東方扇仙詩   作:サイドカー

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上映初日にHF第二章観てきたからテンションMAX
発情した桜エロス。やっぱりデカいなぁ ←ガン見した

イロイロと滾ってきたので最新話でございます。
此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。



第十八話 「いばら荘の華扇さん」

「…………何処だ、ここ」

 目を覚ましたら知らない和室に寝かされていた。いや、冗談抜きで身に覚えがないんだけど。どういうこっちゃ。ついでに顎もヒリヒリ痛む。こっちの原因は言わずもがな、あの女がキメたアッパーカットで間違いあるまい。猪木みたいにしゃくれちまったらどうすんだ。元気ですか。

 さらに違和感はそれだけに留まらない。気を失っている間にでも着替えさせられたのか、オレの服装はトレードマークな黒一色のスタイリッシュファッションではなく、まるで旅館の浴衣を羽織ったような恰好になっていた。しかも模様が一つもない真っ白なやつ。むしろ死に装束じゃねェかコレ。白い黒岩とは是如何に。

 疑問符塗れで途方に暮れる。と、ふいに襖が滑らかな音を立てて横にずれた。噂をすれば何とやら、桃色の髪をもつ少女が姿をみせる。

「やっと起きましたね」

「オイ華扇、全くと言ってイイほど状況が分かんねーぞ。つーか、ここは何処なんだよ。あとこの服は何や。オレの服どこいった」

「ちゃんと順を追って説明しますから。まず、ここは私の屋敷です。飼っている龍を使ってあなたを運びました」

「マジか」

「マジです」

 仙人ともあろう者が「マジ」なんて俗っぽい言葉を使っても問題ないのか。ま、そいつはさて置き。

 どうやらオレはこの女に連れ去られた立場にあるらしい。華扇の家ってぇことは妖怪の山の一角か。彼女の家がどの場所にあるのかは前に本人から聞いている。

 女にお持ち帰りされちまったとか、男としてダサいやらハズいやらで目も当てられない。オレも語るに落ちたな……

 もっとも、場所が分かったところで服が変わっている理由は皆目見当もつかないのだが。いつ棺の中に入ってもおかしくない白装束の袖を振るう。見た感じはアレだが着心地は存外悪くなかった。

「綿間部の衣服ですが濡れていたので外で乾かしています。代わりの着物はこちらで用意したものです。ついでに着替えも私の方でさせてもらいました。さ、さすがに下の、肌着はそのままですが……」

「やったら事案だかんな」

 意識のない異性の衣服を勝手に脱がす。もしオレと彼女の立ち位置が逆であったならば即逮捕である。変な想像でもしたのか、女は仄かに赤面して「ご、ごほん」とわざとらしい咳払いをしてきた。まさか実はやりかけたとかねぇよな? 大丈夫だよな?

 華扇はオレの正面すぐ近くに腰を下ろした。さすが、お手本のような姿勢の正しい座り方をしている。

「正座」

「あ? なんだって?」

「いいから正座しなさい」

 有無を言わせぬ気迫で正座を強要される。彼女の顔は真剣そのもので、下手に逆らったらどうなるか分かったもんじゃない。とりあえず言われるがままに膝を折る。膝小僧を向かい合わせにして華扇の顔を窺う。お見合いか。むしろ将棋の対局が近いかもしれない。

 さて、と前置きして仙人サマが本題を伝える。

「あなたにはうちで修行してもらいます。目的はもちろん、そのふしだらな性根をキッチリ叩き直すためです。私の指導のもと、綿間部には理性的な真人間になってもらいますからね」

「オイ、人をケダモノみてぇに言うなよ……」

「あら、違うとでも?」

 あたかもカエルを睨むヘビの如く、スッと目を細めて静かにされど覇気をもった眼力が突き刺さる。まだ根に持っていらっしゃるご様子。ちと今回ばかりは分が悪過ぎた。見たのも触ったのも事実。それでも僕はやってないとは口が裂けても言えない。

