東方扇仙詩   作:サイドカー

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サブタイトルからしてもうアレね


第二十六話 「エロ同人みたいに!」

 再会の日は早くも訪れた。というか翌日であった。

 時は夕方。規則正しく起床するや否や、ふと妙な違和感に襲われた。何気なく隣を見下ろせば、そこには青髪をメビウスの輪みたいな形に括った美女が添い寝で横たわっている。

 他人様のテントに勝手に潜り込んでいやがったそいつは「う……んぅ」などと悩ましげな声を唇の間から漏らす。色気を滲ませて仰向けに寝返りを打てば、洋画の女優さながらに額に腕を乗せる。

 現状を把握するのに幾らかの時間がかかった。よくマンガでありがちな、沈黙を表す木魚の低音に次いで鐘の高音が脳内に木霊した。直後、

 

「ホワァタァアアッ!?」

 

 衝撃のあまり北斗の拳みたいな裏返った叫び声を上げていた。燻っていた眠気が一気に消し飛ぶ。このふざけた時代へようこそ、ってやかましいわ。

 未だに一緒になってタオルケットに包まり目を覚まさない青色の女仙人。招かれざる客に驚愕と混乱と動揺の真っ只中で頭がイカれそうだった。しかしハプニングは留まるところを知らず。これまた予想だにしなかった方向からも刺客がやってくる。

 

「綿間部! どうしたのですか!?」

 

 なぜか華扇がテント内に飛び込んでくる。お前まで来んのかよ。こっちもこっちでタイミング良過ぎんだろ。が、それよりもこの展開は非常にマズイ。だが、止める暇もなかった。

 血相を変えて駆け付けた桃色仙人が、目の前に広がる光景――男女二人が薄い布一枚に同衾しているシチュエーションを目撃してしまう。

 あっという間に、美しい顔立ちからありとあらゆる感情が消え失せる。あたかも能面の如き無表情。

 やがて、この状況を理解していくにつれて、少女の顔色が再び生命の火を宿す。朱く、どこまでも紅く。火種は次第に大きさを増していき、ついには憤怒という烈火の炎にまで燃え盛った。

 大きく息を吸い込んで、怒髪天を突いた説教の鬼が咆哮を迸らせる。

 

「ナニやってたんですかこんのっケダモノォオオオオオオ!!」

 

 あわや場外まで吹き飛ばされそうな威圧感に思わず仰け反る。目を吊り上げ、あと額に青筋を浮かべてオレを睨みつける凄まじさたるや、もはや筆舌に尽くし難し。これほどまでに激しい怒りを露わにした彼女は初めてかもしれない。

「待て、誤解だ。別に何もしとらん――」

「うるっさい!!」

 叩きつけるように一喝すると、そのままこちらに向かってダイブしてくる華扇。狭いアジト内では避けられる余地もなく、真正面から体に受けてしまう。さらに勢い余って床に押し倒された。圧し掛かられて身動きが取れなくなる。

 またかよ! つか、コイツやっぱり力強ぇえ!?

 間近ですったもんだの大騒ぎを繰り広げれば、さすがに眠っていた相手も目を覚ます。霞青娥が小さく欠伸をしながら薄目を開いた。そして、オレと華扇が押し相撲しているのを見るなり優雅に微笑む。どちらかといえばオレに向けて。

「あぁ……ふふ、昨夜はお楽しみでしたわね」

「何ですってぇ!?」

「オイコラァ! この状況で変なコト言うんじゃねぇ!」

 この悪女が! 待ってろ、今すぐとっちめてテメーから洗いざらい全て吐かせてやるかんな。

 華扇と手四つで押し合い力比べをしながらも青髪の女を睨みつける。どういうワケか華扇はオレばかりを狙って霞青娥など眼中にない様子だった。何やってんだお前っ、元凶はあっちだろーが!?

