エロハプニングばっかり思いつくからそろそろマジメにやろうと思うの
これもピンク色ヒロインで可愛くてちょっぴりえっちな華扇がけしからん
お茶もお菓子もスッカラカンになった頃、洩矢神が東風谷に意味ありげことをのたまった。
「ところで早苗、そろそろあの二人が来る時間じゃない? 準備は大丈夫なの?」
「あっ、そうでしたね。いけない、すっかり話し込んじゃいました」
お淑やかな巫女がお行儀良く口元に手を当てて目を瞬かせる。柱に掛けられた時計を見上げると、長針が一周するところだった。この部屋に入る際に、さり気なく時間を確かめておいた記憶がある。
すると、神サマと巫女サマのやり取りが気になったのか、そこに仙人サマまで会話に加わった。
「来客の予定があったんですか?」
華扇がそう尋ねると、守矢巫女は小さく頷いた。そういう事情であれば後は決まっている。
底に僅かに残っていた茶をさっと喉に流す。すっかり冷めてしまっていたが気にするほどでもない。今度こそ空っぽになった湯呑を置いて、華扇と早苗を交互に見ながら告げる。
「そろそろお暇するか」
「そうですね。その方が良いでしょう」
オレの意見に仙人サマも同意する。こういう時は話が早くてありがてぇ。ま、先約を優先するのは至極真っ当なことだわな。そもそも、ここに来た目的はロープウェイだしよ。
きっちり空気を読むオレたちに巫女娘が申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「すみません。こちらから誘っておきながら……」
「いえ、私たちも長居してしまいましたから」
「そーいうこった。あと美味かったぜ、ご馳走さん」
茶と菓子の礼を述べると、東風谷は柔らかく微笑んで応えた。つくづくよく出来た娘だ。オレが父親なら嫁に出すのが勿体ないぐらいである。
ともあれ、軽く駄弁るつもりが予想外の長話になっていたのもまた事実だ。ほとんど話題も尽きたところでもあったワケだし、帰るタイミングとしては申し分なかろう。
長らく座り続けた腰を僅かに上げる。だが、その途中で巫女娘から「あのっ」と声をかけられて止まった。何や。
「黒岩さん。最後に一つだけお聞きしても良いですか?」
「最後ねぇ……まぁいい。言ってみろ」
妙に改まったというか畏まった素振りに訝しむものの、とりあえず聞くほかあるまい。答えられるかどうかは別として。微妙な中腰になっていた姿勢を一旦戻す。オレに倣って華扇も座り直した。
ありがとうございます、と守矢巫女が一礼する。その後、ゆっくりと口を開いた。
「あなたは仙人様のことをどう思っているのですか?」
「さっ、早苗ッ? 何を……!?」
彼女の問いかけに仙人サマが上擦った声で狼狽える。そらそうだ。いかにも誤解しがちな内容なのだから。ぶっちゃけ、またその手の質問なのかと辟易するまである。面倒くせぇなオイ。
「お前なぁ――」
が、文句を言おうとした声が中途半端に途切れてしまった。対面する娘の顔を見て少しばかり驚いたことによって。こちらが想像していたのと違ったために。
東風谷早苗が真剣な眼差しを直球ストレートでぶつけてくる。よくある恋バナしたがりなJKの表情ではなかった。本気と書いてマジと読む、極めてシリアスな雰囲気があった。
少なくとも下世話な話として聞いてきたワケではないのは見て取れた。恐らくは彼女なりに真面目な質問なのだろう。もっとも、何故そんなことを知りたがるのかは不明だが。
「綿間部……」
華扇までこちらの顔を覗き込むように見上げてきた。オレを映した赤みがかった瞳が微かに揺れる。まるでガーネットのような美しさに息をのむ。その煌めきに意識が引き寄せられ、知らず知らずのうちに吸い込まれていく。
オレは、茨木華扇をどう思っているのだろうか?
