東方扇仙詩   作:サイドカー

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華扇はね……可愛いんですよ……
イメージカラーがピンクでヒロイン属性なところとか、チャイナ服とミニスカの組み合わせとか、ピンク色のショートヘアとか、発育良いところとか、マジメそうで動物に好かれるところとか……
何が言いたいのかと言うとですね……

華扇に説教されたい(真顔)


第一話 「出会い ~はじまりは突然になの~ 」

 諸君、異世界モノはお好きだろうか。

 昨今は転生して人生リスタートする主人公をよく見かけるが、一昔前であれば転移するものが多かった気がするというのが個人的な感想だ。後者の場合、よく分からんアクシデントに巻き込まれて飛ばされたり、どうにか元の世界に帰ろうとする途中でその世界のゴタゴタにも巻き込まれたりと、大忙しである。

 今流行りの転生主人公に関していうなら、初っ端から定住するしか選択肢がないけどな。なお、異世界もスマートホンが使えれば十分やっていけるらしい。

 さて。

 柄にもなく異世界モノのレビューを始めた理由として、オレの近況を聞いてほしい。

 

 ガキの頃にハマったゲームやマンガみてーな展開を、なんと今まさに身を以って体感しちまっているのだコレが。

 

 

 かの川端康成の小説にはこうある。

 国境の長いトンネルを抜けると雪国であつた。

 今のオレの状況を表すならこうなる。

 趣味の悪い亜空間を抜けるとあぜ道であつた。

 

「フッ……世の中にはまだまだオレの知らない裏側があんだな」

 怒りが限界を超えると逆に笑えてくるように、ド派手に怪我をするとむしろ冷静になるように。想像を絶する事態に陥ると、人はパニックを通り越して普段通りに落ち着くと知った。

 周囲を見渡す。先ほどまでいた港とも、慣れ親しんだ繁華街とも似ても似つかない。完全無欠に田舎の風景だった。いや、何処だよ。

 遮るものがない広い平野を突っ切って、長ったらしい一本道が延々と続く。知らずオレは道端のド真ん中に立ち尽くしていた。ここ最近めっきり聞くことがなかった鈴虫の音色が、微風に乗って流れてくる。

「街の近くにこんな田舎ねーよなぁ。一体なんだったんだ、あの女……?」

 スマホを取り出してみたものの、案の定『圏外』と表示される。幸いにも、日付や時刻は数分前と大差ない。

 唯一分かっているのは、この状況がリアルだという信じがたい事実。最後あたりに交わした会話を思い出す。

 まさかガチな異世界なのか、それとも東北地方にワープしてしまったのか現状では判断が付かない。しかしながら、いつまでも人っ子一人いない砂利道に突っ立っていたところで変化もなし。

 どのみちオレをここに連れてきた仕掛け人が一向に姿を見せない以上、こちらから出向くしかねーワケで。

「ありがてーことにヒントはあるしな……」

 前方に目を凝らす。遠目からでも暗闇の中に明かりが群がっているのが見て取れた。村かなんらかの集落があるはず。

 もっとも、此処が異世界という仮説が事実だとしたら、アレが盗賊のアジトである可能性も否めない。ま、そん時はそん時でやりようはある。伊達に依頼のせいで危ない連中と鬼ごっこした経験しとらんわ。

 記念すべき第一歩を踏み出しつつ、念の為にベストの内側に手を入れてみる。切り札はいつものポジションに収まっていた。

 

 まさかの事態に唖然とする。

「おい、マジかよ……」

 着いた場所は期待通り、人々が生活する居住区だった。しかしそれは同時に、オレの予想を裏切る結果でもあった。

 なんてこった、ここにきてタイムスリップ説が浮かび上がってきやがったぞ。

 なにしろ道行く人の服装が今時のそれではない。和服、着物なのである。一人二人じゃない、どいつもこいつも揃いも揃って。建物も年季の入った古臭い一軒家ばかり、挙句には長屋まであった。

