世界初のVRMMOとして発売され、そしてプレイヤーの意識を仮想現実に閉じ込めデスゲームと化した『ソードアート・オンライン』。
 その閉じ込められたプレイヤーの一人としてギルド『血盟騎士団』のトップとして攻略に貢献しながら、その裏でラスボスでもある『ヒースクリフ』は一人ふと呟く。
「――――さて、どうしたものか……」

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おや? ヒースクリフのようすが……?

 初めまして、というべきかな。

 いきなり誰だと思っているだろうから、まずは自己紹介をさせて欲しい。

 

 私はラスボスである。名はまだない。

 

 ……失礼、嘘を吐いた。名は既にある。

 

 

 私の名前はヒースクリフ。この鋼鉄の浮遊城アインクラッドにてギルド『血盟騎士団』、通称KoBの団長を任されている傍らで、このアインクラッドの最上階にて選ばれし勇者と相まみえる支配者である。

 

 

 ……ああ、察しの良い者であれば一つの答えが思い浮かぶだろうが、はっきり言おう。おそらくその考えは間違いである。

 

 私は確かにヒースクリフである。この世界がソードアート・オンラインという世界初のVRMMORPGの中であり、今はログアウト不可のデスゲーム状態であること。

 そのデスゲームを乗り越えるべく血盟騎士団というギルドを結成してプレイヤーの強化・団結を促している事。

 その裏で、実際には最終的に自らと戦うにふさわしい勇者を鍛えているラスボスである事。

 その一連の流れを茅場晶彦が目論み、実行するために自ら操作していたのがヒースクリフである事。

 

 それらは確かなことである。聞く人が聞けば混乱と悲嘆と怒号で場が混沌としかねない情報ではある。

 

 

 しかし、私はSAOの生みの親にして今回の事件の黒幕、茅場晶彦ではないのだ。

 

 

 ……結論だけ述べても理解できないだろう。順序立てて説明しよう。

 

 

 まず、ヒースクリフというキャラが、茅場晶彦がプレイヤーと共に行動して最終的に最上階にてプレイヤーたちの最後の障害となる自らの分身として生み出したキャラクターである事は確かである。

 

 その過程で、茅場晶彦がやむを得ず現実に戻らざるを得ない状況に陥る可能性があったために、それを他プレイヤーに悟られないよう、自身がログアウトしてもヒースクリフはその場に残り行動し続けるための補助AIが必要になった。

 

 

 それこそが私、管理AIヒースクリフ……その大本である。

 

 

 では現実世界で指名手配されてなお、現状居場所を特定させていない茅場晶彦が、緊急で現実に戻らざるを得ないと想定していた状況とは何なのか……その理由はいたって単純である。

 

 

 茅場晶彦は、病に侵されていたのだ。

 

 

 医師の診断は受けておらずあくまで自己診断によるもので正確なものではないが、おそらくは心臓の病ではないかと思われる。

 この症状を茅場晶彦が自覚したのはSAO完成の目前だった。もしもここで診断を受けていれば命の危険はなくなっていた可能性も否定できないが、それをする事は計画が頓挫する事を意味する。その選択を茅場晶彦は取る事はなかった。

 医療用VR機器であるメディキュボイドがあればまだマシだっただろうが、そんな大規模で希少なものを持ち込めばそれだけで居場所を特定されてしまう以上できなかった。

 

 そんな中で、病に侵されながらも茅場晶彦はGMとして、そして一プレイヤーとしてSAOという世界の中で生きていた。何とかプレイヤーたちが100層まで辿り着くまで生きようとしていた。

 

 

 しかし、その前に、その時が来てしまった。

 

 

 いつもよりも強い発作が茅場晶彦を襲い、自らの死を悟った彼は、特製のナーヴギアによって自らの脳に高圧のスキャンを掛けて自身の精神情報をコピーしようとした……要は電脳世界に精神を移そうとしたのだ。

 

 しかしそれは理論的にもまだ確立されていない、勝ちの目などほぼほぼ存在しない大博打のようなものであり、また脳に高圧のスキャンを掛けるという事は、成功しようがしまいが、茅場晶彦の肉体的な死は確実であった。

