東方扇仙詩   作:サイドカー

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ざっとこんなもんですよ ←三連休総動員


前回投稿したときに、多くの方からお気に入り登録いただきました。
ありがとうございます! なまらビックリしたよぉ!

そんなこんなでテンションと勢いに乗ってみました最新話
此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第九話 「二日酔いにはラムネ菓子が効くんだと」

「聞きましたよ。喧嘩を諌めるためとはいえ、またあの鉄砲を使ったそうですね? しかも今度は両成敗で、片方には刃物を喉元に当てたんですって? そのことについて申し開きはありますか? 言い訳ぐらいなら許してあげます」

「うぉい……もう知ってんのか。ったく、耳が早いやっちゃな」

 まさしく文字通りに駆けつけ三杯をあっという間に飲み干すや否や、「さぁ本番ですよ」と言わんばかりに華扇が据わった目つきをオレに向けた。傍から見ればあたかも絡み酒みたいだが、その実態はクッソ真面目なお説教タイムである。チクショウ、早速これかよ。ついてねぇ……

 ま、全て事実だから訂正のしようがないんだけどよ。

 華扇の鋭い眼差しから目を逸らし、オレはつい先ほどの出来事を思い返した。

 

 

「そこまでにしとけ」

「うわッ!?」

「な、なんだお前……!」

 唐突に間に割って入った全身黒ずくめの存在に、一触即発の空気だった二人組が慄く。しかしながらそれも束の間に過ぎず。通りすがりが余計な茶々を入れてきたのだと察し、気色ばんだ男がオレに掴みかかる。

「てめ――っ!?」

 ところが、ヤツの手はオレまで届かなかった。

「そこまでつってんだろーが。分かれやとっとこモブ太郎」

「ぅっ……」

 伸ばしかけていた野太い腕が、まるで金縛りにあったかの如く虚空で固まる。もう片方の男も身動きが一切とれずに、かろうじてヒューヒューと掠れた呼吸音を漏らすのみ。そのうえ、彼らの額にはどちらも尋常じゃない量の冷や汗が滲んでいた。

 原因は極めて単純明快。連中がどうこうするよりも先にオレが仕掛けたからに他ない。

 ベストの内側から引き抜いた二つの切り札を左右の手で構える。黒光りするマグナムの銃口を一方の眉間に、そして尖ったナイフの切っ先でもう一人の喉元を狙う。もし少しでも動けば無残な末路を辿るハメになるのだと睨みを利かせる。

「テメーら、ケンカすんなら表でやれや。近所迷惑って言葉を知らねぇのか?」

 観衆の中から「いや、ここ外なんだけど……」とか要らん一言が飛んできたが敢えて無視する。う、うっせぇな! ちょっと黙ってろ!

 かくしてオレの介入は酔っ払いコンビには効果覿面であった。酔いも怒りもすっかり冷めたようで、代わりに今にも失禁しそうな事態に陥っている。漏らすんじゃねぇぞ。

 やがて両者の足がガクガクと震え出したのを見計らい、後は野となれ山となれ。突き付けていた得物を下げると、仲良く揃って腰を抜かして尻餅をついた。なお、股間は濡れていなかった。めでたし、めでたし。

 さて、容疑者どもはほどなく来るであろう上白沢女史に押し付けるとして、この場はさっさと退散しちまうに限る。現に遠くから「こっちか!?」と知った女性の声と、あわせて複数の足音が騒がしく近付いてきた。あとは任せたぜ、人里の守護者サマ。事件は会議室じゃなく現場で起こってんだよ。

 そういうワケで、人目を盗んでそそくさと人里を離れておく。

 で、その矢先に夜雀が営む屋台に流れ着いたのであった。

 

 

「…………フッ」

 いざ回想を終えると何ともはや、我ながら上手くキメたもんだわな。やはりオレは夜に生きる男。

 しかし、どうやら上白沢女史を含む駆けつけたメンツの中に華扇も混じっていたようだ。つまるところ、遅からず彼女には見つかる運命だったというわけか。ったく、どうしようもねーな。

 溜息とともに、ベストの内側に手を差し込む。取り出した()()()は、屋台の明かりを受けてギラリと鈍い光で反射する。鏡のような銀色を宿した鋭利なモノ。刃渡り十センチにも満たない小振りなナイフが、その身を呈する。

