予告通り、本編そっちのけで番外編のワンツーコンボでございます。
ケーキとワインを御伴に、今宵もお付き合いいただけると嬉しいです。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。というのも、よくある話だ。
あれから時を経て宴もたけなわ。一人また一人と帰路につき始めていく。クソ真面目な上白沢女史が後片付けを申し出ていたが、ろくろ首の看板娘に「気持ちだけで貰っておく」と言われ、さらに女将からは「いいの、いいの! 私達だけで十分だから!」と押し切られていた。もうミスティアも店員でいいんじゃねーかな。
守護者サマが申し訳なさそうに店を後にするのを、卓上に頬杖を突いたまま見送る。そもそも人里の飾りつけで指揮を執っていたのもあの人だ。仕事がデキる女ってのも辛いな。なんだかんだで一番大変だったんじゃねーのか?
奥の厨房に引っ込んでいった連中を除き、残っているのはオレと華扇。それと……
「くかーっ すぴー」
カウンターに突っ伏して寝息を立てている死神娘の三人だけとなった。この光景だけ切り取ればいつもの酒場である。
お優しい仙人サマが、店から借りてきた毛布を掛けてあげていた。呆れながらもどこか優しげな雰囲気を感じる。今回ばかりは叩き起こす気はなさそうだ。
「しかし、コイツいっつも寝てんな」
「ですね。いつ起きるのやら……」
顔を見合わせて揃って苦笑する。
さっきまで一気飲みしては「っかー!」とか男前な声上げてたってぇのに、いざ寝てしまうと静かなものだ。若い女が店内で堂々と眠りこけるのもどうかと思うが。もっとも、それも今更ってか。
おかげでこの場で起きているのは、オレと華扇の二人だけ。
――待てよ? これは絶好のチャンスじゃないか? というか、タイミング的にも今しかないだろ。
「華扇、ちょっと手ェ出してくれ」
「はい? どうしたんですか?」
「いいから」
怪訝な顔をするも彼女は素直に手を差し出してくれた。包帯に包まれた手のひらに、上着のポケットから出した小箱を載せる。贈り物用に包装されたものを見て、華扇が目を見開いた。
どうにも周りの目もあって隠していたままだったが、意外なところで機会が巡ってきたものだ。なんせ、他の連中の前で堂々と渡そうものなら何を言われるか分かったもんじゃねーし。
「えっと、これは……?」
「一応、オレなりのクリスマスプレゼントだよ……察しろ」
「…………」
うぉい、なんでそこで黙っちまうんですかねぇ。
まるで信じられないものを目の当たりにしたかのような顔をされた。それほどまでにオレがプレゼントを用意してきたのが驚きだったらしい。うん、ぶっちゃけオレもそう思うから心配すんな。
小町の寝息だけが聞こえる静寂が何ともいたたまれない。そんな中、ようやく華扇が口を開いた。
「あの、開けてもいいですか?」
「好きにしてくれ」
おずおずと尋ねてくる彼女の表情をまともに見れなくて、顔を横に逸らしながら雑に答えてしまった。
我ながら気色悪いことに、照れ隠しが見え見えなぶっきらぼうな態度になっていやがる。とんだ捻くれ者がいたものだ。夜に生きる男がこの有様とは失笑だぜチクショーめ。
華扇がやたら丁寧に包み紙を解く。そして、蓋を開けると中に入っていたもの――リボンの髪飾りがその姿を覗かせた。
博麗の巫女や赤蛮奇が身に着けているような大きいデザインではなく、野花のように小さくて可愛らしいもの。女物のプレゼントを買った経験なんてないため、オレのセンスだとこの辺が限界だった。
柔らかな桃色の髪に添えるとすればどんなカラーが良いか想像し悩み抜いて、春の訪れを思わせる萌黄色を選んだ。オレなりに頑張ってみたつもりだが、受け取った相手はコレをどう思うだろうか……
緊張で手汗が滲むのを隠しながら、華扇の反応をうかがう。
「素敵……」
彼女は愛おしげに髪飾りを見つめていた。心なしか瞳が潤んでいるようにも映る。素敵、と言ったからには気に入ってもらえたらしい。恐らくは、そう解釈しても良いはず。って、何だこの青春劇は。
「付けてみても?」
「そら当然、良いに決まってんだろ。そいつぁお前のモンだからな」
「では……」
わざわざオレに確認してきてから、華扇は箱からそれを取り出した。片側のシニョンに合わせるようにして髪飾りを結ぶ。桃色のミディアムヘアに萌黄色の蝶々が留まる。
その髪飾りは彼女に似合っていた。少なくとも、オレがしばし見惚れてしまうぐらいには。
「どうですか……? 綿間部」
「い、いいんじゃねーの? お前の好みに合うかイマイチ自信なかったがな」
「もちろん、とっても嬉しいです。ありがとうございます……ずっと大切にしますね」
そう言って、華扇はいつになく可愛らしく微笑んできた。髪だけではなく頬まで桜色になっている。刹那、心臓が高く鳴った気がした。これは、マズイ。
かくしてオレは己の限界を悟った。その辺に吊るしてあったコートを奪い取り、焦りから雑っぽく袖を通す。
「じゃ、そーゆーことで。あとはヨロシク!」
「えっ? あ、わっ……綿間部ッ!?」
早口で捲し立ててついでにグッと親指も立てて、まるで逃げるかのごとく酒場を飛び出した。一陣の風と化して。困惑する華扇の声を背中に受けながら、無駄に熱くなった顔面を冬空の冷気で涼ませながら。
だーもう! こちとら女にプレゼントを贈るなんざ、まともにやってきたためしがねぇんだっつーの!
