東方扇仙詩   作:サイドカー

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偶々読んだ同人誌で華扇を見たときメッチャ好みすぎて衝撃を受けました。
東方の「と」の字も知らなかった頃のことです。(後に東方を知る)

この物語の入り口にお越しいただき、ありがとうございます。
まだまだ未熟ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。では、

「東方扇仙詩」開幕です。




プロローグ 「ハートフルストーリーの幕開けたぜコノヤロウ!」

 ふと思い立って、夜中に港を訪れた。

 静かだ。自分以外に誰もいない。ロクに街灯も立っておらず、己の身体が暗闇と交わっていくような感じを覚える。

 出発前か、あるいは到着したところなのか。貨物船と思しき汽笛が低い唸りを上げ、さざ波の音を打ち消してしまう。頭上を見やれば、灯台の赤いライトが規則正しく回っては目印の役目を果たしていた。

 季節は夏、暦をいうなら文月。時刻は午後八時を過ぎたばかりだった。

 

 知り合いから受けた仕事をさくっと片付け、心地良い夜風にあたりながら仕事終わりの一杯を味わう。

 この時間帯になってようやく涼しくなってきた。日中なんてクソ暑い時に外に出るなど自殺行為でしかない。そう、オレは夜に生きる男。

 短い黒髪をオールバックにまとめ、黒いワイシャツの上にブラックカラーのネクタイを締めさらには闇色のスキニーを身に纏うファッションスタイルは、ネオンライトが煌びやかに彩る繁華街によく映える。と、オレは信じてやまない。

 華々しくも騒々しい愛しの繁華街から数キロほど離れたこの港は、なんだか生気を全て街に吸い取られたかのように静まり返っている。もし明るい時間帯に来ていれば、太陽の光を受けてキラキラと輝く海がお目にかかれたであろう。ま、オレには縁のない話だ。

 外国ラベルの瓶ビールを片手に、フッとニヒルな笑みを零す。

「良い夜だ」

 

「ええ。本当に素敵な夜ですわね」

 

 女性の声。

 振り返ると、見慣れない女性が微笑みながら立っていた。誰だ?

 

「こんばんは」

 

 腰まで届きそうな長い金色の髪を下ろした艶やかな美女。紫色のドレスと白い手袋のコーディネートはホステスにも見えるが、おそらくは素の服装なのだろう。ホステスが仕事着のまま一人でこんな場所にくるとは到底思えない。

 気品ある笑みを崩さない傍ら、その裏に得体のしれない何かさえ感じる。ぶっちゃけて言うと、どこか胡散臭い。しかも大抵、そういう類の輩には面倒な依頼を持ちこまれたりするワケで。

 

「あんた、オレに仕事の依頼しにきたのか?」

「生憎と、ただの通りすがりですわ。久しぶりに()()()()の世界に足を運んでみましたの。そうだわ。もしよければ私の話し相手になってくださらない? それとも、これも仕事の依頼になるのかしら?」

 女は芝居がかった口調で言葉を紡ぎ、口元を隠すように扇子を広げた。あんなもの、いつの間に持っていた? まるで気付かなかった。

 ますますもって怪しいが、かといって追い払う理由もない。まぁいい。あえて誘いに乗るのもまた一興だろーよ。

 立ち話をするならせめて飲み物の一つくらいあった方が良いだろう。幸い、瓶ビールは二本持っていた。未開封だった方の栓を抜き、件の女に渡してやる。

「ならねーよ。他愛のない世間話ぐらいで金がもらえるとは思っちゃいねぇ。そういうのはホストの仕事だ」

「あら、お優しいのね。有難くいただきます」

 

ところで、仕事の依頼って言っていましたけど、何のお仕事を?

 

――便利屋っつか何でも屋。この街の厄介事を報酬次第で請け負っている、フリーランスなオシゴトだ。

 

へぇ。どのような依頼が来ますの?

 

――店のヘルプに掃除に工事現場から引っ越し手伝いまで色々だな。駅のコインロッカーからブツを回収してこいって運びの依頼もあれば、尾行だの人探しだの探偵のマネゴトも頼まれたりする。

 

なぜ、そのような仕事を始めたの?

 

――オレにも複雑な事情があんだよ。普通だとか平凡だとか、そういう真っ当な生き方には縁がなかったってこった。もとよりオレは夜に生きる男、裏の世界に身を置くのが性に合っている。

 

 酒が入ったせいか、あるいは語るうちに自分に酔ったか。次第に気が大きくなったオレは次々と饒舌に答えていった。

 話し相手になってほしいという割には、女は質問してばかりで自分に関して話そうとしなかった。こちらに質問を投げては楽しそうに耳を傾けるばかり。

 

「裏の世界、ねぇ……うふふ」

「そんなに可笑しいか? あんただって似たようなもんだろーに」

「当たらずとも遠からず、ですわね。そうね……面白いお話と美味しいお酒のお礼に私からも一つ。もし此処ではない別の世界があるとしたら、どうかしら?」

「なんだそりゃ? ヤバい宗教ならいらねーぞ。その手の新世界とか知ったこっちゃない」

「いえいえ、宗教の勧誘なんてしません。もしもの話。まるで物語のような出来事に満ち溢れた、全てを受け入れる残酷で美しい御伽の国。そんな場所があったら、行ってみたいと思う?」

 子どもが思い描きそうなメルヘンチックな問い。この女、意外とロマンチストなのか?

 数ヶ月前に二十歳を迎えた大人の男がマジになって考えるのも憚られる内容だが、なぜだか不思議と答えはすんなり出た。そんな世界があったのならば、オレはどんな風に過ごすのだろうと思いを馳せて。

「……行ってみてーかもな。ま、あったらの話だけどよ」

「そう。それは良かったですわ。では、後ろをご覧ください」

 言われるがままに振り返る。だが、つい今しがた一人で眺めていた景色が変わらず続いているだけだった。真っ黒な夜空と、それと同じ色に映る海が彼方まで。水平線もおぼろげな、どこまでも闇色に染まる風景。

 てっきり面白い仕掛けでもあるのかと思いきや、肩すかしを受けていささか拍子抜けしてしまう。

「おい、何も……」

 ないじゃねーかよ、と言いかけて。

 向き直ったその先にあった光景にを前に、オレは途中で言葉を失った。

 奇術か。あるいはトリックか。はたまたヤバい幻覚でも見せられてしまったのか。

 目の前にある空間が切り開かれ、その内側から無数の目玉模様が施された異形(あと悪趣味)な謎の亀裂が顔を覗かせていた。

 

「はァアアンッ!?」

 

 仰天のあまり今どきエセ外国人ですら出さないような発音が迸った。なッ、なんだこりゃあ!?

 そんな反応などお構いなしばかりに、その亀裂は巨大クジラさながらに大口を開けると、硬直するオレを容赦なく飲み込んだ。一口で。バクリ、と。おかわりはない。

 

 夜の暗闇どころか完全無欠にブラックアウトする視界のなかで、そいつの声が耳に木霊する。

「ようこそ幻想郷へ。貴方を歓迎いたしますわ、何でも屋さん」

 

 

 うそーん……

 あの女、もしかして冗談抜きでヤバい奴だったんじゃねーか……?

 

 

つづく




東方茨歌仙の9巻はよ(バンバン)
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