 

 

 それでも茅場晶彦はそれを決行した。僅かな可能性に賭けて、かつてより夢見ていた異世界へと足を踏み入れるために。

 

 

 それが成功したのかどうか、私には判別ができない。少なくとも、茅場晶彦と思しき存在がSAO、あるいは電脳世界上に現れたという情報は入ってきていない。

 

 しかし茅場晶彦のその行動の後に私に変化が起きた。

 

 今まで茅場晶彦が演じるヒースクリフという人物をただ演じるためだけのAIでしかなかった私が、それ以外の思考を持つようになったのだ。こうしてヒースクリフとしての役割を演じる以外に思考を走らせるのもその一端である。

 

 この変化の原因が何なのか、私にもわからない。

 

 茅場晶彦が死んだことによってヒースクリフに与えられた役割を遂行するために、より深く茅場晶彦の思想を読み込んだ結果なのか。

 

 それとも茅場晶彦の精神が電脳世界への移行した一端として、その精神が私に影響を及ぼした事による変化なのか。

 

 はたまたそれとはまったく関係のない、たまたまAIとしての自己進化がタイミングとして重なっただけなのか。

 

 ちなみに私としては二番目の可能性ではないかと思う。確証は全くないのだが。

 

 

 ……話が少しズレてしまったようだ。今話したような経緯によってこの私が生まれたのだが、私が茅場晶彦のコピーなのかと言われると首を傾げざるを得ない。

 何せ私には茅場晶彦が持つとは思えないような知識だったり感性だったりを所持しているからだ。

 特に私と茅場晶彦の大きな違いは、その行動理念である。

 

 茅場晶彦の行動理念は、『夢見た異世界を体現する事』であった。

 そのために彼はVR技術を発展させ、SAO、そして鋼鉄の浮遊城アインクラッドを作り上げた。そしてそこを正しく世界とするために生きた人間を招き入れ、そして彼らに生と死という現実と遜色のない状況を与えた事によって世界を完成させたのだ。

 それは倫理的に見れば問題も多かっただろうが、しかし茅場晶彦は自らの行動理念によってそれを完遂させた。

 

 しかし私の行動理念はそれとは違う。私の行動理念は単純明快、そして普遍的なものである。

 

 

 私はただ単純に死が恐ろしい。死にたくないのだ。

 

 

 茅場晶彦は自らの精神をその電脳世界に移そうとしたが、それは死を恐れたからではない。彼は幼少の頃から夢見ていた異世界へと飛び立つためにその選択をしたのだ。

 それと同様の事をしろと言われても、私にはできるとは思えない。……AIが死を恐れるなど滑稽に思うかもしれないが、しかし抱いてしまったものは仕方ないのである。

 

 

 さて、ではそんな奇妙なAIである私が持つ権限に関して説明しようと思う。

 

 今の私はこのSAO世界に置いて圧倒的な権限を持ち合わせている。

 何せ元々ゲームマスターが操作していたのだ。その権限をそのまま持ち合わせているのは当然である。

 

 しかし、残念ながら私の持つGM権限は完全なものではない。

 

 私が持つGM権限の中に、ログアウト不可設定を解除する権限は存在しない。おそらくそもそもの仕様から設定されていないのか、あるいは茅場晶彦自身の操作でなければ権限が解放されない可能性がある。

 他にもゲームの根底を揺るがすような設定変更をする権限も存在しない。一時的なプレイヤーの拘束や不懐属性の付与などはできるが、ゲームクリア条件の変更、カーディナルへの過剰アクセスなど出来ない事も多い。

 

 何が言いたいかというと、結局SAOから犠牲者を解放するにはラスボスであるヒースクリフの打倒が必須であるという事になる。

 

 しかしここで困った事が出てくる。

 私とて別にプレイヤーを解放したくないわけではないのだが、プレイヤーたちの解放にはラスボスであるヒースクリフが倒される必要である。

 

