東方扇仙詩   作:サイドカー

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急にネタが降りてきたので衝動のままにやったった
時系列とか気にしない方向で、本編でも未登場の小町が出てきますが大目に見てオナシャス

それじゃとりあえず同盟を結ぼうか


番外編 「人里のメリークリスマス」

 幻想郷にもクリスマス文化はあったらしい。

 十二月二十四日。まさに聖夜と謳われる時刻となった。今宵、人里は見慣れた和風な景観ではなく、色鮮やかなイルミネーションが施されていた。あちらこちらに柔らかい光が宿り、道往く人を照らす。

 しんしんと降り積もる雪化粧と相成って、夢と希望に満ちた冬の風物詩が拝めた。遥か天高くから白くて小さい冬の粒が舞い降りる。吐く息までもが白い。オレは何をするでもなくただぼんやりと夜空を見上げた。

「……雪だな」

 当たり前すぎる独り言が息に混じり、冷えた空気に霧散していく。

 人里に植えられた木は全てクリスマスツリーへと変貌を遂げた。連日かけて村人たちが総出で飾りつけした甲斐もあり、洒落た装いの並木が続く。

 どうでもいい話だが、リア充どもを爆破してくれとか妬みに狂った依頼もなくて安堵している。ちょうど金髪碧眼の少女と茶髪ツンツン頭の青年が、お互いに相手を意識しながら歩いていった。特に金髪っ娘が気恥ずかしそうに顔を赤らめているあたり、そういうことなのだろう。幸せそうなこって。

 ちなみに、本日の何でも屋は臨時休業だったりする。というのも、

 

「お待たせしました、綿間部」

 

 もう何度も耳にしている凛とした声に振り返る。

 桃色のミディアムヘアに白のシニョンを括った女が立っていた。首にマフラーを巻き、厚手の上着の袖から伸びた手にはミトンに似た形の手袋が嵌められている。整った顔立ちは寒さで鼻先が仄かに赤くなっているものの、嬉しそうな笑みを浮かべる。急いできたのか、彼女が息を弾ませるたびに小さな口から零れる吐息が白くなって表れる。

 待ち合わせをしていた女性――茨木華扇が駆け寄ってきた。

「ごめんなさい、待たせてしまいましたか?」

「別にそうでもねーよ。オレも今しがた来たところだし」

「そうですか……うふふっ」

「なーんでそこで笑うんだか……」

 今のやり取りのどこに笑う要素があったのかは知らんが、華扇の機嫌がさらに良くなる。その表情がイルミネーションの光に映えて、僅かな間とはいえ目が離せなくなった。

 不覚にも呆けてしまったオレに対して、彼女は自然な動きで手を取ってきた。手袋越しでも彼女の手の温かさが伝わる。その拍子に二人の距離が縮まり、赤みがかった瞳に上目遣いで見つめられる。

「それでは行きましょうか」

「ま、いつまでも寒空の下で突っ立っててもしゃーねぇわな」

 仙人サマに引っ張られるかたちで歩き始める。オレ達が今夜を過ごす場所に向かって。というか、行き先わかってんだから手繋ぐ必要なくねーか?

 そう思ってもあえて口にしなかったあたり、ひょっとしたらオレも浮かれているのかもしれない。

 雪掻きされた道に新たな雪が薄く積もる。その上に二人分の足跡を付けながら、オレは隣人にバレない程度に口元を緩めた。

 

 

「いらっしゃい。待ってたわよ」

 オレ達が訪れた場所。もはや第二のアジトになりつつある酒場までもがクリスマス仕様になっていた。店の中に入ると、暖房の温もりがじんわりと身体に染み入る。

 壁際に沿って、カラフルな折り紙の輪が繋がって店内を一周する。どこで調達したのやら、立派な植木の頂点には星飾りのアクセントが光沢を放つ。さらには雪に見立てた綿が所々に乗せられていた。予想よりも雰囲気が出ていたので感心してしまう。

 ただし、看板娘のろくろ首は普段通りの服装だった。もっとも、サンタのコスプレされても反応に困るんだけどよ。もしそうなっていたら、可愛いだとか似合ってるだとか言って口説けばいいのか? 難易度高くてオレには無理だわ。

 無論、この場にいるのは赤蛮奇だけではない。オレ達に気付いた知り合いどもが次から次へと声をかけてくる。

 

「お客さん、おそーい」

「ほぼ時間ピッタリやんけ。ところでよ、なんで女将の格好してんだ? 自分の店じゃねーだろ」

「ばんきさんだけじゃ大変だと思って、あたしもお手伝いしてるの。それに、お客さんも和服好きでしょ?」

 愛嬌のあるスマイルを振りまきながら、和服と頭巾の鳥少女がその場でくるりと回ってみせる。あざとい。ミスティアも客のはずなのに、勝手知ったる要領で忙しなく行き来しておった。ここの店員と言われても誰も疑いはしまい。あと、いつからオレは和服フェチになったんだ?