 すぐさま華扇の顔色が変わった。

「本当に持っていたんですね……あなたという人は……」

「お客さん、そういう人だったの……?」

 これにはさすがにミスティアも引き気味であった。あるいはオレを野盗か通り魔あたりと勘違いしていそうな様子。まったくもって心外なことこの上ない。

「違ぇっつの。よく見とけ」

 そう言って右手でナイフをしっかりと握る。その意図を察したのか、華扇がハッとした表情になった。

「――ッ! 綿間部、待って!?」

 彼女の言葉にも耳を貸さず、刃物の先端を左の手のひらに躊躇いなく突き立てた。一気に柄まで達したのを目の当たりにして、その場に居合わせた二人の少女から悲鳴が上がる。

「バカッ何しているの!? 早く抜いて手当てしなきゃ!」

 真っ先に我に返った桃色の仙人が、語気を荒げながらオレの左手首を掴み上げる。が、

「あ、あれ……?」

 鬼気迫るほどに怒涛の勢いだったのが、数秒とかからず意気消沈してしまう。あげくには声に戸惑いが混じり出す。さもありなん、彼女が握り締めたオレの左手には刺し傷どころか掠り傷一つ見当たらない。カウンター越しに着物姿の少女も凝り固まったままでいた。

 なんだよ、まだ分からんのかコイツ等は。もっと分かりやすくしてやるか。

 今度は刃の切っ先を人差し指の腹に当てて、そのままグッと押し込んだ。ほんの一瞬だけ華扇が体を強張らせる。

 少女達に緊張が走るのを揶揄するように、刀身が()()()()徐々に沈んでいった。

 

『……………』

「こういうこった。二人とも理解できたか?」

 

 百聞は一見にしかず、あえて説明するまでもねぇだろ。皆さんもお分かりいただけただろうか。

 刃のない刀身を出し入れすれば、その度に内蔵されたバネが伸縮するショボイ音ばかり繰り返される。酷いコントがあったもんだ。

 すると、それまで唖然としていた華扇の顔つきに変化が生じる。口を横一線に結び、両頬がまるで風船のように限界まで膨らんでいく。さらに眉間にしわを寄せて肩を震わせ始めたあたりで、オレはさり気なく耳を塞いだ。

 

「こんのっ……馬鹿者ォオオオオオオオオ!!」

 

 怒りに満ちた少女の叫びが夜の屋台に響く。直撃を受けた女将が哀れにも被害を免れず、引っくり返りかけていたのが視界の端っこに映った。

 

 

「まったく、どうしていつもいつも物騒なやり方で強引に止めようとするんですか!! 少しは穏便に事を済ませようとは考えないの!? あの時だって、私が止めたにもかかわらず撃ったりするし! あ、八つ目鰻一つ。大体、今日も私が探してたのにコソコソと隠れて寝てるなんて、あまりにもだらしなさすぎです。不健全です。許しません。もっと規則正しく健康的に生きないと――」

「へーへー、おっしゃるとおりですねー……」

「真面目に聞きなさいッ!!」

 というかお前、ちゃっかり注文しただろ。しかも途中から口撃対象がオレの生活スタイルに変わっとるやんけ。もはや収拾がつかない有り様で非常に辛い。誰でもいいから助けてくれ……

 なけなしの願いが天に届いたのか、仙人サマの説教という荒波を掻き分けて一隻の助け舟が入った。ミスティアがオレと華扇それぞれの前に皿を置く。

「はい、八つ目鰻お待ちどうさま。冷めないうちに食べてね」

「……いただきます」

「お客さんには揚げ芋ね」

「ああ……恩に着る」

「いえいえー」

 停戦協定。ようやく誰もが待ち望んでいた平和が訪れた。

 やはり美味しい食べ物の力は偉大であった。濃厚なタレを塗した蒲焼きを一口でも食すれば、たちまち華扇の顔が幸せそうに綻ぶ。本当に美味そうに食うなぁコイツ。

 こちらも負けじとフライドポテトに成り損なったモドキ料理に箸を伸ばす。油でカラッと揚げた後に塩で味付けしてある。チビイモを丸ごと一つ摘まんで咀嚼した途端、内部に蓄えられていた熱々の具が崩れて火傷を誘う。ハフハフと犬みたいな息をしつつ冷酒を煽って鎮火させる。それによって熱さと冷たさが絶妙に入り混じった後味の良さが残った。

