東方扇仙詩   作:サイドカー

23 / 90
思っていた以上に更新が遅くなった。メンゴ

サブタイトルの通り、あのキャラが登場します


第二十話 「もう一人の外来人」

 桃色の仙人サマに攫われてから修行は三日間に及んだ。もはや拉致監禁と大差ないんじゃねーか。

 だが、ついにこの日々からも解放される。無駄に長かった。もういい、オレは人里に帰る。そして夜型の生活に戻ってみせよう。

 

 茨木華扇の屋敷――正確にはその周辺には特殊な術が施されている。と、本人が言っていた。特定のルートを通らねば辿り着くことはできないらしい。そもそも、仙人の元にそう易々と行けるのが可笑しいだろう。ただし、小野塚小町は例外とされる。オレも詳しくは知らんが、距離を操る程度の能力者だとか。テレポートでもすんのか、あの女。

 ちなみに、その逆は別であった。

 敷地を抜け出る。妖怪の山の何処かも分からない場所に通じていた。鬱蒼と生い茂る樹木に囲まれる。枝葉の合間から覗ける空は青く、白い雲が流れていた。まさに大自然。もののけ姫のロケ地かと思った。

 ったく、朝帰りどころか昼帰りしかも三日ぶりだぞコンチクショウ。

「で、今から下山しなきゃなんねぇってか。面倒くせーなぁ」

「それなら良い方法がありますよ」

 オレのぼやきに華扇が待ったをかける。人を誘拐したあげくキッチリ付きっきりで調教してくれやがった張本人の姿がそこにはあった。

 白いシニョンを括った桃色のミディアムヘアが目を惹く。赤いバラの花飾りを付けた中華衣装に合わせた緑色のミニスカがひらりと舞う。見目麗しい顔立ちもそうだが、露わにした素足も女性らしく美しい。

「良い方法だぁ? プランBでもあんのか」

「この妖怪の山にも、最近になって索道――ロープウェイができたんです。それに乗れば麓まで迷うわず真っ直ぐに行けますよ。人里の皆さんも利用しているようですし」

「ほう……」

 正直驚いた。思いもよらずハイテクなブツが出てきたもんだ。相変わらず文明レベルがメチャクチャではあるが、ともあれ利用しない手はない。

 詳細を問うべく、少女の赤みがかった瞳をしかと見据える。

「そりゃありがてぇが、何処にあんだ? というか使えるモンなのか?」

「ロープウェイは守矢神社が管理しています。彼女たちにお願いすれば快く乗せてくれるでしょう」

「っかー、神社にロープウェイとかどんな組み合わせしてんだオイ……」

 神社というワードから、つい先日訪れた博麗神社を思い出す。その守矢とやらもあんな感じなのだろうか。大体、こちとら寺にも神社にも疎い現代人だってぇのに。初詣だってここ数年からっきし行ってねぇぞ。

 さらに華扇が新たな情報を付け加える。そこには興味深い内容も含まれていた。

「守矢神社は此処からさらに山を登った場所にあります。それとですね、彼女たちは綿間部と同じく『外』の世界から幻想郷に来たんですよ。巫女は真面目でとても良い娘です」

「そうか。考えてみりゃオレと同じ境遇のヤツとまだ会ってなかったわな」

 いつぞやの宴会にも野郎が一匹居たらしいが結局合わずじまいだった。しかしながら、クソ真面目な仙人サマにまで「マジメ」と言われちゃ世話ないぜ。どんな優等生なんだか。

 さて、ここで選択肢は二つ。このまま徒歩で山を下るか、ひとまず頑張って山を登った後に乗り物で楽に帰るか。ま、後者だろ。悩むまでもない。

 今は華扇がいるとはいえ、オレからすれば現在地すらも分からんのだ。もし彼女とはぐれでもしたら即座に遭難待ったなし。冗談にしても笑えないオチとなる。

「決まりだ。守矢神社に行くぞ」

「ふふ、綿間部ならそうだろうと思っていました」

「ったく、そうかよ」

 分かっていたと言わんばかりに得意気になって、桃色の髪をもつ女が笑った。どうにも考えが見透かされているようで眉をひそめる。が、楽しそうなコイツを目の当たりにすると、何だか毒気が抜かれて調子が狂っちまう。