 諸悪の根源たる青娥娘々はといえば、厭らしく身をくねらせて両腕を己に回しつつ色っぽい声をあげやがった。

「あぁん怖い。殿方から乱暴にされてしまう前にお暇するといたしましょうか」

「テメェ……逃がすと思ってんのか……!」

「ご心配には及びませんわ。だって、貴方にご執心の仙人様が足止めしてくださっていますもの」

 憎き相手に挑発されているにも拘わらず、確かに青娥の言う通りで華扇は俺しか見えていない。いや、こんなん嬉しくねぇぞ。マジメな仙人サマは錯乱していて手が付けられない。

 カンペキに頭に血が上っておりヒトに馬乗りになったまま喚き散らす同業者を横目で見やり、邪仙がくすりと笑みを零す。

「では、あとはお二人でごゆっくり」

 青い髪に挿していた簪――正しく鑿らしいが面倒くせぇから簪としておく。高質そうな髪飾りを引き抜いてテントの側壁に翳した途端、真ん丸の円形を象った大穴がぽっかりと空いた。切り取ったのではなく、まるで抉り取ったかのように一部分が消滅する。

 

「って、穴ぁぁあああ!?」

 

 この女、不法侵入しただけじゃ飽き足らず、他人様のアジトまで壊しやがったぞ!? テロリストや!

 驚愕のあまり硬直してしまい(ただし華扇との押し合いは継続中)ツッコミとか諸々の処理が追いつかない。その間にも、青娥は自ら堀った穴を通り抜け、ちゃっかりテントの外側に逃れることに成功していた。

 

「ごめんあそばせ」

 

 最後に邪仙が今一度向き直り、ハートマーク付きのウインクをかまして悠々と去っていく。完全にしてやられた。それでも遠ざかっていく犯人をみすみす取り逃がすなんざ、夜を生きる何でも屋のプライドが許さなかった。

 今なおオレに跨って癇癪を起している桃色の仙人サマをどかそうと、なりふり構わず奮起する。

「オイ華扇! アイツ逃げんぞ!」

「私だって……私だってぇ!」

「だーもう! 聞けっつの!」

 イマイチ要領を得ないことを口走りながら、紅い中華衣装の女はまったく周りが見えていない。それはもう酷く取り乱していやがった。どうにもオレとあの女が一緒に寝ていた光景が余程ショックだったらしい。だから濡れ場も一夜の過ちもないと言ってんだろーが!

 これではいつまで経っても何一つ解決しない。くそ、こうなりゃ仕方ねぇ!

「きゃっ」

 それまで真っ向から力をぶつけ合っていたのを、不意を突いて横にずらしてバランスを崩させる。

 乗っかっていた女と諸共、ゴロリと身体を反転させて今度はこちらが彼女を床に組み敷く。ついでに両方の手首をしっかりと掴んで抵抗できないようにする。

 急な変化が功を成したのか、ようやく華扇が大人しくなる。パチクリと何度か瞬きをした後、互いの目と目が合う。見つめ合ってる間に、女性らしくまつ毛が長いことに気付く。綺麗な顔、と場違いな感想を抱いた。

 そうして赤みがかった瞳がオレの顔を捉えると、今度は何やらあわあわと慌てだした。ボッと一瞬にして顔を沸騰させて。

 

「や、やっぱりまだダメですッ! こんなの早過ぎますぅ!」

「ちょバカッ、暴れんな!」

「いやぁ!」

 

 熟れたトマトみたいに紅潮して涙目になった桃色の少女がジタバタともがき始める。これ以上この女を野放しにしたら、いよいよもって我が住居が壊されかねない。そしたらオレはめでたくホームレス連中の仲間入りになっちまう。

 そうはさせまいと、彼女を身体の上から押さえつけるとさらに抵抗が激しくなる。何でや。

 

「いいから大人しくしろ!」

「やだぁ! やるならせめて優しくして……?」

「だーもう! ワケわかんねーこと言うなや!」

 

 その後、オレの拘束を無理矢理に振り解きやがった華扇が大暴れ。包帯の拳が顔面に減り込んでくるわ膝蹴りが飛んで来るわ引っ叩かれるわ。ありったけの蹂躙の限りを受けたのであった。

