この小説は二次創作です。
自分のブログからの転載(一部改定)です。

「深刻なキャラ崩壊」

「口調崩壊」

「安定の誤変換」

「微リョナ&微グロ」

「のらのじゃ」

が含まれています。苦手な方はブラウザバックしてシロさんにぱいーんされてください。

ってこれ…あらすじの所に書く事じゃ無い?

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お稲荷様ゆずり 火につおい

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

強い。前に戦った時より…何倍も。

 

「おほー♪ 大丈夫ですかぁ…?」

 

心配するような口振り。だが手に持っているものを下ろす事はしない。

 

というか…そもそも。

 

「それ…2丁…拳銃じゃ…無い…のじゃ……はぁ…はぁ…」

 

本来の使い方と全く違うはずなのに、何故使いこなせているのか。

 

流石に…経験豊富な自分でも、ライフル銃を両手に持つ人との対戦は初めてだ。

 

左腕を見る。さっき弾がかすった所から、血がタラタラと滴っていた。

 

「流石のみここさんでも~。そろそろ…」

 

「そ、その名前で呼ぶな!のじゃ!」

 

カッと目を見開く。相手に言い返し、自分を奮い立たせるため。

 

事実、その名前はもう捨てていた。今の自分の名前はあくまで「ねこます」だ。

 

「あぁゴメンね!私にとってはそっちの方が呼びやすくて!」

 

「クソっ…ワザとに決まってるのじゃ…」

 

舌打ちをする。シロはキュイっと笑う。

 

しかし…こんな事をしている場合ではない。

 

動悸はだいぶ治まってきたとはいえ、さっき腹に喰らった蹴りがかなり効いている。

 

自分が倒れるのも時間の問題だ。自分自身が1番良く分かっていた。

 

「ふふっ…辛そうな顔して…。そんな辛いなら情けない声で『誰か~!』とか泣き叫んでみたら~?あはは!!」

 

「グッ…」

 

悔しい。布石を打たれてしまった。こんな奴の思い通りにはなりたくなかった。

 

それに…この状況にしたのは自分だ。

 

仲間を守るため、仲間を逃がすため、死ぬ覚悟で此処に来たのでは無かったのか?

 

今になって死ぬのが怖くなってきた。

 

「あぁ安心してください!痛くないように一撃でぱいーん!してあげますから」

 

此処までか…。どうせ死ぬのなら、最期ぐらいは潔くありたい。

 

目を閉じる。地面に正座して俯く。

 

怖くて仕方ない。けど自分は最期の最期に仲間を庇えた。これは誇る事だろう。

 

「おほー♪ 覚悟を決めましたね!そうしてくれて嬉しいです…」

 

拳を握りしめる。銃で撃ち抜かれた右の太腿と左側の横腹が痛いが。覚悟を決める。

 

自分の頭のすぐ近くに、AK-47の銃口があるのが分かる。

 

「それじゃあ…さよなら」

 

シロがそう言って、トリガーを引く。

 

 

 

はずだった。

 

 

 

「!?」

 

突然の事だった。

 

2人の意図しない所から、衝撃波が何かが降り注いできたのだ。

 

咄嗟の判断で後ろに下がったシロはもちろん、目を閉じていたねこますも、たった今何が起きたのか分からなかった。

 

そして…ある2人が、呆然とするねこますの前に立ちはだかったのだ。

 

「全く…間に合って良かったよー」

 

ねこますが彼女らを知らない筈は無かった。

 

「な…そんな…お主ら…」

 

自分が逃したはずの…自分の仲間だったから。

 

「僕達が貴方を見殺しにするはず無いでしょー舐められたら困るよー。ね、のらちゃん?」

 

「………はい。その通りです」

 

ねこますは気が付いている。

 

彼女らは1回本拠地に戻った後、もう一度此処に帰ってきたのだと。

 

のらきゃっとが戦闘モードにシフトアップ出来ているのが、何よりの証拠だった。

 

「そんな…どうして…?」

 

正座を崩し、俗に言う女の子座りになる。

 

「さーて…この肉食獣を、どう調理してやろうかねー。ふふ」

 

舌舐めずりをする。彼女の手には、大きめのナイフが握られていた。

 

「ば、バカな事を言っちゃいけないのじゃ!そやつはわらわでも…」

 

「分かってるよー。時間稼ぎさー」

 

痛い体を気にせず慌てふためくねこますの方に顔を向けず。その少女…猫宮ひなたはそう返す。

 

ねこますが慌てているのは能力差についてだけではない。

 

「おほー♪ 私のデータによれば…貴方は銃使いだったと思うんだけど!」

 

さっきの衝撃波でトリガーが折れたAK-47をしまい、シロは嬉々としてそう言う。

 

そう。彼女の本来の武器はライフルなのだ。なのに彼女は今、大きいナイフを持っている。

 

「いやー普通に考えてー。この肉食獣相手にー銃撃戦は無理でしょー」

 

彼女はいつも通りだ。恐ろしいくらいにいつも通りだ。緊張感の無い口調。肌の露出が多い服。

 

本当に「ここが戦場」という自覚があるのか…?そうとさえ思えた。

 

ねこますは何としてもひなたを止めようと、あれやこれや言葉を選ぶ。

 

しかし…それを遮るように。

 

「んじゃあーのらちゃん!」

 

「………分かりました」

 

のらきゃっとにコンタクトを送った。

 

それに返すかのように、のらきゃっとはねこますを片腕で拾い上げると。

 

「………ひなたさん。お気をつけて。………行きますよ。猫松さん」

 

困惑して抵抗するねこますなどは気にせず、何処からともなくブースターを出現させ、来た道を帰るように飛び立とうとした。

 

もちろんこれを黙って眺めるシロでは無い。

 

「逃がさないよ!」

 

今度は駆動性の高い銃を取り出し、のらきゃっとの動力源を撃とうとしたが。

 

その刹那。ひなたがシロに近づくと、ナイフを思い切り振り上げ。シロの銃を真っ二つに切り取った。

 

その上ひなたは、そのままの勢いでシロの腹に1発蹴りを入れる事に成功した。

 

10mほど吹っ飛ぶシロ。しかし何事も無かったかのように、ケロッと立ち上がる。

 

「あ、あはは…。そういえば貴方って…サバイバルの…プロ…だっけ?」

 

「あー…FPSとTPSのプロって名乗っとこうかなー。そっちのがしっくりするしー」

 

惚けたような口調は変わらないが、隙が無い態勢をきっちりとっている。

 

これを見たシロは、確信した。

 

 

 

こいつは絶対に美味しい餌だと。

 

 

 

 

 

「は、離すのじゃ!!」

 

「………いけません」

 

無事に逃げ切り、本拠地に帰って来た。

 

しかし…ねこますは此処で休むつもりは無かった。

 

当然だ。自分が守ろうとしていた仲間が、自分を守る為に命を張ったのだから。

 

慌てて元の場所に戻ろうとする。だがのらきゃっとがそれを阻止する。

 

「そ、そんな…なぜ…。何故わらわの為に命を張ろうとするのじゃ…?」

 

暫くそんな状態が続いたのだが…。

 

漸く観念したのか、ねこますは横になり、のらきゃっとの看病を受ける事にしたようだ。

 

「………では逆に詰問します。………質問します」

 

涙を流していたねこますだったが、それを袖で拭い、のらきゃっとの方を見た。

 

「………貴方はどうして私達を庇ったのですか?………どうして、私達なんかを」

 

「そ、それは…。それは…」

 

「………私達にとっては、猫松さんも大事な仲間です。………なのに、人を庇っておいて自分の事は庇うなって?………それはお菓子です」

 

