東方扇仙詩   作:サイドカー

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勤労感謝の日ですってよ

サブタイトルの通り、今回はあのキャラが出てきます。
前編だから出番少ないけどな!(ネタばらし)

そんなわけで三連休初日の最新話、此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第十四話 「赤髪エンカウント ~人里のろくろ首 前編~」

 真っ昼間、イケナイ太陽が容赦なく灼熱の日差しを降り注ぐ。

 人目につかない裏通り。我がアジトであるテント内で苦々しげに顔をしかめる。オレは夜を生きる男。どう考えたってこんな時間帯に起きている筈がない。にも拘らず、こうなっているのは当然理由がある。

 その答えが低い呻きのような呟きとなって出でた。

「……眠れん」

 ここ数日間にわたった、かの仙人による規則正しい生活という名の調教の成果ではない。フッ、そう簡単に夜型の生き様は覆らねーよ。もっとも、本当にそうなっていればあの女も鼻を高くするのだろうが。

 というか、寝れるもんならオレだって寝たい。しかしながら、己が渇望してやまない安眠のひとときは、外部によって妨げられていた。

 

「とりゃ! そっち行ったわよー!」

「わっわっ、取れ――きゃうッ!?」

「あらら、また落としちゃったわねぇ」

 

「…………うるせぇ」

 どうやらすぐ近くでガキ共が遊んでいるみたいだ。いかにも子どもらしい甲高い声が耳に突き刺さる。有体に言ってしまえば喧しい。恐らくオレがここに居るのには気付いてないだろう。隠れ家なのだからしゃーないと言われれば返す言葉もないけど。

 しかし、どうにも遊びに熱中するあまりテンションも段々とヒートアップしていやがる。そのせいではしゃぎ声までデカくなってきた。こんなことなら耳栓でも買っときゃよかった。

 

「いっけー!」

「なんのー!」

「もらったぁ!」

 

 ワーワーキャーキャー。まるで幼稚園の中庭か小学校のグラウンドだ。

 ただでさえ浅い眠りだったというのに、それを叩き起こされてこの仕打ちは非常に辛い。とにかく寝直してぇ、休ませろ。だが、タオルケットを頭から被ってみたところで、防音にはクソの役にも立たなかった。マジで耳栓が欲しい。

「……だーもう、こんなんで寝れるかってんだ!」

 とうとう我慢できなくなり、バネが跳ねるかの如く反動をつけて飛び起きる。あとは感情に任せて一直線。寝惚けとイライラが重なったお世辞にもよろしくない状態のまま、オレはテントから顔を出して辺り一帯に向けて叫んだ。

 

「うるせー! 寝かせろォ!!」

『うわぁああ!?』

 

 よもや物陰から人が出てきて、そのうえ怒鳴られるとは思わなかったろう。すぐ近くにいたガキんちょ三匹がビックリした挙句に尻餅をついた。いかん、やり過ぎたか。泣かれたら後々面倒くせぇぞ。

 やっちまった後悔が波となって急速に頭を冷やしていく。顔には出さないものの、内心ではヒヤヒヤしながらチビ連中のツラを覗く。

 そして、思わぬ展開にこちらまで意表を突かれた。

「あ? テメーら……」

 目の前にいたのは見知った顔ぶれだった。ツインテールと黒髪ロングと縦ロール。んだよ、この間の妖精トリオじゃねーか。

 さらによくよく見ると、彼女らの足元には海やプールとかで使うであろう風船ボールが転がっていた。なるほど、コイツで遊んでいたのか。つーか、人里の中でビーチバレーしとんのか、お前らは。水スポットなんざ用水路ぐらいしかねーだろうに。

 すると、向こうもオレだったことに気付き、いつぞやの再来でまたしても口々に喋り出した。

「ワタナベさんじゃない。なんでこんな所にいるの?」

「もしかして、おうちないの……?」

「何かいる気配はしてたけど、まさかワタナベさんだったなんて」

 サニーミルクは純粋な疑問を、ルナチャイルドは可哀相なものを見る瞳で、スターサファイアはしみじみと腕を組みながら、どいつもこいつも好き勝手に言葉をぶつけてくる。

 ここがオレんちだっつの。あと、物陰でゴソゴソ生きてる黒いヤツみたいに言うなや。台所の天敵と類友か、オレは。というかオレが居たの察していたんかいコラ。

 しかもコイツら、出てきたのがオレだと分かった途端に怯えの色が消え失せやがった。ま、泣かれるよりはマシってか。

 ボリボリと頭を掻きながら、こちらも嘆息して返す。

「ったく、人が寝てるってぇのに大声出して騒ぐなよ……」

「えー、まだ寝てたの? ワタナベさんってば、すっごいお寝坊さんね。もうお昼よ」

 サニーミルクが茶化すように笑う。つっても昼になったばっかだろうが。まだ正午にもなってないし。

 とはいえ確かに、フツーの至極真っ当な生き方している連中であれば、絶賛活動中の時間帯なのはオレも認めよう。ただし、あくまで規則正しい一般人であればの話だ。生憎だが、オレはそこら辺の凡人とは一味違う。なぜならオレは夜に生きる男。