 もちろんアスファルト舗装など一切なく、農家の軽トラが一台たりとも走っていない。

 オレが知っている異世界と違う。むしろ庄内映画村と言われた方が納得できるまである。

「ま……まぁいーや。とりあえず、まずは情報集めからしねーと」

 色々と挫けそうになるが、どうにか気を取り直して進む。

 生活文化が江戸時代のド田舎だろうが、いつの世も情報社会なのは揺るがない。情報を制する者が勝利を掴む。オレも街では情報屋(タバコ屋のトメさん、御年八十九歳)に世話になったもんだ。

 そして、この時間帯で人と情報が集まる場所なんて何処も同じ。目星はついている。

 ――酒場だ。

 

「フッ、計画通り」

 この程度なら特に聞き込みをせずとも、人の流れや賑わいの大きいところを探っていけば目的地は容易く見つけられる。今宵も冴えているぜ。やはりオレは夜に生きる男。

 『酒』『飯』と記された暖簾が垂れ下がっている、その辺の民家とは少々造りが異なる平屋。現在地からはそこそこ距離があるにもかかわらず、何人もの野太い笑い声がハッキリと耳に届く。一日の労働を終えた皆様が乾杯しているのだろう。

 現代日本の通貨が使えるのか定かではないので、下手に注文はできない。しゃーない、話しだけでも聞いてみよう。

 酒場で呑めない悲劇を嘆きつつ、いざ乗り込もうと近付いたまさにその時だった。

 突如、例の酒場から食器が割れる音に続いて怒声が響き渡った。不穏な二重奏のなか、店から男が一人、逃げるような勢いで飛び出してくる。誰かが叫んだ。

 

「食い逃げだぁー!!」

 

「ほう……」

 逃げるように、ではなく本当に逃げていたらしい。よく見りゃ確かに人相も悪けりゃ格好もみすぼらしい。なんとも使い回されたキャラ設定のNPCだ。よりにもよって、モブ男は俺がいる方に向かって走ってくる。

 すると、店内からさらに誰かが外に走り出てきた。ほんの少し垣間見ただけだが、それが若い女性だと分かる。タイミングから察するに彼奴の仲間という可能性は低い。おそらくは食い逃げ犯をとっ捕まえようと追いかける正義感の強いタイプか。

 いずれにしてもオレの方が近い。思わず口の端がニヤリと上がる。ここ最近はめっきり少なくなったが、この手のトラブルは慣れている。久しぶりに一発かましてやんぜ。

 逃げるのに必死なのか、まだ目が暗がりに慣れていないのか。食い逃げ男は自分が逃げる先にオレが立っているのに気付いていない。街灯がほとんどないうえに、全身ブラックなコーディネートじゃ無理もない。しかも尾行の依頼で身に着いたステルス能力も効いている。やはりオレは夜に生きる者。大事なことなので何度でも言おう。

 モブ男がオレの横をすり抜ける間際。通りすがりのフリをしつつ、その足をガッと引っ掛けてやった。

「うわぁあ!?」

 全力疾走の勢いを余すことなく生かし、男が大胆に宙を舞った。そのまま顔面ごと地に滑り落ちて土煙が上がる。うーわ、食後にありゃキツいわ。できれば吐かないでほしい。

「なッ、何しやがんだ!?」

「お、吐かなかったか偉い偉い。だが偉いのはそこだけだな」

「あ゛あ゛!?」

「テメーには失望した。食い逃げなんてしょっぱい犯罪しやがって、まったくもって個性がねえ。せめてやるなら成功率百パーセントの伝説の食い逃げでも目指せや」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

 怒りと酔いで出来上がったツラで吠える食い逃げ(笑)。威勢よくガン飛ばしているが、地面に腰を着いたままじゃ余計に負け犬っぽいぞ。

 いやはや懐かしいわ、こういうの。おかげでオレも遠慮しなくて済む。

 ベストの内側に手を伸ばし、相棒を引き抜く。黒光りする無骨な塊が一丁姿を現した。その先端を男に突き付けるや否や、瞬く間に奴の顔が恐怖に歪んだ。いくら田舎者でもコレが何なのかは分かるか。