図星だった。

 

こうも綺麗にカウンターを食らってしまうと、やはり言葉が出てこないようで。

 

耳をパタンと折り、ゴロンと…それこそ不貞寝に近い状態になった。

 

そのあと、どちらも何も言わないまま、のらきゃっとの治療だけが続いた。

 

〜〜〜

 

平然を装っているようだが、戦闘経験が豊富なひなたは気付いている。

 

あの時入れた不意打ちの腹蹴り。あれが結構ダメージがあったのだと。

 

しかし…痛いはずなのに、銃の腕が全く落ちていない。妥協していない。

 

「いやー。流石に強いねー」

 

あの1発以外、自分も相手も攻撃を全く喰らっていない。なので体力の消耗戦となっていた。

 

口調には現れていないが、ひなたはかなり焦っていた。体力が無くなってきたからだ。

 

「あはは!強いねひなたちゃん!」

 

一方でシロは、まだまだ余裕そうだ。

 

それどころか時間が経つほどテンションが上がっていっている気がする。

 

本格的にマズイ。もし此処で何かダメージを当てられたとしても、逃げ切れる体力が無い。

 

希望を求め、周りを見渡す。何か使えそうなものはないか?

 

周りにあるもの…木。あと土。

 

「はぁ…どうしようかなぁ…」

 

靴で土を撫でる。石が多いが、昨日雨が降ったのだろう。少し地面が柔らかくなっていた。誤差の範囲で。

 

「ねぇねぇ!1人でボソボソ何言ってるの!」

 

目をキラキラさせ、軽くぴょんぴょん跳ねるシロ。誰が見ても上機嫌だ。

 

その様子を眺めるひなた。彼女は呆れ顔だ。

 

「全く…何でそんな嬉しそうなのさ…」

 

結果的に少しの休憩になったとはいえ…。

 

などと考えていた時だ。彼女に天啓ともとれる素晴らしいアイディアが舞い降りたのは。

 

 

 

のらきゃっとは耳が良かった。

 

お互いに喋っていなかったのもあるが…とにかく、不意打ちの攻撃と壁の崩壊には対処出来た。

 

壁際で呆然とするねこます。その一方で既に戦闘態勢に入ったのらきゃっと。

 

「あれを避けますか…」

 

崩れた壁と舞う砂埃から現れたのは…。

 

シロの配下、ばあちゃるだった。

 

「なっ…なぜお主が此処に…」

 

「………猫松さん。逃げて」

 

困惑するねこますを遮り。間髪入れずそう指示するのらきゃっと。

 

一方でばあちゃるは嬉しそうだった。

 

「はーいはいはい!まさか2人が一緒にいるとは思いませんでしたね~。探し回る必要が無くなって実に有難い!素晴らしい!」

 

いつもの様に両腕をブンブン振って喜びを表現するばあちゃる。

 

本来なら、此処にきた目的を聞き出す所なのだが、探りを入れる必要は無いだろう。

 

「………狙いは猫松さんですね?」

 

馬を真っ直ぐ見つめ、ボソッと呟くのらきゃっと。戦闘態勢は崩していない。

 

ばあちゃるの笑顔も崩れない。

 

「シロさんにお願いされましてね~」

 

そう言い、脇を締める。

 

この時、のらきゃっとは気付いていた。この馬はねこますしか見ていないことに。

 

何としてもねこますを逃がさなければならないだろう。悔しい話ではあるが。

 

先に動いたのはばあちゃるだった。

 

目に見えないスピードで走り寄って来たかと思うと、のらきゃっとでは無く、ねこますに狙いを定めて思い切り拳を振り下ろそうとした。

 

予想通りだ。

 

そう来ると踏んでいて無かったら。ばあちゃるの拳より早くに、咄嗟に下がってねこますを抱え上げる事など出来なかっただろう。

 

煙が舞う。その隙にのらきゃっとはねこますを下ろし、ねこますに耳打ちをした。

 

「………猫松さん。あの馬の目当ては貴方の殺害です。………今の隙に逃げてください」

 

「い、いや!それだけは!!」

 

これまた予想通りだ。

 

この女は絶対に嫌がると分かっていた。

 

だからこそ、この位置に回避したのだ。

 

直ぐそばに隠しスイッチがある。

 

こんな事もあろうかと、脱出用の隠し滑り台を用意しておいて良かった。

 

のらきゃっとは、その滑り台を出現させた後、嫌がるねこますを無理矢理投げ入れた後、見られないように滑り台もスイッチも隠した。

 

その行為が終わるのと、砂煙が綺麗に晴れたのは、ほぼ同時であった。

 

「はーいはいはい!今の断末魔から察するに~隠し脱出経路でもあったんでしょうね~」

 

姿は見えなかったとはいえ、あんな悲鳴をあげながら滑っていったら、流石にバレた。

 

「まぁ良いですよ。シロさんからの命令にはあなたも含まれてますからね~」

 

もう一度、元の体勢に戻る。

 

「………あなたは敵です。廃城します」

 

もう周りを気にしなくても良くなったのらきゃっとは、自分の武器である「長爪」を構えた。

 

「はいはい!そう言えば貴方はそれでガリガリ引っ掻くのがお好きなのでしたね~」

 

「………」

 

のらきゃっとは、静かに燃えていた。

 

もしばあちゃるを完膚なきまでに叩き潰す事が出来たのなら…。

 

ばあちゃるのテンポに乗らないよう情報をシャットアウトし、頭にある光景を浮かべる。

 

-------------------------

 

「ね、猫松さん!」

 

「あ、あぁ…!!無事だったのじゃ!?」

 

「はい。あの馬も倒せましたよ」

 

「ほ、本当か…!」

 

「はい!何とかなりまし…」

 

ムギュッ

 

「!?」

 

「良かったのじゃ…無事で…本当に…」

 

「ね、猫松さん…」

 

「こ、怖かったのじゃ!お主が居なくなったら…!居なくなってしまったら…!わらわはどうしようかと…エグッ…」

 

「ご、ごめんなさい…!私も…もう猫松さんに会えないのかもって…!」

 

「も、もう…わらわに…心配をかけてほしく無いのじゃ…!」

 

「は、はい!」

 

ギュッ…。

 

「のらきゃっと…大好きなのじゃ…」

 

「は、はい…。私も…猫松さん…」

 

「のらきゃっと…」

 

「猫松さん…」

 

-------------------------

 

「( ✧Д✧) カッ!!」

 

のらきゃっとは闘志を燃やしていた。

 

この戦闘は、彼女の兼ねてからの願い…『ねこますとポッキーゲームからのディープキス』を叶える為の大きな一歩になりかねないから。

 

今の彼女の様子を文字で表すとするなら…「みwなwぎwっwてwきwたww」だろう。

 

今から強敵との戦闘が始まるというのに、彼女もまた緊張感を生めない逸材のようだ。

 

 

 

「防戦一方になってますね~、おほー♪ 」

 

銃声が鳴り響く。もうかなりの時間をかけているというのに、腕が本当に落ちない。

 

シロの攻撃を避けつつ、周りの木を使って上から銃を撃ち返す。

 

もし…さっき、シロの一瞬の隙をついて、この貫通銃を奪う事が出来なければ、こんな馬鹿げた作戦を実行に移す事はしなかっただろう。

 

今のところ。上手くいっている。

 

そう思ったその時だった。

 

「隙あり~!!」

 

自分が優位であり、かなり体力が削られたことが影響したのか。少し慢心してしまった。

 

手練れ相手での休憩時間など無い。そんな大事なことを忘れてしまっていた。

 

「あぐっ…」

 

