東方扇仙詩   作:サイドカー

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PSYCHO-PASS観てきたらもうヤバいのなんの(語彙力)

作者の犯罪係数が上昇したので最新話でございます。
此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第十九話 「ノートレーニング ノーライフ」

 予想外の一悶着はあったものの、気を取り直して修行は再開された。

 さすがに今回ばかりは華扇も自らの不注意を理解しているのか、先刻のすったもんだについてお咎めはなかった。その代わり、恨みがましい目つきが「何も言うな」と語っておった。わざわざ言われずとも藪を突いて八岐大蛇を呼び出す趣味はない。さっさと忘れてしまおう。オレの為にも、コイツの為にも。

 互いに見慣れたいつもの格好に戻り、場所は再び屋敷の敷地内へ移る。ブラックファッション&オールバックでスタイリッシュなコーディネートが全身によく馴染んでニヤける。フッ、これでこそ本来のオレであろう。

 満足げに頷くオレに向けて、人差し指を突き付けながら仙人サマが告げる。桃色のミディアムヘアがさらりと靡いた。

「次は座禅です」

「またベタなやっちゃな」

「む、文句あるんですか?」

「いーや? なーんもねぇよ」

 アメリカンコメディさながらに大仰に肩をすくめてみせる。どうやらお気に召さなかったらしく彼女は唇を尖らせた。こんくらいで拗ねんなって。

 申し訳程度に敷かれた茣蓙はそういう意味と受け取って間違いなかろう。時代劇で罪人を座らせる場面を思い浮かべたのはオレだけではないハズ。せめて座布団を寄越せよ。

 挙句には、邪念雑念その他諸々がみられたら即座に喝を入れるので覚悟せよとのお達しを受けた。古典的にも細長い板切れで叩くつもりなのか。華扇の攻撃性に拍車がかかっている気がしないでもない。お前それでも仙人だろうが。

「さぁ、座ってください」

「へーへー」

「もう! ちゃんと返事しなさい!」

 ついでにお小言も止まらない。ま、今のは自業自得だわな。

 茣蓙の上に正座する。フツーは胡坐だと思うのだが、どういうワケか華扇からこの姿勢を命じられた。

 それだけではない。オレのすぐ傍らには大鷲が控えていやがった。虎に代わって今度はコイツがお目付け役ってコトか。さっき見たヤツとは違う。コイツの方が一回り大きいし、どことなく年老いている。

 もっとも、ご老体でも猛禽類に変わりはなく、至近距離でガン見してくる状況は非常に落ち着かない。むしろ年季が入っている分、貫録がある。なかなか渋いじゃねェかよ。

 しかし精神統一と言われてもイマイチよく分からん。というか、ただ静かに座っているだけというのも結構暇――

 

「集中ッ!」

 

 欠伸しかけたところに仙人サマの一喝が容赦なく飛んでくる。あわせて膝の上にずしりと四角い石板が乗せられた。

「ぎゃぁああああッ!?」

 硬い重みに膝が悲鳴を上げる。ついでにオレ自身も悲鳴を上げた。何しやがんだこの女!?

「お前コレ拷問の仕方だろーがァ!?」

「いいえ、修行です」

 キッパリと言い切られる。その自信は一体どこから来るのか、是非とも問い質したい。明らかに修業とは異なるベクトルに突き進んでいた。このための正座だったというのか。コレは酷い。

 いよいよもって修行なのか調教なのか体罰なのか分からなくなってきた。いや、拷問だったな。

「ぐぉおお……ッ!!」

「ほらほら、もっと集中して」

 苦渋の呻きを漏らすオレに対して、仙人サマがパンパンと手を打ちながら声援を送る。心なしか楽しそうな表情で。だーもう、熱血教師かよ!そのうち夕日に向かって走れとか言ってきそう。

 ったく、あの死神女といいこの仙人といい、この異世界には妙なところで気合が入っちまう連中ばっかじゃ――

「他の女性のことを考えましたね……?」

「ちょバカッ止め――重ォオオオオ!?」

 酷く冷淡な声色とともに石板をもう一枚追加される。見るに堪えなかったのか大鷲にまで目を逸らされてしまった。どことなく申し訳なさそうな空気を出して。

 というか、当たり前のようにやりやがったけど、まさかオレの考えが読めるとか言わねぇよな? 華扇さんよぉ……

 

 

 その後も桃色の少女に振り回され、気付いた頃にはとっくの昔に日が暮れていた。ちなみに、当の仙人サマはご満悦であった。オレとのテンションの落差がスゴイ。

 晩飯の支度をするから手伝うように命じられ、家主と共に調理場へ足を運んだ。ここで一つ暴露すると、こちとら料理スキルなんざ持ち合わせていない。なにせ、あの繁華街に自炊できる環境はなかった。仕方あるまい。