お礼を伝えたら、彼が逃げ帰るみたいに店を出て行ってしまった。
未だに火照りが消えない頬に手を添えて、茨木華扇は深く息を吐いた。高鳴る鼓動が治まらない。
まさか彼からクリスマスプレゼントを貰えるなんて思ってもみなかった。いや、本音を言ってしまえばほんの少しだけ期待していたけれど。でも、ホントに貰えるなんて。
しかも、女の子が身に着ける髪飾り。私がこれを付けているところを想像して選んでくれたのかしら。そんな素振り、全く見せなかったくせに。反則だと思う。馬鹿者。
「………やっぱりズルい人」
「あーあー、惚気てくれちゃって」
「ひぁああああああああっ!?」
ガターンッ!と盛大に音を立てて仙人少女が飛びあがる。見れば、爆睡中だったはずの死神少女がニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべていた。油断した、よもや狸根入りとは。さっきまでとは違う意味で五月蠅い鼓動が鳴り止まない。
「こ、小町!? あなた一体いつから起きていたんですか!?」
「ついさっきねー。起きようにもあんたらが妙な空気してるもんだからさ。いやはや困ったもんだよ」
「はぅっ……」
今の今まで繰り広げていた贈り物の一幕をしっかり傍聴されていた模様。知ってしまえば、恥ずかしさが一気に込み上げてくる。顔に熱が集まっていくのは避けられなかった。
パクパクと口を開閉させて声にならない声を上げている桃色の髪の乙女に、赤髪のお節介焼きが口の端を上げる。
「さーてと。あたいもボチボチ帰ろうっかなー。んで、お前さんはどうするのさ? クリスマスはまだ終わってないよ」
小町がわざとらしい物言いで問うてくる。本当に、余計なお世話だ。
皆で楽しくクリスマスパーティもした。彼から贈り物だって貰えたし、咄嗟だったけれどこちらも
でも、このまま終わりにするのは、どうしても……
「…………私は」
「はっ……はっ……」
息を切らせながら人里の中を駆け抜けていく。とはいえ酒も入っているせいで長くは保たない。曲がり角を抜けた先で足を止める。呼吸を整えていくうちに頭も鮮明になってきた。ったく、無駄に気疲れしちまった。
どうにも格好つかないが、無事にプレゼントを渡した事実に変わりはない。サンタクロースのマネゴトも楽じゃねーわ。もう二度とやるまい。多分。
悴んだ手を温めようと、空っぽになったポケットに突っ込んで――
「…………あ?」
何かが指先に当たった感触が伝わってきた。可笑しい、ブツは渡したからもう何も入っていないはずなのだが。
中にあった物を引っ張り出す。すると、綺麗にラッピングされた小さい箱が出てきた。当然、オレがあの女にあげたものではない。水色の包み紙にメッセージカードがくっ付いていた。
『綿間部へ メリークリスマス』
「……おいおい、仙人のくせに手癖が悪いんじゃねーの?」
いつの間にこんなのを入れられたのか、まったくもって見当がつかない。しかもオレよりも気障なやり方してくれんじゃねぇか。こっそりポケットに忍ばせておくなんてよ。つーか、オレもそうすりゃ良かったと今更になって気付いた。これは酷い。
ともあれ、オレ宛てなのだから開けても問題あるまい。帰ってからじっくりでも構わないのだが、どうしても中身が気になってしまう。結局、その場で開けることにした。
箱の中身は、艶が出るまで磨かれた楕円形の黒い石。宝石、というよりはパワーストーンの類いであろうか。さらによく見ると、内側にもメッセージカードがもう一通だけ入っていた。
『黒曜石には、困難に打ち勝ち自分を成長させる効果があるといわれています。お守りとして持っていてくださいね♪』