 ツイてないが仕方もない。そのうち遊びに行くと口約束した手前でもある。適当に付き合ってやった方が良さそうだ。第一、この女の機嫌を損ねるとロクなことにならない気がする。今後のオレの安寧のためにも、この場は受け入れるしかないだろう。

 やれやれと見せつけるようにホールドアップして肩をすくめる。

「わぁーったよ。好きにしてくれ」

「ええ、素直でよろしい」

 ふふん、と得意げに鼻を鳴らす。ついでにその豊かな胸も張って。どうでもいいけど、もうちょいマシな服はなかったんか。これで頭に三角巾でも付けたら完璧やぞ。

 しかしまぁ何というか。よもやこのオレが修行のマネゴトをする日が来ようとは、つくづく世の中分からんものだわな。

 

 

 さて、経緯はどうあれ初めて訪れた華扇の屋敷。まずは案内してもらうところから始まった。「ついてきてくださいね」と嬉しそうな家主に続いてオレも和室から外に繋がる廊下へ出る。

 

 虎が居た。

 

「おうちょっと待てや何かそこに放し飼いにしたらあかんヤツがいんぞ」

「この間も言ったでしょう、私のペットです。門番と敷地内の警護を任せています。心配はいりませんよ。自分からは手を出さないように教育してありますから」

 黄金色の猛獣はのっそりとした足取りでこちらに歩み寄ってきた。グルルと低い唸り声を上げながら、何処の馬の骨とも知れぬ来訪者を見定めている。が、飛び掛かってくる気配はない。華扇が喉を撫でるとそいつは気持ちよさそうに目を細めた。

 さらに、現れたのは虎だけではなかった。

「何だ……!?」

「あ、戻ってきたようですね」

 上空から大きな翼が羽ばたく音がしたかと思えば、瞬く間に大鷲がオレの眼前に降下してきた。よく見れば鋭い鉤爪に風呂敷を引っかけている。

「おかえりなさい、竿打。ご苦労様」

 桃色の少女が風呂敷を引き取りながら大鷲を労う。結び目を解くと生肉やら野菜やらが出てきた。前者はカットして形を整えてあるうえに包み紙が被せられている。どう見ても野生で狩ってきたものではない。

 猛禽類をおつかいに行かせるとか凄まじい芸当しやがってからに。一人でできるかなってレベルじゃねーぞ。でもちゃんと買ってこれたあたり店の人もフツーに対応したってぇのか。人里連中の肝っ玉据わり過ぎじゃね?

「そいつもペットか?」

「ええ、そうですよ」

 大鷲は竿打という名前らしい。虎は……せっかくなので「寅さん」と呼ばせてもらおう。オレの中で。男はつらいんだよ。

「そういや、龍もいるとか言ってたな。オレを拉致した共犯者でもあんだろ?」

「むっ、人聞きの悪い言い方しないでください。いつもは上空を自由に泳いでいるのですが、会ってみたいのでしたら呼びましょうか?」

「いやいい。一度に全員集合されてオレにどうしろと」

 猛獣に猛禽類ときてそこに龍まで加わるなんざサファリパークも真っ青だろうが。個性だけならどこの動物園にも負けはしない。上野のパンダも燃え尽きて真っ白になっちまう。

 屋敷の外観を眺める。和風とはまた異なったデザインだった。中華貴族あるいは唐の時代の名残りを思わせる独創的な造り。白塗りの壁には正円形の窓が施され、瓦屋根の下では露台が建物を一周する。紅色の手すりが柵の役割を果たしており、また合わせて屋敷の特徴にもなっていた。

 なるほど確かに屋敷と呼ぶのも頷ける立派なご自宅であった。雰囲気も茨木華扇のイメージにピッタリと当てはまる。これで一人暮らしだというのならペットも飼い放題待ったなしですわ。

 