 いくら何でも屋といえど、当然できないことだってあるというもの。黄金比の水割りぐらいなら作れるが。ウイスキーがあれば作ってやれたのに、残念だ。

 ま、だからといってそうは問屋が卸さないってぇのも分かり切っているのだが。

「それでも手伝ってもらいますからね」

「へいへい。ちったぁ役に立ってみせますよ」

「うん、殊勝な心がけですね。結構」

 どうにも勘違いされていそうだが、何もオレは不真面目なタイプってぇワケじゃない。ただ、活動時間が一般人と異なるに過ぎないのだ。分かっていただきたい、切に。

 屋敷が大きいだけあって台所も相応に広かった。竃の内側でパチパチと音を立てて火が弾ける。IHどころかガスコンロでもない時代の名残り。幻想郷ではまだまだ現役らしい。

 ちなみに竃は二つあった。それぞれに蒸し器と土鍋が置かれている。蒸し器は中華料理のイメージにありがちな茶色くて円い型だった。せいろ、という調理器具だったか。彼女の服装と髪型もあって、組み合わせが非常に似合う。むしろ違和感がなさ過ぎた。

「えっと、小皿は……」

「コレか?」

 戸棚の一番上にあった小さめの食器を取ろうと、少女が爪先立ちになって手を伸ばす。その後ろから代わりに取ってやった。オレの方が背が高いし余裕で届く。

 小皿を手渡すと、ちょっとだけ驚いた様子で華扇がオレを見上げた。

「あ、ありがとうございます」

「……おう」

 油断した。いつも人に近いとか言っているクセして今のはオレが近付きすぎてしまった。桃色の髪からふわりと甘い匂いがする。変に悟られないように、さり気なく一歩下がっておく。

 彼女はといえば、土鍋で煮えている汁物を受け取った小皿によそって味を確かめていた。次いでもう一回掬ったかと思えば、今度はそいつをオレに渡してきた。されるがままに一口だけ味見させてもらう。出汁が濃過ぎず薄過ぎずバッチリ丁度良い。驚くほどオレ好みの味付けだった。

「どうですか?」

「ん、美味ぇ」

 感想を伝えると彼女は顔を綻ばせた。と、もう片方も頃合いの兆しを見せる。火傷しないように布巾で取っ手を掴み、いざ蓋を開けると濛々と熱が籠った白い煙が舞い上がった。

 やがて湯気が晴れると、蒸し器の中では出来立てのシュウマイが綺麗に並んでいた。見た目からして食欲をそそられる。グルメな仙人サマは料理もお上手らしい。食べ専じゃなかったのか。

「今失礼なこと考えませんでした?」

「考えてねーよ……」

 だから何で分かるんだよ、お前は。つーか、これでも褒めたつもりなんだがな。

 

 

 出来上がった料理を並べていたところに、久しくもない奴がやってきた。

「やっほー、来ちゃった」

「はぁ、小町……」

「狙ったかのようにメシ時に来やがったな。わざとか?」

「いやいや偶々だって。それに、ちゃーんとショバ代も持ってきたからさ。ほら!」

 そう告げながらテーブルの上にドン!と置かれたのは、やはりというか日本酒であった。無論、一升瓶である。貼られたラベルには「魔王」の文字。冗談なのか本気と書いてマジなのか。

 目の前では小野塚小町と茨木華扇が軽口を叩きあっている。

「どのみち帰れと言っても帰らないでしょうね」

「さすが、わかってるじゃないさ。そゆこと」

「まったくもう……勝手になさい」

 仲良しという感じではなさそうだが、されど互いに遠慮のない間柄と見受けられる。腐れ縁と表するのが妥当かもしれない。よもや仙人と死神のツーショットにこのような華やかさがあるとは。世の男どもが知ったら騒ぎやぞ。

 

 小町本人と差し入れも加わって、夕餉は晩酌を兼ねた酒盛りに早変わり。乾杯もロクにせずお猪口でグイッと一息にやってる死神女から「ぷはーっ!」と景気の良い声が上がった。男前っつか、豪快なやっちゃな。

 すぐさま二杯目を自酌で注ぎながら、赤髪の娘がニヤニヤ顔で尋ねてくる。

「で、修行の成果はどんなもんだい?」

「どうもこうもねーよ。滝に打たれるわ石を乗せられるわ、筆舌に尽くしがたい苦行だったっつの」

「ありゃま、容赦ないねぇ。可哀相に」

「当然です。修行なんですから、甘やかしたりなんてしません」

 わざとらしく目を丸くする死神に対して、仙人サマが得意げに胸を張った。言っておくが自慢するような内容じゃねぇからな。

 箸で摘まんだシュウマイを口の中に放り込み、じっくり味わって咀嚼する。シニョンとミニスカ中華衣装は伊達じゃなく、フツーに美味い。次は肉まんでも作ってもらおうか。コンビニとは比べ物にならない逸品が期待できる。

 ふいに、赤髪の女が悪戯染みた表情でオレへとにじり寄ってくる。絡んでくる気満々なのが嫌でも伝わってきた。じりじりと距離を埋めながら舌なめずりしてやがる。様になっているのが逆に腹立たしい。