 結局、「けっ」といじけたガキみたいなリアクションをとるハメになった。

 

 山道なんだか参拝道なんだか、少なくとも獣道ではない砂利道に沿って足を進める。

 結構歩いたのだが、どういうワケか意外にも疲れがこない。もしや修行の成果だとでもいうのか。だとしたらイマイチ認めたくねぇ。何か負けた気がするから。

 遥か高みの頂を目指したその先に、件の神社は聳えていた。鳥居の門を潜ると、そこそこ立派な造りの御殿が構える。

 どうにか無事に着いたところで、やっと一息つく余裕が生まれた。

「ここか……」

「はい、守矢神社です」

 第一印象は「わりと新しそう」であった。土地が広いにも関わらず細かい部分まで手入れがされており、小奇麗なのも理由の一つだろう。新しいというよりも丁寧に扱われてきたと表すのが正しいか。

 心なしか、博麗神社に比べるとこっちのが建物も大きいようにも見受けられる。いや、決して博麗が貧乏といっているワケじゃない。他意はねぇから、誤解すんな。

 落ち葉一つない石畳の上を歩く。しばらく行くと、少女が一人だけ立っていた。竹箒でせっせと道を掃いている。境内が美しく保たれているのは彼女のおかげであろう。

 少女に近付きつつ、華扇が声をかけた。

「早苗」

「あ、これは山の仙人様。こんにちは」

「ええ、こんにちは」

 その女子はオレたちに気付くと恭しく頭を下げた。所作だけでも礼儀正しさが伺える。なるほど、いかにもイイ子って感じがする。よくよく見ると顔立ちも良い。もう驚かねーぞ、幻想郷。

「今日はどうされたのですか?」

「少し、お願いしたいことがあって」

 彼女が例の巫女で間違いないだろう。マジメと聞いていたが、物腰の柔らかくてお淑やかな少女であった。コレが清楚ってヤツか。そんな巫女娘の雰囲気に合わせて仙人サマもたおやかな笑みで答える。なんともお上品な会話が繰り広げられていた。オレがアウェーになってるのはさて置き。

 と思いきや、巫女少女がおもむろにこっちに視線を向けてきた。華扇とは面識があるようだが、生憎オレとは完全に初対面である。そら気になるわな。

「あの、こちらの男性は?」

「彼とはちょっとした縁で知り合いました。粗雑なところが目に余ったので、しばらく私の屋敷で修行をつけていたのです。実はこの人、あなたと同じ外来人なのよ?」

「へぇ! そうなんですか?」

 最後の一言だけは口調を崩して、茶目っ気あるウインクと一緒に仙人サマが伝えた。すると、それを聞いた相手も年頃の少女らしく顔を輝かせる。なんだ、そういう表情もできんじゃねーかよ。

 そして、しっかりとオレに向き直ってから、巫女娘が名前を告げた。

 

「ようこそ守矢神社へ、私は東風谷早苗です。ご覧の通り巫女を務めています。よろしくお願いします」

 

 腰まで届く長い緑色の髪が微風に流れる。博麗が紅白ならば、こちらは青と白を組み合わせた巫女服を着ていた。ただ、なぜか袖が分離しているせいで脇が露出しているのは変わらず。だから何なん、そのデザイン。

 恐らく年齢はオレよりも二つか三つぐらい下であろう。となれば女子高生あたりか。

「ああ、オレは何でも屋をしてるモンだ。よろしく頼む」

「こら綿間部! ちゃんと名乗りなさい!」

「へーへー、黒岩とでも呼んでくれや」

「黒岩さんですね。あれ? でも今、わたなべって……あれ? わたまべ?」

「気にすんな。こっちのが慣れてんだよ」

「はあ……?」

 やはり本名はややこしいから面倒くさい。だから名乗りたくねぇ。この巫女さんも戸惑っている。ま、オレからすればいつもの反応なのだが。

 今のところ、幻想郷でオレを本名で正しく呼ぶのはこの女だけだ。しかも初めて名乗った時に聞き間違えなかったオマケ付き。それに彼女の声で本名を口にされるのは、まぁ、何だ。……案外悪くねェ。