 婦女暴行疑惑の通報を受けた上白沢女史が走ってきたのは、五分後のことである。

 

 

「あらら、大変だったわねぇ」

「痛ぇ……まったくだぜチクショウ」

「し、知りませんっ」

 低い声と恨みがましい視線を投げつける。気まずいのを誤魔化そうとしているのも加わり、拗ねたようにそっぽを向かれた。お約束の早とちりで勘違いな妄想してしまったのを恥じているのだろう。横顔から覗く耳が赤くなっていた。

 一方で、こちとら殴られたところの青痣やら平手打ちの痕やらのせいで、顔面で一人じゃんけんをしているかの如し。繁華街にいた頃でさえ、十対一で乱闘したときでもここまで傷は負わなかった。

 そんなオレに和服が似合う女将スタイルな鳥少女が絆創膏を貼ってくれていた。屋台で使う醤油を切らしてしまい、買い出しに来ていたところを偶然通りかかったのだという。寺子屋に連行されるオレ達の姿を見かけて、その付き添いと今はこうして手当まで担っている。絆創膏は寺子屋の備品。

 面白半分と苦笑半分に女将が茶化してくる。あざとい。

「モテる男の人は辛いわね」

「コレのどこがモテるってぇんだよ。くそ、あの悪女め」

 冗談だとしても笑う気になれなかった。散々引っ掻き回した挙句に逃げ遂せやがった青い邪仙を思い浮かべて悪態をつく。

 しかも、どうやら不法侵入されただけではなくガサ入れもされていたらしい。ボストンバックの中身が漁られていた形跡が後になってから見つかった。もっとも、金目の類いなんざほとんど持っちゃいないおかげで、盗まれたブツは何一つなかったのだが。こればかりはざまぁと言わざるを得ない。ざまぁ。

 ちなみに、奴の能力によって抉じ開けられたテントの大穴は、謎のカラクリでしばらく時間が経過したら自然と塞がっていた。次に会ったら弁償させようとも考えたが、杞憂で終わった。ま、直す手間が省けただけ良しとすべきか。

 ほどなくして、オレ達が集まっていた教室の戸が滑らかな音を立てて真横に流れる。人里の守護者、上白沢女史のご登場。彼女は入ってくるなり、悲惨なことになっているオレの顔面を見ると、ミスティアとは異なり百パーセントの苦笑いを浮かべた。

「黒岩、大丈夫か?」

「ダイジョーブそうに見えるか……?」

「はは……」

 控えめな乾いた笑みで誤魔化されてしまう。華扇は気まずそうなままだった。思っていた以上に堪えているようだ。

 不幸中の幸いで、冤罪だったのはすぐに伝わった。通報現場でオレと華扇を目の当たりにした時の、上白沢女史の何とも言えなさそうな表情は当分忘れられそうもない。それと「またコイツ等か」と言わんばかりだったことに物申したい。

 ともあれ野次馬も出始めた場所に留まるのはあまりに分が悪く、ひとまずこうして引き摺られてきた。もっとも、いきなり牢屋にブチ込まれていないのだけマシというもの。むしろ匿ってもらっている状況に近い。

「さて、詳しく聞いても良いだろうか?」

 念の為、何がどうなってああなったのかぐらいは、人里を統べる者として知っておかねばならないそうだ。ご苦労なこって。

「やれやれ……取り調べを受けてるみてぇだな」

「すまないな、気を悪くしないでくれ。もちろん冤罪なのは疑っていない。霞青娥が絡んでいるのだろう? それに――ああ、丁度来たようだ」

 廊下を渡る足音に上白沢女史が顔を上げた。耳を澄ませば聞こえる程度だった物音が徐々に近付いてくる。件の足音が教室の前で止んだ。

 引き戸が数回ノックされた後、訪問者が姿を見せる。

 

「お待たせ。ご注文の品よ」

 

