というわけで速度マシマシで最新話でございます。
此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。
「なるほど、八雲紫から直々のご指名で幻想郷に来たっていうのかい」
「キミさぁ……自分がどれだけ珍しい立場にいるのか分かってる?」
「フッ、知ったことかよ」
神々と卓袱台を囲んで茶を飲みつつ談笑する。いざ言葉にしてみると、テメェのことながらつくづく何やってんだかと呆れてしまう。いやマジで何やってんだろうか。
東風谷早苗の淹れたお茶は美味かった。お茶請けにはおかき。ほど良い塩気に口の中が乾いたところを水分で潤す。ありきたりだが、実に相性の良い組み合わせだ。
酒も美味けりゃ茶も美味い。幻想郷は日本よりも日本を体現しているのかもしれない。もはやこの地において粗茶は粗茶に非ず。
無論、ただ飲み食いしているだけではない。オレは夜に生きる男、その辺に抜かりはない。こっちの事情を放した代わりに向こうの事情も聞き出していた。
「かくいうあんたらは新しい信仰を求めて幻想入りか。ハッ、世知辛いこって。現代社会じゃ神も呆気なく消えちまうってか」
「綿間部、そんなハッキリ言わなくても……!」
「いえ、構いませんよ」
眉尻を上げてオレを睨みつける華扇を緑髪の巫女が諌める。
無情だが、現代では昔のような信仰は得られない。根拠のない呪いよりも科学とテクノロジーが世の常だ。本気で神仏に祈るのは神職ぐらいであろう。
そのせいで八坂神と洩矢神は消滅の危機に瀕していたという。信者の信仰によって存在を維持できる彼女らは、新天地――幻想郷へ引っ越しを決意した。新たな信仰を求めて。
東風谷早苗は思った通り女子高生だった。それでも、現代に生きる一人の少女の天秤はこちら側に傾いた。
友もいたであろう。親もいたであろう。現役の高校生として青春を謳歌する時間もまだまだ残っていたハズだ。
にもかかわらず、その少女はそれら全てを差し出して、幻想入りを果たした。敬愛する二柱の神と共にあるために。もっとも、彼女自身も一介の巫女ではなく、現人神とかいう神モドキらしいのだが。
「帰りたいとは思わねーのか?」
「……確かにそういう時期もありました。けれど、そんな私のために相談に乗ってくれて、優しく励ましてくれた友人がいたんです」
「ほーん、お人好しなヤツらがいたもんだな」
「ええ、本当に。でも、そんな彼らとの出会いも幻想入りしたからこそ得られたものでした。私にとって、この縁はかけがえのないものなんです。ですから、私は後悔していませんし、これからもするつもりはありません」
「フッ、そうかよ。ならオレがとやかく言うのはお門違いだわな」
「そう……強いのね、早苗」
彼女から揺るぎない意志をしかと感じ取り、ニヒルに相好を崩す。守矢巫女の純粋な眼差しと言葉に、華扇も尊ぶような穏やかな表情をみせた。
「…………」
人に近付きたかったから仙人になった茨木華扇。この女だって生まれながらの仙人だったワケではない。だが、考えてみればこの少女について知らないことが多かった。そりゃそうだ。オレが聞いてないのだから。過去に何があって、どうして仙人になるに至ったのか。それも含めて。
「綿間部?」
「……いや、何でもねぇ」
些か見過ぎてしまったか、おもむろに少女がこちらを振り向く。かといって今どうするワケにもいかず、適当に誤魔化すしかなかった。胸の内を曖昧な感情が燻っているのが、何となく釈然としなかった。
お茶のおかわりが入り、話題も心機一転して違うものに移った。主にオレについて。
「あの、黒岩さんは何でも屋さんと仰っていましたが……どんなお仕事をされていたんですか?」
「お、知りてぇか? 育ちのイイお嬢さんが聞くにはちょいとアレだが、それでも平気か?」
「大丈夫です。私も幻想入りしてから強くなりましたので」
ほっそい腕で力こぶを作る仕草をしておどけてみせるお淑やか女子高生。ちゃんと冗談も言えるタイプだったか。なら良し。保護者(神)も逞しくなったと言っていたし、話しても問題あるまい。
