東方扇仙詩   作:サイドカー

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カミングスーン(有言実行)

今朝方ぶりのサイドカーでございます。

玉藻藍の依頼を受けて運んだ木箱の中身は酒だった。成り行きでヒロインに手を引かれていく主人公。
今、二人だけのヒミツの宴会が始まる。←前回のあらすじ感

そんなこんなで引き続き最新話、此度もごゆると楽しんでいただけると嬉しいです。


第十三話 「仙人だって甘えたい!」

「さ、ここなら大丈夫でしょう」

 あれよあれよと華扇に連れてこられたのは、神社の敷地ギリギリにある樹木の根元だった。おあつらえ向きに太い幹がちょっとした背もたれになっている。そのうえ、立ち位置からもこちら側は目立たずに境内を一望できた。んだよ、良い場所を知ってんじゃねーか。

 もっとも、この女に引っ張られる途中で何人かにチラチラと視線を飛ばされた時は、若干胃が痛かったのだが。由緒正しき仙人サマが見知らぬ野郎の手を取って笑みを浮かべているのに、華やかな目撃者どもは唖然としていたようだった。

 どうにもスキンシップが多いヤツかと思いきや、案外他ではそうでもないってぇのか?

「やれやれ……どっこいせ、と」

「ふふふ、年寄りみたいですよ?」

「そこは思っても言うなよ。地味に辛いだろうが……」

 程良く根っこが盛り上がっていた部分に腰を下ろす。華扇もオレの隣に座った。いや、お前もかい。他の連中がいる場所に戻ればいいだろうに。

 オレの訝しげな視線も意に介さず、仙人の少女は盃を手渡してきた。どさくさ紛れで持ってきたみたいだ。ちゃっかりしてんなぁと呆れつつ受け取る。ってオイ、何やこの鍋の蓋みたいなの。ヤクザが兄弟の契りを交わすときに使うような代物じゃねーか。

 漆塗りのドデカい酒器に日本酒がドボドボと注がれる。次いで、彼女は自分用と思しき枡を取り出すと、「乾杯しましょう」と少女らしいあどけない笑みを向けた。なお、可愛い顔して手にしているのは一升枡である。マイボトルとかの次元じゃねーぞ。

「さっきの二人のところに戻らねーのか?」

「私がこうしていたいんです」

 へーへー、さいですか。

 別に追い払う理由もないし、こいつの好きにさせても問題なかろう。そう結論付けて、コンッと乾杯してから酒を煽る。幻想入りしてから日本酒のオンパレードだが飽きは来なかった。若干クセのある粗雑な味わいが、却って手作りの風情を醸しているようだ。古き良き、というやつかもしれない。

 特に会話もなく、ただ二人で静かに酒を飲み進める。不思議とそこに気まずさはなかった。それどころか、気持ちが落ち着く。

 宴会はまだまだ続く。お開きになる兆しなど全然ない。どいつもこいつも楽しそうで結構なことだ。華やかで、賑やかで、どことなく眩しくもあり。何となく似ているせいか、繁華街を思い出す。

 

 さらに夜は更けて、天上を彩る星空に心を惹かれていた時だった。

「ねぇ、綿間部。何か勝負をしてみませんか?」

 おもむろに華扇の澄んだ声が鼓膜をくすぐった。セリフとは裏腹に、穏やかな表情を浮かべている。物騒なものではないのは明白であった。せいぜい、呑みながらの遊びが欲しいのだろう。ま、付き合う分にはやぶさかじゃねぇわな。

 とりあえず盃を脇に置いておく。コレずっと持ってると零しそうになんだよ。

「構わねぇけどよ。ただし飲み比べなら却下すっぞ。そんなん絶対お前が勝つだろ」

「勝負の方法はお任せします。そうですね……せっかくですし、負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く、というのはどうですか?」