 欠伸を噛み殺しつつ、三ガキにオレのポリシーを語って聞かせてやった。

「オレは月と一緒なんだよ。日中はしっかり休んで、夜になったら輝きを得る。そういう男だ、分かったか?」

「へぇ、よかったわねルナ。あなたと相性バッチリみたいよ」

「私とワタナベさん、お似合い?」

 スターサファイアのからかいをバカ正直に受け取ったのか、ルナチャイルドが首を傾げてメチャクチャなことを言い出した。なぜかこっちを見ながら。いや、オレに聞くなよ。そもそも名前が月とルナで被っただけだろ。

 無論、このオレが子どものおませに狼狽えるはずもなく、鼻で嗤って受け流してみせる。

「けっ、ガキが生意気言ってんじゃねぇ。せめてあと十三年くらい成長してから出直してこいや」

 ついでにしっしっとあしらう動作のオマケ付き。フッ、残念だったな。大人をからかおうったって、そうはいかねーぞ。

 ぶーぶーと抗議してくる三妖精を躱しながら言葉を続ける。

「とにかく、オレは寝る。頼むから静かに――」

 

「そうはさせませんよ、綿間部?」

 

 一瞬にして余裕が消し飛んだ。

「なん……だと……?」

 まさしく一生の不覚。いつしか割って入ってきた女の声に、ヤバいと思ったところでもう遅かった。右腕に包帯がトレードマークの仙人サマ。茨木華扇のご登場である。

 柔らかな桃色のミディアムヘアを揺らして、一歩また一歩とこちらに歩み寄ってくる。

「こんな所に隠れていたんですね? 彼女達が騒いでくれたおかげで、ようやく居場所を見つけられました。決め手はあなたの叫び声でしたけど」

「チキショーめ、自滅しちまった……!」

 あの時の怒鳴り声が敗因だった模様。泣けるぜ。

 テントに引きこもって籠城しようにも、それよりも早く首根っこを掴まれてあっさり引き摺り出されてしまう。まさかお前、今日までずっとオレの隠れ家を捜していたワケじゃねーだろうな。だとしたら凄まじい執念だぞオイ。

 はたして一体何がこの女をそこまで駆り立てたのかは知らん。が、こうして捕まってしまったからには負けを認めるしかあるまい。何に負けたのか自分でも分かっちゃいねぇけど。

 諦めの表情でやれやれと肩をすくめる。

「んだよ……そんなにオレに会いたかったのか?」

「バッ……!? そそ、そんなわけないでしょう!! 何言ってるんですかぁ!?」

「おぐぇえええ!? バカお前っ……首絞めんなっ、窒息するわ……ッ!!」

 冗談交じりの皮肉のつもりだったのだが、言った直後に物理的な手法で黙らされそうになった。殺す気かコラ!?

 ジタバタともがくオレを無視して、桃色の少女は振り返る。

「さて、私達は行きます。あなた達は気にしなくてもいいですよ。この場所で好きなだけ遊んでくださいね」

 そう言って、仙人サマはガキんちょ共にニッコリと穏やかな笑顔を向ける。おうおう、子供には優しいこって。こちとら自力で首絞めから抜け出したってぇのによ。

 そんな彼女の言葉を受けて三妖精が作戦会議を始めた。ちょっと待て。もしかしなくても、もう少し待っていれば勝手にどっか行っていたかもしれねーのか? これは酷い。全てが無駄だった。無駄無駄。

 俺の心に黄金の風が吹き荒ぶなど知る由もなく、三妖精のブリーフィングは続く。

「どうしよう?」

「ボール遊びも飽きてきちゃったし、別のことしない?」

「あ、それならさ! アレ見に行こうよ、チルノが日焼けしたってやつ!」

 こちらが放っておかれている間に、なんだかんだで意見がまとまったらしい。チルノとかいうのが日焼けしたことに一見の価値があるという。なんのこっちゃ。

 個性豊かな妖精ズがふわりと宙に浮かぶ。

「私たちも行くわ、バイバーイ!」

「じゃあね、ワタナベさん」

「また今度」

 一番元気なサニーミルクを筆頭に、仲良し三人組が手を振りながら飛び去っていく。あ、しくじったな。この間の駄賃も渡しとけばよかった。しゃーねぇ、また今度で良いだろ。時効にするつもりはねぇぜ?