 さらにもう一人。こっちは働き者の鳥娘とは真逆に、カウンター席で寛ぐ怠けきった姿でプラプラと片手を振ってきた。

 

「ちーっす。二人がなかなか来ないもんだから勝手に始めちゃうところだったよ」

「まったくもう、どうしてこういう時だけ行動が早いんですか……」

「んー? あたいはあんたと違って待たせている男もいないしねぇ」

「な……ッ!?」

 まるで腐れ縁のダチのような態度で仙人に軽口を叩く赤髪の死神。サボりに定評のある彼女に先を越されるとは驚いた。ダメな方でやればできるタイプかよ。

 その小町はといえば、早くも余計なコトを言ったせいで、お怒りの華扇に詰め寄られていた。相変わらず仲がよろしいこって。そのままガミガミと説教モードに入りそうだったところを、上白沢女史が間に入って宥めにいった。あとついでに店主のオッサンもいた。

 幻想郷の顔馴染みとのクリスマスパーティー。繁華街のオシャレなレストランとは程遠く、下町の居酒屋というのも案外悪くない。高級レストランでクリスマスを祝ったことなんざ一度もねぇけどな!

 ほどなくして、守護者サマのファインプレーによって怒りを鎮めた仙人サマがこちらに戻ってくる。まだ少し頬を膨らませたままなのだが。おかんむりってやつか。

「本当にあの死神は人をからかってばかりなんですから……!」

「そういうお前も煽り耐性なさすぎじゃねーのか?」

「むー」

 文句言いたげにジロリと睨まれた。こっちに矛先を向けてくるのは止めていただきたい。

 フッと嘆息染みた笑いを零す。ここは上白沢女史に倣ってオレもこの女を宥めてやるとしよう。

「ま、旨いモン食って機嫌治せって」

「わ、私はそこまで食い意地を張ってませんッ! 綿間部はそろそろ女心を学ぶべきです!」

 いかん、逆効果でした。やっぱり慣れないことはするもんじゃねぇぜ。

 今度はオレをお説教の標的にしてきやがった華扇を連れて、そそくさと皆が集うテーブルに向かう。小言は適当に聞き流しておく。ってオイ、何故どいつもこいつもそんな生温かな眼差しを寄越してくんだよ。バカ止めろ、そんな目でこっち見んな!

 その後、赤蛮奇とミスティアの手によって料理やグラスが続々と運ばれてくる。瞬く間にテーブルが埋め尽くされていった。

 そして参加者も料理も全て揃ったところで、なぜかオレが音頭を取ることに。多数決という数の暴力に屈した。まぁいい。本日はお日柄も良く、などとお約束言ってないでさっさと終わらせようか。

 この日のために用意したのだという、シャンパンが入ったグラスを掲げる。

 

「んじゃ――乾杯!」

『メリークリスマス!!』

 なんでやねん。

 

 

 グラスを交わす音を合図に、聖なる夜の宴が幕を開ける。

 まずはシャンパンで乾きを潤す。高級酒のイメージを体現した透き通った口当たり、アルコールに混じった炭酸さえも上品に弾ける。この脚付きグラスといい、よく準備できたもんだ。

 オレの隣では美味な料理に舌鼓を打つ仙人サマがはしゃいでおった。

「あ、コレも美味しいですよ。綿間部も食べてみてください」

「ったく、楽しそうだな」

「もちろん、楽しまないと損ですからね」

 取り皿が一杯になる勢いで、豪勢な食事に次々と箸もといフォークを伸ばす。この日を一番楽しみにしていたのは、あるいは彼女ではなかろうか。今の華扇は仙人というより、パーティーに浮かれる年頃の女子にしか見えない。

 ご馳走に囲まれて幸せいっぱいの少女が眩い笑顔をみせる。ちなみに先ほどから彼女が頻りに勧めているのは牛ロースのステーキである。焦げ目までもが香ばしさを演出し、滴る肉汁が食欲を誘う。まさしくご馳走の名に恥じない豪華メニューの王道といえよう。

 さらに不意打ち。見てばかりのオレに業を煮やしたのか、ついに華扇が強行手段に打って出た。

 

「はい、あーん♪」

「むぐぉっ!?」

 

 熱ッ!? ……くはなかったけど危ねぇだろうが!