 まさかの赤蛮奇だった。ついでにラーメン屋で見かけるような出前ケースを両手で携えておった。さらに、彼女は持ち前のポーカーフェイスでオレを見るなり、一言。

「女の敵ね」

「何でやねん」

「二股したうえに婦女暴行なんでしょ。しばらく噂になるわね。ご愁傷様」

「ぐぬぬ……ッ!」

 あっちからも笑えない発言をされて呻くしかない。その間にも、ろくろ首の看板娘が出前ケースを開いて、注文の品をオレの手前に置く。

 炊き立ての煌びやかな白米を下にして、粉の衣をつけて油で揚げた豚肉の塊を乗せ、仕上げに黄色い卵で閉じた一品料理――其の名も、カツ丼。

「これもう本格的に取り調べの空気じゃねぇ!?」

 ここは警察署か。というか、一体何処からこんな知識が幻想郷に通っているのか疑問が尽きない。八雲紫は何処を目指してんだ。レインボーブリッジ封鎖してぇのか。

 

 配達が終わったにも拘わらず、赤蛮奇が帰ろうとしない。取り調べを傍聴していくつもりらしい。もう勝手にしてくれと、ついには脱力して肩を落とした。

 ところが、案外悪いことばかりでもなかった。

「あ」

 半ば投げやりになったおかげともいえる。それまですっかり忘れていたけれど、ずっと気になっていたことを思い出した。

「華扇」

「う、何ですか」

 また文句を言われると思ったのか仙人サマが身構える。

 ったく、いつまでもしょぼくれてんじゃねーよ。お前がそんなんじゃオレまで調子狂うだろうが。

「別にもう怒っとらんわ。というかハナっから大して腹も立ててねぇしよ。大体、悪いのはお前じゃなくてあっちの仙人だろ」

「本当に……怒ってませんか?」

「だからそう言ってんだろ。嘘じゃねぇ。ちったぁオレを信じろ」

「そう、ですか。……でも、やはりちゃんと謝らせてください。申し訳ありませんでした」

 己が反省の意を伝えるべく、桃色の髪をもつ女が律儀に頭を下げる。どっちかといえば、ボコッたことに対する謝罪なのかもしれない。

 結果どうあれ彼女の警戒が解けたところで、頭の片隅に引っかかっていた素朴な疑問をぶつけてみた。

「お前、どうしてあんなタイミング良く入ってこれたんだ? 何つーか、ずっと外で待ってたみた――」

「――ッ!? そそそ、そんなの偶然に決まっていますッ!! 別に綿間部に会いたくなって来たんじゃないんですからね!? 勘違いしないでください!」

「わ、わぁーったっつの。いちいち大声出すなや」

「綿間部が変なこと聞くからです!」

 オレが言いかけた言葉を遮るように、やや食い気味になって女のセリフが重ねられた。何を焦っているのか定かではないが、やけに早口で捲し立ててきた。

 いかにも怪しい。もしや、オレにも言えない隠し事でも――

「違いますからね!」

「だから心を読むな」

 胡乱気な眼差しを向けるオレに対して、ビシッと人差し指を突きつけてと謎の宣言を高らかにする仙人サマ。なぜか周りの連中はオレとコイツを生暖かいツラで見守っていやがった。何や、その目は。

 周囲の微妙な雰囲気など気付いていないのか、華扇がますますヒートアップする。ま、こっちのがらしいといえばらしいのだが。って、なんで安心してんだ。

「もうっ本当に分かってますか!?」

「へーへー」

「もぉお!」

 牛かよ。

 

 

 余談だが、女三人寄れば姦しいというからには、四人も集えばなおのことなワケで。

 取り調べらしき質疑を受けている間、ミスティアはからかい赤蛮奇がジト目を向けて上白沢女史には呆れられて。そして華扇からは、邪仙の接近を許したことについて説教されたり、終いにはカツ丼を取られたりした。せめて半分はオレにも寄越せよ。

 

 女難の相が出ていないか博麗か守矢の神社で視てもらおうと思った。そんな夜の出来事であった。

 

つづく




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