極々一般的な生活をしている普通のコーディネーターもジョージ・グレン同様に狙われ、襲撃を受けた人の多くが命を落としたのである。

 

 一方、生命を脅かされる側のコーディネーター達であるが、彼等はこうした反コーディネーター活動が激化する以前から影に日向に行われてきた差別や迫害、度重なる強圧、反コーディネーター活動を止めさせようと、各国政府や民間団体に活動の自粛や取り締まりの強化、組織の撲滅を訴えかけて来た。

 

 しかし各国政府や市民社会は、そのコーディネーター達の訴えを長らく黙殺して来た。

 

 一向に改善される事の無い情勢に、憤りや焦り、何より命を狙われることに対する恐怖に怯えていたコーディネーター達は、明日の我が身がどうなるかも知れぬ生活に不安や絶望を抱きつつ、日々隠れるようにして生活せざるを得なかった。

 

 だが、そんな心理的に多大な負担が掛かるような生活が長く続けられる筈もなく、自殺や自らコーディネーターであると敢えて名乗り出て、反コーディネーター活動を行う団体に殺されるといった事件が続発する。

 

 そんな、自らの境遇に絶望感を抱いて生きていたコーディネーター達であるが、しかしある時そんな彼らにとり、希望の光となるような組織の話が、風の噂で流れ始める。

 

 政治結社「黄道同盟」。

 

 L5宙域でのコロニー群「プラント」の建設に従事していたコーディネーター達を中心にして、「自治権を獲得し、将来的には独立させてコーディネーターの国を作ろう」という考えの下、活動していた組織である。

 

 始まりはC.E.50年。ジョージ・グレンが暗殺される3年前である。

 

 彼等は、地球のプラント理事国の支配下にあったプラントの自治権獲得、そして将来的なプラント理事国からの完全なる分離独立を目指し政治結社「黄道同盟」を結成し、活動を開始する。

 

 黄道同盟結成当初は、決して資金や人員が潤沢とは言い難かった為に水面下でのアングラ活動が中心であったが、C.E.53年のジョージ・グレン暗殺事件以降、コーディネーターへの迫害、弾圧が過激化するに伴い組織は著しい発展拡大を見せる。

 

 そしてC.E.58年には、黄道同盟結成当初からの指導力を発揮して来たシーゲル・クラインとその盟友たるパトリック・ザラの両者が、理事国が運営するプラント運営会議の下に存在した、プラント最高評議会の議員に当選する。

 

 すると両者は、理事国側がプラントに暮らす多くのコーディネーター達の不満を逸らす為に組織された、影響力の無い名ばかりの組織であったプラント最高評議会において、これまで黄道同盟結成時から発揮して来た持ち前の指導力に加え、高い交渉力や果断な決断力を評議会の場でも発揮し、理事国側が無視し得なくなる程までに評議会の存在感、影響力を瞬く間に増大させた。

 

 加えて両者は、評議員当選と時を同じくして党勢を著しく発展拡大させていた黄道同盟の発展解消を行い、改めて自由条約黄道同盟(Z.A.F.T)を結党する。

 

 しかし、Z.A.F.Tの党勢拡大に代表されるプラント内での独立機運の高まりは、理事国側のプラントへの警戒心や高め、軍事及び経済的な圧力を著しく強める結果となった。

 

 C.E.68年には、自治権や貿易自主権の獲得を目指すプラント側の動きに対抗して、プラント理事国側は宇宙での生活に必要不可欠な食糧の輸出制限を実施。

 

 プラント側は、自らの食糧安全保障の観点から南アメリカ合衆国より食糧の輸入を企図するも、食糧を満載したプラント籍の貨物船団を理事国の宇宙艦隊が捕捉撃滅する「マンデンブロー号事件」が発生する。

 

 この事件は、プラントに暮らす多くのコーディネーター達の意識を変えた。

 

 これまで、然程独立運動に熱心でなかった者や独立運動自体に否定的ないし反対の立場であった者達ですら、その多くが反理事国・反ナチュラルの立場に転換、賛同し独立運動を推進する勢力を支持する様になった。

 

 この動きに、瞬時に反応したのが、プラント内で急激に党勢を拡大させていたZ.A.F.Tである。

 

 ジョージ・グレンの暗殺に端を発した、一連のコーディネーターに対する迫害、差別の激化は、「マンデンブロー号」事件を頂点にコーディネーター達の危機感を高め、彼等の後押しを背にZ.A.F.Tはパトリック・ザラの強力な指導の下、純然たる政治結社であった組織の改編を実施した。

 

 手始めにプラント内の警察組織や保安部隊を取り込むと、数年前より密かに開発を進めて来た新型の機動兵器を主力とした武力組織を新たに建軍する。

 

 後世、「ザフト軍」と呼ばれる事になる、武力組織の誕生である。

 