 ようやく静けさを取り戻したところで、またもや欠伸を一つ。のそのそとテントに戻る。

「じゃ、オレももう一眠り――」

「させないと言ったでしょう?」

「…………ですよね」

 美しく整った顔立ちに、目が笑っていない笑みを張り付けて迫りくる桃色の少女。逆らい難い華扇の圧力にあっさり屈した。オレってこんなキャラだったっけか……?

 肩を落とすほどに脱力する。しばし遠い目になって、三ガキが飛んでいった方向を見上げたのであった。

 

 

 ドナドナと家畜の如く連行されたままで天下の往来を引き摺り回させるワケにもいかない。オレのプライドにかけて。仕方なく、お客を求めるフリをしてウロウロと練り歩いていく。

 こちとら小学生にでもなった気分であった。せっかくの夏休みにラジオ体操で早起きさせられている感じとでも言おうか。

 とにかく打開策を練ろう。というか既に決まっている。何処か建物の中に避難するしかあるまい。この女は食い物で釣ればいい。

「とりあえず何か腹ごしらえしようや」

「それは賛成ですけど、今何か失礼なことを考えませんでしたか?」

「……気のせいだろ」

「そうですか…………ところで、今の間は何かしら?」

 女性は洞察力に長けていると聞くが、コイツも例にも漏れずそうであった。何やねん、その鋭さ。探偵かよ。危うく説教喰らうところだったじゃねーか。

 ともあれ狙い通り。さらに、都合の良いことに此処からだと例の酒場が近い。あそこなら昼営業もあるのは既に知っている。先日の依頼を受けたおかけで。

 

 ほどなくして店が見えてくる。ふと、前方からこちらに歩いてくる若い女性がいた。

 赤くてクセのない短髪に青いリボンを付けた少女。クソ暑い夏だというのにマントなんぞを纏って首回りを隠している。かと思えば、下は華扇のよりも丈の短そうなミニスカート。こちらも赤色だ。日差しにも負けない眩しい太腿を露わにしていた。

 おいおい、上下で季節感バラバラ過ぎんだろ。リアルのマントなんて初めて見たわ。

「あの女性が気になるんですか?」

 なぜか華扇が声を固くした。あの女に何か思うところでもあるのか。別に敵対している様子はなさそうだが。文字通り、赤の他人なんじゃねーのか?

 オレをじっと見据えてくる仙人サマを横目で見つつ、顎をしゃくって件の女を示す。

「気になるかどうかって言えば、そらなるわな。目立つだろ、アレ」

 彼女の特徴を表すなら「赤い」の一言に尽きる。またキャラ濃いのが出てきやがったな。

 てっきり擦れ違うものかと思いきや、奇遇にも目的地が同じだったらしい。酒場の暖簾を前にして、オレと華扇そして赤女の三人の足が止まった。どちらが先に入るかタイミングを見失ってしまい、互いの視線が交錯する。

 やや吊り目がかったすまし顔――世間一般で言うところのクール系ってやつだろうか。自己主張の強い色合いで全身を覆っている人物とは到底思えない。しかしながら、一見すると服装と矛盾しそうな顔立ちも、この少女に関しては妙にバランスが取れていた。

 

「何?」

「いや、オレらもここに用があんだよ」

「そう。悪いけど先に入らせて」

 

 言うや否や、こちらの返事も待たずにそそくさと店内に入っていく赤い少女。彼女も食事に来たのであろう。一人飯、孤独のグルメってか。意外と気が合うかもしれない。

 と、すぐ隣からどことなく強い視線を感じた。犯人は言わずもがな。

「ああいう娘が好みなんですか?」

「なーんでそうなんだよ……お前、機嫌悪くなってねぇか?」

「知りません、馬鹿者…………ばーか」

「二回も言うなや。凹むだろうが」

 脈絡なく人を連続でバカ呼ばわりしたかと思えば、オレを置いて一足先に華扇も暖簾を潜っていった。どことなく、怒っているというより拗ねているような印象を受けた。何というか、あのままではヤケ食いでもしかねない様子だった。

「ったく、やれやれ……」

 兎にも角にも、オレもさっさと入るとするか。代金を全て押し付けられる前によ。

 

 

つづく




次回ラッキースケベあり
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