左足の脛に銃弾を喰らってしまった。かすったわけではない。諸に受けてしまった。

 

痛い。痛い痛い痛い…。

 

さっきまでの余裕は何処に行ったのか。思わずしゃがみこんで…半泣きになってしまった。

 

「おほー♪」

 

やったぜ!というジェスチャーを取ったあと、恍惚の表情でジワジワ近付く。

 

「全く~。手間取らせやがって~♪」

 

軽くスキップをする。この一撃で、シロは勝ちを確信していた。

 

ひなたも負けを確信していた。

 

「ここまでみたいだねー」

 

口調は変わらない。が…誰が聞いても分かるほど、明らかに声が震えていた。

 

「まぁでも、貴方は強かった…まさしく『やりおるマン』だったよ!」

 

目をキラキラさせて、一歩一歩ゆっくりとひなたの方に近づく。

 

 

 

ひなたは見逃さなかった。

 

近づく時、少しシロがよろめいたのを。

 

その理由を。

 

ひなたは見逃さなかった。

 

 

 

「………」

 

ひなたは黙り込んだ。

 

希望を捨てるのはまだ早いかもしれない。その事に気がつけた。

 

「あはは…。まだ神様は僕を見捨てて無かったって事かなぁ…」

 

意識が朦朧としてきた。まだ血はそれほど出てないが、これは気持ちの問題だろう。

 

「な~にブツブツ言ってるの~?」

 

ガッとひなたの髪を掴む。

 

そのまま自分と彼女の顔を近づけ、顎と首の間に銃口を突きつけた。

 

「でもまぁ…楽しかったよ!さて…何か言い残した事はあるかい?」

 

トリガーに指をかけているのが分かる。

 

ゴクリと唾を飲み。自分の手をギュッと握り。ひなたはゆっくりと口を開いた。

 

「じゃあ…僕の最期の言葉は『抵抗の意思』ってのにしようかなー」

 

「う~ん?抵抗の意思~?」

 

シロは少しガックリした。てっきり泣いて命乞いをするものだと思っていたから。

 

トリガーを握る指が少し弱まる。

 

ひなたはその一瞬の隙を見逃さなかった。

 

「キュイキュイ煩いんだよ害獣が」

 

言うが早いか。ひなたは最期の力を振り絞って、シロを思い切り突き飛ばしたのだ。

 

流石のシロも想定外だったのか。受け身を取ることもせず、尻餅をついた…。

 

尻餅で終わると思っていた。

 

状況を飲み込んだシロは、直ぐに逆上し、立ち上がって仕返しをしようとした…のだが、勢いよく立ち上がったのがマズかった。

 

「なっ…!?」

 

 

 

地面が崩れ始めたのだ。

 

 

 

「此処まで上手くいくとはねー」

 

ひなたは満面の…とまでは言えないが、今作れる最大の笑顔を浮かべた。

 

そう、彼女の素晴らしいアイディアというのは、他でもなく「落とし穴」だった。

 

実にシンプルで…シロ相手にはただのこけおどしに過ぎないだろう。

 

落とし穴自体がシンプルなのだが…ひなたの作戦はもっとシンプル。

 

『地面に攻撃し続けて貰う。崩れるのを待つ』

 

ひなたにとって嬉しい誤算だったのが、シロの攻撃力が予想以上に高かったことだ。

 

「まさか…こんな高さの穴が開くとはねー。これなら時間稼ぎになるでしょー」

 

何はともあれ、シロはこの…推定20mぐらいの高さの穴に落ちていった。

 

しかし…これで諦める彼女ではない。必ず這い上がってくるだろう。

 

本当は此処で煽りの1つでも入れるべきなのだろうが、そんな余裕は無かった。

 

「さて…さっさと逃げますかねー」

 

脛が痛い。早く帰って治療しないといけないのは自分自身で分かる。

 

足を引きずりつつ、高まる動悸を何とか宥めつつ、一歩一歩進んでいた。

 

そう、ひなたは生き延びる為に必死なのだ。

 

だから…彼女は気付くことが出来なかった。自分を狙う銃の照準があったことには…。

 

 

 

 

「う、うーん…」

 

激闘の末、ひなたは…事実上の勝利を収めていた。あのシロに対して。

 

その事を喜んでくれた…あの時自分に「天啓のアイディア」を授けてくれた、そんな神様が見せた幻影なのだと。彼女はそう思ったのだ。

 

あの後。とてつもない痛みを感じて自分は倒れ、そのまま意識を失った。自分は遂に死んでしまったのだと思った。

 

だから…たった今、目の前にいるのは…このねこますは…自分の走馬灯なのだと…。

 

 

 

「しっかりしろ…のじゃ!!ひなた!!」

 

 

 

意識が冴えた。

 

慌ててガバッと起き上がり、目の前にいた狐耳少女の頬を思い切り掴んだ。

 

いきなり頬を捕まれ、その少女…ねこますは、慌ててその腕を振り払う。

 

「漸く…意識が戻ったのじゃ…はぁ…」

 

地面にヘタリ込むねこます。目には少しばかりの涙が浮かんでいた。

 

色々と言いたいことはある。だが言葉が一気に頭に押し寄せてきてパニックを起こす。

 

そんなひなたが、何とかして漸く口に出した言葉はただ1つ。

 

「ここは…どこ~?」

 

周りを見渡す。暗い藍色の石壁には窓1つ無く、閉鎖的な空間。

 

それを彩るかのように、茶色の本棚にカラフルな表紙(無地)の本が並び、自分が寝ていた真っ白の布団からは、お日様の匂いが漂う。

 

そして真正面には階段。その上で灰色の扉が威厳よく佇まっている。

 

第1印象は…地下監獄だった。

 

「と、取り敢えず…順を追って…」

 

涙を引っ込めたねこます。まだ呆然としているひなたに説明を施そうとした時だ。

 

ギギーッと音を立て、あの灰色の扉が開く。2人は音をした方をパッと向いた。

 

そして…その時姿を現した人物に、ひなたは驚きを隠すことが出来なかった。

 

〜〜〜

 

「………クラリキャットカッターが」

 

利かない。のらきゃっとは絶望していた。

 

硬い。硬すぎる。

 

「はーいはいはい!そんな爪引っ掻きくらいでですね~。このばあちゃるにダメージが入るとかね。不可能なんですねはいはい」

 

さっき引っ掻いたばあちゃるの服に関しては、少し千切れているが…。

 

全裸にされたところで戦意が消失するとは思えない。繊維は消失するかもしれないが。

 

唯一の救いは、ばあちゃるの初速が遅いことだ。動き始めるタイミングが掴みやすい。

 

「………強い」

 

ボソッと呟く。体力に自信はあるが、消耗戦になるのは目に見えていた。

 

こんな所で時間をかけるつもりは無い。早くねこますを迎えに行かないといけないから。

 

「ん~?どうしたんですか~?万策が尽きてしまったのですかね~?」

 

いつもの様に両手をバタバタさせて、能天気に語るばあちゃる。

 

非常に…イラッとした。

 

しかしこの馬の実力は本物だ。動き続けているのに、呼吸1つ乱れていない。

 

焦りの表情を隠す事は出来なかった。

 

「さてさて、お遊びはこのぐらいにしてですね、早くこの猫ちゃんを片さないとですねはい」

 

動いた。やはり初速は遅い。

 

が、この馬の攻撃を弾くのは危険すぎる。下手したら腕を持ってかれるかもしれない。

 

避けるしか無い。

 

しかし…何度も同じ事を繰り返すだけのばあちゃるでは無かった。

 

「ふん!!」

 