実際、神コンビもさることながら華扇があからさまに聞き耳を立てていた。どうでもいいけど、おかき食い過ぎだろ。オレの分がなくなるだろうが。
「そいつぁ僥倖。ならば聞かせてやろう」
少し勿体つけてから、これまでオレが請け負ってきた仕事を語って聞かせた。調査尾行潜入運搬回収奪取囮役客引きホールスタッフ等々挙げればきりがない。時には汚れ仕事もあった。ただ、殺しの仕事だけは引き受けなかった。オレは殺し屋ではない。何でも屋だ。
裏社会のスパイスが効いた身の上話をあらかた喋り終えると、東風谷はポンと両手を合わせてまとめに入った。いっそ清々しいほどに明るく、
「つまり冒険者みたいなお仕事なんですね」
「何がどうなってそーなんだよ。全然違うだろ、剣も魔法も振るっとらんわ」
「え? だって、皆さんからの依頼(クエスト)を受けてその報酬を貰うんですよね? ほら、冒険者そっくり」
曇りのない眼で一切の疑いを持たずに言われると、こちらとしても非常に返し辛い。逆に納得させられそうになる。恐るべしJK巫女。
「むむむ、いや……言われてみれば確かに似てなくもねーどよ……だからってなぁ」
よもやそんなファンタジーなヤツと同類にされるとは思わなんだ。せめてよろず屋、万事屋、仕事人……ダメだ。やっぱり何でも屋ってぇのが一番しっくりくる。そして何より、オレは夜に生きる男。
質問タイムは止まらない。やがて、いかにも高校生らしい内容まで飛んできた。
「私とそんなに歳の差はありませんよね。じゃあ、高校を卒業した後は進学ではなく就職を選んだんですか?」
「フッ、ある意味じゃ似たようなモンだがな……卒業はしてねぇけどよ」
「あっ……ご、ごめんなさい!」
東風谷のにこやかな笑みが一転した。「しまった」と顔に書いたような大慌てで頭を下げてくる。ちょっとだけ声も震えている。下手をすれば泣きかねないほどであった。
そうだ、オレは高校を中退している。それも卒業まで残り数ヶ月もない時期であった。ま、そうでなければ夜の繁華街で何でも屋なんてするハズもなし。オレは新卒にもなり損ねたクソッタレなのだ。
もっとも、今更過ぎて欠伸も反吐も出ない。情報料も取れない退屈な昔話でしかないのだが。
「気にすんな。少なくともオレは気にしちゃいねーからよ」
「ですが……」
マジメな優等生のお嬢さんには、何でも屋の仕事よりもこっちのがキツかったらしい。しかもよくよく見れば、華扇まで「知らなかった……」と呟いて膝の上で拳を固く握っているではないか。ったく、このクソ真面目どもが。
舌打ちしたくなるような染みったれた空気が蔓延する。こういうのは好きじゃないし、オレの精神衛生上よろしくない。適当に流してしまおう。
「とにかく、だ。そういうワケだから仕事の依頼があったら呼んでくれや。夜だったら大抵、赤蛮奇がバイトしている人里の酒場かミスティアの屋台に居るからよ。もしくは人里を適当に歩いてらぁ」
「そこの仙人と同棲してないの?」
「違ぇーよッ!!」
「違いますッ!!」
ケロケロ金髪幼女からの助け舟現る。ただし味方ごと吹っ飛ばす威力をもって突っ込んできやがった。話題転換のUターンどころかスリップ事故である。
洩矢神のデタラメな一言にオレたちの大声が重なった。華扇に至っては両手でテーブルを叩いて身を乗り出していた。その拍子におかきが宙を舞う。幸いにも零れることはなかった。
ピンクな暴走仙人の勢いは止まらない。
「ななな、なぜそうなるのですかッ!?」
「えぇ~、だってぇ~」
仙人サマの気迫にも臆さず、幼女姿の神はやはりケロケロと悪びれなかった。さすが祟り神。厄介そうだわ、コイツ。
「それはそうと、うちに入信する気はないかい?」
「おいおい、話題の切り替え方が強引過ぎんだろ。起承転結って知ってるかぁ?」
「もちろん。四コマくらい見るよ」
今度はこっちかよ。洩矢神に続いて八坂神からも流れを無視した発言が飛んできおった。神サマってぇのはどいつもこいつもそうなのか? っていうか、神が四コマ漫画を読んでるのかよ。
早苗からお茶のおかわり(二杯目)を貰う。幸い、さっきの重苦しい空気はなくなった。皮肉だが祟り神の御利益だ。
改めて一服しながら、オレは軍神からの誘いを蹴った。