自問自答の渦が押し寄せ、あらゆる思考回路が巻き込まれる。光の届かぬ深層心理の海底へと沈んでいく。
つい今しがた、彼女について知らないことの多さに気付かされたばかりだった。そんなオレが彼女についてどのくらい知っていると言えるのか。
超が付くほどくっそマジメでたまに説教くさいのが玉に瑕だということ。
オレが今まで見てきたどの女よりも美人で、端正な顔立ちにスタイルも抜群だということ。そのくせ、時折とんでもなく無防備になってヒトを動揺させてくれやがった。
風船みたいに頬を膨らませて怒ったり、ちょっとした冷やかしに一々大げさに反応したり、ぱぁっと花が咲いたような満面の笑みを見せたり。あたかも季節が移ろうように表情が豊かだということ。
それでいて、たまに寂しそうな顔をすることも。なぜかコイツのそんな様子が妙に気になっちまう……って、これはオレのことか。今のなし。忘れろ。
あとは、仙人のクセして美味いモンが大好物でしかも酒豪だってぇことぐらいか。幻想郷の連中ならもっと色々と挙げられるのであろう。何にせよ、オレとそいつらじゃ付き合いの長さが違う。
だとしたら、今のオレが出せる答えといったら、これしかねーだろ。
「……ま、悪いヤツじゃねーとは思う」
『そうですか……』
「うぉい、何やそのリアクションは」
ところが、折角ヒトが答えてやったというのに、巫女と仙人が二人揃ってガックリと肩を落として気の削がれた声を零しやがった。その態度から見ても、彼女らお気に召さなかったのは言うまでもなし。前向きな発言だっただろうが。ったく、ワガママなやっちゃな。
一方で、神コンビまで「あっちゃぁ」やら「あの二人みたいにはいかないねぇ」やら好き勝手に言ってくる有り様。これ見よがしに額に手を当てたり肩をすくめたり。んだよ、どいつもこいつも。これじゃオレが悪いみてぇじゃねーか。つーか、あの二人って誰だよ。知らんわ。
「はぁ……」
華扇がどんより沈んだ面持ちで溜息を吐く。やけに落ち込んでいる様がじわじわと効いてきて落ち着かない。心の内側に不可思議な靄がかかる。このままでは寝覚めが悪くて敵わない。
だーもう! こういうのはガラじゃねぇから黙っておきたかったのだがしゃーねぇ。半ばヤケになって付け加えてやった。ぞんざいな口調なのは元からだ。
「……なんつーか華扇がいるのがもう当たり前になってんだよ。今やコイツも日常の一部ってこった。長い付き合いになりそうっつか、少なくともオレが幻想郷に居る間は一番深い関わりになるだろ。ま、オレもやぶさかじゃねぇしよ」
「ぇ……?」
華扇が弾かれたように顔を上げてオレを凝視した。目を丸くしているので、赤い宝石のような瞳が一層に目立つ。つくづく反応が面白いのが彼女らしい。苦笑いしそうになる。
が、それ以上にヘンなコトを口走ったむず痒さがハンパない。彼女の熱い眼差しをモロに受けながらも、「そーいうこった」とぶっきらぼうに顔を背ける。
毎日のように行動を共にしているうちに、いつの間にかそいつが「いつも通り」と思えるくらいにはなっていた。気付けばそのくらいの付き合いが続いていた。説教だとか折檻だとか面倒くせぇのはあるものの、だからといってオレが彼女を拒む理由にはならない。多分、これからもこんな関係が続くだろう。
……何をカッコつけてんだか。いやいや、カッコつける分には問題ないのだ。なぜならオレは夜に生きる男。あーくそ、余計に混乱してきやがったぞコンチクショウ。
チラリと盗み見れば、桃色の仙人が落ち着きなくモジモジと指を弄んでいる。いつしか頬にも朱が差していた。
「あの、綿間部、私も……えっと」
「あーあー、とにかくもう帰るからよ。早いところロープウェイの場所まで案内してくれや」
仙人サマが何か言いかけていたが、強引に話題を変えさせてもらった。こちらに集中する生暖かい眼差しに我慢ならず、急かすかたちになってしまう。言っておくが、オレが一番ハズいんだかんな。
(精神的な意味で)生き残るためには、ここは戦略的撤退しかあるまい。
「つーワケで頼めるか?」
「うふふ、はいっ」
「いや何わろてねんこの巫女さん」
「えへへ~、それはもちろん」
だというのに、むしろ東風谷早苗に笑われる始末。しかも途中からふにゃっとした感じになっておった。
ちなみに華扇は頬を膨らませて不満そうな顔をしていやがった。「むー!」とか言ってる。先ほど台詞を遮られたからなのか。相変わらず機嫌の落差が激しい女だ。
そんな中でも八坂神と洩矢神のニヤついた面構えが煩わしいことこの上ない。全て分かってますよと言いたげな態度が腹立たしい。神だからってか。やかましいわ。
「オイ華扇。何してんだ、行くぞ」
「へ……? あ! は、はいっ」
急に呼びかけられて驚いたのか、仄かに赤みを帯びた頬で桃色の少女が慌てて立ち上がる。ただでさえピンク要素が多いというのに、ますますピンクになっていやがる。どうでもいいけど、早くしろよ。
「ほほぅ。さも当然みたいに彼女を連れて行くんだね、キミ?」
「うるせーよ神サマ……ッ!」
帰り際に祟り神からトドメの追い打ちがかけられ、相手が神であるにも関わらず悪態をつかずにはいられなかった。
ちくしょう、覚えてやがれ!