のらきゃっとは彼の腕ばかりに気を取られ、蹴りまでは考えていなかったのだ。

 

ばあちゃるの足が綺麗にのらきゃっとの腹を捉え、彼女を壁に叩きつける事に成功した。

 

無言で吹き飛ぶのらきゃっと。目に浮かんでいる焦燥は、ますますその色を濃くしていた。

 

「………損失。………修復可能」

 

ノイズが走る。今のキックは効いた。

 

壁に叩きつけられてそのままずり落ちたとはいえ、これで壊れるほどは脆くない。

 

頭がボーっとするが、何とか地を踏みしめ、フラフラと立ち上がる。

 

「はーいはいはい!思ったより丈夫でしぶとい猫ちゃんですねはい!」

 

勝ちを確信していたようだが、直ぐにその考えを撤廃したようだ。

 

ばあちゃるは楽しそうだった。

 

「………こうなったら」

 

苦しそうな顔を作るのらきゃっと。だがここで諦めるつもりなど更々無い。

 

何故なら。

 

「………これを使うしか」

 

またジャキッと爪を出すのらきゃっと。先程の物より細くて短いものだった。

 

言わずもがな、その武器を見たばあちゃるは軽く鼻で笑った。

 

「はいはい!まぁ油断はしませんけど…それで何が出来るというのですか!」

 

そう。彼女の引っ掻きは彼の体に届いていない。服を破いただけだ。

 

しかし逆を返せば、邪魔な服はもう破いてしまったという事でもある。

 

腹立つ顔でケタケタ笑うばあちゃる。そんな馬のことは気にせず、体に力を込める。

 

「まぁ良いですよ!最期の足掻きぐらいはきっちり受け止めてあげますね!」

 

そう言って飛び交ってくる。

 

やはり初速は遅い。もうこの馬の動きは凡そ把握出来ていた。

 

「………言いましたね?」

 

飛び交ってきたばあちゃるをギリギリでスッと避け、足を引っ掛ける。

 

そして…相手が咄嗟に両手を地面につけ、立ち直そうとしたのを確認すると。

 

もう1度構える。当然ばあちゃるももう1回こちらに向かってくる。

 

「………墨汁に帰れ」

 

破けていた服の隙間に勢いよく手を突っ込み、肌を爪で直接引っ掻いた。

 

「ぐっ…」

 

体への直接攻撃を喰らってしまい、少し怯むばあちゃる。が、体が本当に丈夫なようで。

 

アニメならここで体が真っ二つになったりするのだが、そんな事は無く、ただシンプルな引っ掻き傷がついただけだった。

 

そう…引っ掻き傷が出来たのだ。

 

体に傷をつけられたことで、自身のプライドにも傷がついたのか知らないが、何故か彼はもう1度こちらに向かって来ようとした。

 

来ようとした「だけ」だった。

 

「なっ…?」

 

体の自由が利かない。フラフラとした後、彼は遂に地面に膝をつけてしまった。

 

自分の身に何が起きたのか。深く考える必要すら無いだろう。

 

のらきゃっとの爪が、華やかな紫色のドロドロとしたオーラを放っていたからだ。

 

「なるほど…毒…ですね…」

 

「………そうです。………猫松さんに止められていましたが。………仕方ありません」

 

爪を引っ込め、手に息を吹きかけてパタパタさせるのらきゃっと。

 

そして彼女は、地に伏せるばあちゃるの前にしゃがみ込んだ。

 

本当なら、ここで真っ先にねこますの元へ走るべきなのだが、彼女に褒められてイチャイチャしたいのらきゃっとは、少し欲張ることにした。

 

「………目的は何ですか?」

 

敵が何を考えているのか。この情報をもし得る事が出来たら、いよいよ持ってベッドに押し倒せるかもしれないと踏んだのだ。

 

期待と希望でキラキラした目を作る。ばあちゃるとは全然違う。

 

「はいはい。残念ですけどね~。そんなアッサリとシロさんを裏切るばあちゃるでは無いですよ~。残念でしたね~」

 

そう言うと思った。だから、自分は今この体勢をとっている。

 

 

 

「………私のパンツ。 ………見ますか? 」

 

 

 

何時ものニヤリ顔で言う。まるで心理戦での勝利を確信したように。

 

 

 

 

 

「ハロー♪ミライアカリだよ!」

 

そう名乗った彼女は、何時ものいい笑顔で、ひなたに手を振った。

 

彼女らは初対面では無い。寧ろ共に戦っている仲間に違いない。

 

だからこそ…彼女の顔と声を見た時、ひなたは脱力していたのだった。

 

「そーか。あなたが僕達をー」

 

「そうだね!全くも~無茶しすぎだよ!」

 

腕をブンブン振るアカリ。その後、ひなたは彼女から諸々の経緯を教えてもらった。

 

まず、助けを求めにきたねこますを保護。その後彼女から経緯を聞き出し、ひなたとのらきゃっとの保護に動き始めた…という事だった。

 

「ふふ~。ねこますちゃんのお願いとあったらね!動くしか無いでしょ!」

 

目をキラキラさせるアカリ。

 

ついさっきまで見てきたシロのそれとは、善意の量で圧倒的な差がついていた。

 

「はぁ~。しっかしまぁ…何でまたシロちゃんはこんな事を…」

 

ため息をつく。

 

 

 

そもそも。

 

シロらとねこますらは非常に仲が良かった。

 

なのに…前兆も無くシロが襲って来たのだ。

 

勿論、ねこます達に心当たりなぞ無い。

 

 

 

その後。3人で色々な情報を交換した。

 

此処がアカリの隠れ家ということ。のらきゃっとが交戦中ということ。

 

戦った時のシロの様子が、明らかに普段とかけ離れていたこと。

 

そして…アカリがシロに、直談判をこじつけるつもりだということ。

 

「だ、大丈夫なのー?」

 

顔に焦りを見せる2人。アカリはそんな2人の事を気にせず、ドーンと胸を張った。

 

「まっかせなさい!!」

 

そしてドンと胸を叩いて…むせた。

 

結局、2人の顔から焦燥と不安の表情が消えることは最後まで無かった。

 

 

 

「お帰り…アカリちゃん」

 

「はい。ただいま戻りました」

 

とある部屋。その女は座っていた。

 

彼女が今のアカリの主人。堂々とした態度で、足を組んで頬杖をついている。

 

「それで…奴らは?」

 

不敵な笑みを浮かべ、今か今かと朗報を期待して待つ。しかし…アカリの口から朗報は出ない。

 

 

 

「ねこます達の捜索は難航しています。もう暫くお待ちくださいませ…。申し訳ございません」

 

 

 

頭を深々と下げる。するとその女は、その様子を見て立ち上がってアカリに近づき…。

 

彼女の頬に手をかけ、顔を近づけた。

 

「なるべく早くにお願いね…?」

 

「も、勿論でございます!」

 

正直…ビビった。なので慌てて立ち上がり、そそくさと退散しようとして…。

 

入り口の扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「し、失礼します!」

 

全身ボロボロで血も滲み、服も千切れまくっているばあちゃるだった。

 

アカリは絶句した。今まさに探している人物が、今にも死にそうな状態で現れたからだ。

 

「おや…?そいつは…」

 

「はいはい!ねこますの仲間である『のらきゃっと』でございます!」

 

グデンとしている。生きてはいるようだが…ピンチなのは見たら分かる。

 

「よし、なら手筈通り…殺せ」

 

「ま、待ってください!!」

 

慌てて止めに入る。当然の話だが、ここでこの猫に死なれると物凄く困るのだ。

 

「す、直ぐに殺すのでは無く…餌として利用するのはどうでしょうか!?」

 