「悪いがオレはどこにも属さない。とーぜん宗教も、だ。全てにおいて無所属のフリーランスを貫いてんだよ。これだけは譲れねぇ」
「ふむ……なぜそこまでして拘りを持つ?」
「……色々事情があんだよ。言わせんな」
痛いところを突かれて自ずと語気が弱まる。つい歯切れ悪く言葉を濁してしまった。けれど、こいつに関してはオレの生き様に直結するモンだ。たとえ神が相手だろうが軽々しく話すつもりはない。
「綿間部……」
オレの雰囲気があからさまに豹変したせいだろうか、その影響が華扇にも及んでしまっていた。
悲しげな声色でオレの名前を口にする。心配しているかのように、どこか寂しそうに表情を曇らせて。オイ、どうしてお前がそんな顔をしなくちゃならねーんだよ。
くそ、折角まともな空気になっていたのに逆戻りになっちまった。案の定、またしても早苗が謝ってきた。
「すみません、失礼なことを……」
「何でもねぇって。だからいちいち気にすんじゃねーよ。謝ってばっかいると損すんぞ」
「はい……」
それっきり誰もが黙り込んでしまう。沈黙が痛い。息が詰まる。
鉛のような空気の流れを変えたのは、またもや祟り神だった。ただし、今回はふざけなかった。
「キミとそこの仙人は似てるね」
声のトーンだけは見た目相応に軽く、だけど年季の入った重みもあった。全てを見通す神の眼が一匹の人間を貫く。
「あ? 何が言いたいってんだ。オレとコイツが似ているだと?」
「そうだよ。彼女、私が知ってる他の仙人とは明らかに違うしね。だって仙人なのに無宗教っていうか、そもそも宗教にこだわってないじゃん。こないだの宗教戦争にも関わらなかったみたいだし。まー、ウチも乗り損ねたから他人様のことは言えないけどね」
「洩矢諏訪子。貴女は……」
「どこにも属さないって意味では、あんたも彼も似通っていると思うよ? 理由はどうあれ」
語り出した金髪の祟り神と桃色の仙人の視線が交錯する。
オレからすれば、仙人と宗教に直接的な繋がりがあることさえ初耳なのだが。とはいえ、洩矢神が言った通りでもあった。華扇が布教活動をしているイメージなんざちっとも湧かない。
人に近付きたかったから仙人になった、彼女がそう口にしていたのは覚えている。なお、美味いモン食ったり人に説教したりで俗世を謳歌している模様。
それと、理解が追い付いていないのはオレだけじゃなかった。
「つまり、どういうことですか? 諏訪子様」
己が仕える神の真意が分からず、巫女が片手を上げた。分からないなら素直に質問できる優等生の鑑である。
己が身を祀る巫女の問いに神が神にあるまじきニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。そして、祟り神の幼女は極めてデタラメにまとめてくれやがったのであった。
「んー、早い話が二人がお似合いだってことさ。丁度良い例を出そうか。外来人の青年と幻想郷の女子、早苗ならよく知ってるんじゃない?」
「はい! それはもちろん!」
「何でやねん……」
東風谷早苗が女子高生らしい眩い笑顔で大きく頷いておった。まったくもって分からん。どうしてそうなった?
ま、お通夜ムードがなくなったのは救いってか。また変な誤解をされている予感がしてならないけどよ。しかしまぁ、洩矢神の掴みどころのなさはどうにも厄介だ。敵に回したくないタイプだぜ。
兎にも角にも、ひとまず一件落着とみて良いだろう。無駄に気疲れして深い溜息を吐く。ついでに隣にいる桃色の髪をもつ少女を見やった。
「オイ華扇、こいつらに何か言ってやれ」
「い、今こっち見ないでください! 馬鹿者ッ!」
「何でやねん(二回目)」
ところが、両手でグイッと押し返されて反対側を向けさせられてしまった。ついでに馬鹿者呼ばわりも忘れない。ほんの一瞬だが、彼女の顔が僅かに赤かったような……?
どうでもいいけど、今ので首の骨が折れてたらお前のせいだかんな。
つづく
もっと華扇とイチャイチャしたいけど主人公の性格的にすぐには難しいというジレンマ(葛藤)
あと早苗はサブヒロインになりませんのであしからず
タブンネ