「ま、滅多に見れるもんじゃねーけどな――拳銃なんてよ」

「おい……ウソだろ……? な、まっ、待ってくれよ……!?」

「うっせ。例え食い逃げだろうと危ない橋には相応のリスクがあんだよ。失敗したときのバッドエンドを覚悟しておけや、三下」

 冷淡に吐き捨てて睨み返し、引き金を引こうと――

 

「待ってください!」

 

 凛とした声が、この場にいる全員の動きを止めた。

 銃口を逸らさず、その声が放たれた背後を振り返る。例の店から追いかけてきた女が強い眼差しでオレを見据えていた。

 若い女性と思ったが、もはや少女と言っても遜色ない。オレとさほど年齢が変わらないようにも思えた。

 ショートヘアとセミロングの中間ほどの長さに揃えた、柔らかな桃色の髪に真っ白なシニョンが二つ。白い半袖に茨模様が施された紅色の前掛けを重ね、胸元には薔薇の花が添えられている。髪の色と同じく、ピンク色の薔薇だ。新緑に染めたミニスカートの下から、キメ細やかな肌の素足が覗く。

 何より気を引くのが彼女の両腕にあった。左手首には鎖付きのブレスレッドを嵌めて、右手は指先から肩ほどまで隙間なく包帯を巻いている。

 

 随分と個性豊かな人物が出てきたもんだ。顔立ちが整っている分、なおのこと印象深い。

 中華を連想させる服装の少女は、説教染みた口調で言葉を続けた。食い逃げ犯ではなく、オレに対して。なんでや。

「確かにその人は罪を犯しました。ですが、それならば謝罪した後にしかるべき償いを全うするべきです。むやみやたらに断罪するのは人としてあるまじき行いではありませんか」

「ごもっともだが、その理屈はコイツが反省しているのが大前提になるんじゃねーか?」

「は、反省している! すまなかった金がなかったんだ……! もうしない、だから、だからッ……命だけはどうか……ッ!!」

 オレと少女の会話に割って入ってモブ男が地面に額を擦りつける。さっきの威勢はどこへやら、ガクブルと震えながら許しを乞う。よもや食い逃げしたせいで通りすがりの男に拳銃を突きつけられるハメになるとは、夢にも思わなかったろう。

 狙い通りの展開になった。あとは仕上げに入るだけだ。

 恥も外聞もなく土下座で謝り倒す罪人の弱り切った体に、桃色の髪をした少女が諭すように、さらにフォローを重ねる。

「ほら、彼もこう言っています。ですから、あなたもそれを下げてください」

「ま、反省はしているみてーだな。あとは落とし前だけキッチリつけなきゃなんねーわけだ」

「そうですね、だから――」

 少女の言葉を遮って、あくどい獰猛な笑みで処刑宣言を謳う。

「二度と悪さをしないためにも、なァ!!」

「!?」

 引き金にかけた指に力を込める。ついでに空いた手で片耳を塞げば、男が「ヒィッ!?」と情けない声を上げて後ずさった。

 テメーも運が悪かったな、わざわざオレがいる方向に逃げてくるなんてよ。判決、ギルティ。

「待って――!」

 少女がオレを引き留めるべく包帯に包まれた右手を伸ばすが、もう手遅れだった。

 

 パァンッ!!

 