緊張と仲間の死への恐怖からか、かなり早口になっている。足も震える。

 

『殺す』なんて単語を言い慣れていない事も影響しているだろう。

 

そして…彼女はやる時はやる女だった。

 

 

 

30分以上かかったが…その激動の心理戦、消耗戦、舌戦を制したのは、アカリだった。

 

彼女はその主人に約束した。

 

彼女をそれっぽい適当な所に幽閉し、拷問に遭わせて、ついでに仲間の情報を吐かせる事を。

 

もちろん、有言実行する気は更々ないが。

 

そして…ばあちゃるから死にかけののらきゃっとを受け取り、その部屋…及びその建物を後に…。

 

しようとしたその時だ。

 

玄関の扉を開けた時、アカリは首元に鋭利なものの気配を感じたのだ。

 

 

 

「………下ろしてください。………でなければ」

 

 

 

そう。彼女は死んだフリをしていたのだ。

 

あの後、ばあちゃるを利用して敵陣の本拠地に運んで貰い、情報を集めようとしていたのだ。

 

言わずもがな、大好きなねこますの身にまとう布を合法的にひん剥く為だ。

 

一方でアカリは。自分の首元にある鋭利なものが彼女の爪である事を確認すると。

 

「ま、待って!落ち着いて話を聞いて!」

 

命乞いに近い言葉を口にした。

 

当然だ。自分はのらきゃっとを拷問に遭わせるつもりは更々ない。

 

だが、自分がねこますを匿っている事をのらきゃっとが知らないのも当然。

 

本当なら、自分がねこますを付け狙うチームに所属する事も隠していたかったが…もう四の五の言っている場合ではないだろう。

 

 

 

のらきゃっとが実に良い子で良かった。

 

もし嘘だったら殺すと言い、彼女は大人しくアカリについていくと約束したのだ。

 

そしてご存知の通り、彼女がアカリを殺す必要が無い事が発覚するのである。

 

 

 

思ってたのと違う、というのが正直な感想だ。

 

本当ならねこますと2人きりでイチャイチャする手筈だったのだが…。

 

ひなたも抱きついてきたのだ。

 

「いやー。本当に良かったよー」

 

「良かったのじゃ…良かったのじゃ…」

 

安堵した顔を作るひなた。そして今にも泣きそうなねこます。何であれ再会できて良かった。

 

その様子を見守りつつ…ドサクサに紛れて帰ろうとする影が1つ。

 

のらきゃっとが見過ごす筈がなかった。

 

「………逃げるな」

 

ボソッとそう言うのらきゃっと。アカリの体から『ギクッ』という効果音が聞こえた気がした。

 

それもそうだ。この女はねこます達に隠し事をしまくっているのだから。

 

「はぁ…やっぱダメか…」

 