 一口サイズにカットされたステーキを口元に運んできたかと思いきや、ノータイムで口の中に突っ込まれる。

 いくら一口サイズとはいえど結構な厚切り。噛めば噛むほど牛肉の塊から肉汁が溢れ出し、濃厚な味付けのソースとのハーモニーを奏でる。グルメ番組にあるような口の中で溶ける類いとは真逆をいく、これぞ肉って感じの肉だ。

 何度も何度も咀嚼してようやく飲み込む。ついでに酒で口直し。

 そんな具合でオレが食べる様子をじっくり眺めていた女が、悪びれもなくニコニコと聞いてきやがった。

「美味しいですか?」

「そら美味ぇけどよ。タイムラグなしでフォーク突っ込んでくんなや……」

「もう一つ食べますか?」

「いや聞けって」

 コイツもう酔ってんじゃねーかと疑わざるを得ない。ただ、この女が酔っ払っている姿なんざ未だに見たことないんだけど。はたして泣き上戸か、あるいは笑い上戸か。

 結局、勢いに圧し切られてもう一つ食べさせられた。ったくよぉ、美味ぇじゃねーかよ。

 

 やがてクリパも佳境を迎える。

 あれだけあった料理も随分と減ってきた。こっそり揚げ芋を占領しながら、何気なしに思ったことを口走ってしまう。迂闊にも、まるで過去を反省していない内容を。

「つーか、あえてステーキなんだな。クリスマスなら七面鳥が定番だろうに」

「………………お客さん」

「待て待て待て分かった分かった今のなし。マジでステーキ最高」

 気配もなく真後ろに立った鳥娘の威圧感を背に受け、秒単位で白旗を上げて許しを乞う。そうだった、この女がいたのを失念していた。そら鶏肉なんて出るワケない。

 両手をホールドアップしながら和服女将と向き直る。ヤツはケーキ用のナイフを持っていた。怖ッ!

「と、ところで今日は歌わねーのか? クリスマスソングの一つや二つ知ってんだろ」

「そうねぇ、どうしようかなー……お客さんはあたしの歌聞きたい?」

「フッ、むしろ女将の歌を聞きに来たと言ってもいい。それがないとクリパじゃねぇ」

「やだもう! そこまで言われちゃったら、リスエストに応えないといけないじゃない」

 満更でもなさそうにはにかみながら手で煽ぐ。よし、ご機嫌取り成功。やったぜ。

 なお、あからさまな言い回しだったせいか、華扇のジトッとした視線が痛い。頬が膨らんでいるのはメシを詰め込み過ぎたからであろう。お前はリスか。

 「しょうがないな~」なんてしょうがなくなさそうに言いながら、ミスティアは全員から見える場所へ移動していった。彼女の行動に気付いた参加者達がお喋りを中断し、鳥の翼をもつ少女に注目する。

 さりげなく赤蛮奇が店の明かりを落とした。瞬く間に辺りが暗転する。唯一、キャンドルの火が暗がりに灯った。まるで教会か礼拝堂にでもいるかのような感覚。幻想的な雰囲気と、皆が見守る静けさが辺りを包んだ。

 そして、歌姫が今宵を祝う旋律を紡ぎ始める。

 

 ――silent night holly night……

 

 その場にいた誰もが聞き惚れた。ローレライの名に偽りない美声がメロディとなって流れていく。

 キャンドルの灯に浮かび上がる歌姫の姿は、さながら祈りの歌を捧げる聖女を彷彿とさせた。幾人かは瞼を閉じて美しい歌声に身を委ねている。

「綺麗……」

 桃色の髪をもつ少女が、感嘆の息とともに呟いた。確かに、相変わらず歌が上手い。

 されど、ミスティアに見惚れる彼女の横顔もまた目を惹くほどに美しくあり。オレとしてはそちらの方が気になってしまう。この女は自分の容姿レベルの高さを自覚しているのか。どうせ無自覚なんだろうな……

 ちょうど彼女の食事の手が止まっている。手近にあったグラスを二つ引き寄せてシャンパンを注ぐ。そのうち片方を華扇に差し出した。パチクリと瞬きする彼女に、讃美歌を妨げないように小声で言う。

「ま、なんだ。改めて乾杯しようぜ」

「……はい、喜んで」

 その時の彼女の顔は暗くてよく見えなかったと言い訳させてもらおう。

 わずかにグラスが重なる福音は、同じタイミングで歌い終わった鳥少女に贈る拍手と歓声に消えていった。

 

to be continued




続きは今夜にでも
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