「フッ……いいぜ、乗った」

 ありきたりな罰ゲームではあるが悪くない。これもまた一興。

 とはいえ、結構な酔いが回っちまっているし、シンプルで勝敗が分かりやすいヤツが良いだろ。まどろっこしいのは無しだ。財布から十円玉を一枚だけ抜き取る。

「三回勝負でどうだ? 表か裏か、イカサマなしの運試しといこうじゃねーか」

「良いでしょう。己に誓って嘘も偽りも致しません。あぁ、それと投げた貨幣は地面に落とさず手で受け止めてくださいね。小銭の音を聞きつけた霊夢が飛んできてしまいますので」

「守銭奴なのか、あの巫女は……」

「う~ん……否定はしません」

 そこは否定してやれよ。神職のくせして自販機の釣銭口を漁るタイプだったりすんのか。オレも昔やっていたけど。

 公平を期すためコイントスは交互にやることにした。最初はオレから。

 キィン、と金属音を立てて十円玉が空を飛ぶ。弾かれた銅貨は宙を忙しなく回り回って、やがて重力に従ってオレの手元に落ちてきた。着地と同時に空いた手を上に重ねて答えを隠す。

 一切の迷いもなく、彼女は告げた。

「表」

「速攻で言い切りやがったな……じゃ、御開帳といくか」

 乗せていた手を退かすと、平等院鳳凰堂の絵柄が姿を見せる。聞きかじった程度だが、世間一般ではこっちが表側だったはず。全然関係ねぇけど、コレと似た感じの名前をした中二病キャラがいたような……

 見事、正解を当てた桃色の少女がクスリと笑みを零す。

「まずは私の一勝ですね。さ、交代です」

「ったく、悪運だったら多少マシなんだがな……」

 負け惜しみを口にしながらも、十円玉を相手に投げて寄越す。ちなみに平凡な十円玉だ。ギザ模様はない。

 彼女は放られたブツを落とすことなく掴むと、さっきの見様見真似で親指の上に銅貨を乗せた。そして、「それっ」と掛け声に合わせてコインを弾く。が、

「ぶべっ!?」

「ひゃ!? ご、ごめんなさいッ!」

 あろうことか彼女の手を離れた銅貨は勢いよく斜めに飛び、オレの顔面を直撃しおった。これは酷い。この女、まさかのノーコンかよ!?

 微かに頬を赤らめた桃色の少女は「こ、こほん」と咳払いして、もう一度トライする。今度はちゃんと真上に舞い、彼女の掌に降りた。

 気を取り直して、今度はオレが当てる番だ。すでに答えは決まっている。

「やっぱり裏だな。オレのイメージ的にも」

「もし外れたらその時点で私の勝ちですよ?」

「わぁーっとるわい。男に二言はねぇよ」

 華扇が手を退ける。先ほどとは違う面、即ち数字の十が上を向いていた。

 フッと勝ち誇った笑みを見せつけてやる。だが、華扇は悔しがった素振りをみせず、それどころか楽しんでいるフシさえあった。ほう、こういう展開がお好みってワケかい。

 ともあれ、これで引き分け。ラスト一本。ピッチャーはオレ、いざ尋常に――

「表です」

「おい、投げる前に宣言すんのかよ」

「いいじゃないですか。泣いても笑ってもこれで決まりなんですもの」

「っかー、潔いこって。だったら隠す必要もねぇな」

 ならばと景気よく先ほどよりも高くコインを飛ばす。何回、何十回と表裏を繰り返しながら銅貨が徐々に落ちてくる。

 そして、いよいよもって勝負の行方が決まった。オレの掌に鎮座する審判が下したのは、表。

 

「……私の勝ち、です」

「へいへい、オレの負けですよ。で、何が望みだ?」

 

 人差し指を唇に添えてパチッとウインク付きで勝利セリフを決められる。かなり様になっている仕草に、ほんの一瞬だけだが目を奪われてしまった。それを悟られまいとして雑な態度になった。思春期かよ。