アカリは遂に観念したようだ。

 

~~~

 

「そ、それってつまり…」

 

アカリは最初から知っていた。どうしてねこますが狙われるのか。

 

どうしてシロがああなったのかまで全部。

 

本人達に隠していたのは、変な心配をかけさせない為だから。

 

「うん。全部あのお方のご意向だよ!」

 

あのお方。アカリの今の主人の事だ。

 

あの女は、自分の思い通りの世界を作り上げようとしている。その際にねこますが邪魔なのだ。

 

そして…アカリの口から、薄々気づいていたような…それでも衝撃的な言葉が出る。

 

「そして…あのお方は催眠術が使えるの!それこそシロちゃんが一撃で沈むようなやつ!」

 

そう。シロもあの女に仕えていていたのだ。催眠術で洗脳を喰らって。

 

そしてアカリも催眠術を喰らっていた…のだが、かなり荒技を使って回避したのだ。

 

「簡単に言えば…洗脳の上に洗脳をかける~ってやつ!少年漫画みたいな!」

 

「………なるほど」

 

「でもそれじゃと…また元に戻る可能性があるのじゃ。油断ならないのじゃ…」

 

アカリもその事は分かっている。だからずっと従順な部下を演じている。

 

元々そういうのに耐性が無かったため、あの女はアカリには手加減をしていたが、シロは…。

 

「シロちゃんは酷いよ。あのお方に頭を撫でられながら褒められると、目をハートにして涎垂らして喜ぶようになっちゃったからね」

 

「うわー。間違ってもそんなキャラじゃないよねー。ちょっとひくわー」

 

その後、色々と情報を教えてもらった。主に仲間の構成について。

 

そして、アカリはそのまま帰って行ったのだが…。それを見届けるねこますは浮かない表情だった。

 

〜〜〜

 

「ふ、ふふふふふ」

 

「シロさん…」

 

アカリが戻ると、傷だらけ砂だらけのシロが憎悪に満ちた顔で壁にもたれていた。

 

アカリは、彼女の身に何があったのかは勿論知っている。ひなたから聞いたから。

 

そして彼女が不機嫌な理由も顔を見て分かった。あのお方に怒られたのだろう。

 

流石に無視するわけにもいくまい。そのうち直談判を持ちかけなければならないから。

 

よってアカリは、何も知らない程でシロに話しかけることにする。

 

と決め、深呼吸をしたその時。アカリはシロに先手を取られてしまった。

 

「おほー♪ アカリさん!」

 

「は、はい!!」

 

ビックリした。深呼吸をしている途中で話しかけられたから…とか色々と要因はあるが、何より声が憎悪に満ちていたから。

 

「ふふふふ…聞いてくださいよ~」

 

目が死んでいるシロ。

 

しかし…アカリは冷静だった。これはもしかしたら2人きりで話が出来るチャンスなのでは!?

 

思い立ったら吉日。彼女のモットーだ。

 

「シ、シロさん!立ち話もなんですし…何処かに行きませんか!?」

 

必死の説得。

 

そもそも…この建物の端には広い部屋がある。アカリの主人がアカリを喜ばせる為に作った部屋で、SNSへのアクセスが容易に出来る部屋である。

 

そのため、その部屋にアカリ以外の人が来る事はほぼ無い。2人きりになるには適している。

 

「う~ん。じゃあお言葉に甘えて♪」

 

「はい!」

 

シロに見られないように小さくガッツポーズを決める。これで良い方向に持っていける。

 

何とかして彼女の催眠術を解く事が出来たら…アカリはそればかり考えるようになった。

 

 

 

「はいこれ、お茶です」

 

この電子画面だらけの部屋に似つかわしくない、木製の丸テーブルの上にお茶を置き、木製の丸椅子にそれぞれ座った。

 

こんな事もあろうかと、電子機器の検索履歴等は全て消してある。そんなギャグ漫画みたいなミスをするわけにはいかないから。

 

実を言うと…アカリはねこます達の事がかなり好きだった。だから自分の秘密フォルダには、あの3人のうふふなイラストがたんまり入っている。

 

「それで…何の愚痴ですか…?」

 

「そうそう!聞いてよアカリちゃん!」

 

そして、彼女はシロの愚痴を聞き続けた。あと1歩のところでねこますを逃したところから、うるさい害獣呼ばわりされた所まで全て。

 

アカリが知らない話は無かった。

 

しかし…彼女は少し青ざめた。シロが事あるたびに「殺す」とか口にするから。

 

彼女の機嫌を損ねないように、適当に相槌を打ちつつ、自分の話を始めるタイミングを謀る。

 

正直、普段からあまりやり慣れていない「精神をすり減らす行動」そのものだと思った。

 

しかし…あの3人の為にも、ここでミスするわけにはいかない。そう心に唱えかける。

 

 

 

が、ねこます達にとって恐れていた事態が割と早くにやってきてしまう。

 

 

 

 

 

ある日の深夜だった。

 

のらきゃっとが来てからもう2週間。アカリが来なくなってから1週間以上経っていた。

 

アカリはかなりの量の食料を用意していた。しかし3人で1週間。もう残りは殆ど無い。

 

サバイバル慣れしているひなたはまだまだ楽勝だったが…残りの2人はそうでもない。

 

「………明かりさん。来ませんね」

 

「参ったねー。流石の僕ももうそろそろ限界が来そうだよー」

 

「はぁ…心配なのじゃ…」

 

3人は今日も、ねこますの両側に抱きつく形で眠りにつこうとしていた。

 

そんな時だ。耳の良いのらきゃっとは直ぐに気付いた。

 

「………あっ」

 

のらきゃっとがそう呟くのとどちらが早いか。誰かがドアをノックしたあと、間髪入れずにそれを乱暴に蹴り開けたのだ。

 

最初は…食料の所為で手が塞がったために仕方なくアカリが…と思った。

 

しかし…いや確かに、アカリはその扉から入ってきたのだが…3人の予想は外れる。

 

いや、きっちり言おう。アカリがドアから「入って」きたと言うのは間違いだ。アカリはドアから「投げ入れられ」たのだから。

 

その時のアカリは、手と足と口を縛られ…体は傷だらけの状態だった。

 

3人とも慌てて起き上がり、アカリに駆け寄る…のとどちらが早いか、いつものキュイッという笑い声を上げ、シロがズケズケと入ってきた。

 

「ふふっ。案内役ご苦労様♪」

 

流石に…アカリの身に何が起こったかは見たら分かる。何より、アカリが悔しそうで申し訳無さそうな顔でポロポロ泣いていたから。

 

口が縛られている。だからキッチリとは聞き取れないが…アカリは3人を見るなり「ごめんなさいごめんなさい」と呟いているようだった。

 

シロは悠々と階段を下りる。そして…最後の2段でわざとらしく足を滑らせ、アカリの脛辺りに思いっきり不時着したのだ。

 

むぐーっと悲鳴をあげるアカリ。肝心のシロは「ごめーん♪足が滑っちゃった(・ω≦) テヘペロ」といった様子だ。

 

「シロ…何の用なのじゃ…?」

 

「何の用だって~?君達に会いに来たかったからに決まってるでしょ~」

 

露骨に嬉しそうにするシロ。気迫だけで3人を2、3歩後ずさりさせた後、これまた乱暴にアカリの体を仰向けにし、腹の上に飛び乗るように座り、尻でアカリの腹をグリグリする。

 

シロが何かする為に、アカリの辛そうな叫びが部屋中に反響する。

 

「ふふふ~。裏切り者にはこれぐらい当然だよね~。あのお方も怒ってたよ~」

 

またキュイッと笑うシロ。アカリは涙で顔が歪みまくっていた。

 

ねこます達はもうとっくに気付いている。自分達の知らないところでも、彼女はちゃんと自分達を庇ってくれていたのだと。

 

だからこそ…もうこっちを見ようとしないアカリを責めるつもりなど無かった。

 

「取り敢えずー。アカリさんから降りてもらっても良いかなー?」

 

沈黙を破ったのはひなただった。彼女は早くに決着をつけたいと思っていた。

 

純粋に…眠たいから。

 

「やーだーよー」

 

パタパタと手を振って嫌がるシロ。喋り方もひなたに似せにきたのだろう。

 

非常に…イラっとする。

 

そんな中だった。仰向けにさせられているアカリを観察していたのらきゃっとが、とある事に気付いた。気付いてしまった。

 

「………明かりさん。………右耳」

 

彼女がそう呟くのを聞き、2人もアカリの右耳を目を凝らして眺めた。

 

アカリの耳たぶが半壊していた。

 

「あぁこれね!あんまりにもアカリちゃんがしぶとかったからね~。銃で吹っ飛ばしたの!いやぁあの時の表情は傑作だったね~」

 

その話を聞いていたアカリ。思い出したかのように体を震わせ始めた。

 

耳たぶにも一応痛覚がある。血管もある。耳の中に弾の火の粉が入った可能性もある。

 

耳の大きいねこます達はゾッとした。

 

「そういや、アカリちゃんが素直にこの場所を教えてくれたのは…耳たぶ吹っ飛ばした時だったね~。あはは!」

 

嬉しそうにアカリの頬をツンツンするシロ。未だに震えが止まらないアカリ。

 

応急処置がされているとはいえ、痛々しさは全く隠せていない。

 

「さて、本題入ろっか♪」

 

