大泥棒の卵   作:あずきなこ

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88 状況確認

 頭部を切り落とした首から血が吹き出すより前に、腹部を強く蹴って胴体を弾き飛ばす。地面に赤い線を引きながら転がった胴体は、数m離れた位置で停止した。

 刃物に着いた血を拭い取りって後ろ腰に収め、足元に落ちていたトーガンの顔を拾い上げる。

 見開かれた目。引きつった口元。恐怖と絶望に歪んだ筋肉。血の気の失せた色。無念を伝える表情。

 特に思うこともなく、死体に背を向けて歩き出す。思考を切り替え、戦闘前に放り投げていたお面を回収し、一応生き残っている相手の元へと戻る。

 

 幾つかわかったことがある。

 死ぬ直前と、死んだ後。トーガンの浮かべていた表情に変わりはないのだけれど、それに対して私が抱く感情がまるで違う。

 そもそも殺す直前に何らかの感情が湧き上がることは稀で、ケースが少ないせいで判断材料に欠けるから今はなんとも言えないけれど、それはこれから自分の中でじっくり消化していけばいい。

 何にせよ、多少は気持ち悪さが軽減されてよかった。

 それと人間の死体をぶん回すのは攻撃能力に欠けるということだ。特に今回は女の肉ということもあって硬さが足りないし、用途がアレだったからあまり振り回せなかったし。

 でもまぁ人間水風船は相手次第では中々の効果だ。目眩ましにもなるし精神攻撃にもなる。胴体はデカいからアレだけど頭だけなら使えるかもしれない。基本的に自分の仕事の時は1対多だし、その時上手く使えば多少楽できるかもだ。

 そして最後に、アイツらは結局大して強くないということだ。いや、まぁ速度やパワー、手数は脅威を感じる部分もあったけれど、結局はそれだけだったというか。

 速いし、力も強いけど、それを戦闘……と言うか、同格以上の相手に上手に扱う術を知らないというか。要するに実戦経験が乏しく、ただ動いているだけなのだ。

 トーガンや、能力で動きを強化したキノコはその典型。力に振り回されているせいで動きに無駄が多いし軌道も読めるし、何よりも彼ら2人になってからは終始私のペースで進み、結局実力を出し切れていない。

 今までであれば基礎能力でゴリ押しできていたからこその、戦闘技術の低さ。だからこそ生け捕りになるし、それで学習はできても動きに反映させるための訓練の時間はなかった。

 まぁ最初に私を見た目で侮っていた時点でお察しだったか。そう考えるとマチ達が担当した方は4もの幻影旅団員を前にして平常心だったし、あっちは苦戦してそうだな。

 

「あ゛ー……、……疲れたぁ……」

 

 低めの溜息とぼやきを発し、うつ伏せで倒れ伏しているキノコの背中に腰を下ろす。そして彼からオーラを回収。

 多少落ち着いた状況になり、脳内麻薬の分泌も止まった今では背中の痛みが一番強い。最初に壁にたたきつけられたのと、突撃のためにほぼ最大威力の自分の能力食らったから仕方ないことだけど。

 状況を確認がてら、柔らかい敷物の上で少し休憩させてもらおう。攻撃食らわないために数分間全力で動きまわったせいで疲れた。

 オーラは私の尻の下のタンクから死ぬまで搾り取って回復できるけれど、身体を動かしたことによって失われた体力なんかは回復できないのだ。

 そういえばキノコとドレスの女の名前はともかく、私の髪を燃やしやがった犯人が特定されていない……けど、もうコイツでいいか。初見で何かそれっぽいって思っただけだけど。

 

 焦げて短くなった毛先をいたわるように指先で撫でながら、ウボォーの携帯電話を操作する。

 夜の中で明るく光る画面のある一点、現在の時刻を表示する部分を見ると、既に日付が変わって現在は9月2日の0時過ぎ。

 この時間なら多分、ウボォーの方はもう終わっているはずだ。それを確認するために、そして他にもとある事柄を確認するためにする電話。

 私のケイタイの電話帳にも入っている、とある番号。頭の中にもしっかりと刻みつけていたそれを淀みなく打ち込む。

 電話を発信し、耳に押し当ててコール音を聞く。が、一向に繋がらない。おかしいな、いつもなら電話するとすぐ出るのに。アレか、今は珍しく出かけてるからか、それとも番号非通知設定だからか。

 今度は番号通知設定にして発信。コール音が4回ほど聞こえた後、それが途切れて電話がつながった。なるほど、非通知は取らないのか。

 

『……誰だ?』

「私だ」

『誰だ』

 

 警戒心が強く表面に現れた、硬い男性の声が聞こえてくる。私もあまり聞いたことのない種類の声だった。2度目のそれには呆れと若干の動揺が混じっていたけれど。

 まぁ当然か。使ってるのが私のケイタイじゃないから、2度目は番号通知設定にして彼が電話に出やすくしたとはいえ、ディスプレイに表示されたのは彼にとって心当たりの無い番号だし。そこから私の声が聞こえてきたら疑うのも当然。