 屋敷の案内が終わると、早くも生活指導もとい修行を開始するハメになった。解せぬ。

「ったく、どこまで行こうってんだ?」

「いいから。黙ってついてきなさい」

「へいへい」

 やけに気合が入った華扇に連れられて敷地内を外れ山奥へ歩いていく。ほどなくして轟々とした物音が聞こえてきた。足を進めるとそいつは次第に近くなってくる。やがて茂みを掻き分けたその先に、滝が構えていた。

「ほー……」

 溢れんばかりの大量の水が凄まじい勢いで雪崩れ落ちてくる。その迫力に目と耳が圧倒される。水流の高さは十メートルほどあるだろうか。ふと、鯉は滝を登ると龍に為るという逸話があったのを思い出した。

 それはそうと、もしかしなくてもこのパターンは、

「まずは滝行をしてもらいます。心も体も清めて明鏡止水の境地へと至るのです」

「…………」

 案の定、なんともベタな修行メニューがきやがった。あまりにもテンプレ過ぎてツッコむ気すら起きない。ついでに今更になって、オレがこんな格好をさせられていることにも合点がいった。こういう格好で滝に打たれているシーンを何かで見た記憶がある。

 ちなみに華扇もオレと同じく白色の薄着を纏っていた。いつもの中華衣装ではないからちょっと新鮮さを感じたのはここだけの話だ。しかしながら、何とも微妙なペアルックがあったもんだ。嬉しくねェ……

 茨木華扇(白装束ver)が赤みがかった瞳を閉じてウインクを投げる。顔立ちが整っているおかげで様になっているから余計に性質が悪い。文句のつけようがなくなる。

「私も一緒にしますのでご安心を。それに、あまりモタモタしていると……」

 華扇がチラリと横目で虎にアイコンタクトを送る。主の命令を受けた猛獣がこちらに狙いを定めてきた。黄金の瞳が「早よ行かんかい」と告げている。もし行かなかったら彼奴のオモチャかオヤツと成り果てるだろう。南無三。

 想像したくもないバッドエンドに思わず数歩下がってしまう。お前ッ、このために寅さんも同伴させたんかよ!

「分かった、分かったっつの! それ立派な脅しだかんな!?」

「綿間部がこの期に及んで抵抗しないようにするためです。さ、始めますよ」

 うげぇ、としかめっ面を浮かべてやったが、華扇は意に介さず一人先に滝へと身を投じた。その間にも虎が一歩ずつ確実に近付いてくる。究極の二択を迫られた。もう覚悟を決めるしかない。あんな牙でケツを噛まれるなんざ御免被る。

「えぇい、くそったれ!」

 桃色の仙人サマに倣って滝の中へ飛び込んだ。直後、土砂降りを何十倍にもした威力の川水が頭の天辺から襲いかかってきた。バケツを引っ繰り返したなどと甘い例えではない。紛うことなき水の圧力であった。

 オールバックの髪型が一瞬にして崩れてしまう。しかも冷たいというよりもメチャクチャ痛い。

「あだだだだ!? オイッおま、いつまでやればイイんだよ!?」

「余計な事は考えないで! 今は集中っ!!」

「いや結構大事なコトやで……ッ!?」

 華扇から叱り声が飛ぶ。すでに彼女は瞼を閉じており、合掌のポーズで直立不動を維持していた。その姿を見れば普段からやっているのは想像に容易い。まるで揺らぎがなかった。まさしく仙人たる佇まいがそこにはあった。チィッ、やるしかねーのか!?

 怒涛の如く押し寄せる水流に全身で以て受けて立つ。負けて堪るかと決して膝は曲げない。なけなしの反骨精神が己を奮い立たせた。荒ぶる水の奔流が耳元で五月蠅く響いた。

「うぐぉおお……!」

 山籠もりする修行僧にでもなった気分だった。ネオンライトが眩しい繁華街を闊歩していた頃の自分がこの状況を見ようものなら、「お前アタマ大丈夫か?」と心配するに決まっている。

 けど、この女がいると案外こういうのも悪くないと思えてしまうのは何故なのか。ホント、調子狂うぜ。

 