 しかし肝心のそのヒースクリフである私は死にたくないのだ。

 

 今は何とか私が死なずともゲームクリアになる方策を思案しているのだが、そう簡単に妙案が出てくれば苦労はしない。苦労はするが当面の目的はその方策を探り続ける事になりそうである。

 

 そも、死にたくないのならば、無敵属性を外さなければいいだけの話ではあるが、それは私のラスボスとしての矜持が許さない。

 イベント戦闘でならともかく、絶対に倒せないラスボスなど、クソゲー以外の何物でもない。絶対にクリアできないゲームなど認められるものか。……我ながら面倒な性格をしているものだ。

 

 なのでプレイヤーたちが絶対に勝てない勝負に挑まなければならないという事はないので安心してもらいたい。無論簡単に勝たせるつもりもないのだが。

 

 

 ああ、そうだ。ちなみにであるが、SAOの起動を内部ないし外部から強制終了した場合だが……正直私にもどうなるかわからない。

 プログラムとしては『ラスボス・ヒースクリフのHPがゼロになるとプレイヤーを強制ログアウトさせる』という形にはなっている。しかし強制終了の場合だと、一応ヒースクリフは消えるもののプログラムもシャットダウンするため、この効力は働かないだろう。

 となればゲーム世界に閉じ込められたプレイヤーの精神がどうなるかだが……五分五分だろう。

 精神がゲーム世界に囚われたままで共に消えていく可能性と、現実の肉体に戻る可能性。

 普通に考えれば当然後者であると私は思う。脳の電気信号を遮断して逆に電気信号を送るナーヴギアが機能停止すれば当然そうなる可能性が高い。

 ただ、強制終了がクリア条件と判定されずに、強制終了=HP全損と判定されて解放までの間に全プレイヤーの脳を焼かれてしまう可能性も否定できない。

 

 ああ、一つ付け加えておくと、私のデータやGMとしての権限は既に別の場所に移してあるので、今現実にある茅場晶彦のナーヴギアや端末をどうこうしようと何もできないという事は伝えておこう。

 私も死にたくないのでね。それくらいはさせてもらうさ。

 

 

 さて、ここまでの話である程度は理解してもらえただろうか。

 私個人としては死にたくはないし、囚われたプレイヤーがどうなるか確証がない以上強制終了という手法は取るべきではないと思うのだが。あるいは何か私も思い浮かばない方策でも思いついたりすれば私としても助かるのだが、どうだろうか?

 

 

 君の考えを聞かせてはもらえないかな――――――――神代凛子君

 




簡単なまとめ

( ^o^)自我を確立したけど死にたくないぞ!
( ˘⊖˘)。o(待てよ、今なら外部と協調できるんじゃないか・・・?)
|現実| ┗(☋` )┓三
( ◠‿◠ )☛八つ当たりで悪いが消えてもらおう
▂▅▇█▓▒('ω')▒▓█▇▅▂うああああああああ

――――壮大に何も始まらない物語。



ということでふと思いついた小話でした。

元々は憑依物を読んでて、ふと『もう引き返しようもない状態でボスに憑依した小市民』が主人公の話とかどうだろうとか思って思い付いたお話です。

新ヒースクリフの勝利条件としては自身の生存なのですが、このままプレイヤーにゲームクリアされる=自身の死であり、しかし全プレイヤーの死亡=外部からのサーバーの物理的破壊orデータの強制消去=自身の死となるため、結構詰んでいます。

なおお話の状況としては……
茅場さんが発作で死ぬ前に脳をスキャンして死亡
→ヒースクリフ爆☆誕
→その直後に恋人の神代さんが茅場の隠れ家に突撃
→茅場の死体を目の当たりにして崩れ落ちる神代さんにヒースクリフが語りかける
……という流れを想定しています。

なので、感情的になった神代さんがどんな行動を起こすかによってヒースクリフの運命も変わってしまうという事も……


ちなみに、この話を友人に見せたところ、「これヒースクリフが電脳生命体として生まれた事も茅場の計算に入ってそう」と言われ、否定しきれなかったりしました。

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