 しかも今のところほぼオレオレ詐欺みたいな状況だし。声で検討はついただろうけど、そんなもの偽造は簡単だから本人か偽物かはそれだけじゃ判断できない。

 

「みんなのアイドルメリーちゃんことメリッサ=マジョラムだよ、ミルキ君」

『そんな名前の知り合いは居ないな』

 

 電話口の相手は世界一の暗殺一家の次男坊、ミルキ=ゾルディック。今回の件のある意味での協力者。

 きちんとフルネームで自己紹介をしてみたけれど、返ってきたのはつれないお言葉。まぁこの辺りは想定内だ。

 彼はお家柄の都合上、こういった電話に対する警戒心がかなり強い。私が自分のケイタイから電話すれば会話してくれるけど、やはり事前申告無しの他の携帯からでは警戒が先立って会話は困難。

 さて、どうやって彼に私が本物であると証明したものだろうか。やはり普段通りに話しながら、ミルキ君と私の身が知り得る情報を言うべきかな。

 記憶だけだと少し足りないだろうけど、普段通りに話していれば口調や会話のテンポも本物だと感じ取れるだろうし。

 

「えーっと……じゃあとりあえず、ミルキ君が私に死ねって言った回数と私が言った回数確認する?」

『馬鹿かお前、オレはそんなもん覚えてねーよどんだけ執念深いんだよ死ね』

「失敬な、私は覚えてるなんて言ってないじゃん。つーかなんでカウント増やすんだよ死ね」

 

 まず最初は軽いジャブとして冗談を言ってみる。意外と好感触で、ミルキ君は知らんぷりはやめたようだ。彼も会話から判断しようとしているんだろう。

 私達の間では”死ね”という言葉は何度も交わされているので、正直回数とか覚えていない。多分お互い3桁は超えてるけど。

 その回数を無意味に1ずつ増やし、更にミルキ君がうるせぇ死ねともう1度言ったことに対しても、今更なので怒るでもなく会話を続ける。

 

「後はアレだね、私がミルキ君の家に行った時に、あのデカい美少女フィギュアが履いてたパンツの色とか? こっちはマジで覚えてるけど」

『何でそんなもん覚えてるんだよ……いや、オレも覚えてるけどよぉ』

「毎回必ずチェックしてたからね。つーか、毎日見てるであろうキミが私が行った日のパンツを覚えてるとか、むしろそっちが何でなんだけど」

 

 どうせミルキ君は覚えてなさそうだけどなー、と思いながらもあの等身大フィギュアのパンツの事を言ってみたら、何故かミルキ君も覚えていた。

 客である私が、訪れるたびに見るパンツを覚えているのは、まぁ記憶力があれば可能だろうけど、ミルキ君はそうじゃないはずなのに。

 という思いから逆に聞き返してみると、意外な答えが返ってきた。

 

『だってお前毎回見るから、それならその日はオシャレさせてやろうと思って。んで結構印象に残ってた。後実はブラジャーも変えてた』

「マジか、そっちは見たこと無いから知らなかった。じゃあ答え合わせする?」

 

 道理で黒のレースとかスケスケとか、やたらと気合の入ったモノ履いてる事が多かったわけだ。正直自分がもうちょっとオシャレな服着ろよとか思わなくもないけれど。

 なんでミルキ君がそういう下着をもってるのかについては、直接聞いたところによると着せ替えに対する情熱だったらしいけど。真偽はともかく、ドン引きしなかった私はきっとえらい。

 とは言え、同じ事柄に対する情報を共有しているのならば記憶の証明をしようと思ったのだけれど、それはミルキ君がため息混じりに断った。

 

『いや、いい。ノリもテンポも本物そのものだ。共有情報の確認だって、なりすましてるんだったらもっとマシなのチョイスすんだろ』

「話が早くて助かるわー。じゃあ早速だけど本題言ってもいい?」

『おう』

 

 どうやら早くも本物だと認めてもらえたらしい。

 引きこもっているとはいっても、職業柄真贋を見極める能力や感性は鋭いようだ。もう少し手間がかかると覚悟していたけれど、嬉しい誤算。

 何はともあれ、電話をかけた要件を言わせてもらう。

 

「例の発信機と、私のケイタイ。その位置が合流した後の動きを教えてくれない? どっちもそっちから見れるでしょ?」

 

 クラピカとウボォが接触した後の、その両者の動き。

 彼らが未だに戦闘中なのか、或いはもう終わったのか。

 終わっているのであれば、その後なにか変化はあったのか。

 

『おーあれか、ちょっと待ってろ。……つか、やっぱお前のケイタイの事も知ってたんだな』

「当たり前じゃん、ミルキ君経由で位置座標送られてるんだから。この件が終わったら機能全部消してよね」

 

 私のケイタイの位置座標がミルキ君に筒抜けなのは百も承知。やっぱりかという反応だったけど、送信先の位置くらい知ってるのは言われずとも分かっていたし。

 あとで消すようにという私の言葉には、取引次第だなという返答。ちゃっかりしているけれど、まぁ何かしら貢げばいいだろう。

 天を仰いで星を見ながら、ケイタイの向こうで何やらキーボードを叩いて作業をする音を聞く。あ、何かスナック菓子食ってやがる。

 

『ちょい待ってろ、今確認してるから。……そういえばメリー、お前って今ヨークシンに居るんだよな?』

「ん、そうだけど。それがどうかした?」

『ああ、実はオレもヨークシンにちょっと用があってな、昨日の夕方頃からそっちに移動中なんだよ』

「えぇ!?」

 

 驚愕である。あのミルキ君が、動かざること山の如しを体現するかのような体型と生き方のミルキ君が、今移動中? つまり、ひきこもりを卒業しただと!?