例のロープウェイはあたかも分離した櫓が縄で繋がれたような構造をしていた。屋根も含めて全て木造なのが特徴だった。座席もなければシートベルトもない。おまけに窓ガラスも付いていない。さすが異世界クオリティである。安全性? 落ちなきゃ平気ってコトだろ。
乗り込んでしばらく待つと、ガタンと大きく揺れた後にいよいよ索道マシンが起動した。
乗客入りの箱が麓を目指して緩やかなスピードで下り始める。吹きさらしの景色がゆっくりと流れていく。ふと後ろを振り返れば、胸元で小さく手を振って見送る早苗の姿が徐々に遠くなる。さらば守矢神社。今日のことは忘れない(屈辱的な意味で)
それにしても、高所恐怖症な輩だったらチビリそうな乗り物だ。幸いオレはその類ではないため、真ん中にドスンと座って終着駅に着くのを悠々と待っていられる。
ついでに人里でやらねばならん仕事も増えちまったのだが。
「で、土産がビラ配りの依頼ってか」
「いいじゃないですか。今後もタダで乗せてくれると言うのですから」
「っかー、フリーパスの前払いかよ。どこの遊園地のアトラクションだっつの。神サマのクセしてセコいんじゃねぇ?」
八坂神に押し付けられた紙束を、風で飛んでいかないようにしっかりと押さえる。清楚な巫女サマのイラストに「守矢神社」のポップな文字が踊る。さらにあちらこちらに勧誘文句が星座の如く散らばっていた。人里に帰ったら配ってこいとのお達しである。神サマ直々の依頼がチラシ撒きとは是如何に。
二人だけの貸し切り車両だというのに、わざわざオレの隣に座った華扇がニコッと明るい笑顔をみせる。吹き抜ける微風に乗って桃色のミディアムヘアが艶やかに梳かれていく。
「私も手伝いますね」
「動物絡みじゃねーのにか? どういう風の吹き回しなんだか。言っておくが、見ての通りメシ代も出ねぇ仕事だぞ」
「だって、私も貴方と一緒にいたいから……では、ダメですか?」
「――ッ!?」
上目遣いで儚げな雰囲気を醸し出す少女に、たった一瞬とはいえ心が騒いだ。バレてからかわれるのも癪なので景色に気を取られているフリをして誤魔化しておく。あと、心の中でツッコませてもらおう。
だから、そういうこと軽々しく言うなつってんだろうが!
「そ、そうかよ。だったら好きにすりゃイイさ」
「はいっ、好きにさせてもらいます♪」
そう言って蕾が花開くように顔を綻ばせる彼女は、とても幸せそうだった。
なお、守矢神社のビラ配りはその日だけでは終わらず、数日にわたった。
そのせいで、「夜な夜な紙を配る全身黒尽くめの不審者」の噂が人里中に蔓延し、上白沢女史の夜警と見回りの仕事を増やしてしまったのは、それなりに申し訳ないと思っている。
あぁ、そういえば……ロープウェイを降りたときに同い年らしきカップルと擦れ違ったっけか。ま、どうでもいい話だ。
つづく
今話にはちょっとしたおまけストーリーがあります(予約投稿1分後)
この物語に外来人は他にもいるんだよなぁ……?