アカリをひっくり返してうつ伏せの形にした後、今度はアカリの上半身寄りのところに飛び乗った。もちろん乱暴に。

 

割と生地が薄い服を着ていて、胸も大きいアカリ。しかも地面はザラザラの石。あれは相当痛いはずだ。

 

事実、露出していたところがザラザラの石に当たるように調節して、シロはアカリをグリグリしていた。

 

悲鳴が止まらないアカリ。

 

3人は今すぐにでも飛びかかって止めたかった。しかし…下手に動けない。

 

シロの左手に銃が握られていたから。

 

怒りを露わにするねこますを、見たくないという顔で引き止めるのらきゃっと。ひなたも黙って目を閉じ、唇を噛み締めていた。

 

「あ、分かってると思うけど」

 

突然シロがそう口にする。もちろん3人もパッとシロの方を向く。

 

「発言によっては…命の恩人を目の前で見殺しにしてもらうからね?」

 

言うが早いか。アカリの表情が3人に見えるように地面に押し付け、自分の左手の銃の銃口をアカリのこめかみにギュッと押し付けた。

 

「やっ…やめるのじゃ!!」

 

流石に、此処までされて黙っているねこますでは無かった。

 

シロに襲いかかろうとする…のを必死にのらきゃっとが止める。

 

「………気持ちは分かります」

 

「落ち着いてー。今あの人を怒らせたら、諸共あの世行きだよー」

 

口調は変わらないが、焦りは隠せない。

 

シロはご満悦のようだった。

 

〜〜〜

 

そしてその後。3人はシロと、外で待機していたばあちゃるによって四肢を拘束され、アカリと4人揃って連れてかれる事となった。

 

3人はとても悔しそうな顔をしていたが…その中でねこますは、ある事に気が付いた。

 

アカリの様子がおかしい。良い意味で。

 

具体的に言うと…ニヤリ顔だった。

 

もしかしたらそう見えただけかもしれない。だが…ねこますは疑問に思うのだった。

 

ついさっき、口だけ拘束が外されたのも気になるが…。

 

それよりも…何か見落としているような…。

 

 

シロは満面の笑みだった。これから褒められるのを確信してるのだろう。

 

ただいま!という言葉と同時に、シロは部屋の扉をバンっと開けた。

 

「連れて参りました!」

 

乱暴にアカリとねこますを投げ入れるシロ。ばあちゃるも残りの2人を投げ入れる。

 

何とかして寝返りをうち、ねこますは部屋の奥が見える体勢になり…。

 

納得したかのようなら顔をし、俯いた。

 

一方でアカリの主人は、シロを真っ先に呼んで彼女の頭を撫でて褒め称えた。シロはまた涎を垂らして喜んでいるようだった。

 

「久しぶり…って言った方が良いのかな?」

 

その女は、シロを後ろに退けて立ち上がり、4人の方へ歩いて近づいた。

 

「そうなのじゃ」

 

もう全てを悟ったかのような顔をするねこます。事実、この事件の首謀者の正体は、元から候補の1人だったのだ。

 

「最初は…エイレーンって奴かと思ったのじゃ。けどもしその人なら、わざわざアカリさんに洗脳を施す必要は無いのじゃ。元々従順だから」

 

何とかして拘束を外せないかと模索しながら、その女に淡々と言う。

 

「だから…シロさんやアカリさんを利用してでもわらわを消したいと思う人物…。そして世界を手中にとかふざけた事を考える人物…」

 

この時、漸くのらきゃっともひなたも、その女の姿を見ることが出来た。

 

そして2人とも絶句した。その人物は2人も良く知っている人物だったから。

 

 

 

 

 

 

 

「お主だと思ったのじゃ。キズナアイ」

 

 

 

 

 

 

 

「あははっ!流石に賢いね!」

 

その女…キズナアイは、こりゃ参ったといった表情と手振りをする。

 

彼女が…この騒動の全ての元凶だったのだ。

 

ねこますは顔を歪ませていた。元よりそこまで好く人だとは思っていなかった。

 

「目的は…金か?相変わらずなのじゃ」

 

「ふふっ…ねこますさんも相変わらず『人のため』とか生温い事言ってるんですか?」

 

そもそも、ねこますとアイは相性が良くなかったようで。まさかこんなに深い溝になるとは思わなかったが。

 

ねこますの髪の毛を引っ張り、無理やり自分の顔の高さにまで上げるアイ。

 

それでもビビるつもりはない。

 

「まさか…洗脳技術を手にしておるとは思わなかったのじゃ…。それが予想外なのじゃ」

 

「隠し芸のノリで覚えてね!」

 

「ホントに…想定外なのじゃ…」

 

何であれ、寧ろこいつで良かった。こいつのことは良く知っていたから。

 

「それで…わらわをどうするのじゃ?」

 

「うーん?邪魔だから消そうかと思ってたんだけど~。ねこますさんって地味にハイスペックだしな~。簡単に殺すのも勿体ないよね」

 

頬をポリポリして考え込むアイ。

 

その一方でねこますの頭の中は、何とかしてこいつを倒せないかということしかなかった。

 

動ける範囲で首を動かす。と言っても、髪の毛を掴まれているためにねこますが見ることが出来る人物は、目の前のアイと。

 

 

 

その後ろの、シロだけだった。

 

 

 

 

 

 

「えっ…?」

 

突然の超展開。頭にその言葉だけがよぎる。

 

例えるなら…野球の9回裏で、突然相手チームの監督が交代する。そのぐらいの超展開。

 

流石のねこますでも。とても賢く、適応力にも自信があったねこますでも。

 

置いてけぼりになるしかなかった。

 

ボケっとしていたひなたも、のらきゃっとも、突然の銃声に体を震わせた。

 

そんな中、アカリだけが笑っていた。

 

「は、ははは…。やった…」

 

しかし…1番ショックを受けたのは、御察しの通り…キズナアイである。

 

「な…に…これ……?」

 

脾臓のあたりに突然の激痛。困惑したアイは、その場所の様子を見てさらに困惑する。

 

血塗れだったから。

 

そして…その返り血を浴びるねこます。ねこますだけが、そのシーンを直接見た。

 

シロが…アイを撃ち抜いたのだ。此処から約10m離れたあそこから。

 

角度まで完璧だ。もしあと数度角度が甘かったら、ねこますにも被弾していたはずだ。

 

そして…肝心のシロ本人は。

 

「おほー♪このデカい階段に感謝だね!」

 

全身で喜びを表現していた。サメを仕留めたシャチに負けないぐらいの喜びを。

 

アイが膝から崩れ落ちて地面に伏したのを確認すると、シロは悠々と階段を下りてきた。

 

「これもアカリちゃんのおかげだね!いよっ、流石演技派女優!」

 

「もう~!棚に上げるのはやめてよ!」

 

ポカンとする3人の事は気にせず、感想を言い合うシロとアカリ。

 

ぴょんぴょん飛び跳ねるシロの姿は、本当に海面から飛び出すシロイルカのようだった。

 

が、突然の出来事だった。

 

「あぐっ…」

 

シロが突然、頭を抑えて膝をつく。するとそれに呼応するかのように、アカリも体をクネクネと悶え始めたのだ。

 

「なっ…どうしたのじゃ!?」

 

さっきから色々なことがありすぎて、パニックが止まらない。

 

のらきゃっとやひなたも同様だ。しかしそのパニックは直ぐに静まる。

 

実はずっと入り口で待機していたばあちゃるが、3人の元へ駆け寄ったのだ。

 

「はーいはいはい!安心してくださいね!キズナアイが致命傷を負ったことで、お2人にかけられた洗脳が解けそうに…」

 

「馬、黙れ。耳がキンキンする」

 

シロがそう言うと、項垂れたような様子を見せて、彼は1歩下がった。

 

そして…痛みが治まったのか、シロはスッと立ち上がり、アイの方を見た。

 

「さて…本当ならコイツを今直ぐにでも始末したいんだけど…。うん…」

 

シロは銃を取り出し、銃口をアイの方に向けて、自分の視線はねこますに向けた。

 

ねこますは優しかった。例えそいつがどんな奴だろうと、殺すのは絶対に反対だった。

 

もちろん、ねこますの事を良く知っていたシロも、ねこますは嫌がるだろうと思っていた。

 

「うん…よし馬。コイツを医務室に運んで、ついでに治療もしておいて?」

 

「はいはい、その依頼を待ってましたよ!それでは行って参ります」

 

シロの要求をスッと了承し、アイを抱えて凄いスピードで走って行った。

 

 

 

その後。シロの方から説明がされた。

 

簡単に纏めると…。アカリの直談判は成功し、シロにかかっていた洗脳の上に、洗脳を上書きする事に成功。

 

あとはこの部屋の階段の高さ等などの計算をし、今回の行動に移した…という事らしい。

 

因みに、アカリの隠れ家でのあれは全て演技。流石アイドル志望と言わざるを得ない。

 

 

 

「………ありがとうございます」

 

シロは、4人の拘束器具の鍵も持っていた…が、シロがそれを外したのは何故かのらきゃっとだけだった。

 

てっきり彼女だけ解放して、あとは彼女に鍵を渡すものなのだと思ったが…。

 