 ということは今自家用の飛行船の中なのだろうか。移動中もパソコンは使える環境であるというところは流石と言うべきか。

 

「ミルキ君が外出とか……そりゃあ昨晩ヨークシンに血の雨が降ったのも頷けるね、道理でって感じ」

『いやいやそれはオレ関係ねぇだろ。お前らが故意に引き起こした事態じゃねえか』

「あっはは、まぁそうとも言うかもしれないね。用事って何?」

『へっ、そうとしか言わねーっつーのバカ。買い物だ、買い物』

 

 電話越しに笑い合う。

 ヨークシンで9月1日の夜に起こったことは、既にある程度彼も知っているようだ。相変わらず情報の入手が早い。

 そのまま取り留めの無い雑談をいくつか交わした頃に、ミルキ君が発信機の履歴のチェックを終えたようだ。

 

『よし、終わったぜ。途中で1個信号が途切れてるな』

「あぁ、それは予定通りだから問題ないよ。で、どんな感じの動きだった?」

 

 ミルキ君から見える信号3つの内、1つがダメになるのは想定内。なのでそれについては軽く流し、ミルキ君に続きを促す。

 履歴をチェックしていたミルキ君も思い当たるフシがあったようで、そのことについてはそれ以上何も言わなかった。

 

『合流した後はしばらくその場を動きまわった後、今から約7分20秒前辺りで両方停止。その3分10秒後に発信器一個破壊、更に2分40秒後らへん、つまり今からおよそ2分30秒前に別れたな。片方はお前に接近中、もう片方は離れてる。こんなもんでいいか?』

「うん、これで十分。向こうの状況はほぼ把握できた」

 

 淡々と言葉を紡ぐミルキ君からもたらされた情報は、私の口角を上げさせた。

 大まかな流れは理解した。私はウボォーと別れた当初の予定通りに動けばいいということも。

 まぁ私の考えていたよりも少し向こうの進行が早いのが問題といえば問題か。

 向こうがさらなるアクションを起こす前に、もう1箇所と連絡をとっておきたいところだ。

 

「ちょっと急いだほうがいいみたいだからもう切るね。情報ありがとう」

『おう、時間があったらヨークシンで遊ぼうぜ。生きてたらまた電話くれよな』

「ねぇ何で変なフラグ建てんの? 馬鹿なの?」

 

 何やら死亡フラグ的なものを建ててきたミルキ君に抗議すると、笑ってじゃあなと電話を切られた。クソが。

 生きていたらとか物騒なこと言うのは止めて欲しい。今のところ予定通りとはいえ油断は禁物なのだから洒落にならない。

 まぁ何はともあれ、全体の流れは良好。私の尻の下に居るコイツにも聞くことは特になさそうだし、回復が終わったらさっさと殺そう。起こす手間がもったいない、時間は有限だ。

 とりあえず別の箇所に連絡を、とケイタイを耳から離しその画面を見ると、通話中に着信があったことを示していた。

 少し嫌な予感がしながらも、着信元を確認。

 果たしてそこに表示されていたのは、今一番連絡してきて欲しくなかった相手。

 

 おもいっきり表情を歪めて画面を見つめていると、また同じ相手からの着信が来た。

 これはミルキ君のせいだ。フラグを建てた彼が悪いのだ。タイミングとか諸々のものが悪いとは分かっていながらも、責任転嫁したくなるというものだ。

 最悪なことに、現時点でこの着信を無視するという選択肢はない。

 さっき着信が来た時、向こうは私が別の場所と通話中であることと同時に、電話できる状態であることを知った。

 そして今、私は電話できる状態で、尚且つどことも通話中でないことを相手は知っている。

 分断されている現状、連絡をとりあうことは非常に重要。なのに無視などしたら非常に不自然。

 意図してか、そうでないか。どちらにせよ、私の中にしてやられた感があるのは否めない。

 

 出るしか無い。緩慢な動作で通話ボタンへと指を伸ばす。

 大丈夫。まだ大丈夫。予定が前後しただけだ。

 難易度は上がったけれど、私の頑張り次第ではどうとでもなる話。

 動揺を内に押し殺す、自然な声と会話ができるように。

 

 暗い夜空の下、私の顔を照らす光。

 その中には、私がウボォーに貸した、私のケイタイの名前と番号が表示されてた。

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