 何にせよ、勝負を始めるの前の契りに従って、華扇の望みを一つ聞かなければならなくなっちまった。つっても心配あるまい。マジメな仙人サマならば、外道なことは言わねぇだろ。

 ……いや、本当に大丈夫なのか? これを機に「何でも屋を朝から晩までの営業にしなさい」とか命じられたら超マズイ。あるいは彼女の食い意地(説教不可避)から「料亭の高級料理が食べたいですねぇ」というセンも有り得る。もしくは「私の修行に付き合いなさい!」などという可能性も捨て切れない。

 パッと考え付く限りでも、オレにとってはキツいものばかりじゃねーか。こりゃ早まったかもしれん。

 身構える敗者に対して、ついに華扇が口を開く。

「そのまま動かないでください」

「は、何で」

「いいから。勝者の命令です」

 そう返されては従うしかない。一体何をする気だ。まったくもってこの女の真意が理解できず、オレにやれることはただ待つのみ。そして――

 

「……ん」

 

 とん、と。

 まるで小鳥が宿り木で羽を休めるように軽く、華扇の肩がオレの肩に寄りかかる。

 僅かに体重をこちらに傾けただけ、重さなど微塵も感じなかった。女性らしい華奢な身体が触れて、衣服越しでも柔らかさが伝わる。

 ワケが分からず、つい思ったままの内容が口に出てしまう。

「どうなってんだ、こりゃ」

「しばらくこのままでいさせてください。それが私の望みです」

「……こんなんで良いのかよ」

「こんなのが良いんです。仙人だって、たまには誰かに甘えたくなるときがあるんですよ?」

 おいおい……マジで他に何もなかったのか、お前ってやつは。

 あくまで肩を貸すだけ。それ以外は望まないのだと彼女は微笑とともに言葉を紡ぐ。とても嬉しそうな顔で。

 互いの身体が重なったところから、相手の体温が自分のものと溶け合っていく。酒のせいか少しばかり熱い気もする。それがオレなのか彼女なのかは定かではない。

 

『…………』

 

 いつしか華扇は目を瞑っていた。寝息は聞こえてこないあたり、ただ瞼を閉じただけなのだろう。僅か数センチ先にある顔をついまじまじと眺めてしまう。ホントに綺麗な顔をしてやがる。さすが仙人ってか。

 たった数日の間で行動を共にしただけでも、彼女は表情豊かで親しみが持てた。口煩い説教も少なからずあったが、そこも含めてこの女の個性といえる。

 多分これからも、泣いて怒ったりそして笑ったり誰かを愛したりするのだろう。花は咲きそして散っていく。それでも明日はやってくるワケで。

 詩人を気取った柄にもないモノローグに、我ながら苦笑せざるを得ない。

 ふいに微風が舞い、淡い桃色の前髪がさらりと流れた。何度か覚えのある甘い匂いがして、なぜか妙に意識してしまった。何だ、今の。

「しかし、まぁ……」

 今更だが、これじゃ迂闊に動くことも儘ならない。おかげで帰ることすらできなくなっちまった。もしやコレが狙いだったんじゃねぇか、この女。ったく、まんまと一杯喰わされたってワケかよ。

 こちらに寄りかかる少女が満足しない限り、この宴に留まる他に選択肢は許されないってか。

「フッ……やられた」

 やれやれと頭を振って再び夜空を見上げる。天体の煌めきを背景にして、二人の少女が互いに数多の光弾をばら撒きながら飛び交っていた。

 

「って、何だアレ……!?」

 

 酔いも場も雰囲気も無視して、思わずツッコミが入った。

 なお、そいつが噂の弾幕ごっこだと知るのは、翌日の話である。

 

 

つづく




メロンブックスで三月精の最新刊を買ってきますた

華扇もちょくちょく登場してて、ボク満足!
この物語でもクラピとヘカ様を出したい、というか出す予定
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