「うむ、もういいでしょう」

「ょ……ようやく終わりか……!?」

 三十分、一時間と時が過ぎただろうか。その頃になって、ようやっと指導者から切り上げの合図が出された。

 這う這うの体で滝から抜け出す。圧し掛かる水の重みが消えた途端、やけに肩が軽くなったような感覚に陥った。憑き物が取れたように心身が冴えている。どうにも上手く乗せられてしまったみたいで癪ではあるが、気分が良い。

 無論、またやりたいかと問われれば絶対にノー。だが断る。お一人様一回限りで十分だ。 

 すぐさま手櫛で前髪を掻き上げてオールバックの型に整える。ったく、整髪料まで洗い流されちまったやんけ。黒服に続いてこっちのアイデンティティまで奪われたら自分が何者か分からなくなるだろうが。

「だーもう、オレの個性が――ッ!?」

 何となしに華扇の方を見やった瞬間、出かけた言葉が喉の奥で詰まった。というか実際窒息しかけた。完全に不意打ち。思わぬ展開を前にして目を見開く。

「……? どうかしましたか?」

 それに対して彼女は変わらずキョトンとした顔をする。ピンク色のミディアムヘアから水の粒が滴り落ちる。当然、濡れているのは髪だけではない。

 スタイル抜群の体を包む薄着が多量の水を吸って直に張り付く。その拍子に濡れた衣からキメ細やかな肌色が所々に透けて見えてしまっていた。瑞々しい身体が色っぽく艶を増す。彼女のあどけない表情と相まって大変よろしくない光景が映った。

 今にも零れ落ちそうなたわわな果実の谷間が鮮明に浮かび上がる。気付いてすらいないせいで少女はそれを隠そうともしない。

「ぬぉうッ!?」

「綿間部?」

 あられもない姿を無防備に晒している桃色の少女から咄嗟に目を逸らす。野郎の口からは非常に言い辛いのを我慢して教えてやった。できれば自分で気付いてくれ、頼むから。

「とっととタオルで拭くなり着替えてくるなりしろ。目のやり場に困るだろーが……」

「え?」

 オレの言葉を受けて華扇の視線が徐々に下へと向けられる。それと同時に、自身が現在どのような状態になっているか理解したようだ。みるみるうちに白い柔肌が赤く染まっていく。そんな気がした(後ろを向いているから分からん)

「キャッ!?」

 短い悲鳴を上げて、彼女は豊満な胸を隠すように両腕で己の身を抱きながら背を向けた。慌てて動いた際に足元からバシャッと水飛沫が跳ねる。そんな感じがした(後ろを向いて以下略)

 

『……………』

 

 二人仲良く濡れ鼠のまま相手に背中を見せ合う。気マズい。会話も途切れてしまった。されど振り返るワケにもいかず、下手に目を合わせることもできない。

「……あ?」

 その代わり、なぜか前方に居た寅さんと目が合った。「何やってんだオメーら」という呆れの色が潜んでいるようであった。動物から哀愁の眼差しを向けられている件について。そう思うなら何とかしてくれと声を大にして言いたい。

 緩い風が吹いた。寒気からブルリと身震いしてしまう。あと鼻もムズムズしてきた。あ、くしゃみ出そう。

「イーッキシッ!」

「き、着替えましょう! このままでは風邪をひいてしまいます!」

 我ながらどことなく時代を感じるくしゃみが出ちまった。タライが落ちてきそうな感じ。ともあれ事態は好転したので結果オーライと言っておこう。

 華扇は着替えを提案すると急いで水辺から上がった。そのまま逃げ足で屋敷へと駆けて行く。飼い主を追ってペットも後に続いた。一足遅れてオレも水辺から離れる。

「っかー、こりゃ先が思いやられんぞ。へ……へ……イーッキシッ!!」

 ゲンナリしつつ再びブッ放した盛大なくしゃみは滝の轟音に飲み込まれていった。風邪オチだけは勘弁してくれよ。

 

つづく




ラッキースケベの連続という作者の煩悩の表れ(末期)
当初のハードボイルド路線どこいった
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