 僅かに説教が止んだのを目敏くも逃さず、女将が話しを振る。さすが客商売が上手い。オレとしても非常に助かった。ただ、含みのある企み笑いなのがどうにも気に掛かった。ぶっちゃけ良い予感がしねぇ。案の定、

 

「お二人さん仲良いね。もしかして()()?」

 楽しげに言いながら、彼女は中指を立てた。

 

「いやどれだよ」

「あれ、何か違った?」

「言いてぇことは察しているけどよ。そりゃ小指だろーが、それだと意味が全然ちゃうわ」

 着物が似合う少女からいきなり笑顔で中指を突き立てられたら、相手によっては泣き崩れかねない。間違ってもミスティア目当ての男性客にはやんなよ。一生モノのトラウマになるから。

 なお、ジェスチャーの意味が伝わらなかったらしく、華扇は「?」といった具合で首を横に傾げていた。特に気にした風もなく、日本酒が入った竹筒を唇に重ねる。仙人サマは俗世には疎いようだ。もっとも、今はかえって好都合なのだが。

 その様子を横目に見ながら、ミスティアが変な深読みをしないためにも教えておく。

「ついでに言っとくが、オレとこの女は会ってからまだ三日しか経ってない。そうなる要素がまるでねーよ」

「ふーん……」

 そう告げると、女将は何やら思案顔で腕組みし始めた。彼女もうら若き乙女故に恋バナに飢えていたのかもしれない。残念だが聞く相手を間違えたな。どう見ても明らかに人選ミスだろ。

 と、ミスティアの瞳がキランッと光った。いかにも頭の豆電球が閃いたといわんばかりの明るい表情をみせる。あろうことか、彼女は見当違いにも華扇に向かってこんな話題を差し出した。

 

「ねぇ仙人様、知ってる? お客さんって歌が上手な女性が好みなんですって」

 

「――――ッ!!」

 

 刹那、彼女の肩がピクッと跳ねたような気がした。いや、恐らく見間違いだ。

 その証拠に、華扇は落ち着いた所作で酒器をカウンターに置き、いかにも興味なさそうな態度で返した。

 

「へ……へぇ? そうなんですか? 良いと思いますよ、ええ。ち、ちなみに私も歌には多少なりとも心得があるんですよ……?」

 

 訂正、あからさまに挙動不審だった。お前どうした?

 どこか明後日の方向に視線を彷徨わせて、棒読み且つ裏返った感じの声で何度も頷く仙人サマ。いや、どんだけオーバーリアクションしてんだ。オレまで反応に困るだろうがよ。

 そもそも歌の上手い女性と恋愛したいとは一言も言っとらんし。ミスティアも拡大解釈すんなや。拡大し過ぎてえらいスケールまで広がってんじゃねぇか。

 どうにも華扇にはこの手のネタは苦手そうに見える。ならば、ここは話題を逸らすのが賢明か。第一、オレの好みの女性タイプなんか知ったところで誰得でしかない。

 それよりも華扇が歌を嗜んでいる方が興味深い。

「で、どんな歌が得意なんだ?」

「……和歌とか俳句です」

「……歌なのか、それ」

「い、いいじゃないですかっ!? 音楽だけが歌じゃないんですー!」

 明らかにジャンルが異なっているのを本人も自覚しているのか、華扇が頬を赤くして拗ねたように喚く。分かったから暴れんなっつの。ただでさえお前に詰め寄られているせいで狭いってぇのに。このままだと長椅子から転げ落ちんぞ。オレが。

 すっかりへそを曲げて一人でヤケ酒し始めた桃色の髪をもつ少女。しかし可愛い顔してよくあれだけ平気で呑めるもんだわな。しかも酔った素振りすらねぇときた。

 酒豪と呼ぶに相応しい飲みっぷりに感心しつつ、ふと何気なく思ったことが言葉となって出た。

 

「ま、お前の声なら和歌とか俳句も似合うだろうな。よく通るっつーか……凛としてて綺麗だし、耳に心地良い」

 

「……………へ?」

「あらぁ」

 華扇が目を丸くし、ミスティアが口の両端を吊り上げた。

 実際のところ、彼女の声は張りがあって真っ直ぐなものだと思う。そのうえ仙人でもあり。優雅な言葉遊びをその声に乗せたらさぞ絵になるだろう。情景が容易に想像できる。奥の細道とか似合いそう。