 この組織改編により、Z.A.F.Tは政治結社にして軍事組織という2つの側面を擁する組織になった。

 

 そして翌69年。プラント側は、この新たに創設した武装組織の武力を背景に、食糧自給率の向上を企図して一部のコロニーを大規模食糧生産プラントへと改装を実施する。

 

 このプラント側の動きを、プラントが本格的に分離独立に向けて動き出したと考えた理事国側は、実力を持ってプラント側の動きを排除すると勧告し、時を同じくして月より艦隊が出撃。巡洋艦や護衛艦を中心とした駐留部隊に合流した機動艦隊を加え、総計100隻にも上った理事国側の艦艇は主砲をコロニーへと向け、抵抗は無駄だとプラントに対し示威行動を行う。

 

 しかしプラント側は、この理事国側の動きに対し膝を屈する事無く、対理事国軍用にZ.A.F.Tが密かに開発を進めて来た機動兵器を出撃させる。

 

 コロニーより出撃した彼等は、砲口をコロニーへと向ける理事国側の艦隊に対し接近し、寄せては引くという機動を繰り返したり、或いは威嚇射撃を行う等して理事国側の艦隊を撤退させようと圧力を加える。

 

 コロニー内では兎も角、まさか宇宙空間で大規模な抵抗の動きを見せるとは考えていなかった理事国側は、このプラント側の動きに大いに驚き、焦る。そして同時に、自分達が持つ機動兵器(モビル・アーマー)とは明らかに違う、人型をした未知の巨大兵器が自分達に迫る様に恐怖を覚えた。

 

 そして程無く、武装を手放した状態の1機が、大胆にも理事国側の艦艇の1隻に近付き、艦橋のすぐ傍らを掠める様にして通過しようとしたが、迫る機体に恐怖を抱いたその艦が発砲は厳禁であったにも拘らず砲火を撃ち上げ不用意に接近した未知の機動兵器を撃墜してしまい、結果戦端が開かれてしまう。

 

 L5宙域事件。後年そう呼ばれる事となるこの武力衝突において、プラント側は人類史上初となる戦闘用の人型機動兵器(モビルスーツ)を多数実戦に投入し、数で勝る理事国側の艦隊を圧倒した。

 

 新兵器MSを主軸として理事国側の宇宙艦隊を駆逐したプラント側は、勢いに乗ってプラント内に駐留する少数の理事国側の在プラント部隊をも駆逐し、L5宙域に存在する他のコロニー全てを制圧して実効支配するようになった。

 

 この後、理事国側とプラント側で幾度も交渉が行われたが、最低条件として完全なる自治権の獲得と対等な貿易関係の構築を目指すプラント側と、飽く迄プラントを自身の影響下、支配下に置いておきたい理事国側の意見が一致をみる事など、端から望むべくもなかった。

 

 理事国側の交渉への態度や度重なる強圧に耐えかねたプラント側は、自らの有する軍備の拡大を進めると共に、理事国側に物資の輸出停止をチラつかせ、遂には禁輸措置を実行に移す。

 

 しかし、このプラント側の輸出停止措置は理事国側の経済を悪化させ、地球の人々の間に強烈な反コーディネーター、反プラントの意識が芽生える事となった。

 

 このような現状を憂いたプラントのシーゲル・クラインや理事国の一部の指導者は、事態の打開の為に理事国側に秘密裏に接触をし、遂には国連をも動かして話し合いの場を設けたのだが、既に事態は交渉云々で解決出来る状態を超えていた。

 

 プラント市民や理事国を含む各国市民達の間で、反ナチュラルや反コーディネーターの強硬的な世論が形成されていたのである。

 

 交渉での事態打開を望んでいたシーゲル・クラインや理事国の一部指導者達も、国内の世論を無視するわけにはいかず、彼等が最後の最後、一縷の望みを賭けていた月面は中立都市であるコペルニクス市での会談も、爆破テロ事件の発生によって無残にも打ち砕かれた。

 

 理事国側は、この爆破事件をプラント側によるテロ事件と断じ、プラント理事国延いてはナチュラルに対する宣戦布告であると見なした。

 

 そして、これまで存在していた国際連合の発展的解消という形で新たな国際組織である地球連合と、その常設の安全保障組織として人類史上初の世界規模の軍である地球連合軍を創設した。

 

 そして迎えた、運命の日。

 

 時はC.E.70年、2月11日。

 

 この日、旧プラント理事国である大西洋連邦、ユーラシア連邦及び東アジア共和国の3ヶ国を中心とした地球連合は、プラントに対し宣戦を布告。両者はこの瞬間、戦争状態に突入した。

 

 ナチュラルとコーディネーター、旧プラント理事国とプラント。両者が長きに渡って抱き、そして醸成されてきた反感や劣等感、侮蔑感、怒り、恨み、ありとあらゆる負の感情の一端が、遂に爆発した瞬間であった。

 

 

 

 

 

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