 頭上にハテナを浮かべつつも言われた通りに了承する東風谷早苗。てっきり名字も守矢だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。ひょっとしたら先祖の名字なのかもしれない。

 しかし、JK巫女(美少女)までもが異世界入りとは。キャラ要素が濃過ぎてラノベ一本書けそうだわな。

 

 自己紹介も済んだところで、本題に入る。

「頼みってぇのは他でもない。人里に戻りたいんだが、お前らが持ってるロープウェイに乗せてくれねーか?」

「そういうことでしたら喜んで。……あの、急ぎますか?」

 使用許可と同時に、守矢巫女がおずおずと尋ねてきた。

 もしや不具合があるのだろうか。こちとら別に急ぎでも何でもないし、いくらでも待つつもりだ。わざわざ登ってきたのに此処から徒歩下山となるのだけは真っ平御免被る。文字通りの無駄足になっちまう。

「そうでもねーが、何でだ?」

「よければお話ししませんか? 私も外来人の方とお会いする機会は少ないので」

 もちろんお茶も出しますから、と誘いを受ける。んだよ、そっちかい。

 ここにきて同郷の輩を新たに見つけ、多少の興味を持たれたようだ。ま、そらポンポンと異世界入りしてたら敵わんわな。八雲紫の話だと、幻想郷は現代社会から隔離した場所らしいから。

 そういえば、この娘っ子はなぜ、どうして幻想郷に居るのだろうか。オレと同じく八雲紫に招かれたクチか?

 まぁいい。この辺で一つ、幻想郷で外来人とのコネを作っておくのもまた一興。もっとも、JK巫女じゃ客になるかは微妙なセンではあるが。

「いいぜ。どのみちこっちからお願いしにきたワケだしよ。話し相手ぐらいならお安い御用だ」

「あっ、ありがとうございます」

「うんうん、綿間部も正しい身の振るまいを覚えてきたようですね」

「ったく、お前はオレを何だと思ってんだ……」

「破廉恥な不届き者ですが、何か?」

 ニッコリと笑顔の圧力が放たれる。思わず一歩退いてしまった。ついでに下手くそな口笛を吹きつつ明後日の方角に目を逸らす。度重なったハプニングはまだ時効にならない模様。言っておくが、華扇の無防備さが原因だったこともあんだかんな。

 オレとこの女の間で何があったのか知らない東風谷早苗だけが、不思議そうに首を傾げていた。

 

 彼女が普段生活しているという母屋へ案内された。そのまま廊下を渡り、客間(居間か?)と思しき和室に招かれる。

 中に入ると、その部屋には既に先客がいた。貫録ありそうな女と屈託なさそうな幼女の二人組が、それぞれ畳や卓袱台に突っ伏してだらけていやがった。

「神奈子様、諏訪子様。お客様の前ですよ」

 東風谷が呼びかけると両者揃って「んー?」と首だけ動かしてこっちを向いた。凄まじい寛ぎっぷり。しかし、巫女娘がわざわざ様付けしたあたり結構な偉い立場と思われる。

「何だ、山の仙人じゃないかい」

 小野塚小町とも違う、新たな男前キャラの女がのたまう。

「そっちの黒いのは……まっくろくろすけの擬人化?」

「誰がまっくろくろすけだコラ」

 金髪幼女から飛んできた一言に脊髄反射で言い返す。睨みを利かせるが、見た目幼女の何者かには効果なし。冗談だってー、と軽いノリで流されてしまう。一体何だってんだ、このコンビは。

 掴みかねていると、オレの傍らに寄り添った華扇がこそっと耳打ちしてきた。頬が触れそうな近さに、仄かに甘い匂いが鼻孔をくすぐる。さらに自己主張の激しい二つの膨らみが体に当たり、弾みと柔らかさがいかんなく発揮される。むにゅっと、衣服越しに押し潰されて形を変える感触が伝わった。

 だから無防備だつってんだろうが! コイツらよりもこの女の方がイロイロと危ねーわッ! 