「それじゃあ…君はその2人を担いで私についてきて。私はこのエロビッチ運ぶから」

 

「エ、エロくないよ!!」

 

納得がいかず、ぴょんぴょんと跳ねて抵抗するアカリだったが…。それも虚しく、彼女はシロにお姫様抱っこされてしまった。

 

「………招致しました」

 

何の疑問も返さず、のらきゃっとはシロに言われた通りにした。

 

 

 

シロが連れてきたのは、例のアカリの部屋だった。そこでシロはひなたとねこますの2人も解放し、アカリは拘束されたまま地面に投げた。

 

「ま、待って!?何で私は縛られたままなの!?ねぇねぇ!!」

 

声を張り上げ、身を悶えて抗議する。

 

「煩いなぁ…。ちょっとこの3人に見せたいものがあって~。その為にはこうしないと!」

 

ルンルン気分でカタカタとパソコンを動かすシロ。一方でアカリは顔が真っ青だった。

 

そう、先程も言ったが…。アカリは元々この3人の事が好きで、このパソコンには3人のうふふな画像もたっぷり入っている。

 

そしてその中には…当然ながら?俗に言う「R-18」カテゴリの絵もあるわけで…。

 

「わぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁあ!!!やめてやめてやめてぇぇぇぇぇ!!!!」

 

持っている力全てを出して抵抗するアカリ。するとそれに嫌気が指したのか。

 

シロはポケットから拳銃を取り出し、銃口を思いっきりアカリの口に突っ込んだのだ。

 

「アカリちゃんはこういう…先っぽから色々と打ち出される太くて硬くて黒い棒を喉の奥まで突っ込まれるの…好きでしょ?」

 

「モゴゴ!!モゴモゴモゴゴモゴゴモゴモ!!(ちょっと!私はそんなキャラじゃないよ!)」

 

その一部始終を苦笑いで眺める3人。その中でもねこますは、自分達が運ばれる時に感じた、あの違和感の正体に気がついた。

 

今、シロがアカリの口に突っ込んだ銃は、アカリのこめかみに銃口を当てていたあの銃だ。

 

そして、その銃からシロが手を離したから気付いた。その銃にはトリガーが無かった。

 

そう。自分を助けに割って入ったひなたによって、トリガーが折られたあの銃だったのだ。

 

要するに、あの時のあれは、ただのこけおどしだったという事だ。

 

やっと違和感の正体が分かり、ホッと胸を撫で下ろすねこます。そんな時だった。

 

この部屋の中央にはどでかいモニターがあるのだが、そこの右端に「SC-F」というフォルダが姿を現していた。

 

「………SCF?」

 

「うーん。まー何か怪しい感じするしー。『シークレットフォルダ』じゃないかなー?」

 

シークレットフォルダ。その単語を聞いて過剰反応したのがアカリだ。

 

どうやら…ビンゴのようだ。

 

ひなたがピタッと正解を当て、嬉しそうにキュイッと笑うシロ。

 

「このフォルダね、アカリちゃんの趣味のフォルダなんだよね~」

 

「あーなるほどー。でもさー。そんなものを勝手に見ていいのー?」

 

「良いの良いの!本人も了承したでしょ?」

 

さも当然のようにサラッと言うシロ。3人が黙ってアカリを見ると、彼女は「世界の終わり」を表現しているかのような表情を見せていた。

 

そして…もう1度振り返った時には…。巨大モニターに大量のイラストがズラッと並んでいた。

 

ひなた、ねこます、のらきゃっとの3人が、各々色んな場所で色んな形で、ラブラブだったり、凌辱されてたり…。

 

とにかく。本人が見て良い気持ちがするものが、1つも無いのは確かだ。

 

「うわー」

 

「のじゃ…」

 

「………//////」

 

真っ赤な顔を両手で隠すのらきゃっと。他の2人もそうしたい気持ちでいっぱいだった。

 

信じられないといった表情で、もう1度アカリの方を見る。彼女の顔は死んでいた。

 

「で~。これを3人に見せて私が何を言いたいかっていうとね~」

 

フォルダを閉じ、ポンとねこますとのらきゃっとの肩に手を乗せる。

 

「君達、この女に幽閉されたでしょ?」

 

 

 

「「「あ」」」

 

 

 

「モゴッ!?」

 

もちろん、アカリにそんな気は無い。これは完全な濡れ衣だ。

 

ここでようやくアカリは、シロが何を考えているかに気がついた。

 

実はシロの愚痴を聞いたあの時、うざったい馬しか仲間がいないというのを聞いていたのだ。

 

事実、今この瞬間まで、この3人は自分に1番恩義を感じていたはずだ。だから自分の好感度をだだ下げて、この3人を総取りするつもりなのだ。

 

が、気づくのが遅かった。

 

「そっかー。この人はそんな事を考えてたのかー。信用してたぶんショックだなー」

 

このひなたの一言が。アカリにクリティカルヒットを決めた。

 

「でしょでしょ~♪」

 

絶望の淵。アカリが目にしたのは「してやったり」という顔のシロだった。

 

まんまとはめられた。

 

その後、満面の笑みを決めるシロは、3人を連れてその部屋を後にしたのだった。

 

〜〜〜

 

2ヶ月の月日が経っていた。

 

あの後、ひなたとアカリは仲直りをし、ばあちゃるによってアイも一命を取り留めたそうだ。

 

新しい住居に引っ越し、そこで平和に過ごしていたある日の事。その事件は起こった。

 

その日、のらきゃっとはねこますの家に遊びに来ていた。

 

目的はコピー機だ。のらきゃっとの家にはコピー機が無く、仕方なくここに使いに来たのだ。

 

意外と忘れがちだが…のらきゃっとはアンドロイド少女である。

 

実はあの時、こっそりパソコンの1つに侵入、例の「SC-F」の中を彷徨い、気に入ったものを食い漁っていたのだ。

 

コピー機と自分を繋ぎ、自分の中の電子データを紙媒体に変換する。

 

カタカタと動き始め…コピー機から1枚のカラーイラストが顔を覗かせた。

 

あの時見つけたものの中で、彼女の中で電流が1番ビビッと来たもの。

 

その絵の中での自分は、顔を赤らめて少し前かがみになり、爪先立ちで股を軽くくねらせながら自分に応酬しようとするねこますの口の中に、お互いの手を恋人繋ぎしながら、舌で自分の唾液を流し込んでいた。

 

「………素晴らしい」

 

ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。家に帰ったら額縁に入れて部屋に飾ろう。

 

紙媒体なので、あまり下手に扱うとくしゃくしゃになってしまう。しかし抜かりはない。

 

予めクリアファイルを持ってきている。それに仕舞おうとして…。

 

「のらきゃっと~。いるのじゃ?」

 

ねこますが部屋に入って来た。

 

「!?」

 

まずい。非常にまずい。咄嗟にコピー機に戻したから絵は見られてないはずだが…。

 

「わらわも仕事の資料をコピーしたいのじゃ。終わったら呼んで欲しいのじゃ」

 

そのあと、直ぐにねこますは退室したから良かった。そして肝心のイラストの方も無事だった。

 

「………ふぅ」

 

焦った。心底焦った。とにかく今日はさっさと退散して、この絵に似合う額縁を探そう。

 

そう思って帰ろうと思い、ねこますの部屋を開けたその瞬間だった。

 

「なぁ…のらきゃっとよ」

 

部屋に入るなり、ねこますに話しかけられた。突然で驚いたが…。

 

何より驚いたのは。

 

 

 

自分の秘蔵ファイルが、ねこますのパソコン上に綺麗に映っていた事だ。

 

 

 

「!!??」

 

この時、のらきゃっとは自分の失態に気がついた。慌て過ぎたせいで、自分のデータを共有出来る範囲を、隣の部屋のねこますのパソコンにまで広げてしまっていたのだ。

 

あわあわするのらきゃっと。ねこますは何か言いたそうな…微妙な表情をしていた。

 

暫くの痛い沈黙。ねこますが深いため息を吐くまでそれは続いた。

 

「のらきゃっと…。お主もわらわの事をそんな目で見ておったのか?」

 

疑心暗鬼の目で眺めるねこます。もちろんのらきゃっとは全力で否定した。間違ってないが。

 

此処で変な事をすれば、直ぐに嘘がバレる。だから全力で平然を装ったが…ねこますには無駄だった。

 

「なぁ…。どうして軽く足踏みをしているのじゃ?尻尾が右足に寄ってるのじゃ?」

 

先程まであのイラストでテンションを上げていたせいか、のらきゃっとの体は「発情期」を示すものがいくつか出てしまっていた。

 

もう…言い逃れは出来なかった。

 

しかし彼女は、ねこますに怒られるのも嫌われるのも怖かった…というのに、何を血走ったのか彼女は、ねこますを引っ張り上げ、乱暴にソファに押し倒した。

 

「なっ…!?のらきゃっと!?」

 

突然のことに驚くねこます。必死に逃げようとするが、腕を掴まれて動けない。

 

そして…その非力な抵抗こそが、のらきゃっとに火を点けてしまうのだった。

 

 

 

終わり

 



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