 もっとも、日々の説教による賜物だとすれば何とも言えないところだが。いずれにせよ、いつか機会があれば彼女の歌を聞いたみたいというのは本音だった。言っただろ、綺麗な歌声は嫌いじゃねぇってな。

 しばし呆けたようにオレを見つめていた華扇だったが、ふいに相好を崩した。まるで花びらが春風とともに舞い散るように、柔らかく。

 

「…………ズルい人」

「って、何でそうなんだよ」

「うるさいです、馬鹿者」

 

 嬉しそうに馬鹿者呼ばわりされるとは思わなかった。いや、マジで何でや。

 相変わらず表情豊かな彼女の横顔を盗み見るが、まるで原因に心当たりなし。心当たりがない以上、いくら考えたってしゃーねぇ。ま、美人の笑顔を前にして損する男はいないだろ。

 ともあれ、今夜もなんだかんだとあったものの、不思議と悪くない雰囲気だった。

 

 

 そう、()()()。過去形である。

 元凶はコレだ。

「ところで仙人様、もう一つ聞いてくれる?」

「はい、何ですか?」

 いつの間にやら上機嫌になってニコニコと笑顔を咲かせる桃色の仙人に、夜雀の女将が意味ありげな口振りで話しかける。

 それが、終わりの始まりを告げる合図となった。

 

「さっきね、このお客さんったらあたしを見ながら『鳥が食べたい』なんて言ってきたの」

「………………」

 

 その瞬間、華扇が笑顔のままピシッと固まる。むしろ表情どころか全身が石化した。

 何を思ったのか、着物姿の少女がわざとらしく己が身を庇うように細腕を前に回す。次いで強調するように内容を繰り返しやがった。

「こう、飢えた野獣みたいなギラギラした瞳であたしを見ながら『鳥が食べたい』って言ったんだから」

「オイ何で二回言った」

 確かに唐揚げだの手羽先だの注文しかけたが、わざわざ華扇にチクるほどじゃなくね? 鳥心は複雑なのか。もしくは、もっと売り上げに貢献しろって意趣返しとか。とんでもねぇセールストークだな。って、幻想郷に来てから食費掛かり過ぎじゃねーか?

 密かに財布の中身と相談しようとした時、ついにあの女が動いた。

 

「綿間部……?」

 

 甘く蕩けるような声色が、オレの名を呼ぶ。この甘ったるい声のトーンも、間もなく来るであろうオチも、かつての経験から身を以って知っている。確実にまたロクでもない勘違いしとるわコレ。

 恐る恐る真横を見やれば、さらに笑みを深めた桃色の仙人がいた。美しい顔立ちもあって、事情を知らないヤツであれば見惚れていたかもしれない。だが無意味だ。

 その直後、彼女が手にしていた酒器が脈絡なく砕け散る。もちろん笑顔のままで。まさか一発で握り潰したのか!? どんな握力してんだ、この女!?

「お、おい……」

「うふっ、ふふふふふっ」

 いやフツーに怖ぇえーよ!? 目が笑っとらんがな!

 包帯に包まれた右手から酒の名残りが水滴となってポタリポタリと落ちる。蛇どころか鬼に睨まれた気分だった。どうにか弁明しようにも、この期に及んで口が上手く回らない。そうか、コレが恐怖か。

 とうとう可愛らしい笑みが一転した。般若の幻影を背に纏い、憤怒の形相に染まった中華衣装の少女が感情を爆発させる。同時に拳も突き出してきやがった。

 

「こんのっケダモノォォオオオオオオオ!!」

「へぶしっ!?」

 

 真っ直ぐな正拳は微塵も外れることなくオレの顔面を的確に捉え、その威力から場外まで吹っ飛ばされる。星空の下、あぜ道の上で伸びているオレを気にも留めず、鈴虫どもが夜更けまでコーラスを続けていた。

 

 

 その後、鳥というのがミスティア本人ではなく鶏肉料理のことだと知り、またしても早とちりしたと気付いた華扇が羞恥で真っ赤になりながら、「ややこしい!」と説教を垂れるのだが。

 普段から酔っ払い客をあしらうので慣れている女将にはさして効果なく、笑って聞き流されるのであった。ドンマイ。

 

 ちょい待て、ひょっとしてオレだけ殴られ損じゃねぇのか……?

 

 

つづく




華扇って酒飲んで酔っぱらっているイメージあんまりないと思うの
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