「あたいもお前さんが気に入っちゃったよ。どうだい? ここは一つ、もっと親睦を深めようじゃないさ」

「そら構わんが狭ぇよ。親睦を深める前に距離感を掴めや」

「もう、つれないねぇ」

 いいから離れろと一蹴する。からかう相手を間違えたな。生憎その辺にいるちょろい野郎とは一味違うのだ。なぜならオレは夜に生きる男。

 すると、今度は反対側にも人の気配を感じた。見れば、ジト目になった華扇が密着寸前にまで間隔を詰めてきていた。ここまでくると最早くっついているのと大差ない。実際、オレと彼女の腕も触れているというか当たっている。何がしたいんだ、コイツは。

 オレの無言の抗議を無視して、桃色の仙人が赤髪の死神を牽制する。

「小町、あまり綿間部を誑かさないでください。折角の修業の意味がなくなってしまいます」

「ふーん?」

「どうでもいいけど、とりあえず離れろって言ってんだろうが。聞いてる?」

 腹の探り合いはその後でやれ。そもそもパーソナルスペースどんだけ狭いんだよコイツら。自分らの容姿レベル自覚しろと何度言えば。

 おもむろに華扇とオレの顔を交互に見比べて不思議そうに首を傾げる小野塚小町。直後、ハッとした顔になった。ついでに若干引き気味になりながら、恐る恐る声を震わせる。嫌な予感しかしない。

「こんなイイ女を二人も侍らせて喜ばないなんて……お前さん、もしかして()()()の人なのかい?」

「んなワケあるか! いきなり真顔になったかと思えば何ブッ飛んだコト言いやがんだコラ」

 失礼極まりない発言をされてズッコケそうになった。暴論にも程があるデタラメな推理に各国の名探偵も真っ青である。死神は想像力が豊かすぎる模様。泣けるぜ。

 すかさず日本酒をかっさらい、なみなみと盃に注ぐ。急にホモ扱いされたこの理不尽、魔王の力を借りねばやってられん。

 死神女に負けず劣らず一気飲み。かなり辛口で喉が焼けるが、酒そのものは美味であった。ヤケ酒にはもったいなかったかもしれない。だが、もう遅かった。

 そのまま売り言葉に買い言葉。酒の勢いも上乗せされてオレもイキがったのが運の尽き。ついつい虚勢を張ってしまった。そいつが後に自爆になるとも知らずに。

 

「ったくよぉ。オレだってなぁ、惚れた女の一人や二人――」

「いたんですか?」

 

 真っ先に反応したのは小野塚小町ではなかった。思わぬところから食い気味に台詞が重ねられた。振り向けば、据わった目つきをした華扇と視線が交錯する。

 幻聴だと信じたかった。かつてないほど凄まじく冷たい声が発せられていた気がする。まるで聞き捨てならないと言いたげに。さらに吹雪の幻覚が見えてきた。修行が過酷すぎて疲れたのだろう、多分。そうであってほしい。

 けれど現実は都合よく逃避できるほど甘くない。

「…………あ、ぅ」

 底知れぬ圧力に押し迫られて一瞬にして酔いがさめる。それどころか、違う意味で呂律が回らなくなってくる。

 

「いや、それはだな……」

「イタンデスカ?」

 

 怖ぇーよッ!! 全然目が笑ってねぇよ!

 初めて会った夜のトラウマ(アルハラ)が蘇る。どうして彼女がここまで拘るのか全然分からねぇ。だが、これで話題を変えたり食事に逃げたりしたら殺されかねない。比喩ではなく、ガチで。

 もはや今更だが、正直に言うと惚れた女なんていない。むしろキャバ嬢にも貢いだことないある意味で健全な男。それがオレだ。さらに言うと彼女いない歴イコール年齢でもある。当然、ホモでもなければゲイでもない。

 

「ねぇ、綿間部……?」

 

 先ほどよりも更に詰め寄られていき、いつしか壁際にまで追い込まれていた。これ以上の後退は叶わない。逃げられない。

 美しく整った顔立ちの赤みがかった瞳に射抜かれる。華扇の顔が間近に迫った。このままだとマウストゥマウスに発展しかねない危険領域。いやマジでこれ以上はマズイって!周りっつか状況よく見ろって!

「か、華扇ッ落ち着け……ッ!」

「ねぇ、答えて? いたの?」

「だーもう!」

 グイグイくる桃色の髪の少女に叫ばずにはいられなかった。どうしてこうなった。

 視界の片隅では小町が腹を抱えて爆笑を堪えていやがった。肩が震えているのが微塵も隠せていない。チクショウ、何わろてんねん。

 

 結局、洗いざらい白状させられた。屈辱の極みであった。この日をオレは生涯忘れないであろう。

 あと、オレには惚れた女も恋人もいないと知ってから、なぜか華扇がずっと上機嫌なままだった。解せぬ。

 

つづく




次回

もう一人の外来人
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