「綿間部、あのお二人は神様ですよ」

「あ? 神ぃいい?」

 我ながらアホっぽい声が出ちまった。これまで妖怪にも妖精にも出くわしたが神は初遭遇なのだから仕方なかろう。今更テンプレ染みたヒゲジジイな神様が出てくるとは思っちゃいなかったが、このパターンは予想してなかった。どっちにしてもキャラ濃いっつの。

 貫録ありそうな女が身を上げて「よいせっ」と胡坐をかき、見定めるような視線をぶつけてきた。藍色のボブカットで、色濃い服と胸元にある円い鏡がやけに目立つ。だがそれ以上に、背中に装着された注連縄の輪っかの存在感が凄まじい。コレが神ファッションか、ついていけねぇ。

 もう片割れのちんまいガキ?も然り。巫女服にも似たヒラヒラした袖もそうだが、何よりバケツみたいな深い帽子に目玉としか思えない丸い物体が二個くっついているのが気になってしょうがない。こっちも神トレンドか。なるほど、分からん。

 ほんの少しだけオレから身を離して、仙人サマが神とやらを紹介する。

「こちらが八坂神奈子、大和の軍神と謳われた戦の神。そしてこちらが洩矢諏訪子、ミシャグジを統べる祟り神です。早苗も含めて、守矢神社は彼女たち三人――いえ、三柱とともに『外』の世界から幻想郷に引っ越してきたんですよ」

「ほーん……」

「すみません、本来なら私から紹介しなければいけないのに……」

 一人で全て説明してしまった華扇に、早苗が申し訳なさそうに謝る。

 とりあえず、巫女の反応からみても嘘や冗談ではなさそう。どちらも本物の神サマだってぇのはよく分かった。とはいえ、オレが神仏に疎いのは変わらない。目の前で神だとか言われたところで、気の抜けた相槌を打つのが関の山だった。

 八坂神が男前に口の端をクイッと上げてみせる。なんだこのイケメン。

「いやいや、ご丁寧に説明してもらってすまないね。まー、色々あって今はもう此処の住民さ。ところで、お前さんも『外』から来たんだろう?」

「フッ、分かるのか?」

「そりゃ分かるとも。幻想郷にはない科学技術の匂いがする。ある意味、懐かしいともいえるね」

「そいつはオレが排気ガス臭いってぇコトか? 失敬なやっちゃな」

 いやいや、と首を横に振る八坂神奈子。さすがに不躾だっただろうか。だが、当の本人は気にした様子もない。さすが、神サマは寛大なこって。

 その代わり、華扇が目を吊り上げてオレを睨んでいやがるのだが。触らぬ神ならぬ触らぬ仙人に祟りなし。気付かなかったことにしよう。

 

「では、私はお茶の支度をしてきますね。仙人様と黒岩さんはどうぞお寛ぎください」

 育ちの良さそうな仕草で座布団を勧められたので、オレと華扇は一旦座った。今時の女子高生にも礼儀正しいのがいんだな。容姿もイイし、さぞかしモテるだろう。

「ありがとう、早苗」

「わりーな、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 オレたちが礼を述べると、守矢巫女はにこりと微笑んで、お茶を準備しに立ち上がった。襖を開け、和室を出ようとした時にふと立ち止まる。なんや。

 こちらが問うよりも早く、彼女は振り返って身内に対してこう言い放った。

「神奈子様、諏訪子様、お客様に失礼のないようにお願いしますね」

「はいはい」

「わかってるって」

『……………』

 伝えたいことを告げると、彼女は今度こそ居間を後にした。洩矢神が「いってらー」と呑気に片手を振る。八坂神に至っては大欠伸していた。ヤル気ねぇな、この神ども。

 一方で、オレも華扇も何とも言えずに互いに目を合わせた。華扇が乾いた苦笑いを浮かべて小声で零す。

「私たちではなく、神の方に忠告ですか……」

「こっちに来てからすっかり逞しくなっちゃってね~」

「って、逞しいで済むのかよ。仮にも神に仕える巫女じゃなかったのか。何かもう色々と逆転してんぞ大丈夫か?」

「大丈夫さ、問題ない」

 やっぱり本人たちは気にしていないのか、相変わらず洩矢神がケロケロと笑っていた。いいのか、それで。

 

 東風谷早苗、清楚な女子かと思いきや……侮れない。

 

つづく




答え合わせのコーナー

△外来人 ◎外来神
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。