「マジメか」
単純にオレの通り名から黒い石にしたのかと思ったら、ちゃんと相応の意味があったらしい。さすが、仙人サマは博識なこって。幸い、誰の目にも触れていなかったのは有難い。さすがに裏通りで人知れずニヤついているところを見られたら御用になっちまう。
決してなくさないように、黒曜石を上着の内側に仕舞い込む。彼女に託されたお守りを身に着けている。そう考えると、なるほど確かに気持ちが高揚する気がしないでもない。
そのまま立ち尽くしていると、おもむろに誰かがオレの背にぶつかってきた。いや、ぶつかるというより、背中にしがみついてきたといった方が正しいかもしれない。
伝わってくる息遣いと体温から、振り返らずともそれが誰か理解した。
「……華扇」
「綿間部……」
「お前、小町はどうしたよ?」
「彼女ならあのあとすぐに目を覚まして帰りました。どうしても、あなたに会いたくて追いかけてきたんです」
女の細腕がオレの腹辺りに回され、より一層に体が密着してくる。彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。ついさっきまで共にいたというのに、わざわざ追いかけてきたという。その意図は。
心臓の鼓動を感じる。それが自分なのか彼女のものなのか分からない。
「ああそうだ。プレゼントあんがとよ。いつの間に入れたのかまるで気づかなかったわ」
「だって、綿間部が自分だけ渡して逃げるから。だから、こうするしかなかったんですよ……? 私だってちゃんと渡したかったのに」
「そいつぁすまんかったな」
前に回された腕にわずかに力が籠る。離したくないとでも言いたげに。華扇の吐息がすぐ間近に聞こえる。彼女があまりにしおらしいせいでオレまで落ち着かなくなってくる。どうしてこうなった。とりあえず、当たり障りのない口振りで問う。
「で、なぜにオレを追いかけてきたんだ? 忘れ物でもあったか?」
「……分かりませんか?」
桃色の少女が背中に顔を埋める。恥ずかしそうなか細い声が鼓膜をくすぐった。
「あなたと二人きりで過ごす時間も欲しかったんです……今日は特別な夜でしょう?」
嗚呼、これもクリスマスの魔法というやつだろうか。
彼女の腕を解いて正面から向き合う。顔を真っ赤にして俯く少女の髪に、萌黄色の髪飾りが雪明りに煌めいた。無意識のうちに、胸ポケットにしまったお守りの感触をコートの上から確かめる。形はどうあれ、プレゼント交換になったってか。やれやれ、回りくどいよな。お互いに。
やはりオレも今夜は浮かれているらしい。ただでさえ美人だというのに、華扇がいつにも増して綺麗に見える。フッ、夜に生きる男がエラくロマンチストになってしまったもんだ。
わずかに雪が付いた桃色のミディアムヘアをそっと撫でる。
「ま、これからがオレの時間だしな。寝るのはサンタを待つ良い子ぐらいだろうよ。とりあえず、どっか温かい所にでも行くとするか」
「はい。それと……私のサンタクロースは目の前に居ますよ?」
「……勘弁してくれ」
よくもまぁそんな小恥ずかしいセリフを言えるな、お前は。
さて、というワケでオレと彼女のメリークリスマスはもう少し続きそうだ。このあとどうなるかは、皆さんの想像に任せることにしよう。
再び歩き始めようとした時、ふいに華扇が顔を寄せて耳元で色っぽく囁いた。
「私をこんな気持ちにしてくれたんですから……責任、とってくださいね?」
Merry Christmas
華扇とイチャコラなクリスマス・イブを過ごしたいだけの人生だった
あと五等分の花嫁が好き過ぎた。拙僧も四葉にほっぺのクリーム舐めてもらいてぇなぁ(尊死)