 温い夜風に乾いた銃声が溶けていく。眼前で起こった惨劇に、彼女の赤みがかった瞳が大きく見開かれた。

 白目を剥いた男がスローモーションで後ろに崩れ落ちる。どさり、と呆気ない音をたてて仰向けに倒れた身体に、もはや微塵も力が残されていなかった。

 銃口にふっと一息かけて、地面に伏した罪人に告げてやる。

「理解したか。これがリスクを負うということだ――うぉッ」

 グイッと力任せにネクタイを掴まれて引き寄せられる。やったのは件の少女だった。頭一つ分の身長差があるせいで、下から見上げるかたちでオレを睨みつけてくる。

 端正な顔立ちを憤怒の形相に染めて、瞳の奥では怒りの感情が烈火のごとく燃え滾る。

「なんでっ……なんで撃ったんですか!?」

「言ったろ、二度と悪さしないための落とし前だって」

「だからって撃つのが許されるとでも!? こんな簡単に人の命を奪うなんて……! あなたは生命をなんだと思っているの!?」

「いいから落ち着けや」

「これが落ち着いていられますか!!」

 ミシミシと彼女の手に力が籠る。私は貴方を許さないと言いたげに眼光がギラついてやがる。どうしようもなくマジ切れだ。

 つーかやべぇ首が締まる! お前こそオレの命をなんだと思ってんだコラ! このままだと()()()死人が出んぞ!

 シニョンを飾った女子が殺意の波動を溢れさせている。こいつぁマズイ。早く誤解を解かねばむしろオレが殺される。

 ギリギリまで締め付けられた喉からかろうじて霞んだ声を絞り出せた。

「オイ……言っておくが、お前は一つ勘違いをしてんぞ……」

「何ですって!?」

 

「そこの男、生きてっからな」

「………………へ?」

 

 怒りの炎が一瞬にして鎮火する。残されたのは疑問のタネ。ここにきてようやく乙女らしいあどけない表情をみせた。そのまま固まってしまっているのはご愛嬌。

 力が緩んだものの未だにネクタイを掴んだまま動かない彼女に代わって、おそらく店主と思しき中年の男性が恐る恐ると倒れているモブ男に近付いた。次いで、ぎこちないながらも顔を覗き込んだり脈を測ったりしていく。

 ほどなくして、彼は顔を上げて「えっと……」と気の抜けた様相をこちらに向けた。

「気絶しているだけみたい、です。出血もありませんぜ……」

「ったりめーだ。出てたまるか」

「え、え……えぇええ……?」

 中華衣装の女子の視線が忙しなくオレと男の顔を交互に行き来する。どうでもいいけど、そろそろ手ぇ離せよ。この姿勢だって結構キツいんだからな。

 しゃーなしと溜息を吐きつつ、彼女にも分かるように懇切丁寧に教えてやる。このままじゃいつまでたっても収集つかんし、切り札のネタ晴らしといこう。

 

「スターターピストル。実弾どころかBB弾も入っとらんわ。オレは何でも屋であって殺し屋じゃない」

 

 学校の運動会とか陸上競技で使うアレ、要するに空砲である。

 この仕事をしていると、時にはヤバげな依頼もくる。そういった依頼をこなす際に、ハッタリや護身用としてコイツを仕込んでいるワケだ。連射はできないが、オモチャの火薬銃よりよっぽどデカい音が出る。

 そこの男も撃たれると思い込んだ恐怖が度を過ぎて気絶したんだろーさ。実際、持ち主のオレでさえ耳を塞がないと堪えるレベルの音量だし。

 愛読書は博多豚骨ラーメンズだが殺し屋になりたいとは思わない。あくまでオレは街の厄介事を片付ける便利屋もとい何でも屋。そいつがオレの主義だ。

「わかったか? だったらそろそろ右手を解いてほしいんだがな」

「……………!?」

 ようやく包帯塗れの右手がネクタイから離される。

 全て自分の早とちりだったのだと理解し、数秒とかからず彼女の顔が宵闇でもハッキリ分かるほどに赤みを増していった。先のは怒りだったが、今度は紛れもなく羞恥の感情によるもの。なんせ、盛大に勘違いしたままお門違いな説教をかましたのだ。

 あれだけ真面目に熱弁してしまったら、そら恥ずかしいわ。ドンマイ。

「ま……ば……」

「あ?」

 俯いてプルプルと震える右手包帯な少女の口から微かに声が漏れ始めて、何の気なしに耳を傾ける。

 直後、彼女はやや涙目になって再びオレを睨みつけて、獅子の咆哮さながらの絶叫を世界の果てまで轟かせた。

 

「紛らわしいのよ馬鹿者ォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 これが、オレと彼女の最初の出会いである。

 

 

つづく




未だに主人公の名前が出ていないというね
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